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殊能将之『美濃牛』~講談社ノベルス、2000年~ 名探偵・石動戯作の初登場作品です。 それでは、簡単な内容紹介と感想を。ーーー 癌の治る奇跡の泉がある―そんな話を、石動と体験者の二人が雑誌社に持ち込んだ。フリーライターの天瀬とカメラマンの町田は、その取材のため、石動とともに岐阜県暮枝村を訪れる。 しかし、奇跡の泉があるという洞窟は、所有者の羅堂真一によって閉ざされていた。村でコンミューンを開いている男のもとにいる人々が、泉に入りたがることも、真一が洞窟を閉ざす理由の一つだった。 コンミューンに集まる病人たち、そして羅堂家にまとわる不穏な空気。そんななか、真一の長男と思われる男性が、首を切断されているのが見つかった…。 事件に巻き込まれた天瀬たちは、さらに第二、第三の事件に遭遇することとなる。そして連続殺人の現場は、村に伝わる童歌をなぞらうような状況で…。ーーー『ハサミ男』に負けず劣らず、本作も面白かったです。童歌の見立て、洞窟の探検などなど、横溝正史作品をモチーフにした舞台設定も面白いですし―しかも全く古くささを感じさせません―、意外な真相、意外な犯人への驚きも味わえます。 13年ぶりくらいの再読となるはずです。面白かったです。
2014.06.28
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増田四郎『ヨーロッパとは何か』~岩波新書、1967年~ 増田四郎先生(1908-1997年。没年はウィキペディアにより確認)が、わかりやすく「ヨーロッパ」の特徴を論じた一冊です。 先生は、一橋大学の名誉教授。一橋大学といえば、阿部謹也先生も同大学名誉教授ですね。増田先生の著作を読むのは今回がはじめてですが、人々の実生活に気を配っているあたり、お二人の研究姿勢が似ていらっしゃったんだなぁと感じました。 さて、本書の構成は次のとおりです。ーーーはしがきI ヨーロッパを知ることの意義II 現代の歴史意識と「ヨーロッパ」の問題III 地理的にみたヨーロッパの構造IV 古代世界の没落についてV 文化の断絶か連続かVI 転換期の人間像VII ヨーロッパの形成VIII ヨーロッパ社会の特色年表ーーー 本書の要点を一言でいえば、近代日本が参考にしたヨーロッパの本質は、中世初期、フランク王国に形成されたということです。著者はそれを、現代(執筆当時)の歴史観のあり方を論じたのち、ヨーロッパの地理的な性格をみたうえで、古代末期から中世初期の特徴的な諸相を描くというかたちで論じていきます。 第1章では、近代日本がヨーロッパの思想や制度を取り入れたものの、ヨーロッパにある国際的関連のようなものは日本には存在しておらず、そうした基本的な違いの理解の不足が、日本の一般生活面にはそうした思想が地につかなかった一因ではないか、という私的が興味深いです。さらに、「都市の設計というものがなっていないとか……貧民救済、学校・病院など社会施設に対する配慮が足りないとかいうのも、すべてこの基本的な意識の欠如によるものであり、一般民衆もまた社会生活の面での訓練はゼロに近くて、おそろしく後進国的な性格を帯びている。早い話が、すべての日本人は自分の家の床の間を飾ることはできても、自分の家の前のドブをちゃんと掃除し、町全体を清潔に保持するという考え方はない。これでは経済的に先進国であっても、社会生活の面ではお義理にも先進国だとはいえない」という指摘が、私自身の反省も含めて、興味深かったです。50年近く前に書かれたこの言葉が、いまだに日本に通用しそうなのが末恐ろしいですね……。 第2章は、いわゆる西ヨーロッパで生まれたヨーロッパ中心史観が、二つの世界大戦後に見直しを迫られた背景が描かれます。ここで興味深いのは、歴史観(歴史記述)のあり方が、西欧、共産圏、アメリカでは異なっている、という指摘です。 第3章は、本書のなかで最も興味深かった章の一つです。山脈や河川の状況などをふまえて、著者はヨーロッパを(1)地中海世界、(2)西ヨーロッパ、(3)東ヨーロッパの三つに区分します。いうまでもなく、ギリシア・ローマ時代に栄えていたのは(1)ですが、やがて(2)がこんにちのヨーロッパの中心としての役割を担っていく……。