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2010年02月13日
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先日は(かなり前になりますが)10万足跡ありがとうございました。
アンケートを採らせていただきました結果、
「翡花」が堂々の1位!
バレンタインにふさわしく(?)甘い翡花、お届けいたします。

※先日の「遙か十年祭」にて、武道館では披露されなかった、
 翡翠さんの語りからちょこっと、ちょうだいしております。
 真ん中に。
 こんなシチュの、語りだったんですよ~※


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 星のきれいな夜だった。
 花梨は一人、縁の手すりに凭れて空を見上げていた。

(翡翠さんも、この星、見てるかな……)

 如月の十四日、花梨のいた世界ならバレンタインデーで恋人たちには特別な意味のある日だったが、今、花梨がいる世界は龍神の加護する京。バレンタインデーはおろか、チョコレートすら手に入らない。
 花梨はため息をついた。想いを伝える手段はそれに限ったことではなかったが。
 高台にある翡翠の館からは、遠く海が見渡せる。遠くに篝火を焚くあの船が、翡翠の船だろうか。今日は、夜行で海を渡る水先案内の依頼を受けたと言っていた。夜間の航行は物騒だからと、部下にまかせず自ら出かけた……依頼を完璧に遂行するために。
 潮の香りが穏やかに花梨の頬を撫でる。星灯りが優しく花梨を包む。
 花梨は手すりに凭れたまま、いつしかぐっすりと眠り込んでいた。
「お方さま?」
 侍女が声をかけたが、目を覚ます様子もない。侍女は困った顔をしながらも、奥から翡翠の大きな衣を持ってきてふわりと花梨に着せ掛けた。衣に残る移り香は、花梨をいよいよ、深い眠りに引き込んだ……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 目を覚ますと、花梨は翡翠の船の上にいた。

(あれ?)

 眠り込んだときと同じに、手すりに凭れている。しかし、目の前に広がる景色が全く違っていた。見渡す限り広がる大海原、足元はおぼつかなく揺れる船の甲板。

「目が覚めたかい? 何を見ているの。」

 大好きなあの香り、あの温もりに包まれた。背後から聞き慣れた優しい声。

「翡翠さん。」

 体の向きを変え、抱きついた。唇が熱を帯びた柔らかい物に押し包まれる。守られている幸福感に胸がいっぱいになる。

「妬けるねえ……君の眼差しを独り占めしている。」
「え?」
「海が、だよ。愛しい人。」

 もう一度、しっとりと湿った温かな唇が落ちてきた。

「君の瞳には私だけを映していて欲しいというのに……まったく、君という人は。」
「だって、この海も、翡翠さんの大事なものでしょう?」
「比べものにならないよ。君は私だけのもの、私の……可愛い白菊だ。」

 真っ赤になってうつむく花梨を、翡翠は静かに抱き上げた。

「行こう。」
「どこへ?」
「私たちの場所。私たちが二人きりで居られる場所へ。」

 花梨は翡翠の肩に顔を埋めた。上品な侍従の香りが、潮の香りと混ざる。

「愛しているよ……」

 静かに歩を進める翡翠の足は、頭に用意された船室へ向かっている。花梨の頬は熱く赤くなった。熱を増した花梨の体を抱く翡翠の腕に力が籠もった……。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(ふう……)

 大きなため息をついて、翡翠が部屋に戻ってきた。
 髪をかき上げ、表着を脱いだ。傅く侍女が、困った顔をして翡翠を見上げた。

「奥方は?」

 侍女は困った瞳を縁に向けた。翡翠の衣を被いて眠り込む花梨の姿が見えた。
 やれやれと、翡翠は小さくため息した。愛しげな眼差しを花梨に向け、そっと近寄った。

「風邪をひいてしまうよ……愛しい人。」

 耳元で囁くと、優しい光を帯びた瞳がうっすらと開いた。周りを見回して驚いていたが、翡翠の顔を認めるとその顔は一瞬で喜びに輝き、胸元に飛び込んできた。

「……どうしたの。」
「夢を……見てた。夢の中でも翡翠さんと一緒だった……」

 可愛くてたまらないと、翡翠は花梨を両腕にかき抱いた。手放すことなど思いも寄らない掌中の宝。冷え切ったその体を温めようと、固く固く抱きしめた。腕の中で花梨がほうっと大きな息を吐いた。唇を求めた。花梨の吐息をすべて我が物にしようとでも言うような長い長い口づけ。二人を包む空気が、甘く溶ける。

(チョコより甘い……)

 夢うつつの中で花梨は自分が翡翠に溶かされていくのを感じた。

「おいで……」

 抱えられ、姫抱きに持ち上げられるから、まだ実体があると感じる。柔らかい茵が花梨の体を支える。翡翠が花梨に被さった。安らかな温もりが花梨を包んだ。

「あ……」

 唇から漏れる甘い吐息に、翡翠が満足げに微笑んだ。
 二人きりの夜が始まる……。





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最終更新日  2010年02月13日 18時55分37秒
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