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今月の県労会議機関紙に投稿した映画評は以下の通りです。 「桃(タオ)さんのしあわせ」 私が去年映画館で観た作品数は104作で、これがそのベストワンです。 本当はベストツーにした「愛、アムール」の方が、作品の完成度にしても、テーマの深刻さにしても、より高かったのです。けれども、もともと個人のベストというものは、個人の体験や興味の方向から切り離すことはできません。私にとっては、こちらがより私を深く強く撃ったのです。 香港の名家で60年間家政婦として働いてきた桃さん(ディニー・イップ)が病で遂に働けなくなった時、1人最後に世話をしてもらっていたロジャー(アンディ・ラウ)は、桃さんの面倒をきちんと見ようと決意します。老人ホームを探し、定期的に桃さんとデートのような食事をします。しかし、やがて病が桃さんを襲うのです。 最初に観た時は「桃さんは最後にはしあわせに逝くことが出来た」という作品に思っていました。けれども、あとでじわじわ違うのではないかと考えるようになってしまったのです。「桃さんのしあわせは、桃さんにしかわからない。それよりも、桃さんのしあわせのために奔走する梁家の人たちは、自己満足におちいっていたのでないか」と。 というのも、ちょうどこの数年間、家族のいない叔母夫婦の面倒を私が見ているので、とっても身につまされたのです。人からみれば、親でもないのに良くやっていると見えるかもしれない。映画をみると、そうは思えない。叔母の本当の気持ちに寄り添っていたのだろうか、と気がつかされるのです。 映画では、香港の老人ホームの実態がリアルに描かれています。個室と言いながら板で分けただけの部屋、夜中に「故郷に帰りたい」と徘徊する老女、死と向かい合わせの日常。桃さんは、梁家の金銭的な援助に感謝こそすれ喜ばず、ただ一生を仕えてきた梁家の人たち、特にロジャーとの心の通い合いのみに歓びを見出すのです。桃さんの感情が台詞はなくともビシビシ伝わってきて痛いほどでした。 日本の各映画賞ではあまり注目されなかった本作ですが、私の参加している映画鑑賞サークルでは、見事年間ベストワンに輝きました。通を唸らせる隠れた名作です。 ちなみに、年間104作観たというと「映画代が高くつくでしょう?」とよく聞かれるのですが、去年の映画鑑賞にかかった代金をまとめてみたら、8万6千4百円でした(各種割引き、試写会使用)。これで、映画通と認められるのならば、案外安い趣味だと思いませんか?是非、映画は映画館で!(2012年中国香港、アン・ホイ監督作品、レンタル可能)
2014年02月19日
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一月に観た映画はいろんな締め切りに追われて7作品に止まりました。注目は「マッキー」「ジャッジ!」「小さいおうち」ですね。 「ウォーキング with ダイナソー」 7000万年前の白亜紀の草食恐竜パキリノサウルスたちの世界。全編が驚異のアニメなのですが、最初は考古学者親子の実写から入ります。折れた一本の肉食恐竜の刃から、どういう物語が紡ぎ出されるのか。こういう発想は私の好きな弥生時代の発掘と同じ。考古学の世界は日々進歩していて、団体行動のルール、肉食草食の棲み分け、生まれ始めた哺乳類たちの行動も、キチンと再現しています。五年おきぐらいにこういう映画ができると面白いと思う。 (解説) 『ディープ・ブルー』などの良質なドキュメンタリーを手掛けてきたイギリスBBC EARTHフィルムズが製作を務めた、恐竜たちの世界を再現した驚異のアドベンチャー。科学的に検証された事案をベースに、『アバター』の最新技術なども取り入れ、太古の恐竜たちの感動のドラマをつむぎ出す。監督は、数々のドキュメンタリー作品に名を連ねてきたニール・ナイチンゲイルと、『ムーラン』のバリー・クック。新しい発見と驚きに満ちた恐竜たちの日常に圧倒される。 in movix倉敷 2014年1月2日 ★★★★☆ 「マッキー」 「ロボット」を観ていないので知らなかったのだが、インドのVFX技術はもう十分にハリウッド水準であり、同時に色使いが美しい。想像以上にハエはハエらしく描かれていた。ハエとして、どこまで人間と対決できるか、というアイデアが素晴らしい。スピーディな展開と、勧善懲悪な単細胞がマッチしてとても楽しい作品になっていた。いいお正月映画でした。 ただ、主人公のマッキーは生前も死後も彼女が実は彼を好きだったという設定さえ除けば、スリラーになるようなストーカー野郎であり、いくら復讐のためとはいえ、彼女を巻き込んで殺人計画を練るのはどんなもんだろう? 現代の科学の時代に見事に転生思想が生きついていて、同じ仏教国として楽しかった。人間の命とハエの命を同等に見る思想のバックボーンがなければこの映画は生まれなかったのである。 (解説) あの『ロボット』以上に奇想天外な映画がついに日本上陸!ハエがヒーローという誰も考えつかなかった設定のコミカルかつダイナミック、そして爆笑&号泣のアクションコメディがこの映画『マッキー』だ。 映画『ロボット』をしのぐ2234カットものVFXでCGのハエと生身の人間との戦いが見事に実現。スーパースター、ラジニカーントは「今まで悪役といえば私だと思っていたけど、今回は負けたね。面白い」。また、キング・オブ・ボリウッドことシャー・ルク・カーンは映画を見た後すぐに「素晴らしい。独創的なアイデアが面白いから絶対子供と見るべき」と、ツイート。『きっと、うまくいく』のラジクマール・ヒラニ監督は「映画の最初から最後までずっと楽しかった」など各方面で高く賞賛されている。 ピクサーのアニメーションを彷彿とさせる明るくてお調子者のハエが、愛する彼女を守るため、そして自分を殺したマフィアまがいの悪徳実業家と必死で戦う様子には、誰もが拍手を贈りたくなる!そしてきっとマッキーを好きになる! inシネマクレール 2014年1月3日 ★★★★☆ 「ジャッジ!」 私の審査(ジャッジ!)は85/100点です。拾い物でした。 冒頭の日本パートは端役まで曲者俳優を使ってとっても豪気。セリフと美術が凝っていて、この調子で何処まで突っ走るのかと思いきや、サンタモニカに移ったら少しスピードダウンしたので、安心しました。よく笑いました。スピード感のあるコメディ映画でした。 「美味しいものは美味しい」というCM業界の人たちの本音をキチンと出して気持ちのいい作品になった。 (解説) 世界的にも有数の広告祭に参加することになった新人広告マンが、自社CMのグランプリ獲得を目指して奔走するさまを描くコメディー。名字の読みが同じことからニセ夫婦として広告祭に参加する会社の同僚を、妻夫木聡と北川景子が演じる。ソフトバンクモバイルの「ホワイト家族」シリーズなど数々のヒットCMに携わってきた澤本嘉光が脚本を手掛け、監督はCMディレクター出身の永井聡が担当。広告業界の裏側を知り尽くした二人が描くストーリーに引き込まれる。 in movix倉敷 2014年1月13日 ★★★★☆ 「黒執事」 一月はなかなか面白そうな作品がない。よってこういう作品もみておこうかという気になる。結果として、酷いというものではなかった。美術は比較的丁寧だったし、水嶋ヒロも剛力彩芽も雰囲気を出していた。俳優というよりも芸人が共演しているのは、予算の関係か、まるきりのファンタジーだということを観客に分からせるためか。ただ、原作がそうだから仕方ないとしても、脚本は荒い。本格ゴシックミステリーには決してならない。観客は女子高生前後が八割方。やはり仕方ないのかな〜。あっ、優香を初めて綺麗だな、と思いました。次回作があるとすれば、本格俳優をきちんと使うべきだろう。 世界設定が東西対決が続いている現代。西側には世界統一を目指す女王、東側にはアジアみたい。イデオロギー色は皆無。いったいどういう歴史を刻んで来たのやら。英語がやたら飛び交うので国際市場を目指しているみたいだけど、つくづく日本の漫画家は世界観がベルバラや黒魔術やサイボーグ009みたいな薄っぺらいものしかない。なんだかな~。 実は悪魔の黒執事セバスチャンと幻蜂清玄お坊ちゃま(実は女子)との秘密は、開始早々に割れるので、そこに愉しみはない。しかし、もし続編が作られることになれば、幻蜂一族と悪魔との関係、並びに天使と悪魔との対決ぐらいは見せてくれないと間が持たない気がする。 (解説) 漫画、アニメなどで絶大な人気を誇る枢やな原作のコミックを、水嶋ヒロ主演で実写映画化。貴族の執事セバスチャンと女性であることを隠している幻蜂清玄を中心に、映画版オリジナルのストーリーが展開していく。幻蜂を剛力彩芽が演じ、そのほか優香、山本美月、栗原類、城田優らが共演。『NANA』『ランウェイ☆ビート』などの大谷健太郎がメガホンを取る。時代や設定などを変更し繰り広げられる独自の世界観に期待が高まる。 in movix倉敷 2014年1月19日 ★★★★☆ 「ハンガー・ゲーム2 」 某邦画(「バトルロワイアル」)と比べるからおかしくなるのであって、もう立派な「革命映画」であることが、判明しました。 ゲームの外で密かに革命は始まっていた、という内容はこのパート2では決してわかりません。念の為。けれども、あとから考えるとそうだったのかもしれない、という伏線はあります。 あとはひたすら「ゲーム」のための準備とゲームそのもの。ぜんかをなぞりながら、少しづつ人々の気持ちが変わっているのを、確認するのがこの作品の愉しみ方かな。ジェニファーの最後の表情がすごいです。 (あらすじ) 独裁国家パネムが毎年開催する<ハンガー・ゲーム>。それは、12の隷属地区から若い男女ひとりずつをプレイヤーとして選出し、全国にテレビ中継をしながら最後のひとりになるまで戦わせる究極のサバイバル・ゲーム。幼い妹の身代わりとして自ら志願した少女カットニスは、死闘の末に生き残り、ゲームの勝者として凱旋を果たす。そんな彼女の勇気ある行動をきっかけに、国家に対する革命の動きが国中に広がろうとしている中、節目の記念大会となる第75回<ハンガー・ゲーム>の特別ルールが発表される――。それは独裁者・スノー大統領がカットニスを抹殺すべく仕掛けた、歴代勝者たちを戦わせる絶対絶命のゲームだった。 監督 フランシス・ローレンス 出演ジェニファー・ローレンス、ジョシュ・ハッチャーソン、リアム・ヘムズワース、ウディ・ハレルソン in TOHOシネマズ岡南 2014年1月26日 ★★★★☆ 「小さいおうち」 山手の丘の上にあるオモチャ会社常務の赤い屋根のモダンなおうち。開口式の雨戸、ステンドグラス風の玄関口。東京の中流家庭の「小さな窓」を通して、昭和10年から18年までの、忍び寄る「庶民の戦争の時代」を描こうという、山田洋次の野心作である。 東京五輪開催や南京陥落も、彼らにとっては、2020年のオリンピック開催や楽天優勝のバーゲンセールぐらいのものにしか見えなかった。彼らにとっては、最後の三年間か、5月25日の山手空爆直前まで、何も戦争の本当の姿は見えなかったのかもしれない。 最後のもう年老いた恭一さんの呟きがこの作品のテーマの全てだろう。 妻夫木に現代の若者として登場させたのは、戦前が現代と通じるからに他ならない。 山田洋次の遺言的な作品なのだが、残念なのは、妻夫木の描写が余りにも浮いていること。現代の若者は、なあんなに熱心に軍国時代のことは喋らないと思う。あくまでも「普通」を重視する山田洋次に似合わない演出だった。また、林家正蔵は完全に期待外れで、あそこは笑わさなくてはならない。 黒木華と松たか子は流石だった。 (解説) 第143回直木賞を受賞した中島京子の小説を、名匠・山田洋次が実写化したラブストーリー。とある屋敷でお手伝いさんだった親類が残した大学ノートを手にした青年が、そこにつづられていた恋愛模様とその裏に秘められた意外な真実を知る姿をハートウオーミングかつノスタルジックに描き出す。松たか子、黒木華、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子ら、実力派やベテランが結集。昭和モダンの建築様式を徹底再現した、舞台となる「小さいおうち」のセットにも目を見張る。 in movix倉敷 2014年1月27日 ★★★★☆ 「ハンナ・アーレント」 音楽家や美術家を映画にすることは、ホントに容易だったのだな、という事をつくづく思う。そのどちらも、本物を作品の中で見せることが出来るからである。しかし、思想は無理だ。エッセンスは伝えることが出来る。歴史を経て、今は評価されている彼女の思想を冷静に評価することは出る。 私はこの作品を観て、初めて「思考」したのであるが、彼女の思想の全体像は、単に「悪の凡庸」は役人根性とか、ユダヤ指導層の中の協力者ではなかったろうと思うのである。 それは彼女の云う「根源的な悪」とは何か、「根源的な善」とは何か、を明らかにしないと「理解」できないものだろう。それには少なくとも彼女の著作を読まないとならない。読むつもりはないけれど。 確かにバルバラ・スコヴァは熱演した。ただ、映画的に残念だったのは、せっかくハンナとハイデガーとのロマンスを描きながら、当然「悪の凡庸」とリンクしているはずの、ハイデガーの「悪の凡庸」を描いていないことである。あれでは、ハイデガーとのエピソードは描かない方が良かった。 「悪の凡庸」はきわめて現代的な問題でもある。無数のアイヒマンが、いま日本や世界を跋扈している。 (解説) 『ローザ・ルクセンブルグ』のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督と、主演のバルバラ・スコヴァが再び手を組んだ感動の歴史ドラマ。ドイツで生まれ、第2次世界大戦中にナチスの収容所から逃れてアメリカに亡命した哲学者ハンナ・アーレントの不屈の戦いを描く。彼女の親友役を『アルバート氏の人生』のジャネット・マクティアが好演。信念に基づき冷静に意見を述べた哲学者の希有(けう)な才能と勇気に脱帽。 (ストーリー)1960年、ナチス親衛隊でユダヤ人の強制収容所移送の責任者だったアドルフ・アイヒマンが、イスラエル諜報(ちょうほう)部に逮捕される。ニューヨークで暮らすドイツ系ユダヤ人の著名な哲学者ハンナ(バルバラ・スコヴァ)は、彼の裁判の傍聴を希望。だが、彼女が発表した傍聴記事は大きな波紋を呼び……。 シネマ・クレール 2014年1月30日 ★★★★☆
2014年02月07日
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12月に観た映画は12作品でした。「永遠の0」「47RONIN」以外は力作が多く、充実した月だったと思います。 「日本の悲劇」 この作品に描かれているようなことが、実際にもあり得るのか。父子は別に憎しみあっているわけでもない。父親の年金が生活の拠り所だった子どもが父親の死後もその死を隠し続け、年金や給付金を不正に受け取るというようなことが果たして起こり得るのか。実は2010年7月、同じような事が巷のニュースをいっとき賑わせた。この作品はそれにインスパイアされて作られたらしい。実際の事件の真実はわからない。しかし、この作品では、父親は様々なことを考えて自ら絶食して死に至ろうとしている。子どもはそれに戸惑い、なんとか阻止しようとし、最後には受け入れる。 それを信じられるかどうかが、この作品の「肝」だと思う。 俳優は四人しか出てこない。大森暁美と寺島しのぶは回想場面での出演なので、仲代達矢と北村一輝の2人芝居ともいえる。仲代の死に至ろうとする顔と、北村の泣きじゃくる顔。それは果たしてリアルだったのか。結論としていえば、リアルだったと思う。 リストラ、うつ病社会、自殺社会、老人介護、大震災、貧困問題等々、日本の諸問題が絡み合って、この小さな家族に襲いかかっている。父親は彼なりにかなり理性的に考えて、考えて、行動に移したと思われる。しかし、その結果は悲劇にしかならない。「日本の悲劇」とタイトルされた所以であろう。 監督 小林政広 inシネマクレール 2013年12月1日 ★★★★☆ 「42 世界を変えた男」 1人黒人大リーガーが頑張ってヒーローになったという話ではない。アメリカ社会そのものが戦後間もなく野球社会の中で差別をなくしてゆくことを、戸惑いながらも、意思を持って、時には耐え、時には勇気を持ち作り上げて来たことを、淡々と描き上げていた。好作品だと思う。 ただ、この邦題は気に入らない。アメリカ社会は変えたとは思うが、「世界」は変えていない。 (解説) 黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの伝記ドラマ。白人の世界だったメジャーリーグに飛び込み、偏見や差別に屈することなく奮闘した彼の姿を描く。監督は、『L.A.コンフィデンシャル』の脚本家としても知られるブライアン・ヘルゲランド。テレビドラマ「FRINGE/フリンジ」などのチャドウィック・ボーズマンが、ジャッキーを快演。親身になって彼を支えたドジャースの重役ブランチ・リッキーを、名優ハリソン・フォードが徹底した人物リサーチと特殊メイクを施して演じ切っている。 in movix倉敷 2013年12月4日 ★★★★☆ 「タワーリング・インフェルノ」新午前10時の映画祭 「今回は運が良かった。死者も200人以下だ。今度こんな高層ビル火災が起きたら、一万人が犠牲になるかもしれない」 親に連れていってもらわないで、友だちと観た映画の2作目だった。「ポセイドン・アドベンチャー」の印象があまりにも強烈だったためか、途中で寝てしまったのか、ほとんど内容を覚えていなかった。しかし、放心したように焼け跡のビルの前で座り込むポール・ニューマンとフェイ・ダナウェイ、そしてスティーヴ・マックイーンの姿だけは覚えている。書いて思い出したけど、多分途中で寝たみたい。中学生にはむつかしい内容だった?しかし、今見ると、CGのない時代に良く撮れたなあ、と思うことばかり。つい最近韓国版の「ザ・タワー」を観たばかり。