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ビルダーバーグ・グループの年次総会が5月29日から6月1日にかけてデンマークで開かれている。「西側」の支配システムが揺らいでいることに危機感を持ち、ロシア、中国、イランの協力関係が自分たちのヘゲモニーを浸食するのか、天然ガス取り引きの合意をはじめとするロシアと中国の間で行われる長期のプロジェクトがドルへの依存をどの程度弱めるのか、EUの権力構造へ挑戦しているヨーロッパ内におけるナショナリズムの勢力拡大などをテーマにしているようだ。 勿論、このウクライナでアメリカ/ネオコン(親イスラエル派)の手先として動いているネオ・ナチは議題になっている「ナショナリズム」とは違う。巨大資本とどのように関係しようとしているのかという視点で考えると、EUの「ナショナリスト」は巨大資本の利益に反しているのだが、ウクライナのネオ・ナチは手先だ。両勢力を混同するとわけがわからなくなる。 ビルダーバーグ・グループの内部では、バラク・オバマ政権の政策が破綻している見方が広がっているようだが、ロシアや中国の動きを見ても当然のことだ。リビアではアメリカがアル・カイダを使っている事実が明確になり、その延長線上にあるシリアではサウジアラビアやトルコがイスラム系武装勢力に化学兵器を使わせた疑いが浮上、ウクライナではオデッサでの住民虐殺がインターネットで全世界に伝えられている。アメリカを「悪の敵国」と見る人は急速に増えているだろう。 一方、ロシアや中国は影響力を広げている。両国を中心とするBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は7月にブラジルのフォルタレサで会議を開く予定なのだが、そこへアルゼンチンが招待されているという。 BRICSと同じようにロシアと中国が中心になっているグループにSCO(上海合作組織)がある。メンバー国はアルメニア、ベラルーシ、中国、カザフスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンで、オブザーバー国としてインド、イラン、モンゴル、パキスタンが参加している。この中の3カ国、ロシア、カザフスタン、ベラルーシは5月26日、ユーラシア経済連合(EEU)の創設に関する条約に調印した。 さらにベラルーシやスリランカとも交流があり、ラテン・アメリカのボリバリアン・ブロック(アンティグア・バーブーダ、ボリビア、キューバ、ドミニカ、エクアドル、ニカラグア、セントビンセント・グレナディン、ベネズエラ)、あるいはアフガニスタン、イラク、レバノン、パレスチナ、シリアとも友好的な関係にある。 現在、アメリカはユーラシアの内陸国を包囲して締め上げるという戦略を推し進めている。これはハルフォード・マッキンダーなる人物が1904年に発表した理論に基づいてズビグネフ・ブレジンスキーが1990年代の後半にまとめたプランから始まると言われている。現アメリカ大統領のバラク・オバマは大学時代、ブレジンスキーの弟子だったようなので、現在のアメリカ政府の政策にも大きな影響を及ぼしているのは当然だろう。 ブレジンスキーは1978年に「危機の弧」はインド洋に沿って伸びていると発言している。東南アジアから中東までの地域ということになる。この概念を考え出したのは、プリンストン大学の教授でネオコンのバーナード・ルイスらしいが、マッキンダーの主張と重なる。 この年、「危機の弧」の真ん中にあるアフガニスタンへソ連軍を引き込む工作をブレジンスキーはジミー・カーター大統領の補佐官として始めている。まだ王制だったイランの情報機関SAVAKの手を借りてCIAはアフガニスタンのモハメド・ダウド政権を揺さぶり始めたのだ。その前段階として、自分たちの手先になる傀儡勢力を育てるために資金が提供され始めたのは1973年のことだとパキスタンのバナジル・ブット首相の特別補佐官は語っている。1979年にイランでイスラム革命が起こると、アメリカのパートナーはパキスタンになる。(その後の展開は本ブログで触れたこともあり、今回は割愛する。) こうした「地政学的」な問題だけでなく、エネルギー資源も「西側」がウクライナを欲しがっている理由だ。 昨年12月13日、アメリカのビクトリア・ヌランド国務次官補米国ウクライナ基金の大会で演説しているが、その中で1991年からウクライナを支援するために50億ドルを投資したと発言している。その際、彼女の背後には巨大石油企業シェブロンのマークが飾られていた。 そのシェブロンは11月5日、ウクライナ西部で石油と天然ガスを50年間、開発することでウクライナ政府と合意している。同社の総投資額は100億ドルになるとウクライナ政府は語っていた。 黒海の海底には天然ガスが眠っていると言われ、クリミアの独立はアメリカの巨大資本や利権集団にとって大きなダメージだった。ロシアの軍港を奪うことも大きな目的だったはずだが、エネルギー利権も小さな問題ではない。 東部のドネツク州やハリコフ州は工業地帯で有名だが、天然ガスの埋蔵地帯としても知られている。キエフのクーデター政権が傭兵やネオ・ナチの親衛隊を投入して住民を殺害しているスラビャンスクは、最初にシェール・ガス田の掘削する予定の場所だという。カネ貸しのIMFが東部や南部の制圧を融資の条件にしている理由のひとつはここにあるのだろう。EUの欲ボケ幹部たちは自らを窮地に追い込んでいるが、その天然ガスに目が眩んだのかもしれない。
2014.05.31
アメリカ政府はウクライナで非武装の住民がクーデター政府に虐殺されていることを意に介していない。本ブログでは何度も書いたように、オデッサではネオ・ナチを使って120名から130名の住民を惨殺したと現地では語られているが、公的な調査と呼べるようなことは行われていない。個人が調べているだけだ。 現在、クーデター政権は東部で住民を虐殺している。死体に「テロリスト」というタグをつければ何をしても許されると思っているようだ。作戦には軍も使っているが、統制し切れていないこともあり、ネオ・ナチの「親衛隊」だけでなく、アメリカの傭兵会社から雇い入れた戦闘員を投入している可能性が高い。それでもヘリコプターが撃墜されて将軍を含む十数名が殺されるなど、思惑通りに制圧作戦は進んでいないようだ。 ウクライナのクーデター政権が信頼できないことは、今年2月の段階でEUの幹部には伝わっている。繰り返し書いてきたことだが、2月25日にキエフ入りして調査したエストニアのウルマス・パエト外相は翌日、EUのキャサリン・アシュトン外務安全保障政策上級代表(外交部門の責任者)へ電話で次のように報告している: 「全ての証拠が示していることは、スナイパーに殺された人びと、つまり警官や街に出ていた人たち双方、そうした人びとを同じスナイパーが殺している。同じ筆跡、同じ銃弾。実際に何が起こったかを新連合(暫定政権)が調査したがらないほど、本当に当惑させるものだ。スナイパーの背後にいるのはヤヌコビッチでなく、新連合の誰かだというきわめて強い理解がある。」「新連合はもはや信用できない。」 それに対し、アシュトンは「議会を機能させなければならない」と応じた。当初、「西側」は狙撃をビクトル・ヤヌコビッチ大統領の命令だと主張、激しく攻撃していた。ところが、ネオ・ナチの仕業だということが露見すると、「黙っていろ」だ。 パエト外相とアシュトン上級代表の会話が盗聴され、インターネットに流されたことでこの事実は明らかになったのだが、この会話に「リベラル派」とか「革新勢力」の大所は触れたがらないようだ。「偏差値秀才」が多いようで、さすが世渡りがうまい。 こうした人びとは、日本の新聞やテレビを批判する際、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙、あるいはBBCを引き合いに出すことが多い。こうした欧米のメディアを「言論の自由」の守護神として扱っているが、実際は単なるプロパガンダ機関にすぎない。1970年代の後半から急速に悪化、21世紀に入ってからは形振り構わず権力者のために働いている。 イラクを攻撃する前、アメリカのメディアが偽情報を使って好戦的な雰囲気を作り出していた。その象徴的な記者がニューヨーク・タイムズ紙のジュディス・ミラーだ。ウクライナでもニューヨーク・タイムズ紙をはじめ、「西側」のメディアは同じことを繰り返している。以前より状況は悪くなっているかもしれない。日本のマスコミはニューヨーク・タイムズ紙よりも支配者への従属度は高いのだが、同じように「リベラル派」とか「革新勢力」と呼ばれている人や団体も似たようなものだ。 ウクライナだけでなく、アフガニスタン、ユーゴスラビア、イラク、リビア、シリアなどでアメリカ/NATOが何をしてきたのかを理解しないと、日本の集団的自衛権の本質も見えてこない。すでに「日米安保」の次元を超えている。 かつてアメリカ海兵隊のスメドリー・バトラー少将が言ったように、戦争とは不正なカネ儲け、有り体に言うと押し込み強盗にほかならない。政治を「犯罪行為」だと見なすならば、「政治の継続」と言えるかもしれない。 政治と経済は密接な関係にある。だらが主権者かはともかく、その主権者がどのような国を築こうとしているのかというビジョンが政治や経済には反映される。オフショア市場などを使って巨大企業や一部の富豪が資産を隠し、課税を回避できる仕組みが出来上がっている今、日本では庶民課税である消費税の税率を上げ、「残業代ゼロ」が議論されている。 資本主義とは全ての富を一部に集中させる仕組みではあるが、その原理を徹底すれば少数の富裕層と圧倒的多数の貧困層に別れることになる。新自由主義の目標もそこにあるのだが、そうなったときに革命は起こる。それを力で押さえつけるため、支配層は国民の監視や暴力装置を強化しようとする。ファシズム化だ。ロナルド・レーガン政権が計画を練りはじめ、2001年9月11日の「攻撃」を利用してアメリカは軍事侵略とファシズム化を推進してきた。 日本では安倍晋三首相を議長とする産業競争力会議が「残業代ゼロ」を打ち出したようである。一般社員でも労働時間にかかわらず賃金を一定にすることができるようにするというのだが、そうしたことをすれば庶民の生活は完全に破綻、経済は崩壊する。安倍政権が言う経済政策とは「経営」にすぎない。社会全体の仕組みを考える「経済」と企業のカネ儲けを考える「経営」は相反するものだ。 ウクライナでもカネに目のくらんだ連中がネオ・ナチを使ってクーデターを実行、服従を拒否している住民を虐殺している。「恐怖(テロ)」で人間を支配できるとアメリカの支配層、特にネオコンは信じているようだが、そうしたことに屈しない人も少なくないことをウクライナの東部や南部の人びとは明らかにしている。
2014.05.29
選挙の正当性はともかく、ウクライナの大統領選でイスラエル系オリガルヒのペトロ・ポロシェンコが勝利した。「チョコレート王」、あるいは「チョコレート・マフィア」と呼ばれている。どのように動けばカネ儲けできるかという基準で動くタイプの人物ということであり、ユリア・ティモシェンコ元首相と同じようにアメリカ支配層の傀儡だ。 つまり、新政権になっても政策は変わらず、ウクライナの富を「国境なき巨大資本」に贈呈し、その報酬を自分たちは受け取るということ。緊縮を強要して庶民を貧困化させることは決定済み。IMFの命令に従って東南部を制圧するための軍事作戦をすでに再開、ドネツクの空港を戦闘機や攻撃ヘリで攻撃している。 ドネツクで「人民共和国」を宣言している住民によると、この空爆で約50名の自衛軍兵士が死亡、住宅地への攻撃で非武装の市民も50名ほど殺されたという。キエフのクーデター政権は200名以上を殺したとしている。 今回、空爆を利用したのは地上軍だけでの制圧が困難だということが選挙前の作戦で明確になったからだろう。戦車を前にしても、銃撃があってもひるまない非武装の住民に圧倒されている様子がインターネットで流されている。 オデッサの場合、住民の証言によると、120名から130名が殺され、遺体の多くはどこかへ運び去られたという。外で殺すと目立つため、労働組合会館へ避難させ、その地下室で100名近くを惨殺、上の階にいた人びとも撲殺、絞殺、射殺した上で火を放ち、焼き殺された人も少なくないようだ。こうした手をドネツク州やルガンスク州では使えないだろう。住民が犠牲になっている実態は外へ漏れてくる。現地に入っているジャーナリストを拘束したり殺害しているが、それでも情報は止められない。 資本主義が勃興した19世紀、「泥棒男爵」の時代からアメリカを支配しているのは金融機関を中心とする巨大資本である。こうした支配層にフランクリン・ルーズベルトやジョン・F・ケネディなどは挑戦したが、基本的な構造を崩すことはできなかった。 19世紀と違い、現在は収奪した富を生産活動に投資する必要はなく、新しい産業を生み出すことはなくなった。ロンドン(シティー)を中心に築かれたオフショア市場のネットワークを使って資産を隠し、課税を回避し、投機につぎ込んでいる。 生産活動を衰退させ、博奕にのめり込んでいる巨大資本は情報操作で人びとを支配している。あらゆる情報を集め、分析し、自分たちにとって好ましい話を流す。学校、メディア、宣伝会社、そして情報機関で人びとを操っているのだ。 情報機関は支配層のために組織されたわけであり、宣伝会社も以前から政府と緊密な関係にある。安倍晋三政権は教育やメディアの支配に熱心だが、その理由も情報操作で国民を騙そうとしているからだ。言葉で国民を操る・・・陰陽師のような手口だ。 第1次世界大戦があった当時、アメリカのウッドロー・ウィルソン政権はプロパガンダを目的としてCPI(公的情報委員会)を設置、「フォーミニット・メン」と呼ばれるボランティアが「愛国的」な演説を繰り返した。 1933年にルーズベルト政権がスタートすると、ウォール街はファシズム体制の樹立を目的とするクーデターを計画したと海兵隊のスメドリー・バトラー退役少将は議会で証言している。その際、クーデター派から「我々には新聞がある。大統領の健康が悪化しているというキャンペーンを始めるつもりだ。そうすれば、彼を見て愚かなアメリカ人民はすぐに信じ込むに違いない。」と言われたとバトラー少将は語っている。 第2次世界大戦が終わると、巨大資本は新たな情報操作プロジェクトを始める。いわゆる「モッキンバード」だ。中心にいたのはウォール街の弁護士で情報/破壊(テロ)工作を大戦中から戦後にかけて指揮していたアレン・ダレス、ダレスの側近で破壊工作機関のOPCで局長を務めたウォール街の弁護士、フランク・ウィズナー、やはりダレスの側近で後にCIA長官に就任するリチャード・ヘルムズ、そしてワシントン・ポストの社主だったフィリップ・グラハムだ。(Deborah Davis, “Katharine The Great”, Sheridan Square Press, 1979) アメリカやイスラエルへの反発がヨーロッパで広がった1980年代、米英の支配層は「英米後継世代プロジェクト(BAP)」を始めている。このプロジェクトの特徴は、巨大資本を支配している人たちだけでなく、メディアからも多くの編集者や記者が参加したことにある。 イギリスの労働党は「親イスラエル」だったのだが、この当時、イスラエルへの反発が強まり、パレスチナへ接近していた。そうしたときに登場したのがトニー・ブレア。資金をイスラエルから提供されていたことがわかっている。このブレアをBAPは支援した。 21世紀に入ってもアメリカは戦争を続けている。そうした戦争を実行するために支配層はプロパガンダ機関を総動員している。アフガニスタン、イラク、リビア、シリアでも嘘をつき続けてきた。ウクライナでも嘘を並べている。少しでも思考力のある人なら、アメリカやその傀儡が言うことを信じるはずはない。騙された振りをしているのだろう。強そうに見える勢力についていた方が安全であり、徳だということは確かだ。どのような肩書きであろうと、一連の出来事をどのように語っているかで本性がわかる。
2014.05.28
ウクライナで大統領選挙が実施され、「チョコレート王」、あるいは「チョコレート・マフィア」と呼ばれているペトロ・ポロシェンコが勝利した。投票日の前日にアメリカの「オブザーバー・グループ」を率いてウクライナ入りしたマデリーン・オルブライト元国務長官と会談したユリア・ティモシェンコ元首相をアメリカ政府/ネオコンは望んでいたのだろうが、イスラエル系オリガルヒのポロシェンコもアメリカ支配層の傀儡であることに変わりはない。 新しい政権ができてもIMFの融資に絡んで緊縮を強要されることは確実。庶民の生活が悪化することは避けられず、不満が高まるだろう。また、東南部を制圧することをIMFは要求しているわけで、内戦になる可能性は高く、戦火が全土に広がるかもしれない。 現在、EUがアメリカから自立することをロシアは願って軍事力の行使は自重しているようだが、欲ボケしたEU幹部の暴走が続けば、どこかの時点でNATOとロシアの軍事衝突になる。そのとき、ロシアが戦場をヨーロッパ/ロシアに限定するとは限らない。だからこそ、欧米では世界大戦の勃発を恐れる声が出ているのだ。 ウクライナのクーデター政権は様々な条件をつけて投票率を高く見せているようだが、ともかく選挙で「禊ぎ」を済ませ、ネオ・ナチを使ったクーデターでアメリカ/ネオコンは傀儡政権をでっち上げたいのだろう。傀儡政権への服従を拒否したオデッサにネオ・ナチを投入して住民を虐殺したというような「過去の穢れ」を選挙で洗い流したつもりかもしれないが、そうした禊ぎを東南部の住民やロシア政府が認めるとは思えない。 選挙が終わるのを待ち、クーデター政権はドネツクの空港を戦闘機や攻撃ヘリで攻撃して住民に死者が出ている。東南部の住民を制圧する作戦をクーデター政権は再開したわけだ。中東や北アフリカでもアメリカ政府は自分たちが殺した人間を「テロリスト」や「戦闘員」だと表現するが、その多くは非武装の住民。ウクライナでも同じことをしている。 そうはいっても、ウクライナの西部ではクーデター政権を支持する人も少なくないようだ。その背景には「EU幻想」がある。無邪気にもアメリカを自由と民主主義の国だと信じ、EUに加盟すれば「ブルジョア」になれると妄想している庶民もいるだろうが、クーデター政権に参加しているような「オリガルヒ(一種の政商)」や銀行上がりの人間、あるいはNATOやアメリカの特殊部隊と連携しているネオ・ナチの幹部などは違う。私腹を肥やせると考え、ロシアを破壊すれば略奪できると夢見ていることだろう。 ウクライナの一部から憧れの目で見られているEUだが、その実態を知っている住民は反発を強めている。巨大資本のカネ儲けが絶対視され、0.01%の特権階級が富を独占、庶民は貧困化し、債務に縛られた人生を送る人も増えている。 巨大資本の食い物になった国の典型がギリシャ(内容は前に書いたことなので、今回は割愛する)だが、旧ソ連圏の中ですでにEUへ入っている国々では一部の特権階級を豊かにするために庶民がこき使われる実態に失望、そうしたことが歌にもなっている。今回のEUの選挙でも庶民がEUに反発していることが明確になった。 現在、EUを動かしているのはヨーロッパの貴族階級にほかならない。貴族は長年、政略結婚を繰り返してきたため親戚は全ヨーロッパに広がり、統一されたヨーロッパは彼らにとって自然なことだろう。 近年になってヨーロッパ統一の動きが出てきたのは1922年のこと。ブリュッセルを拠点とした「汎ヨーロッパ連合(PEU)」がオットー・フォン・ハプスブルク大公らによって創設されたのである。そのメンバーにはウィンストン・チャーチルも含まれていた。 そのチャーチルは第2次世界大戦後、1948年に「ヨーロッパ連合に関するアメリカ委員会(ACUE)」の設立に協力している。名称からわかるように、この組織はアメリカ主導で作られた。委員長にはアメリカの戦時情報機関OSSの長官だったウィリアム・ドノバンが選ばれている。副委員長は戦後の情報/破壊活動を指揮したアレン・ダレス。ドノバンとダレスはウォール街の大物弁護士でもある。 ACUEとはアメリカがヨーロッパを支配するために創設した組織だが、そこで重要な役割を果たしたひとりがポーランド生まれのジョセフ・レティンガー。アベレル・ハリマンやデイビッド・ロックフェラーといったアメリカの資本家を後ろ盾にしていた人物で、欧米支配層の利害調整機関とも言われているビルダーバーグ・グループの創設でも中心的な役割を演じた。この動きはNATOの創設と連動している。 本ブログでは何度も書いたことだが、NATOはソ連との戦いに備えるだけでなく、「西側」の左翼を潰すことも重要な役割だった。その役割を果たしているのが「NATOの秘密部隊」だ。 こうしたアメリカの動きにフランスのシャルル・ド・ゴール(NATOの秘密部隊に命を狙われたことは本ブログで何度か書いた)は反発していたが、ソ連が消滅した1991年になると、フランスのフランソワ・ミッテラン大統領とドイツのヘルムート・コール首相が「西ヨーロッパ連合(WEU)」の実現を訴えている。外交と軍事政策を統合し、「ユーロ軍」を創設しようともしていた。勿論、アメリカは激しく反発、このプランは潰されてしまった。ヨーロッパのための統一は消え、アメリカのための統一が残ったと言えるだろう。そのひとつの結果として、EU各国の首脳はアメリカの操り人形と化している。 ウクライナのクーデターもこの延長線上にある。すでに足下が崩れ始めているアメリカだが、NATOを使ってロシア、中国、イランなど服従を拒否している国々を軍事力で倒して世界の覇者になろうとしているわけだ。アメリカは日本を拡大版NATOへ組み込む腹づもりのはずで、だからこそ集団的自衛権を安倍晋三政権は主張している。つまり、核戦争の準備だ。
2014.05.27
