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川上未映子さんの「愛の夢とか」を買書つんどく。川上さんの本も、なんとなく買ってる状態になってるなあ。●「アイスクリーム熱」いつも同じアイスクリームを買いに来る彼に想いを募らせるわたしは・・・・・●「愛の夢とか」ピアノの音に誘われて始まった、わたしと隣家の主婦との不思議な交流の行方は・・・・・●「日曜日はどこへ」14年前に恋人と交わした約束の場所へ、ひとり出向いたわたしは・・・・・●「お花畑自身」わたしが丹精して育てた愛しい花畑の庭が、あの女のものになるなんて・・・・・●「十三月怪談」愛し合う夫婦の妻が病死した後、魂がみつめる夫の「その後」の風景・・・・・・ほか、女と男、女と女の関係の出会いと別れ、日常の裂け目を鮮やかに描き、こころ揺さぶる万華鏡のような7ストーリーズ。(講談社の紹介)
2013年10月31日
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「先生は飼い慣らされているだけじゃないですか。」吐き捨てるように言ってから、しまった、と思った。空気が不穏に震え、肌寒くなる。先輩は前を向いたまま、低い声で吐き捨てた。「あんたの目、いつも鋭そうに光ってるのに、本当はなにも見えていないんだね。一つだけ言っておく。私たちは先生を、好きだよ。あんたより、ずっと。」私は何も分かっていないのかもしれない。もしかしたら陸上部員と先生の間には、嘘じゃない絆もあるのかもしれない。なんて。そんなのあるわけない。さっきの先輩の言葉はただの虚勢だ。いつまでたっても先輩たちのやり方に染まらず冷ややかな目で彼女たちを見ている私を脅威に感じていて、そのせいで出た虚勢だ。(中略)認めてほしい。許してほしい。櫛にからまった髪の毛を一本一本取り除くように、私の心にからみつく黒い筋を指でつまみ取ってごみ箱に捨ててほしい。人にしてほしいことばっかりなんだ。人にやってあげたいことなんか、何一つ思い浮かばないくせに。(綿矢りささん「蹴りたい背中」P85)
2013年10月30日
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そのくせ授業中になると、私は頬杖をついて、教壇のすぐ前の席に座っている彼を見つめている。背中を蹴った時のあの足裏の感触を反芻しながら。すると身体が熱くなってくる。でも目だけは冷静に、彼を「観察」している。目つきと身体の温度が相反している「冷えのぼせ」状態だ。こんな目つきで男子を見ることに、なんとなく罪悪感を感じて、にな川が少しでも動くとすぐ目をそらす。私の学校での鮮やかな感情といえば、この「冷えのぼせ」だけで、授業も教室の喧騒も灰色にくすんで、家に帰っても学校で何があったのかよく思い出せない。たまった緊張のせいで背骨がきしむような痛みだけが残っている。(綿矢りささん「蹴りたい背中」P68)私は見ているようで見ていないのだ。周りのことがテレビのように、ただ流れていくだけの映像として見えている。気がついたら教室から体育館に移動しているし。もちろん廊下を渡ったり階段を降りたりしてここまで来たんだろうけれど、自分の内側ばっかり見ているから、何も覚えていない。学校にいる間は、頭の中でずっと一人でしゃべっているから、外の世界が遠いんだ。(綿矢りささん「蹴りたい背中」P70)
2013年10月29日
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メーテルリンクの「青い鳥」が、江國香織さん新訳で2種類同時発売。一つは、ハードカバーで、宇野亜喜良さんのイラストです。もう一つは、青い鳥文庫版で、高野文子さんのイラストで、訳もちょっと子ども版になっています。「ク リスマス・イヴの夜、幸せの青い鳥を探す旅に出たティルティルとミティル。同行者は犬や猫や光や水や砂糖たち。夜の城で、幸福の館で、未来の王国で、兄妹 が目にするこの世界の本当の姿とは。ノーベル賞作家メーテルリンクの名作戯曲を、現代の名文家・江國香織が小説に。オールカラー愛蔵本!宇野亜喜良・装 幀&カラー挿絵20点。」(「BOOK」データベースより)ク リスマス・イヴの夜。貧しいきこりの兄妹、チルチルとミチルは、ふしぎな妖精のおばあさんに「青い鳥を探しにいってくれ。」とたのまれました。「夜の城」 「幸福の館」「未来の王国」…。光の精や、犬や猫たちとともにめぐる冒険の旅で、チルチルとミチルは青い鳥を見つけることができるでしょうか?100年の 名作を、ワクワクするような新訳で!小学中級から。(「BOOK」データベースより)
