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千が総司から頼まれていた事を話すと、歳三の顔がみるみる険しくなっていった。 「何で俺が、女装して舞台に立たねぇといけねぇんだ!」(やっぱりそう来るだろうと思った。) 歳三の予想通りの反応に、千は内心溜息を吐きながら、これからどう歳三を説得しようかと考えていた。「副長、斎藤です。」「入れ。」「失礼いたします。」 斎藤が副長室に入ると、千は何処か気まずそうな顔をしていていた。「手短に用件を話せ。」「会津藩の使いの者から、文が届きました。」「わかった、少し待て。」 歳三は会津藩からの文に目を通すと、怒りの余りそれを握り潰してしまった。「副長?」 斎藤が歳三によって丸められた文に目を通すと、そこには歳三がジュリエッタとして舞台に出るようにとだけ書かれていた。「これは・・」「近藤さんはどこだ?」「局長は大坂に出張中です。」「そうか・・千、白松屋に文と俺が頼んだ着物の代金を届けてくれ。斎藤、三番隊の巡察に千を同行させろ。」「承知しました。」 千は三番隊の巡察に同行するかたちで、梅澤翁が滞在している白松屋へと向かった。「おこしやす。」 白松屋に千が入ると、奥から女中が出て来た。「新選組の者ですが、梅澤様はいらっしゃいますか?」「梅澤様はお二階の突き当りのお部屋にいらっしゃいます。」「ありがとうございます。」 千が梅澤翁の部屋へと向かうと、彼は快く千を迎えてくれた。「土方はんの使いの者ですか。お忙しい中わざわざ来てくれて、おおきに。」「いいえ、こちらこそ。」 梅澤翁は歳三の文を読んだ後、満面の笑みを浮かべ、千にこう言った。「これも何かの縁や、うちがこの注文、全部お引き受けしましょう。」「ありがとうございます。」この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月28日
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「馬鹿を言うな、千!ネズミなど飼える訳がないだろう!」「それはやってみないとわからないでしょう?」 千はそう言うと、自分の腕の中で暴れているネズミの頭を撫でた。 するとネズミはウトウトし始め、瞬く間に千の腕の中で熟睡した。「米を食べようとしただけで動物に手をかけようとするなど、貴方達は本当に武士ですか?」「何だと!?」「武士ならば多少の事で全く動じぬというのが武士というものです。そんな事すらわからぬとは、嘆かわしい。」 千尋がそう言って千を馬鹿にした隊士達をにらみつけると、彼らの間に険悪な空気が流れた。「おいてめぇら、朝っぱらから何していやがる!?」「副長、おはようございます。朝からこの二人がつまらぬことをしようとしていたので、わたくしが止めただけの事です。」「つまらねぇ事?」「えぇ、米を食べようとしたネズミを彼らが殺そうとしたのです。」 歳三の視線が、隊士達から千が抱いているネズミの方へと移った。「無駄な殺生はするな。」「は、はい!」「千、俺の部屋に来い。」「わかりました。」 千が歳三と共に副長室に入ると、中は火鉢が置いてあるお陰で厨房よりも暖かった。「ここなら、あいつらは簡単に手出しできねぇだろう。」「は、はい・・」「お前ぇがそのネズミを飼う事については何も言わねぇ。ただ生き物を飼う以上、最後まで責任を持って世話しろ、わかったな?」「はい、わかりました!」「それじゃぁもうお前は仕事に戻れ。」「あの、土方さん、もうひとつ話したいことが・・」「もうネズミの話は済んだだろう?まだ何かほかにあるのか?」「実は・・」この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月28日
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何度も読み返した作品です。加害者の家族側から描いた作品なのですが、親族が殺人犯だと世間の冷たい目に晒される、進学・就職・結婚などの人生のターニングポイントで必ず兄の所為で何もかもがダメになる。終章の部分は、何度読んでも胸にきます。
2019年02月25日
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リンダハワードさんの作品は初めて読みましたが、スピード感あふれる、まるでハリウッドのアクション映画を一本観たかのような、スリリングでスピーディーな作品で、面白かったです。
2019年02月25日
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まるで映画を観ているかのようなスリリングなスピード感溢れるサスペンスでした。ラストが希望に満ちたものでよかったです。
2019年02月25日