ウクライナの大統領選は「チョコレート王」のペトロ・ポロシェンコの勝利で終わりそうだ。この人物は「オレンジ革命」で巨万の富を築いたユダヤ系のオリガルヒ(一種の政商)のひとりで、オデッサの虐殺で黒幕的な役割を果たしたとされるイホール・コロモイスキーやパイプライン業界に君臨するロンドン在住のビクトル・ピンチュクと同様、ネオ・ナチを金銭面から支援してきた。「ユダヤ系」とはいうものの、この3名、ユダヤ系住民を代表しているわけではなく、ウクライナのネオ・ナチが信奉しているステファン・バンデラを支持している。 本ブログでは何度も書いてきたが、バンデラは1930年代にOUN(ウクライナ民族主義者機構)に所属、反ポーランド、反ロシアを主張していた活動家。OUNはアンドレイ・メルニクが率いていたが、その方針に飽き足らない攻撃的グループがバンデラを中心に形成される。一般にOUN-Bとも呼ばれている。この一派をイギリスの対外情報機関MI-6のフィンランド支局長だったハリー・カーが雇った。 1941年6月にドイツはソ連に向かって進軍を開始、ウクライナも占領した。「バルバロッサ作戦」だ。OUN-Bもリボフへ入り、独断でウクライナの独立を宣言する。 占領軍は数時間のうちにユダヤ人、知識人、ロシア人、コミュニストなど「新秩序」の障害になると考えられていた人々の虐殺を始め、リボフでは数週の間に7000名人以上が殺害され、その周辺地域ではOUN-Bによって数万人が虐殺されたとする推計がある。(Russ Bellant, “Old Nazis, the New Right and the Reagan Administration”, Political Research Associates, 1988)また、ドイツ軍に占領されていた時期、ウクライナに住んでいたユダヤ人90万人が行方不明になったとも言われている。(Christopher Simpson, “Blowback”, Weidenfeld & Nicloson, 1988/クリストファー・シンプソン著、松尾弌之訳『冷戦に憑かれた亡者たち』時事通信社、1994年) その一方、OUN-Bが独断でウクライナの独立を宣言したわけだが、その残虐さもあり、暴走を懸念したナチスの親衛隊はOUN-BやOUN-Mのメンバーを拘束していく。このときにOUN-Bの主要メンバーたちは特別待遇で拘束されていたと言われ、本気で虐殺を懸念したのかどうかは疑問。1943年になるとOUN-Bの戦闘員はUPA(ウクライナ反乱軍)として活動しはじめ、「反ボルシェビキ戦線」を設立する。 大戦後、この組織はABN(反ボルシェビキ国家連合)へと発展、APACL(アジア人民反共連盟、後にアジア太平洋反共連盟に改名)とともにWACL(世界反共連盟)の母体になった。WACLはCIAの別働隊として活動することになる。ただ、ウクライナではソ連がチェコスロバキアやポーランドと共同してOUN-Bの掃討作戦を実施、一掃されてしまった。そのOUN-Bを「西側」は今、復活させている。 オレンジ革命後に不公正な手段で巨万の富を築いたという点ではユリア・ティモシェンコも同様だ。2007年12月から10年3月までウクライナの首相を務めているが、その間、08年には投機家のジョージ・ソロスからのアドバイスに基づく政策を実行すると発言、後に「祖国」なる政党をつくった人物だ。ネオコンのビクトリア・ヌランド国務次官補が高く評価、クーデター政権で首相代行になったアルセニー・ヤツェニュク、アレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行も「祖国」に所属している。 投票日の前日、アメリカの「オブザーバー・グループ」を率いているマデリーン・オルブライト元国務長官と会談している。アメリカ支配層から最も好かれている候補者だが、ウクライナではその悪事が広く知られているため、さすがに選挙では惨敗した。 実は、投票の直前に投票システムがハッキングされたと言われている。クーデター政権に反発しているのは東部や南部の住民だけでなく、軍、情報機関、治安機関の内部にもいるようで、電話の盗聴などもリークされてきた。そうしたグループのひとつ、「サイバーベルクト」がハッキングしたようだ。(クーデター政権側は否定しているが。) 外部からアクセスできるということじたい、選挙システムとしては問題。ハッキングの理由は、システムを機能不全にして手作業で開票させ、不正しにくくすることにあったという。投票率を高く見せるために小細工しているようだが、投票内容の操作はハッキングで難しくなったようだ。 このシステムを開発したのはアメリカを拠点とするSOEソフトウェアーなる会社。NSAとコンピュータ関連企業との関係を考えると、アメリカ政府が選挙結果を操作しようとしていた可能性は否定できない。 何しろ、ジョージ・W・ブッシュを当選させた2000年の大統領選以降、アメリカの選挙は操作されている疑いが濃厚。コンピュータ化が推進され、操作はますます容易になっている。勿論、日本でもそうした噂が流れている。 ところで、ティモシェンコを励ましたオルブライトは国務長官の時代、1998年にユーゴスラビアの空爆支持を表明、99年にNATOはユーゴスラビアを先制攻撃した。ズビグネフ・ブレジンスキーの教え子だとうこともあり、東ヨーロッパ、特にウクライナの制圧に熱心。バラク・オバマ政権で国家安全保障問題担当の大統領補佐官に指名されたスーザン・ライスの師でもある。つまり、アメリカの体制転覆プロジェクトの中枢にいるひとりだ。 ちなみに、オルブライトの父親はチェコスロバキアの元外交官で、アメリカへ亡命してデンバー大学で教鞭を執っている。そのときの教え子の中にコンドリーサ・ライス、つまりジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官を務めた人物がいる。ふたりのライスをオルブライト親子はつないでいる。 日本のマスコミなどは「親EU派」、あるいは「親欧米派」の候補が勝ったとはしゃいでいるが、「西側」の意に沿わない候補は排除され、言うことを聞かない人物は襲撃されてきた。そのひとりがオレグ・ツァレフ。4月14日にテレビ局を出たところを襲われた様子などがインターネットで流れている。(映像1、映像2)こうした状況はクーデターの最中から続いている。 ところで、当選したポロシェンコのカネ儲けはソ連時代の終わり、マネーロンダリングから始まったという。ソ連消滅後はロシアと同じように犯罪組織や政府の中枢と手を組むことで国民の資産を略奪、ポロシェンコの場合は武器、売春、麻薬などに手を出していたと伝えられている。 女性を稼ぎに利用していたという点ではロシアのオリガルヒ、ミハイル・ホドルコフスキーと似ている。この人物もソ連時代にカネ儲けを始めているのだ。コムソモール(全ソ連邦レーニン共産主義青年同盟)の指導者だった時代、1989年にロシアの若い女性を西側の金持ちに「モデル」として売り飛ばしていた疑いが持たれている。出国ビザを取得するため、KGB(国家保安委員会)の人脈を使っていたという。 古今東西、怪しげな商売をしている連中はカネが貯まると銀行を欲しがる。ホドルコフスキーはメナテプ銀行を設立するが、その腐敗ぶりは有名で、CIAも「世界で最も腐敗した銀行のひとつ」と表現していた。(The Village Voice, September 7, 1998)そして1995年、ホドルコフスキーはユーコスという石油会社を買収、中小の石油会社を呑み込んでいく。 犯罪組織や政府の中枢と手を組み、不公正な手段で国民の資産を略奪、庶民を食い物にする連中を西側の政府やメディアは「民主化勢力」と表現、「善玉」に仕立て上げる。自分たちと同じことをしている仲間だということだろう。
2014.05.26
5月24日、日本と中国の軍用機が数十メートルの距離まで接近したという。海上自衛隊のOP-3C(画像情報収集機)と航空自衛隊のYS-11EB(電子情報収集機)に対して中国はSU-27(戦闘機)を緊急発進させ、OP-3Cには50メートル、YS-11EBには30メートルまで近づいたという。 日本側は「公海上」、中国側は軍事演習にともなって飛行禁止を通告した空域の内側と主張している。そもそも、この空域は両国の航空識別圏が重なっているわけで、日本側としてもそうした事情を承知で中国の主張する防空識別圏の中へ入ったはず。スクランブルをかけることは予想していただろう。 自衛隊がそうした空域へ情報収集機(偵察機)を飛ばしたのは、言うまでもなく、中国とロシアが5月20日から始めた合同軍事演習「海上協力-2014」に関する情報を収集するためである。 この演習にロシアから参加しているのは、太平洋艦隊の旗艦であるミサイル巡洋艦のほか、大型対潜哨戒艦、駆逐艦、大型揚陸艦など。中国側からは駆逐艦3隻、護衛艦2隻、補給艦などが参加、両国の艦船が混合編成されている。ひとつのグループとして情報伝達手段の互換性から言葉の壁までをクリアする必要があるわけだ。演習内容は複雑化し、長距離の目標物に対する攻撃も行われるという。 アメリカ/ネオコンは中東の制圧にもたつき、ウクライナへ戦線を拡大したが、ここでも思惑通りに進んでいない。アル・カイダ(イスラム教スンニ派の武装集団)やネオ・ナチを手先として使っていることを知られてしまっただけだ。 こうした流れからすると、アジア東部を新たな戦線にする可能性はあり、4月22日から29日にかけて行われたバラク・オバマ米大統領の日本、韓国、マレーシア、フィリピン歴訪は中国やロシアの封じ込めを前提にしたものであり、中国とロシアはその準備をしているようにも見える。 アメリカの世界制覇戦略はNATOの拡大と結びついている。旧ソ連圏への拡大だけでなく、地中海沿岸(アルジェリア、イスラエル、モーリタニア、チュニジア、エジプト、ヨルダン、モロッコ)、ペルシャ湾岸の産油国(サウジアラビア、バーレン、カタール、クウェート、UAE)、太平洋(日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド)などだ。これらを連携させ、中国、ロシア、イランなどを締め上げようとしている。 それに対し、ロシアと中国はSCO(上海合作組織/アルメニア、ベラルーシ、中国、カザフスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタン)やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)で結束しようとしている。 SCOにはオブザーバー国としてインド、イラン、モンゴル、パキスタンも参加し、ベラルーシやスリ・ランカとも交流がある。さらに、ラテン・アメリカのボリバリアン・ブロック(アンティグア・バーブーダ、ボリビア、キューバ、ドミニカ、エクアドル、ニカラグア、セントビンセント・グレナディン、ベネズエラ)、あるいはアフガニスタン、イラク、レバノン、パレスチナ、シリアとも友好的だ。インドとパキスタンが接近する動きがあるが、その背景にはこうした動きがある。 日本では尖閣列島(釣魚台群島)の問題で、中国と日本が軍事衝突した際、アメリカ軍は中国と戦うかどうかと議論されているが、それは状況次第。安保条約の条文に拘束されるわけではない。戦闘に参加した方が利益になると考えれば参加し、利益にならないと考えれば参加しないだろう。今回の合同軍事演習は、アメリカ軍が出てくれば、ロシア軍も出るというメッセージだとも言える。 ロシアと中国は軍事的なつながりの前に、経済的な関係を緊密化している。その象徴的な取り引きが5月21日に結ばれた天然ガスの供給契約。今後30年間にロシアは中国へ毎年380億立方メートルを供給するという内容で、総額は約4000億ドルになる。 すでにアメリカの製造業は崩壊、金融と称する博奕ビジネスに社会の富が吸い取られる状況になっている。ロシアがドル離れしていることは明らかで、財務省証券をアメリカの連邦銀行が買い支えているようだ。中国がロシアに追随すれば、SCOやBRICSなども連動する可能性が高く、金へシフトする動きもある。その結果、アメリカへ預けていた金が行方不明になっていることも判明した。 アメリカの終焉は近いかもしれないが、そうなったとき、支配者の地位から落ちることを恐れ、核戦争を始めようとする手合いが出てくるかもしれない。 例えば、ウクライナの元首相で投機家のジョージ・ソロスの配下、ユリア・ティモシェンコは、国家安全保障国防会議のネストル・シュフリチ元副議長との電話で核兵器の使用に言及している。シュフリチからウクライナにいる800万人のロシア人をどうすべきかと尋ねられ、核兵器で殺すべきだと答えているのだ。彼女はロシア人を核兵器で殺したいということで頭が一杯で、自分がウクライナを核攻撃すると言っていることを理解できていないのだろう。 1980年代に東ヨーロッパで体制転覆運動を繰り広げていた「民主化勢力」もソ連を核攻撃で破壊するべきだと主張、「西側」の反核運動を批判していた。ロバート・ゲーツ元国防長官の回顧録『任務』によると、リチャード・チェイニーはジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めていたとき、ソ連やロシア帝国が消滅するだけでは不十分で、ロシアという存在自体を抹殺するべきだと話していたというが、この発想にも通じる。ネオコンもティモシェンコと同じようなものだろう。(Robert M. Gates, “Duty,” Alfred A. Knopf, 2014) 日本が集団的自衛権を認めると言うことは、こうした核戦争カルトの仲間入りをするということでもある。
2014.05.25
ロシアと中国は5月21日に天然ガスの供給契約を結んだ。今後30年間にロシアは中国へ毎年380億立方メートルを供給するという内容で、総額は約4000億ドルになる。供給元である「ガスプロム」のアレクセイ・ミルレル社長は「わが社にとって、これまでで最大の契約だ」としている。決済方法をドル以外にしたなら、アメリカにとって大きなダメージで、体制の崩壊へ歩みが加速化するかもしれない。 BRICSやSCO(上海協力機構/上海合作組織)の中心である両国だが、政治、経済、軍事分野でこれまで以上に接近している。その大きな要因は言うまでもなく、アメリカの攻撃的な姿勢にある。今回の契約は「日米同盟」が「シーレーン防衛」と称して計画している中国向けタンカーのブロック計画を無力化、ミャンマー工作も効果がなくなる。米国や日本としては、インドとパキスタンとの接近は阻止したいだろう。 1992年3月にDPG(国防計画指針)の草稿がリークされた。国防長官だったリチャード・チェイニーの下、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官、I・ルイス・リビー、ザルメイ・ハリルザドといったネオコンが書き上げたと言われている。 当時、日本でもアメリカが「唯一の超大国」になったかのように宣伝されていたが、ネオコンも同様で、西ヨーロッパ、東アジア、旧ソ連圏、南西アジアがライバルに成長しないように押さえ込み、アメリカを中心とする「新世界秩序」を築き上げるという世界制覇のビジョンが描かれている。 この草案はリーク後に書き直されたようだが、2000年に復活する。ネオコン系のシンクタンクPNACがDPGをベースにした報告書「米国防の再構築」を公表したのだ。この報告書を作成したプロジェクトのメンバーには、ステファン・カムボーン、I・ルイス、リビー、エイブラム・シュルスキー、ドナルド・ケイガン、ロバート・ケイガン、ポール・ウォルフォウィッツ、ウィリアム・クリストルなどが含まれている。ロバート・ケーガンはビクトリア・ヌランド国務次官補の夫だ。このメンバーはジョージ・W・ブッシュ政権の中心的な存在になり、PNACの報告書は政策の基盤になった。 DPGがリークされる前年、アメリカはイラクを先制攻撃している。イラクがクェートへ軍事侵攻したことが原因だとされているが、軍事侵攻の原因もある。 イランでイスラム革命が成功、その影響がペルシャ湾岸の産油国へ波及することをアメリカも産油国も恐れた。それを阻止する形になったのがイランとイラクとの戦争。この戦争でイラクは疲弊、しかも石油価格の下落でイラクは苦しくなる。相場が下がった原因はクウェートの増産にあるとイラクは考えた。しかも、クウェートはイラクの石油を盗掘していた疑いがある。そこで、CIAは1988年の段階でイラクがクウェートを攻撃すると予想していた。 ところが、1990年7月にアメリカ国務省のスポークス・パーソンはアメリカにクウェートを守る義務はないと発言、その翌日にエイプリル・グラスピー米大使はイラク政府に対し、アラブ諸国間の問題には口を出さないと伝えた。7月末日にアメリカ下院のヨーロッパ中東小委員会で国務次官補は湾岸諸国と防衛条約を結んでいないと発言している。 詳細は割愛するが、PLOのヤセル・アラファト議長やヨルダンのフセイン国王がアメリカ支配層の一部が罠を仕掛けている可能性があるから自重するようにとアドバイスしたのだが、それらを無視してイラクはクウェートへ軍事侵攻して湾岸戦争を招いた。 この湾岸戦争でジョージ・H・W・ブッシュ政権はサダム・フセイン体制を倒さないまま休戦するが、ネオコン(親イスラエル派)はこれが不満で、そのとき、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官はイラクをシリアやイランと一緒に殲滅すると語っていたという。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官が語っている。2001年9月11日の攻撃後、ネオコンはイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃するとしていたという。 こうした攻撃計画は世界制覇を目的にしているわけだが、短期的にはエネルギー資源の獲得があった。イラク、イラン、スーダンも産油国だが、「アラブの春」に関係するシリア、リビア、レバノンの場合、地中海東岸で発見された天然ガス田が大戦転覆プロジェクトにつながったと見られている。ソマリアは輸送にとって重要な地域だ。 現在、ウクライナではネオ・ナチを主力とする武装集団がクーデターを実行中だが、その過程でクリミアがウクライナから離れてしまった。クリミアにはロシアの重要な軍港が存在、その重要拠点をロシアから奪えなかったことにアメリカ政府はショックを受けていると言われているが、それだけでなく、石油/天然ガスの問題がある。 キエフのクーデター政権はネオ・ナチと「オリガルヒ」の2本柱だが、そのオリガルヒはエネルギーと結びつき、アメリカの巨大石油産業が後ろ盾になっている。昨年12月13日、アメリカのビクトリア・ヌランド国務次官補は米国ウクライナ基金の大会で演壇に登場、1991年からウクライナを支援するため、50億ドルを投資したと発言しているのだが、そのとき、彼女の背後には巨大石油企業シェブロンのマークが飾られていた。アメリカのエネルギー産業はウクライナを欲しがっている。ジョー・バイデン米副大統領の息子、R・ハンター・バイデンがウクライナで最大の天然ガス製造会社、ブリスマの重役になったのも偶然ではないだろう。 クリミアは黒海に囲まれているが、推進180メートルより深い場所には天然ガスがあると見られている。つまり、クリミアは天然ガスに囲まれている可能性が高い。それをクーデター政権も「西側」の巨大資本も狙っていたはず。クリミアを失ったことは大きく、力尽くで奪おうとするかもしれない。
2014.05.25
42年前の5月15日、沖縄は日本へ「返還」され、米軍基地付きで142年前に始まった「琉球処分」の状態へ戻った。 1871年7月に倒幕政権は廃藩置県を実施、独立性のあった「藩」を潰し、中央政府が派遣する知事が支配する「県」にしているのだが、その廃藩置県が行われた翌年の9月に政府は琉球藩を設置、79年4月に沖縄県を作って琉球王国を併合した。当初から琉球を日本へ組み込むつもりだったなら、廃藩置県の前に琉球藩を作っていたはず。しなかったということは、琉球を「外国」だと認識していたのだろう。 その認識を変えさせた出来事が1871年10月に起こる。宮古島の漁民が難破して台湾へ漂着、何人かが殺されたのである。この事件を利用して大陸を侵略しようと考えた人間が政府内にいたようで、政府は清(中国)に対して被害者に対する賠償や謝罪を要求するのだが、そのためには琉球を日本だということにする必要があった。 その後、1874年に日本は台湾へ派兵、75年には李氏朝鮮の首都を守る要衝、江華島へ軍艦を派遣して挑発、「日朝修好条規」を結ばせて清国の宗主権を否定させることに成功した。さらに無関税特権を認めさせ、釜山、仁川、元山を開港させている。 1894年に朝鮮半島で甲午農民戦争(東学党の乱)が起こると日本政府は軍を派遣、朝鮮政府の依頼で清も出兵して日清戦争へ発展する。この戦争は日本が勝利、1895年に下関で講和条約が締結された。その後の展開は省略するが、日本の沖縄支配は続く。 こうした経緯があるため、日本の一部支配層は沖縄を日本だとは考えていない。酒席でそうしたことを口にする人もいた。昭和天皇も同じように考えていたようで、日本が降伏文書に調印した1945年9月、アメリカによる沖縄の軍事占領が「25年から50年、あるいはそれ以上にわたる長期の貸与(リース)というフィクション」のもとでおこなわれることを求めるという内容のメッセージを天皇は出している。(豊下楢彦著『安保条約の成立』岩波新書、1996年) 1947年5月になると、天皇はダグラス・マッカーサーに対し、新憲法の第9条への不安を口にしている。会談内容の一部を通訳の奥村勝蔵は記者へ「オフレコ」で伝えているのだが、隠された後半部分でマッカーサーは次にように言っている。 「日本としては如何なる軍備を持ってもそれでは安全保障を図ることは出来ないのである。日本を守る最も良い武器は心理的なものであって、それは即ち平和に対する世界の輿論である」(豊下楢彦著『昭和天皇・マッカーサー会見』岩波現代文庫、2008年) 1950年4月に大蔵大臣だった池田勇人は秘書官の宮沢喜一をともなって訪米した。そのときに携えて行った「吉田茂首相の極秘メッセージ」には、アメリカ軍を駐留させるために「日本側からそれをオファするような持ち出し方を研究」してもかまわないという内容が含まれていたというのだが、吉田首相は国会などで基地の貸与に否定的な発言をしている。(豊下楢彦著『安保条約の成立』岩波新書、1996年) 例えば1950年7月19日の参議院外務委員会では、「軍事基地は貸したくないと考えております」と発言、「単独講和の餌に軍事基地を提供したいというようなことは、事実毛頭ございません」ともしている。吉田が国会で嘘を言ったのか、池田が運んだメッセージが吉田の意向に反するものだったのかということだろう。内容は吉田でなく、天皇の意向に合致する。 この間、6月22日に来日中のジョン・フォスター・ダレスたちはコンプトン・パケナム東京支局長の自宅で開かれた夕食会に出ている。日本側から出席したのは、大蔵省の渡辺武(元子爵)、宮内省の松平康昌(元侯爵)、国家地方警察企画課長の海原治(自衛隊の創設に関与)、外務省の沢田廉三(岩崎弥太郎の義理の孫)だ。パケナムはイギリスの名門貴族出身で、日本の宮中とも太いパイプを持っている。 天皇の影を感じさせるメンバーだが、この夕食会から4日後、天皇は帰国直前のダレスに対し、「多くの見識ある日本人」に会うことを勧め、「そのような日本人による何らかの形態の諮問会議が設置されるべき」だとする口頭のメッセージを伝えたという。(前掲書)政府以外にルートを作ろうとしているように聞こえる。 1951年1月末、ジョン・フォスター・ダレスはダグラス・マッカーサーや吉田茂と会うのだが、その3日前にアメリカの使節団は会議を開き、そこで「日本に、我々が望むだけの軍隊を望む場所に望む期間だけ駐留させる権利を獲得」することを確認しているが、これは天皇がすでに事実上、認めていた。沖縄の問題はアメリカの世界戦略と昭和天皇の意思を抜きに語ることはできない。基地が沖縄に集中しているのは「日本人の責任」と言えるかもしれないが、それは問題の一部。天皇の問題を避けるのは保身だと言われても仕方がないだろう。 この年の4月、マッカーサーはジョー・マーティン下院議員に出した手紙の中でホワイトハウスの朝鮮戦争政策を批判、これが露見して解任される。その頃、中国ではCIAの軍事顧問団が率いる約2000名の国民党軍が中国領内に軍事侵攻しているが、反撃されて失敗に終わった。その翌年にも国民党軍は中国へ攻め込み、やはり追い出されている。つまり、マッカーサーを解任したとき、ホワイトハウスはすでに中国侵攻計画を始動させていた。 ところで、「沖縄返還」の際、日本とアメリカとの間に「密約」があったことが明らかになっている。日本政府の「公式見解」などは意味がない。 密約はふたつある。ひとつは毎日新聞の記者だった西山太吉がつかんだ密約で、返還にともなう復元費用400万ドルはアメリカが自発的に払うことになっていたが、実際には日本が肩代わりするというもの。後に、この報道を裏付ける文書がアメリカの公文書館で発見され、返還交渉を外務省アメリカ局長として担当した吉野文六も密約の存在を認めている。 もうひとつの密約は核にかんするもの。佐藤栄作首相の密使を務めた若泉敬によると、「重大な緊急事態が生じた際には、米国政府は、日本国政府と事前協議を行った上で、核兵器を沖縄に持ち込むこと、及び沖縄を通過する権利が認められることを必要とする」というアメリカ側の事情に対し、日本政府は「かかる事前協議が行われた場合には、遅滞なくそれらの必要をみたす」ということになっていたという。(若泉敬著『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』文藝春秋、1994年) 西山は密約に関する情報を外務省の女性事務官から入手していた。マスコミは密約の内容よりも西山と女性事務官との関係に報道の焦点をあて、「ひそかに情を通じ」て情報を手に入れたとして西山を激しく攻撃する。 1974年1月の一審判決で西山は無罪、事務官は有罪になるのだが、2月から事務官夫妻は週刊誌やテレビへ登場し、「反西山」の立場から人びとの心情へ訴え始めた。このキャンペーンにマスコミも協力する。こうしたキャンペーンが毎日新聞の経営にダメージを与え、倒産の一因になったと見る人もいる。 この女性事務官は核兵器に関する密約を知らず、復元費用の件だけを西山に教えたのだろうか? ちなみに、これは一般論だが、自衛隊の情報将校だった某は工作用のエージェントを抱えていたという情報がある。ターゲットの性格に合わせ、カネなり趣味なり女性なりを利用し、日本が進む方向をコントロールするために工作を仕掛けていたのだという。
