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今日のまとめ 1. 中国経済は第二次産業への依存度が高い 2. 中国の消費セクターはまだまだ規模が小さい 3. 中国政府の大型景気テコ入れ策はそれなりに良く練られている 4. しかし即効性の面からは「箱物」への投資が景気浮揚効果を生みやすい ■中国経済の工業部門への依存 中国経済はGDPの中に占める第二次産業の占める比率が極めて高いです。第二次産業とは工業や製造業などを指します。歴史的に見て各国の経済はその成長発展段階の或る時点において高度な工業化を経験し、その後、所得が向上し賃金水準が上昇するとともにだんだん経済の中心がサービス業に代表される第三次産業へと移ってゆく傾向があります。下の図は主要国のGDPに占める第二次産業の比率を過去のレンジ(青色)で示したものです。これを見ると米国、英国、フランス、ドイツ、日本など先進国はいずれも現在、第二次産業比率が最も低くなっていることがわかります。(出典:CFRブログ、ブラッド・セッサー) ■内需、内需と言うけれど・・・ さて、日本がバブルに踊った1980年代はアメリカから「日本は輸出ばっかりじゃなくて、もっと内需を拡大すべきだ」という要求をしばしば受けました。当時は日本も景気が良かったのでどんどん高級ブランドやレジャー産業も普及し、貿易不均衡是正への努力は「それなりにやった」という実感を私のようにその時代を生きてきた人間としては感じます。(ティファニーが日本へ進出し、浦安にディズニーランドができたのはこの頃です。)日本が歩んできた、「いつか来た道」を、いま中国が歩むことが世界から期待されています。とりわけサブプライム問題以降、米国の消費の先行きが怪しくなっているので中国に寄せる世界の期待は並々ならぬものがあります。しかし、この中国内需待望論はどこか間違ってはいないでしょうか? ■そもそもソロバンとして無理 中国の消費者にアメリカの凹んだ部分を穴埋めしてもらうという考え方は、そもそもソロバンとして無理だという事を先ず指摘したいと思います。下のグラフは中国と米国の消費がGDPに占める割合からそれぞれの国の消費市場の規模を単純に算出したものです。 いま、米国の消費市場は約845兆円、一方の中国のそれは76兆円です。米国の消費市場は好景気の絶頂のときと、通常の不景気の谷間では大体、4.5%程度スウィングすると言われています。好景気だった2007年から今年、そして来年にかけての消費の落ち込みはまさしくそういうスウィングの例だと思いますが、そこで失われる消費が大体、38兆円と言われているのです。すると「中国に頑張ってもらおう」と言っている間にも既に中国の全消費の約半分に匹敵する需要が消滅しようとしているわけで、これを中国ひとりに埋め合わせしろというのは土台無理な要求なのです。 ■大型の景気刺激策はどうか? 中国は11月のはじめに4兆人民元という大型の景気テコ入れ策を発表しました。その中には10項目からなる重点項目が盛り込まれています。それらは今後中国が取り組んでゆかねばならない経済の体質改善を考慮した、よく練られたプランであるような印象を受けました。しかし、投入した予算がどれだけすぐに成果を生むか?という実効性から考えた場合、どうしても重工業や建設業などの第二次産業がいちばん即効性を持っていると言わざるを得ません。なぜならそれらのセクターは固定比率が高く、今回の景気後退でとりわけ需要の減退に苦しんでいますから、新しい刺激策を受けることで景気を浮揚する効果が極めて高いからです。 ■「箱物」依存型の復興シナリオになりやすい? もちろん、中国政府は今回の景気刺激策の重点項目の中に環境保全や地方での医療制度・インフラの充実、教育分野への投資など、思慮深い項目を盛り込んでいます。また、雇用創出力の大きいサービス産業への注力も謳われています。しかし目先の投資リターンという点から考えれば、どこかの国がそうであったように所謂、「ハコモノ」に傾倒した財政撒布こそ一番効き目があるのも事実なのです。
2008年11月29日