こういう作品はやはり緊迫度において実写には敵わない、ということがよくわかる。メッセージもよく伝わったし。(1975年作品) 監督 ジョン・ギラーミン in TOHOシネマズ岡南 2013年12月5日 ★★★★☆ 「陽だまりの彼女」 どうして今さらこんな見え見えのファンタジーを作る必要があったのか。しかも、10年も会えないなんてあり得ないから。恣意的なストーリーにうんざり。 唯一の収穫は、上野樹里が時々光り輝いていたこと。復活とも言っていい。 (解説) 「金曜のバカ」「ボーナス・トラック」などの越谷オサムのベストセラー小説を実写化したラブストーリー。パッとしなかった幼なじみと再会した青年が、魅力的な女性になった彼女と恋に落ちたのを機に、切なくて温かな奇跡の物語が動き出していく。メガホンを取るのは、『僕等がいた』シリーズの新鋭・三木孝浩。『花より男子』シリーズの松本潤と『のだめカンタービレ』シリーズの上野樹里が、主人公のカップルを快演する。舞台となる湘南の魅力を余すところなく捉えたロケ映像も見ものだ。 in TOHOシネマズ岡南 2013年12月5日 ★★★☆☆ 「REDリターンズ」 登場人物たちのキャラが立っていて、とても気持ちよく鑑賞出来た。特にメアリー=ルイーズ・パーカーやイ・ビョンホンが乗ってやっていてくれた。ホプキンスが素晴らしいのは当たり前。だけど、彼の病気引退説が流れたのはいったいどこからか? (解説) 引退した元スパイたちの活躍を描いた、人気アクション『RED/レッド』の続編。至って静かに日々を過ごしていた元CIAの敏腕エージェントが、仲間らと行方不明の小型爆弾を追いながら事件の裏に潜む巨悪に挑む。ブルース・ウィリス、ジョン・マルコヴィッチ、ヘレン・ミレン、メアリー=ルイーズ・パーカーら名優たちが前作に続いて登場。さらにアンソニー・ホプキンス、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、イ・ビョンホンという豪華な面々が共演。老いてますます盛んを地で行くようなノリや見せ場を堪能できる。 in movix倉敷 2013年12月7日 ★★★★☆ 「利休にたずねよ」 利休切腹を基点に現在から一旦21年過去に戻って数年ごとに戦闘場面無しに戦国時代を描き、現在になったとたんに最後の1/3で50年前に遡るという面白い構成になっていた。私にはわかりやすいが、戦国時代の歴史の素養がなければ何のことかわからない内容。あまりにも速く時代がすぎるので、権力欲と美意識の対立という本来のテーマが、表層的過ぎたのではないか、という嫌いがある。 利休の求めた「美」の内容を、映画ならではの豪華な(おそらく本物の)茶道具や建物、水盆にに映した月、茶室の一輪の生花等々で現しているのは、茶には詳しくはないが面白かった。茶を少しでもやったことのある人には、一つひとつの所作も参考になるのだろう。 親子出演も話題になった。団十郎は死病に侵されているとは思えない、堂々とした演技であり、海老蔵は「武蔵」の頃よりは遥かに良くなっていた。 全く無名の(しかしちゃんと演技が出来る)クララを重要な女性に選んだのは、成功していた。 映画館で観た方がいい映画である。 (解説) 直木賞に輝いた山本兼一の小説を実写化した歴史ドラマ。戦国時代から安土桃山時代に実在した茶人・千利休の若い頃の恋、それを経て培った美への情熱と執着を壮大に映し出す。『一命』の市川海老蔵が千利休にふんし、10代から70代間際までの変遷を見事に体現。さらに、利休の妻・宗恩に中谷美紀、豊臣秀吉に大森南朋、織田信長に伊勢谷友介と、実力派が集結。三井寺、大徳寺、神護寺、彦根城など、国宝級の建造物で行われたロケ映像も見ものだ。 監督:田中光敏 キャスト 市川海老蔵、中谷美紀、成海璃子、福士誠治、クララ、市川團十郎、大森南朋 in movix倉敷 2013年12月11日 ★★★★☆ 「47RONIN」 奇しくも、討ち入りの12月14日に観てしまいました。今年の「とんでも映画」No.1の名誉を与えようと思う。想像以上でした。凄い。 (以下ネタバレ多し) いや、最初からこの世にない獣が出てくるので、これが日本の江戸時代を表してはないと世界の人びとは思ってくれているとは、信じたいのですが。何しろ日本の領土の形は正確に出てくるし、登場人物たちの名前も魁や浅野の姫の名前以外はとりあえずそのまま出てくるので、もしかしたら日本の忠臣蔵はこんな話だったんだ、と勘違いする外国人が出てこないとは限らない、あっ、日本人も‥‥。 松の廊下はおろか、吉良の目的は赤穂の領土になって仕舞っている。よって大石たちが「仇討ち」をする目的も変わって仕舞っている。実際に吉良を討ったあとに浅野家は再興すると言う暴挙が起きているし、大石力は切腹を赦されるし。 いや、それよりか切腹をまるで見世物の様に、将軍、浅野家姫、臣下の家族まで見守る中で全員で一挙に腹を切るなんて、何を考えているのやら。「お辞儀」も意味が全く違うし。えっ?キアヌ?そりゃあ単なる人寄せパンダだからどうでもいいんです。 (解説) 世界的スター、キアヌ・リーヴスを主演に迎え、歌舞伎や映画、ドラマなどで不動の人気を誇る「忠臣蔵」を大胆にアレンジしたアクションファンタジー。非業の死を遂げた主君の敵を討つべく集まった47人の浪士と異端の混血のサムライが協力し、数々の試練を乗り越え決死の戦いに臨むさまを描く。監督は、CMなどを手掛けてきた新鋭カール・リンシュ。共演には国際的に活躍する真田広之、浅野忠信、菊地凛子のほか、本作でハリウッド作初出演の柴咲コウに加え、赤西仁も名を連ねる。 in movix倉敷 2013年12月14日 ★☆☆☆☆ 「もうひとりの息子」 18歳という年齢は決定的である。2人は自分の意思でお互いの国を行き来することが出来る。 その若い感性で実際に訪ねないと、本当の人の気持ちや世界は理解出来ない。パレスチナを1人で訪ねた時に、言語がわからない若者の手を引いて老婆が家に案内をする。貧しさは心の貧さではない。若者と同時に観客の我々もそれを知るだろう。 両親のうち、母親よりも男親の方が道を見出し得ないでいたのは、当然だろう。男は歴史と政治が作ってきた社会で生き残ってきたからである。女性は産むとという行為で、それを軽々と飛び越えることが出来るのだろう。叶わない。 「そして、父になる」もどこにも疑問がない作品だったが、こちらも同様だった。 (解説) テルアビブに暮らすフランス系イスラエル人の家族。ある日、18歳になった息子が兵役検査を受ける。そして残酷にも、その結果が証明したのは、息子が実の子ではないという信じ難い事実。18年前、湾岸戦争の混乱の中、出生時の病院で別の赤ん坊と取り違えられていたのだ。やがてその事実が相手側の家族に伝えられ、2つの家族は、それが“壁”で隔てられたイスラエルとパレスチナの子の取り違えだったと知る……。アイデンティティを揺さぶられ、家族とは何か、愛情とは何か、という問いに直面する2つの家族。はたして、彼らは最後にどんな選択をするのだろう。 イスラエル人、パレスチナ人撮影スタッフの意見を日々取り入れて、この衝撃的な題材をリアルで感動的な家族の物語に完成させたのはフランスの女性監督ロレーヌ・レヴィ。育てた子と産んだ子の狭間で揺れる2人の母に、フランスのトップ女優エマニュエル・ドゥヴォスとパレスチナ映画界の大女優アリーン・ウマリ、その息子を子役時代から活躍するジュール・シトリュクと美しき新進俳優マハディ・ザハビ。フランス、パレスチナ、イスラエル…異なる背景を持つ俳優たちの、このうえなく繊細で献身的な演技を、世界中のメディアが絶賛。対立を乗り越え希望を見いだそうとする人間の強さに、誰もがもう一度、未来を信じたくなる名作が誕生した。 inシネマクレール 2013年12月15日 ★★★★☆ 「ゼロ・グラビティ」 凄い映像「体験」だったとしか言いようがない。宇宙空間という「密室」の中で、繰り広げられる人類の叡智と勇気のシュミレーションをさせてもらった。 もう一つの見所は大画面で宇宙から見れる地球の姿なのだけど、残念ながら(おそらく)アメリカ大陸周辺しか出てこない。 (解説) 『しあわせの隠れ場所』などのサンドラ・ブロックと『ファミリー・ツリー』などのジョージ・クルーニーという、オスカー俳優が共演を果たしたSFサスペンス。事故によって宇宙空間に放り出され、スペースシャトルも大破してしまった宇宙飛行士と科学者が決死のサバイバルを繰り広げる。監督を務めるのは、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『トゥモロー・ワールド』などの鬼才アルフォンソ・キュアロン。極限状況下に置かれた者たちのドラマはもとより、リアルな宇宙空間や事故描写を創造したVFXも必見。 in movix倉敷 2013年12月19日 ★★★★☆ 「武士の献立」 上戸彩の仄かな色気がたまりませぬ。もう少し作り方も伝授してくださったり、当時の料理技術云々がわかるかな、と思ったのであるが、出来上がった料理しか見せてくれず、消化不良。柚餅子は機会があれば、食べてみたい。 幕末モノかと思いきや、加賀騒動の時代でした。それと絡めていて、割りとフィクションが入っている。それはあまり必要性を感じなかった。 (解説) 『釣りバカ日誌』シリーズの朝原雄三が監督を務め、江戸時代に包丁侍として料理の腕を振るった武家に嫁いだ主人公の紆余(うよ)曲折を描く人間ドラマ。加賀藩に実際に存在した料理担当武士・舟木伝内と息子が残したレシピ集「料理無言抄」を題材に、当時の台所事情に迫る。気の強いヒロインを上戸彩、年下の夫を高良健吾が好演。伝統的な和食の世界はもとより、家族や夫婦の絆などを見つめる普遍的な人情劇が胸に染みる。 in movix倉敷 2013年12月21日 ★★★☆☆ 「もらとりあむタマ子」 最高に忙しかった2012年の8月までの日々。前田敦子はその直後、生涯で1番暇な時間を持つことになる。「苦役列車」の天然少女も、「クロユリ団地」の影のある女性も、彼女の一面ではあるが、このぐうたらな生活もやはり彼女の一面ではあるのだろう。 潔い脚本。全編タマ子は基本食って寝るだけ。広辞苑によれば、「モラトリアム」とは「三、人間が成長して、なお社会的義務の遂行を猶予される期間。また、その猶予にとどまろうとする心理状態」なのだそうだ。モラトリアム人間という言葉は聞かなくなって久しいが、社会がその余裕を持たなくなっただけで、それを必要とする人間は普遍的にいることを、この作品は圧倒的な前田敦子の存在感で証明する。 もうそれだけを「証明する」作品である。 (解説) タマ子、23歳。現在、無職。父がひとり暮らしをする実家で、家事を手伝うこともなく、就職活動をすることもなく、ただ食べて、寝て、マンガを読む生活を送っている。テレビを見れば「ダメだな、日本は」とか「クソ暑いのに野球なんてよくやるよ」とか悪態をつき、近所の中学生には「あの人、友だちいないから……」と同情される、逆ギレばかりのぐうたら娘。それでもなぜか愛おしいタマ子を、音楽、ドラマ、映画とさらに幅広い活躍を見せ、今年出演した『クロユリ団地』が国内映画ランキング初登場1位を記録した前田敦子が、かつてない多彩な表情で演じてみせた。待望の最新主演作は、“前田敦子史上もっともぐうたらな前田敦子”が姿を現す必見の一作。彼女の女優としての新境地から目が離せない! 監督は『リンダ リンダ リンダ』『マイ・バック・ページ』などの作品が国内外で高く評価される山下敦弘。『苦役列車』に続く前田敦子との顔合わせで、等身大な彼女の魅力を存分に引き出すことに成功した。また、脚本を務めるのは山下と大学時代からコンビを組み、近年は映画『ふがいない僕は空を見た』『陽だまりの彼女』などで才気を発揮する向井康介。2007年公開の『松ヶ根乱射事件』以来、約6年ぶりとなる山下と向井のオリジナル映画ができあがった。 主演・前田敦子、監督・山下敦弘、主題歌・星野 源という最強のコラボレーションがここに実現した。 inシネマクレール 2013年12月22日 ★★★★☆ 「 永遠の0 」 隣の1人で来ていた40代の男性は終始泣いていた。私が全然涙を流さなかったわけではない。山崎監督は「ALWAYS 三丁目の夕日'64」の時でもそうだったが、泣かせのツボは心得ている人である。山崎監督は非常にバランス感覚のある人で、明らかに右寄りな原作は中道に変えてしまう(「宇宙戦艦ヤマト」)。その反対もあるということである。結果、お涙頂戴が得意になってしまう。 原作の中の大本営の「酷い無戦略」はスパッと省略していた。まろさんが批判していた新聞記者の貶めは、健太郎の友人に替えていていた。左右の「難しい話」は全て省略していた。VFXは違和感なく作っているのは、さすが「白組」。 しかし結果、話の構造的に「特攻隊の人々が頑張ったから、今の日本がある」ということになってしまっていた。お正月映画の興行収入トップ作品なだけに、その罪は重い。 純粋な若者たちがどうして戦争に向かわざるを得なかったのか。それは原作でも十分に描いていないし、映画にするとどうしてもヒロイズムが強くなる。 テレビプロデューサーだった原作者は映画化の時も考えて、あの長編を書いたのではないかと勘ぐるのである。 夏八木勲さんはいつ頃出演したのか。かなり重要な役だった。逝く者は、決して首相が秘密保護法とか作ったり靖国に参拝して周辺諸国を挑発するような国を願って頑張ったのではない、と思うのだが。 (解説) 司法試験に落ちて進路に迷う佐伯健太郎は、祖母・松乃の葬儀の日に驚くべき事実を知らされる。実は祖父・賢一郎とは血のつながりが無く、“血縁上の祖父”が別にいるというのだ。本当の祖父の名は、宮部久蔵。60年前の太平洋戦争で零戦パイロットとして戦い、終戦直前に特攻出撃により帰らぬ人となっていた。宮部の事を調べるために、かつての戦友のもとを訪ね歩く健太郎。しかし、そこで耳にした宮部の人物評は「海軍一の臆病者」などの酷い内容だった。やがて宮部の最期を知る人物に辿りついた健太郎は、衝撃の真実を知ることに…。宮部が命がけで遺したメッセージとは何か。そして現代に生きる健太郎は、その思いを受け取ることができるのか。 監督 山崎貴 出演 岡田准一、三浦春馬、井上真央 in TOHOシネマズ岡南 2013年12月26日 ★☆☆☆☆
2014年01月14日
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2013映画マイベスト5 「ベスト」と言っても、選ぶ基準はあくまでも「どれだけ私の琴線に触れたか」である。世の一般的なマイベストも全てそうだとは思っているが、ことさら断るのは、今年の結果は特に異論がありそうな気がするからである。客観視すれば一位よりも二位の方が、作品の完成度も高いければ、テーマも深い気がする。それでもこれを選ぶのは、ひとえに今年の私的体験に関係するし、その関係で今も私を打ちのめしているからである。 しかし、統べからく映画とはそういう私的体験かもしれない。因みに今年観た作品数は今のところ104作。 一位「桃さんのしあわせ」 二位「愛 、アムール」 三位「エリジウム」 四位「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」 五位「そして、父になる」 他の作品としては一応「きっとうまくいく」「嘆きのピエタ」「この空の花 長岡花火物語」「横道世之介」「さよなら渓谷」を挙げておこう。
2013年12月29日
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韓国レポートも大晦日を迎えた処で、今月の県労会議機関紙連載の映画評を紹介。冬休みに家族で観るにはいい作品です。 「ニューイヤーズ・イブ」 ニューイヤー映画の新定番になるかもしれません。 大空港形式とも、グランドホテル形式とも言われる映画の作り方があります。同じ場所に集まった複数の人間ドラマを一度に見せる手法で、最近は少なくなりました。一人ひとりのドラマが薄くなる嫌いはありますが、新旧のスターたちが登場して来て、「あっ、こんな人がこんな役に」という面白味はあります。 今回は、大晦日ニューヨークのタイムズスクエア新年カウントダウンをクライマックスにして、「失われた絆を取り戻そう」とする人々にフォーカスを当てていました。綺麗にまとまっていたと思います。 俳優も豪華で、オスカー俳優だけでも、3人数えることが出来ました。歌手のボン・ジョヴィもスーパースターの役で主要人物として出演。死期の迫った孤独な老人にロバート・デ・ニーロ。彼は自らの死を犠牲にしても、なぜかボールドロップを見たがるのです。私は知らなかったのですが、カウントダウンの時にボールドロップと言って巨大な電飾の玉を落とすセレモニーがあるのです。その女性責任者に、マッチョな役が多かったはずのヒラリー・スワンクが出ていました。ミシェル・ファイファーは、仕事一筋の女性でしたが突然会社を辞めて「今年中にやり抜く目標」を一日でやろうとします。パーティー券を目当てにそれを助ける若者にザック・エフロン。大晦日の喧騒が嫌いな男アシュトン・カッチャーとボン・ジョヴィのバック歌手のリア・ミッチェルはエレベーターに閉じ込められてしまいます。「リトル・ミス・サンシャイン」(2006)では可愛い小太りの女の子だったアブゲイル・ブレスリンは、15歳のキュートな少女になっていました。その過保護な母親に「セックス・アンド・ザ・シティ」のサラ・ジェシカ・パーカー。そうそう、デ・ニーロを担当している看護師にハル・ベリーが出ていました。最初地味な役なので彼女だとは気がつかなかったのですが、最後になって見事に変身するのです。 エピソードの一つに、セレブのサム(ジョシュ・デュアメル)が、去年の大晦日の時に交わした約束のために午前零時に時計台の前で待ち合わせをする、シンデレラストーリータイプの話があります。その相手の女性が誰なのか、最後までわからない。終盤までに予測出来た人がいたなら、私はちょっと尊敬しちゃいます。(ゲイリー・マーシャル監督2011米作品、レンタル可能)良いお年を!