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強 姦で逮捕された恋人・ファニーを救うべく奔走する妊娠中のティッシュ。根底にある人種差別の描写は詳しく描かれていませんが、初版出版が1974年と、公民権運動真っただ中で描かれたものなので、少しの描写でもどれほど酷かったのかということが感じられましたし、現代でもそれは変わっていないと感じました。ファニーとティッシュがお互いに信じあい、愛し合う姿は読んでいるだけで幸せな気分になりました。
2019年02月25日
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「この前会津中将様から何か新選組で催し物をやってくれないかと頼まれましてね。それで、その催し物を何にするのかを迷っていましてね。」「それで、この本の劇をやろうと思ったのですね?」「そうなんです!でも、土方さんがこのジュリエッタ演ってくれるかなぁ?」「え?ジュリエット役を土方さんがするのですか?沖田さんではなく?」「わたしは体調が優れなくて、長時間舞台に立てる自信がなくて・・それに、わたしの代わりに女役を演じてくれる方がいるかどうか・・」「それは、そうですね・・」「だから、土方さんにジュリエッタ役を演ってくれるように、千君から頼んでくれませんか?」「え・・」「荻野君に頼んでも、断られてしまいそうで・・だから、お願いします!」(困ったなぁ・・) 溜息を吐いた千は、千尋の部屋に入ると、彼もまた溜息を吐いて頭を抱えていた。「どうしたんですか、荻野さん?」「話は沖田先生から聞きましたね?」「えぇ。もしかして、荻野さんも沖田さんから同じことを頼まれたのですか?」 千の問いに、千尋は黙って頷いた。「局長は完全に乗り気ですし、沖田先生はあの通り。どうすれば良いのかわかりません。」「僕もです。」 二人で何とか総司からの頼みを断ろうと考えている内に、二人はいつの間にか眠ってしまった。 翌朝、千が眠い目を擦りながら布団の中でモゾモゾとしていると、突然厨房の方から悲鳴が聞こえた。「何かあったのですか?」「荻野、そいつを捕まえろ!」 千達が厨房に入ると、彼らの足元を丁度一匹のネズミが駆けていくところだった。 千がネズミの尻尾を掴んで捕まえると、ネズミは不満そうにキーキーと鳴き、少し太めの身体を揺らした。「こいつ、俺達の米を食おうとしてたんだ!」「水に沈めて殺しちまおうぜ!」 隊士達の言葉を理解しているのか、ネズミは千の腕の中で暴れ、悲鳴のような鳴き声を上げた。 薄茶と白のまだら模様のネズミは、千を円らな黒い瞳で助けてくれと彼に訴えているかのように見つめてきた。「この子、僕が飼ってもいいですか?」 そんな言葉が、千の口から自然と突いて出て来た。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月25日
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「はぁ~、今日も疲れたぁ。」千はそう言うと、湯船に浸かって溜息を吐いた。「体力ないぞ、千。お前俺達よりも若いだろう?」「そんな事言われても、一日中家事をしていたら筋肉痛で辛くて。」「副長付きの小姓は大変だよなぁ。隊務のほかに家事もしねぇといけねぇんだもんな。」「特に食事の支度が大変で、毎日献立を考えるのが大変で・・」「それはそうだな。俺んちは食べ盛りの兄貴や弟達抱えて、母ちゃん毎日大変だっただろうな。」 隊士達と風呂場でそんな事を話していると、そこへ歳三が風呂場に入って来た。「てめぇら、後がつかえているだろう、早くあがれ!」「は、はい!」 慌てて隊士達が風呂場から出ていくと、千も湯船からあがった。「ちゃんと髪乾かせよ、千。風邪ひいたら大変だからな!」「はい!」 千が髪を布で拭いて乾かしていると、歳三が風呂場から上がってきた。 同性の裸など今まで見ても何とも思わない千なのだが、何故か歳三の裸体は少しなめまかしく見えた。(僕、変なのかな?)「おい、何じろじろ見てんだ?」「す、すいません!」 歳三はじろりと千尋を睨みつけると、髪を布で拭いて乾かし始めた。「千君、こっちへいらっしゃい。」「沖田さん、急にどうしたんですか?」「ちょっと寒くて、人肌が少し恋しくなりました。」「沖田さん、身体の具合は大丈夫なのですか?」「この前軍医さんから頂いた薬を飲んだら、少し咳が治まりました。」総司はそう言うと、枕元に置いてある本を手に取った。「この本知っていますか、千君?何でも、エゲレスの劇作家の作品なんですって。」 総司が千に見せた本は、シェイクスピアの有名な作品『ロミオとジュリエット』だった。「知っていますよ。その本がどうかしたんですか?」「実はね・・」この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月25日