2014.05.23
ウクライナでは選挙という手続きを経て成立したビクトル・ヤヌコビッチ大統領が暴力的に追放され、憲法の規定を無視して成立した「暫定政権」が「西側」の支援を受けて暴走している。一種のクーデターが実行されたわけだが、その暴力部門を担当していたのがネオ・ナチで、治安や軍事の要職を押さえている。クーデターの山場を超えた直後、2月28日の段階ではBBCもネオ・ナチの台頭を懸念していた。 この段階でEUの幹部たちは「暫定政権」が暴力的で危険な存在だということは知らされていた。2月25日にキエフ入りして調査したエストニアのウルマス・パエト外相は翌日にEUのキャサリン・アシュトン外務安全保障政策上級代表(外交部門の責任者/イギリス人)へ電話で次のように報告していることが発覚している: 「全ての証拠が示していることは、スナイパーに殺された人びと、つまり警官や街に出ていた人たち双方、そうした人びとを同じスナイパーが殺している。同じ筆跡、同じ銃弾。実際に何が起こったかを新連合(暫定政権)が調査したがらないほど、本当に当惑させるものだ。スナイパーの背後にいるのはヤヌコビッチでなく、新連合の誰かだというきわめて強い理解がある。」「新連合はもはや信用できない。」 この会話がYouTubeにアップロードされたのは3月5日のことだった。クーデターまでSBU(ウクライナ治安局)の長官を務めていたアレクサンドル・ヤキメンコによると、最初の狙撃はアンドレイ・パルビーなる人物が制圧していたビルから。クーデター政権でパルビーは国家安全保障国防会議(国防省や軍を統括する)の議長を務め、「ウクライナ社会ナショナル党(現在はスボボダ)」を創設したひとりでもある。この政党もネオ・ナチだ。 キエフでクーデターの拠点になった広場への出入りを管理していたのはパルビーで、武器の持ち込みも彼の許可が必要だったことから、スナイパーが彼の指揮下にあったことは間違いないと見られている。パルビーはアメリカの特殊部隊と接触していたと言われている。 ウクライナでネオ・ナチの勢力を拡大していることは「西側」もわかっていたこと。そうした状況に警鐘を鳴らし、ネオ・ナチを支援する「西側」を批判しているのがロシアであり、その大統領がウラジミール・プーチン。そのプーチンをカナダ訪問中のチャールズ英皇太子は5月20日、アドルフ・ヒトラーに準えたとデイリー・メール紙は伝えている。 チャールズは移民博物館でひとりの女性を紹介される。メリアン・ファーガソンというボランティアで、グダンスク(現在はポーランド)で生まれ育ったのだが、1939年、13歳のときにドイツ軍が来る前に両親、祖母、そしてふたりの姉妹とカナダへ逃れたという経験の持ち主。 事前にファーガソンの経歴を聞いていたのか、現場で初めて聞いたのかは不明だが、ともかくナチスから逃れてカナダへ来た女性がいたことを受け、チャールズは「今、プーチンはヒトラーと同じようなことをしている」と話したのだという。この発言があった20日、BBCは過去の報道を忘れたのか、右派セクターはナチスと関係がないと宣伝している。(この主張が正しくないことは本ブログでも書いたことだが、より詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』で書いている。) 報道管制が敷かれ、選挙が近いウクライナへチャールズの発言やBBCの放送が伝われば「暫定政権」にとって追い風になる。チャールズの発言とBBCの放送、偶然なのだろうか? ところで、チャールズはエリザベス2世の息子であり、ジョージ6世は祖父、エドワード8世は大伯父にあたる。エドワード8世は「王位よりも私の愛するこの女性を選ぶ」と演説して1936年12月に退位、ウォリス・シンプソンなるアメリカ人女性と翌年の6月に結婚してウィンザー公爵と呼ばれるようになった。 ふたりの結婚式はチャールズ・ユージン・ベドーの邸宅で行われているが、この人物はナチのエージェントだったと言われている。しかも、シンプソンは1936年10月から駐英ドイツ大使を務めたヨアヒム・フォン・リッペントロップの愛人だったということは広く信じられている。この大使はアドルフ・ヒトラーのヨーロッパにおけるスパイ網を築き上げた人物だ。エドワード8世自身もナチスの支持者として知られている。 ウォリス・シンプソンは1928年から36年までアーネスト・シンプソンというアメリカ人実業家と、少なくとも書類上は、結婚していた。夫がいながらドイツ大使の愛人になり、イギリス国王と「恋愛関係」になったわけである。 ナチスを支持し、ドイツのスパイ網を築き上げた人物の愛人を愛人にし、エドワード8世は退位させられたわけだが、ウォリスと結婚したもうひとつ別の理由があった。ウィンザー公爵夫人となった後、パリで開かれたパーティーで彼女は客に次のようなことを語ったとする記録が残っているのだ。 「数多くの女性と性的関係を結ぼうとしたものの、公爵は性的に不能で、自分の欲望を満足させることができなかった。」 ウィンザー公爵の性的な欲望を満足させられる女性はウォリスだけだったらしい。
2014.05.22
アメリカ政府を後ろ盾とするキエフのクーデター政権はウクライナの東部や南部で制圧作戦を続けている。そうした中、5月18日にロシアのテレビ局「ライフニュース」が派遣したふたりのジャーナリストをクーデター軍は武器を運んでいたとして拘束した。 例によって、クーデター政権が示す「証拠」は証拠としての価値のない代物。各地域の自治、独立を主張している反クーデターの「連邦派」へ武器を運び込むためにジャーナリストを使うのは愚かなことだ。 4月24日にアメリカのジョン・ケリー国務長官がロシアのテレビ局「RT」を名指しで批判しているが、これもロシアが伝える事実に苛立っているからにほかならない。当然、クーデター軍も取材クルーを監視している。そんな人間を武器の輸送に使うとは考えられない。 そもそも、治安機関や軍の中からも離反者がいて、武器は持っている。東部や南部の地域では住民が殺されているが、地元の警察が住民に銃を向けることを拒否、少なからぬ警官が拘束され、中には殺害された人もいるほどで、メディアの人間がちまちま運び込む必要はない。キエフの暫定政権、つまりアメリカ政府の主張は全く説得力がないということだ。 クーデター軍は4月25日にも「ライフニュース」のジャーナリストふたりを拘束、国外へ追放している。ドネツクで住民から話を聞いていたとき、SBU(ウクライナ治安局)と軍の部隊が連れ去ったのだという。 1945年5月8日にドイツが降伏してナチス体制は崩壊、その翌日をソ連は戦勝記念日と定め、祝ってきた。その9日、クーデター軍はドネツク州マリウポリ市に戦車部隊を入れて制圧にかかったのだが、地元の警察は命令を拒否、拘束を免れた警官は住民と一緒に警察署へ立てこもり、銃撃戦になっている。この時、住民も撃たれ、何人かが殺されたようだが、取材していたRTのカメラマンも重傷を負っている。 こうした拘束や銃撃でもロシアのメディアは取材を止めようとしない。そこで再び「ライフニュース」がターゲットになり、今回は意図的に手荒く扱う場面を撮影して流している。「びびらそう」としている可能性がある。5月20日にはRTの仕事をしていたイギリス人ジャーナリストも拘束され、解放されたのは36時間後だ。20日には大統領選挙を取材する目的でウクライナへ入ろうとしたRTの取材陣が入国を拒否されている。 25日に実施される予定の選挙では候補者が襲撃され、東部や南部ではクーデター軍の制圧作戦が続いている中で行われる。公正な選挙ができる状況ではないが、アメリカ政府としては憲法に違反して実権を握ったクーデター政権に正当化するためにどうしても必要な儀式であり、その実態を報道されたくないはずだ。 アメリカ政府/クーデター政権がロシアのメディアを嫌う理由は彼らの情報統制にひびが入るからだ。すでにリビアでアメリカ/NATO/ペルシャ湾岸産油国がアル・カイダを地上軍として使っていたことが広く知られてしまい、シリアではダニー・デイエムという「活動家」が「西側」のメディアに流していた「政府軍による虐殺」は作り話だということが明らかになる。その後、「政府軍が化学兵器を使用した」と「西側」は叫び始めるのだが、この嘘もすぐに露見し、容疑者としてサウジアラビアやトルコが名指しされる状況になってしまった。(こうした話は本ブログで何度も書いたので、今回は割愛する。) ウクライナでアメリカ政府がネオ・ナチを使ったことは明白で、「西側」のプロパガンダ機関であるBBCでさえ、この問題を取り上げていた。そのネオ・ナチがオデッサで連邦制を支持する住民を5月2日に虐殺する。50名弱が殺されたと伝えられているが、120名から130名が殺されたと住民は主張、300名という数字も流れている。 当初、全員が焼き殺されたと言われていたのだが、焼け跡の調査で死者の一部は火が出る前に射殺されるなど別の原因で殺され、遺体が動かされていることが判明、レイプされている疑いのある遺体も発見された。しかも、多くの住民は地下室で虐殺され、死体は運び去られたという話も出てきた。外へ逃げ出した人は、ネオ・ナチのメンバーが銃撃したり撲殺している。こうした情報を「西側」のメディアは隠そうとしたが、インターネットやロシアのメディアに暴かれてしまったのだ。 ウクライナでは「内部告発」が相次いでいるのだが、オデッサの出来事でも内部からと言う情報が流れている。内容が具体的で整合性があり、無視はできない。 それによると、虐殺の10日前にキエフで秘密会議が開かれている。議長は大統領代行を名乗るアレクサンドル・トゥルチノフ。参加者はオリガルヒのアルセン・アバコフ内相、CIAの傀儡だというバレンティン・ナリバイチェンコSBU長官、そしてキエフのクーデターで現場の指揮官を務め、アメリカの特殊部隊と連絡を取り合っているというアンドレイ・パルビー国家安全保障国防会議議長。そして、ドニエプロペトロフスク市のイホール・コロモイスキー市長がアドバイスしたという。 コロモイスキーはイスラエル系ウクライナ人で、暴力的な手法が得意なオリガルヒのひとり。ドニエプロペトロフスク市へ乗り込む際、アメリカの傭兵会社「アカデミ(旧社名はブラックウォーター)」から雇った戦闘員を引き連れていたと言われている。 また、ドイツのビルト紙日曜版は「アカデミ(旧社名はブラックウォーター)」の傭兵約400名がウクライナ東部の制圧作戦に参加、4月29日にドイツの情報機関BNDがアンゲラ・メルケル首相へこの情報を報告済みだという。制圧作戦に英語を話す戦闘員が参加していることは「ライフニュース」も伝えていた。 ウクライナのユダヤ系住民がファシストの流れを汲むクーデター政権を警戒していることも本ブログで書いたが、その政権はそのユダヤ系住民と連邦派を仲違いさせようとしている。 以前、ユダヤ人は登録するようにと書かれたリーフレットが配られたことがある。「西側」やクーデター政権は、これを連邦派によるものだと断定、「グロテスクだ」と批判したのだが、これはユダヤ系住民から偽物だと一蹴されてしまった。 今回は、連邦派のリーダーであるオレグ・ツァレフにコロモイスキーが電話、ウクライナのユダヤ人社会はツァレフを暗殺した人物に100万ドルを支払う準備があるとしたうえで、国外へ出るように命令したという。 しかし、ウクライナのユダヤ人社会のリーダー、イアン・イプスタインはコロモイスキーの発言を否定している。コロモイスキーは国際シオニスト運動には影響力を持っているが、ウクライナのユダヤ人を代表していないという。シオニストとユダヤ人は本質的に無関係で、むしろ利害は対立している。その事実が表面化しつつあるようにも思える。 ウクライナのクーデター政権でネオ・ナチが重要な役割を果たしていることが多くの人に知られたなら、クーデターが崩壊するだけでなく、西側支配層の足下も崩れる可能性がある。BBCなどはウクライナのネオ・ナチが信奉するステファン・バンデラとナチスとの関係を消し去ろうとしはじめた。この関係は本ブログでも書いたが、拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房、2005年)でも触れている。「西側」は情報戦で巻き返そうと必死だが、メチャクチャなことを言い始めており、相当、追い詰められているようだ。
2014.05.22
中国とベトナムの関係が悪化、5月16日と17日には中国軍がベトナムとの国境近くへ部隊を派遣、軍事的な緊張も高まっている。そうした事態に立ち至った原因の根は領海問題とアメリカ支配層の中国封じ込め政策にあり、事態を深刻化させている一因はアメリカの巨大石油企業、エクソン・モービルの存在にある。 ベトナムはかつてアメリカと戦争をした国だが、2008年11月にTPPの交渉へ参加している。つまり、ウォール街の巨大資本に身売りした。TPPにおけるベトナムの役割は低賃金労働者を提供し続けることにあるとも言われている。 今回、緊張激化の引き金になったのは5月2日に中国の石油掘削装置「海洋石油981」が南シナ海のパラセル諸島、つまりベトナムと中国の海南島にはさまれた海域に持ち込まれたことにある。詳細は不明だが、この海域の領有権を中国、台湾、ベトナムが主張、そこでエクソンモービルは中国の警告を無視して掘削を強行、緊張を高めていた。 中国が石油掘削装置を持ち込む引き金はバラク・オバマ米大統領のアジア歴訪だとする人もいる。4月22日から29日にかけて日本、韓国、マレーシア、フィリピンを訪問しているのだが、これは中国封じ込めを念頭においてのことだという見方があるのだ。 5月14日にはベトナムのハティン省で中国や台湾の企業が集団に襲撃され、死傷者が出ているようだ。中国外務省は、中国人2名が死亡、約100名が負傷したと発表したが、現地の病院関係者は21名が死亡したとしていると伝えられている。 襲撃などで怪我をした中国人150名はチャーター機で帰国したほか、多くの中国系労働者が陸路、ベトナムから避難している。そのほか、中国政府が派遣した5隻の船で3000名以上が脱出したという。 ベトナムには中国に支配されてきた歴史があり、ベトナム人の中に反中国感情はあるのだが、海上での衝突後、地上で中国/台湾系の企業が襲撃された出来事の背後にアメリカ資本が存在している可能性は否定できない。 また、南シナ海は日本や韓国と同じように中国にとっても中東から石油や天然ガスを運ぶ重要なルート。アメリカは南シナ海で中国へのエネルギー源輸送を断つことができるようにしている。アメリカの「同盟国」だという日本の「シーレーン防衛」も、中国への石油/天然ガス輸送をブロックすることをひとつの目的にしているはずだ。 当然、中国もアメリカの戦略を意識、ミャンマーやパキスタンにパイプラインを建設しようとしてきた。そうした動きを潰すため、アメリカはミャンマーとの関係改善を図り、2011年3月に「民主化」する。 新体制は中国との関係を弱める政策を推進、石油/天然ガスのパイプライン建設や銅山開発が問題になり、北部カチン州のイラワジ川上流で中国と共同で建設していた「ミッソン・ダム」の工事を中断すると2011年9月に発表された。 ダム建設の中断ではNGOが大きな役割を果たしている。そうした団体のスポンサーとして名前が挙がっているのは、アメリカのフォード財団、タイズ基金、イギリスのシグリド・ラウシング・トラスト、あるいは世界規模で「体制転覆」を仕掛けてきたジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ基金など。そのほか、CIAの別働隊とも言われるNED(ナショナル民主主義基金)の資金も流れ込んでいるようだ。 西部地域にあるヤカイン州では仏教徒がイスラム教徒を襲撃、一説によるとを1カ月だけで650名が殺され、1200名が行方不明になったという。この襲撃も中国の影響を弱めることにあったとされている。 アメリカの世界制覇戦略は、ロシア、中国、イランのような服わぬ国々を包囲、海洋へ出られないようにして締め上げるというもの。ネオコン(親イスラエル派)がウクライナを重要視している一因はそこにある。ネオ・ナチを使ってクーデターを実行し、クリミアのロシア軍基地を潰そうとしていたのだが、独立を宣言され、ロシアの影響下へ入ってしまった。港湾都市のオデッサにネオ・ナチの部隊を派遣、住民を虐殺したのも、ここをロシアへ渡すことは絶対にできないということがある。 ロシア東部では日本の役割が大きくなる。1983年1月、首相就任の直後に訪米した中曽根康弘はソ連を露骨に敵視、「不沈空母」(正確には「大きな航空母艦」だというが、本質的な違いはない)や「四海峡封鎖」というフレーズを口にした。日本が盾になり、ロシア海軍を太平洋へ出さないという宣言だが、そうなるとロシアは日本を総攻撃することになり、原発も破壊されて日本は全滅、その影響はアメリカにもおよぶ。 西太平洋にアメリカ軍は日本のほか、韓国、フィリピン、グアムに配備されているが、そのほか南シナ海を囲むように拠点を作ろうとしている。シンガポールへ駐留する計画があり、オーストラリアのダーウィンへの配備が求められ、パースでも協議されている。 ヨーロッパではEUの幹部がアメリカ/ネオコンに同調してウクライナを混乱させ、火と血の海にして内戦の危機に襲われている。必然的にロシアは東へシフト、BRICの仲間である中国やインド、そしてイランとの関係を強めようとしている。一時期は日本との関係も改善しようとしていたが、アメリカの圧力で日本は反ロシアへ方針を転換した。 そうした中、5月20日にウラジーミル・プーチン露大統領は中国を訪問、同じ日にロシアと中国は軍事演習「海上協力-2014」を東シナ海で始めている。アル・カイダと手を組んでリビアの体制をアメリカ/NATOが転覆させた頃までロシアは話し合いで解決しようとしていたが、「西側」は話の通じない相手だということがわかり、シリアからは強い姿勢に出ている。そうした様子を見ていた中国はアメリカへの期待がしぼんだようで、ロシアへ接近している。 1980年代に中国は新自由主義を採用、少なからぬ若者がアメリカへ留学、政府の中でも若手は親米的だったのだが、雰囲気は変わってきたようだ。ネオコンなどは軍事力でロシア、中国、イランなど「潜在的ライバル」を屈服させ、世界の覇者になるつもりのようだが、足下が崩れ始めている。今後、中国がロシアに同調してドル離れするかどうかが注目されている。
2014.05.20