2013年12月20日
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11月に観た作品は、9作品。今回は時間が無くて画像はありません。すみません。収穫はあまりありませんでした。1番良かったのは「かぐや姫の物語」でした。 「テッド」 Movixが年一回行う隠れた名作のワンコイン上映。(これは岡山では東宝では上映したけど、松竹ではやらなかったんです) 現代のハリウッドのコメディはこういうお下品作品しか出てこない。日本のテレビ事情と良く似ている。だから、基本的に好きではない系統なのだが、それを越えて随所に散りばめられた80-90年代映画作品への愛があり、テディベアベアに代表されるオタクから抜け出すことが出来ない若者の自立を(曲がりなりにも)テーマにしているので、見終わったあとのスッキリ感はある。 ロリーが傷心の時に「ブリジット・ジョーンズの日記」を観ているのが笑えた。ジョンたちの「フラッシュ・ゴードン」への愛は幅広くあるんだろうけど、その俳優を連れ出して、あそこまで薬漬けの設定にするなんて、ブラックを越えて何だかの事情があるとしか思えない。 (解説) 『ザ・ファイター』のマーク・ウォールバーグ主演のドタバタ異色コメディー。命が宿ったテディベアのテッドと自立しきれていない中年男のコンビが巻き起こす騒動を、にぎやかなタッチで映し出していく。監督とテッドの声を務めるのは、テレビアニメ「ファミリー・ガイ(原題) / Family Guy」などの製作に名を連ねるセス・マクファーレン。固い絆で結ばれたテッドと主人公に嫉妬するヒロインを、『ブラック・スワン』のミラ・クニスが演じる。かわいいルックスとは裏腹に、言動すべてがオッサンなテッドには爆笑必至だ。 in movix倉敷 2013年11月9日 ★★★☆☆ 「清須会議」 ギャグもほとんど封じて、三谷幸喜氏が目論んだのは、三谷幸喜史観とでも言うべき歴史の説明会でした。 歴史オタクが「日本史上初めて会議で歴史が動いた」と言って嬉々として、トリビアな事実(明智光秀は年寄り、秀吉の耳の大きさ、3日めの旗とり競争)と、あり得ないセリフを積み重ねて作った映画。この中で積極的に歴史を動かそうとしたのは、秀吉とお市とお松ということになっている。歴史を動かすのは、個人のキャラであって、それに対していいとも悪いとも言わない。確かに、戦さバカで丹羽におんぶに抱っこの柴田、保身のために日和見を決め込む池田、頭が良すぎて揺れる丹羽、現代にも通じる会議の構造はわかった。しかし三谷幸喜はそういう会議のあり方に批判的視点は全くない。歴史が動けば、それでいいのだ、というのが、多分三谷幸喜史観である。面白ければいいのだ。合戦ではなく、会議で歴史がたまたま動いたのであって、これが日本の平和に貢献した、或いはしなかった、などとは間違っても思ってはいない。 三谷幸喜は日本の喜劇も壊してきたが、この作品で日本の時代劇も壊してしまったと言えるだろう。断じてこの作品を擁護しない所以である。 (解説) 数々のヒット作を作り出してきた三谷幸喜が、およそ17年ぶりに書き下ろした小説を自ら映画化した群像喜劇。本能寺の変で織田信長が亡くなった後、織田家後継者と領地配分を決めるために、柴田勝家や羽柴秀吉らが一堂に会した清須会議の全容を描く。役所広司演じる勝家と大泉洋ふんする秀吉の主導権争いを軸に、それぞれに思惑を秘めた登場人物たちが駆け引きを繰り広げていく。そのほか佐藤浩市、妻夫木聡、浅野忠信、西田敏行ら豪華キャストが勢ぞろいする。 in movix倉敷 2013年11月9日 ★★☆☆☆ 「四十九日のレシピ」 母親の遺した「四十九日のレシピ」に導かれて、継母だった母親の人生を旅する娘と夫。 一度NHKでドラマ化されて、粗筋に改変はなかったのに大いに笑い泣かされました。しかもテレビ版よりも良くなっている。作品の中では、少ししか顔を出さなくて、しかも有名俳優を使っていない晩年の母親の存在が、全編通じて暖かく登場人物全員を包み込む稀有な作品。「清須会議」のような「乾いた笑い」よりもよっぽど良質な喜劇がここにある。 二階堂ふみの初めての明るい役なのだけど、やっぱりどこか影がある。でも、あんまり外れがないのが凄いよ、この女優。永作博美は、人見知り努力家人生に自信がなくなっているアラフォー女性を丁寧に演じた。 「子どもがいなくても、空白のない人生は作れる」というメッセージが、私には嬉しい(^_^;)。 inシネマクレール 2013年11月10日 ★★★★☆ 「ルームメイト」 傑作になるのは、五分五分か少し可能性は低いと見て、臨んだ。しかし、北川景子も深川恭子も嫌いな女優じゃないし、こういう「匂い」が時に傑作になって時には見逃してきたこと(例えは「プライド(2008)」)を悔いていたので、とりあえず観たのである。 外れでした。残念。主な仕掛けは途中で見えてしまうし、よくある仕掛けを気にしたのか、余分なエピソードも最後に付け加えるという凡作でした。あとは2人の女優の演技合戦なのだが、深キョンに少し軍配は上がったけど、ドキッとするモノは終にみること叶わなかった。 (あらすじ) 派遣社員として働いている23歳の萩尾春海は、ある日、交通事故に遭い昏睡状態に。そんな春海を気遣い優しく支えてくれたのは、看護師の西村麗子だった。患者と看護師として病院で初めて会った2人だったが、なぜか互いに親近感を覚え意気投合。春海の退院をきっかけに麗子はルームシェアを提案し、一緒に暮らしはじめる。2人の共同生活は順調にみえた。麗子の奇妙な言動を目にしてしまうまでは─。不可解な事件が春海の周りで起き、ついには殺人事件までも引き起こしてしまう。そして、春海の前に麗子と見た目がそっくりのマリが現れる。※PG12 監督 古澤健 出演 北川景子、深田恭子、高良健吾 in TOHOシネマズ岡南 2013年11月13日 ★★★☆☆ 「キャリー」 前作は観ていない。しかし、流石に大まかなあらすじはおろか、主演の彼女の雰囲気のこともわかっているから、前作が何を描きたかったのかさえも想像出来る。 だから、現代においてこれをリメイクする意味はなんなのだろう。CGで迫力を出すことは、果たしてこの作品のミッシングピースをはめることだったんだろうか。それよりも、前作の良いところを壊すことではなかったか。 あゝこの作品のあらすじがわからないで、次に何が起きるかわからないで観たなら、どんなにドキドキするかと思った。それでも、CGでハサミを飛ばすよりも一本のハサミを気持ちを込めて飛ばした方がよっぽど訴える力があるのに、と思った。 グレースちゃんは頑張っていた。彼女のためにはいい作品だった。 (解説) 1976年にブライアン・デ・パルマ監督の実写版もヒットした、人気ホラー作家スティーヴン・キングの代表作を再映画化。念動力の持ち主であるいじめられっ子の少女が、抑圧されていた怒りや苦しみを爆発させたことから起きる恐怖と悲劇を描く。『キック・アス』のクロエ・グレース・モレッツが、悲壮な運命をたどるヒロインを熱演。監督は、『ボーイズ・ドント・クライ』のキンバリー・ピアース。念動力がさく裂してプロムが地獄と化す悲惨なクライマックスには、ただただ圧倒される。 in movix倉敷 2013年11月19日 ★★★☆☆ 「悪の法則」 分かりにくかった。わからなくてもいいと思っているのか。結局、獲物たちが次々とハンターに落ちてゆくのを「愉しむ」作品なのか。 いっときの「欲」のために非日常的な犯罪(巨大麻薬取引?)に手を貸す「弁護士」、失敗したら仕方ないと達観している仲介屋、勝ち組だと思っているブローカー、何を考えているのか、よくわからない女2人。 その悪人たちの日常を描く作品なのかもしれない。地獄の上をすれすれで歩いている彼らが時に喋る「哲学的」みたいな言辞に、時に魅了されるが、それこそが「美しさ」の罠だと思う。 思わせぶりな脚本や、いかにも裏組織然とした映像は、魅力的ではあったが、これはテーマと、分かりにくさで評価すべきではない。 (解説) マイケル・ファスベンダーにブラッド・ピット、ペネロペ・クルスにキャメロン・ディアスにハビエル・バルデムという豪華スターが共演した心理サスペンス。欲望に駆られて裏社会のビジネスに手を出した弁護士とその仲間たちが、危険なわなにハマり否応なく堕(お)ちて行く姿を描き出す。メガホンを取るのは『ブラックホーク・ダウン』などの巨匠リドリー・スコット。セレブリティーたちを破滅へと追い込む謎の黒幕の存在はもとより、予想だにしないラストに驚がくする。 (スタッフ) 監督:リドリー・スコット 脚本:コーマック・マッカーシー (キャスト) マイケル・ファスベンダー ペネロペ・クルス キャメロン・ディアス ハビエル・バルデム ブラッド・ピット in movix倉敷 2013年11月20日 ★★★☆☆ 「晴れのち晴れ、ときどき晴れ」 典型的なご当地映画。牛窓という町は、そのまま撮っても充分に映画的な景観に耐え得る処だということを証明した。 せめて、題名の由来を台詞の中に入れて欲しかった。 (解説) およそ16年振り帰郷した中年男を主人公に、娘だという17歳の少女との親子愛や、地域の結束力を描くヒューマンドラマ。人々の織り成すドラマと共に日本の豊かで心が落ち着く自然や、“うらじゃ”と呼ばれる祭りの音頭などを映し出す。主人公を演じるのは、EXILEのMATSUこと松本利夫。共演は、宮崎香蓮、白石美帆、綿引勝彦など。テレビドラマ「綾辻行人・有栖川有栖からの挑戦状」シリーズの内片輝がメガホンを取り、テレビドラマ「半沢直樹」の八津弘幸が脚本を担当する。お調子者を演じる松本の好演や、ハートウオーミングなストーリーが胸に迫る。 in movix倉敷 2013年11月20日 ★★☆☆☆ 「かぐや姫の物語」 あらすじは純粋に「竹取物語」だけれども、解釈によってこうも違う話になるのか。もともとが「今は昔」なのだから、あの絵柄でちょうど良かったと思う。 特に前半は素晴らしかった。後半に魅力がなくなるのは、かぐや姫が生きる世界そのものに魅力がないからに他ならない。 見る角度によって、いろいろ景色が変わる万華鏡のような、さまざまな模様を持った平安絵巻が出来上がった。 (解説) 数々の傑作を生み出してきたスタジオジブリの巨匠、高畑勲監督が手掛けた劇場アニメ。日本で最も古い物語といわれる「竹取物語」を題材に、かぐや姫はどうして地球に生まれやがて月へ帰っていったのか、知られざるかぐや姫の心情と謎めいた運命の物語を水彩画のようなタッチで描く。声優陣には、ヒロインかぐや姫にテレビドラマ「とめはねっ! 鈴里高校書道部」などの朝倉あき、その幼なじみを高良健吾が務めるほか、地井武男、宮本信子など多彩な面々がそろう。 監督・原案・脚本:高畑勲 製作:氏家齋一郎 製作名代:大久保好男 企画:鈴木敏夫 脚本:坂口理子 音楽:久石譲 主題歌:二階堂和美 人物造形・作画設計:田辺修 美術:男鹿和雄 作画監督:小西賢一 塗・模様作画:斉藤昌哉 動画検査:野上麻衣子 色指定:垣田由紀子 撮影監督:中村圭介 宣伝プロデューサー:高橋亜希人 / 細川朋子 (声の出演) 朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子、高畑淳子、田畑智子、立川志の輔、上川隆也、伊集院光、宇崎竜童、中村七之助、橋爪功、朝丘雪路、仲代達矢 in movix倉敷 2013年11月23日 ★★★★☆ 「ペコロスの母に会いに行く」 今、私は月に二回ぐらい86歳の叔母の処に会いに行っている。叔母は五年ほど前から認知症が急激に進み出した。今年の春にやっと施設に入れたのであるが、一緒に入った夫は半年で還らぬ人に。むつかしいことは、直ぐに「わからん」と投げたす叔母のことばかりを思いながら、クスクス笑ったり、大笑いしたり、泣いたりしながら見させてもらった。 介護問題を告発する作品でもなければ、特別な苦労をして何かを達成する作品でもない。男やもめのペコロス(玉ねぎ頭)岡野は、介護に困ると比較的すんなりと母親の施設入りを決め(普通も相談しないけど)母親に断りもなく施設に入れる。岡野の職業以外は、ホントに普通の介護の日々なのである。 それでも、これが映画になるのはなぜか。ひとえに、一人ひとりの人生には一人ひとりのドラマがあるからに他ならないからだろう。 若き日の母親に久しぶりの原田貴和子、その親友に原田知世を配したり、酒乱で愛すべき亡くなった父親に加瀬亮を配したり、岡野役の岩松了、母親役の赤木春恵が実に自然な演技を見せたりして、人情喜劇とはこうじゃなくちゃいけないという手本のような作品に仕上がった。流石ベテラン監督森崎東である。 私も叔母さんから、昔の話をもっともっと聞かなくちゃいけないと思っている。 inシネマクレール 2013年11月24日 ★★★★☆
2013年12月08日
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10月に観た映画は6本でした。私としては少ない。叔父の不幸とか、映画サークルの会報当番とか、いろいろ忙しかったからな~。 「そして父になる」 親子関係にしろ、兄弟にしろ、親戚にしろ、その関係に「なる」ために必要なのは、「血」なのだろうか、「時間」なのだろうか。 私にも子どもはいないのでわからないかもしれないが、親子関係としては、私の体験としてはやはり「時間」だと思う。 どっちかを、作品は描いているわけではない。淡々とした映像が、ウソを見出すことの出来ない映像が、その重要なことを静かに考えさせる。 あとからじわじわくるタイプの作品でした。 (解説) 『誰も知らない』などの是枝裕和監督が子どもの取り違えという出来事に遭遇した2組の家族を通して、愛や絆、家族といったテーマを感動的に描くドラマ。順調で幸せな人生を送ってきたものの、運命的な出来事をきっかけに苦悩し成長する主人公を、大河ドラマ「龍馬伝」や『ガリレオ』シリーズの福山雅治が演じる。共演は、尾野真千子や真木よう子をはじめ、リリー・フランキー、樹木希林、夏八木勲ら個性派が集結。予期しない巡り合わせに家族が何を思い、選択するのか注目。 in movix倉敷 2013年10月1日 ★★★★☆ 「凶悪」 「あまちゃん」の梅さんが冒頭から3人も人を殺して、「そして父になる」の気のいい電気屋さんが、爺さんの死にざまを嬉々としてお膳立てする。人間はこんなに変われるんだ(別の作品だから当たり前だけど)、と人間不信に陥りそうな作品です。 若松孝二監督の助監督を長い間やって来た白石和彌監督が初めて商業映画に臨む。主要人物以外は、商業的には無名の(しかし達者な)役者ばかりで、それがリアル感を出していた。しかし、若松孝二監督ほどには話の展開に破綻はなかったが、その代わりに熱量もなかった。 目を背けたくなるような殺人ばかりが続いて、ピエール瀧もリリーフランキーもまるで人でなしなのは、当たり前なんだけど、殺人者の内面に迫る作品ではない。それを追う雑誌記者の内面を追う作品なのである。しかし、何が言いたかったのか、記者の凶悪な部分が少ししか出ていなくて、面白味がないのである。 記者の妻(池脇千鶴)が、介護しているお母さんを虐待し出して「もう良心の呵責も感じなくなった。こんな人間になるとは思いもしなかったのにね」と言った時には、「おお~これか!」と思ったのだが、その後に「切れ」が全くないのである。もっとキチンとしたドラマを作って欲しかった。 若松孝二亡き後、頑張って欲しい。 (解説) 『ロストパラダイス・イン・トーキョー』の白石和彌が、ベストセラーノンフィクション「凶悪-ある死刑囚の告発-」を映画化した衝撃作。ある死刑囚の告白を受け、身の毛もよだつ事件のてん末を追うジャーナリストが奔走する姿を描く。主人公を『闇金ウシジマくん』シリーズなどの山田孝之が演じ、受刑者にピエール瀧、冷血な先生をリリー・フランキーが熱演する。それぞれの男たちの思惑が複雑に絡み合う、見応えたっぷりの展開に引き込まれる。 in movix倉敷 2013年10月6日 ★★★☆☆ 「最愛の大地」 戦争は人間を手段として扱う。軍隊の方針として、女性をレイプして妊娠させて子どもを産ませることで「民族浄化」が出来たという主張。女性を戦闘の盾として扱うという非道。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の中で起きたそれらの事実を、寡聞にして私は知らなかった。映画はそれらを淡々と映し出す。アンジェの監督第一作は思いもかけずに「骨太」な作品だった。 アンジェは、ムスリムの女性の側に一方的には立たない。非道を声高に叫ばない。二つの民族の間に立ちはだかる、矛盾した愛憎の河を、むしろわかりやすいように、一組のカップルに託して我々に見せたのだと思う。 それを劇的に見せたのが、あのラストの三分間だったのだろう。この映画の宣伝に、アンジェは一切全面に出なかったらしい。作品の質で勝負したいということだったのだろう。その是非は私には判断し難い。世界の常識から遮断されている日本人には、「民族浄化」は解説されなかったら、絶対わからなかっただろうし、「女性の盾」も下手をすると単なる前線の一コマのように見たかもしれない。そういう「わかりやすさ」と「社会性」を同時に達成することはできなかった。しかし、単なる女性活動家ではなくて、ましてやハリウッド女優のボランティアなどではなくて、しっかりした社会派監督の誕生はしっかりと見届けたと思う。 (解説) 著名なハリウッド女優であり人道支援家としても活躍するアンジェリーナ・ジョリーが、長編初監督を果たした社会派人間ドラマ。1990年代に泥沼化したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を舞台に、恋人でありながら内戦により敵になってしまったボスニア人女性とセルビア人男性の愛の行方を描く。同紛争で人間の盾として使われ虐げられた女性たちの悲劇に基づく物語は、女性団体から抗議を受けアンジー自ら説明しに行くなど、多方面で論争を巻き起こした。 (あらすじ) ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下の1992年、セルビア兵に捕まり収容所に送られたアイラ(ジャーナ・マリアノヴィッチ)は、女性としてのプライドをズタズタにされるような日々を送っていた。そんな中、以前付き合っていた将校ダニエル(ゴラン・コスティッチ)から、肖像画の制作を依頼される。やがて二人の間に愛が再燃するが、一方で戦況はさらに悪化していき……。 in movix倉敷 2013年10月14日 ★★★★☆ 「謝罪の王様」 クドカンとの相性はよくない。「あまちゃん」という例外もあったので、万が一ということも考えて観て見たが、やっぱりダメだった。 終わってみんな劇場を出るとき、みんな苦笑いの表情だったように感じたのは私の偏見か? エンドロールにE-girlやEXILEなどを出して来て、あんなに力入れて関係ない映像を延々と撮る必要はあったのか? 時系列を思いっきり弄って、つじつまを合わせて、誰か感動するとでも思ったのか? あゝだんだん頭に来てきた。 (解説) 『舞妓 Haaaan!!!』『なくもんか』に続いて、水田伸生、宮藤官九郎、阿部サダヲの監督・脚本・主演トリオが放つ異色のコメディー。あらゆる相手、いかなる状況であろうとも依頼者の代わりに謝って事態を収束する謝罪師が巻き起こす騒動の数々を描く。井上真央、竹野内豊、尾野真千子、松雪泰子など、豪華な面々が集結してクセのあるキャラクターを快演。全編を貫くにぎやかなタッチもさることながら、社会風刺の利いたブラックな笑いも楽しめる。 in movix倉敷 2013年10月17日 ★★☆☆☆ 「共喰い」 文学青年の作文だった作品をどのように映画化するのか、期待せずに観た。暴力とセックスをテーマにしているようで、実は父親殺しと母親探しをホントのテーマにしているのが原作である。映画はそれをなぞりながら、実はホントの主人公は周りの三人の女なんだと作り替えた。