2013年10月28日
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「なんで片耳だけでラジオを聴いているの?」振り向いた顔は、至福の時間を邪魔されて迷惑そうだった。発見。にな川って迷惑そうな表情がすごく似合う。眉のひそめ方が上品、片眉が綺麗につり上がっている、そして、私を人間とも思っていないような冷たい目。「この方が耳元で囁かれてる感じがするから。」そう言って、またラジオに向き直る。(中略)またオリチャンの世界に戻る背中を真上から見下ろしていると、息が熱くなってきた。この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい。痛がるにな川を見たい。いきなり咲いたまっさらな欲望は、閃光のようで、一瞬目が眩んだ。瞬間、足の裏に、背骨の確かな感触があった。(綿矢りささん「蹴りたい背中」P60)
2013年10月27日
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私は余り者も嫌だけど、グループはもっと嫌だ。できた瞬間から繕わなければいけない、不毛なものだから。中学生の頃、話に詰まって目を泳がせて、つまらない話題にしがみついて、そしてなんとか盛り上げようと、けたたましく笑い声をあげている時なんかは、授業の中休みの十分間が永遠にも思えた。自分がやっていたせいか、私は無理して笑っている人をすぐ見抜ける。大きな笑い声をたてながらも眉間に皺を寄せ、目を苦しげに細めていて、そして決まって歯茎を剥き出しそうになるくらいカッと大口を開けているのだ。顔のパーツごとに見たらちっとも笑っていないからすぐ分かる。絹代は本当はおもしろい時にだけ笑える子なのに、グループの中に入ってしまうと、いつもこの笑い方をする。あれを高校になってもやろうとする絹代が分からない。(綿矢りささん「蹴りたい背中」P16)
2013年10月26日
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「あんた、私のこともインストールしてくれるつもりなの?」とふざけて言って自分で笑った。子供は、そんな大げさなものじゃないけどと言ってため息をついた。「おもしろいね、話聞かせてよ。それってどんな仕事なの?」(綿矢りささん「インストール」P58)というわけで、綿矢りささんの「インストール」を読みました。この本を読むのは、単行本化された12年前以来、二度目です。今回は、書き下ろしの、「You can keep it.」が収録された、文庫版で読んでみました。「あんたにゃ人生の目標がない」という言葉どおり、自意識をもてあました若さの前に、茫漠と広がる「行方なさ」について書かれた本です。エロチャットという異世界に触れることによって、何か変化したのかというと、本質的には変わってない、「行方なさ」をかかえたままだけれども、自意識の重さが少し軽くなっている感じは出ています。「You can keep it.」は、物をあげることによってしか人とつながれない大学生が陥った、初めての恋のお話。さてこれから、ってところで、ポヨンと終わっています。現象としては、登校拒否(「インストール」)やいじめ(「You can keep it.」)など、場合によったら深刻なものも、軽くユーモラスに受け流すところが絶妙だし、なによりも表現としての文章がうまい作家さんだと思います。それだけに、「夢を与える」での、余裕のない壊れかたが痛々しく感じたのですが・・・・・。
2013年10月25日
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「一万五千円以内か・・・・・」余裕のある予算が初め心を楽しませていたが、そのうち重荷になってきた。なぜか綾香には値段の張らないものをあげたい。綾香のくれた氷、あのあと手の平の中で太陽を照り返しながら解けていったあの氷ぐらい自然な物をあげたい。いや、あげたいな んて高びしゃな気持ちではなく、短い命のものを手渡す、その作業で一瞬でいいから彼女とつながれたら。(綿矢りささん「You can keep it.」(「インストール」所収)P156)
2013年10月24日
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書店で見て、のけぞった。これは、買わない・・・・・、と思う。
2013年10月23日
