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知らない! ということなので、ちょっと、紹介します。
樹木が好き! だったからのようですが、 彼 は寝床でこの本を読みます。感想は何も言いませんが、十幾つかの短編の随筆(?)集ですが、最後まで読んだようです。
ふと今の木の、たくさん伸びた太根の間に赤褐色の色がちらりとした。見ても暗いのだ。だが、位置の加減でちらりとする。どこからか屈折して射し入るらしい外光で、ふと見えるらしい。そっと手をいれて探ったら、おやとおもった。ごくかすかではあるが温味(ぬくみ)のあるような気がしたからだが、たしかにあたたかかった。しかも外側のぬれた木肌からは全く考えられないことに、そこは乾いていた。林じゅうがぬれているのに、そこは乾いていた。古木の芯とおぼしい部分は、新しい木の根の下で、乾いて温味をもっていた。指先が濡れて冷えていたからこそ、逆に敏感に有りやなしのぬくみと、確かな古木の乾きをとらえたものだったろうか。温い手だったら知り得ないぬくみだったとおもう。古木が温度をもつのか、新樹が寒気をさえぎるのか。この古い木、これはただ死んじゃいないんだ。この新しい木、これもただ生きているんじゃないんだ。 いかがでしょう。所収されている最初の作品、 「えぞ松の更新」 の最後の1ページです。倒木の割れ目に手を差し入れて 「ぬくみ」 を見つける手つきと、たたみかけていく書きぶりが 幸田文 だと得心しながら、 平山正木さん も、きっと、 富良野の森 の奥を思い浮かべながら心揺さぶられたに違いないと納得するのでした。
中略
えぞ松は一列一直線一文字に、先祖の倒木のうえに育つ。一とはなんだろう。どう考えたらよかろうか。そぞいろんな考え方があることだろう。私にはわからない。でも、一つだけ、今度このたびおぼえた。日本の北海道の富良野の林冲に、えぞ松の倒木更新があって、その松たちは真一文字に、すきっと立っているのだ。ということである。何とかの一つ覚えに心たりている。(P18)
目次
えぞ松の更新 9
藤 19
ひのき 34
杉 57
木のきもの 75
安倍峠にて 83
たての木 よこの木 91
木のあやしさ 99
杉 108
灰 115
材のいのち 129
花とやなぎ 136
この春の花 143
松 楠 杉 150
ポプラ157
解説 佐伯一麦
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