仕方ない改変ではある。しかし、そうしてもなお、この作品の「わざとらしさ」はどうしようも無かった。 変な気取りは止めにした方がいい。 (解説) 世界的映画監督・青山真治×芥川賞作家・田中慎弥、奇跡&衝撃のコラボレーション 「原作もの」を超越した、脚本家・荒井晴彦によるオリジナルエンディング 『EUREKA ユリイカ』でカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞、『東京公園』でロカルノ国際映画祭金豹賞審査員特別賞を受賞し、日本を代表する映画監督として世界的評価の高い青山真治。彼の最新作は第146回芥川賞を受賞した田中慎弥の同名原作を映画化する衝撃作『共喰い』だ。 劇場用映画デビュー作『Helpless』から『EUREKA』、『サッド ヴァケイション』に至る「北九州サーガ」3部作で、青山真治は北九州の街を舞台に、濃密な血と暴力の物語を映し出した。海峡一つ隔てた下関を舞台に、血と性の物語を鮮烈に描き出す田中慎弥の原作は、まるで合わせ鏡のようにして両者に共通する世界観を浮き彫りにする。 脚本は、『赫い髪の女』から『大鹿村騒動記』まで、日本の映画史に残る傑作を数多く手掛けてきた荒井晴彦。人間の奥底に潜む深い闇をあぶりだす濃厚な物語にオリジナルのエンディングを用意し、人気小説を映画化する凡百の「原作もの」を超越した、奇跡のコラボレーションが実現している。 映画化の決定に際し、原作者の田中慎弥はこうコメントして話題を呼んだ。「小説の『共喰い』こそが一番だと私は思っています。映画に携わる人たちは、『共喰い』は映画のための物語じゃないか、と考えていることでしょう。勝負です」だが、完成した作品を観た彼は映画の出来を手放しで絶賛している。性描写など数々のタブーにも挑んだ、近年まれに見る本物の映画がここに誕生した。 主人公の遠馬を演じたのは、「仮面ライダーW」で史上最年少の仮面ライダーとしてデビューし、ドラマ「泣くな、はらちゃん」「35歳の高校生」や映画『王様とボク』で注目を集める菅田将暉。性に葛藤し血に苦悩する高校生の心情を鮮やかに表現し、日本映画の将来を担う俳優として、その類まれな存在感をまざまざと見せつけている。 遠馬の父、円に扮するのは『Helpless』以来、青山作品の常連として味わい深い演技を披露してきた光石研。母の仁子にはドラマ「蒼穹の昴」や映画『いつか読書する日』の田中裕子が扮し、圧倒的な芝居で観客を魅了する。また、遠馬の恋人である千種を演じた木下美咲、父の愛人である琴子を演じた篠原友希子、二人の若手女優は濡れ場にも大胆に挑戦し、その瑞々しさ溢れる演技で観る者に強烈な印象を残すだろう。 inシネマクレール 2013年10月20日 ★★★☆☆ 「人類資金」 予想したよりは良かった。近代資本主義が金の担保を忘れて暴走を始めているのに対するアンチテーゼを示そうとした野心作である。 M資金という都市伝説のような戦前の隠し遺産を使って、カペラ共和国という架空の小国の教育水準を上げることにカネを回すべきだと指摘する笹倉雅美の孫の信人。 「人類の7割はまだ電話さえかけたことがない」という事実を象徴的に使い、共和国の人々に一挙にPDA(携帯の丈夫な機種)を供給する。そうすることで、信人が拾ってきた石優樹のように優秀な人間が育つことを期待しようというのである。 モノに投資するのではなく、ヒトに投資をしよう。そのメッセージが伝わる「作り話」である。 エコノミックミステリーなので、所々ついていけない処があったり、かなり強引な展開があったりするのであるが、ロケ地もロシア、タイ、ニューヨークとかなり「カネ」を使った大作になっている。役者も仲代達矢が予想よりもかなり元気に演っていたり、ヴィンセント・ギャロやユ・ジテが出ていたり、キチンと国際色豊かに作っている。 (解説) 『亡国のイージス』『大鹿村騒動記』などの阪本順治が監督を務め、原作の福井晴敏と共に脚本も担当したサスペンス。いまだ、その存在が議論されている旧日本軍の秘密資金、M資金をめぐる陰謀と戦いに巻き込まれていく男の姿を活写する。佐藤浩市、香取慎吾、森山未來をはじめユ・ジテやヴィンセント・ギャロら、海外からのキャスト陣を含む豪華な顔ぶれが結集。彼らが見せる演技合戦はもちろん、壮大で緻密な展開のストーリーも見もの。 in movix倉敷 2013年10月23日 ★★★★☆
2013年11月08日
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今月の県労会議機関紙連載の映画評はこれです。 「レ・ミゼラブル」 満を持して、昨年の洋画邦画通じてのマイベスト作品を紹介します。ヴィクトル・ユーゴーの原作をミュージカルで蘇らせた「レ・ミゼラブル」です。 フランスの囚人ジャン・バルジャンが辿った数奇な運命を、贖罪、法と情の対立、貧困、革命と弾圧などのテーマに絡ませながら、波乱万丈に描き切った大作です。 実は私はミュージカルが苦手だったんですが、これは素晴らしかったです。反対に、これはミュージカルでないと多分ダメな題材だったのではないかと思うのです。原作はNHK大河ドラマにしないと描けないような長編ですが、歌で歌われると、それがOKになってしまうのです。説明的なセリフも、好都合過ぎる展開も、一曲の中に全てが入っている気になってしまいます。歌は、世界を理論的に説明することは出来ませんが、世界を表現して、心を動かすことは出来るのです。 ジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)とジャベール(ラッセル・クロウ)との「情愛を選ぶか、法の厳格さを選ぶか」という対立は流石に見応えがありました。でもなぜか心に残ったのは、薄幸の女性フォンテーヌ(アン・ハサウェイ)の自分の人生を悔い、娘のコゼット(アマンダ・セイフライド)を想う歌。そしてマリウスへの実らない片思いを歌うエポニーヌ(サマンサ・パークス)の独唱でした。本作は従来のアフレコ手法ではなく、現場で生歌を同録する手法がとられました。歌のなんたるか、疎い私でもじんじんと胸に響くのでした。 もともとは舞台ですが、映画ならではの場面も多々ありました。4つぐらいのメロディーラインが交差しながら、それぞれの人物の立場と心情をフラッシュバックで見せた後に、静かにこの作品の主題歌とも言える1832年のパリ蜂起を称える「民衆の歌」が立ち上がるのです。 闘う者の歌が聞こえるか 鼓動があのドラムと響き合えば 新たに熱い命が始まる 明日が来た時・・そうさ明日が 列に入れよ!我らの味方に 砦の向こうに世界がある ゾクゾクしました。ラストにもう一度この歌が歌われるのですが、ここまで感情を揺さぶられるとは、想像もしなかった秀逸なエンドシーンでした。(2012年トム・フーパー監督、レンタル可能)
2013年10月17日
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9月に観た映画は全部で9作。9月は夏休みが終わって比較的落ち着いた時期なので、いい作品にいくつか出逢うことができました。 「マン・オブ・スティール」 制作がクリストファー・ノーランなので、てっきりもっと重厚なモノになると期待して来たのだけど、やっぱり作品はザック・スナイダー監督のものだった。 前回の「スーパーマンリターンズ」と同じ体力聴力読心力レーザービームまで持っている神に近い超人になってしまっている。 違うのは、クリンプトン星の設定である。おそらく地球までも植民地候補にした絶頂を極めたこの星も、効率を求めたのか人々を「役割」を決めて生まれるようにしてしまった。スーパーマンは唯一自然出産の男の子という設定である。そのために特別な能力を持ったのかと思ったのであるが、唯一持ったのは「選択する力」だと云う。超人になるのは、地球の環境がさせる術らしい。だから、クリンプトン星のゾッド将軍が来たならば不利になってしまう。 出生の地のクリンプトン星を蘇らせて地球を滅ぼすか、それともクリンプトン星人を絶滅させて地球を救うか。この選択に、スーパーマンは少しだけ悩んで当たり前の結論を出す。まるきり、「移民大国アメリカのアメリカのための映画」でした。 あ、映像は凄かったです。久しぶりに寝なかった。 (解説) クリストファー・ノーラン製作、ザック・スナイダーが監督を務めたスーパーマン誕生までの物語を紡ぐアクション大作。過酷な運命を受け入れ、ヒーローとして生きることを決意する主人公の苦難の日々を驚異のアクションと共に描き出す。『シャドー・チェイサー』などのヘンリー・カヴィルが主人公を熱演。悩んだり傷ついたりしながらも前進する主人公の姿が目に焼き付く。 (キャスト) ヘンリー・カヴィル、エイミー・アダムス、ローレンス・フィッシュバーン、ケヴィン・コスナー、ダイアン・レイン、ラッセル・クロウ in movix倉敷 2013年9月1日 ★★★☆☆ 「劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」 「歴史を作るのは名もなき人々。歴史上の事件よりも彼らを取材することにこそ、歴史の真実が見えてくる」という信念の元に未来の報道者の要潤は事件報道部の第一報道部よりも第二報道部に入れ込んでいる。 テレビ版では滅多に出てこない未来パートに加え、今回の舞台の戦国時代だけで無く、1985年と1945年の「庶民」の姿も見せていくという豪華版。 いやあ、満足しました。未来社会のドキュメンタリーという姿勢を、歴史的事件報道を中心にしたいという夏帆との対比することで貫いていた。一風変わった時代劇映画になっていた。ただ、茶壺を取り戻す経緯があまりリアルじゃなかった。現代に近いほどリアルに徹しないと、このいいアイデアが台なしになる。 安土城は一日主が不在だったんですね(歴史的事実)。それならば、いろんな人が入って来て失火しても仕方なかったんじゃないでしょうか。 (解説) 2009年にシーズン1の放映がスタートし、人気を博しているNHKのドキュメンタリー・ドラマ風の番組を映画化。さまざまな時代にタイムワープして歴史の裏側に迫る時空ジャーナリストの青年が、戦国時代の武将・織田信長が天下統一の拠点とするも、いまだ焼失した原因が不明の名城・安土城最後の一日の謎に挑む。テレビ版でおなじみの要潤と杏をはじめ、夏帆、時任三郎、上島竜兵、宇津井健ら新キャストを迎え、四つの時代を往来する壮大なスケールの物語が展開。 in movix倉敷 2013年9月7日 ★★★★☆ 「さよなら渓谷」 作劇上は尾崎夫婦の秘密は中盤になってやっと分かる様になっているが、予告だけでは無くあらゆる処でこの二人は実はレイプ事件の加害者と被害者だという事はバレバレ。そのつもりで二人の演技を眺める。 この真木よう子は今年の主演女優賞だと思う。 「何でもすると言ったわよね。ホントにすまないと思っているのなら、私よりも不幸になってよ!だから、私は絶対自殺しない。」 もしも、すぐそばでずっと自分を憎んでくれる女性がいたならば、自分の人生を捧げてもいいと思う男(大西信満)もいるかもしれない。 女性は体力では男性に劣る。だからレイプ事件はたいてい女性が被害者である。しかし、女性には「決定する力」がある。私自身はゴメンだと思うけれども、女性のわがままとも思える「翻弄力」は一般男性が持ち得ないものだ。合わせ鏡の様に夫婦を探る記者(大森南朋)の妻(鶴田真由)がその翻弄力を持っていた。 集団レイプ事件で、1番優しかった尾崎が「かなこ」の「対象」に選ばれたのはなぜか。 かなこは尾崎を突然2日間「もうついて来ないで」と言いながら引き回す。そして橋の上でちょっとの間いなくなった尾崎に「逃げたのかと思った。現れてホッとした」と言う。その時に尾崎が慟哭したのは何故か。 半年間夫婦もどきを過ごした後に「私が決めなくちゃね」と言ってかなこが消えたのはなぜか。 繰り返すけれど、私はゴメンだけれど、こういう愛の形があってもイイと思う。 監督 大森立嗣 モスクワ国際映画祭審査員特別賞受賞 inシネマクレール 2013年9月8日 ★★★★☆ 「許されざる者」 リメイクではある。場所と設定は違うが、大まかな物語は同じではある。しかし、これはクリント作品とは違う李相日作品だと思い定めて見た方が、迷いがなくなるとは思う。終わってみれば、「人を殺すことの意味」は西部開拓時代と武士の江戸から明治に移りつつあった時代では全く違うのだ。 だから、ラストも違う。 十兵衛はクリント作品の様に、生きて子供の処に帰ることは許されない。 辱めを受けた女郎は、最後まであの二人の男を憎み通すことは出来ない。人を殺すことは、誰が見ても「悪い」ことなのである。しかし、明治の辺境のこの一瞬のみ、ここが無法地帯になった。李相日監督はそこにかけたのであり、その意味では面白い作品だった。 前作の重要なセリフもない。 マーニーは言う。 「殺しは非道な行為で人の未来を奪うものだ」 若者はうそぶく。「やつらは自業自得さ」 「俺たちも同じだぞ」 今回若者の位置づけが違う。単なる賞金稼ぎ志望の跳ねっ返りではない。少数民族のアイヌの矛盾を背負った和人との混血である。若者に跳ねっ返りのセリフを言わせる必要はなかったのである。 この作品は、アイヌ民族が日本民族に駆逐される処を描いた数少ない作品になった。 (解説) クリント・イーストウッドが監督と主演を務め、アカデミー賞作品賞などに輝いた西部劇をリメイク。江戸幕府最強の刺客として恐れられた男が、やむを得ぬ事情から一度は捨てた刀を手にしたことから壮絶な戦いに身を投じていく姿を描く。メガホンを取るのは、『フラガール』『悪人』の李相日。ハリウッドでも活躍が目覚ましい渡辺謙をはじめ、、柄本明、佐藤浩市らキャストには実力派が結集。彼らの妙演に加え、開拓時代の西部から明治初期の北海道への舞台移行などの改変点にも注目。 in movix倉敷 2013年9月13日 ★★★★☆ 「ウルヴァリン:SAMURAI」 やはりというか、お約束のというか、とんでも映画でした。大きな所から細かい部分まで、ハリウッドは日本に対する「勘違い」を決して正そうとは思わないらしい。日本人はそれを見て許したり、喜んだりしているのだから、何をかいわんや、なのですが。 長崎の原爆の時に軍部は決して部下や捕虜を逃がそうとはしなかったし、ましてや飛行機に向かってハラキリなどはするはずなかった。或いは、現代の東京であんなに拳銃を撃つ事は無理。 たまたま出会った東京出身の映画仲間は「道成寺から直ぐに秋葉原に出たり、上野駅から長崎へ行くのは無理」と言っていた。 そんなこと書くとキリが無いので、やめます。嬉しいのは、ずっと過去に向かっていたシリーズがやっと未来に向いたこと。Xメン三部作シリーズの最後から繋がっていて、凹んでいたモーガンが「やはり俺の生きる道は○○なんだ」と立ち直るのがこの映画の唯一のいい所です。 わざと無名の女優ふたりを使ったのだと思う。TAO、福島リラともに変な日本語じゃなくて、存在感を持っていて良かった。新幹線上の超スピードアクションは新感覚で良かった。 終わっても直ぐに席を立ってはいけません。 (解説) 『X-メン』シリーズのメインキャラ、ウルヴァリンを主人公にした人気アクションの第2弾。超人的治癒能力と手の甲から飛び出す鋭利な爪を持つウルヴァリンが、日本で自身の運命を大きく左右する戦いに身を投じる。『X-メン』シリーズと前作に続き、『レ・ミゼラブル』などのヒュー・ジャックマンがウルヴァリンを力演。メガホンを取るのは、『ナイト&デイ』などのジェームズ・マンゴールド。一大ロケを敢行して撮影された日本の風景をバックに展開する壮絶なバトル描写や、ハリウッドでも活躍している真田広之の共演にも注目。 ヒュー・ジャックマン、真田広之、TAO、福島リラ、ハル・ヤマノウチ in TOHOシネマズ岡南 2013年9月18日 ★★★☆☆ 「エリジウム」 快作である。 「第9地区」で南米スラム街の複雑な現実を徹底的に皮肉っていたが、少し分かりにくい所もあった。今回は、設定は思いっきり細部に拘っているけど、テーマは貧困格差に集約化してとても分かりやすく、そのくせ鋭い。 ブロムカンプ監督らしい猥雑さは残しながらも、エリジウムの優雅さも描かれているから地球の貧困がスッキリ共感出来るのである。 警察の横暴、直ぐにリストラされる危機、貧困層には命が保障されない現実、それらのアメリカや世界の現実を皮肉たっぷりに描いてくれて、しかも「泣けるハッピイエンド」で終わらす。社会性とエンタメとの融合が素晴らしい。 マチルダのお気に入りの「カバとの約束」のお話が世界を救うのである。 そうそう、書き忘れたけど、冒頭20分ぐらいに示される環境汚染と人口爆発のために富裕層がエリジウムに逃れたあとの地球の様相は、そのままアメリカの現実の戯画でした。堤未果の「(株)貧困大国アメリカ」によれば、エリジウムは既にアメリカ国内に実現しているのである。2005年人口10万人の完全民間経営自治体サンディ・スプリングス市が誕生しているらしい。平均年収17万ドルの富裕層と、税金対策で本社を置く大企業か住民。ここでは、余分な税金を低所得者層の福祉その他に取られず、最も効率よく自分たちためだけのためにサービスを受けられるのである。また、マックスは前科があるために、ロボットの警察と役人の横暴に絶対服従を取るけど、これもたとえ軽犯罪でも三回刑に服すると無期懲役になるスリーストライク法としてアメリカに既にある。アメリカには民間健康保険しかないために富裕層しか充分な医療を受けられないということは有名である。 アメリカ人が観ると、多分いろんな細かい点で「これは既に現実のアメリカだ」と思うのだと思います。 (あらすじ) 2154年。スペースコロニー“エリジウム”で生活する富裕層はパーフェクトな居住空間で過ごす一方、荒廃した地球に暮らす貧困層はひどい搾取に苦しんでいた。エリジウム政府高官のローズ(ジョディ・フォスター)が地球の人間を消そうと動く中、地球で暮らすマックス(マット・デイモン)はエリジウムに潜入することを決意。残り5日しかない寿命を懸けて戦いに挑む。 (解説) 『第9地区』が第82回アカデミー賞作品賞などにノミネートされた新鋭ニール・ブロムカンプ監督が、マット・デイモンを主演に迎えたSFアクション。22世紀、富裕層だけが居住を許されるスペースコロニー“エリジウム”を舞台に、虐げられた地球の住人の反撃をハードに描く。マットのほか、ジョディ・フォスターや『第9地区』『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』のシャールト・コプリーが出演。ブロムカンプ監督の斬新なアイデアや演出に期待。 in movix倉敷 2013年9月20日 ★★★★★ 「この空の花 長岡花火物語」 市民のつどい2013前夜祭の映画「この空の花」(大林宣彦監督)とってもよかったです。五つ星★! あまり前情報無しに観たのですが、最初は長岡花火に震災を絡めた地域発映画かと思ったら全然違いました(震災とは当然絡めています)。どこからドラマパートで、どこからドキュメンタリーなのか区別がつかなくなる、監督のエッセイ映画とでも言っていい作品でした。 劇中劇の「まだ戦争には間に合う」という高校生演劇が一つの縦糸になって物語が進みます。ここまでも、平和への祈りを込めた作品なのだとは思いませんでした。 松雪泰子、高嶋政宏、原田夏希、柄本明、片岡鶴太郎、犬塚弘、藤村志保、笹野高史、そして富司純子その他有名無名老若男女の俳優が協力して、このタペストリーとでも言えるメッセージ映画が出来上がっている。 そしてラストの三尺玉の戦没者追悼の真っ白い花火。そして色とりどりの見事なフェニックス花火。 「世界中の爆弾が花火に変わったら、きっとこの世から戦争はなくなる」山下清が言ったというこの思いが、実際に長岡の魂になっている。それは、東京中心に進む日本の未来に必要な視点だと思う。 2013年9月15日 ★★★★★ 「タイピスト!」 痛快な女子スポ根映画。 