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一杯の水と冷たいままのなめこ汁を注いだお椀を持って、私は一番風通しの良いベランダへ向かった。数本の長い毛がからまった綿ぼこりが点在しているその乾いたコンクリートの上に座ったら、その尻の感触でゴミ捨て場で呆然と座り込んでいた時のことを思い出した。私は今もあの時と同じように呆然としている。何が変わった?(綿矢りささん「インストール」P127)私はいつもと違って年相応に生き生きしているかずよしをからかってみたくなり、三〇万円を封筒から出し、それを図書券をあげる時やったのと同じようにかずよしのフードの中にねじこんだ。するとかずよしは金を取り出そうと慌てて、フードをひっくり返してしまい、また金を浴びた。万札がひらひら舞って落ち、豪華で、私は手を叩いて喜んだ。「野田さん、お金で遊ばないで下さい。三〇万円ですよ?」かずよしは服の中に入りこんでしまったお金を引っぱりだしながら言った。「これでいいんだよ、お金なんか無造作に扱って、万札三〇枚のうち一枚くらいなくなっても「しゃらくせぇ」って言って軽く流すくらいがちょうどいいのよ。」私はそう言ってスッとした。もう全部無価値だ、時間も若さも金も。かずよしは少し考えた後で、「・・・・・しゃらくせぇ。」と言って金を拾うのをやめた。(綿矢りささん「インストール」P131)
2013年10月22日
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私はチャットルームにずっといなくてはならない仕事の立場だから、自分からは絶対に落ちることはできない。だからいつも人が落ちていくのを見守る側である。「帰って」ゆく人にはまた会えそうな気がするが、「落ちて」いく人にはもう二度と会えないような気がするのは何故だろう?別に、あの客にもう一度会いたい!なんていう悲愴な情熱はないのだが、それでも共に濃い時間を三〇分くらい共有した人が不意に正気に返り、二人で創り上げた妄想の世界に私を一人置いてぽろりと落ちていく瞬間は、さすがにむなしいものがあるのだ。そして私はそうやって一人の男が落ちた後、入れ替わりでやってきた新しい男と、また自己紹介から始めなきゃいけない。この果てしない一期一会は「落ちる」をキーワードにして私の目の前で繰り返される。(綿矢りささん「インストール」P86)
2013年10月21日
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藤野可織さんの「おはなしして子ちゃん」を買書つんどく。書店で見て。少し立ち読みして、即買いでした。ちょっと、怖い、感じ。もちろん、「爪と目」も、「つんだ」ままですけど。「小学校の理科準備室に閉じ込められた私。ホルマリン漬けの瓶に入った“あの子”が、一晩中お話をせがんできて(「おはなしして子ちゃん」)。「私の近くにいるとみんなろくな目に遭わない」黒髪の転校生トランジの言葉を裏付けるように、学校で次々に殺人や事件が起きて…!?(「ピエタとトランジ」)。14歳の夏、高熱を出した美少女エイプリルは、後遺症で一日に一回嘘をつかなければ死んでしまう体になってしまって(「エイプリル・フール」)。キュートで不気味、残酷だけど愛しい、恐るべき才能が炸裂する10篇の「おはなし」。ポップ&ダークな小説集。」(「BOOK」データベースより)
2013年10月20日
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この廃墟の隅に私の部屋がそっくりそのまま移っていた。即席で作られたドラマのセットのように、私がぶっとおしで運び続けた家具たちがゴミ捨て場の端でコの字型のちいさなバリケードを作っている。その見慣れた家具の城の中に入っていき、椅子の上にコンピューターを置く。と、その途端なんだか途方に暮れてそのままアスファルトの地べたに座り込んでしまった。地面が冷たい。学校へちゃんと行っていると母に思わせるために着てきた制服のスカートに、車が垂らしていったガソリンの油がしみこんでいくのが分かる。けどそれが?それよりこれからどうしましょう。(中略)掃除の時の活気はどこへやら、私もゴミ化している。それを見た私は死にたーい、と思った。しかし私はそれがうれしいのである。ほのかにそんな落ちぶれた自分を格好良く思いながらわくわく、私はさらに寝転がってみた。ポーズ。私はこうやってすぐ変人ぶりたがる。あさましく緊張しながら奇抜な行動をやらかす。こんなふうに地べたに横たわるのが私の表現できる精一杯の個性なのだ。アスファルトに頬を押しつけると、油臭い地面の上に私のほつれた黒髪が広がった。軽い風が吹いて、何度もスカートがはためき、その度にいちいちパンツが見える、けどそれが?腐ったようにじっとしていた。(綿矢りささん「インストール」P21)「学校生活&受験勉強からドロップアウトすることを決めた高校生、朝子。ゴミ捨て場で出会った小学生、かずよしに誘われておんぼろコンピューターでボロもうけを企てるが!?押入れの秘密のコンピューター部屋から覗いた大人の世界を通して、二人の成長を描く第三八回文藝賞受賞作。書き下ろし短篇を併録。」(「BOOK」データベースより)
