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いよいよ手術当日である。当日は朝食は抜きで,「午後いちくらいなると思いますので,呼びに来るまでお待ちください」と言われる。今日の手術は1回目のトライアルでサージカルトライアルと呼ばれるものだ。 少し緊張しながら待つと,ナースが呼びに来た。時刻は13時過ぎ。手術は約2時間の予定である。貴重品(財布などを入れた簡易キーボックスの鍵)をナースステーションに預けて,車イスで向かう。手術室に入るあたりが緊張のマックス。主治医に何か声をかけられて「すごく緊張してます」と答えたら,「みんなそうですよ」と笑って返された。 主治医がキックスイッチでドアを開けて手術室に入ると音楽が流れていた。米米CLUB,小室ファミリーと1990年代の曲を耳にしながら手術台に上る。後で,「あれは先生のセレクトですか?」と聞いてみたら,「あれは(手術室の)看護師さんが選曲してるんで,私の趣味ではないです」とのこと。私は聞かれなかったけれども,同日に入ってきた高校生にはナースが「好きな曲はある?」と聞いて,「ウンタラカンタラ(←よくわからない)です」,「う~ん,知らないけど調べておくね」という会話を聞いていたので,今回は私の年齢を考慮しての選曲らしい。1回目の手術は局部麻酔で行う。というのも,脊髄にコードを入れるのだが,入れる場所によって,電気が流れる場所が違うので,痛みのある場所に電気が流れるかどうか,患者(私)と執刀医(主治医)がコミュニケーションを取る必要があるからである。背中からコードを挿入し,「どうですか?」(医),「いや,来てないです」(患),「(コードを調整して),ここはどうですか?」(医),「あ,来ました。右の足の付け根から膝下あたりに来てます」(患),といったやりとりをしながら,コードの位置を決めるのである。良いところにコードが決まれば患者の仕事は終わりで,あとは麻酔で意識朦朧にさせてくれる。麻酔(が抜けるとき)によるせん妄はあったことを覚えている。私としては,目の前にペットボトルだかお菓子だったか(よく覚えていない)が見えるので,それを取ろうとして手を伸ばすのだが,幻視なので当然空振りする。医療従事者からは「暴れているようにも見えただろうが,私の意識の中では物を取ろうとしただけなのだ。それでも,ベッド(ストレッチャー)で病室まで運ばれたから,大暴れしたことはないようである。手術室でオペが終わったとき「みなさん,ありがとうございました」と大きな声で言った記憶はあるのだが,その前後の記憶は曖昧である。主治医から「明日の朝の回診まではベッドの上で過ごして下さい」とのこと。トイレも車イスで看護師さんに連れて行ってもらう。幸い大きい方は催さなかったので,夜は尿瓶を借りた。ナースコールするのも気が引けるし,意識はしっかりしているから恥ずかしいのである。1回目の手術の後,点滴に入れる痛み止めを処方してくれたが,痛みはさほどでもなかったので使わなかった。しかし,動けば痛いし,うつ伏せの姿勢しかとれないから,身体の節々が痛くなる。「痛ければ寝てりゃいいんでしょ」と思っていたのだが,寝てるのがつらいのである。高齢者に褥瘡ができるのもわかる。振り返れば,入院生活で最もつらいのがこの夜であった。
2025.08.31
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入院は5月連休明けの月曜日だった。予定としては,火曜日に手術なので,前日の月曜日に入院。サージカルトライアル(お試し)を1週間やってから,1週間後の火曜日に埋め込み手術,様子を見て,その週の金曜日か週明けの月曜日退院となっている。なお,院内の画像はプライバシー保護の観点から,私が黒猫となって登場することがあるのでご了承いただきたい(そもそも,ほとんどの画像はAIによるものだが)。入院の日はスーツケースに荷物をまとめて,バスとタクシーを乗り継いで病院に向かった。1階の入院受付で書類などの手続きをしてから病棟に入る。6人部屋だと保険適用で割増料金が発生しないのだが,今回は4人部屋である。4人部屋だと1日4400円余計にかかる(いわゆる差額ベッド)ので有り難くないが,病院から4人部屋に入るよう指示を受けている。