いろんな名作映画のオマージュがかかっているらしいのだが、古典映画に疎い私は全然わからなかった(^_^;)。その代わり、強烈に日本の少女マンガの名作のことばかり思い出していた。その名は「エースをねらえ!」ドジで不器用なローズは、鬼コーチのルイのことを最初は嫌っているけれども、やがては愛するようになってゆく。その頃は秘められた才能が開花し、ローズは世界的な選手になっているのであった。どうでしょうか?スポ根少女マンガの王道ではないでしょうか。 同時に野暮ったい50年代ファッションで始まったローズが蛹が蝶になるように変身してゆくのも見ものである。明らかに「新しいスターの誕生」を目にしたと言っていいだろう。デボラは「ある子供」に出ていたらしいが、全く覚えがない(少女でお母さんになったあのヒロインらしい)。 そして、大笑いはしないけれども、上品な笑いと上品なエッチがあって、それなりに現代的な映画になっている。秋を友だちと愉しむには、いい映画です。 久しぶりにフランス映画の秀作。 「アメリカにはビジネス、フランスには愛を」 (解説) 1950年代フランス。女性たちは自由を求めて社会へ飛び出そうとしていた。そんな彼女たちの憧れNO.1の職業は「秘書」。その中でももっともステイタスを得られるのは、当時一大競技として人気だった<タイプライター早打ち大会>で勝つこと。ドジで不器用なローズは、秘書になるため各国代表と、タイプでオリンピックさながらの闘いに挑むことになるが―。 『アーティスト』『オーケストラ!』の制作陣が集結。タイプ早打ちの知られざる、しかし、過酷な死闘を繰り広げる競技の白熱シーンの驚きも話題となり、本年度セザール賞5部門にノミネートされた。天然系キュートなヒロイン×ポップな50年代カルチャー×興奮と感動のスポ根。エンターテインメントが誕生した! 監督 レジス・ロワンサル 出演 ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ inシネマクレール 2013年9月22日 ★★★★☆ 「地獄でなぜ悪い」 園子温の初めてのコメディ映画と言いながら、そこは園子温、途中まではぜんぜん笑えない。かなりブラックでこのままでいいのかな?と思っていると、驚いたことにある場面から笑えるようになってくる。でもずっと居心地の悪い笑いだった。しかも、驚いたことに、途中に泣ける場面まであるのである。 二階堂ふみがかなり色っぽくなっていた。日本映画に特異なB級映画がひとつ誕生したという感じ。 (粗筋) 憎しみ合うふたりの男、武藤(國村隼)と池上(堤真一)。武藤は、娘のミツコ(二階堂ふみ)の映画デビューをなんとか叶えたいあまり、自らミツコ主演で映画の製作をはじめる。憎い男の娘と知りつつもミツコに惹かれはじめる池上、ひょんなことから映画監督と間違えられた公次(星野源)、その公次に頼まれミツコ主演映画を撮るハメになる映画青年・平田(長谷川博己)が加わり、事態は想像を絶する方向に向かっていく……!※PG12 監督 園子温 出演 國村隼、長谷川博己、星野源、二階堂ふみ、友近、堤真一 in TOHOシネマズ岡南 2013年9月29日 ★★★☆☆
2013年10月14日
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8月に観た映画は10作。 夏休みは比較的見応えのある作品は少なくなる月です。数だけは見てみましたが‥‥。 「真夏の方程式」 原作を読んで、映画は観ないつもりだったが、複数の映画好きが「とっても良かった」という評価だったので、もしかしたらと思い見る事にした。 小説の文法と映画の文法は違うことがよくわかる脚本になっていたと思う。原作では3/4かけた展開を半分で処理するなどテンポ良く進めていた。 今ひとつ分かりにくかった、旅館での殺人のトリックも映像で見るとすんなり分かった。 以下はネタバレ注意。 しかし、あの脚本ではダメだ。吉高由里子が「これで良かったんですね」などと言っているが、そんなこと言うはずはないでしょ?原作では湯川教授の腹の中だけに仕舞ったトリックである。それを映画ではあの刑事にバラしているわけだから、当然刑事の責務として「ある人物」を徹底尋問しないといけない。そもそも原作も、湯川教授だけしか気がつかないというのは明らかに不自然だ。そんなに日本の警察は無能なのか。 お涙頂戴にしたいがために、こういう不自然な作品を作ることには反対である。 (解説) 東野圭吾の小説が原作のテレビドラマ「ガリレオ」シリーズの劇場版第2弾。とある海辺の町を訪れた物理学者・湯川学が、そこで起きた殺人事件の悲しい真相に直面する姿を、一人の少年との出会いを絡めて描く。テレビ版と前作に続いて福山雅治が主演を努め、子どもが苦手なのにもかかわらず、少年のために事件に挑む湯川を体現する。『妖怪人間ベム』シリーズの杏、ベテラン風吹ジュンら実力派が共演。科学技術と自然の共存という、劇中に盛り込まれたテーマにも着目を。 in movix倉敷 2013年8月1日 ★★★☆☆ 「殺人の告白」 題名はいかにも「殺人の追憶」の続編であるかのような仕掛けであるが、本当の題名は「私が殺人犯だ」という本の題名にしているように、全く違ったものである。しかも、真犯人は今度は堂々とメデイアの前に顔をさらけ出してやってくる。 ストーリーが二転三転する間に冒頭と中盤、最終盤と激しいアクションをかましたよくある韓国のエンタメ作品。まあ、よくある仕掛けではあるが、一応騙されたので合格作品にしてもいいかな。 伏線の回収はアクション優先のために少し粗くなっている。 (解説) 連続殺人事件から15年後。時効成立後に自分が犯人だと名乗り出たイ・ドゥソク。法的に無罪となった彼は、自分の殺人事件について、詳細に記述した本を出版し、一躍人気者になったが、犯人を追い続けた刑事と、遺族たちの駆け引きが始まる・・・。ポン・ジュノの「殺人の追憶」の題材にもなった華城連続殺人事件からインスピレーションを得た監督が描き出すスピーディーな展開に目が離せない。 監督・脚本 チョン・ビョンギル パク・シフ、チョン・ジェヨン、キム・ヨンエ、チェ・ウンジ inシネマクレール 2013年8月7日 ★★★★☆ 「ローン・レンジャー」 時は1869年、西部開拓時代である。法の名の下に正義を行えると信じているジョンは、南北戦争が終わったあとのアメリカが文明の精神(鉄道が大量の人モノを運ぶ時代)を借りて、インディアンの魂を殺すのを目撃する。 これは、アメリカのジレンマをエンタメ映像でくるんで差し出して見せた快作です。法の名の下の正義が無力だと知った時に、ジョンはローン・レンジャー(孤高の隊員)になり無法者になる。 映像は見事だ。外連味溢れる仕掛けが随所にある。 正義の登場人物はどんなひどい目にあっても死なないという約束がある。処が、簡単に死んだ人物が何人かいる。インディアンの土地を守ろうとしたジョンの兄たち、騙されて全滅させられたトントの部落の人たち、そして騎兵隊に勇敢に向かって行ったインディアンの氏族。騎兵隊の最新の銃で全滅させられたインディアンの首長が哀れであった。話の構造は、わざわざ「お話」として少年に見せる形にしている。しかし、取りも直さずそれはこの話に真実が含まれていることを示している証拠である。最後のトントの寂しげな後ろ姿がそれを示している。 (解説) 『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジョニー・デップとゴア・ヴァービンスキー監督ら主要スタッフが再びタッグを組んだアクション・アドベンチャー。テレビドラマや映画で何度も映像化された人気西部劇を基に、悪霊ハンターと正義のヒーローのコンビが巨悪に立ち向かう姿を活写する。ジョニーとコンビを組むローン・レンジャー役には、『J・エドガー』のアーミー・ハマー。個性的で好感の持てるキャラクターたちのほか、荒野を舞台にした派手なアクションなどにも注目。 in movix倉敷 2013年8月8日 ★★★★☆ 「きっと、うまくいく」 次はこういう展開になるだろうな、という定番の人情劇であると同時に、ランチョーの機転の効いた発想や最初の方で張られた伏線があとでちゃんと活きてくるあたりがよく効いていて、170分が全然退屈しない。もう少し歌が欲しかったぐらい。競争社会批判や家族の問題も適当に皮肉が効いていて嬉しい。矛盾を抱えたまま巨大になりつつあるインド社会の今がそのまま出ていて、発見も多い。 ともかく笑わせて泣かせる、日本映画がなくしたモノをたくさん詰まっている映画です。文句なしの五つ星。 (解説) エリート大学に合格した3人の新入生。そのひとり、ランチョー(アーミル・カーン)は“超天才かバカ”といわれる自由人。「きっと、うまくいく」というモットーのもと、なんとか大学を卒業するが、ある日突然姿を消してしまう。そんな彼を探し、10年前に交わした賭けの答えを出すために、共に学んだ親友たちが旅に出る。やがて親友たちに降りかかる人生の危機とは……。 出演は『ラガーン』のアーミル・カーン、「ラ・ワン」のカリーナー・カプール。2010年インドアカデミー賞で作品賞・監督賞など16部門受賞。インド映画の都ボリウッド製作の作品。 inシネマクレール 2013年8月11日 ★★★★★ 「パシフィック・リム」 お盆興行で劇場に入ったので、数年ぶりに1番前で鑑賞しました。お陰で、機械の汚れ具合がよく目に入って、重低音と合わせてこの世界にどっぷり浸かることができました。 日本の怪獣映画のように、怪獣に個性があるわけじゃない。どちらかというと、明るいエヴァシリーズ実写編という感じ。使徒ならぬ怪獣が次々と進化してくるのもそうだし、ドリフトというパイロットの同調機能に巨大兵器の性能が掛かっているのもそう。 しかし、人間の側には、人間を滅ぼそうというひねくれた感情は無く、ちゃんと人類は世界一致団結してこの未知の生物に対処している。こちらは健全な大人のおたく映画という感じ。 しかし、彼らの真の目的がギリギリの段階で明らかになるのは、やはりハリウッド映画です。 菊池凛子が意外といいです。強さと弱さと可憐さを同時に纏った東洋の不思議な女という感じがよく出ていた。 イェーガーたちの動きがいかにも重量感があって、燃えました。こうじゃなくちゃ! (解説) 西暦2013年8月11日午前7時―。“ 奴ら ”は最初にサンフラシスコ湾を襲撃した。太平洋の深海の“裂け目”から出現した、超高層ビル並みの大きさの謎のKAIJUにより、3つの都市がわずか6日間で壊滅。 まもなく人類の存続という大義のもと、団結した環太平洋沿岸(パシフィック・リム)諸国は、 PPDC(パン・パシフィック・デェフェンス・コープ)を設立。人類の英知を結集した人型巨大兵器「イェーガー」を開発した。しかし人類をあざ笑うかのように、何体ものKAIJUが次々と海底から姿を現し、破壊を繰り返す。壮絶な戦いは5年、10年と長引いてった。 監督 ギレルモ・デル・トロ 出演 チャーリー・ハナム、イドリス・エルバ、菊池凜子 in TOHOシネマズ岡南 2013年8月14日 ★★★★☆ 「少年H」 「戦争はいずれ終わる。その時に恥ずかしい人間になっているんじゃないぞ」 予告編の父親のこの言葉が、現代だから言える「きれいごと」なのではないかという気がして、観る気持ちが持てなかったのだが、「いい映画だったよ」という評判もあって、観る気になった。 父親のキリスト教徒という立ち位置と住所が、あのような見解を無理のないものにさせていた。エッジを効かせていい所も悪い所もあった庶民の戦中戦後を描いているというほどではないけど、これもやはり庶民の戦争だったと思う。 子役の吉岡竜輝が頑張っていた。特徴のない丸っこい顔なんだけど、よく役のことを理解して、小学五年から中学二年までの大人になりかける少年を微妙に演じ分けていた。注目したい。 (あらすじ) 昭和初期の神戸。洋服仕立て職人の父・盛夫(水谷豊)とキリスト教徒の母・敏子(伊藤蘭)の間に生まれた肇(吉岡竜輝)は、胸にイニシャル「H」が入ったセーターを着ていることからエッチというあだ名が付いていた。好奇心旺盛で曲がったことが嫌いな肇だったが、オペラ音楽について指南してくれた近所の青年が特別高等警察に逮捕されるなど、第2次世界大戦の開戦を機にその生活は暗い影を帯びていく。やがて、彼は盛夫に対するスパイ容疑、学校で行われる軍事教練、妹の疎開といった出来事に直面し……。 (解説) 1997年に発表されベストセラーを記録した、妹尾河童の自伝的小説を実写化したヒューマン・ドラマ。戦前から戦後までの神戸を舞台に、軍国化や戦争という暗い時代の影をはねつけながら生きる家族の姿を見つめていく。実際に夫婦でもある水谷豊と伊藤蘭が、テレビドラマ「事件記者チャボ!」以来となる共演を果たし、少年Hの父母を演じる。メガホンを取るのは、『鉄道員(ぽっぽや)』などの名匠・降旗康男。感動にあふれた物語もさることながら、当時の神戸の街並みを再現したオープンセットも見どころだ。 in movix倉敷 2013年8月15日 ★★★★☆ 「黒部の太陽」 一昨年だったか、香取慎吾主演の テレビ版の「黒部の太陽」を見た。長尺は同じだったが、映画とはこれほどまでに違うのかとビックリした。石原プロと三船プロの作品だというので、兄貴のことを考えて日本万歳映画かと思っていたが、脚本・監督を熊井啓がやっていて、かなりテーマがしっかりした作品になっていた。 敗戦から11年、熊谷組の下請け会社の石岡の息子(石原裕次郎)は、穴掘りのの親父に複雑な思いを持っていた。戦前に行われた黒部第三ダムの工事の時に犠牲を厭わない父親のやり方とその時に兄を犠牲にしたことをずっと恨んでいたからである。電力確保のために困難を承知で安定的な水力発電が必要だということで仕事を請け負った関西電力現場責任者の北川(三船敏郎)のことは尊敬しているが、そのために人夫が犠牲になるのは許せないというのが石岡の気持ちだった。 黒部ダムは戦後日本の復興の一つの象徴だった。上からの命令で命を差し出すのではない。安全に、しかし不可能だと言われることをやり抜くこと。それを一生懸命描こうとしていることだけはよくわかった。 しかし、本当にこれはノーカット完全版なのか。休憩に入る直前にこの映画のクライマックスといっていい最初の落盤事故が描かれる。映像では撮影現場でも怪我人が出たのではないかという迫真の場面である。岩岡や北川はこの事故にどのように苦悩しているのか?ドキドキしながら、第二部の幕が開くと2人を含めて首脳部は何もなかったのごとく対策会議を開いていた。あの事故で犠牲者は1人もいなかったのか?じゃあいつ犠牲者は出るのか?私は既にこの工事で171人の死者を出していることを知っていた。ところが、映画では明確な死者は熊谷組からは2人、間組でも1人しか出ないのである。しかも、岩岡も北川もあの決意が崩れた落胆の表情は全く見せない。 しかも、関西電力社長(芦田紳助)の浪花節的な名場面さえ見せる。 この映画が熊谷組万歳映画ではない。ことは、貫通式の場面で、北川の娘(日色ともゑ)が白血病で死んだいう電報がくること(文明の力は万能ではない)、そのあと延々と完成した黒部ダムを北川と岩岡が歩き何十人も刻印された犠牲者の碑の前で呆然とする場面で終わることでも明らかではある。 思うに、興行的には観客動員730万人で成功したかもしれないが、作品的には最後の詰めの段階で(おそらく)関西電力や熊谷組等の大企業の横やりが入ってズタボロにされた大失敗作品だったと思う。 雄大な自然と、きちんと作ったセットとロケ。日本映画黄金期の役者たち。映像的には素晴らしい作品ではある。 宇野重吉と寺尾聡が親子として出演していて、とっても貴重な作品でもあった。 inシネマクレール 2013年8月21日 ★★★☆☆ 「欲望のバージニア」 原題は「LAWLESS」。無法地帯なのか、無法者なのか。アメリカという国は、繰り返し繰り返しこういう作品を作る。つまり、西武開拓時代に戻りたいという話である。自分の身は自分で守る。法律は第一義にはおかない、と。1920年禁酒法が成立して、33年に廃止されるまでの時代がギャングが横行し、検察官は汚職に塗れる無法時代になった。その時代をギャングを主人公にするのではなく、密造酒を作る側と賄賂を要求する取締官との攻防に焦点を当てたのが、目新しい。実話であるかどうかはこの際問題ではない。男たちは、どれだけ矜恃を守れるか、が問題なのである。 自分のプライドを守るためには、国際法を破って他国の人間を殺しても許されると信じているのが、アメリカという国の人間たちなのである。こんなタイプの作品を何回も何回も見ているのに、どうして日本人はアメリカ人のことを悪く言わないのだろう? (解説) 禁酒法時代のアメリカを舞台に、密造酒ビジネスを手がけ、“不死身伝説”でも知られた実在の人物、ボンデュラント3兄弟。そんな彼らと取締官との血で血を洗う抗争を描いたクライム・アクション。原作はボンデュラント兄弟の末っ子ジャックの孫が、実話に数十年にわたる噂やゴシップを織り交ぜてつづった同名ベストセラー小説だ。 脚本 ニック・ケイヴ 監督 ジョン・ヒルコート 出演 シャイア・ラブーフ 、 トム・ハーディ 、 ゲイリー・オールドマン 、 ミア・ワシコウスカ 、 ジェシカ・チャステイン、ガイ・ピアース、デイン・デハーン inシネマクレール 2013年8月21日 ★★★☆☆ 「選挙2」 山内さんが目立つように放射能防御服で駅前で選挙演説を始めても、青年は携帯でおしゃべりをして通行人は目を合わさないように通り過ぎるだけ。誰も候補者の政策を聞こうとはしない。これが日本全国どこにでもある日本の選挙風景である。 2011年4月の川崎市議会議員選挙。候補者の中で唯一脱原発をメインスローガンにした山さんと、自粛ムードの中音の宣伝もしないベテラン候補者たち。選挙活動はポスターとハガキのみという戦術の山さんと組織活動をする候補者、地道にチラシを手渡しする候補者、いろんな表面上の選挙活動が映し出される。 それなりに面白かったが、やはり前回の方は自民党の選挙の内側に入った分面白さはずっと上だった。今回は選挙活動の表面しか見れていないので、どうしてベテラン候補者が万以上の票を取れて、山さんが1300しか取れないで落選するのか、その構造がこの映画ではさっぱりわからない。山さんの脱原発の主張は立派だけど、やはり軽薄だと思う。神奈川県の脱原発をいうのならば、横須賀米軍基地の原潜の危険性に気がつかないのは、完全な片手落ちだと思う。 ホームページの想田監督の問題意識を読んだ。 監督は去年の自民党圧勝を受けてやっとこの作品を編集する気持ちが起きたという。「震災直後の未曾有の混乱の中で、しかし極めて整然と機械的に行われた小さな市議会選挙に、震災後の「ニッポン」の限界と可能性を予見する要素が凝縮されていた」 確かに、日本人の政治への無関心、カネのかからない選挙運動で勝つことの限界、地域で問題意識を持ちながら右往左往している候補者たちの姿、選挙参謀の入れ知恵で急に映画を撮る権利を押しつぶそうとする自民党候補者たち。などは見えないことはない。しかし、「可能性」は見えなかった。 選挙カーのガソリン代さえ自粛して被災地に回せと主張する候補者、電気代節約のために張り紙をするお店の数々。あのときの日本の姿を記録する作品でもあった。 (解説) 舞台は、2011年4月の川崎市議会選挙。震災で実施が危ぶまれた、あの統一地方選挙だ。映画『選挙』(07年)では自民党の落下傘候補だった「山さん」こと山内和彦が、完全無所属で出馬した。スローガンは「脱原発」。自粛ムードと原発「安全」報道の中、候補者たちは原発問題を積極的に取り上げようとしない。小さな息子のいる山さんはその状況に怒りを感じ、急遽、立候補を決意したのだ。かつて小泉自民党の組織力と徹底的なドブ板戦で初当選した山さん。しかし、今度は違う。組織なし、カネなし、看板なし。準備もなし。選挙カーや事務所を使わず、タスキや握手も封印する豹変ぶりだ。ないないづくしの山さんに、果たして勝ち目は? inシネマクレール 2013年8月28日 ★★★☆☆ 「スター・トレック イントゥ・ダークネス」 新シリーズになって二作目なのに、まだ地球を出発して宇宙の秘密探検に向かっていない。カーク船長とエポック副船長誕生物語になっている。 話は重厚なんだけど、小ネタはもういい。キャラを活かして本筋に入って欲しい。 (解説) 前作に引き続きJ・J・エイブラムスが監督を務め、クリス・パインやザカリー・クイント、ゾーイ・サルダナらも続投するSFアクション大作の続編。謎の男によって混乱にさらされる地球の命運に加え、カーク船長率いるUSSエンタープライズ最大の危機を活写する。冷酷な悪役を、『裏切りのサーカス』のイギリス人俳優ベネディクト・カンバーバッチが怪演。人類の未来を懸けた壮大な戦闘に加え、人間味あふれる物語に引き込まれる。 in movix倉敷 2013年8月29日 ★★★☆☆