2013年10月19日
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金愛爛(キムエラン)の「だれが海辺で気ままに花火を上げるのか」を買書つんどく。一般の書店ではみつからなかったので、楽天ブックスで買書。35ページくらいしかない!「妻に死なれて男手一つで息子を育てる父親に子供が訪ねる。「ねえ、僕はどうやって生まれてきたの」。父は「あの秘密」をうまく語ることができない。法螺話で切り抜けようとする父の、おかしく、あたたかく、切ない振る舞い。」( トランスビューの紹介)
2013年10月18日
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「ね、すごくいい男でしょう」「驚いたね」祥子は首を横に振った。「そんなにハンサムでびっくりした?」「その反対よ」祥子は不思議なものを見るような目をして久仁子を見つめた。「この半年間、あんたからあんないい男はいない、あんな素敵なのはいないって、さんざん聞かされてきたじゃない。あんたのことだから、どうせ大げさに言ってるんだろうとは思っていたけど、まあ一応基本ラインっていうのは考えてたわけ。だけど驚いちゃった。ただの気の弱そうなお坊ちゃんじゃない。いかにも軟弱な感じだね。恋は盲目っていうけど、これほどまでとは思わなかった。ああ驚いた」祥子は真顔で言った。辛辣なことは辛辣だが、そうでたらめなことをいう性格ではない。久仁子はけげんな思いで写真をしまった。(林真理子さん「京都まで」(「最終便に間に合えば」所収)P226)というわけで、林真理子さんの、「最終便に間に合えば」を読みました。直木賞受賞作ですね。誰もが持つ、「卑しさ」とか「屈折」を描くところがいいのかも知れませんが、残念ながら、僕には伝わってくるものがあまり感じられず、感情移入しづらかったです。そんな中で、書くことの業を描いた、「エンジェルのペン」に、鬼気迫るものを感じました。突然変異みたい。いま、デビュー作のエッセイ、「ルンルンを買っておうちに帰ろう」をぼちぼちと読んでいます。
2013年10月17日
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もしその夢がかなったら、自分は嵯峨野に住もうと久仁子は思った。平家物語に出てくる小督が隠れていたところは、どこだっただろうか。もし記憶に間違いがなければ、嵯峨野だったはずだ。そうだ、琴か琵琶を習ってみようか。思えば長い間、女らしい趣味ひとつ持たずに暮らしてきたような気がする。毎月、毎週、活字になったとたんに捨て去られる、そんな仕事にかかわって、いつも急ぐように生きてきた。時間もそれに合わせるように早く過ぎて、気がつくと心だけがおいてけぼりをくってしまったのだ。(林真理子さん「京都まで」(「最終便に間に合えば」所収)P222)
2013年10月16日
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富岡多恵子/安藤礼二さんの「折口信夫の青春」を買書つんどく。柳田國男さんに関しては、わりと読んだりしてますが、折口さんにはなにか敬遠してしまう傾向がありますね。分かりづらい感があるのかなあ。「自殺願望と同性愛、言語像の革命と宗教思想の転回・・・・・知の巨人を育んだ精神のるつぼに近代日本の青春を読む。」(「BOOK」データベースより)
2013年10月15日
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本当にうかつなことだったが、長いことそういうことをしたことがない私は、お中元という習慣や季節がいつなのかをすっかり忘れていたのだ。嫌 だ、 と私はとっさに思った。私のワインは断じてお中元ではない。そんな儀礼的な言葉で言いあらわせるものではないのだ。それにあの山の中に紛れこんだら、これ はいったいどうなってしまうのだろう。他のつまらないもの、ゴルフボールだとか、お仕立て券つきワイシャツとか、舶来ウイスキーと同じようになってしま う。私のワインは特別の存在でなければならなかった。だからこんなふうに、その他大勢の物と一緒になることは許されないことなのだ。私は包みをかかえ、すたすたと歩き出していた。(中略)「どうしよう、どうしよう」真昼に近い銀座は、古いフィルムのようにあたりがひっそりと背景にへばりついている。その中で白い服を着て歩く私は滑稽で、そして、私こそが相手を求めてさまよっている進物のような気がした。(林真理子さん「ワイン」(「最終便に間に合えば」所収)P170)