集団的自衛権とはアメリカの戦争に加わることを意味する。そのアメリカがEUを支配し、戦争を遂行する組織としているNATO。この軍事同盟をアメリカは現在、世界展開しようとしている。つまり、日本は拡大版NATOに組み込まれる。日本国憲法は交戦権を認めず、自衛隊に裁判権はない。そこで軍隊としては不完全なのだが、憲法など意に介していないのが安倍晋三政権である。 アメリカの支配層がNATOを拡大している目的は、「唯一の超大国」としてアメリカが全世界を支配する「新秩序」を建設することにある。そのアメリカを「オリガルヒ」として支配しようとしているのが「国境なき巨大資本」であり、巨大資本が全世界を支配する仕組みが作られようとしている。その作業に日本も参加するということだ。アメリカ資本の思い通りにならないロシア、中国、イランを封じ込め、窒息させるのが基本戦略だが、一気に軍事侵攻で破壊しようという動きも見せている。 強硬路線の中心にはネオコン(親イスラエル派)がいるのだが、そうした方向へ進もうとする大きな原因はアメリカの経済的な衰退が著しいことにある。現在、アメリカを中心とする支配システムは経済的にBRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)やSCO(上海協力機構、または上海合作組織/中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン)に押されている。 SCOにはインド、イラン、パキスタン、モンゴルがオブザーバーとして参加、関係を強めているほか、ラテン・アメリカのベネズエラなどアメリカ資本からの独立を目指している国々とも友好的な関係を築いてきた。アメリカなど「西側」はリビアを破壊し、自立を目指していたアフリカを再支配しようとしているが、このまま再植民地化できるかどうかは不明だ。 日本が拡大版NATOに加わるということは、グラディオのような「秘密部隊」を組織する可能性が高いということでもある。その下には暴力グループが編成される。アメリカはシチリアを支配するためにマフィアを使い、イタリアを含むNATO各国では「右翼」を暴力装置として保護してきた。ウクライナのネオ・ナチにもそうしたグループが含まれている可能性が高い。(これは本ブログでも何度か書いている。) 日本でも似たようなことが試みられている。日本が降伏してから6年後、朝鮮戦争が勃発した翌年にあたる1951年に当時の法務総裁(後の法務大臣)、木村篤太郎が左翼/労働運動を押さえ込むことを目的に、「反共抜刀隊」という構想を打ち出して博徒やテキ屋を組織化していったのである。この構想は挫折してしまうが、広域暴力団、いわゆる「ヤクザ」を生み出すことになった。日本の「右翼」が暴力団とつながっている理由のひとつはここにある。 その当時、支配層が最も恐れたのは物流が止まること。海運の比重が圧倒的に大きかったため、港でストライキが起こって物資の流れが滞ることをどうしても防ぎたかった。そして1952年に「港湾荷役協議会」が創設され、会長に就任したのが山口組の田岡一雄組長だ。その後、山口組が神戸港の荷役を管理することになる。東の重要港、横浜港を担当することになったのが藤木企業の藤木幸太郎だ。 後に広域暴力団と警察の関係は深まり、溝口敦によると、「山口組最高幹部」は「関東勢は警察と深いらしいですわ」と前置きしたうえで、「警視庁の十七階に何があるか知らしまへんけど、よく行くいうてました。月に一回くらいは刑事部長や四課長と会うようなこと大っぴらにいいますな」と語ったという。(溝口敦著『ドキュメント 五代目山口組』三一書房、1990年) アンダーグラウンドの世界の秩序を維持するために警察が広域暴力団を利用してきたことも否定できない。この本を出した後、溝口は襲われて負傷する。ある暴力団関係者によると、溝口は暴力団を取材していながら、暴力団から金を受け取らないジャーナリスト。信用できると言っていた。 1980年代になると暴力団の世界も変化、経済活動が重視されるようになり、「指を詰める」というようなことは流行らなくなる。マスコミにも「企業舎弟」という名称が登場するようになった。 おそらく、巨大企業と暴力団との関係を近づけた一因は「地上げ」にある。巨大企業では「財テク」がはやり、銀行も生産活動から投機へ融資をシフトしていった時代で、欧米企業の日本進出でオフィスが不足するということが語られていたが、不動産投機としての側面があった。 地上げでは居住者を追い出すという作業が必要になるが、短期間で買い上げようとすれば暴力的な手法を使うことになる。手を汚さずに儲けたい大企業は暴力団、あるいはそれに準ずるグループを使うことなる。資金は事情を知っている銀行が出す。いわば「カネ儲けの三角関係」だ。この仕組みを伊丹十三は自身が監督した映画「マルサの女2」(1988年公開)に取り入れている。 その後、伊丹は暴力団に揺すられるホテルを舞台にした映画「ミンボーの女」を監督、1992年5月16日に公開されたが、その6日後に山口組系後藤組の組員に襲撃されて負傷した。 日本の犯罪集団は昔から芸能の世界と関係が深いが、それだけでなく、ベンチャー・キャピタルの分野に進出しているようだ。正体を隠して成長を見込める新興企業などへ投資、「表世界」を浸食しているという。東電福島第一原発事故の処理に絡んでさらに暴力団と大企業の癒着が進んだとも言われている。「裏」と「表」が渾然一体となってきている。今後、拡大版NATOに日本が組み込まれたなら、こうした暴力集団が「秘密部隊」の実働部隊を提供することになる可能性が高いだろう。
2014.05.19
小学館が発行している週刊ビッグコミックスピリッツ誌に「美味しんぼ」という漫画が連載されてきた。その中で東電福島第一原発の事故による影響が取り上げられたのだが、その内容が気に入らないとして環境省、福島県、福島市、双葉町、大阪府、大阪市などが抗議、福島大学も教職員を威圧するような「見解」を出した。それに対し、小学館は「編集部の見解」を掲載、この作品は次号から休載するのだという。 伝えられているところによると、5月1日に編集部が12日発売号に掲載される「美味しんぼ」のゲラを環境省へメールで送り、環境省は7日深夜に回答したという。鼻血に関する見解を質問するだけでなく、作品の全ページをメールに添付したという。「検閲」を求めたと言われても仕方がない。 その7日に双葉町が小学館へ抗議文を送り、9日には石原伸晃環境相が記者会見で「風評被害を呼ぶことがあれば、あってはならないこと」と述べ、同じ日に福島県が「容認できない」と出版社に抗議し、県のホームページに掲載、福島県の佐藤雄平知事は13日の記者会見で「全体の印象として風評を助長する内容になっており、誠に残念で極めて遺憾だ」と発言、福島市の小林香市長は作中に登場する福島大学准教授の発言を「全く理解に苦しむ」と批判、福島大学ではその准教授の発言に関し、「大学人の立場をよく理解して発言するよう教職員に注意喚起する」という見解を出している。そして「美味しんぼ」は「休載」されることになった。 鼻血がよく出る、あるいは口内炎が同時にいくつもできるといった話は事故後、間もない頃から言われていた。アメリカの原子力技術者、アーニー・ガンダーセンも事故から3カ月ほどした段階でこの問題に触れ、鼻血や下痢などの症状が出ているという報道を気にしている。(PDF) 通常、放射線はガンマー線を測定しているのだが、アルファ線とベータ線という放射性線もあり、それらを出す物質は「ホット・パーティクル」と呼ばれている。これらが体内に取り込まれると深刻な影響を及ぼす。福島第一原発から放出されたホット・パーティクルは東京でも発見されていたが、最近では北アメリカ、そしてヨーロッパでも見つかっているようだ。 放射線の影響は疫学的に調べるしかないのだが、ガンダーセンは事故の翌年に出された著作の中で次ぎのように書いている: その影響は「甲状腺がんだけでなく、まずは甲状腺の異常が現れるでしょう。ホルモンの分泌が多すぎたり少なすぎたりするのです。最初の2〜3年、主に若い人に起きると考えられます。次に肺がんが、最低でも20〜30パーセント増えるだろうと思います。5年後には心臓疾患で、やはり若ければ若いほど細胞が速く分裂しているため被害を受けやすいはずです。その後は各臓器のがんです。チェルノブイリでは膀胱がんの増加が指摘されていますが、すべての臓器に可能性があります。さらに、血液のがんが考えられます。」(アーニー・ガンダーセン著、岡崎玲子訳『福島第一原発----真相と展望』集英社新書、2012年) 事故直後、原発の風下にいて放射性物質を浴びたアメリカ海軍の空母ロナルド・レーガンに乗船していた水兵たちが東京電力を相手に集団訴訟を起こしている。東電は事故で破壊された原子炉から放出された放射性物質に関する正しい情報をアメリカ政府に提供せず、結果として乗組員が深刻な被曝を強いられたとしている。元乗組員によると、被曝後に甲状腺癌、睾丸癌、白血病、脳腫瘍といった症状が出ている。 訴訟を担当しているポール・ガーナー弁護士が昨年1月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に語ったところによると、原告のひとりになっている女性乗組員の父親が娘の体調が悪いと言って訪ねてきたのが始まりだという。 調査していくと、ほかの乗組員の中にも具合の悪い人がいることが分かり、腸からの出血や鼻血、甲状腺に問題が生じた人も複数いて、中には胆嚢の摘出手術をした女性もいたという。その全員が20代の若者で、いずれも以前は健康だった。 鼻血はチェルノブイリでも報告されている症状で、福島の事故から5カ月後の段階で千葉県にある船橋二和病院の柳沢裕子医師は鼻血と激しい下痢、インフルエンザのような症状が子どもに増えているとアル・ジャジーラ紙に語っている。そのほかの地域でも似た現象が報告されている。福島県で大きな問題にならない理由は、「美味しんぼ」の問題で福島大学がとった行動が暗示している。 漫画にも登場する双葉町の井戸川克隆元町長は鼻血の話をしているだけではない。町長時代に心臓発作で死んだ多くの人を知っていると外国メディアの取材で語っているのだ。福島には急死する人が沢山いて、その中には若い人も含まれているとも主張、東電の従業員も死んでいるとしている。元町長の話以外にも、相当数の作業員が死亡したという未確認情報はある。 要するに、「美味しんぼ」の作者は慎重に表現している。原発が事故を起こした後も小学館の週刊誌は政府や電力会社の側につき、「安全神話」の宣伝を続けていた。つまり、会社の経営者や編集幹部は原発推進派だということだ。今回の一件は「出来レース」だったのではないか、という疑問が消えない。
2014.05.18
右派セクターのメンバーだとみられる約20名の武装した集団がウクライナ南東部にあるザポロージェ原発への侵入を試み、警官に取り押さえられて拘束されたという。この地域を反クーデター派に押さえられることを恐れたと言っているようだが、右派セクターの本部は原発侵入に無関係だとしている。 右派セクターはネオ・ナチ。EUでもウクライナのネオ・ナチに対する批判が出てきたこともあり、アメリカ政府は右派セクターと接触していないと強調しているようだが、このグループを率いているドミトロ・ヤロシュは国防省や軍を統括する「国家安全保障国防会議」の副議長。クーデター政権の軍事部門ではアンドレイ・パルビーに次ぐ位置にいる。クーデター政権の中に右派セクターも深く食い込んでいる。 このヤロシュと一緒に右派セクターを率いていたのが、チェチェンでロシア軍と戦い、その残虐さで有名になったアレキサンダー・ムージチコ(別名サーシャ・ビリー)。この人物は3月24日、ソコル(特殊機動警察)に射殺されている。ウクライナ議会のアレキサンダー・ドニ議員によると、ムージチコの乗った自動車が2台の自動車に止められ、後ろ手に手錠されて心臓へ2発の銃弾を撃ち込まれたのだという。ソコルと言えば、その制服を着た約150名の傭兵が活動しているとロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は語っていた。 ムージチコは自分が命を狙われていることに気づいていたようで、その辺の事情を説明する映像を残し、10日前にYouTubeへアップロードしている。公然と暴力を振るうために処分されたという見方もあるが、原子力発電が関係しているという情報もある。 ウクライナの原発は非常に危険な状態にある。経済状況の問題もあるが、より深刻なのは燃料。体制を「西側」が「オレンジ革命」で転覆させた後、原発の燃料をアメリカのウエスチングハウス製に変更したのだ。 言うまでもなく、アメリカとロシアでは原発の仕組みが違う。当然のことながら燃料も原発に合わせて違わなければならないのだが、そうした違いを無視するという無謀なことをしているわけだ。2年前には事故寸前という事態になったともされている。 それだけでなく、暫定政権は秘密裏に「西側」と協定を結び、EU加盟国の放射性廃棄物をウクライナに貯蔵するつもりだとも言われている。この秘密協定を知ったムージチコは暫定政権を脅そうと計画、それを察知したアバコフ内相は彼を殺させたという見方(原文)もある。右派セクター、あるいはムージチコの部下はウクライナの原発に関する秘密で「西側」を脅そうとしているのかもしれない。もっとも、原発を破壊すると言うだけでも脅しになるが。
2014.05.18
ウクライナの東部と南部では住民投票を経て独立の意思が明確になり、反クーデター派は5月15日、キエフのクーデター政権に対し、派遣した部隊を24時間以内に撤退させるように通告した。「国境なき巨大資本」から東部の制圧を命令されている以上、キエフの暫定政権が制圧軍を引き揚げることはできない。そうしたことを承知の上で行った意思表明だろう。 クーデター軍は「西側」から支援を受け、ウクライナ軍が保有していた大半の装備を使える状況にあるわけで、本来なら軍事力は反クーデター派を圧倒しているはず。住民の半数程度から支持されていればクーデター軍は容易に制圧できるはずだが、実際はそうなっていない。 既存の軍、情報機関、治安組織などの内部にクーデターを認めず、離反する者がいるうえ、東部や南部では住民の大半がキエフの政権を認めていない。反クーデター派が組織した自衛軍には離反者や退役軍人が参加しているようだが、現地から伝えられている映像を見ると、住民の強い意思が大きな意味を持っている。 こうした場合、アメリカの支配層は「恐怖(テロ)」を利用して押さえ込もうとしてきた。ラテン・アメリカの軍事クーデターでは「死の部隊」を編成、ベトナム戦争では反米的と見なされた村を襲って皆殺しにしたり都市部で爆弾攻撃を行う「フェニックス・プログラム」、イタリアでは左翼を潰すため、「NATOの秘密部隊」に属すグラディオが「極左」を装って爆弾攻撃を繰り返している。 本ブログでも書いたように、ウクライナではオデッサで住民が血祭りに上げられた。非武装の反クーデター派住民を襲撃、虐殺したのである。メディアでは50名近くが殺されたとされているが、住民側によると、実際は120名から130名が殺されたという。300名という数字も流れている。数十名は秘密裏に埋められたというのだ。 虐殺までの流れは次のようになっていると見られている: アレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行、アルセン・アバコフ内相、バレンティン・ナリバイチェンコSBU長官、アンドレイ・パルビー国家安全保障国防会議議長が秘密会談を開催、その席上、アバコフ内相がサッカーのフーリガンを利用するという案を出し、採用された。事件の数日前、パルビーは数十着の防弾チョッキをオデッサのネオ・ナチへ運んでいる。 当日の午前8時、フーリガンやネオ・ナチを乗せた列車が到着、赤いテープを腕に巻いた一団の挑発に乗る形でフーリガンやネオ・ナチは反クーデター派がテントを張る広場へ誘導され、近くの労働組合会館へ逃げ込んだ人びとを虐殺、火炎瓶を投げ込まれた建物は炎上する。警官隊の一部も赤いテープを巻いていた。その一団はUNA-UNSOだとも言われているが、この組織は「NATOの秘密部隊」ではないかと疑われている。(グラディオについては拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』で触れている。) つまり、ウクライナではアメリカ/NATOに支援された「オリガルヒ」やネオ・ナチが選挙で成立した政権をクーデター、つまり憲法を無視して違法な手段で破壊し、自分たちに反対する人びとを既存の軍や治安機関だけでなく、ネオ・ナチ、そしてアメリカの傭兵会社から派遣された戦闘員(実態は特殊部隊員)を動員して制圧しようとしている。その過程で非武装の住民を虐殺しているわけである。 そうした実態を知りながら報道しないのが「西側」のメディアであり、日本の「リベラル派」や「革新勢力」も知らん振りしている。クーデターの実態を見ず、「抗議行動に参加している市民の大半は、ウクライナ大統領選の不正に対するオレンジ革命と同じく、無党派の、民主主義を求める人々である。」と言い切り、結果としてファシストに声援を送っている人もいる。 歴史捏造、改憲、集団的自衛権などで暴走する安倍晋三政権を批判する際、日本の「リベラル派」や「革新勢力」はアメリカという「権威」を持ち出している。その「権威」はウクライナでも民主主義を破壊しているわけだが、気にしていないようだ。彼らも安倍政権と同じように、アメリカ政府を「水戸黄門の印籠」のように使っている。 作家の高見順は『敗戦日記』の中で、日本人は「権力を持たせられないと、小羊の如く従順、卑屈」と書いているが、安倍一派と同じように、「リベラル派」や「革新勢力」もそうした日本人だということだろう。
2014.05.17
アメリカ財務省証券の保有状況に変化が見られ、話題になっている。今年3月の保有額を昨年3月の金額を比較すると:中国(本土)1兆2721億ドル(+18億ドル)、日本 1兆2002億ドル(+859億ドル)、ベルギー3814億ドル(+1930億ドル)、ロシア1004億ドル(–526億ドル) ドル離れを進めているロシアが大幅に減らす一方、日本はそれを上回る額を買い増していることがわかる。その日本を遙かに上回る額をベルギーが買っている。ロシアは2月から3月の1カ月だけで258億ドル減らした。 日本では安倍晋三政権が「量的・質的金融緩和」を推進、そのひとつの結果だろうが、ベルギーはどこから資金を捻出したのかが議論されている。第3国が証券保険機関を通じて買い、ベルギーは名義だけだとも言われている。実際の買い手はアメリカの連邦準備銀行ではないかと疑う人もいる。 また、今年5月になり、ロンドンで行われている銀の値決めが停止されるという話が流れた。4月末にドイツ銀行が値決めへの参加を取りやめる方針を示し、5月14日にロンドン・シルバー・マーケット・フィキシングは、8月14日に値決めを停止することを明らかにしたのである。それまでの3カ月間はドイツ銀行、イギリスのHSBCホールディングス(香港上海銀行の後身)、カナダのノバスコシア銀行がイギリスのFCA(金融行動監視機構)と連携して業務は続けるという。 ドイツは金の保有でも動きを見せている。他の国と同じようにドイツも保有する金塊をアメリカのニューヨーク連銀やケンタッキー州フォート・ノックスにある財務省管理の保管所に預けていたが、自国へ引き揚げようとしているのだ。 ドイツが預けている金塊は1500トン。それを引き揚げようとしたところ、連銀は拒否する。交渉の結果、そのうち300トンを2020年までにドイツへ引き揚げることにしたのだという。フランスからの金塊を含めると674トン。これを8年間で引き揚げるわけで、1年あたり84トン強ということになる。 ところが、その最初の年、2013年にアメリカは5トンしか返還しなかった。フランスは32トンを返している。そこで、アメリカに預けていた金塊は消えたという疑いが強まったのである。 「国境なき巨大資本」がネオ・ナチを使ってクーデターを起こしたウクライナでも金塊が運び出されている。3月7日の午前2時、ポリスポリ空港に4輌のトラックと2輌の貨物用のミニバスが現れ、そこから40個以上の箱をマークのない航空機へ運び込まれたというのだ。アメリカへ持ち去られたのだろうが、それからどうなったのかは不明である。 以前から金や銀の取り引きを含む投機市場で相場操縦が行われているとは言われていたのだが、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の不正操作が発覚してから表でも語られるようになり、規制当局は金と銀の値決めについても調査を進めていた。その調査で何らかの大きな問題が出てきた可能性がある。そうした中、JPモルガンは商品現物取引から撤退し、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスは商品部門の売却や縮小を検討しているという。 相場操縦では、NSAの内部告発者、エドワード・スノーデンが働いていたブーズ・アレン・ハミルトンが関わっているとも噂されていたが、NSAが相場を動かしてきたとも言われている。基軸通貨(ドル)を印刷し、相場を動かすことでアメリカは支配システムを維持してきたというわけだ。 そうしたカラクリを多くの人が知るようになると、アメリカを中心とした経済システムへの信頼度が大きく低下し、支配体制も崩壊する可能性がある。そうなる前に軍事力でロシアや中国など服わない国々を制圧するつもりで、日本にも「集団的自衛権」を要求しているのかもしれないが、今のところ、思惑通りには進んでいないようだ。
2014.05.16
いわゆる「集団的自衛権」で日本が組む相手はアメリカだろうが、この国は先住民を殲滅し、他国を侵略してきた歴史を持つ。1933年3月から45年4月にかけての間は反ファシズムや反植民地を主張するフランクリン・ルーズベルト政権が存在したものの、例外的な存在。キューバへの軍事侵攻やベトナムからの撤退を主張、ソ連との平和共存を訴えていたジョン・F・ケネディ大統領は暗殺され、短期間で終わった。 21世紀に入ってからの行動を振り返ってもアメリカは侵略を繰り返している。その名目に使われたのが「民主化」や「人道」だが、その実態は民主主義の破壊であり、人権の否定である。 そうした現実を誤魔化すために支配層は偽情報を流しているのだが、被支配層も嘘だとわかっているだろう。強者に刃向かえば傷つき、勝つ見込みはほとんどなく、騙された振りをしていた方が「利口」というものだ、と考える人が日本では圧倒的に多い。 21世紀に侵略は2001年9月11日の航空機によるニューヨークの超高層ビル突入やペンタゴン(国防総省本部庁舎)への攻撃が引き金になっている。その「テロ」に対する報復ということなのだが、アフガニスタンもイラクもその攻撃には関係なかった。 事件直後、オサマ・ビン・ラディンが率いるアル・カイダが実行したとジョージ・W・ブッシュ政権は宣伝していたが、その主張に疑問点が多く、ビン・ラディンをFBIは指名手配していない。 フランスのル・フィガロ紙によると、2001年7月にビン・ラディンは腎臓病を治療するため、アラブ首長国連邦ドバイの病院に入院していた。その入院患者を見舞うために家族のほか、サウジアラビアやアラブ首長国連邦の著名人が訪れているのだが、それだけでなく、CIAのエージェントも目撃されている。そして2001年12月26日、エジプトのアル・ワフド紙はオサマ・ビン・ラディンの死亡を伝えている。その10日前、肺の病気が原因で死亡し、トラ・ボラで埋葬されたというのだ。 アメリカ政府はイラクが今にもアメリカを核攻撃するかのように主張していたが、これも荒唐無稽な話。つまり、イラクへの攻撃は「自衛」のために行ったわけでなく、侵略戦争にほかならなかった。この侵略戦争に日本の政府やマスコミは賛成、開戦の障害になりそうな人びとを激しく非難していた。 こうした連中が言う「集団的自衛」は「侵略」と同義語。軍事侵攻し、反撃されたなら侵略を始めた国を支援することになる。この問題を議論する前に、イラク侵略に賛成したことをどう考え、どのように責任をとるのかを表明する義務が政治家、官僚、学者、編集者、記者といった人びとにはある。世界各地に存在するアメリカ軍基地を攻撃する能力のある国をアメリカが攻撃したなら、日本は侵略の片棒を担ぐことになる。 イラク後、アメリカはリビアやシリアの体制を転覆させるために軍事介入している。いずれもアル・カイダを手駒として使い、リビアではNATO軍が空爆を実施、特殊部隊が潜入していたとも言われている。その際にも嘘をまき散らしていた。つまりメディアも戦争に協力していた。 ウクライナに対しても似たようがことを行っている。この国を乗っ取るため、1991年からアメリカ政府は50億ドルを投入、「オレンジ革命」も成功させ、一部の人間は不公正な手段で巨万の富を築いた。そのひとりが投機家ジョージ・ソロスの影響下にあったユリア・ティモシェンコ。国家安全保障国防会議のネストル・シュフリチ元副議長と電話で話した際、ロシア人を殺すと繰り返していた元首相だ。有力な次期大統領の候補だという。 アメリカに支援されたキエフのクーデター政権は東部や南部で制圧作戦を展開しているが、住民の強い抵抗にあっている。そうした中、オデッサでは5月2日に反クーデター派の住民が虐殺されている。50名弱が殺されたと伝えられているが、反クーデター派は120名から130名が殺されたと主張、300名という数字も流れている。 事件後の調査によると、オデッサでの虐殺は10日前にキエフで開かれた会議で始まるという。 議長は大統領代行を名乗るアレクサンドル・トゥルチノフ。そのほか、オリガルヒのアルセン・アバコフ内相、CIAの傀儡だというバレンティン・ナリバイチェンコSBU長官、そしてキエフのクーデターで現場の指揮官を務め、アメリカの特殊部隊と連絡を取り合っているというアンドレイ・パルビー国家安全保障国防会議議長。サッカーのフーリガンを利用するという案をだしたのはアバコフ内相だったという。また、オブザーバーとしてドニエプロペトロフスク市のイゴール・コロモイスキー市長も意見を求められたという。アメリカの傭兵を引き連れて乗り込んだという市長だ。 事件の数日前になるとパルビーは数十着の防弾チョッキをオデッサのネオ・ナチへ運んでいる。その装具を受け取ったミコラ・ボルコフは虐殺の当日、労働組合会館へ向かって銃を発射、状況をキエフの何者かに報告する様子が映像に残っている。 当日、午前8時に「サッカー・ファン」を乗せた列車が到着し、虐殺の幕が開く。フーリガンやネオ・ナチを誘導し、住民を虐殺する状況を作り上げる上で重要な役割を果たした集団は赤いテープを腕に巻いていたのだが、その集団は「NATOの秘密部隊」ではないかと疑われているUNA-UNSOだという。 ウクライナでアメリカはネオ・ナチを使っているが、その前、中東や北アフリカではアル・カイダを利用して体制転覆を図った。いずれも1990年代の初頭、約20年をかけてのプロジェクトだ。リビアではNATOという形で直接的に軍事力を行使、シリアやウクライナでも軍事侵攻を姿勢を見せている。 1991年にソ連が消滅すると、ネオコンなどアメリカ支配層の中には自国が「唯一の超大国」になったと思い込み、世界制覇のビジョンを描いた。そのときから服わぬ国々を制圧する計画を立てている。これは本ブログで何度も書いてきた。ユーゴスラビアもアフガニスタンもイラクもリビアもシリアもスーダンもウクライナもアメリカの侵略戦争にほかならない。 こうした侵略戦争をアメリカは「民主化」や「人道」といったフレーズで飾っているのだが、これに騙される、あるいは騙された振りをするような人たちが「集団的自衛権」という名目で行われる侵略を止めることは不可能である。止めようともしないだろう。