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「荻野さんが考え事するやなんて珍しいですね。」「そうですかね?わたくしだって考え事する時あってありますよ。」「そうですか。それよりも火傷してなくて良かったです。」 山崎はそう言うと、念の為千尋の右腕を消毒した。「山崎さん、おられますか!?」 慌ただしい足音が廊下から聞こえて来たかと思うと、勢いよく襖が開き、中へ血塗れとなり気絶している平田を連れた天童が入ってきた。「何があったんや?」「厄介事に巻き込まれまして・・お願いします、どうか平田を助けてやってください!」 山崎が平田を診療台の上に寝かせて傷を見ると、彼は胸を何者かに袈裟斬りにされ、その傷は深かった。「天童は外へ出てくれ。荻野さん、すいませんが治療の手伝いを・・」「わかりました。」 山崎は平田の出血を何とか止めようとしたが、動脈を斬られている所為か出血はますます酷くなってゆき、それと比例して平田の顔からはどんどん血の気が失せていった。「そこにいるのは、天童か・・?」 意識が混濁し始めた平田は、そう言うと千尋に向かって手を伸ばした。「桂先生に伝えてくれ・・坂本が、薩摩の西郷と手を組もうとしている・・」 やがて平田は、そのまま息を引き取った。「平田は?」「残念ですが、先程息を引き取りました。」「そんな・・荻野さん、平田は最期に何か言っていませんでしたか?」「いいえ、何も。」 千尋が吐いた嘘に、天童は簡単に騙された。「そうか、平田がそんな事を・・」「これで、天童と平田が長州の間者だという事がわかりましたね。副長、これからいかがなさいますか?」「まだ天童を泳がせておけ。奴が長州の間者だという確固たる証拠を掴むまで、動くなよ。」「わかりました。では、わたくしはこれで失礼致します。」 千尋が副長室から出て行った後、歳三は眉間に皺を寄せ、大きな溜息を吐いた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月21日
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「おい、天童と平田はどこだ?」「さぁな。」 千尋は夕飯を食べながら、天童と平田の姿が大広間にない事に気づいた。「あ~、疲れた。」 夕飯の後、厨房で皿を洗いながらそう言って溜息を吐いた。「早く手を動かしなさい。明日は早いのですから。」「はい、わかりました。」 千達が漸く眠れたのは、子の刻(午前0時)を過ぎた頃だった。 疲れ果てた千は、その夜は珍しく悪夢を見なかった。「おはようございます、荻野さん。」「おはようございます。」 翌朝、千は眠い目を擦りながら厨房に入った。「毎日大人数分の食事を作るのは大変ですね。」「慣れればどうって事ありませんよ。それにしても天童さんと平田さんは一体何処に行ったんでしょうね?」「さぁ・・」 朝食の支度をしながら、千尋は天童達の正体を少し考えていた。 二人が桂の事を知っているという事を考えると、彼らは倒幕派の人間だろう。 それが確かなら、天童は何故嘘を吐いて新選組に入ったのか。 前から平田とは知り合いで、天童とは間者同士で連絡を取り合っていたのだろうか。「荻野さん、袖!」 千の声で我に返った千尋は、自分の着物の袖が煮え立った鍋の中に入っている事に漸く気づいた。「怪我はないか、荻野!?」「はい、申し訳ございません、斎藤先生。考え事をしていて、気がついていませんでした。」「すぐに山崎君に診て貰え。」「はい、わかりました。では、わたくしはこれで失礼致します。」 千尋はそう言って斎藤に向かって頭を下げると、山崎が居る診療室へと向かった。「山崎さん、いらっしゃいますか?荻野です。」「どないしたんですか、それ?」山崎はそう言うと、千尋の焦げた片袖を見た。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月21日
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そっと千尋が茂みの中を覗くと、そこには天童と平田という名の隊士が互いに睨み合っている。「何故お前があの方からの信頼を得ているんだ?」「それは貴方よりわたしの方が優秀だからですよ。」「何だと!?」 平田が天童の胸倉を掴むと、彼は邪険に平田の手を振り払った。「余り大きな声を出さないで下さい。わたし達の計画は外には決して洩(も)らしてはいけないと、あの方から言われた筈でしょう?」「あぁ、わかっているさ。」「それにしても、あの荻野とかいう副長付きの小姓、なかなかの切れ者だな。俺よりも年下だが、何だか肝が据わっている。」「それは貴方が精神的に幼いからそう見えるだけでしょう?」「それはそうかもしれないが、あの蒼い瞳、どこか魔性めいたものがあるな。」