「病院都合なので差額ベッド代金を払う義務はありません」と突っぱねることもできるのだが,これから手術してもらう病院とケンカするのは気が進まないので,素直に従うことにする。もちろん,差額ベッド代金を拒否することは患者の正当な権利なので,このブログの数少ない読者に認諾を勧めるものではない。麻酔科の入院患者は少ないので,整形外科や泌尿器科との連合チームというか寄せ集めの部屋らしい。病棟に入ったとき,偶然にも部屋には誰もいなかった。看護師さんは,「どこでも好きなところで良いですよ」と言う。私はちょっと迷って,図のCを選んだ。窓側の方が開放感があるのは間違いないが,「体調が悪いときはトイレや水場が近い方が良い」という亡き母の教えがある。よって,AかCの二択になるのだが,この部屋はフロアの端にあって,ナースステーションは図の下の方にあるので,AよりCの方が視線を感じずに落ち着くのではないかと考えてCを選択した。これは少し失敗だったことが後から判明する。続いて所持品検査を受ける。所持日検査といっても刑事施設ではないから,徹底的に調べられるわけではない。当然,カンカン踊りもない(注1)。「シェーバーを持ってきたのでカミソリは持っていません。タバコは吸いますが,家に置いてきました。メンタルクリニックでもらっている薬はこれです」と申告する。ときどき原因不明のかゆみ(乾皮症?)が出ることがあるので,「市販のかゆみ止めも持ってきました」と付け加えたが,それはいいです,とノーチェックだった。入院前に主治医から,「手術直後でなければ動けますよ」と聞いていたので,荷物の整理・ベッド周りの配置が終わったら,コインランドリーの確認とぱっとしない売店(これは外来に通っていたときから知っている)の品揃えを見に行こうと思っていたのだが,ナースからこう言われた。「コロナ対策のため,他のフロアへの移動は禁止です」え? いや,まあそれは仕方ないですね。では,売店で何か(ティッシュペーパーがなくなったとか)買う場合はどうすればいいんですか?「看護師が代わりに行きます」ああ,そうすると気分転換で売店に散歩しにいくこともできないわけね。でも,洗濯(コインランドリー)には行けるんですよね?「洗濯も看護師が代行します」えええ!コインランドリーにも行けないの!!というか看護師さんの仕事多すぎじゃない!!!幸いにも入院1週間後に規制が緩和され,コインランドリーに行けるようになったが,看護師さんの仕事を増やすまいと下着のローテーションに頭を悩ませたのである(病院着やタオルはレンタルしたのだが,インナーのシャツとパンツは対象外)。夜は4人部屋を一人で使えたこともあり(以降は退院まで一人になることはなかった),意外とゆっくり過ごすことができた。明日は人生初の手術である。注1:「カンカン踊り」というのは刑務所・受刑者の隠語で,厳しい身体検査を指す。受刑者が不正に物品を持ち出さないよう,すっぽんぽんになって,両手を挙げて,口を開けて,何も持っていないことを点検されるのである。「屈辱的だった」と言う受刑者もいるようだが,私にはピンとこない。なぜなら,私は受刑者として刑務所に入ったことはなく,仕事上知り得ただけだから。
2025.08.22
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脊髄刺激装置の手術する決心をしたのは2月であったが,主治医と入院に向けての調整をする。重要なのは,どのようなステップを経て脊髄刺激装置を埋め込むかである。一般的には,以下の3パターンが考えられる。(1)トライアル(お試し)をしてから埋め込み手術で仮装置を埋め込んで(トライアル),効果が確認できたら,改めて手術で機器を植え込む。この方法だとトライアルで1週間,機器埋め込みで1週間と入院を2回する必要がある。(2)一発で埋め込み進行性の末梢神経障害で急を要する,脊髄刺激装置の効果がほぼ明らかと思われる場合は,トライアルを省略して脊髄刺激装置を埋め込む。入院は1回で済むが,脊髄刺激装置の効果がなくても体内に機器が残ることになる。(3)トライアルと植え込みを流れで行う上記(1)と(3)の折衷策で,予め1回2週間の入院を予定しておき,トライアルの後,すぐに機器の植え込みを行う。2週間の入院が1回で済む。