今日のまとめ 1. 超低金利時代の到来はゴールドに投資することの不利をある程度和らげる 2. マネーの健全性が損なわれたとき、ゴールドの人気が出る 3. 貿易摩擦、国際緊張の高まりはゴールドの強気要因 4. デフレ圧力よりマネーの健全性に対する不安の方が勝てば金は上昇する ■中国の景気刺激策 今回は金鉱株に投資するにあたって知っておかねばならない点をまとめたいと思います。先ずなぜ今金鉱株に注目するのか?という点を簡単に説明します。 ■超低金利時代が来る いま世界的に政策金利は物凄い勢いで低下しつつあります。それは世界の景気がとても悪いからです。下のグラフのように米国のトレジャリー・ビルの利回りは僅か2bp(ベーシス・ポイント)しかありません。つまり金利はゼロに限りなく近いわけです。(出典:CFRブログ、ブラッド・セッサー) このことはゴールドないし金鉱株に投資する際、極めて重要なポイントです。なぜなら金の延べ棒そのものは利子を生みませんから銀行預金など利子のつく投資商品からゴールドに乗り換えた瞬間に金利を受け取るチャンスを諦めないといけないからです。したがって低金利はゴールドの持つこの不利な面を補う効果があります。 ■若し恐慌が来たら 次に、これは誰にとっても喜べないシナリオですが、ひょっとすると今回の不景気は相当ひどくなるかもしれません。その場合、最初はデフレになって世界的に物価が下がります。(この場合、当然、ゴールドの価格も下がりますから気をつけてください!)デフレはある意味、インフレと同等か、それ以上に怖いです。とりわけ農業従事人口の巨大な中国、インド、ブラジルなどの新興国では農産物の価格下落は即時に政権の不安定を意味します。このためこれらの国はデフレが来ると何とか価格下落を食い止めようとします。その場合、手っ取り早い方法は政府がお金をどんどん印刷するというやり方です。それはその国のマネーの健全性を損ないかねない危険な選択です。下のチャートは1930年代の大恐慌のとき、米国のダウ工業株価平均指数(赤)がどう動いたかを示すものです。(出典:シルバー・ゴールド・チャーツ・ブログスポット・ドットコム) 緑のホームステイク・マイニング(当時の代表的な金鉱株です)の急騰ぶりが嫌でも目に入りますね。実はホームステイク・マイニングの大相場の基点となった1931年にはイギリスをはじめ世界12カ国が相次いで金本位制度を離脱しているのです。(大暴落の1929年からゴールドが動き出す1931年までタイムラグがあることをお忘れなく!) 金本位制度というのは政府がお金を刷る場合、その紙幣の価値の裏づけとなるゴールドを政府がちゃんと保有していなければいけないというルールです。これだと政府は無闇やたらに輪転機を回すことはできません。そこで大恐慌時代の容赦ないデフレを阻止せんがために各国は次々に金本位制度を捨て、インフレ政策に走ったのです。 ■今後我々が気をつけるべきニュース 今は世界の政府は自由貿易を擁護したいという考えで足並みが揃っています。しかし不況が長引き、失業者が溢れると政府は次第に保護主義に走ったり輸出ダンピングに走ったり自国通貨を弱く誘導したりしはじめます。すると国家間の緊張が高まる危険性もあります。事実、WTOの農業ラウンドにおける世界の対話は既に暗礁に乗り上げており、暗雲がたちこめつつあります。従って今後、「何処かの国が輸入品に関税をかけるようになった」とか「ダンピングで提訴した」とかのニュースを頻繁に聞くようになったら、ゴールドに注目しはじめて良いという事です。 ■実物市場と金融市場におけるゴールドへの需要の落差 さて、このところ奇妙な現象がゴールドの投資家の間で話題になっています。それはゴールド・コインや延べ棒のような「実物」に関しては極めて旺盛な需要があることが世界的に報告されているということです。サウジアラビアのゴールド・スーク(市場)では金製品が飛ぶように売れているし、米国でもゴールド・コインの人気は高く、造幣局では鋳造が間に合わず「割り当て制」になっているそうです。 その反面、ゴールドの価格自体は他のコモディティーや株式市場の下げと歩調を合わせて軟調な展開でした。どうしてこのような事が起こるのでしょうか?ひとつには今は最初に説明したデフレ圧力がのしかかっているので:デフレ圧力 > マネーの健全性という力関係になっているのだと考えられます。またコモディティー・ファンドの解約やディ・レバレッジング(投資ポジションの縮小)も影響していると思われます。今後、これらの力関係が逆転するかどうかに注目してください。 なおゴールドの「実物」を巡る需給関係は下のグラフのようになっています。赤の部分が実際の需要と供給の「不足分」になります。