「魔性ねぇ・・あの桂先生が一時的に惚れこむだけの魅力を持っている、という事でしょうか?」「まぁ、そういう事だ。」「そんな下らない話はもう終わりにしましょう。」「あぁ、そうだな。」 平田は軽く咳払いすると、天童と小声で何かを話し合った。(もう少し、この二人を泳がせた方がよさそうですね。) 千尋はそう思いながら、ゆっくりとその場から去っていった。 一方、千は厨房で夕飯の支度に追われていた。 毎日隊士達の食事を作るのはかなりの重労働である事に千が気づいたのは、彼が新選組の屯所で暮らし始めてすぐの事だった。 現代だとスイッチを押せばすぐにガスが出するし、水道の蛇口を捻ると安全な水が出る便利さに慣れきってしまった千は、幕末で炊事をする事の大変さを痛感しているのだった。 ふと、母がどんな思いで今まで自分を育ててくれていたのかを想像すると、千は母に会いたくて急に泣きそうになった。「どうした、千?」「いえ、葱で少し目が痛いだけです。」「そうか。」 千は葱のみじん切りをもう終えている事に気づいていた斎藤だったが、彼を慮(おもんばか)って何も言わなかった。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月19日
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歳三に会わせろと言ってきている男は、大坂の呉服問屋の主で、何でも注文していた着物の代金を歳三が踏み倒した為、その取り立てに来たのだという。「失礼ですが、貴方のお名前をお聞かせ願えませんでしょうか?」「わたしは梅澤屋の宗介と申します。」「梅澤様ですね。大変申し訳ございませんが、副長はただいま外出しておりますので、こちらにお名前とご住所をご記名頂けないでしょうか?」 千尋はそう言うと、懐紙と筆、硯を男に手渡した。「ありがとう。ほな、後で土方さんによう伝えてくれへんか。早う着物の代金払うてくれへんと、商売上がったりやとな。」 はじめは語気が荒く喧嘩腰な口調で話していた梅澤翁は、千尋に自分の氏名と住所を記した懐紙を手渡した時には、穏やかな笑みを浮かべていた。「後日副長にわたくしが伺って参りますので、数日お時間を頂けませんでしょうか?」「構わんわ。わたしは三条の白松屋という旅籠におりますよって、土方さんに連絡取れたら文を送ってくんなはれ。文を受け取り次第こちらにまた伺いますよって。」「承りました。」 梅澤翁を屯所の門前まで送った後、千尋はすぐさま副長室へと向かった。「副長、荻野です。今よろしいでしょうか?」「少し待て。」 暫くすると、歳三が副長室の襖を開け、千尋を中へと招き入れた。 千尋は歳三に梅澤翁の氏名と住所が書かれた懐紙を手渡しながら、梅澤翁が話していた事を彼に伝えた。「着物か。確か二月前に姉貴の為に注文していたのを忙しくてすっかり忘れちまってた。お前が居てくれて助かった。」「いいえ、滅相もございません。梅澤様は三条の白松屋という旅籠に滞在されております。」「後で俺が白松屋に文を使いの者に寄越しておこう。」「わかりました。ではわたくしはこれで失礼いたします。」 千尋が副長室から出ると、中庭の茂みの方で誰かが言い争う声が聞こえた。「一体どういう事だ、これは!?」「それはわたしにもわかりませんよ。それよりも平田さん、そんなに大声を出さないでください、誰かに聞こえでもしたらどうするのですか?」 そう言って男を窘(たしな)める天童は、何処か醒めた目をしていた。「誰も聞いていないさ。それにしても天童、よくあの土方の隠し子だと嘘を吐いてここへ潜入できたな?」「土方には女の噂が絶えないと知っていましたし、江戸で少し情報収集しましたからね。まぁ、子供のふりをして土方の事を父上と呼ぶのは反吐が出ましたけれど。」この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月19日
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昨年12月に週刊文春で紹介されて気になっていた作品。20世紀初頭の、イギリス統治下のオーストラリアにある良家の子女たちが集まったアップルヤード女学院が、夏の日のピクニックで起きた失踪事件によって崩壊の道へと辿っていく・・何だか最初から最後まで、失踪事件の真相が明らかにされないまま、失踪した少女達の消息は闇の中へ・・読み進めている内に、ハンギングロックへ自分がまるでピクニックをしているかのような気分を味わいました。
2019年02月18日