2014.05.15
キエフのクーデター政権はドネツク州クラマトルスクでの掃討作戦に国連のロゴをつけた戦闘ヘリMil Mi-24を投入、問題になっている。コンゴでの平和維持活動にウクライナが提供したヘリコプターを、ロゴを消さずに使ったようだ。この件でクーデター政権は国連側と話し合っているという。勿論、「消し忘れ」ではなく、国連がクーデター政権側についていると思わせる一種の心理戦のつもりなのだろう。 ウクライナの東部や南部では住民の大多数から拒否されているクーデター政権。「国境なき巨大資本」を後ろ盾とする「オリガルヒ」、そしてNATOの軍事訓練を受けてきたネオ・ナチを柱としている。強欲と残虐が特徴だ。掃討作戦では非武装の住民を射殺、人心はますます離反、地元の警察もキエフには従っていないという話が伝わっている。 5月2日、オデッサでは反クーデター派の住民が虐殺された。「西側」のメディアは暫定政権を支持するグループと反対するグループの衝突が切っ掛けであったかのように伝えているが、現場で撮影された映像や虐殺現場の調査から報道が事実に反していることが明らかになってきた。 第2次世界大戦でナチスの住民が虐殺されたこともあり、ファシストを拒否する感情が特に強いオデッサでは「西側」に支援されたキエフの政権に対する反発は強く、緊張が高まっていたのだが、そうした中、サッカーの試合が強行され、「ファン」としてネオ・ナチの一団が集まった。 オデッサでも警察の幹部はクーデター派になっているが、その幹部から何らかの指示を受けている一団が撮影されている。反クーデター派のように装っているが、腕に赤いテープを巻き付けているのが目につく。同じように赤いテープを腕に巻き付けた防具を着けた警官も確認できる。指示をしていた警察幹部のひとりは内務省オデッサ支局のドミトリー・フチェジだとされている。 赤いテープの一団は「ファン」に投石したり銃撃して挑発、警官隊が壁を作る路地に逃げ込み、警官隊の後ろから投石や銃撃を続けた。こうした行為を警官隊は止めようとしていない。 興奮したネオ・ナチは反クーデター派がテントを張っている広場へ向かって人びとに暴行、テントを焼いている。女性や子どもは近くの労働組合会館へ逃げ込むのだが、ネオ・ナチは後に続き、棍棒で殴り、首を絞め、銃を発射して殺害している。外ではネオ・ナチが窓に向かって火炎瓶を投げつけ、内部に火がつく。外へ何とか逃げ出した人を棍棒で殴りつけている様子もインターネット上で流れている。その間、警官隊は傍観していた。会館の屋上に赤いテープを腕に巻いた人物がいることから、屋上へ逃げるためのドアに鍵をかけていた可能性があり、消防車が到着するまでに20分を要しているという証言も伝えられている。焼け跡の調査で、死者の一部は火が出る前に射殺されるなど別の原因で殺され、遺体が動かされていることが判明、レイプされている疑いのある遺体も発見された。50名弱が殺されたと伝えられているが、反クーデター派は100名以上が殺されたと主張、300名という数字も流れている。 虐殺の最中に動かなかった警察はその後、生き残った反クーデター派の住民67名を逮捕する。これに怒った1000人以上の人びとが警察署を封鎖して抗議、拘束されて住民は解放されたが、クーデター政権が送り込んできた新署長のイワン・カテリンチュクは釈放の決定を見直すと語っている。 クーデター政権は治安維持のため、ネオ・ナチを中心に編成された「国家警備隊(親衛隊)」の部隊を送り込むという。既存の軍や治安機関を掌握していないため、ネオ・ナチを使わざるをえないのだろう。右派セクターを使い、新たに約800人の準軍事組織「ドンバス」を創設するともいう。 また、ドイツのビルト紙日曜版によると、キエフにはアメリカ政府が送り込んだCIAやFBIの専門家数十名が顧問として駐在、アメリカの傭兵会社「アカデミ(旧社名はブラックウォーター)」の戦闘員約400名がウクライナ東部の制圧作戦に参加しているとも伝えられている。4月29日にドイツの情報機関BNDがアンゲラ・メルケル政権へこの情報は報告済みだという。 すでにアカデミ系列のグレイストーンの傭兵が数百人単位でウクライナへ入っていると言われているが、同じグループを指している可能性がある。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、約150名の傭兵がウクライナのソコル(特殊機動警察)の制服を着て活動していると主張している。 このソコルは3月25日、右派セクターを率いていたひとりだったアレキサンダー・ムージチコ(別名サーシャ・ビリー)をアルセン・アバコフ内務大臣代行の命令で射殺したようだ。その後の右派セクターの動きを見ると、ネオ・ナチの総指揮者とも言えるアンドレイ・パルビー国家安全保障国防会議議長、あるいはムージチコと同じように右派セクターのリーダーだったドミトロ・ヤロシュ国家安全保障国防会議副議長も暗殺に合意していた可能性が高く、実行者はアメリカの傭兵だったかもしれない。 アメリカ/NATOはEUや国連の幹部をコントロール、「西側」のメディアも支配しているようだが、ウクライナの軍や治安機関を掌握しきれず、地元警察に造反され、住民の強い抵抗に遭っている。インターネットを通じて事実も漏れ出ている。ロシア軍を引きずり出してNATO軍を投入する環境を作りたいだろうが、そのためにさらなる虐殺を行うことになると泥沼。「西側」が空中分解する可能性が出てくる。助かる唯一の道は、ネオコンの戦略を捨て去ることだ。
2014.05.15
ウクライナで最大の天然ガス製造会社だというブリスマに新しい重役が登場した。名前はR・ハンター・バイデン。ジョー・バイデン米副大統領の息子だ。4月22日にバイデン副大統領はキエフを訪問、その直後からキエフのクーデター政権は東部や南部での掃討作戦を本格化させた。アメリカ政府の「ゴー・サイン」をキエフに伝えるのが副大統領の役割だったと推測する人もいる。 キエフの暫定政権は元々アメリカの「国境なき巨大資本」と結びついている一派。クーデターで実権を握ってロシアと決別したわけで、アルセニー・ヤツェニュク首相代行が主張する「ロシアからの支援を受けながらアメリカへ権益を提供する」というシナリオには無理がある。副大統領の息子を「用心棒」として雇い、アメリカ政府の力を利用したいのかもしれないが、無理があることに変わりはない。 ちなみに、ヤツェニュク首相代行はビクトリア・ヌランド国務次官補が高く評価した銀行界の人間で、「サイエントロジー」のメンバーだと言われている。この団体は映画俳優のトム・クルーズが信者だということで知られ、CIAとの関係も噂されている。 アメリカのエネルギー産業から見ると、ウクライナの天然ガスや石油資源は魅力的だ。シェブロンとウクライナ政府は昨年11月、ウクライナの西部で石油と天然ガスを開発することで合意している。昨年12月、ヌランド国務次官補が米国ウクライナ基金の大会で演説、ウクライナの体制をアメリカにとって都合良く作り替えるために1991年からアメリカ政府は50億ドルを投入してきたことを明らかにしたが、その際、彼女の背後にはシェブロンのマークが飾られていた。 アメリカ企業がウクライナで天然ガスや石油を採掘してロシアから自立させようという思惑もあるとされているが、今のところエネルギーはロシア頼み。フラッキングを使うのならば、アメリカと同じように環境汚染や健康被害が問題になるだろう。地震を誘発して原発に影響を及ぼさないとは言えない。 石油や天然ガスの供給を頼っているだけでなく、破綻した経済を支えてもらう必要があり、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領は昨年11月、天然ガス価格の30%値下げと150億ドルの支援というロシア政府の提案を受け入れたのである。しかも、ウクライナは石油や天然ガスの購入代金を支払わず、EU向けのものを盗んでいたようだ。 現在、ウクライナのロシアに対する未払い金は35億ドルに達しているという。ロシアにしてみると、ウクライナを引き留めておくための優遇措置だったわけで、ロシアとの友好関係を終わらせ、アメリカの影響下に入る姿勢を明確にしているキエフのクーデター政権にそうした措置を継続する理由はなく、ロシアのガスプロムは6月2日までに16億ドルを支払わなければ供給を止めると通告したようだ。そうなると、EUはエネルギー源の不足で深刻な事態になりかねない。 IMFから受ける融資の一部をロシアへの支払いへ充ているという話もあるが、融資の条件には東部地域の制圧がある。住民の圧倒的な多数から拒否されているクーデター政権としては力尽くで押さえ込むしかないのだろうが、非武装の住民を殺したことで反発はさらに強まっている。バイデン副大統領の息子を雇うのも露骨な話で、反発する住民は少なくないだろう。
2014.05.14
富の集中が問題になって久しい。「1%」対「99%」とも表現されているのだが、最近の研究によると、実際は「0.1%」対「99.9%」なのだという。「0.1%」の中でも、その上位10%、つまり全体の「0.01%」に富は集まっているようだ。その一方、アメリカでは2008年に就業人口が激減、今では全世帯の20%は家族全員が職を失った状態だという。 富を独占している人びとは消費や投資といった形で築いた財産を社会へ還元するわけではなく、投機市場へ投入し、カネにカネ儲けさせようとしている。要するに博打。相場に失敗して損をしたなら、「大きすぎて潰せない」ということで庶民にツケを回すことができ、蓄財の過程で不正があっても、「大きすぎて処罰できない」ということで許される。つまりイカサマ博打。これでカネ儲けできないはずはない。社会に貢献して報酬を得ているわけではなく、社会を破壊しているわけだ。 そうした仕組みの「理論」になっているのが新自由主義。シカゴ大学の教授だったミルトン・フリードマンが広めた一種の「経済宗教」で、論理の矛盾は「信じなさい」で誤魔化す。その軸は全てを市場が解決してくれるという教義だ。その「功績」により、フリードマンは1976年にノーベル経済学賞を授与されている。 フリードマンの先輩にあたる人物がフリードリッヒ・フォン・ハイエク。イギリスの首相になったマーガレット・サッチャーと親しい。ハイエクは1930年代にも投機/博打を推進するべきだと主張してジョン・メイナード・ケインズと衝突していた。当時、ハイエクに学んだ学生の中にはデイビッド・ロックフェラーも含まれていた。戦後、ハイエクも一時期、シカゴ大学で教えている。 富豪上位「0.1%」に富が集中し始めるのは1970年代の後半。その理由と考えられているのは、リチャード・ニクソン米大統領が1971年に発表した金とドルとの交換停止。通貨の固定相場制は崩壊して1973年には変動制へ移行、通貨が投機の対象になった。ドルを発行するアメリカは通貨を操作することができ、他国に比べて圧倒的に優位な位置に立った。今ではNSAを使い、様々な相場を操作していると言われている。ロシアや中国がドルを基軸通貨の地位から引きずり下ろしたなら、アメリカは一気に崩壊する可能性もある。 1970年代にはロンドン(シティ)を中心にしたオフショア市場のネットワークが整備され、資産を隠す仕組みができあがる。それまでもタックス・ヘイブンは存在していたのだが、新しいシステムは近代的で、資金の追跡が非常に難しい仕組みになっている。 そのネットワークは大英帝国の支配下にあった地域、例えばジャージー島、ガーンジー島、マン島、ケイマン諸島、バミューダ、英領バージン諸島、タークス・アンド・カイコス諸島、ジブラルタル、バハマ、香港、シンガポール、ドバイ、アイルランドなどで構成されている。 この仕組みによって富豪や巨大企業は資産を隠し、課税を回避することが容易になり、投機市場が肥大化していく。「カジノ経済」の時代に入ったとも言えるだろう。巨大資本は国家という軛から解放され、逆に国家を支配しようとしている。ボリス・エリツィン時代のロシアはそうした社会で、「オリガルヒ」と呼ばれる侵攻の富豪が出現している。 このオリガルヒの力を押さえ込み、政府を中心とした政治を復活させたのがウラジミール・プーチンである。プーチンと対立したオリガルヒのひとりがボリス・ベレゾフスキー(後にプラトン・エレーニンへ改名)。2004年から05年にウクライナを新自由主義化した「オレンジ革命」にカネを出していたひとりだ。 そのウクライナで新自由主義派の政策は破綻、アメリカの巨大資本やネオコン(親イスラエル派)はウクライナの略奪を本格化しようとしていたのだが、そこでプーチンの逆襲が始まっていた。そして今回のクーデターだ。クーデターの実行部隊としてネオ・ナチを「西側」は育ててきたが、東部や南部の住民はファシストに負けていない。 ウクライナの闘いは「0.01%」との闘い方を示している。
2014.05.13
ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州で行われた住民投票で「独立」を支持する住民が圧倒的多数を占めたようだ。民意が形になることを嫌い、住民投票を批判してきた「西側」の政府やメディアの中には、オブザーバーがおらず、投票用紙もコピー機で印刷したもので、「正当性には疑問」と宣伝している。 しかし、これは奇妙な話。憲法の規定を無視、選挙で成立した政権をネオ・ナチの暴力で倒して登場した「暫定政権」の「正当性」に彼らは疑問を持っていない。その整合性を気にしていないようだが、こういう態度を「ダブル・スタンダード」という。 日本ではマスコミに「社会の木鐸」を期待する人もいるらしいが、それは政治家や官僚に「聖人君子」であることを望み、大企業の経営者、あるいは巨大資本家に富の公正な分配を願うようなもの。無理な相談だ。 今も昔もマスコミは「政府の御用」を務めている。ウクライナの体制を「西側」の支配層は転覆させ、乗っ取ろうとしてきたわけで、そうした企てを「西側」のメディアは支援してきた。その中に日本のマスコミも含まれている。「お上」への忠誠度は1番かもしれない。 まず、資金の提供。日本を含む「西側」の政府やメディアが支持しているキエフのクーデター政権は明らかに憲法を無視した存在だが、そのクーデターを準備するため、1991年からアメリカは50億ドルを投入した。このことをビクトリア・ヌランド米国務次官補は昨年12月13日、「米国ウクライナ基金」の会合で語っている。その際、彼女の背後には巨大石油企業シェブロンのマークが飾られていた。 次に軍事訓練。2004年からバルト諸国にあるNATOの施設でネオ・ナチのメンバーが軍事訓練を受けたと言われている。その当時、ウクライナでは「オレンジ革命」によって「西側」の巨大資本にとって都合の良い政権が登場した。この「革命」のスポンサーにはボリス・ベレゾフスキーというロシア系の「オリガルヒ」が含まれていた。ボリス・エリツィン時代に大統領の取り巻きと手を組み、不公正な手段で巨万の富を手にした人物だ。 また、2013年9月にはポーランド外務省がウクライナから86人を大学の交換学生として招待、ワルシャワ郊外にある警察の訓練センターで4週間にわたり、暴動の訓練を受けたという。その集団はネオ・ナチだと見られている。 そして実行に移される。ネオ・ナチのメンバーは棍棒、ナイフ、チェーンなどを手に、石や火炎瓶を投げ、途中からピストルやライフルを撃ち始め、警官隊(ベルクト)の隊員を拉致、拷問したうえ、殺害している。目を潰された状態で発見された隊員の死体もあるようだ。 今年2月のクーデターでは狙撃で死傷者が急増、市街が火と血の海になり、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領はウクライナを追い出された。その狙撃に関し、エストニアのウルマス・パエト外相はEUのキャサリン・アシュトン外務安全保障政策上級代表(外交部門の責任者)へ次のように報告している: 「全ての証拠が示していることは、スナイパーに殺された人びと、つまり警官や街に出ていた人たち双方、そうした人びとを同じスナイパーが殺している。同じ筆跡、同じ銃弾。実際に何が起こったかを新連合(暫定政権)が調査したがらないほど、本当に当惑させるものだ。スナイパーの背後にいるのはヤヌコビッチでなく、新連合の誰かだというきわめて強い理解がある。」「新連合はもはや信用できない。」 そうしたネオ・ナチへの反発もあり、ウクライナの東部や南部では反クーデター派の住民が決起している。すると4月12日にジョン・ブレナンCIA長官がキエフを極秘訪問し、14日にはアレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行が制圧作戦を承認する。さらに、22日にはジョー・バイデン米副大統領がキエフを訪問、その直後から軍事力の行使へ急速に傾斜していった。アメリカの傭兵会社から戦闘員(民間特殊部隊)も送り込まれている。 ナチズムへの反発が強いオデッサでも反クーデター派の住民が多いのだが、そこへサッカーの試合を利用してネオ・ナチのメンバーが乗り込み、住民を襲撃している。正体不明の一団がネオ・ナチの集団を挑発しながら誘導、住民のうち女性や子どもが避難した労働組合会館に襲撃グループは火焔瓶を投げつけて火をつけている。 当初、犠牲者は焼き殺されたと思われていたのだが、死者の一部は火が出る前に射殺されるなど別の原因で殺され、遺体が動かされていることが焼け跡の調査で判明した。何らかの化学物質が巻かれたと推測している人もいる。レイプされている疑いのある遺体も発見され、放火は証拠隠滅が目的だった可能性もある。屋上へ通じるドアがロックされ、逃げられないようになっていた疑いもある。報道では約40名が殺されたとされていたが、反クーデター派は100名以上が殺されたと主張、300名という数字も流れている。 ウクライナ情勢に関する報道を見ていると、日本のマスコミは憲法を軽視、軍事介入を肯定、ナチズム/ファシズムの信奉者と手を組むことを否定していない。これを日本に当てはめると、彼らは安倍晋三政権を支持し、民意を無視、改憲(戦争放棄の放棄)や集団的自衛権に賛成、戦争に反対しないということになるだろう。
2014.05.12
アメリカの傭兵会社「アカデミ(旧社名はブラックウォーター)」の傭兵約400名がウクライナ東部の制圧作戦に参加しているとビルト紙日曜版が伝えているようだ。4月29日にドイツの情報機関BNDがアンゲラ・メルケル首相へこの情報を報告済みだという。すでにアカデミ系列のグレイストーンの傭兵が数百人単位でウクライナへ入っていると言われているが、同じグループを指している可能性がある。 ウクライナ東部での掃討作戦を実行している部隊の内部で英語が飛び交っているという情報はすでに流れていて、傭兵が作戦に加わっているとは推測されていた。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、約150名の傭兵がウクライナのソコル(特殊機動警察)の制服を着て活動していると主張している。 こうした傭兵の多くはアメリカの特殊部隊で優秀だったメンバーが採用されているようで、アメリカ軍が公式に動けない場合に投入されているようだ。ビルト紙日曜版はCIAやFBIの専門家数十名が送り込まれ、掃討作戦をアドバイスしているとも伝えているが、要するに、傭兵も背後にはアメリカ政府がいる。ウクライナの軍事作戦にアメリカは介入、あるいは作戦を指揮しているということだ。 本ブログでは何度も書いているように、クーデター政権は首都のキエフをネオ・ナチで制圧したにすぎず、治安機関や軍を掌握できていない。ナチズムに対する憎悪が強い東部や南部では特に反クーデター政権の感情は強く、傭兵やネオ・ナチを使うしかない。ロシア軍が介入してくればNATOを使うという道も開けるのだが、それはロシアが自重しているため、今のところ無理だ。そこで「西側」やクーデター政権はオデッサの虐殺のような挑発をしているという見方もある。住民投票の最中にもネオ・ナチの「親衛隊」は住民に向かって銃弾を発射するのだが、住民に圧倒されている。 アメリカの巨大資本や一部の外交官は第2次世界大戦の前からファシストと手を組み、1933年から34年にかけてフランクリン・ルーズベルト政権を倒し、ファシスト体制を樹立しようと計画していた。イギリスのウィンストン・チャーチルはドイツが降伏した直後に米英軍とドイツ軍でソ連を奇襲攻撃する計画だったことも本ブログでは何度も書いてきた。そして今回、ウクライナでファシストを使っている。