2013年10月14日
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何ひとつくよくよと考えることはないのだ。まだ若い夫が禿に悩み始めた。ずけずけ言う性格の妻がそれを見てからかった。夫は妻を叱りとばし、子どもの尻を叩いた。どこにでもあるありふれた話じゃないの。誰に聞かせても笑われるだけよ。礼子は何度も自分に言い聞かせた。それなのに小さなしこりのようなものが胸にたまっている。今までになかった要素が少しずつこの家にたちこめ始めた。(林真理子さん「てるてる坊主」(「最終便に間に合えば」所収)P146)
2013年10月13日
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恒川光太郎さんの「金色機械」を買書つんどく。恒川さんのでは、「夜市」と「雷の季節の終わりに」が好きです。やっぱり秋は、読みたい本がたくさん出てくる。困る・・・・・。「触れるだけで相手の命を奪う恐ろしい手を持って生まれてきた少女、自分を殺そうとする父から逃げ、山賊に拾われた男、幼き日に犯した罪を贖おうとするかのように必死に悪を糺す同心、人々の哀しい運命が、謎の存在・金色様を介して交錯する。人にとって善とは何か、悪とは何か。」(「BOOK」データベースより)「角 川書店の日本ホラー小説大賞を受賞した『夜市』以来、奇想に満ちた物語の数々で読者を魅了して来た作者が、次に描くのは江戸の世界。とはいっても、そこは鬼才・恒川光太郎。月世界から来たという金色の機械の驚異的な活躍を軸に、人々の運命が幾重にも絡まりあう、前代未聞の江戸ファンタジーが展開されます。“金色様”とは果たして何者なのか? 不条理な生を生きる人間にとって善悪とは何か?――恒川文学の新たな代表作が、圧倒的なスケールで誕生しまし た。」(文藝春秋社の紹介)
2013年10月12日
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「緑川さん、私、もう書くの嫌だわ」彼は翳りゆく部屋の中、浩子の顔色にまだ気づかなかった。「ね、いちばん悲しいこと書かなきゃいけないの。阪倉さんは本当に淋しそうな顔をしてそこから出て行ったのよ。私、本当にあの人を愛していたの。今わかったわ。ねえ、それでも書かなきゃいけないの」「浩子ちゃん」緑川は雑誌から目を離さず言った。「あのね、小説からおとぎ話の部分は抜いとこうね。だけど全部書こうね」「お母さんもずたずたにしちゃったわ。そして生まれて初めてあんなに愛した人まで。ペン先でみんなを傷つけて、そして私も傷つけて、それでも私、書かなきゃいけないの」「あたり前だよ」夕日が反射して、ペン先も浩子も異様にキラキラと輝いていることに、緑川はまだ気づかない。(林真理子さん「エンジェルのペン」(「最終便に間に合えば」所収)P114)
2013年10月11日
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「新古今集断想――藤原定家」(安西均さん)「それが俺と何の関りがあらう? 紅の戦旗が」貴族の青年は橘を噛み蒼白たる歌帖(カイユ)を展げた烏帽子の形をした剥製の魂が耳もとで囁いた燈油は最後の滴りまで煮えてゐた直衣の肩は小さな崖のごとく霜を滑らせた王朝の夜天の隅で秤は徐にかしいでゐた「否(ノン)! 俺の目には花も紅葉も見えぬ」彼は夜風がめくり去らうとする灰色の美学を掌でおさへてゐた流水行雲花鳥風月がネガティヴな軋みをたてた石胎の闇が机のうへで凍りついた寒暁は熱い灰のにほひが流れてゐた革命はきさらぎにも水無月にも起らうとしてゐた。
2013年10月10日