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良くテレビで発達障害について紹介される特性の一つとして、「感覚過敏」があります。スーパーで冷蔵ケースの音や、レジ操作の音、換気扇の音など、些細な音が騒音として捉えてしまう聴覚過敏、光が眩しく感じるなどの視覚過敏、ウールなどの衣類がチクチクと感じる触覚過敏、普通の人が平気だと感じる臭いが悪臭だと感じる臭覚過敏、味覚過敏などが感覚過敏として挙げられます。わたしは幼少期、粘土遊びや砂遊びが大嫌いだったのは触覚過敏の所為でした。あと、運動会のピストルの音、車のクラクション音、犬が吠える声、人の怒鳴り声といった大きな音が苦手だったのは聴覚過敏の所為でした。成人した今ではそういった感覚過敏はよくなっていますが、聴覚過敏に関しては特に「人の怒鳴り声」といったものがいまだに苦手です。発達障害といっても、特性などは人それぞれなので、一概には言えないです。
2019年02月16日
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千尋は部屋の中をくまなく調べたが、なくなっている物は何もなかった。「荻野、どうした?」「副長、誰かがわたしの部屋に入ったようです。幸い、盗まれたものは何もありませんでした。」「そうか。」「副長、わたしは隊務に戻らせてもらいます。」 歳三が副長室に戻ると、そこには天童の姿があった。「天童、俺に何か用か?」「先程、荻野さんのお部屋で何かあったのですか?」「何もない。」「そうですか。」 天童は一瞬残念そうな顔をした後、副長室から出て行った。 そんな彼の態度を不審に思いながらも、歳三は仕事に戻った。「今日は何もないな。」「そうですね。最近不逞浪士の姿を見かけませんし・・」「大人しくしていれば、俺達の仕事が増えないからいいよなぁ!」「本当ですね。」 そんな事を同僚と言い合いながら千尋が巡察していると、どこからか悲鳴が聞こえて来た。「何だ、今のは!?」「次の角を曲がった茶屋からです、急ぎましょう!」 千尋達が、悲鳴が聞こえた茶屋の中に入ると、そこには店員を人質に取り、一人の男が店の中で暴れていた。「新選組だ、大人しくしろ!」「うるせぇ!」男はそう叫んで店員を突き飛ばすと、短刀を持って千尋達の方へと向かってきた。「死ねぇ!」 千尋は男の手から短刀を弾き飛ばすと、男の鳩尾を殴って気絶させた。「娘さん、お怪我はありませんか?」「へぇ・・おおきに。」 男を奉行所へと連行した後、千尋達が屯所へと戻ると、誰かが門の前で門番と揉めていた。「いいから、中へ通せ!」「一体何があったのです?」「この人が、副長と会わせろと言って聞かなくて・・」「わたくしが話を聞きましょう。」 千尋はそう言うと、男を自室へと連れて行き、彼の話を聞いた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月14日
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馬車に揺られながら千達が大坂から京に戻る途中、千は再び眠りに落ちていった。 目を開けた彼は、紅蓮の炎が遠くから近づいて来ている事に気づいた。(ここは、一体!?) 上空から不気味な黒い影が蠢き、それは何かを次々と地上へと吐き出していった。(あれは、まさか・・) 千が目を凝らしながらその黒い影をよく見ると、それはアメリカのB29戦闘機だった。 B29戦闘機が吐き出しているのは、焼夷弾だった。「お前何してる、早く逃げろ!」 遠くから誰かの声が聞こえたかと思うと、千はいつの間にか炎に包まれていた。「千君、もう着きましたよ。」 総司に起こされ、千は再び悪夢から目を覚ました。「起こしてくれてありがとうございます、沖田さん。」 総司に礼を言った千は、馬車から降りた。「心配をおかけしてしまってすいません、土方さん。」「部屋でゆっくり休め。」「はい。」 総司は自室に戻った後、歳三は副長室で溜まっていた書類仕事を漸く終わらせた。「副長、失礼致します。」「荻野か、入れ。」「失礼致します。」 千尋が副長室に入ると、歳三は文机につっぷしていた。「お茶をお持ち致しました。」「あぁ、悪ぃな。」 歳三は千尋が淹れたお茶を一口飲むと、湯吞みを置いて千尋の方へと向き直った。「千尋、向こうで何かされなかったか?」「はい。ただ、初めて母方の親族と顔を合わせ、彼らから一方的に敵意を向けられた事以外は、何もありませんでした。」「そうか。お前も大変だったな。」「はい。それよりも副長、天童のことは何かわかりましたか?」「今、奴のことを監察方に探らせている。荻野、お前も自分の部屋で休め。」「わかりました。」 副長室から出て自室に戻った千尋は、部屋の中が少し変わっている事に気づいた。(誰かが、この部屋に入った?)この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月14日