2013年09月14日
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7月で見た映画は5作品しかありませんでした。夏休みを前につまらない作品しか出てこなかったということもあります。「風立ちぬ」は一度詳しい映画評を載せましたが、ここに書いているのは見た直後の感想です。「アフター・アース」アメリカが大好きな親子の絆の物語ではあるが、本当の見所は1000年後の地球の姿である。「地球が人類を抹消する生態系を抱える惑星となった」というは、おそらく1000年後の人類の兵士用の教科書に載っている設定なのに違いない。そういう彼ら生き残り人類自体が、どう考えても地球を見捨てて逃げたのだろうし、今の惑星に住むのだってどうやら異星人と闘って「征服」した感じだ。当然地球は既に1人もいない人類抹殺のための生態系になっているはずがなく、見事に人類がいなくても独立してやっていける惑星になっているだけなのである。その象徴が巨大鷲のエピソードだった。この隠れた視点はインド出身監督のシャラマンだから、だろうか。しかし、それにしても、ジェイデン・スミスは素晴らしかった。あと数作観ないとわからないけれども、親父を超えると思う。(解説)『シックス・センス』『エアベンダー』の鬼才M・ナイト・シャマランが放つスペクタクル。人類が放棄して1,000年が経過した地球を舞台に、屈強な兵士とその息子が決死のサバイバルを展開する。『メン・イン・ブラック』シリーズのウィル・スミスと『ベスト・キッド』のジェイデン・スミスが、『幸せのちから』以来の共演を果たし、再び親子を快演。地球が人類を抹消する生態系を抱える惑星となったというユニークな設定、VFXで創造された未知の動物たち、冒険を通して揺らいでいた絆を固くする親子のドラマなど、見どころ満載だ。in movix倉敷2013年7月1日★★★★☆「風立ちぬ」試写会で観ました。さすが宮崎駿アニメ、あらゆる年齢層が観に来ていましたが、「ハウルの動く城」と同じように宮崎駿の意図を正確に理解するにはむつかしいかもしれない。ある程度日本の歴史の知識が必要です。ナチスを嫌ってアメリカに亡命したトーマス・マンのようなドイツ人に昭和初年の情勢を語らせたり、堀越二郎の夢を借りて「美しい夢」の現在と未来を往復したり、話自体は単純だけど、映画の構造はかなり複雑です。謎かけみたいで、気がひけるのですが、描いているのは宮崎駿がずっと描いて来たことです。「もののけ姫」で描いた鉄砲の技術の発達と自然と戦い、「風の谷のナウシカ」漫画版の後半で描かれた人間の業と人類の未来の姿とこの作品とが重なりました。私は面白かった。映像は素晴らしく、それだけで満足する人も多いとは思います。(解説)宮崎駿監督がゼロ戦の設計者・堀越二郎と作家の堀辰雄をモデルに、1930年代の日本で飛行機作りに情熱を傾けた青年の姿を描くアニメ。美しい飛行機を製作したいという夢を抱く青年が成し遂げたゼロ戦の誕生、そして青年と少女との出会いと別れをつづる。主人公の声には『エヴァンゲリオン』シリーズなどの庵野秀明監督を抜てき。ほかに、瀧本美織や西島秀俊、野村萬斎などが声優として参加する。希代の飛行機を作った青年の生きざまと共に、大正から昭和の社会の様子や日本の原風景にも注目。in movix倉敷2013年7月4日★★★★☆「ベルリンファイル」韓国における「ヒーロー」の意味を考えてみました。ネタバレはしていないつもりですが、じっくり読むとネタバレかもしれません。非常に玄人受けするスパイ映画だった。北と南とロシアとCIAとアラブとイスラエルがごちゃごちゃに出てくる冒頭部分で置いとけぼりを喰うとあとが苦しくなるが、何とか私はギリギリセーフ。知的ゲームと肉体ゲームのメリハリがついていて、見応えあった。スパイ映画は、国と個人と家族との関係をあぶり出す格好のリトマス試験紙だと私は思う。観客が主人公に感情移入するように作られているのだから、国への忠誠心が求められるスパイ映画において、最後の主人公の立ち位置が最も重要である。ジョンソンは最後には独りになる。そこは007シリーズとの決定的な違いだろう。また、個人よりも妻を優先する。これは、家族を何よりも大事にするハリウッドと似ている。しかし、子ども一度亡くしているという夫婦の設定。そして、腹の中にいる子どももどとも妻を守り切れないという主人公の「悲劇」は韓国映画特有の展開である。感情的には国
2013年08月06日
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6月に観た映画は全部で9本でした。粒が揃っていたと思います。 「はじまりのみち」 先ず企画ありきの作品なのだと後で思う。「松竹の財産である木下監督のソフトを活かすために生誕100年で映画を作ろう」多分松竹の常務辺りがそう宣い、紆余曲折の末に原恵一監督が選ばれる。とは言っても、木下監督に波乱万丈な生涯はない。道は二つ。戦中から戦後にかけての世相を織り込みながら、作品解説映画を作るか(←しかし、面白くないし、予算もない)、唯一劇的エピソード、戦意高揚映画ではない「陸軍」を撮った後に干されたこと。それに腹を立てて松竹を辞めた後の生活をじっくり撮るか。賢明な原監督は当然後者を選ぶ。しかし、監督には作品ソフトを出来るだけ紹介するという宿題も背負っていた。 この作品が、結果的に盛り上がりに欠けたのは、原監督のせいだけではない。 結局全てをもって行ったのは、便利屋の濱田岳だった。ほとんど渥美清の役どころをそのままコピーしたかのような役だった。 最後の5分ぐらいかけての木下監督フイルム紹介が、作品全体にリンクしたならば良かったのであるが、そもそもそういうことならば10作品近くを最後に紹介しないだろう。原監督の責任にするのは酷というものだ。結局記念作品をこんな凡作に終わらした松竹という会社の力量の問題だったのだろう。 有名な「陸軍」のラスト。出征する息子を追って人混みを駆けて、転び、最後に手を合わせて祈る処で終わるシーン。大画面でこんなにじっくり観たのは初めて。いったい何百人のエキストラを使ったのか。昭和18年の東京のあらゆる顔がいた。見応えがあった。 (解説) 『二十四の瞳』などさまざまな傑作を世に送り出し、日本映画の黄金期を築いた木下恵介監督の生誕100年記念作。戦時中、同監督が病気の母を疎開させるためリヤカーに乗せて山越えしたという実話を軸に、戦争という時代の荒波に巻き込まれながらも互いを思いやる母と子の情愛を描く。『河童のクゥと夏休み』などで知られる日本アニメ界で著名な原恵一が監督を務め、初の実写映画に挑む。若き木下恵介役には加瀬亮、母たまを田中裕子、恵介の兄・敏三をユースケ・サンタマリアが演じる。 in movix倉敷 2013年6月1日 ★★★☆☆ 「グランド・マスター」 「父が言った。武術を極めるには三段階あると。 自分を知り、世間を知り、そして人生を知るのだと。 私は世間は幾ばくか知ることが出来たが、人生は知ることは出来そうもない」 いつものカーウェイ作品と同じ様に、嵐のような文句は出て来るだろう、ことは容易に想像出来る。あらすじを見たならば、天下統一武道会みたいな話かと思いきや、全然違うじゃないかと。そもそもカミソリ役のチャン・チェンなんか全然話にも登場人物にも絡まないで、詐欺じゃないかと。 それを無視して愉しめるかどうかが、 この作品の肝だろう。私は愉しめた。司馬遷の「史記」に刺客列伝がある。刺客たちは世の歴史の大局からは、外れた人たちではあるが、これがなくては大作「史記」は大きな魅力を失っていた。簡潔な文章と、名文、そして少しだけ時代と関わりあう彼らたち。 1936年、南京事件の前夜の江南中国に始まり、1940年の満州、1950年52年の香港を舞台に、これはカーウェイ監督による近代中国「武術家列伝」である。要所要所を美しく激しい武闘で繋ぎ、武術家たちの朴訥とした短い台詞で、人生と運命を描き出す。中国らしい凝縮された史伝物語だった。 結局、最も印象に残ったのは、詠春拳の達人・葉問(イップ・マン)でもなければ、国民党の元スパイで八極拳の達人・一線天(カミソリ)でもない、八卦掌の奥義六十四手を極め、女としての幸せを捨てたゴン・ルオメイの一生だった。多分不治の病で死んだのであろう彼女が最後に葉問に会ったときに16年間の秘めた愛を吐露し、おそらく20歳ほど年上で妻もいる葉問が当たり障りのない言葉で別れを告げたのが、なんとも哀しかった。 13年前に初めてチャン・ツィイーを観たときから、彼女の美しさは変わらないどころか、さらに美しくなった気がする。顔のアップを多用したカーウェイ監督に感謝です。 (解説) 『ブエノスアイレス』『マイ・ブルーベリー・ナイツ』などの鬼才ウォン・カーウァイが、おそよ6年ぶりの監督作として放つ美しくも切ないアクション・ドラマ。中国拳法の中でも有名な詠春拳の達人にして、ブルース・リーの師匠としても知られる実在の武術家イップ・マンが織り成す激闘の数々を活写する。イップ・マンにふんする『レッドクリフ』シリーズのトニー・レオンを筆頭に、チャン・ツィイー、チェン・チェンといった中国圏の実力派スターが結集。ウォン・カーウァイ監督ならではの映像美がさく裂する格闘描写にも目を見張る。 in movix倉敷 2013年6月5日 ★★★★☆ 「オブリビオン」 さて、ハリウッドが仕掛ける「宇宙人に侵略された地球」シリーズ第一弾です。 古典的な「驚愕の真実」には驚かなかったが、話も持って行き方は安定していて楽しめた。結局「生きている」ってことは、「記憶を共有している」ってことなのか。それは独りで生きていても、本とかインターネットとかで、記憶を共有していれば生きていることになるのかな? 「ホントの妻」のお顔を何処で見たのか思い出せなくて、なんか不安でたまりません。(解説観てわかりました。007でしたの) (解説) 『ミッション:インポッシブル』シリーズなどのトム・クルーズ主演によるSF大作。エイリアンの襲撃で半壊して捨てられた地球を監視していた男が、謎めいた人物との遭遇を機に自身と地球の運命を左右する事態に巻き込まれていく。『トロン:レガシー』で注目を浴びたジョセフ・コシンスキーが監督を務め、名優モーガン・フリーマン、『007/慰めの報酬』のオルガ・キュリレンコら、実力派たちが脇を固めている。壮大かつ予測不可能なストーリーに加えて、半壊した地球の鮮烈なビジュアルからも目が離せない。 in movix倉敷 2013年6月6日 ★★★★☆ 「奇跡のリンゴ」 日曜日のお昼、小さめの5番館(129席)の客層はシニア世代を中心に若い親子連れが交じる。割引きはあまりないのにもかかわらず八割方が埋まっていた。雰囲気としては「おくりびと」の最初の頃に似ている。音楽は同じく久石譲。 愚直なまでに一つのことを追求した映画である。悪人は出てこない。しかし、自然は厳しい。10年間リンゴ収入ゼロで6人家族が暮らすのは確かに「戦場」のような瞬間もあったことだろう。それでも、「一つのわからないことの答えを探し続ける」ということは、それだけで立派なことなのである。そんなことを愚直に描くとこんな作品になる。 夫婦の間に理解があって、子供が親の背中を見て応援してくれている。ビンボーの話は今ごろ珍しいけれども、テーマは貧乏克服、成功物語じゃない。家族の話になっている。菅野美穂の泣き笑いが見事だ。 中村義洋監督の作品に外れがない率、今のところ100%である。そして、津軽地方の自然をいっぱいに映していた。この映画はきっとヒットする。 (解説) 『ポテチ』の中村義洋がメガホンを取り、『舞妓 Haaaan!!!』の阿部サダヲと『ジーン・ワルツ』の菅野美穂が夫婦を演じた感動作。石川拓治原作のノンフィクションを基に、夢物語だといわれていたリンゴの無農薬栽培を成し遂げた農家の苦難の道のりを映し出す。笹野高史や伊武雅刀、原田美枝子や山崎努らベテラン俳優たちが豪華共演。実話をベースに描かれる、地道な研究から奇跡を成し遂げた家族の波瀾(はらん)万丈の生きざまに感極まる。 in movix倉敷 2013年6月16日 ★★★★★ 「リアル~完全なる首長竜の日~」 周辺から不気味な映像と音をチラ見させる手法は、かつて私が生涯で1番怖かったホラー映画「回路」(黒沢清2001)で多用された方法である。全編いつも不安にさせる要素をちりばめて、心理ホラーとして有効に使われている。 最終的にラブストーリーとして落ち着かせるエンタメ作品に仕上げたのは、黒沢清作品としては、最大のサプライズだったのかもしれない。 ただ、中谷美紀だけが謎として残った。 (解説) 2011年に発表し話題となった乾緑郎の「完全なる首長竜の日」を、『アカルイミライ』などの黒沢清監督が映画化した異色作。自殺未遂で昏睡(こんすい)状態になった恋人を救うため、最新医療技術を通じて彼女の意識下に潜入した青年が、現実と仮想が入り乱れる意識の中に潜り続け、やがて衝撃的な真実にたどり着くさまを活写する。主演は、日本を代表する若手実力派の佐藤健と綾瀬はるか。共演には中谷美紀、オダギリジョー、染谷将太など多彩なメンバーが顔をそろえた。 「華麗なるギャツビー」 華麗なる(壮大なる)恋物語。前作は見ていない。身につまされる恋だった。 ディカプリオは最近の役では最も良かった。彼の格好良さと強さと弱さが如何ともなく出ていたと思う。 バズ・ラーマン監督の外連味溢れる、まるでファンタジーのような作り方は残念ながら私の趣味ではなかった。 (解説) 数々の名作を世に送り出した作家F・スコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」を実写化したドラマ。快楽的な生活を送る謎の富豪ギャツビーの意外な正体を、ある女性との恋を絡めながら映す。レオナルド・ディカプリオが、人並み外れた容姿と富を兼ね備えたギャツビーをクールに演じる。『マイ・ブラザー』のトビー・マグワイアやキャリー・マリガンらが共演。『ムーラン・ルージュ』などのバズ・ラーマン監督ならではの絢爛(けんらん)を極めたビジュアルも見ものだ。 in TOHOシネマズ岡南 2013年6月19日 ★★★☆☆ アラビアのロレンス(新・午前10時の映画祭) アカバ攻略の前後にロレンスは「2人を殺した」と後悔をする。ベドウィンの首長の白い服をきた時はロレンスは「英雄」てあるが、イギリス少佐の時には単なる軍人にすぎない。 英雄はアラブの独立を願い、軍人は政治の延長としての戦争の駒の役割しかしない。 前半は「英雄の誕生」を描き、後半は「英雄と戦争がいかに矛盾するか」を描くだろう。 最後の場面。絶望してダマスカスからイギリスに帰る帰途の道。今や大佐となったロレンスの車を砂煙をあげてバイクが追い越す。そこで初めて分かったのは、この作品の冒頭ロレンスがバイクに乗っていたのは、アラブを全て忘れて近代文明に回帰したのではなかったのである。あのバイクはアラブの騎馬そのものだった。 in TOHOシネマズ岡南 2013年6月19日 ★★★★☆ 「天使の分け前」 サッチャー元首相が亡くなった時にケン・ローチ監督はこのような辛辣なコメントを発表した。 「どのように彼女に敬意を払うべきか? 彼女の葬式を民営化しましょう。競争入札にして最安値の商品を選んであげましょう。それこそ彼女が望んでいたことだからです」 英国の財政を立て直したという日本のマスコミが流した評価とは全く次元の違う見方を、この英国の至宝ともいわれる監督はしているということだ。 英国の若者たちが直面している現実は、映画では少ししか現れないが非常に厳しいものがある。だからこそ、100万ポンド(約1.3億円)もするウィスキーの樽から天使の分け前を若者たちにあげても英国の人たちは「よしよし」と思ったことだろう。 ところで、人生で三度目くらいです。劇場の中でビックリしたあまりつい大声出して叫んでしまったのは。 (解説) ユーモアと人情たっぷりの新境地 カンヌ国際映画祭の最高賞〈パルムドール〉に輝く名匠ケン・ローチは、これまでも『ケス』『SWEET SIXTEEN』などで厳しい現実から抜けだそうともがく若者と向きあってきたが、本作は一転、愛と人情とユーモアにあふれ、笑いあり、涙あり、スリルも満点!若者が直面する問題を見据えながら、はみだし者ではあるけれど陽気な登場人物を親しみと温もりをもって描きだす。スコットランド版『フル・モンティ』と絶賛され、感動作『ブラス!』にも連なる本作は、30本を超えるローチ作品の中でも英国における最大のヒットとなった。脚本は、監督の長年の盟友ポール・ラヴァティ。この名コンビが熟成させたウイスキーのように、香り高く軽快で、アフターフレーバーこそが醍醐味の逸品をぜひご賞味あれ! 出演 ポール・ブラニガン、ジョン・ヘンショー inシネマクレール 2013年6月23日 ★★★★☆ 「100回泣くこと」 CM調査のための鑑賞です。公開二週目、土曜日最終、入りは78/204、16-19歳が40%、20-34歳が58%、小学生、中学生は各2人、50代は私1人、友人同士が50%、カップルが40%、家族が5%、1人が5%という見たてです。CMは無事流れました。 肝心の内容ですが、桐谷美玲は頭を丸めるような根性も見せなかったし、大倉忠義含めて2人は抑えた演技と言うべきなのか大根と言うべきなのか、微妙でした(^_^;)。いや、むしろ2人とも大根であったと言うべきだろう。終始2人は泣いているのだけど、何処か一つでもウソだと思わせたら、もうダメだ。 (解説) 記憶の一部を失った青年と病魔に侵された女性との切ない恋愛を描いた中村航原作のベストセラー小説を映画化したラブ・ストーリー。関ジャニ∞の大倉忠義が単独での映画初主演を務め、ヒロインを『荒川アンダー ザ ブリッジ』シリーズの桐谷美玲が演じる。監督は、『恋する日曜日 私。恋した』といった作品で、男女の関係を繊細に映し出すことに定評のある廣木隆一。また、脚本を『ソラニン』などの高橋泉が手掛け、原作とは異なる設定に組み変えている。次第に明かされる二人の過去、やがて訪れる悲しい運命に号泣すること必至。 in movix倉敷 2013年6月29日 ★★☆☆☆
2013年07月02日
