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1892年に黄色い部屋の密室でスタンジェルソン嬢が襲撃されたので18歳の少年記者ルールタビーユと敏腕刑事フレデリック・ラルサンが推理対決する話。新米弁護士サンクレールの一人称で、サンクレールがルールタビーユに同行して推理を書くという探偵と凡庸な助手兼語り手の二人が物語を展開するオーソドックスな構図。ルールタビーユは抜群の推理力がある傲慢な若造というキャラクターだけれども、探偵としての理念も乏しくて主人公としては魅力的ではない。そのうえサンクレールの語りにユーモアや個性があるわけでもなく、語り手として物足りない。サンクレールに探偵と張り合えるだけの個性や役割があればルールタビーユがもっと引き立っただろう。推理小説としての見所は密室から犯人が消えたトリックをどう推理するかという点がメインだけれども、ルールタビーユが仮説を秘密にしたまま物語が進んで、推理が最後まで明らかにされないので途中の部分が面白くない。ルールタビーユが暗号のような言葉を言ってダルザック氏を味方につけたのは取材中に見かけたスタンジェルソン嬢の後をつけて行って偶然重要な会話を盗み聞きしたおかげだけれど、被害者を事件の前から知っていてそれを捜査に役立てるというのは主人公に有利な方向に働くご都合主義的な偶然で、事件の重大な要素を探偵の捜査能力や推理力を無視した偶然によって見つけてしまうというのは推理小説としてはどうかと思う。----------↓ネタばれ↓-----------犯人はラルサンで、実はラルサンは変装も軽業もできる大泥棒バルメィエールで、なおかつスタンジェルソン嬢とアメリカで結婚した詐欺師ジャン・ルーセルだったというオチはリアリティがない。ラルサンは男の管理人はナイフの一撃であっさり殺してるのに、スタンジェルソン嬢の殺害には何度も失敗しているのはおかしい。ラルサンは刑事なのだから邪魔なルールタビーユを現場から締め出す権限もあったかもしれないし、ルールタビーユがダルザックに頼んで操作に加えてもらったのならラルサンがダルザックを脅迫してルールタビーユを排除することもできただろうし、ルールタビーユを殺して自分の予定通りにダルザックに罪を着せる結末にすることもできただろうし、ルールタビーユを麻酔で眠らせることができたのだから殺害も簡単だろうにルールタビーユを裁判まで放っておいたのも変だし、ルールタビーユに正体がばれたらラルサンが長年執着していたスタンジェルソン嬢をあっさりあきらめておとなしく逃亡するのもおかしい。そもそも変装の達人なら汽車に乗って逃げる必要がなく、変装してまたスタンジェルソン嬢につきまとえばいいので、変装の達人という設定と行動が矛盾している。スタンジェルソン嬢とダルザックの婚約が決まる前にラルサンがスタンジェルソン嬢を見つけてつきまとうこともできただろうし、邪魔な求婚者のダルザックをさっさと始末することもできたはず。ラルサンの人物造型や犯行の動機が雑で、犯行現場から犯人が消えるというトリックに辻褄をつけたことのしわ寄せがラルサンの不自然さという形で現れている。密室ものの古典本格推理小説ということで名前は知っていたので古本屋で見つけて読んでみたものの、主人公と語り手に若者らしさが乏しくて魅力的でないうえに、オチもがっかりであまり面白くなかった。密室トリックの古典として一読の価値はあるだろうけど、ミステリは謎ときの辻褄があってればいいというものでもなくて、人間が書けていなければ面白くない。トリックの奇抜さだけでなくて心理のリアリティも追求していたらもっといい小説になっていたかもしれない。★★★☆☆【送料無料】黄色い部屋の秘密 [ ガストン・ルルー ]価格:693円(税5%込、送料込)
2014.03.22
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ローマ治下のエルサレムでユダヤ人貴族のベン・ハーが誤って瓦を落としてしまい、ローマ総督暗殺未遂の罪でローマ人の旧友メッサラに財産を没収されてガレー船漕ぎの奴隷になるものの、提督に気に入られて養子になり、戦車競争でメッサラに復讐して、キリストに母と妹のらい病を治してもらい、キリストを守ろうとするものの失敗して磔刑を見届ける話。三人称。一場面で数ページしかなく、ころころ場面が変わり、二千年前の情景をあまりうまく書けていない。時代背景のリアリティが確保されないまま場面が変わりすぎて長編としての読み応えに若干欠ける。1880年に出版された古い小説なのでろくに資料もなかっただろうし、描写不足なのもしょうがないのかもしれない。説明も端折られていて、非キリスト教徒の読者にとっては説明不足な箇所が多々ある。史実ではないフィクションらしいけど、どこが聖書に由来してどこが創作なのかも非キリスト教徒にはよくわからない。ベン・ハーはユダと呼ばれているものの、キリストを裏切ったイスカリオテのユダとは別人で、このへんもわかりにくい。この小説の面白さはどこにあるかというと、キリスト教がテーマでありつつもキリストはしばらくうっちゃっておいて、ベン・ハー個人に焦点を当てたロマン主義的なエンタメにした点。貴族から奴隷になって旧友に復讐するという波乱万丈の人生が面白く、小説として楽しめるようにプロットが構成されている。東方の三博士の一人のバルタザールも主要な脇役として登場して、聖書の世界観を舞台にしつつ聖書に書かれていない空白部分を補う二次創作として想像力が発揮されていてよい。キリスト死後の後日譚としてシモニデスの娘エステルとバルタザールの娘イラスの恋の結末を書いて終わるあたりは読者に対して親切なやり方だけれども、貞淑な女は幸せになってイケメン好きビッチは不幸になりましたとさというのはステレオタイプで蛇足気味。昔の小説なので道徳的なオチがつくのはしょうがない。物語としては面白いものの文章技法の面では特に見所はなく、小説にしかできないことをやってるわけでもない。エルサレムを舞台にするにしてもメルヴィルの『クラレル』くらいの詩情があれば名作古典になりえたかもしれないものの、この小説の単調な心理表現では復讐や信仰といった心の動きの描写が不十分で、エンタメ小説の域を出ない。映画版のほうが時間と金をかけただけあってガレー船や戦車競走の各場面に迫力があって面白く、映画が傑作なだけに小説の上位互換になってしまっていて、映画が見れるならわざわざ小説を読むまでもないかもしれない。★★★★☆【送料無料】ベン・ハー [ ルー・ウォーレス ]価格:1,325円(税5%込、送料込)
2014.03.12
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