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「世界仰天ニュース」で取り上げられていた事件でしたが、その詳細は少ししかわからなかったので、この本を読んでいかにストーカーに対して警察の対応が酷かったか、犯人がどんなに悪辣で陰湿な男だったのかがわかり、命を奪われた被害者の方が可哀想でなりませんでした。それに、警察の対応が事件後も何ら変わっていない事に怒りを感じました。蛇足ですが、作者の清水さんが飼っていたゴールデンハムスターの「のすけ」との別れと、「のすけ」を埋葬した墓からひまわりの若芽が出てくる場面で思わず泣いてしまいました。
2019年02月12日
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『アーノルド様、こんなに朝早くにわたしに一体何の用ですか?』『実は昨夜、わたしの妻が君に失礼な態度を取ってしまった事を、妻に代わって詫びようと思ってね。』 アーノルドはそういうと、紅茶を一口飲んだ。『昨日の貴方の態度を見て、わたくしが貴方達にどう思われているのかがわかりました。貴方達は、祖父の遺産の相続人であり、レイノルズ伯爵家の正当な後継者であるわたくしが邪魔なのでしょう?』『君は勘のいい子だ。君が邪魔だと思っているのは本当だ。出来れば君がこのまま日本に居てくれたらいいとさえ思っている。』『わたくしは、他人から憎まれて暮らす事など出来ません。』 千尋はそう言うと、アーノルドを睨んだ。『今朝、朝食のサンドイッチに砂が入れられていました。わたくしに対する嫌がらせは結構ですが、わたくしの大切な人に手を出さないでください。』『わかった。君の大切な人達には手を出さないと約束しよう。』『ありがとうございます、その言葉を聞けただけで満足です。では、わたくしはこれで失礼致します。』 千尋が船室から出て行った後、入れ違いにアーノルドの妻・イザベラが入って来た。『あの子と話は出来たの?』『あぁ。』『それで、あの子は何かを言っていたの?』『それを、君に教える義務があるのか?』 アーノルドはそう言うと、イザベラを睨みつけて船室から出て行った。『そうか、彼との交渉は決裂したか。それならば、もうこれ以上彼らをここに軟禁する必要はないだろう。』 マッケンジー大尉はそう言うと、読んでいた新聞から顔を上げた。 その一面記事には、レイノルズ伯爵家の“お家騒動”の事が書かれていた。(この騒動を一刻も早く収拾しなければ、レイノルズ伯爵家の名誉に関わる。) 英国海軍の軍艦に軟禁されてから一週間後、漸く千達は解放された。「沖田先生、足元に気を付けてください。」「ありがとう、荻野君。」 マッケンジー大尉が手配した馬車に乗り込む総司達の姿を、船室の窓からイザベラが眺めていた。『あの黒髪の女のことを調べなさい。』『はい、奥様。』この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月12日
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身体を強く揺さぶられ、千が目を開けると、そこには心配そうな顔をした千尋と総司の姿があった。「わたし達が起きた時、貴方はかなりうなされていましたよ、大丈夫ですか?」「はい・・」 そう言って総司を安心させた千だったが、先程見た夢の内容が余りにも生々し過ぎてまだ現実の世界から戻れずにいた。「その様子だと、怖い夢を見たのですね?」「はい・・」 千が夢の内容を総司に話すと、彼は低く唸った後、こう言った。「夢は、人の願望を映し出す鏡だと人から聞いたことがあります。きっと、貴方への家族への想いが、夢となってあらわれたのでしょうね。」「そうだといいですね。」 千はそう言うと、溜息を吐いた。『失礼致します、朝食をお持ち致しました。』 ノックの音と共に、メイドが、朝食が載ったワゴンを押しながら部屋に入ってきた。『朝食の後、すぐにご自分の部屋に来るようにと、アーノルド様からの伝言を預かっております、チヒロ様。』 メイドはそう言ってジロリと千尋を睨むと、船室から出て行った。「あの人、何だか感じが悪いですね。」「それは仕方のないことでしょう。彼女から見ると、わたし達は招かれざる客なのですから。」「そうですけれど、あんなに露骨な態度を取る事ないのに・・」「二人とも、嫌な話はもう終わりにして、ご飯にしましょう。」「はい、沖田先生。」 メイドが運んで来た朝食は、焼き立てのトーストにベーコンとチーズを挟んだサンドイッチだった。「いただきます。」千がそう言ってサンドイッチを吐き出すと、砂のようなものが出てきた。「なに、これ!?」「地味な嫌がらせですね。沖田先生は大丈夫ですか?」「わたしは大丈夫です。」「マッケンジー大尉と話をしてきます。」そう言った千尋の瞳は、怒りに燃えていた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月12日
