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江戸っ子はつらいよ 3 --江戸っ子丸出しの寅次郎のような人間がいれば、その真逆の人間もいた。長兵衛長屋にも、改易になった黒山藩の元武士、加古無貧左衛門という、名前からして貧しそうな、食い詰め浪人が半年前から住んでいた。 藩が潰れ、江戸に潜り込み、仕官の道を探っていたが、どこの大名家にも相手にされず、傘貼りで糊口をしのぐ日々が続き、月代も伸び放題、染みも目立つしわだらけの着物を着ていたが、それでも、諦めが悪く、武士という身分にしがみついていた。 ぱっぱっぱっと、さっぱり生きてくのが江戸の町人なら、「武士は食わねど高楊枝」といわれるように、気位が高く、名誉を重んじる武士は、一汁一菜で、やせ我慢をしてでも、貧しさを表には出さず、「恥ずかしいことはするな」「他人に笑われるようなことはするな」と何より、武士の体面を大切にした。 加古無貧左衛門も、腹はすいても、刀だけは質にもいれず、武士の魂だと、手入れを怠ることはなく、毎日刀身を抜いては、ぽんぽんと、打ち粉を刀に当てていた。だが、加古無貧左衛門は武術より、文道が得意で、城ではもっぱら、書物整理や書き物をしていて、刀を抜くことも斬りあったこともなく、まして人を斬ったことなどはなかったのだが、藩が潰れ、流浪の身になってみると、今では、その刀こそが、自分が武士であった証であり、誇りであり、拠り所であり、唯一、武士の命が残されているように思えたのであった。「おぬしたち、町人と儂とは身分が違うのだ」 と、常に腰に刀を落とし差しにして、高飛車な態度を崩さなかった。厠や井戸端で長屋の住民と会っても、 居丈高な挨拶をする程度で、加古無貧左衛門が頭を下げたのを見た者はいない。 困りごとがあったら助け合うのが長屋暮らしだが、長屋の親切、おせっかいも受け入れず、当然だが、長屋の連中とはそりが合うはずもなく、馴染むことはなく、加古無貧左衛門は長屋の中で孤高の人になっていていた。江戸っ子気質の町人と武士道にこ拘る武士とでは所詮、水と油だったのだろうか。(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2018.01.30
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江戸っ子はつらいよ 2 おっと、寅次郎、今日という日は、ぼやぼやしちゃあいられねえ、一匹1000文もする初鰹が腐らねえうちに、お得意様へさっさと売ってしまわねえといけねえ、まずは船宿、水月に一本、八幡宮の料理屋、初花に一本、亀久町のご隠居に一本、松平陸奥守様のお屋敷に一本と、深川の町を駆けながら鰹を売り、それから、堀川町の長兵衛長屋に息せき切って帰ってきた。「あら、あんた、きょうは早かったね、、」 酒を飲まずに帰ってきた寅次郎を女房のお里は不思議そうに見た。「おおっ、今日はね、お美代ちゃんのおっかさんに鰹を食わせてやるんだい、、、」 長兵衛長屋の寅次郎の斜め向かいに、病気の母親の面倒を見ながら縫い物をしている、気立てが良く、色白の別嬪のお美代という女が住んでいた。実は寅次郎、このお美代にぞっこんで、「寅さん、お・は・よ・う・ いつも元気で、ほんとに、江戸っ子ですのね」などと言われると、その日一日機嫌が良くなるほどだ。古女房などはどぶに捨てて、いつか、こういう女と所帯を持ちたいという、淡い期待の下心はあったのだが、そんなことはおくびにもださない、いや、だせない。 自分の欲得となると、からきし意気地がない寅次郎である。ただ、お美代の病気の母さんが、「ほととぎすが鳴いてるねえ、初鰹の時期なんだね、食べたいねえ」 と言ってるのを、聞いた寅次郎。そいつは捨ててはおけない、おれは天下の魚屋だ。よしっ、その願い叶えてやろうじゃねえか、てんで、鰹を一本売らずに長屋まで持ってきたのだった。 初鰹はめん玉が飛び出る様な高級品、長屋の庶民が眺められるもんじゃあない。蕎麦が16文、長屋の家賃が400文、今日仕入れた鰹は1000文だ。「お美代ちゃん、初鰹だ、母さんが食いたがってた、初鰹だよ、」 長屋の井戸端で寅次郎、魚桶から鰹を掴みだすと、器用に鰹をさばきだした。「まあ、寅次郎さん、嬉しい、、母さんが喜ぶわ、、、」 口ではおせいじを言ってるが、有難迷惑なのがお美代の本心。酔っぱらいで喧嘩好きの暴れん坊の寅次郎とは関わりを持ちたくはなかったのだ。鰹の匂いがしたのか、野良猫に交じって、長屋のおかみさんがぞろぞろ出てきて、寅次郎の周りに集まり、「私も食べたいねえ、うちの旦那なんか、初鰹の夢までみるんだよ」「あら、いやだ、見てるだけで,よだれが出ちまった」「ちょっと、寅さん尻尾の方でいいからさあ、いい男、、、」 などと、たわごとをいいながら、ちゃっかり、家から皿を持ち出してきて、おすそ分けを狙っている。