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「君は本当に、まるっきり小説っていうものがわかっていないんだな」緑川はしきりに頭をかく。しかし次の瞬間、ちらっと舌なめずりした。それはこれからものを教えようという意欲に燃えた時の彼の癖だった。「いいかい。本当にあったことをそのまま書いたって少しも小説にならないじゃないか。君はよく僕が文句を言うと「だってホントのことなんだもの」って必ずふくれるだろ。それは虚構というものがまるっきりわかっていないんだよ。虚構というのはつくり話さ。本物を削ったり飾ったりすることによって、その本物よりさらに素晴らしいニセ物をつくるんだ。ニセ物が本物より人の心を魅きつけるっていうのが小説の世界なんだ。君のデビュー作「湯沸室の午後」には確かにリアリティのおもしろさがあった。それが魅力といえば魅力だったんだろうけれど、はっきりってあれはまだ小説じゃなかったね。わかるだろ」「じゃ私、どうすればいいんですか」浩子は憮然として言った。「私ストーリーなんて考えられないもの。実際にあった話を正直に、小説っぽく書くことしか出来ませんもの」(林真理子さん「エンジェルのペン」(「最終便に間に合えば」所収)P74)
2013年10月10日
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池上永一さんの「黙示録」を買書つんどく。「テンペスト」以来の、「琉球シリーズ」です。「爛熟期を迎える18世紀前半の琉球王国。数奇な運命の下に生まれた少年・了泉は、自らの命と野心をかけて舞踏の世界でのし上がる――。琉球に生まれた天才舞踊家の、壮絶なる《天国》と《地獄》を描く一大叙事詩!」(角川書店の紹介)
2013年10月09日
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美登里はコンパクトを開いた。離陸前、機内の明りがいったん消された時だ。こんな暗さ、この程度の雪あかりだった。鏡をもう少し右に寄せてみる。それはさっき車の中での長原の視線の位置だった。ところどころ化粧がはげ落ちているとはいうものの、派手やかな顔立ちの、自身に満ちた女の顔があった。「そう悪くないじゃないの」長原はおじけづいたのだと思うことにした。そうして美登里は、暗い機内で、くすっと満足げな笑いをもらした。自分も長原も、なんと意地汚い存在なのだろうか。(林真理子さん「最終便に間に合えば」(「最終便に間に合えば」所収)P63)「世間に注目される新進の造花デザイナーとなった美登里は、仕事で訪れた札幌で昔の男と再会する。空港に向うタクシーの中、男は美登里の手を握った・・・・・冷めた大人の孤独と狡猾さが会話の中に満ちる表題作、古都に住む年下の男との甘美な恋愛とその終焉までを描いた「京都まで」の直木賞受賞二作品を含む、鮮やかな傑作短編集。」(「BOOK」データベースより)
2013年10月08日
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もうすぐ、稲爪神社の秋祭り、かな?今回、初めて、門の中に、こんな像を発見。由来からして、これが小千益躬、小千武男であらうか?
2013年10月07日
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ひとつの物語をあたしは思い出そうとしていた。ふとしたことから、お城の王女さまをうちにかくまうことになった貧しい木こりの娘。あの結末はどうなったのだろうか。娘はお城に招かれたのだろうか。それとも王女をかくまった罪で、お城の騎士に殺されただろうか。(林真理子さん「星影のステラ」(「星影のステラ」所収)P38)というわけで、林真理子さんの「星影のステラ」を読みました。林真理子さん、最初の小説です。柚木さんが、「わたしにとって「星影のステラ」は神本です」といったことを言っておられたので、興味があって読んでみました。ざっくりと、「星影のステラ」も「だいだい色の海」も、どちらも観念的なものが、「現実に」踏みにじられるお話だと言ってよいと思いますが、どこか作り物めいたところが前面に出すぎているように感じました。ただ、もうちょっと林真理子さん、読んでみようかな、と思ってます。
2013年10月06日
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「何て言われたっていい・・・・・。だけど頼む。夕べのことは忘れてくれ。僕がこれから苦しんでいけばすむことなんだ。今は親父とゴタゴタを起こしたくないんだ。頼む。お前にはわからないだろうが、大人にはいろんなことがあるんだ」砂の上だったから、明彦の遠ざかる足音は聞こえなかった。僕はひとり光の中に残った。たくさんの裏切りが僕を打ちのめしていた。僕が信じていたものはこの世にありはしなかったという事実。それに僕はどう向かい合っていいのかわからなかった。僕は砂を軽く蹴った。確かこのへんに和子がつくった葡萄の墓があったはずなのだが、それがどこにあるのか今は思い出せない。僕は目をこらした。夕日を迎えようとしているだいだい色の海は、絶望をもたらすにはあまりにも明るすぎた。そして絶望を感じる人間など、この世にひとりもいないのだという事実が、いつまでも僕をうなだれさせていた。(林真理子さん「だいだい色の海」(「星影のステラ」所収)P191)