つまり需給関係はタイトであると言えるでしょう。また産金会社の総生産高はマイナス6%となっており、今後も供給は余り増えそうにはありません。 ■様々な投資機会 ゴールドに投資するには様々な方法があります。先ず一番簡単な方法はゴールドのETF(イー・ティー・エフ=エクスチェンジ・トレーデッド・ファンズ:上場型投資信託)に投資するというやり方です。SPDRゴールド・シェアーズ(ティッカー:GLD)がそれです。 次に金鉱株に投資するというやり方もあります。一般的にETFよりも金鉱株は値動きが激しいことに注意してください。代表的な金鉱株を挙げると:バリック・ゴールド(ティッカー:ABX) 本社はカナダですがニューヨーク証券取引所にも上場されています。同社は金の埋蔵量(1.25億オンス)ならびに生産量(806万オンス)で世界最大の産金会社です。同社の金山は北米、南米、オーストラリアならびに南太平洋という3つの地域にきれいに分散しています。また新しい金山のポートフォリオも充実しています。採掘コストは$350/オンスです。また、同社は産金会社では唯一の「A」格の債券格付けを受けた企業です。バランスシート上のキャッシュは17億ドル、負債は25億ドル、年間の営業キャッシュフローは約20億ドルです。ニューモント・マイニング(ティッカー:NEM) 1925年にニューヨーク証券取引所に上場された老舗の産金会社です。同社の金の埋蔵量は9390万オンスです。生産量は530万オンスでした。同社の特徴は金価格のヘッジを全然用いていないという点です。従って金価格が上昇する局面では一番収益が伸びやすいです。逆に金価格の下落局面では一番業績が悪化しやすい体質となっています。また金山の操業面ではコスト管理が行き届いています。同社の採掘コストは金だけですと417ドル、同時に採取される銅を売ることでネット・ベースでの採掘コストは301ドルに下がります。バランスシートは強固で同社の金山は比較的事故の少ないことでも有名です。アングロゴールド・アシャンティ(ティッカー:AU) 同社はもともと1944年にヴァール・リーフという名前で創業された南アの有力産金会社です。その後コングロマリット、アングロ・アメリカン・コーポレーションの産金事業部門となったため、社名が変わりました。同社は7310万オンスの埋蔵量を誇っています。去年、同社は550万オンスの金を生産しました。同社の金山のうちの4割は南アフリカに所在しており、その大部分は地中深い縦坑から生産されます。このためコスト構造としては露天掘り主体の会社よりも高くならざるを得ません。同社の採掘コストは357ドルです。同社はヘッジを用いていますが最近はだんだんヘッジ比率を引き下げつつあります。ゴールド・フィールズ(GFI) 同社はドリファウンテン、クルーフなどの南アを代表する金山を所有している老舗のひとつです。同社の金山の57%は南アに所在しています。確認埋蔵量は8300万オンス、生産量は364万オンスでした。上に掲げた他社の株価に比べてゴールド・フィールズの値動きはとりわけ荒っぽく、注意を払う必要があります。
2008年11月25日
今日のまとめ 1. 4兆人民元の景気刺激策への市場の反応はいまひとつだった 2. 景気刺激策の財源がどう確保されるのかという問題がある 3. 国民のマインドの萎縮を防ぐため「株式買い支えファンド」案も浮上 4. 新興国が先進国の景気後退を喰い止めたという例は過去に無い ■中国の景気刺激策 先週、中国政府は4兆人民元にのぼる大型の景気刺激策を発表しました。この発表に対する市場関係者の反応は残念ながらいまひとつでした。 これには幾つかの理由があります。先ず4兆人民元の予算のうち、1~2兆人民元はかねてから計画されてきたものであり、新規積み増し部分はそれほど多くないと指摘する向きがあります。 加えて景気刺激策から繰り出される資金はどちらかといえば来年以降に比重が偏っており前倒しの支出により景気後退を未然に食い止めるというシナリオは望み薄になったことも関係していると思います。 いずれにせよ今回の景気刺激策がもたらす中国GDP成長率押上げ効果としては1~2%と見るエコノミストが多いです。 一方、実態経済の減速を示す状況証拠はどんどん積み上がっています。中国の10月の工業生産は+8.2%と9月の+11.4%から大幅な減速になりました。とりわけ鉄鋼の生産は▼17%と落ち込みが激しいです。