「だめだめ、この初鰹はお美代ちゃんのおっかさんの病気が直るように仕入れてきたもんだよ」「病気のお房さんが鰹一本食べられるものですか、余りますよきっと」 長屋の井戸端の周りは賑やかで、その真ん中で包丁でぱっぱっぱっと、手際よく鰹を捌く寅次郎、普段は、酔っ払いで喧嘩が日常茶飯事で、長屋の鼻つまみ者だったのだが、この日だけは、役者並みの人気者であったのだ。「いよっ、江戸っ子、いい手捌きだね、惚れ惚れするよ、寅さん、!!!」 やめとけばいいのに、おたよ婆さんが、鰹の見返りを狙って、茶碗酒を寅次郎にすすめる。寅次郎、単純な男である、その酒をぐっと飲んでいい気分になっていて、取り囲んだ長屋のかみさん連中相手に下世話な馬鹿話で笑わせていた。女房のお里はこれからどうなるのか、それが、心配でならなかった。(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2018.01.26
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江戸っ子はつらいよ 1-- そりゃあねえ、なんてったって、江戸っ子の中の江戸っ子といえばねえ、火事場に駆けつけ、纏をかざす、鳶の町火消、日本橋の正五郎と、相場は決まっちゃいるけどね、、、、、 気っ風がよくて、威勢がよくて、宵こしの銭は持たねえと気前がよくて、さっぱりした気性で、義理人情に厚く、強きをくじき弱き助ける、まあ、男の中の男だね、、、 若い娘がきゃあきゃあ言って痺れるのも無理はねえわ、、おっと、誉め過ぎたかな---でもね、江戸っ子なんぞ、ただの見栄っ張りかもしれねえよ、、、---ちょっちょっちょい!もうひとり、粋な江戸っ子をお忘れじゃござんせんかってんだい、そうさ、深川は堀川町、長兵衛長屋の棒て振りの魚屋、魚寅の寅次郎でい。 こととらも、生粋の江戸っ子に違いはねえが、、寅次郎の方は、威勢はいいのだが、、、酒に飲まれる酒飲みで、喧嘩っ早いが、喧嘩に弱い、、、--よっ、江戸っ子--などとおだてられていい気になってる男だ。おっと、寅さん、ごめんなさいね、正直に申し過ぎました。 その寅次郎、明六ツ(午前六時)、まだ東の空に陽が昇ってない薄っ暗い中、魚寅と書かれた長屋の障子を開け、空っぽの魚桶のぶさがった天秤棒を肩に担いで、大きな空欠伸を一つして、女房のお里に、「おっ、行っくらあ、」「いってらっしゃい、気を付けて、飲み過ぎないようにね、」「何言ってやがる、魚河岸に行くんだよ、、」と、女房のお里に見送られ、威勢よく、長屋を飛び出す。 はっはっはっと、と白い息を吐きながら、小走りで、永代橋を渡り、魚の臭いが充満している日本橋の魚河岸に着く。すでに朝売りが始まっていて、店持ちの魚屋や、料理屋の買い出し人、寅次郎のような棒て振りの魚屋たちが仕入れに来て、ごった返している、ぼやぼやしていては、イキのいい魚が手に入らない。「ちょっちょっちょっ、おっと、ごめんよ、!!」 寅次郎は天秤棒と空の魚桶を担いだまま、狭い通りの人込みをすり抜け、本船町の仲買人魚松屋の板船に並んだ鰹の前に立つ。「さあさあさあ、、目に青葉山ほととぎす初鰹でぃ、今朝、上がったばかりの鰹だよ、まだピンピンしてやがる、江戸っ子は女房子供を質に入れてでも買えってんだい!!」顔見知りの魚松屋の番頭、鯖次が声をかけてきた。「おっ!魚寅の寅さん、いいところへおいでなすった、どうでい、この鰹、持ってくかい!!」 寅次郎、鰹の尾を持って品定め。「こいつはよく脂がのってる鰹だ、よしっ、貰った。いくらだい」「寅さんよ、一匹1000文でどうでい、」「御冗談は一昨日(おととい)言いやがれ、将軍様が召し上がるんじゃねえんだ、明日死ぬかもしれねえ、病気の婆さんに食わせるんだい、まけろまけろ!!」「魚寅の泣き落としかい、しょうがねえ、五匹で一両だ、」「よしっ、決まりだ買った!」 買った鰹を魚桶に入れ、ずっしりと重たくなった天秤棒を寅次郎は担ぐ、「はいっ、ごめんよ、ごめんなさいよ、、、」 また小走りで魚河岸の人込みを器用にすり抜け、潮待茶屋なんぞで一休みというわけにはいかない、急いで深川へ走る。永代橋を渡る頃には、朝靄も消え、東の空からお日様が顔をだして、寅次郎の顔を照らしていた。 この時代、冷蔵庫も無けりゃ、氷もない、魚桶の鰹の上には笹の葉が乗ってるだけ、もさもさしてるうちには、魚が腐っちまう、だから、寅次郎のような棒て振りの魚屋は昼までが勝負だった。 昼までに魚を売りさばき、それから堀川町の湯屋、椿湯で、汗を流してさっぱりし、湯屋の二階に上がって、茶汲み女の尻を撫ぜ、酒を飲みながら飯を食う。手慰みの花札博奕に興じ、挙句、喧嘩になることもままある。 早朝から昼までは働き者だが、昼からは暇を持て余して、ぐでんぐでんになるまで酒を飲んでは失敗し、長屋の者にも喧嘩を売って暴れ、あきれられている厄介者だが、気性はさっぱりしてて、欲得よりも義理人情に厚く人がいいところもあるので、「江戸っ子が聞いてあきれるわ!」と、陰口をたたきながらも、長屋の者は当たらず触らず程度に寅次郎とは付き合っていた。(つづく) 作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2018.01.21