2013年10月05日
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その時、和子のむきだしの肩がゆっくりと動き出した。指で砂を掘っている。小さな深い穴だ。「何をしているの」僕は尋ねた。「葡萄のお墓をつくっているの」左手に握りしめていた巨峰の皮と種を和子はその中に埋めた。「ただゴミを捨てているだけじゃないですか」彼女のこういうもの言いが、最初から僕は気にかかっているのだ。「違うわ。綺麗なものが消える時は必ずお墓がいるのよ」太陽はまだ真上にあって、僕はその時、明彦の死んだ母や、そして僕自身、そして父の墓が、ゆっくりと僕の目の前を通り過ぎるのを見た。「和子の墓」というのが、なかでもいちばん魅惑的だった。(林真理子さん「だいだい色の海」(「星影のステラ」所収)P175)
2013年10月04日
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「『平家物語』の再誕 創られた国民叙事詩」を買書つんどく。昨年読んだ、「平家」の復習、のつもり。ああ、そういえば、「春雨」も最後の一編を残したままやった・・・・・。「平家一門の栄華とその没落・滅亡という古代末期の変革の時代を見事に活写した『平家物語』。それが、いつ国民的叙事詩へと祭り上げられ、さらには「国民文 学」となったのか。「奉公の誠」を語る日本精神の粋、もののふの文学、歴史の進歩と発展を語る、新興階級武士の文学・・・・。『平家物語』に幾重にもまとわりつく古びた「読み」。そうした読みの形成過程を剥ぎ取り、『平家物語』が時代とともにどう歩んできたのかを明らかにする。近代日本の隠されたもう一つの道筋を辿る労作。」(「BOOK」データベースより)
2013年10月03日
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「悲しいね」ステラはぽつりと言った「あたしとフミコちゃんって、もっと高いところで結びついていると思っていたよ。あたしは確かにあなたに甘えていたけど、いろんなものをあなたに教えてあげることもできると思っていたんだよね。それが玉子だとかお米だとか・・・・・悲しいね」あたしは言葉に詰まった。けれどもとにかくあたしはひもじかった。その時は、ジャズだとか感性とかよりも、あたしには一個の玉子の方がより切実ではるかに存在感があったのだ。「そりゃー、そうよ。あたしはあんたほど高尚な人間じゃないわよ。玉子にがつがつするような人間よ、ダサくて安っぽい人間よ」そしてあたしはついに言ったのだ。「それが嫌だったら、ここを出ていけばいいじゃない」ステラはいつものとおり落ち着いていた。「わかったよ」ステラはじっとあたしの目を見つめて言った。(林真理子さん「星影のステラ」(「星影のステラ」所収)P83)
2013年10月02日
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野崎まどさんの「「映」アムリタ」を買書つんどく。前に、駅前の再開発で、映画館が閉館されたことに触れましたが、本屋さんのジュンク堂明石店が、同じく再開発のからみで、昨日で一旦閉店することになりました。こちらは3年後に再開されるとのことですが、これがとりあえずの最後ということで、行ってきました。もともとは、別のたぐいの本を買おうと思って行ったのですが、探し回っているうちに、迷い迷って買いあぐね、結果的に、これは分類不能?ミステリ?ライト・ノベル?なんですかね。まあ、こういうことも、ありかな。「自主制作映画に参加することになった芸大生の二見遭一。その映画は天才と噂されるつかみどころのない性格の女性、最原最早の監督作品だった。最初はその天才という呼び名に半信半疑だったものの、二見は彼女のコンテを読み始めた直後にその魅力にとりつかれ、なんと二日以上もの間読み続けてしまう。彼女が撮る映画、そして彼女自身への興味が二見を撮影へのめりこませていく。そしてついに映画は完成するのだがー。第16回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”受賞作。」(「BOOK」データベースより)
2013年10月01日
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