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「とても良いお母さまからの教えですね。」 線の話を聞いた総司は、そう言うと彼に微笑んだ。「時々、僕は母の事を想うんです。母は僕が居なくなってしまったことで悲しんでいないか、本当に僕は家族を捨ててよかったのかと・・」「貴方はまだ若いから、色々と葛藤する事があるでしょう。そんな時は、その悩みを誰かに打ち明けるだけでも気持ちが楽になれますよ。」「ありがとうございます。」「荻野君、わたし達ももう休みましょうか?」「そうですね、沖田先生。」 千達は化粧を軽く落とすと、ドレスから夜着へと着替え、そのままベッドに横になった。 上の部屋からパーティーの喧騒が時折聞こえて来たが、やがてそれも聞こえなくなった。 千は目を開けると、そこには家族と暮らしているタワーマンションの部屋だった。 ベッドから起き、自室からリビングに出た千は、目の前に広がる光景を見て唖然とした。 そこには、家具のかわりにゴミの山が広がり、キッチンの流しには汚れた皿が溢れ出ていた。 よくテレビのニュースで出てくるゴミ屋敷そのものの光景が広がっている事に信じられずに居た千は、暫くその場に立ち尽くしてしまった。 その時、施錠されていたドアロックが解除され、誰かが中に入ってくる音がして千は慌てて自室に戻った。 部屋に入って来たのは、青い作業服姿の男達だった。 ドアの隙間から外の様子を覗いていた千は、男達が着ている作業服の胸ポケットに、“遺品整理”という文字が刺繍されている事に気づいた。「それにしても、こんなご立派な所にもゴミ屋敷があるなんて信じられないな。」「住んでいたのは認知症の婆さんだったんだと。家族は施設に入れようとしていたけど、婆さんは嫌がって嫁さんに介護させたんだと。」「でもその嫁さんは旦那と離婚して、結局婆さんは孤独死か。何だか世知辛い世の中になっちまったな。」「本当だよなぁ。」 男達の会話を聞きながら、千はその内容を信じることが出来なかった。 急に頭がクラクラして来て、千はそのまま白目を剥いて気を失ってしまった。「千君、しっかりしてください、千君!」この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月07日
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「ここは寒いから、中へ戻りましょう。」「はい。」 千尋と総司が甲板から立ち去ろうとした時、総司は突然激しく咳込み、その場に蹲った。「沖田先生、大丈夫ですか?」「えぇ、大丈夫です。」「沖田さん、これを!」 千は慌てて総司の肩にショールを掛けると、彼の肩に手を回し、千尋と共に暖かい船室へと戻った。「こんなにも身体が冷え切ってしまって・・一体、荻野さんと何の話をされていたのですか?」「それは、秘密です。」「身体が温まったら、ベッドに横になってください。」「ありがとう、千君。貴方のその優しさは、貴方が親御さんから注がれた愛を、そのままわたし達に与えてくれているのですね。」「そんな、大それた事はしていませんよ。僕は母から教えられた事を守っているだけです。」「お母さまから教えられた事?」「はい。あれはまだ、僕が小学生だった頃の事でした。」 千は、総司達に母との思い出を語った。 その頃、千は金髪碧眼という日本人離れした容姿の所為で、学校の同級生から言葉の暴力を受けていた。 母は家計を支える為に仕事で忙しく、いつも家の中で一人母の帰りを待っていた千は、当時飼っていたゴールデンハムスターのチロだけに、学校で受けた暴力の苦しみや辛さを吐き出していた。 チロはそんな千に、黙って寄り添ってくれた。 そんな中、千はクラスで飼っていたゴールデンハムスターを同級生が虐待しているのを目撃し、その同級生と取っ組み合いの喧嘩をした。 喧嘩をしたのは、言葉を話せない動物を平気で虐待するその同級生に、千は激しい怒りを感じたからだった。 学校に呼び出された母は、担任教師から初めて千がその同級生から言葉の暴力を受けていた事を知ったのだった。 母は千の同級生から虐待されていたゴールデンハムスターを学校から引き取り、そのまま動物病院へと連れて行った。 待合室で、千は泣きながら母に迷惑を掛けてしまった事を謝った。「お母さん、黙っていてごめんなさい。」「貴方が謝る事は何もないわ。千、貴方がこの子を助けた時のように、困っている人や弱っている人が居たら、優しく手を差し伸べてあげなさい。そして、憎しみには愛で向き合いなさい。チロやこの子に対して与えている優しさを、周りの人達にも与えてあげなさい。優しさは人を幸せにするものだから。」「お母さん、僕の事を怒らないの?」「貴方は何も悪いことをしていないでしょう。だから、母さんが貴方を怒ることはなにもないわ。」 その後、あの同級生は家の事情でどこか遠い学校へ転校していき、千に対する言葉の暴力は次第になくなった。 チロと、学校から引き取った太郎と名付けたゴールデンハムスターがそれぞれ老衰で亡くなった後、千は母と共にプランターにその亡骸を埋葬した。「きっとチロと太郎は、貴方に愛されて幸せだったと思うわ。だから千、その優しさを周りの人に与えてあげて。」 その時の母からの教えを、千尋は今でも守っているのだった。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月07日
