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島に行く で、 反対運動とか、ご近所との付き合いとか、田舎暮らしに対する不安とか、どうするかを決めるまでの 紆余曲折、あれかこれかの逡巡、そりゃあそうでしょう、東京生まれの、東京育ちの方が、還暦過ぎてお引越しですからね。
東京生まれ、東京育ち。女。あとちょっとで80歳。65歳の時東京を離れ、今、博多湾に浮かぶ周囲12キロほどの小さな島に、同い年の夫と、黒のラブラドール犬と暮らしています。
東京を離れて暮らそうとは、まったく思っていなかったのです。住んでいたところは東京の郊外、駅から3分、商店街もスーパーも目と鼻の先、すぐ近くには大きな池のある公園もあり、豊かな緑に囲まれた、住んでいてとても気持ちのよい環境でした。住まいは夫の実家の庭の端に建っている、舅(チチ)の書斎だった離れ家を改築した家です。息子たちはこの家で生まれて育ち、私たちは生涯をこの家で終えるのだろうと思って暮らしていました。でも、どけと言われました。どいてよそに行けと。
結局ここかと行き着いたのが博多湾に浮かぶ能古島です。舅・檀一雄が晩年暮らしたところで、舅が住んだ家が、崩れかけながら残っていました。 そうですね、 檀流 のご本家、あの 檀一雄 の、あの博多の家です。普通の家なら 「そうそう、あそこにおとうさんの別荘があったじゃない。」 くらいの話なのでしょうが、なんといっても 「火宅の人」 のご一家なわけですからね、どうしても 「そういうもんか!?」が 浮かんでしまうのですが、そこから、犬だけじゃなくて人間もお好きな 檀晴子さん の 「スロー・ライフ」 が始まったというわけでした。
りんごのジュレ いかがですか、 レシピ がこんなふうに始まるのです。お読みになって納得されると思いますが、料理をするとかしないとかとかかわりなく、しみじみと伝わってくるもの 檀晴子さん の文章にはありますね。まあ、年齢がなせる業という面もあるのかもしれませんが、言うまでもなく文章には文句ありません。読ませますね。お料理の本というのは、なんとなく楽しいもので、時々手にすることはありますが、この本は格別です。 チッチキ夫人 が枕元に置いて楽しんでいる理由が、なんとなくわかりますね。我が家でも、紅玉を探してジャムにするのが、毎年の、この季節の定番ですが、このレシピを読んで、してやったりと思ったかもしれませんね。今度はジュレとかいいそうで、ちょっと楽しみですね(笑)。
秋の陽をぷるるんと
小瓶に閉じ込めて
始めてりんごを見たのは、3歳か4歳の頃。それは突然、手品のように私の手の中にありました。
「お嬢ちゃん、プレゼントをどうぞ。メリークリスマス」
頭の上の方から声がして、見上げると三角帽子をかぶった知らないおじさんがニコニコ笑ってしました。
銀座の大通りを歩いていた時だったとのちに母が話していました。戦後間もない頃です。街に昔の賑わいが戻ってきていると聞いて嬉しくて確かめたくて、クリスマスイヴの夜、幼い私を連れて大通りを端から端まで歩いたのだと言っていました。
歩道に夜店が並んでいたのをぼんやりと覚えています。(中略)
あの日の真っ赤な小さなりんごは、多分紅玉だったと思います。明治のはじめアメリカから日本に入ってきて、秋になると国光と一緒に店に並ぶポピュラーなりんごとして親しまれていました。丸ごとカリっと齧ると、甘くて酸っぱくて爽やかな香りが口いっぱいに広がります。大好きなりんごですが、消費者が酸味より甘さを求めるようになり新しい品種に押されて店に並ぶことが次第に少なくなり、最近は頑張って探さないと手に入らなくなっています。でもお菓子を作るにはその甘酸っぱさこそが魅力。紅玉でなければアップルパイは作らないというパティシエもいます。
私は紅玉でジュレを作ります。ジュレはゼリーのフランス語読み。果汁や肉汁をゼラチンや寒天でプルプルに固めたものを言いますが、ゼラチンや寒天を使わず果汁と砂糖だけで作るジャムを私はジュレと呼んでいます。(P117~P118)
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