2014.05.11
アメリカの民主主義は真の試練に直面している。この国の巨大資本や外交官が第2次世界大戦の前からファシズムに傾倒していたことは本ブログで何度も書いたが、ある程度はブレーキがかかっていた。そのブレーキがきかなくなり、アメリカは暴走を始めている。 1933年にウォール街がフランクリン・ルーズベルト政権を倒すためにクーデターを計画した際に新聞を情報操作の道具と位置づけ、戦後は「モッキンバード」というメディア操作のプロジェクトが始動しているのだが、そうしたメディアにも気骨あるジャーナリストがいて、ブレーキとして機能していた。 ところが、1970年代の終盤からメディアの中で粛清が始まり、「プロジェクト・デモクラシー」という情報戦を始めた1980年代にメディアは急速にプロパガンダ機関としての色彩を強め、ジョージ・W・ブッシュ政権がアフガニスタンやイラクを先制攻撃する際には偽情報を流して戦争への道を整備していた。その代表的な旗振り役がニューヨーク・タイムズ紙のジュディス・ミラー記者だ。 ウクライナでも「西側」のメディアは好戦的な雰囲気を強めるため、人びとを煽っている。キエフのクーデターではネオ・ナチが「西側」の手先として活動、市街を火と血の海にしているのだが、こうした事実を「西側」のメディアは伝えていない。憲法の規定を無視して「西側」の政府は「暫定政権」という非合法の政府を正当化、メディアも認めている。 東部や南部でロシア軍の特殊部隊が活動しているという話を広めるために「証拠写真」なるものをニューヨーク・タイムズ紙は4月20日付けの紙面に掲載したのだが、一見して怪しげな代物で、シリアなどで「西側」の体制転覆を正当化するために偽情報を流していたBBCにまで批判されてしまった。 中国との対決姿勢を鮮明にし、憲法の規定を「解釈」で機能停止させ、集団的自衛権、つまり日本を拡大NATOに組み込んでアメリカの傭兵にしようとしている安倍晋三政権をアメリカのメディアが批判しているとするならば、現時点でアメリカは中国を刺激したくないというだけのことだ。 1990年代からアメリカ/NATOは東の国々を飲み込んで拡大、ウクライナを制圧しようとしている。その手先としてネオ・ナチが使われ、ロシアとの戦争も辞さない姿勢を見せている。そんなとき、中国と問題を起こすことは得策でないわけで、安倍政権の暴走はバラク・オバマ政権にとって腹立たしいものだろう。 ロシアがウクライナに軍事侵攻すれば、アメリカ/NATOにも打つ手があった。軍隊と軍隊が対峙する事態になれば勝機はあり、ロシアに「侵略者」というレッテルを貼って孤立化させることも不可能ではないのだが、ロシアは自重している。「西側」メディアはロシア軍が侵攻した、あるいは特殊部隊をウクライナへ入れていると宣伝したが、証拠は示せず、偽情報だった可能性はきわめて高い。 その一方、アメリカ/NATO/IMFがネオ・ナチを使ってキエフを制圧してビクトル・ヤヌコビッチ大統領を追い出し、東部や南部を制圧しようとしている。アメリカの傭兵会社、アカデミ(旧社名はブラックウォーター)系列のグレイストーンから派遣された戦闘員が3月以降、数百人単位でウクライナへ入ったと伝えられ、その映像も流れている。 クーデターでネオ・ナチと衝突したベルクト(警官隊)をアルセン・アバコフ内相は解散させ、今はCIAの指揮下に入ったと言われるSBU(ウクライナ治安局)も少なからぬメンバーが離反、軍の内部にもネオ・ナチを柱のひとつにしているクーデター政権に反発する将兵がいるようだ。 第2次世界大戦でドイツが降伏、ナチス体制が崩壊したことを祝う戦勝記念日にクーデター政権はドネツク州マリウポリ市に戦車部隊を入れて制圧にかかったが、キエフが送り込んだ警察署長の住民を撃つようにという命令を地元の警官が拒否、射殺されるということもあったようだ。 それでも住民投票を止めることはできず、多くの住民が投票所へ詰めかけている。この投票の正当性を否定するため、「テロリスト」を拘束、記入済みの投票用紙を押収したという映像も流れているのだが、「テロリスト」の顔は袋で隠された状態でうつぶせになっていて、何を証明しようとしているのか不明だ。
2014.05.11
アメリカ/NATO/IMFを後ろ盾にしたキエフのクーデター政権は武力でウクライナ東部を制圧するため、5月9日に戦車を連ねてドネツク州マリウポリ市に突入させた。銃撃で住民が死傷しているのだが、興味深いのは住民が逃げずに集まり、兵士に抗議していること。 このまま制圧作戦を続けるなら、アメリカがベトナム戦争でCIAと特殊部隊を使って実行した住民皆殺し作戦の「フェニックス・プログラム」、あるいはラテン・アメリカで手駒の軍人に「死の部隊」を編成させて行った住民殺戮を再現しなければならなくなる。 大統領選でアメリカ/NATOが当選させるつもりらしいユリア・ティモシェンコは、国家安全保障国防会議のネストル・シュフリチ元副議長に電話でロシア人を殺すと繰り返していた。これが現実になる可能性もあるということだ。 「西側」のメディアはアメリカ支配層にとって都合の悪い情報を封印、責任をロシアへ押しつけるため、事実に反する「報道」を続けている。明治維新以降、第2次世界大戦の前、戦争を煽り、アジア侵略を後押しした責任を日本のマスコミは全く感じていない。大戦後、自分たちの戦争責任が問われなかったことで、今度も大丈夫だろうと高を括っているのだろう。が、現在はインターネットの時代。怪しげな情報だけが流れているわけではない。こうしたルートで事実が伝えられ、人びとの彼らを見る目は厳しくなっている。 1945年5月8日にドイツが降伏してナチス体制が崩壊したことをソ連では祝ってきたのだが、ネオ・ナチを柱のひとつにするクーデター政権にとって、5月9日は「屈辱の日」にほかならない。マリウポリでも計画されていたナチスとの戦いに勝利したことを祝う催しを軍事力で潰した形だ。 この親ナチス派を正当化するため、アメリカは「言葉の幻術」を使う。例えば、日本では東電福島第一原発の事故後、被曝線量の基準、被曝限度量を政府は引き上げて「安全」を宣伝しているが、アメリカの場合、中身に変化がなくても自分たちの都合に合わせて「民主化勢力」、「自由の戦士」、「テロリスト」を使い分けてきた。アフガニスタン、イラク、リビア、シリア・・・そしてウクライナでもアメリカ/NATOは「テロリスト」を殺すのではなく、殺した人間が「テロリスト」だ。アメリカ国内では戦争に反対する人びとも「テロリスト」に分類されている。 ウクライナではすでにオデッサでネオ・ナチに反クーデター派の住民を虐殺させた。働組合会館へ避難していた多くの女性や子どもが殺されたようで、犠牲者数は約40名ということになっている。ただ実数は不明で、100名以上とも300名とも言われている。 本ブログでは何度も書いていることだが、ウクライナでは軍や治安機関/警察の内部で少なからぬ人びとがクーデター政権に反発、一部はすでに反クーデター軍を編成して戦い始めている。つまり、ロシア軍が介入する必要はない状況だ。マリウポリ市の状況を見ても「キエフ軍」は住民から敵と見なされている。 しかし、IMFから東部を制圧するように要求されているクーデター政権としては、制圧を無理だとは言えない。軍事制圧し、住民投票も止めさせたいのだろうが、難しいところだ。かなり追い詰められている。 ドニエストル沿岸共和国(モルドバからの独立を宣言している)で行われた戦勝記念日の式典に出席していたロシアの副首相を乗せた航空機がモスクワへ戻ろうとしたところ、ウクライナの戦闘機がスクランブルをかけ、ルーマニアも領空を通過させなかったという。(ウクライナは否定しているようだ。)副首相を閉じ込めようとしたのかもしれないが、何らかの手段を講じてモスクワへ戻ることはできた。また、重傷を負ったジャーナリストを治療するために飛んできたドイツの飛行機が着陸するのを拒否したともいう。これも余裕をなくしていることの結果だろう。
2014.05.10
1945年5月8日にドイツは降伏してナチス体制は崩壊、その翌日、9日をソ連は戦勝記念日と定め、祝ってきた。この行事をウクライナの東部でも続けている。 その9日にキエフのクーデター政権は東部にあるドネツク州マリウポリ市に戦車などを入れて市内を破壊、非武装の住民を殺害、警察署を攻撃した。地元の警察は住民を撃てというキエフからの命令を拒否、多くの警官は拘束されていたというが、残った警官が警察署にバリケードを築いて立てこもったという。クーデター政府によると、20名の「活動家」を殺害し、4名を拘束したとしているが、住民側は3名が殺され、25名が負傷したとしている。 キエフのクーデターでネオ・ナチと戦ったベルクト(警官隊)は解散させられ、隊員は命を狙われている。すでに相当数のメンバーがロシアに保護を求めているはずだ。つまり既存の治安機関は機能していない。今回、通常の警察機構もクーデター政権に反発していることが判明した。軍や情報機関の内部にも離反者は少なくないだろう。 現在、SBU(ウクライナ治安局)の長官を務めているバレンティン・ナリバイチェンコは以前からCIAに協力していた人物で、前任者のアレクサンドル・ヤキメンコによると、第1副長官時代に隊員の個人ファイルをCIAに渡していたという。この証言が正しいならば、SBUは粛清済みなのだろう。 現在、掃討作戦の総指揮は国家安全保障国防会議(国防省や軍を統括する)のアンドレイ・パルビー議長がとっているようだが、この人物はネオ・ナチの「ウクライナ社会ナショナル党(現在の党名はスボボダ)」を創設したひとりで、クーデターの際にはアメリカの特殊部隊と連絡を取り合っていたと言われている。 アメリカ政府はキエフのクーデター政権を支えるため、顧問としてCIAやFBIの専門家数十名を送り込んでいるとドイツのビルト紙日曜版は伝えているが、それだけでなく傭兵会社の戦闘員(多くが元特殊部隊員)を数百名規模で入れている。セルゲイ・ラブロフ露外相によると、約150名の傭兵がウクライナのソコル(特殊機動警察)の制服を着て活動しているという。 住民から支持されていないクーデター政権はネオ・ナチや傭兵を使い、恐怖で支配しようとしているのだが、そのためにますます人心は離れていくという悪循環に陥っている。シリアと同様、最後は単なる侵略/占領軍になってしまうだろう。ロシア政府はその様子を観察している。
2014.05.10
アメリカをはじめとする「西側」の政府やメディアはウクライナをロシアが軍事侵攻、蹂躙すると叫び続けてきたが、そうした事実があるわけではない。例えば、ロシアとウクライナは1997年に結んだ協定でロシアはクリミアで20年間の基地使用権と2万5000名の部隊を駐留させることが認められ、協定締結から1万6000名が駐留しているのだが、この部隊を「西側」の政府やメディアは「侵攻軍」と表現している。 現在、キエフのクーデター政権は東部や南部を制圧するために軍や「親衛隊」を派遣、右派セクターも乗り込んで暴力的に制圧するつもりのようだ。クリミアでは住民の圧倒的多数がクーデター政権を拒否したことから平和的に「無血」で離脱は実施され、オデッサでネオ・ナチが行ったような住民虐殺はなかった。少なくとも東部や南部でキエフの政権が住民から支持されていない以上、流血と破壊は避けられない。 そうした中、ロシア軍の軍服200着やロシア軍将校の偽ID70枚を携えた20名の集団をSBU(ウクライナ治安局)は東部へ派遣したとロシアのRIAノーボスチが伝えている。この集団はドニエプロペトロフスク市のイゴール・コロモイスキー市長のボディーガード(アメリカ人傭兵の可能性がある)で、ドネツクで右派セクターのメンバーと会ったと伝えられている。ロシア兵を装った右派セクターのメンバーにウクライナの国境警備隊を5月11日より前に襲撃させるのではないかと推測する人もいる。この日、ドネツクやルガンスクではクリミアに続き、地域の地位に関する住民投票を実施する予定だ。 クリミアで住民投票が行われる前、「アノニマス」と名乗る集団(ウクライナの情報機関でクーデター政権に反対しているグループの可能性がある)がハッキングで入手した電子メールとされる文書が明らかにされたのだが、それによると、アメリカの駐在武官補佐官ジェイソン・グレシュ中佐がウクライナ参謀本部のイーゴリ・プロツュクに対し、クリミアで住民投票が行われる前に、ロシア軍の特殊部隊を装った戦闘員にウクライナ空軍第25基地を襲撃するように指示している。 軍服や偽ID、あるいは電子メールの話が事実かどうかは不明だが、ある秘密工作の計画を摑んだ場合、証拠を出せなくても情報を流して中止させるという手法はある。 実際、アメリカは軍事侵略を正当化するため、偽旗作戦を使ってきた。例えば、1898年にあった「メイン号」の爆沈。キューバで独立運動が起こると、南への侵略を狙うアメリカの支配層はメイン号を派遣していたのだが、この船が沈没すると、スペインの破壊活動だと主張して戦争を開始、ラテン・アメリカ支配の第一歩を踏み出した。この戦争に勝利したアメリカはスペインにキューバの独立を認めさせ、プエルトリコ、グアム、フィリピンを買収、ハワイも支配下においている。 キューバをアメリカ軍が攻撃することを正当化するために作成された「ノースウッズ作戦」も偽旗作戦であり、ベトナムへの本格的な軍事介入の切っ掛けになった「トンキン湾事件」もそうだった。アメリカの破壊工作人脈を黒幕として、イタリアでは「極左」を装った爆弾攻撃が繰り返されている。最近ではシリアにおいて「化学兵器攻撃」がある。「西側」は政府軍が実行したと大合唱だったが、嘘だったことが明確になってきた。 アフガニスタンやイラクを先制攻撃、中東から北アフリカに戦乱を広げ、アメリカ国内のファシズム化を促進する切っ掛けになった2001年9月11日の航空機による攻撃も偽旗作戦ではないかと疑う人が少なくない。少なくとも、アフガニスタンやイラクは関係がなかった。 現在、キエフのクーデター政権で制圧作戦を指揮しているのはSBUのバシリー・クルトフ第1副長官だとされてるが、最近では国家安全保障国防会議(国防省や軍を統括)のアンドレイ・パルビー議長が前面に出ている。 パルビーはネオ・ナチの「ウクライナ社会ナショナル党(後に「スボボダ」へ党名を変更)」を創設したひとり。クーデターの拠点になった広場への出入りを管理していたのはこのパルビーで、武器の持ち込みも彼の許可が必要だったことから、スナイパーが彼の指揮下にあったことは間違いないと見られている。 クーデターまでSBUの長官を務めていたアレクサンドル・ヤキメンコによると、最初の狙撃はパルビーが制圧していたビルから。狙撃部隊のメンバーにはウクライナの特殊部隊員も含まれていたが、ユーゴスラビアなど他国からやって来た傭兵が主力で、狙撃チームはアメリカ大使館を根城にしていたという。パルビーもアメリカの特殊部隊と接触していたと言われている。
2014.05.09
239名の乗客を乗せたマレーシア航空370便(MH370)が消えてから2カ月以上が経過したが、杳として行方が知れない。インド洋に浮かぶディエゴ・ガルシア島へ降りたという推測もあるが、そこにはアメリカの重要な軍事基地があり、CIAの秘密刑務所が存在するとも言われ、調べることは困難だ。 旅客機のパイロットと管制官との間で交わされた最後の会話が5月1日に公開された。長さは7分間。この録音で新たな謎が出てきた。音声を調べると、「編集」されているのである。当局はなぜ録音に手を加えたのか? 別の疑問も浮上している。2453キログラムの貨物が積まれていたのだが、221キログラムのリチウム・バッテリーをのぞき、その内容が明らかにされていない。公表されていない2トン以上の貨物が旅客機の行方不明と関係があるかもしれないと疑う人もいる。 この航空機には半導体の特許を持つ4名の中国人が乗っていたことから、この特許が関係しているという仮説も浮上している。この特許を保有しているのは中国宿州出身の中国人4名とアメリカのテキサス州にある「フリースケール半導体」なる会社。4名の中国人もこの会社で働いていて、特許の権利はそれぞれ20%だった。4名の中国人がいなくなれば特許の権利は100%、フリースケール半導体が握ることになる。この4名は同社の別の従業員16名と一緒にMH370に乗っていたとされている。 ところで、フリースケール半導体は2004年にモトローラから分かれた会社で、電子戦やステルス技術が専門だという。ブラックストーン・グループのほか、ブッシュ家が関係しているカーライル・グループやイスラエル系アメリカ人の富豪デイビッド・ボンダーマンが会長を務めるTPGキャピタルが2006年に買収している。 グレイストーン・グループはジェイコブ・ロスチャイルドの金融機関。密接な関係のある会社のひとつ、ブラックロックを経営しているラリー・フィンクはアメリカとイスラエルの2重国籍。そのほか、投機家のジョージ・ソロスやキッシンジャー・アソシエイツも仲間のようだ。 言うまでもなく、ジェイコブ・ロスチャイルドはイギリスを拠点とする大富豪。2004年から05年にかけて「西側」がウクライナを乗っ取った「オレンジ革命」でスポンサーのひとりだったボリス・ベレゾフスキーと親しくしていた。 ベレゾフスキーはロシア消滅後、ボリス・エリツィンの取り巻きと手を組んでロシア国民の資産を私物化して富豪の仲間入りをした「オルガルヒ」のひとりで、ウラジミール・プーチンと対立してイギリスへ亡命している。「オレンジ革命」ではジョージ・ソロスも協力している。 そのほか、MH370にはアメリカ国防総省の20名も搭乗、いずれも電子戦の専門家で、レーダーの探知を回避する技術に精通していたという。しかも、そのうち少なくとも4名は不正なパスポートを使っていた疑いが持たれている。
2014.05.09
安倍晋三政権は日本を集団的自衛権の行使する国にしようと必死だ。言うまでもなく、集団的自衛権のパートナーはアメリカ。必然的に「北大西洋条約機構」、つまりNATOと結びつくことになる。このNATOはアフガニスタンを占領、リビアを攻撃し、シリアやウクライナへも攻め込もうとしている。世界展開を狙っているのだ。日本はその仕組みに組み込まれようとしている。リビアは現在、「テロリスト」の活動拠点。今後、対岸のヨーロッパを攻撃する出撃基地になる可能性もある。 NATOは1949年に創設された軍事同盟で、当初は北アメリカの2カ国(カナダとアメリカ)と西ヨーロッパの10カ国(イギリス、フランス、イタリア、ポルトガル、デンマーク、ノルウェー、アイスランド、ベルギー、オランダ、そしてルクセンブルク)で構成されていた。 1952年にギリシャとトルコ、55年にドイツ、1982年にスペイン、ソ連消滅後の1999年にチェコ、ハンガリー、ポーランド、2004年にブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、2009年にアルバニア、クロアチアが加盟している。 創設の目的はソ連軍の侵略に備えるということだったが、ソ連は第2次世界大戦でドイツ軍に攻め込まれて2000万人以上が殺され、工業地帯の3分の2を含む全国土の3分の1が破壊され、軍も疲弊していた。つまり、ソ連軍には軍事侵攻する余力は残されていなかった。 そのドイツは1945年5月に降伏する。反ファシストのフランクリン・ルーズベルト米大統領が急死した翌月のことだった。早速、反コミュニストのウィンストン・チャーチル英首相はソ連を奇襲攻撃しようと考え、JPS(合同作戦本部)に作戦の立案を命令、数十万人の米英軍が再武装したドイツ軍約10万人と連合して奇襲攻撃するという「アンシンカブル作戦」ができあがる。 米英独の奇襲攻撃は日本が降伏する前、7月1日に開始されることになっていたが、イギリスの参謀本部が反対して実行はされなかった。日本はこの計画を知っていたのか、知らなかったのか・・・ 本ブログでは何度も書いていることだが、NATOには破壊/テロ活動を目的とする「秘密部隊」が存在する。ソ連軍に占領された際、レジスタンスを行うことが目的だとされているのだが、実際は西ヨーロッパの左翼勢力を破壊する活動を展開する。その秘密部隊は全てのNATO加盟国に存在、中でもイタリアのグラディオは有名だ。 イタリアと同じように左翼の強かった国がフランス。NATOが創設される2年前に社会党系の政権が誕生しているが、その政権で内務大臣を務めたエドアル・ドプによると、米英の情報機関、つまりCIAとMI6はクーデターを計画、シャルル・ド・ゴールを暗殺する手はずだったという。フランスの情報機関SDECEが関与していたとも疑われている。 この計画は首謀者としてアール・エドム・ド・ブルパンが逮捕されて失敗に終わるが、1962年にはジャン=マリー・バスチャン=チリー大佐を中心とするグループがド・ゴール暗殺を試みて失敗している。このグループの背後にはNATOの秘密部隊が存在していたと言われている。ド・ゴールは1968年に起こった「5月革命」の対応に失敗、翌年、政権の座を去ることになった。 暗殺未遂から4年後にフランス軍はNATOの軍事機構から離脱、その翌年にはSHAPEがパリを追い出され、ベルギーのモンス近郊へ移動している。フランスがNATOの軍事機構へ完全復帰したのは2009年のこと。そのときの大統領はニコラ・サルコジ。 サルコジの父親は1977年に離婚、義理の母親であるクリスティーヌはフランク・ウィズナー・ジュニアというアメリカ人外交官と再婚する。アレン・ダレスの側近で、OPCを指揮していたフランク・ウィズナーの息子だ。OPCはCIAに吸収されるが、人脈は組織内組織として生き残り、NATOの秘密部隊と密接に結びついている。ニコラはクリスティーヌとも親しい関係を維持、ウィズナー・ジュニアとも親しくなり、必然的にアメリカの情報機関にもつながったはずだ。 第2次世界大戦後、ソ連ほどではないが、戦場になったヨーロッパも疲弊していた。そのヨーロッパを支配する道具として米英の支配層はNATOを使ってきたが、フランスとドイツはそれなりに抵抗していた。1991年にはフランスのフランソワ・ミッテラン大統領とドイツのヘルムート・コール首相が米英からの自立を目指し、「WEU(西ヨーロッパ連合)」や「ユーロ軍」を実現しようとして潰されている。 2003年に米英がイラクを先制攻撃する際、フランスとドイツは反対したが、そのときのフランス大統領はジャック・シラク。アメリカの支配層は怒り、ウィズナー・ジュニアはシラクをはじめとするド・ゴール派を乗っ取り、さらにリベラル派を潰す作戦を展開した。そしてサルコジを大統領へ据えることになる。後にシラクは刑事訴追され、2011年に執行猶予付きながら、禁固2年が言い渡された。 サルコジが大統領に就任した2007年の段階でNATOは完全な米英の機関になった可能性が高い。そのNATOを背景にしてウクライナではネオ・ナチが殺戮と破壊を繰り返し、オデッサの惨劇が引き起こされたわけだ。中東/北アフリカで展開された「アラブの春」やウクライナのクーデターを理解せず、集団的自衛権を理解することはできない。NATOと集団的自衛権は密接に結びついている。