その過程が、第4章以下で論じられます。 詳しい議論は省略しますが、ヨーロッパとは、「ギリシア・ローマの古典文化の伝統と、キリスト教徒、ゲルマン民族の精神と、この三つが歴史の流れのどこを切ってみてもからみあっているもの」(9頁)だとすれば、それは初期中世にはじめて誕生した、と著者はいいます。たとえば、農村の構造が例に出されるのですが、5,6世紀~800年頃のあいだに、セーヌ川流域からライン川にかけてのギリシア・ローマとゲルマンの混合文化の地域で、ほかの地域に先駆けて三圃制が形成されていたことが示されます。また、ギリシア・ローマの古典文化とは決定的に異なる意識が形成されたのが、初期中世の修道院であったということも、とりわけ強調されます。 フランスやドイツという国レベルで考えるのではなく、ヨーロッパというより広い地域の性格の起源を考察する点や、一方では方言もふまえながらふつうの生活にも目を配るなど、広い視野からの記述で、とても勉強になる一冊でした。
2014.06.21
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浦賀和宏『彼女のため生まれた』~幻冬舎文庫、2013年~ 以前紹介した、浦賀和宏『彼女の血が溶けてゆく』の続編です。 前作もものすごく面白かったですが、本作にもぐいぐい引き込まれました。これは面白かったです。 それでは、簡単に内容紹介を。ーーー フリーライターの俺―桑原銀次郎の母親が殺され、父親も犯人に傷を負わされた。犯人は、銀次郎の高校時代の同級生、渡部だった。事件直後、渡部が自殺し、犯人は明確になった。 彼が銀次郎の母親を殺したのはなぜか? 遺書には、銀次郎が、高校時代に自殺した生徒にひどいことをしていたとあったが、銀次郎には全く身に覚えのない話だった。渡部はなぜ、そんな遺書を遺したのか。 その謎を追ううちに、事件はまったく意外な様相を呈していき……。ーーー 銀次郎さんを恨む犯人が、銀次郎さんと間違えてその母親を殺してしまった―。一見単純に思える状況が、捜査が進んでいくうちにどんどん表情を変えていくそのスリリングさに、わくわくしながら読みました。背表紙の、「どんでん返しの連続に、一時も目が離せない傑作ミステリ!」という言葉も、まったく誇張ではないと思います。 しかし主人公の銀次郎さん、前回の事件でも痛手を負ったのに、こんな重たい事件にまで巻き込まれるなんて…。ただ、主人公が事件の渦中にあるからこその、緊迫感や緊張感があります。 とにかく面白い一冊でした。
2014.06.14
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殊能将之『ハサミ男』~講談社ノベルス、1999年~ 第13回メフィスト賞受賞作です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。ーーー 既に二人を殺し、のどにハサミをつきたてていたわたしは、第三のターゲットの調査をすすめていた。そんな中、ターゲットにしていた女子高生が、ハサミ男とそっくりの手口で殺されていた―。 この真犯人がハサミ男ではないことは、だれよりもわたしが知っている。それでは、真犯人は誰なのか。 わたしは、被害者の関係者の周辺を調査し、真犯人を捜し始める。ーーー これは面白いです。 あるトリックは覚えていたため、なかなか再読ができないでいたのですが、これは再読して良かったです。伏線を味わいながら、そして例によって真犯人のことをはじめ、いろいろ忘れていたので、新鮮な気持ちも持ちながら、楽しく読むことができました。 物語は、わたしの一人称の章と、まだ若い刑事の磯部さんをはじめとする刑事たちが活躍する三人称の章とで進んでいきます。 自殺願望のあるわたしの、奇妙な生活と事件の謎を追うスリリングさの、どこかいびつな感じも面白いですし、刑事たちの活躍も楽しめます。 あらためて、良い読書体験でした。※2013年、殊能さんが亡くなられたというニュースにふれたときは衝撃でした。ご冥福をお祈りいたします。
2014.06.07
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