また発電に関しても過去10年で初めてマイナス成長となりました。 ■景気刺激策に投入される資金の財源の問題 次に4兆人民元の景気刺激策がいまひとつ好感されなかったもうひとつの問題として、その財源をどうするのかという問題があります。 これについてはバンカメリカのエコノミストのように「中国政府は自分のポケットからその予算をやりくりできる」という主張があります。 その一方で中国政府が保有している米国財務省証券を市場で売却し、その原資にするというやり方がいちばんスッキリした方法だという意見も多く聞かれました。その場合、米国政府の資金調達コストは上昇するでしょうし、住宅ローン金利も上昇しかねません。 ■「株式買い支えファンド」? こうした中で中国政府はもっと直接的に株式市場に働きかけ、中国人のマインドの萎縮を防ぐべきだという主張も勢力を増しています。先週、これに関して「株式買い支えファンド」の準備を政府が進めているという観測が浮上しました。中国社会科学院の世界経済研究所に「政策提言」と題された匿名の提案書が送られてきました。その「政策提言」によると中国の株式市場の暴落を防ぐために6000~8000億人民元を投じ市場で50銘柄の主力株を買い支えるべきだと主張されています。出動のタイミングとしては上海総合指数が1500を割り込んだ時だとしています。中国社会科学院世界経済研究所の幹部はその「政策提言」の存在を肯定するとともに同レポートは中国の金融界から好意的に受け入れられ、世界経済研究所にもこれに賛同する多くの声が寄せられことを認めました。さらに「中国の金融当局はこのレポートで主張されているような投資ファンドの設立をかねてから検討してきた」とつけ加えました。 このレポートによれば最悪のケースでは上海総合指数は800から1000まで下落する可能性もあるとしています。そうなってから政府の救済ファンドが出動したのでは遅すぎます。パニック売りを未然に防ぐため政府は指数が1500になったら速やかに出動をかけるべきだとその「政策提言」は論じています。この「政策提言」の著者によれば上海総合指数が1500の水準では9300億人民元あれば流通株の殆んど買いきることができるが、流通玉の3分の1程度を買えば市場を安定化することは可能だとしています。つまり実際には3000~4000億人民元あればよいわけです。このレポートはさらに向こう3年にわたってもともと非流通株だった政府の持ち株で最近の非流通株改革によって流通可能となった分に関しては今一度ロックアップし直すことを提言しています。また同レポートは上海総合指数が1500を割り込んだら生保や社会保障基金などの機関投資家が株式比率を下げることを禁止すべきだと主張しています。(出典:EEO) いずれにせよ上海総合指数が先週後半に持ち直した理由は4兆人民元の景気刺激策の発表を好感したと言うよりはむしろ「株式買い支えファンド」の材料に勇気付けられた面が大きかったのです。 ■過去の景気後退局面との相違点 さて、今回が90年代のアジア通貨危機などの状況と違う点について考えてみると、先ず今回は全世界が同時に景気後退に直面しているという点が挙げられます。過去の新興国の危機ではかならず世界のどこかに経済がしっかりしている地域があり、それが救いとなりました。今回は世界が「中国に頑張ってもらうしかない」と期待しているわけであり、それは重い負担です。実際、新興国が先進国の景気後退を喰い止めたという例は過去にはありません。 次に今回は中国の産業構造がこれまでとは違っているという面も指摘されるべきです。具体的には中国は近年、重工業への傾斜をどんどん進めてきました。それは中国経済が資本集約的な体質になってきていることに他なりません。資本集約的なビジネスに於いては収益性の確保のためには操業度を落とすわけにはゆきませんから売上高、換言すれば出荷量をなんとしてでも確保するということが極めて重要になります。 従って公共事業などを増やすことで国内需要を創出することも重要ですし、先進国における需要が減退してくれば輸出税の還付などの「補助金」を増やす必要も出ます。実際、来月から3700の品目について輸出税の還付を増やすことが既に発表されています。それは外国との貿易摩擦が今後激化することを意味するのではないでしょうか。
2008年11月17日
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