主治医からは(1)のトライアルで1週間入院し,退院してから植え込み手術の日程を決める方法を提案された。リスクを考えると当然の提案である。仕事のことを考えると,2回の入院よりも1回2週間の入院の方が調整が容易である。事業所はシフト制だから相当前に伝えておかないといけないし,少人数で回しているため,一人いなくなると結構な影響が出てくる(大きな会社なんだから緊急時は本社から応援を出せよ,という意見も多数)。さらに家族がいない環境なので,諸手続やら根回し(これは後日書く)も二度手間になる。これは有り難くない。このような事情で「一発勝負でお願いします」と言ったのだが,主治医は「う~ん・・・」と考え込んでいる。私が「既にトラマールが上限まで出てますよね(300mg/日)。良くならないからといって,トラマールを倍にすることはできないじゃないですか」と懇願(追い打ち?)すると,「それでは,トライアルからの植え込みを一連の流れでやりましょう(上記(3))」ということで落ち着いた。すぐに事業所の責任者に頭を下げて休みを入れてもらい,ゴールデンウィーク明の月曜から入院することが決まった。これが医療費の面で後から効いてきた。コロナが流行していた時期でもあり,コロナの検査を病院に持って行ったり,後日書く予定のいろいろな手配に追われた。有り難いことに友人から「お見舞い行くよー」とのLINEをもらったが,面会禁止なのでそれも断り,入院の前日に床屋に行って坊主頭にしてもらった。家族がいれば手伝ってもらえることもあったが,すべて一人でこなさなければならない。独り身のつらいところであるが,自由な生活とのトレードオフなので仕方のないことである。
2025.08.16
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ここからしばらく膠着状態が続いた。ブロック注射を受けても,効果が持続せず,翌日には同じような痛みが出てしまうのである。主治医も筋膜リリース注射を試してくれたり(梨状筋症候群のような兆候もあったため),漢方薬を追加してくれたり,試行錯誤してくれたのだが,どれも効果が出ない。私も鍼灸院に行って事情を説明し,電気鍼を打ってもらったりしたのだが改善せず,鍼灸師も「これが効かないとなると・・・,後は幻肢痛とかですかね・・・」と困った様子であった。ご存じの通り,鍼灸治療は保険適用ではないので,週に1回5000円以上の出費は結構な痛手で,数回通っただけでやめてしまった。痛みが強いのがお昼以降なので,夕方の仕事を外してもらっていたが,何かと嫌みを言われたこともあった(なお,その方は退職している)。そのような,外形的には漫然と通院して,一進一退というかじりじりと症状が悪化していく中で,ちょっとした事件があった。当時は私が事業所の送迎を完全に把握していたのだが,後から入ってきた年上(おじいさんに近い)のドライバーと時給が変わらないことを,エリアの偉い人にこぼしたら,「辞めるんならどうぞ。引き留めないよ」と言われたのである。その場にいた社員さんが「なんてこと言うんですか!」と反論してくれたから良かったが,誰もいなかったら稲妻レッグラリアートを喰らわしていたところである。実際「いな・・・」まで声が出た(少しウソ)。これほど馬鹿馬鹿しいことなんかない。こんな時給で働けというなら,悪いがほかを当たってくれ。もうスキルの安売りはやめだ。自宅に帰って退職願を作りはじめたとき,ふと思いついた。退職すると健康保険が国保になる。治療費の負担割合はあまり変わらないが,会社で社会保険に加入していれば,仕事を休んだときに傷病手当金が支給される。パート社員だから支給額はわずかだけれども,思い切って在職中に脊髄刺激装置を入れる手術(入院)をしてしまおう。これまで安い時給で利用されてきたのだから,今度は私が会社を利用させてもらう番だ。次の診察日,ブロック注射の前に脊髄刺激装置の埋め込みを検討したい,と主治医に告げると,少し驚いた感じではあったが,「それでは詳しく話をしましょう」ということになった。ここから入院,そして手術に向けて話が進んでいくのである。諸事情により,本日はここまで。
2025.08.08
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