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池上俊一『シエナ―夢見るゴシック都市』~中公新書、2001年~ 池上俊一先生が、イタリアの都市シエナについて語る一冊です。 先生は、初期の頃はどちらかといえばフランスを中心にされていたイメージですが(ジャック・ル・ゴフのもとで研究されてもいますし)、その後、地域としてはイタリア史を中心にされていますね。 さて、本書の構成は次のとおりです。ーーープロローグ第1章 自然の力と人間の匠第2章 都市の宇宙空間第3章 コントラーダ―シエナ社会の細胞第4章 芸術のリリシズムと誇大妄想第5章 神秘か邪教か第6章 悦楽のトポスエピローグあとがきシエナ史年表シエナ観光情報ーーー ひとつの都市を、多面的に捉えた本書は、方法論としても学ぶところが大きかったです。都市のまわりを取り巻く環境を概観した後、都市全体の概要を述べ、都市民が実際に生活する際の単位であるコントラーダ(街区)と人々の生活を見ていく。さらに、芸術、宗教、食事や化粧といった、生活面に入っていく―という構成は、とてもわかりやすいと思いました。 興味深かったトピックスをメモしておきます。 それは、マレンマ(湿地帯)平野がたどった歴史です。古くは、荒涼たる岸壁、広大で荒れ果てた沼地などからなる「呪いの地」でした。ここは、14世紀頃から、牧草地として整備され、さらに干拓・開墾が進み、肥沃な畑となり、農耕も盛んになりました。しかし、17世紀、メディチ家によるシエナ市民たちを無視した禁輸措置と統制経済により、借地人がやる気をなくし、再びこの地は荒れていきます。そこで、シエナの大助祭サッルスティオ・バンディーニ(1677-1760)という人が立ち上がります。彼は、経営状態を綿密に調べ、農家の生産性を高めるためには自由経済が必要だと説いたというのです(この人物は、自由貿易主義の先駆けとも言われます)。さらにバンディーニの影響を受けた人物によって穀物輸出の自由化が促進され、マレンマは再び豊かな農業地帯へ変身した、とのことでした。人間の営みや思想が、いかに自然に影響を与えるか、また理念のある思想がいかに重要か、ということがうかがえるエピソードでした(わが国の刹那的なごたごた政治にはもううんざりです)。 シエナは説教師として有名なベルナルディーノ・ダ・シエナを輩出した町ですし、上記のマレンマのエピソードをはじめ、興味深い逸話も多く(地下水道の整備や、聖母マリアの絵に惚れ込んでしまう人々の話などなど)、楽しく読めました。※2014年2月、池上先生は『公共善の彼方に―後期中世シエナの社会―』という専門書も刊行されました。先生によるシエナ論の集大成のようで、またいつか読んでみたいです。
2014.07.26
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殊能将之『樒/榁』~講談社ノベルス、2002年~ 石動シリーズ第4弾です(本書を読む前に、前作『鏡の中は日曜日』を先に読んでおくことをおすすめします)。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。ーーー「樒」香川県の片田舎の温泉に招待された水城と鮎井は、そこに天狗伝説があることを知る。どこかちぐはぐな神主は、神社に伝わる「天狗の斧」を大切にしていたが―にもかかわらず鍵はかけていなかった―、その斧が盗まれてしまった。その後、温泉宿では、密室事件が起こる。「榁」天狗原人なるもので町起こしに成功した町の温泉旅館ではたらく旧友からの招待を受け、石動は久々にその旅館を訪れた。おおむね楽しんでいた石動だが、考古学者と、彼のもとを訪れ激しくののしる男という、不穏な場面も目撃する。そして、考古学者の部屋が密室状態となり……。ーーー 2002年、講談社ノベルス創刊20周年を記念しての企画・密室本の中の1冊です。 殊能さんの作品には遊び心がありますが、本作のタイトルにもそれがうかがえます。 ずっと殊能さんの作品を再読してきて、最初の3作と次の3作には対応関係があるんだな、という風に感じました。『ハサミ男』と『鏡の中は日曜日』、『美濃牛』と『樒/榁』、そして『黒い仏』と『キマイラの新しい城』が対になっていると思われます(『キマイラ…』はこれから再読ですが、雰囲気はおぼろに覚えています)。ちょっと面白いですね。 密室の謎の解明や遊び心の楽しい1冊でした。
2014.07.19
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殊能将之『鏡の中は日曜日』~講談社ノベルス、2001年~ 石動シリーズ第3弾です。 簡単に内容紹介と感想を。ーーー 1987年。マラルメを専門とするフランス文学者・瑞門龍司郎は、螺旋状の構造をもつ「梵貝荘」に隠遁していた。彼が開く「火曜会」という会合に、推理小説研究会の田嶋は、恋人が行くということで同行することとなった。 瑞門本人はもちろん、俳優や文芸評論家など、集まったのは癖のありそうな人ばかり。さらに、名探偵だという水城という人物が現れる。 そしてその夜、事件が起こる。二階からしか降りられない中庭で、一階に宿泊していた人物が殺されていたのだった。さらに、死体のまわりには、1万円札がばらまかれていた……。 * 14年後。石動戯作は、鮎井郁介の名探偵・水城優臣シリーズが、現実の事件を元にしているということを知って衝撃を受ける。そして、編集者の男のすすめで、未刊の作品『梵貝荘事件』の再調査を行うこととなるのだが……。ーーー これは面白かったです。 14年前の関係者に石動さんが会っていくなかで、梵貝荘事件の関係者たちの人柄や変化が浮かび上がってくるのも良かったですし、いくつかのどんでん返しを含む事件の解決もわくわくしながら読みました。 先日再読した『ハサミ男』は、大きな仕掛けのひとつを覚えていましたが、本作は例によってきれいさっぱり忘れていたので、新鮮な驚きを味わえたのも良かったです。
2014.07.12
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殊能将之『黒い仏』~講談社ノベルス、2001年~ 殊能さんの第3作目の作品、石動シリーズ第2弾です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。ーーー 福岡県のあるお寺に伝わる宝を見つけて欲しい―。そういう依頼を受けた石動と助手のアントニオは、お寺での宝探し―そして古文書との読解―に奮闘することとなる。また、訪れた小さなまちでは、酔っぱらいの男と、どこか神秘的なその娘という、少し気になる存在もいた。 一方その頃、福岡市のぼろアパートで発生した殺人事件では、被害者の身元が全く分からないという状況だった。現場の、部屋中の指紋が拭き消されているなか、警察は被害者と犯人を探り当てられるのか……。ーーー 自分の好みからいえば、ちょっと残念な着地点でした。アントニオが大活躍する本書を、探偵の意義を笑い飛ばすというか問い直すというか、そういう位置づけで読めないこともないと思いますが……。第1作、第2作と、正統派でクオリティの高いミステリを記したのち、あえてこういう作品を世に問うた殊能さんはすごいと感じます。
2014.07.05
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