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今月の労働組合機関紙「県労会議」に連載させてもらっている映画評は以下の作品でした。今年の「午前10時からの映画祭」はデジタル作品なので、主な上映館は全国同時上映になっています。今日から2週間が上映期間です。「映画館で観るべき作品」です。是非! 「アラビアのロレンス」 毎年同じようなことを言っていますが、映画は映画館で出来るだけ観て欲しい。私の映画評は、観ていない作品について語ることを自ら堅く禁じているので必然いつもDVD作品の批評になってしまうのですが、ホントはこの新聞が発行されている時点で映画館にかかっている作品の批評を書きたいのです。そういう意味では、時々載せる「午前10時からの映画祭」の作品群は、その魅力を知ることの出来る格好の対象と言えるでしょう。 特に今回紹介する「アラビアのロレンス」はあらゆる点でオススメの「映画館で観るべき作品」です。2年前にも映画祭で掛かったのですが、今回は2週間上映期間があるので、より観やすくなっています。私は前回も観ましたが、今回も観に行くつもりです。昔テレビで観たことのある人も、今回は完全版ですから色んな面で発見があるはずです。 いちおうあらすじは、1914年、第一次世界大戦が勃発。ドイツ連合軍の勢力を分散させるため、英国よりアラブに派遣された策士ロレンス。彼独自のゲリラ戦法を駆使し、反乱軍を指揮。アラブ国民から“砂漠の英雄”と謳われるようになるが…。というものです。 なぜ映画館で観るべきか。スクリーンの端から端まである一直線の砂漠の水平線の向こう、一点の染みから次第と人物が現れていく。これはまさに映画的な体験です。ロレンスが近代兵器に勝てたのは、ひとえに砂漠の自然を熟知していたベドウィンの信頼を得たからですが、そのことを説得力を得て理解するには、映画館で大スクリーンの映像を観ることが不可欠です。 また、明るい処で何かをしながらテレビでこの作品を観たならば、3時間47分のこの映画の描きたかったことを見逃すかもしれません。ロレンス(ピーター・オトゥール )の心と身体の中に近代ヨーロッパの価値観と中東アラブの価値観がうずまいています。その二つの間を彼は何度も往復します。あるときは輝かしくアラブの英雄になり、あるときは血に塗れてうな垂れる。それはそのまま、戦争という時代に翻弄される近代的自我そのものであるかのように私には思えました。皆さんがどのような感想を持つかは、暗い映画館で集中して観たあとにこそ訪れると、私は信じています。 (監督 デヴィッド・リーン 1962作品、TOHOシネマズ岡南6月15日~28日上映)
2013年06月15日
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五月に観た映画の後半である。後半はオススメが立て続いた。特に「約束」は、今井正監督の傑作「真昼の暗黒」を髣髴させた。あの作品は「まだ最高裁がある」と言って終わるが、こちらは既に死刑囚である。しかも、第7次再審請求の却下で終わる。しかも、彼は86歳の超高齢なのである。しかし、それでも希望を捨てていない。恐ろしい作品が出来上がった。他に「ハッシュパピー」「くちづけ」が良かった。 「クロユリ団地」 この映画に臨む私の問題意識は、過去一年のどの作品よりも明確である。 「前田敦子の女優度はどうか」この一点のみ。 何故か。この作品の成功如何で、これからのAKB卒業生の成功度の位置が決まるからである。興行的に大成功しても演技がボロボロならば、女優としての将来性は無くなるだろう。興行失敗でも、演技が素晴らしければ、出演作はずっと続く。しかし、素晴らしい演技は作品の質に寄りかかるので、厄介である。 結果を先に云うと、 「びみょ~」でした。すみません。 悪くはない。最初あまりにも意味も無く団地内を散歩するショットが数秒続くので、一秒たりとも緊張感を出さない女優はダメだとダメ出しを考えたのであるが、後であれさえも演技プランだと言われれば作品的にはアリかとさえ思い出したのである。しかし、素晴らしい演技だったかといえば、あまり心に残らない。何かが多分足りない。それを前田敦子だけのせいにするのも可哀想なのである。彼女なりに一生懸命頑張っていたと思う。 作品的には、観る前の予想を裏切ってなんと、「前田敦子のための映画」だった。製作脚本には手をつけていないが、企画は独り秋元康だったので、成る程とは思ったのである。 狙いはわからないでもないが、「怖くない」のが致命的である。 中田秀夫が和製ホラーに果たした功績は認めるものの、やはり二重三重のエンタメ魂を見せて欲しかった。肝心の「クロユリ」も「団地」も主人公になっていないのは、やっつけ仕事だったと言われても仕方ない。団地が持つ「高度成長によって隆盛を迎え、バブル崩壊で墓場と化した」背景をもっと作品の中に活かしたならば、名作に変貌する契機もあったかもしれないが、それはついに描かれなかった。 前田敦子には、もう一度挑戦して欲しい。 (解説) 『リング』シリーズや『仄暗い水の底から』などの鬼才、中田秀夫がメガホンを取ったホラー。とある団地へと引っ越してきた女性が、そこで続いている変死事件の真相を追ううちに想像を絶する恐怖を体験していくさまが描かれる。『苦役列車』の前田敦子がヒロインにふんし、渾身(こんしん)の絶叫演技を披露。『ドロップ』などの成宮寛貴が、彼女と共に団地の忌まわしい秘密を知る清掃員役で共演する。ホラーの名手としても知られる中田監督ならではの容赦ない恐怖演出に加え、社会問題となっている孤独をテーマにした物語も見ものだ。 in movix倉敷 2013年5月20日 ★★★☆☆ 「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」 「奥西勝死刑囚86歳、司法の狙っているモノは何か」 最終ナレーションはそう言って作品を閉じた。 ー疑わしきは罰する そうとしか思えない。証拠は自白しかない。その自白内容は矛盾だらけだ。1961年の事件から30年も40年も経って、支援組織の血の滲む努力から新証拠を幾つも出して来ても再審請求を次々と棄却してゆくエリート裁判官たち。 久しぶりに「真昼の暗黒」以来の骨太の裁判映画を観た。 1972年に死刑が確定して以降、奥西さんの映像はない。だから、俳優に演じてもらう以外ないのであるが、よくぞ仲代達矢さんが引き受けてくれたと思う。彼が演ってくれたから、死刑囚の日常生活が全てリアルに思えた。そして樹木希林のお母さんも、去年の「母なる記」に匹敵する迫真の岸壁の母だったと思う。 今から20年くらい前に名張毒ぶどう酒事件の支援キャラバンの訴えを聞いたことがある。だから、前知識が全然なかったわけではないのであるが、40年前から現在に至る奥西さんの毎日朝の死刑宣告に怯える日々、再審請求への努力、事件の明らかな矛盾、裁判官たちの上しか見ない体質等々、事件の本質を何よりもよくわかることが出来た。 (解説) 獄中から無実を訴え続けている死刑囚がいます。奥西勝、86歳。昭和36年、三重県名張市の小さな村の懇親会で、ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡しました。「名張毒ぶどう酒事件」です。奥西は一度は犯行を自白しますが、逮捕後、一貫して「警察に自白を強要された」と主張、1審は無罪。しかし、2審で死刑判決。昭和47年、最高裁で死刑が確定しました。戦後唯一、無罪からの逆転死刑判決です。 事件から51年――際限なく繰り返される再審請求と棄却。その間、奥西は2桁を越える囚人が処刑台に行くのを見送りました。いつ自分に訪れるか分からない処刑に怯えながら。 あなたは、その恐怖を、その孤独を、その人生を、想像することができますか? 事件発生当初から蓄積した圧倒的な記録と証言を再検証し、本作を作り上げたのは、『平成ジレンマ』『死刑弁護人』の齊藤潤一(脚本・監督)と阿武野勝彦(プロデューサー)。これは、東海テレビ放送の名物ドキュメンタリー「司法シリーズ」を手掛ける二人が、カメラが入ることが許されない独房の死刑囚を描き出す野心作である。 そして、奥西勝を演じるのは日本映画界の至宝、仲代達矢。息子の無実を信じ続ける母・タツノ役に、樹木希林。ナレーションをつとめるのは、寺島しのぶ。 そう、本作は映画とジャーナリズムが日本の司法に根底から突きつける異議申立なのだ。 inシネマクレール 2013年5月29日 ★★★★★ 「ハッシュパピー」 まるでアフリカ神話のように展開する世界。終末の世界と放浪譚。暴走する神である猪牛。そして「勇者の誕生」。完璧に神話の世界なのに、しっかりと現代のアメリカ社会(温暖化問題、工業社会への批判、貧困問題、ヒッピーたちの存在)をも描いている。 それを可能にしたのは、生き生きと画面を暴れ回るウォレスちゃんが存在感を持っていたということだろう。 猪牛との対決で、「ナウシカ」や「もののけ姫」を想起したのは、私だけではないはずだ。そして、それは正しい。彼女の世界観はほとんど宮崎駿のそれと同じだからである。 (解説) 本年度アカデミー賞 主要4部門ノミネート 世界中から愛され、称賛の嵐を巻き起こした奇跡の映画 2012年1月、インディペンデント映画の祭典、サンダンス映画祭はわずか制作費200万ドル(約1億6千万)、若干29歳の新人監督ベン・ザイトリンが創り上げた一人の少女の物語に瞬く間に虜になった。 6歳の少女ハッシュパピーの目線を通して描かれる創造豊かでファンタジック、それと同時に厳しい現実をも描き出したオリジナリティあふれる本作に観客はすぐさま熱狂し、最高賞であるグランプリと撮影賞に選出された。 そして同年のカンヌ映画祭でも、カメラドール(新人賞)など4冠に輝く偉業を達成。更に続く世界各国の映画祭でもあらゆる賞を受賞し、遂に本年度アカデミー賞でも主要4部門にノミネートされるという快挙を成し遂げた。今や世界中が注目するシンデレラ・ムービーがいよいよ日本にやって来る。 無名の新人監督と4,000人の中から選ばれた6歳の少女が 主人公ハッシュパピーには1年以上、延べ4,000人のオーディションを経て見出された少女、クヮヴェンジャネ・ウォレス。趣味は読書と歌といういたって普通の小学生。しかし監督曰く「彼女を見た時、小さな自然児というだけでなくその眼は生命力に溢れ大胆不敵な戦士のようだった。」と言わしめるほど、神がかり的な演技を見せている。また父親役のドワイト・ヘンリーはパン屋を営む5児の父。オーディションでは感情的な脆さと独特の存在感がプロの俳優を凌ぎ大抜擢されることとなった。 監督・共同脚本・作曲 ベン・ザイトリン 出演 クヮヴェンジャネ・ウォレス、ドゥワイト・ヘンリー inシネマクレール 2013年5月29日 ★★★★☆ 「くちづけ」 知的障害者をめぐる状況は、年々厳しくなっている。経営できなくなって閉めてしまう施設も少なくはない。 愛情いっぽんは、知的障害のある娘のために漫画家の仕事をやめて介護に徹した。そんな時にいいことと悪いことが起きる。いいことは、グループホームに娘と一緒に住み込むことで、いままでどうしても男性と二人きりになれなかった娘が平気になったこと。悪いことは、自分が余命いくばくもなくなったこと。 グループホームひまわりの中で起きる半年間を舞台劇のようして見せる映画になっている。原作・脚本も担当したまーやん役の宅間孝行が素晴らしい。竹中直人はエキセトリンチックな演技は封印していたし、貫地谷しほりも微妙な演技を使い分けていた。 愛情いっぽんの選択は間違っていたのか。それは観た者だけが判断することで、理屈でどうこう言うことではないのだろう。しかし、こういう形で現在の福祉の断面を見せたことは評価していい。 (解説) 演劇や映画、テレビドラマなどで演出家・脚本家・俳優として活躍する宅間孝行が原作と脚本を手掛け、知的障害のある娘と父との父娘愛を描いたヒューマン・ドラマ。知的障害者たちのグループホームを舞台に繰り広げられる温かな交流、ヒロインの恋、父の深い愛などがユーモアを交えながらつづられる。監督は、『トリック』『20世紀少年』シリーズなどのヒットメーカー・堤幸彦。主人公である娘と父を貫地谷しほりと竹中直人が演じ、宅間や田畑智子、橋本愛などが共演する。衝撃的な展開と強い親子愛に涙せずにはいられない。 in movix倉敷 2013年5月30日 ★★★★☆
2013年06月02日
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五月に観た映画は全部で9作品でした。そのうちの5本を紹介します。前半のオススメは「みなさん、さようなら」と「L.A.ギャングストーリー」です。 「みなさん、さようなら」 見所は、1981年から2000年にかけての集合団地の変遷を2時間で見ることが出来ること。濱田くんが波留さんとか倉科カナさんとかに手取り足取り教えてもらう処(^_^;)。 思えば、団地は一つの小宇宙だった時期があった。小学校からお店から全て揃っていて、1960年代ならばここで一生暮らすことも不可能では無いと思えただろう。しかし、107人いた同級生は次々と居なくなり、90年代では半分は更地になり、半分は単身者の居住も許され外国人の溜まり場になる。それは、高度経済成長の日本のナレノ果ての様に思える。悟くんはある事件がキッカケで、この団地から一歩も出ずに同級生たちを「守ろう」とする。それは彼なりのある事件で同級生を守れなかった「トラウマ」解消法なのだが、同級生たちは当然「大人」になることで団地を出て行くのである。 結局、悟くんが団地を出るまでに19年掛かるわけだが、それは決してそれは「無駄な年月」ではないということを中村義洋監督は監督の文法で淡々と描く。伊坂幸太郎色を無くした時にどういう色が出て来るのか。世界に対して突飛な行動で挑もうとする人間は遂に出て来なかった。しかも、悪人がほとんどいない。みんな優しい。突然現れる理不尽な悪のためにションベンをちびりながら敢然と向かおうとする庶民を描く。似ている様で、少しだけ違っていた。中村監督の方が「不器用」なのかもしれない。 後から、じわじわ来る。そんな作品だった。 出演 濱田岳、倉科カナ、波留、ベンガル、大塚寧々 inシネマクレール ★★★★☆ 「図書館戦争」 最初は観る気はなかったのだが、自衛隊が全面協力したから映画化が可能になったと聞き、憲法を変えて国防軍を作りたがっている政府の意向と関係があるのか、確かめるために観た。 原作はラブコメとポリティカルサスペンスが半々だったが、映画はポリティカルな部分が7割ぐらいになった。そうしないと、映画として成立しなかっただろう。それ程荒唐無稽な「日本内部で思想の自由を巡って内乱状態が起きる」という設定は実写が難しかったということだ。 実際に実写で観ると、それでも荒唐無稽な話だということがよく分かる。ホントに表現の検閲を実施しようとしたら、あんな少しの戦闘でも国民を騙しきれないだろう。悲劇が起きないうちにいくらでも手段がありそう。戦闘のために退避させられる図書館の入館者が「戦争ごっこ」と呟くが、正にそんな感じなのである。映像で見ると実弾が飛び交うので、どうやってもかなり生々しくなる。監督もわざとそれを狙っている。 結局、自衛隊がロケを許可した意図とは反対に、これをみると「国防軍を持つことがいかに戦争を誘発するのか」分かるのではないか。 結局、80年代にメデイア良化法という違憲の法律を作ったことがすべての元凶なのである。その時の大人が後の若者に謝る場面がある。「あの時それを許したのが悪かった」と。それが小説と映画が言いたかったことだ。こんな馬鹿な戦闘をやめさせるのは、戦争では解決出来ないことも観客には通じるのではないか。いや、それは甘いか。 岡田准一のアクションは流石にキレキレだった。もっと甘々なラブコメ観たかった。 (解説) 『阪急電車 片道15分の奇跡』などの原作者、有川浩の代表作を基に、岡田准一と榮倉奈々が本を読む自由を守る自衛組織の隊員にふんするSFアクション。国家によるメディア検閲が正当化されている架空の社会を舞台に、“図書隊”の新人女性隊員が鬼教官や仲間たちに助けられながら、知る権利や本を読む自由を死守すべく戦いに身を投じていく。田中圭や栗山千明、石坂浩二など豪華なキャストが共演。『GANTZ』シリーズなどの佐藤信介がメガホンを取る。本格的な戦闘シーンと共に、登場人物たちの恋の行方からも目が離せない。 in movix倉敷 2013年5月9日 ★★★☆☆ 「県庁おもてなし課」 生涯三度目の試写会に当たりました! 周りは女の子ばっかり。でも、堀北真希はもしかしたら、今が1番美しくて可愛い時なんじゃないか。それを大画面で見れて幸せでした。また、「どこにもない自然が手付かずで残っており、反対にそれしかない」高知県の自然を楽しむためにだけで満足するべき作品なのかもしれない。とも思った。2-3ヶ所笑える処はあるのだが、果たして満員でない時に観客たちがそれを共有出来るかは不安。 久しぶりに関めぐみを観た。若手の演技派として、私は彼女を買っている。今回は準主役と言っていい扱い。これをキッカケにもっと露出して欲しい。 ラブコメとしては楽しかった。 (解説) 「図書館戦争」などで人気の有川浩の小説を、『阪急電車 片道15分の奇跡』の三宅喜重監督と脚本家・岡田惠和の再タッグで映画化。高知県庁に実在する「おもてなし課」を舞台に、職員たちが高知の観光振興のためひた走る姿を描く。主演は関ジャニ∞の錦戸亮、彼と一緒に数々の難題に立ち向かうヒロインにはNHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」の堀北真希。共演には高良健吾、関めぐみに加えて、ベテラン船越英一郎らがそろう。 in movix倉敷 2013年5月9日 ★★★☆☆ 「L.A.ギャングストーリー」 「L.A.はインディアンからメキシコ人が奪い、そこから白人が奪った。今はそれがコーエンによって奪われている。」 アメリカ映画は、いつもの様に「力によって街を守る」世界を創った。法は後でついて来るか、この1949年のロスの様に、無視される。法がほとんど買収されているからだ。それが、建前はどうであれ、アメリカのやり方だ。そう割り切って観れば、とっても面白い「西部劇」だった。構成も「七人の侍」形式で、6人のうち4人が残るのもいいバランスだったと思う。エンターテイメントである。 登場人物たちに4年前に終わった戦争の影を落としているのも良い。彼らの人生に陰影を付けた。 (解説) ロサンゼルスで暗躍した実在のギャング、ミッキー・コーエンと、街の平和を取り戻そうと立ち上がった市警との壮絶な抗争を描いたクライム・アクション。ポール・リーバーマンによる実録ルポを基に、『ゾンビランド』のルーベン・フライシャー監督がメガホンを取る。オスカー俳優ショーン・ペンが伝説のギャング王にふんし、彼との戦いに挑む男たちに『ミルク』のジョシュ・ブローリン、『ドライヴ』のライアン・ゴズリングら実力派が顔をそろえる。 in movix倉敷 2013年5月18日 ★★★★☆ 「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」 このシリーズの狙いは、日本映画にハードボイルドを地方から定着させよう、と云う北の国の熱い想いだったはずだ。ハードボイルドの登場人物にはいろいろな条件が付くが、ひとつあるのは「反権力」と云うことである。別に権力に立ち向かう必要はないが、権力の味方をしてはいけない。 脚本家の古沢良太は最近「キサラギ」でブレイクした脚本家である。 (今までの脚本) 2012年 外事警察 その男に騙されるな 2012年 ALWAYS 三丁目の夕日‘64 2011年 探偵はBARにいる 2009年 60歳のラブレター 2009年 釣りキチ三平 2007年 ALWAYS 続・三丁目の夕日 2007年 キサラギ 共同脚本家の須藤泰司はこのシリーズの前作だけだから、他の傾向はわからないが、古沢良太の場合は各プロデューサーの意向をそつ無くまとめてきたことがよく分かる。いわゆる職人脚本家だ。 しかし、根本的な世界を間違ってはいけない。確かに、今回も主人公は政治家に媚は売らなかった。しかし、作品全体を通じて大間原発を再稼働させた北海道行政に大いに媚を売ったのである。 何がハードボイルドか!やめちまえ!こんなもの。 と、言っておこう。 尾野真千子は良かった。 (解説) 作家・東直己の「ススキノ探偵シリーズ」を大泉洋と松田龍平主演で映画化し、ヒットを記録した『探偵はBARにいる』の続編。大泉演じる探偵と松田ふんするマイペースな相棒・高田の凸凹コンビが、友人が殺害された真相を探るため奔走する。前作に続き監督は橋本一、脚本を古沢良太と須藤泰司が担当。前作よりもハードなアクションが盛り込まれた展開や、難事件解明に挑む探偵と高田の息の合ったコンビぶりに胸が躍る。 in movix倉敷 2013年5月19日 ★★☆☆☆