2014.05.08
昨年8月21日にダマスカスの近くでシリア政府軍がサリンが使ったと「西側」の政府やメディアは主張、シリアへNATO軍が直接介入する動きを見せていた。「サリン攻撃」の直後、この主張を否定する報告が相次いだが、国連のシリア化学兵器問題真相調査団で団長を務めたアケ・セルストロームは治療状況の調査から被害者数に疑問を持ったと語っている。(PDF)なお、セルストロームの調査団は昨年9月に報告書を潘基文国連事務総長へ提出済みだ。 セルストロームによると、調査団は攻撃の生き残りとされる80名のうち40名から聞き取り調査を実施した。そのうち36名がサリンを大量に浴びたと証言しているのだが、症状や治療の状況を調べると、31名は神経ガスを浴びた場合の特徴だと言われる瞳孔の縮小が見られない。この症状は1立方メートルあたり4ミリグラムのサリンの中に2分間、あるいは1ミリグラムで3分間いると現れるという。つまり、サリンを浴びていないか、浴びていても微量にすぎないということになる。 サリンを浴びたという31名の血液サンプルを検査した結果はサリンの痕跡を示したとされているのだが、これはごく微量でも検出できる方法を使ったためだと見られている。国連の調査団はサリンを大量に浴びたと主張する人のうち6名の血液からサリンを浴びた痕跡を見つけることができなかったともいう。治療態勢からみても、被害者総数は多すぎる。 おそらく、最も早く「西側」の主張に反論したのはロシア政府だ。シリアの体制転覆を目指す勢力がシリア政府のサリン使用を主張する中、ロシアのビタリー・チュルキン国連大使はアメリカ側の主張を否定する情報を国連で示し、報告書も提出した。 ロシアが示した資料の中には、反シリア政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射され、毒ガス攻撃を受けたとされるゴータで着弾していることを示す文書や衛星写真が含まれていたという。 ミサイル発射から間もなくして、化学兵器をサウジアラビアを結びつける記事がミントプレスに掲載された。デイル・ガブラクとヤフヤ・アバブネの名前で書かれたもので、後にガブラクは記事との関係を否定する声明を出すのだが、編集長のムナル・ムハウェシュはその声明を否定する。 編集長によると、記事を28日に編集部へ持ち込んだのはガブラクであり、同僚のヤフヤ・アバブネがシリアへ入っているとしたうえで、反政府軍、その家族、ゴータの住民、医師をアバブネが取材した結果、サウジアラビアが反政府軍に化学兵器を提供し、それを反政府軍の戦闘員が誤って爆発させたと説明したという。一連の遣り取りを裏付ける電子メールが残っているともしている。その後、カブラクからの再反論はないようだ。 昨年10月に入ると「ロシア外交筋」からの情報として、ゴータで化学兵器を使ったのはサウジアラビアがヨルダン経由で送り込んだ秘密工作チームだという話が流れた。アフガニスタンの反政府軍支配地域で「第三国」がアル・ヌスラなどシリアの反政府軍に対し、化学兵器の使い方を訓練しているとする報告があるとロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は語る。 12月に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュもこの問題に関する記事を発表している。反政府軍がサリンの製造能力を持ち、実際に使った可能性があるというのだ。国連の元兵器査察官のリチャード・ロイドとマサチューセッツ工科大学のセオドール・ポストル教授は、化学兵器をシリア政府軍が発射したとするアメリカ政府の主張を否定する報告書を公表している。ミサイルの性能を考えると、科学的に成り立たないという。 NATO軍の攻撃予定日が迫る中、ロシアの軍情報機関がゴータでサンプルを採取して分析し、イギリスの軍情報機関へもサンプルを送り、イギリスで分析が行われた。サンプルはシリア軍が保有するサリンとは一致しなかった。この結果はアメリカの統合参謀本部へ知らされたという。 そもそも、「西側」でもシリア軍が化学兵器を使ったという話に懐疑的な人は少なくなかった。戦闘は政府軍が優勢で、使えばNATO軍の直接的な介入を招く可能性が高く、使う理由がなかったのである。 結局、アメリカ政府はシリアをNATOで攻撃することを断念、ロシア政府と歩調を合わせるかのように見えた。こうした動きをネオコン(親イスラエル派/シオニスト)は激怒する。そうした中、ウクライナ情勢が急速に悪化し、現在、混乱から戦乱へ移行しつつある。ウクライナで軍事的な緊張を煽ってきたのもネオコンだ。ウクライナはバラク・オバマ米大統領の「師」でもあるズビグネフ・ブレジンスキーが重要視、制圧を主張してきた地域でもある。
2014.05.08
現在、アメリカ政府はウクライナでネオ・ナチを手駒として使っている。「西側」の政府やメディアは無視しているが、これは否定しようがない。つまり、アメリカ政府がウクライナで暗躍し、ネオ・ナチが残虐行為を繰り返していることを「西側」の政府もメディアも熟知、それにもかかわらず無視、今回の虐殺を招いたわけだ。このまま進めば、さらにひどい事態になる。そうした方向へ人類を導いている人びとの中には政治家、官僚、記者、編集者、あるいは「リベラル派」とか「革新」に分類されている「知識人」や「活動家」も含まれている。その責任は重い。 歴史を振り返ると、アメリカ政府がナチズムの信奉者と明確に戦っていた時期は1933年3月から45年4月にかけて、つまりフランクリン・ルーズベルトが大統領の時代くらいだろう。つまり、現在の状況に驚くべきではない。 ルーズベルトが1932年の大統領選で勝利する前からウォール街はナチスを支援、外交官の間でもラトビアのリガ、ドイツのベルリン、そしてポーランドのワルシャワの領事館へ赴任して人たちを中心に親ファシスト/反コミュニストの「リガ派」が形成されていた。その中にはジョージ・ケナンやジョセフ・グルーも含まれ、その背後にはジョン・フォスター・ダレス、ジェームズ・フォレスタル、ポール・ニッツェたちが控えていた。 このグループと対立していたのがルーズベルトを中心とするニューディール派。1933年にルーズベルトが大統領に就任すると、ウォール街はクーデターを計画する。本ブログでは何度も書いているが、アメリカ海兵隊の伝説的な軍人、スメドリー・バトラー少将が議会で計画を暴露して失敗に終わった。 バトラーから話を聞いたジャーナリストのポール・フレンチはクーデター派を取材し、「共産主義から国家を守るためにファシスト政府が必要だ」という発言を引き出す。この話も議会の記録に残っている。 ウォール街を拠点とする巨大資本の少なくとも一部はナチスを仲間と考えていたわけだが、1944年になるとドイツの情報将校でドイツ陸軍参謀本部第12課の課長だったラインハルト・ゲーレン准将がアレン・ダレスと接触している。言うまでもなく、アレン・ダレスはジョン・フォスター・ダレスの弟で、ふたりともウォール街の弁護士。1945年5月にドイツが降伏するとゲーレンは米陸軍対敵諜報部隊(CIC)に投降、ソ連関連の資料を提供している。 それ以降、ゲーレンはアメリカ支配層と手を組み、戦後も資本家をスポンサーとして情報活動を続けている。いわゆる「ゲーレン機関」だ。1955年の西ドイツはNATOへ加盟し、その翌年にゲーレン機関はBND(連邦情報局)という国家機関になった。 ルーズベルト大統領が急死すると、ホワイトハウスでは反ファシストから反コミュニストへ急旋回し、ローマ教皇庁の協力を得てナチスの大物を逃走させるルートを築いた。いわゆる「ラット・ライン」だ。バチカンには大戦前からアメリカの情報機関とつながる人脈が形成されていて、その代表格がジョバンニ・モンティニ、後のローマ教皇パウロ6世である。 このラット・ラインはラテン・アメリカへ通じ、逃亡者の中には「リヨンの屠殺人」とも呼ばれたクラウス・バルビーが含まれていた。バルビーは後にボリビアのクーデターに協力している。 ナチス親衛隊の幹部だったオットー・スコルツェニーは結婚相手のオジがドイツ国立銀行総裁や経済相を務めた人物で、自身もナチスの仲間を逃がすために「ディ・シュピンネ(蜘蛛)」を組織、スペイン、アルゼンチン、パラグアイ、チリ、ボリビアなどへ逃がした。ナチスの逃走組織として有名なODESSAにも関わったという。 この親ファシスト/反コミュニストの人脈は戦後、西ヨーロッパで破壊活動を目的とする部隊を秘密裏に編成している。NATOが創設されると、その秘密部隊として活動を始めた。中でもイタリアのグラディオは広く知られている。1960年代から1980年頃までイタリアで「極左」を装って爆弾攻撃を繰り返していた部隊だ。グラディオの存在は1990年にイタリア政府が正式に認めている。 現在、NATOは東へ拡大中だが、当然、秘密部隊のネットワークも東へ広がり、ウクライナのネオ・ナチもその一部だろう。このグループはナチスと手を組んでいたOUNのステファン・バンデラ派を源流とし、この一派はWACL(世界反共連盟、現在の名称は世界自由民主主義連盟/WLFD)にも関係している。 ウクライナのネオ・ナチは2006年頃からバルカン諸国にあるNATOの施設やポーランドで軍事訓練を受けてきたと報道され、ドイツのビルト紙日曜版によると、キエフの暫定政権にアドバイスするため、CIAやFBIの専門家数十名が送り込まれているという。 今回、オデッサで40人とも100人以上とも300人とも言われる反クーデター派の住民がネオ・ナチの集団に殺されたが、そこへ至る道筋でアメリカ政府の要人が登場する。例えば、EUやロシアが話し合いで問題を解決しようとしていた時、そうしたEUの姿勢を「ソフト」だと怒り、「EUなんかくそくらえ(F*ck the EU)」と口にしたビクトリア・ヌランド国務次官補。 それから間もなくしてネオ・ナチの一部は市街を火と血の海にするが、その行動を指揮していたのがアンドレイ・パルビー。現在、国防省や軍を統括する国家安全保障国防会議の議長に就任している。 東部や南部で反クーデターの住民が立ち上がると、4月12日にジョン・ブレナンCIA長官がキエフを極秘訪問し、14日にアレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行が制圧作戦を承認、22日にはジョー・バイデン米副大統領がキエフを訪問すると、その直後から軍事力の行使へ急速に傾斜していった。 この間、「西側」の政府やメディアが事実から目をそらさず、声を上げたならば、犠牲者は遥かに少なかっただろう。こうした人たちがアメリカ支配層に従い、侵略と略奪の片棒を担いだひとつの結果がオデッサの虐殺だ。
2014.05.07
ウクライナの南、黒海に面したオデッサで住民がネオ・ナチの集団に襲われ、虐殺された。報道によると40名弱が殺されたと言われているが、反クーデター派は100名以上が殺されたと主張、300名という数字も流れている。多くは労働組合会館で殺された。 当初、犠牲者は焼き殺されたと思われていたのだが、死者の一部は火が出る前に射殺されるなど別の原因で殺され、遺体が動かされていることが焼け跡の調査で判明した。レイプされている疑いのある遺体も発見され、放火は証拠隠滅が目的だった可能性もある。屋上へ通じるドアがロックされ、逃げられないようになっていた疑いもある。 インターネット上で流れている映像を見ると、少なくとも一部の警官隊は襲撃を助けているように見える。事件後、反クーデター派の住民67名が逮捕されていることも警察に疑いの目を向けさせる。消防車が到着するまでに20分を要しているという証言があり、これが事実ならば不自然だ。 住民逮捕に怒った1000人以上の人びとが警察署を封鎖して抗議、拘束されて住民は解放されたものの、クーデター政権は警察署長を交代させる。早速、新署長のイワン・カテリンチュクは釈放の決定を見直すと語っている。 キエフはさらに「国家警備隊」を送り込むという。軍や治安当局を信頼しきれないクーデター政権がネオ・ナチを中心に編成した暴力装置で、ナチスの親衛隊に近い存在。6万人程度の隊員がいるようだ。つまり、私服のネオ・ナチに住民を虐殺させ、制服のネオ・ナチが街を制圧するというわけである。右派セクターは新たに約800人の準軍事組織「ドンバス」を創設するともいう。 似たような仕組みでアメリカはラテン・アメリカを支配してきた。第2次世界大戦後、ラテン・アメリカでは民主化が進む。フランクリン・ルーズベルト大統領が反ファシスト、反植民地を掲げていた影響もある。そのルーズベルトは1945年4月、ドイツが降伏する前月に急死してしまうが、独立の気運は消えなかった。 ラテン・アメリカの場合、アメリカという国の植民地ではなく、ウォール街の巨大資本に支配されていた。その利権を守り、収奪システムを維持するため、CIAは手先を使って軍事クーデターを起こし、独裁体制を築かせてきた。ラテン・アメリカはアメリカの支配層がナチスの幹部を逃がした先だが、軍事クーデターにはナチス残党も協力していた。 クーデター後、民主化勢力(アメリカの支配層がいうインチキ民主化勢力ではない)など邪魔な存在を抹殺するため、独裁政権は「死の部隊」を編成しているが、その実態はアメリカの訓練を受けた警官や軍人だった。現在、ウクライナでも同じ構図が出来上がりつつある。 傀儡政権を支えるため、アメリカは軍事顧問団を派遣することが多いが、ウクライナのクーデター政権を支えるため、アメリカ政府はCIAやFBIの専門家数十名を送り込んでいるとドイツのビルト紙日曜版は伝えている。アメリカの軍人を戦闘に参加させると問題が生じるために使われるのが傭兵会社の「民間特殊部隊」。ウクライナでも掃討作戦に参加している可能性が高い。 反クーデター派が立ち上がった。軍や治安機関から離脱した人びと、退役軍人が中心になって抵抗しているようだが、そうした反乱を鎮圧するため、東部や南部へキエフの暫定政権は戦車など武器/兵器を大量に送り込んでいる。これに対し、ロシア軍は目立った動きを見せていないが、ここに来てコサックが反クーデター派に合流しているようだ。 ウクライナのネオ・ナチはOUNのステファン・バンデラ派を源流とし、今でも公然と肖像を掲げているのだが、ナチスも意識している。そのナチスを率いていたアドルフ・ヒトラーが自殺したとされているのが1945年4月30日、ドイツが降伏文書に調印したのは5月8日である。この日付はロシアにとってもネオ・ナチにとっても重要な意味を持っている。
2014.05.06
安倍晋三政権は「集団的自衛権」を早期に実現するため、アクセルを踏み込んだ。その背景にはバラク・オバマ米大統領の来日があるのだろう。 オバマ大統領は4月22日から29日にかけてアジアを歴訪、23日から25日にかけては日本に滞在した。その後、韓国、マレーシア、フィリピンを訪れている。一方、安倍首相は4月28日から5月4日までロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、そしてトルコを訪問していた。 安倍首相がロシアを離れた2日後、ウクライナのクーデター政権はドネツク州スラビャンスクなど東部の都市を軍事制圧する作戦を開始。4月12日にジョン・ブレナンCIA長官がキエフを偽名を使って極秘訪問、22日にジョー・バイデン米副大統領もキエフ入りしていることから、作戦はアメリカ政府の承認、あるいは命令を受けてのことだと見られている。掃討作戦が決定された後、IMFは融資(支援ではない)を決めるが、有事の条件に東部や南部の制圧という条件がつけられていた。 ウクライナの戦乱は「西側」の支援を受けたネオ・ナチがクーデターを実行したところから本格化する。2月18日頃からネオ・ナチはチェーン、ナイフ、棍棒を手に、石や火炎瓶を投げ、ブルドーザーなどを持ち出し、中にはピストルやライフルを撃つ人間も出始める。 混乱を収拾するため、21日にヤヌコビッチ大統領は反ヤヌコビッチ派と平和協定を結ぶのだが、その翌日から建物の屋上から狙撃が始まって多くの死傷者が出る。議会の機能は麻痺、議長を務めていたボロディミール・リバクを「EU派」が脅迫して辞任させてアレクサンドル・トゥルチノフを新議長に据え、すぐに憲法の規定を無視して新議長が大統領代行に任命される。キエフ市街ではネオ・ナチのメンバーが警官隊(ベルクト)の隊員を拉致、拷問したうえ、殺害している。目を潰された状態で発見された隊員の死体もあるようだ。 多くの死傷者を出した狙撃を命令したのはビクトル・ヤヌコビッチ大統領だと「西側」では宣伝されたが、実際は違った。2月25日にキエフ入りして調査したエストニアのウルマス・パエト外相はその翌日、親EU派の医師から聞いた話に基づき、EUのキャサリン・アシュトン外務安全保障政策上級代表(外交部門の責任者)へ電話で次のように報告している: 「全ての証拠が示していることは、スナイパーに殺された人びと、つまり警官や街に出ていた人たち双方、そうした人びとを同じスナイパーが殺している。同じ筆跡、同じ銃弾。実際に何が起こったかを新連合(暫定政権)が調査したがらないほど、本当に当惑させるものだ。スナイパーの背後にいるのはヤヌコビッチでなく、新連合の誰かだというきわめて強い理解がある。」「新連合はもはや信用できない。」 「西側」ではビクトル・ヤヌコビッチ政権が命令したと宣伝されていたが、リビアやシリアでも体制転覆を狙うグループが政府派と反政府派、双方を狙撃していたことからウクライナでも似たことがあるだろうと予想されていた。 21日に調印された平和協定を嫌っていたのがネオコン(アメリカの親イスラエル派)。話し合いで解決しようというEUの方針を「ソフト」だと怒り、「EUなんかくそくらえ(F*ck the EU)」と口にしたビクトリア・ヌランド国務次官補はネオコンを象徴する人物だ。このヌランドが高く評価していたアルセニー・ヤツェニュクは後にクーデター政権の首相代行になる。 ヤツェニュクは1998年から2001年までアバル銀行で働き、03年から05年までウクライナ国立銀行の副頭取、そして頭取を務めた人物。2005年頃からサイエントロジーなる団体のメンバーになっていると言われている。サイエントロジーはアメリカの「疑似宗教団体」で、映画俳優のトム・クルーズが信者だということでも知られている。 憲法の規定を無視、ネオ・ナチを使い、選挙で選ばれたヤヌコビッチ大統領を追い出してトゥルチノフ大統領代行/ヤツェニュク首相代行のクーデター政権が「西側」の支援で成立すると、東部や南部で住民の反発が広がる。治安機関や軍の内部でも離反者が少なくないようで、キエフのクーデター政権が独力で制圧できる状況ではなくなった。 1月の段階でシリアから約350名の戦闘員がウクライナ入りしてクリミアへ潜入、3月からアメリカの傭兵会社に所属する戦闘員(民間特殊部隊)が数百人単位でウクライナ入りしたと言われ、セルゲイ・ラブロフ露外相は、約150名の傭兵がウクライナのソコル(特殊機動警察)の制服を着て活動していると語っていた。 この傭兵会社とはアカデミ(旧社名はブラックウォーター)系列のグレイストーン。ドネツクへオリガルヒ(一種の政商)のセルゲイ・タルタが知事として入った際、傭兵を従えていたとも伝えられている。 キエフのクーデターからオデッサでの虐殺まで中心的な役割を果たしてきたのはネオ・ナチだが、そのグループをNATOは軍事訓練、あるいは訓練に協力してきた。そのNATOはウクライナ周辺で軍事力を増強、戦闘機は通常の3倍に膨らんでいるようだ。 現在、ウクライナの東部や南部ではクーデター軍による掃討作戦が行われている。CIAやFBIのエージェントはキエフにいるようだが、アメリカの「元特殊部隊員」が大半の傭兵がその作戦に参加している可能性は高い。 それに対し、住民側にはウクライナの軍や治安機関の離脱者や退役軍人が加わって応戦している。装備の違いはあるが、簡単に制圧できそうにない。ロシア軍が介入しない一因はこの辺にありそうだ。 しかし、NATOとロシア軍が衝突する可能性がないとは言えない。日本が集団的自衛権を使うということはアメリカが動かしているNATOとつながることを意味するわけで、NATOとロシアが戦争を始めれば、日本はロシアや中国と戦争を始めなければならなくなる。 来日したオバマ大統領から安倍首相はロシアへ接近するなと脅されたようだが、これもウクライナ情勢が影響している。アメリカが支援するキエフのクーデター政権はネオ・ナチを使っているわけで、このネオ・ナチが戦争を始めたなら日本はファシストのために戦うことになる。 アメリカがネオ・ナチを使って破壊と殺戮を繰り返し、NATOもロシアを挑発している現実を無視、結果としてウクライナでの軍事的な緊張を煽り、安倍首相のロシア訪問を批判する人が「リベラル派」として影響力を持っているような国が集団的自衛権を手にすることは非常に危険だ。
2014.05.06