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著者:リチャード・マシスン 短編ホラー作家のリチャード・マシスンが書いた二つの超次元恋愛長編小説のうちの一冊である。もう一冊はタイムトラベル恋愛小説の『ある日どこかで』で、両方とも映画化されている。 本作は不慮の事故で命を落とした主人公クリスが「常夏の国」と呼ばれる天国へ辿り着くのだが、毎日のように最愛の妻アンのことばかり気になって落ち着かない状況が続く。そんな折現世では、やはり最愛の夫を亡くしたショックから立ち直れない妻のアンが自殺をしてしまうのだった。 悲しいことに自殺をした者はすぐには天国へ向かうことが出来ない。そして長期間に亘って、自分の創り出した闇の世界である地獄に閉じ籠ってしまうのだ。 そのことを知ったクリスは、愛するアンを地獄から助け出すために、恐ろしい闇の世界へと旅立つのである。だがその難行は未だかつて誰も成功したことがなかった。そして事実クリスも地獄では多くの苦難に遭遇し、やっと逢えたアンにも自分の存在を認めてもらえず、挫けそうになるのだった。 熱烈な恋愛小説仕立てに調理しながら、実は『死後の世界』を科学的に説明してゆく構成は、かなりユニークな実験的手法と言えよう。そして見事にまとめられた思想的背景は、スウェーデン王国出身の科学者スウェーデンボルグが語った死後世界を彷彿させられる。またギリシャ神話や仏教にも染まっているように感じられる。 いずれにせよ、死は誰にでも訪れるものである。だからこそ死に対して無頓着な人は少ないはず。本書は『死後世界の入門書』として、あるいは『死を恐れないための護符の書』として、全世界の人々にとって大いに役に立つはずである。死後世界について興味のある方、また逆に死後世界の存在を全く認めない方たちに、本書を一読されることをお薦めしたい。 さて映画のほうはロビン・ウイリアムスの主演で1998年に上映されている。そしてクリストファー・リーヴ主演の『ある日どこかで』と同様かなり高評価のようだ。私はまだ映画化された『奇跡の輝き』のほうは未観なので、是非ともレンタル屋でDVDを探し出そうと考えているところである。作:五林寺隆※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2018.01.17
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石仏が池のほとりに佇んで七百年の時を見つめる箱根路の木立の陰で浸かる湯にこころの錆も溶けて消えゆく作:五林寺隆※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2018.01.12
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春隣ニュースの後の童唄声かけて友を追い越す雪だまり黄梅を陽に置き替えて春隣作:佐藤ふみ女※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2018.01.06
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ブログの平均寿命は概ね3年前後と言われていますが、当ブログ『木洩れ日の里』は、いつの間にか開設より6年半を迎えてしまいました。この長寿の秘訣は、ひとえに熱心な読者様たちのお蔭だと大いに感謝しております。 また、朽木一空による長編時代小説『忍草シリーズ』は皆様方の大好評を得て、毎回ブログ村・注目記事のトップを飾っております。それに加えて、五林寺隆の『ひろし少年の昭和ノスタルジーシリーズ』も、地道にひろし君ファンを増やしつつあります。この結果に朽木一空及び五林寺隆は当ブログ運営にも、一層のやりがいを感じています。 今後もさらなるチャレンジ精神を忘れず、積極的に面白い作品創りに励みたいと考えております。読者の皆さま方におかれましても、引き続きご愛顧・応援をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。 また当文学館は常に「参加希望者を募っております」。一度きりの投稿だけでも結構ですから、勇気を出して是非下記メールアドレスまでご連絡ください。文芸愛好家であれば、老若男女全ての方々が対象でございます。 なお投稿された原稿は、特に過激な内容でない限り、一週間以内に当ブログに掲載する予定であります。皆様からのご投稿を心からお待ちしております。原稿送付先メールアドレス:kuchikisan@excite.co.jp『ネット文芸館 木洩れ日の里』管理人:朽木一空 & 五林寺隆※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村
2018.01.01
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