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『何故あの子に近づいたの、アンドリュー?あの子はわたし達一族にとって疫病神でしかない!』『母上は、エミリーさんを誤解しています!彼女は騙されて日本へ連れて来られただけだ!』『あの女を“さん”づけで呼ぶのは止めなさい!あの女は一族の恥晒しよ!どこの馬の骨とも知らない東洋人の男との間に子を産んで、一族の名と血統を汚し、傷つけた!それだけでも腹立たしいというのに、あの子に財産の半分を相続させるなんて、冗談じゃないわ!』『母上、あの子はレイノルズ家の正当な後継者なのですよ。お祖父様の遺言に従わない僕達が一族から追放されるのですよ?それでもいいのですか?』『あの子に英国の土を踏ませてなるものですか!血統を汚したあの子を、どんな手を使ってでも殺すのよ!』『母上、声が大きいです!』『どうせ誰にも聞こえていないわよ。』 千はそっと船室の前から立ち去った。(あの人達、荻野さんの事を殺そうとしている・・早く荻野さんに知らせないと!) 千が甲板の方へ向かうと、そこには千尋と総司が向かい合って何かを話していた。「沖田先生、一度沖田先生にお聞きしたい事があります。」「聞きたい事とは、何ですか?」「沖田先生は、副長を・・土方さんを本当に心から愛していらっしゃるのですか?」「わたしは、あの人から沢山のものを頂きましたし、あの人には感謝をしてもしきれません。わたしは、心から土方さんを愛しています。」「そうですか・・」 千尋はそう言うと目を伏せ、涙を流すまいと必死に堪えた。「でも、わたしに残された時間はもう長くはありません。」 総司はそう言うと、千尋の手を優しく握った。「もしわたしが天に召されたら、土方さんの事は貴方にまかせます。貴方になら、土方さんを安心して頼めます。」「沖田先生・・」 千尋は、この人にはかなわないなと思った。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月05日
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「ここへ来たがは、ビジネスの為じゃき。」「ビジネス?」「今メリケンでは戦が終わっての、兵が使っていた銃が沢山余っちゅう。それをわしらが買い取るがじゃ。」「その銃を、どう使うおつもりなのですか?」「それは言えんのう。」 龍馬がそう言って笑った時、マッケンジー大尉とアーノルドが数人の女性達を引き連れてパーティー会場に現れた。『皆さん、本日はわざわざお忙しい中、お越し頂き有難うございます。それでは、皆様の健康とご健闘をお祈りして、乾杯致しましょう!』『乾杯!』 マッケンジーが乾杯の合図を取り、パーティーの出席者たちがグラスを掲げて乾杯している姿を、千達は遠巻きに眺めていた。「マッケンジーさんは、余り信用できませんね。どこか胡散臭そうですし。」「そうですね。それよりもここから脱出する方法を考えないと・・」『一体何の話をしているんだい?』 千達が今後の事を話し合っていた時、千尋は突然誰かに肩を叩かれた。 そこには、二十代後半位の青年が立っていた。『失礼ですが、貴方は?』『もしかして、君があのエミリーさんの娘さんかい?』 青年はそう言うと、じっと千尋を見た。『わたくしの母を、知っているのですか?』『知っているのも何も、エミリーさんは僕の親戚筋にあたる人だからね。』『アンドリュー、そんな所で何をしているの!?』 突然向こうで鋭い声が聞こえたかと思うと、千尋と青年の間に一人の女性が割って入って来た。『こんな子に貴方が構っている暇などありません!さっさと向こうへ戻りなさい!』『母上、僕はただ・・』『いいから、来なさい!』 女性は千尋を睨みつけると、そのまま青年の腕を掴んで向こうへと行ってしまった。「荻野君、大丈夫ですか?」「はい、沖田先生。」「ここは少し暑いから、外の風に当たりに行きましょう。」「はい。」 総司と千尋が外へと出ていくのを見た千は、慌てて二人の後を追った。 その途中、千は船室の中で誰かが言い争う声を聞いた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年02月05日
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