オデッサで約40名の反クーデター派住民が焼き殺されたと報道されている(現地では約300名が殺されたと言われている)が、これは現場にいた右派セクターの暴走でなく、キエフのクーデター政権、その顧問を務めているCIAやFBIが仕組んで出来事だった可能性が出てきた。(焼け跡の調査で、死者の一部は火が出る前に射殺されるなど別の原因で殺され、遺体が動かされていることが判明、レイプされている疑いもあり、放火は証拠隠滅が目的だった可能性も出てきた。火災の際、屋上にいた人びとは屋上へのドアをロックしていた疑いもある。) 事件後、現場の映像がインターネット上で流れているのだが、その中で警官隊と行動をともにしている一団が映っている。腕には反クーデター派を示す赤いテープが巻かれ、銃を手にしている者もいて、警察の幹部と思われる人物と何かを話しながら歩いている人物もいた。警官の何人かも腕に赤いテープを巻いている。 ある路地では警官隊が壁を作り、その背後から投石だけでなく射撃する人物もいる。画面の見えない場所から逃げてきた一団を警官隊は壁を開けて通し、追いかけてきた人びとから守っている。追いかけてきたのは親クーデター政権派のようだ。後にそのグループは反クーデター派がテントを張っていた広場へ向かい、襲撃することになる。この赤いテープを腕に巻いた一団は反クーデター派の住民でなく、一体、何者かが問題になっている。 その日、何千人かの親クーデター派(右派セクター)がオデッサに集まった理由はサッカーの試合があったからなのだが、非常に不安定な状況になっている地域での試合を当局が許可したことに疑問を持つ人は少なくない。反クーデター派と衝突させるために誘導されたと見るべきだろう。 しかも、反クーデター派の住民が焼き殺された後、警察は反クーデター派の住民を逮捕している。怒った住民1000名以上が警察署を取り囲み、拘束されていた67名は解放されたものの、クーデター政権は警察署長を交代させ、新署長は釈放の決定を見直すとしている。 広場にいた反クーデター派住民への襲撃を警察が止めず、消防車の到着が大幅に遅れたこともあり、全てはキエフのクーデター政権が計画したと考える人もいる。クーデターに反対し、「西側」の「国境なき巨大資本」に逆らう人間は焼き殺すというデモンストレーションだという意見もある。 これまで「恐怖戦略」は繰り返されてきた。例えば、1948年4月9日、パレスチナではデイル・ヤシン村がシオニスト(イルグンとレヒ)に襲撃され、村民254名が虐殺されたが、これはアラブ系住民を脅し、追い出すことが目的だった。同じことがオデッサでも行われたのではないか、ということだ。おそらく、日本のような国ならば効果的な作戦だろうが、革命を経験し、ナチスと死闘を演じた地域に住む人が怖じ気づくかどうかはわからない。 攻撃を正当化するため、「生け贄」が使われたと疑われているケースもある。例えば、イラクでは2004年4月にファルージャで4名の傭兵が殺され、その出来事を切っ掛けにして戦闘が激化している。その際、「西側」のメディアは「民間人」が虐殺されたと扇情的に報道していたが、勿論、この表現は正しくない。4名の前歴を見ると、3名が海軍の特殊部隊SEALの元隊員、ひとりは陸軍のレンジャー出身だった。アメリカ軍の一般兵士より戦闘能力は高い。 その1年前、ファルージャではアメリカ軍が非武装の住民を銃撃、20名近くを殺している。イラク人は恐怖で屈服せず、反米感情を強めていき、一触即発の状況になった。そうした場所へ軽武装で4名のアメリカ人を入れたのである。 善意に解釈すれば無謀。戦乱を広げるために仕組まれた可能性もあるだろう。戦争が続けば、軍需産業など戦争ビジネスだけでなく金融機関も大儲けでき、イラクが発展して自立することも避けられる。アメリカという国が衰退することを「国境なき巨大資本」は気にしていない。国が弱体化すれば、巨大資本が乗っ取ることができる。 巨大資本がウクライナを制圧できなくても戦乱が拡がればロシアからEUへ天然ガスや石油を運ぶパイプラインを剪断することができる。ロシアの収入源を潰せるだけでなく、EUへのエネルギー供給も絶たれてしまう。つまり、ロシアとEUを弱体化できる。アメリカにとってロシアは「表の敵」だが、EUは「裏の敵」だ。 当然、EUもアメリカのこうした思惑は理解している。EUの指導層は買収されているようだが、そうした人びとだけではない。最近の動きを見ていると、ドイツで風向きの変化が見られる。 つまり、キエフの暫定政権の顧問としてCIAやFBIの専門家数十名が送り込まれているとビルト紙日曜版が報道したのに続き、スラビャンスクで拘束されていたOSCE(欧州安全保障協力機構)メンバーのうち、ドイツ人の4名は情報機関と接触していたと南ドイツ新聞が伝えているのだ。わかっていた話だが、「西側」のメディアが伝えたという事実は興味深い。
2014.05.05
オデッサで反クーデター派の住民約40名が焼き殺された。その様子がYouTubeで流れている。「西側」のメディアは親ロシア派と親ウクライナ派が衝突、建物に火がついて死傷者が出たと伝えてネオ・ナチの存在を隠しているが、実際は右派セクターを中心とするクーデター派が広場でテントを張っていた反クーデター派を襲い、テントに火をつけるところから始まる。 この襲撃を受け、子どもや女性は近くの労働組合会館へ逃げ込むのだが、その建物に襲撃グループは火炎瓶を投げつけて炎上させ、逃げ道を塞いだという。襲撃グループのメンバーが建物に向かって銃を撃つ光景も撮影されている。 クーデター政権の内務省は当初、反クーデター派が自分たちで火をつけたと主張していたが、映像がインターネットで流れ、メディアのコントロールだけでは事実を隠せないと思ったのか、アルセニー・ヤツェニュク首相代行は治安当局に責任を転嫁している。 こうした展開にドイツ国内でも危機感を抱く人が増え始めたのか、ビルト紙日曜版はキエフの暫定政権にアドバイスするため、CIAやFBIの専門家数十名を送り込んでいると報道している。 今回の東部や南部での掃討作戦に直接加わっているわけではないというが、アメリカ政府の命令、あるいは承認を受けて軍や治安機関が動いたことは間違いないだろう。4月12日にジョン・ブレナンCIA長官がキエフを極秘訪問した2日後にアレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行が東部や南部の制圧作戦を承認、22日にはジョー・バイデン米副大統領がキエフを訪問、その直後から軍事力の行使へ急速に傾斜し、IMFの融資が決まった。 ウクライナ東部では掃討部隊の内部で英語が飛び交っているとも言われ、アメリカの傭兵が参加していても不思議ではない。今年1月にはシリアで戦っていた戦闘員約350名がウクライナへ移動、アメリカの傭兵会社、アカデミ(旧社名はブラックウォーター)系列のグレイストーンに所属している戦闘員(特殊部隊員)が数百名の単位で入国、その一部はオデッサへ入ったと言われているのだ。 今回の出来事を見たロシア、ウクライナ、ベラルーシの少なからぬ人びとは1943年3月22日の虐殺を思い出しているようだ。この日、ミンスクのハティニ村で村民149名が焼き殺されたのである。実行者はドイツの第118補助警察大隊。1942年にウクライナ西部のファシストを中心に編成された部隊だ。 ドイツに占領されていた3年間にベラルーシでは約200万人以上が殺されたと言われているが、その中でもハティニ村のケースはウクライナのファシストの残虐さを象徴する出来事として語り継がれている。それと似たことをキエフの暫定政権が送り込んだネオ・ナチが行ったわけであり、その影響は今後、出てくるだろう。 こうしたネオ・ナチの台頭を懸念する声はイスラエルでも出ている。ネオ・ナチを使っているのは親イスラエル派(シオニスト)のネオコンだが、ユダヤ人は心中穏やかではないようだ。シオニストとユダヤ人との間の亀裂が大きくなる可能性も出てきた。 ネオコンをはじめとする「西側」の支配層がキエフでクーデターを実行した際、ネオ・ナチが中心的な役割を演じたことは明白だった。市街を火と血の海にした狙撃についてエストニアのウルマス・パエト外相はEUのキャサリン・アシュトン外務安全保障政策上級代表(外交部門の責任者)に対し、責任は「西側」が支援している勢力にあると2月26日に報告している: 「全ての証拠が示していることは、スナイパーに殺された人びと、つまり警官や街に出ていた人たち双方、そうした人びとを同じスナイパーが殺している。同じ筆跡、同じ銃弾。実際に何が起こったかを新連合(暫定政権)が調査したがらないほど、本当に当惑させるものだ。スナイパーの背後にいるのはヤヌコビッチでなく、新連合の誰かだというきわめて強い理解がある。」「新連合はもはや信用できない。」 遅くともこの段階でアシュトンも実態を知ったはずだが、「議会を機能させなければならない」と応じてネオ・ナチを守り、その後もEUはアメリカと同じようにクーデターを支持しているわけだ。 クーデターの前までウクライナの治安機関SBUの長官だったアレクサンドル・ヤキメンコは、狙撃などクーデター派の軍事行動を指揮していた人物としてアンドレイ・パルビーの名前を挙げ、アメリカの特殊部隊と接触しているともしていた。パルビーは1991年にネオ・ナチの「ウクライナ社会ナショナル党(後のスボボダ)」を創設したひとりで、現在、国防省や軍を統括する国家安全保障国防会議の議長に就任している。 こうした事実が明らかになっているにもかかわらず、「西側」のメディア、「リベラル派」、「革新」勢力はネオ・ナチを「民主化勢力」であるかのように表現してきた。アメリカの支配層に背きたくないという心理が働いていると思われても仕方がないだろう。つまり、「西側」支配層の「秩序」からはみ出すことなく「リベラル」、あるいは「革新」を演じるためには、ネオ・ナチを「民主化勢力」だと言い張らなければならない。 そう言えば、ウィリアム・シェークスピアの書いた『マクベス』の中でマクベス夫人はマクベスについて次のように言っている: 「欲しくてたまらないものでも、汚れない手で摑みたい。汚いことはしないで、ごまかして手に入れたい。」(ウィリアム・シェークスピア作、木下順二訳『マクベス』岩波文庫、1997年)
2014.05.04
ウクライナの南部にあるオデッサで、キエフのクーデター政権に反対する住民40名以上が死亡、その大半は避難先の労働組合会館で焼き殺されたようだ。地元のサッカー・チームの「ファン」が行進を始めたのが争乱の発端だが、「ファン」の大半は右派セクターである。 つまり、サッカー・ファンという看板を掲げたネオ・ナチが示威行進を始め、広場にテントを張っていた反クーデター派のグループを襲撃、そこで数人が殺され、襲われた住民は労働組合会館へ逃げ込んだのだが、その会館へ襲撃グループが放火、逃げ道を塞いで焼き殺したようだ。この間、警官は傍観していたという。 右派セクターのようなネオ・ナチはキエフのクーデターで中心的な役割を果たしたが、そうしたグループだけでなく、今年1月にはシリアで戦っていた戦闘員約350名がウクライナへ移動、アメリカの傭兵会社、アカデミ(旧社名はブラックウォーター)系列のグレイストーンに所属している戦闘員(特殊部隊員)が数百名の単位で入国、その一部はオデッサへ入ったと言われている。 治安機関や軍を掌握し切れていないクーデター政権はこうしたグループを主力とせざるをえないだろう。議会が承認した6万人規模の国家警備軍もメンバーの主体はネオ・ナチのようで、ナチスの「親衛隊」に似た存在。 ところで、オデッサは黒海に面した都市で、1905年に戦艦ポチョムキンの水兵が反乱を起こした場所としても有名。この出来事をテーマにした映画をセルゲイ・エイゼンシュテインが後に作っている。 第2次世界大戦ではドイツ軍やルーマニア軍に占領され、残っていたユダヤ系住民の大半が殺された。現在でも住民の間で反ナチス感情が強く、ネオ・ナチのクーデターで登場したキエフの暫定政権を拒否している。 ところが、そのネオ・ナチを使っているネオコンはアメリカ支配層の親イスラエル派。その系譜をたどると、1925年に「修正主義シオニスト世界連合」を創設したウラジミール・ジャボチンスキーに行き着く。この人物はオデッサの生まれだ。ネオコンの思想的な支柱と言われているレオ・シュトラウスは「ユダヤ系ナチ」とも言われているが、ジャボチンスキーにも当てはまりそうだ。 ジャボチンスキーは第1次世界大戦の際にイギリス軍へ参加した。第2次世界大戦では彼の後継者たちがイギリスと手を組み、対外情報機関のMI6(SIS)や破壊工作機関のSOEから訓練を受けている。その中から生まれたのがシオニストの武装集団ハガナ。後にイスラエル軍の中核になる。 ハガナから1931年に分離したのがイルグン。そのイルグンから1940年に分かれて結成された武装集団がレヒ(通称、スターン・ギャング)。このころ、ジャボチンスキーは死亡、後継指導者のひとりであるベンシオン・ネタニヤフの子どもはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相だ。レヒを率いていたアブラハム・スターンはイタリアのベニト・ムッソリーニと接触し、アドルフ・ヒトラーのドイツにも接近している。この事実を指摘するユダヤ系の人びとは「自虐」だとして激しく攻撃されるらしい。 第2次世界大戦後、イルグンやレヒは破壊活動を続け、1946年にはエルサレムのダビデ王ホテルを爆破、91名を殺害している。そして1948年4月4日、アラブ系住民を追い出すためにシオニストは「ダーレット作戦」を発動、9日未明にイルグンとレヒはデイル・ヤシン村を襲撃、住民を虐殺した。襲撃直後に村へ入った国際赤十字のジャック・ド・レイニエールによると、254名が殺され、そのうち145名が女性で、35名は妊婦だった。この虐殺にハガナは関係していないことになっているのだが、4月6日にハガナの副官がイルグンとレヒの幹部とエルサレムで会い、軍事作戦への協力で合意している。 ここでイスラエル建国時の話を書いたのは、ハガナとイルグン/レヒとの関係がウクライナにおけるNATOとネオ・ナチとの関係に類似しているように思えるからだ。まずキエフ、そして今は東部や南部の諸都市で「汚い仕事」をしているのはネオ・ナチだが、その黒幕はアメリカ/NATO。とりあえずネオ・ナチを暴れさせ、状況次第では切り捨てるつもりだろう。 東部のスラビャンスクやクラマトルスクでも掃討作戦が展開されて多くの死傷者が出たようだ。スラビャンスクでの詳細は不明だが、クラマトルスクでは右派セクターが住民を銃撃、10名を射殺したと伝えられている。IMFから東部や南部を制圧するように圧力をかけられていることもあるのだろうが、これだけ犠牲者が出ると混乱は戦乱になり、戦いは長引く可能性がある。そうなると、EUにとっても深刻な事態だ。そうなることが指摘されていたにもかかわらずアメリカ支配層に追随したEUの指導層。責任が追及されることになるだろう。 国連はウクライナでも無能ぶりをさらけ出している。この国際機関へアメリカ政府が2012年に送り込んだジェフリー・フェルトマン国連事務次長はレバノン駐在米国大使を経て国務次官補に就任した人物で、 中東にアメリカが干渉することは許されるが、イランの干渉は脅威だという立場だ。 フェルトマンがレバノンにいた2007年、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュはニューヨーカー誌でアメリカ政府がサウジアラビアやイスラエルと共同でシリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始したと書いている。
2014.05.03
ウクライナ東部ドネツク州のスラビャンスクをキエフのクーデター政権が5月2日午前5時に攻撃を開始したと伝えられている。ロシアの撮影した衛星写真にはスラビャンスクの周囲を1万5000名以上のキエフ軍が包囲しているとロシアのRIAノーボスチ通信は伝えていたが、そうした中、装甲車のほか、20機ほどのヘリコプターを使って掃討作戦を開始したという。反クーデター派の住民が拘束したOSCE(欧州安全保障協力機構)のメンバー8名(ドイツが4名、スウェーデン、チェコ、デンマーク、ポーランドがそれぞれ1名ずつ)は情報将校で、実際、偵察中だったようだ。 キエフ側は9カ所、あるいは10カ所の検問所を制圧、右派セクターのメンバーが1組3名のグループで市内へ潜入を図っているようだが、その一方で住民側はキエフ軍の戦闘ヘリMil Mi-24を2機撃墜、輸送ヘリMil Mi-8に損傷を与えて不時着させたという話が伝わっている。「刀狩り」に成功していれば容易に制圧できただろうが、武装解除できなかったことから内戦に発展する可能性もある。 東部や南部でクーデター政権への反発が強まる中、4月12日にジョン・ブレナンCIA長官がキエフを極秘訪問、14日にアレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行が東部や南部の制圧作戦を承認、22日にはジョー・バイデン米副大統領がキエフを訪問し、その直後から軍事力の行使へ急速に傾斜、IMFの融資が決まった。この間、NATOはウクライナの周辺に戦闘機や早期警戒管制機などを増強している。アメリカ政府は武力解決、あるいはウクライナの混乱を望んでいるようだ。 アメリカの支配層がウクライナを欲しがる理由はいくつかある。例えばウクライナの資源。すでにシェブロンのようなエネルギー産業やモンサントのような食糧ビジネスが浸食しつつある。また、東部の工業地帯は「西側」の「国境なき巨大資本」へ膨大な利益をもたらす。だからこそ、IMFは東部の制圧を求めているのだろう。東部地域の制圧をIMFは融資の条件にしていた。 第3に、ロシアからEUへ天然ガスや石油を運ぶパイプラインの剪断。資源の輸送をブロックすれば、ロシアの収入を減少させられ、EUとロシアとの関係を壊せる。第4に、NATOをロシアとの国境近くまで進めることができ、軍事的にロシアを脅し、場合によっては攻撃することができる。 もっとも、巨大資本の思惑通りに進むとは限らない。ロシアを攻撃した結果、中国との関係が強まり、BRICSの結束が乱れているようには見えない。ドルが基軸通貨だということでアメリカは世界に君臨していられるのだが、ロシアや中国が貿易の決済を別の手段に変更しようとする動きを促進、アメリカを中心とする支配システムの揺らぐ可能性も出てきた。 投機で富裕層や巨大資本が富を独占する仕組みを築いてきたため、アメリカの産業や社会は崩壊、つまり国の根幹は朽ち果てようとしている。他国の企業を乗取っても、企業を育てる能力をすでに失っている。現在のシステムを変えない限り、軍事力で世界を制圧しても維持することは難しいだろう。その前に軍事力で制圧することもままならない。武力で屈服させようとしても、敵を増やすだけのことだ。メディアを使ったプロパガンダもかつてほど効果的ではない。 ウクライナを戦乱へと導いてきたのはネオコン(アメリカの親イスラエル派)。ロバート・ゲーツ元国防長官の回顧録『任務』によると、リチャード・チェイニーはジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めていたとき、ソ連やロシア帝国が消滅するだけでは不十分で、ロシアという存在自体を抹殺するべきだと話していたというが、そうした行動はアメリカの存在自体を危うくする。(Robert M. Gates, “Duty,” Alfred A. Knopf, 2014)ネオコンによってアメリカは破滅へ向かって疾走させられているようだ。
2014.05.02
今年2月にウクライナで実行されたクーデターで中心的な役割を果たしたのはネオ・ナチだった。そうした集団がアメリカ/NATOから訓練を受けたというバルト諸国やポーランドでもナチズムが影響力を強め、西ヨーロッパでも問題になっている。 勿論、ナチズムが「西側」で問題になるのは奇妙な話である。何しろ、そうした考え方をする集団を支えてきたのは「西側」、特にアメリカの支配層、より具体的に言うならばウォール街を拠点とする「国境なき巨大資本」にほかならないからだ。 NATOがネオ・ナチを含む「右翼」を破壊活動の手先として使っていたことは1990年にイタリアのジュリオ・アンドレオッチ政権が明らかにしている。「いわゆる『パラレルSID』グラディオ事件」というタイトルの報告書を公表、NATOの内部には秘密部隊(イタリアではグラディオと呼ばれている)が存在していることを公的に認めているのだ。メディアや学者が知らないとは思えない。 こうした秘密部隊はソ連軍に占領された場合にゲリラ戦を行うという名目で設置されたのだが、国内の左翼勢力を壊滅させることに目的は変更され、1960年代から80年頃まで「極左」を装って爆弾攻撃を繰り返した。NATOに加盟している国には必ずこうした秘密部隊が存在し、「右翼過激派」を守ることが義務づけてられている。(Daniele Ganser, “NATO’s Secret Armies”, Frank Cass, 2005) 第2次世界大戦の前、ファシストの台頭を支援していたのはドイツやアメリカの「国境なき巨大資本」。そうした巨大資本にとって都合の悪いフランクリン・ルーズベルトがアメリカの大統領に就任すると、反ルーズベルトのクーデターが計画されたという。名誉勲章を二度授与された伝説的な軍人、スメドリー・バトラー海兵隊少将がこの計画を議会で証言して明らかになった。つまり、公式記録が残っているわけで、メディアや学者は知らなければならない。 ウォール街の大物たちは「冗談」だと弁明したようだが、説得力はない。バトラーによると、彼らはフランスの「クロワ・ド・フ(火の十字軍)」のような集団を組織しようとしていた。 バトラー少将から話を聞き、取材したポール・フレンチの議会証言によると、ウォール街のメンバーは「共産主義から国家を守るため、ファシスト政府が必要だ」とインタビューで答えている。ウォール街は「親ファシスト派」だ。 つまり、第2次世界大戦が始まり、ドイツがソ連に攻め込んだときにイギリスなど「西側」が静観していたのは当然であり、ドイツが降伏するとウィンストン・チャーチル英首相はJPS(合同作戦本部)に対し、ソ連を攻撃する計画を作成するように命じている。そして、7月1日に米英軍数十師団とドイツの10師団がソ連を奇襲攻撃するという「アンシンカブル作戦」が出来上がるのだが、参謀本部に拒否されて実現しなかった。 一方、アメリカではドイツが降伏する前の月にルーズベルトが執務室で急死、ウォール街が実権を握った。ナチスの戦争責任を問う声が高まる中、アメリカ政府はナチスの元高官や科学者たちをラテン・アメリカなどへ逃がして保護、さらに雇っている。1950年代からラテン・アメリカではアメリカの訓練を受けた軍人によるクーデターが頻発、ウォール街は利権を確保、拡大していく。 大戦前、日本もウォール街の影響下にあったことを忘れてはならない。関東大震災の復興資金を調達するために日本政府はJPモルガンに頼っているが、この金融機関こそ反ルーズベルト・クーデターの中心的な存在。この金融機関と深く結びついていた井上準之助は「適者生存」を信奉していた。つまり弱者切り捨て。 彼の打ち出した政策は、緊縮財政(小さい政府)、産業合理化(労働者解雇)、金解禁(金本位制)。いずれもウォール街が望んでいたもので、景気を急速に悪化させ、失業者は急増、農村では娘が売られるという惨状を生み出したわけだ。そして1932年2月9日に暗殺される。 井上が暗殺された頃、アメリカの駐日大使に指名されたのがジョセフ・グルー。その親戚、ジェーン・グルーはジョン・ピアポント・モルガン・ジュニア、つまりモルガン財閥総帥の妻であり、グルーの妻は大正(嘉仁)天皇の妻、貞明皇后(九条節子)と華族女学校(女子学習院)からの友だちだという。戦後、グルーは「ジャパン・ロビー」の中心メンバーとして日本を「右旋回」させていく。 それでもニューディール派が残した「民主主義の種」は残り、それを潰す作業が延々と続いてきた。「戦後レジーム」からの脱却とはそうした作業の延長線上にあり、ウォール街への従属を意味している。巨大資本への反発がネオ・ナチ/ファシストを台頭させる一因になっているようだが、そのネオ・ナチを操ってきたのは巨大資本にほかならない。 ウクライナでもこの関係が明確に出ている。暫定政権で要職に就いているのは巨大資本の傀儡とネオ・ナチ。巨大資本が作り上げたIMFはウクライナに170億ドルを融資(支援ではない)すると言っているが、その条件は東部の反クーデター派を制圧することにある。工業地帯を押さえなければ、ウクライナの「おいしさ」は大幅に低下してしまうというわけだ。
2014.05.01
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