2013年06月01日
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四月に観た映画の後半です。 オススメは後からジワジワとしみて来た「舟を編む」と、作品作りに作家性を感じた「桜、ふたたびの加奈子」かな。 「舟を編む」 用例採集「舟を編む」 (1)辞書を編集する。という意味で2012年度本屋大賞になった三浦しおんの書いた小説で2013年映画化された作品の中で使われた。国語辞典「大渡海」を編集すること。作者の造語。かもしれない。 もともとが地味な辞書を編集する話なので、ジエットコースター的な面白さは期待していない。「川の底からこんにちは」的な面白さは、しかしこの大作を任された時点でどんどん毒が薄まったのか、あゝこんなもんだな、という作品になった。 役者はよくやっている。映画は映画の文法があるのだから、「言葉の面白さ」よりも、おそらくは「1番豊かな言葉は、1番ありふれた台詞に宿る」という映画だったのだと思う。しかし、成功はしていない。 「好きです」 「これからもよろしくお願いします」 これらの台詞を選んだ脚本はいいとして、映画的な感動までもいかなかった。高望みし過ぎなのかな? 「恋」という用例は三省堂の大辞書ではどのように書いているのだろう? 最近用例採集始めました(^-^)/。 岡山弁(倉敷市美沙地域限定)です。おばあちゃんの話をよく聞く機会があって、ものすごい純粋な方言を話すのです。 やえぃ 柔らかい タケノコの天ぷらはやえーな。 ててーたら 叩いたら ゴボウの根はててーたら料理が出来て美味しーで。 つみーとる 瞑っている 目をつみーとる ねべ~ ねばい トンカツソースはねべ~ソースじゃ (解説) 2012年本屋大賞に輝いた三浦しをんの小説を、『川の底からこんにちは』などの石井裕也監督が実写映画化。ある出版社の寄せ集め編集部が、気の遠くなるような歳月をかけて二十数万語が収録された新辞書作りに挑む姿をユーモラスに描く。辞書の編さんに没頭する主人公・馬締光也には、三浦原作の『まほろ駅前多田便利軒』にも出演した松田龍平。彼が一目ぼれするヒロインには、『ツレがうつになりまして。』の宮崎あおいがふんするほか、オダギリジョーら多彩な顔ぶれがそろう。 in movix倉敷 2013年4月14日 ★★★★☆ 「愛について、ある土曜日の面会室」 「愛、アムール」のように全ては語らない。非常に削り込まれた脚本であり、だからこそ三組の物語を二時間に押し込めることが出来たのかもしれないが、それでも私はこの監督は若いに違いないと思っていた。まさか、28歳の新人監督とまで人生経験のない若造とまでは思わなかった。映像は老練と言っていい。しかし、人生を表層しか見ていない。或いは、途中までしか見ていない。 三組の物語は同じ面会室に入って来るが、とうとう最後まで交わらない。三組の物語は「最後」を語らない。別にわかりやすい最後じゃなくていいが、監督自身がこの三組の人生の最後に興味がない気がした。そう思わせる作品って、最悪じゃないだろうか。 (解説) フランスのマルセイユを舞台に、同じ日、同じ刑務所で面会する3組の受刑者と面会人の姿を通して、様々な愛の形とそれぞれの人間模様を描き出す。出演は「ジョルダーニ家の人々」のファリダ・ラウアッジ、「預言者」のレダ・カテブ、「誘惑/セダクション」のポーリン・エチエンヌ。監督のレア・フェネールは本作で長編デビュー。 キャスト ゾラ ファリダ・ラウアジ セリーヌ デルフィーヌ・シェイヨー ステファン レダ・カティブ エルザ ディナーラ・ドルカーロワ ピエール マルク・バルベ ロール ポーリン・エチエンヌ アレクサンドル ヴァンサン・ロティエ アントワーヌ ジュリアン・リュカ フランソワ ミカエル・エルベルディング inシネマクレール 2013年4月17日 ★★★☆☆ 「桜、ふたたびの加奈子」 解説には、「すがすがしい感動を呼び起こす」と書いているが、よくある配給のミスリードである。 最初から最後まで、日本映画らしいサイコホラーの「変わり種映画」になっている。終始不安を掻き立てる佐村河内守の音楽を使い、生まれ変わりを象徴させる「サークル」のモチーフがこれでもかというぐらい映像の中で多用される。広末涼子は充分「狂気」に陥り、理性的な稲垣吾郎もいつ狂気に陥いるかわからない演出をされる。だから、あの結末はあの夫婦の幻想の世界なのだと思えばとても納得がいくし、きちんとした作品になったかもしれないが、営業的にその「汚れ役」は許されなかったのだろう。とか、いろいろ思わせる非常に面白く、怖い作品でした。 福田麻由子を久しぶりに観た。「デスノート」のスピンオフ作品以来じゃないだろうか。いい女になっている。栃木県足利市オールロケ。 (解説) 幼い娘を亡くした深い悲しみにより心に傷を負った夫婦を、広末涼子と稲垣吾郎が演じるヒューマン・ドラマ。死んだ娘の生まれ変わりに会いたいと切望する妻と彼女を支える夫、妊娠中の女子高生と彼女を見つめる男子高校生、彼らの接点となる古本屋の店主による物語が描かれる。新津きよみの小説を原作にメガホンを取ったのは、デビュー作『飯と乙女』が、モスクワ国際映画祭にて最優秀アジア映画賞に輝いた栗村実。咲き誇る桜と奇跡を信じる人々の物語が美しくつづられ、すがすがしい感動を呼び起こす。 in movix倉敷 2013年4月18日 ★★★★☆ 「リンカーン」 戦いは軍人が行う。政治家は、その後の長い長い民主主義を保証しなければならない。「もう戦いは終わりだ」スピルバーグの願いはその辺りにあったのかもしれない。 しかしながら、合衆国史に疎い私は、憲法修正13条を巡る議会工作のあれこれについていけなくて、よーわからん、というのが正直な処である。 それぞれが重厚な演技をしているのであるが、そういうわけで、心に響かない作品でした。 本当は、改憲にはどれほどの困難さがあるのか、硬性憲法の一つの改憲過程を描いたことになったのかもしれないが、よくわからなかったので、語れません(^_^;)。 (解説) 巨匠スティーヴン・スピルバーグによる、第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンの伝記ドラマ。奴隷制の廃止と禁止を強固なものにし、泥沼化した南北戦争を終結させるため、憲法の修正に挑むリンカーンの戦いを重厚なタッチで映し出していく。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などのダニエル・デイ=ルイスがリンカーンにふんし、国と人民の未来をめぐる理想と現実に苦悩する彼の胸中を見事に体現。『50/50 フィフティ・フィフティ』のジョセフ・ゴードン=レヴィットら、脇を固める実力派の妙演も見逃せない。 in movix倉敷 2013年4月20日 ★★★☆☆
2013年05月11日
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四月に観た映画は全部で9作品。二回に分けて紹介します。沖縄米軍戦闘機墜落事故を扱った「ひまわり」は紹介済みなので割愛します。 「君と歩く世界」 「人間の指の骨は全部で27本。猿はもっと多い。一度骨折したならば、カルシウムが覆ってもとに戻る。さらに硬くなることもある。しかし、いつか痛みがやってくる。刺す様な痛みが‥‥。」 下の(解説)にある様な「事故で両脚をなくし絶望し切ったヒロインが、粗野なシングルファーザーとの触れ合いを経て生きる希望を取り戻していく」という話では決してない。それはこの話の中心では無い。 ともかく、ラブ・ストーリーなのである。究極のそれである様でもあり、よくある男と女のそれである様でもある。 男のアリは無骨と言っていいのか、優しいというべきか、馬鹿というべきか、鈍感というべきか、自分勝ってというべきか、無神経、無知‥‥、そんな男に対してマリオン・コティヤールは知性的で感情的で誇り高く表情豊かなのである。そんな男と女の罪と罰、フランス映画なのである。 (解説) 監督作『預言者』がカンヌ国際映画祭やセザール賞を席巻したジャック・オーディアール監督が、オスカー女優マリオン・コティヤールを主演に迎えた人間ドラマ。事故で両脚をなくし絶望し切ったヒロインが、粗野なシングルファーザーとの触れ合いを経て生きる希望を取り戻していく。マリオンの相手役には、『闇を生きる男』のマティアス・スーナールツ。膝から下を失う大事故に見舞われながらも、再び力強く歩み始めるヒロインの姿が胸を打つ。 in movix倉敷 2013年4月6日 ★★★★☆ 「千年の愉楽」 監督 若松孝二 出演 寺島しのぶ、高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太 「中本の血がそうさせるのか。産婆と坊主のわしらに出来るのは見守ることだけよ」 若松孝二が何を思ってこの作品を作ったかと言えば、明らかに若死した、「血」の情念のままに生き急いだかつての連合赤軍の仲間たちに対するレクイエムである。ただ、ただ、見守り「いつ帰って来ても、オラとこに覗くんジェ」と優しい声をかけ母親の様な愛で彼等を包み込むためである。 だから、彼等の罪と罰は極めて個人的な性質によるのだと赦し、また反社会的な行為に対しても、産婆という立場によって諮問しようとはしない。 しかし、そうやって彼等を許して擁護することに何の意味があるのか、私には最後までわからなった。 映像も何の緊張感も無く、だらだらと中本一族の男たちが出ては消えてゆき、最後に彼等を見守り続けたオリュウのオバが死んで終わる。 inシネマクレール 2013年4月7日 ★★★☆☆ 「世界にひとつのプレイブック」 躁うつ症のリハリビがテーマである。 しかし「ツレがうつになりまして」はうつ状態からの脱出だったけど、このパットはうつ状態は全くと言っていいほど現れない。むしろ、攻撃的な躁状態をどうコントロールするかになっているようだ。うーむ、病気のことはよくわからないけど、これでホント良かったの?家族が協力すれば必ずノミに賭けた試合が勝利するのもうーむと思ってしまう。リアルな映画ではないのならば、あとの興味は女優賞を獲ったジェニファー・ローレンスの演技なんだけど、今年はよっぽど対抗馬がなかったんだとしか思えかった。 (あらすじ) アカデミー賞主演女優賞受賞! 妻の浮気が原因で心のバランスを崩したパットは、家も仕事も妻も、すべてを失くしてしまう。今は実家で両親と暮らしながら、社会復帰を目指してリハビリ中だ。そんな時出会ったのが、近所に住むティファニー。愛らしい姿からは想像もつかない、過激な発言と突飛な行動を繰り出す彼女に、振り回されるパット。実は彼女も事故で夫を亡くし、心に傷を抱えていた。ティファニーは立ち直るためにダンスコンテストへの出場を決意、パットを強引にパートナーに任命する。人生の希望の光を取り戻すための、ふたりの挑戦が始まった──! 監督 デヴィッド・O・ラッセル 出演ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーヴァー、クリス・タッカー in TOHOシネマズ岡南 2013年4月10日 ★★★☆☆ 「ジャンゴ 繋がれざる者」 普通に楽しい西部劇です。主題歌と共にタイトルクレジット、出演者たちが大文字で出てきて、エンドロールはあっさり終わる。でも、やっぱり21世紀の西部劇でした。 前作では、ヴァルツはなんとも憎らしいナチス野郎だったので、今回いつ裏切るんだろと思ってドキドキしていました。大きな構成ではお約束の展開だけども、エピソードは意外な展開というのが上手いですね。 今年のベストにはならないけど、満足出来る時間でした。 (解説) 『イングロリアス・バスターズ』などの異才クエンティン・タランティーノ監督が、前作からおよそ3年ぶりに放つ骨太のアクション大作。19世紀中期のアメリカ南部を舞台に、かつて奴隷だった男の妻奪回のし烈な闘いを描き出す。レオナルド・ディカプリオが本作で初めてとなる悪役に挑むほか、ジェイミー・フォックスやクリストフ・ヴァルツら個性と実力を兼ね備えた俳優たちが豪華共演。緊迫感あふれる人間模様と、驚きのストーリー展開に言葉をなくす。 in movix倉敷 2013年4月11日 ★★★★☆
2013年05月10日
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3月に観た映画は全部で八本でした。けれども、「愛、アムール」と「渡されたバトン〜さよなら原発〜」の二本に関しては既に記事をUPしているので、今回は残り六本の紹介をします。(今回写真入り(^-^)/) 「映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)」 映画ドラえもんを観るのは、DVD含めて初めて。モニター制度のお陰です。観客は99.9%家族連れです。見事なものですね。プリキュアみたいに観客に呼びかけは無し。純粋に作品の中身でほとんど満員にする力はすごいものです。子供は約8割が男の子、やっぱりドラえもんは男の子の夢なんです。 今回は純粋オリジナル脚本らしいです。科学の暴走が原子炉のメルトダウンと同じ様な人口太陽の暴走を始めるのですが、「批判的視点」があまりにも少ない。F・藤子不二雄さんはどう思うでしょうか。 (解説) ひみつ道具が展示されている博物館を舞台に、ドラえもんたちが冒険を繰り広げる、人気シリーズ「ドラえもん」の劇場版第8作。ドラえもんの鈴を盗んだ怪盗DX(デラックス)の手掛かりを追い求め、ドラえもんやのび太が未来に存在する「ひみつ道具博物館(ミュージアム)」へと向かい活躍する様を活写。ゲスト声優として松平健が、怪盗DXを追跡する22世紀の刑事、マスタードの声を担当。ひみつ道具職人を夢見る少年との友情や、のび太のシャーロック・ホームズ張りの活躍、ジャイアンやスネ夫に訪れる大ピンチなど、劇場版らしく見どころ満載の展開に期待。 監督:寺本幸代 脚本:清水東 演出:山岡実 キャラクターデザイン:丸山宏一 美術監督:土橋誠 録音監督:田中章喜 音楽:沢田完 主題歌:Perfume (声の出演)水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、千秋、松平健 in TOHOシネマズ岡南 2013年3月10日 ★★☆☆☆ 「オズはじまりの戦い」 「オズの魔法使い」の前日譚ということにはなっているが、テーマやオズが連れて歩く仲間等、構造も前作を踏襲している。リメイクと言っていいだろう。 よく出来ている。ニセモノの世界らしく、CGもちゃんとあまりリアルに作っていない。けれど、この物足りなさは何故なんだろう。 結局、何処かでリアルを欲していたのかもしれない。用事の関係で、最後の最後まで見なかったので、エンドロールのあとにラストカットがあったかどうかは知らない。もしあったとしても、私はある程度の尺を取ってオズがリアル社会に復帰した世界を描くべきだったと思う。そうでないと、「オズの成長」に説得力が無い。 (解説) L・フランク・ボームの児童文学「オズの魔法使い」に登場するキャラクター、オズを主人公にしたファンタジー。魔法の国オズに迷い込んでしまった奇術師が織り成す冒険や、それによって大きく変わる運命を壮大なスケールで活写する。メガホンを取るのは、『スパイダーマン』シリーズのサム・ライミ。『127時間』のジェームズ・フランコ、『マリリン 7日間の恋』のミシェル・ウィリアムズら、実力派スターが結集。最先端VFXとライミ監督のセンスが融合した圧倒的ビジュアルにも目を見張る。 in movix倉敷 2013年3月14日 ★★★☆☆ 「ソハの地下水道」 14ヶ月地下水道に潜み続けるなんて、とんでもない異常なことなのに、異常とは感じない。外の世界、ドイツ軍があまりにも非人間的に描かれているために、そう思うのである。 ソハは戦後間もなく交通事故で死んだらしい。ユダヤ人を救った罰を被ったという風に言われたらしい。作者は「神のなのもとに人を罰したがる人間な愚かさ」だと厳しく批判していた。 ポーランド映画らしく、テーマがハッキリした作品だった。 (あらすじ&解説) 1943年、ポーランド。下水修理と空き巣稼業で妻子を養っているソハは、収容所行きを逃れようと地下水道に繋がる穴を掘っているユダヤ人たちを発見した。ドイツ軍に売り渡せば報奨金を得られるが、狡猾なソハはユダヤ人たちを地下に匿ってやり、その見返りに金をせしめようと思いつく。ソハは迷路のような地下水道の構造を最も知り尽くした男なのだ。 ところが子供を含むユダヤ人グループは面倒見きれないほど人数が多く、隠れ場所の移動や食料の調達さえ容易ではない。おまけに執拗なユダヤ人狩りを行う将校が目を光らせ、ソハの妻子や若い相棒は処刑の恐怖におののいていく。 自らも極度の精神的な重圧に押しつぶされそうになり手を引くことを決心するが、時すでに遅かった。同じ生身の人間であるユダヤ人たちに寄り添い、その悲惨な窮状を目の当たりにしてきたソハは、彼らを"守る"という自分自身も信じがたい茨の道を選ぶのだった......。 ナチスによるホロコーストの悲劇は、数多くの映画のモチーフになってきたが、本作は、すでに描き尽くされたと思われたこの題材に新しい視点にもたらし、その痛ましい時代を生きた人々の恐怖、葛藤、忍耐、良心を、驚くべき迫力で追求した作品である。 とはいえ主人公は迫害の標的にされたユダヤ人ではなく、オスカー・シンドラーや、"日本のシンドラー"杉原千畝といったユダヤ人救済の歴史的英雄でもない。この映画が光をあてるレオポルド・ソハという実在の人物は、下水修理に携わる貧しい労働者であり、コソ泥で詐欺師でもあった平凡な中年男だ。およそ映画の主人公には似つかわしくないこの男は、ホロコーストの嵐が吹き荒れるナチス占領下のポーランドで、いったい何を"しでかした"のか・・・。監督は、現代のポーランドを代表する実力派アグニェシュカ・ホランド。極限状況下の家族の情愛、恋愛、出産、強制収容所への潜入、死といったドラマティックな要素の尽きない物語を、迫真のサスペンスをこめて描き切り、本年度アカデミー外国語映画賞にノミネートされた。まさしくホランド監督の新たなる代表作にして、真に感動的な"語り継がれるべき映画"がここに誕生した。 inシネマクレール 2013年3月17日 ★★★★☆ 「すーちゃん、まいちゃん、さわ子さん」 四コマ漫画のままに進んで行く彼女たちの日常。私、最近の「スーちゃんシリーズ」を見ていないので、まいちゃんの転身ににビックリしたのだけど、あとはだいたい原作通り。「こんなの、あるある」というつぶやきがそこかしこから漏れて来そうな劇場でした。彼女たちの男性ファンがもっと来ているのかと思いきや、圧倒的にあらゆる階層の女性たちと、それにくっついて来ている男性しか来ていませんでした。 CM映像が前半のほとんどのエピソードを網羅していて、オチが全部解ってしまうのが難点。反対に言えば、あのCMは見事な編集をしているということか。 それにしても、ここに出て来る男は三人とも「振られる」わけだが、揃いも揃ってダメ男ばっかり。特にまいちゃんに振られる不倫男なんて、直接のきっかけが会社の同僚にお肌の荒れを指摘されたからだ。とは想像だに出来ないだろうねー。きっかけは些細なことだけど、本質を突いている。この辺りが女性の「やっかいな処」なんだろーな。 仕事や恋に疲れた30代女性以外ならば、DVDでもいいかな。 (解説) 益田ミリ原作の漫画「すーちゃん」シリーズを映画化し、柴咲コウ、真木よう子、寺島しのぶが共演を果たした人間ドラマ。お互い日々の暮らしの中で傷ついたり、迷ったりしながらも小さな幸せを糧にプラス思考で生きていこうとする3人の女性たちの人生を映し出す。メガホンを取るのは、『人生、いろどり』の御法川修監督。『ヒミズ』の染谷将太と『かぞくのくに』の井浦新が共演する。ごく平凡な彼女たちのリアルな日常に心がなごむ。 in movix倉敷 2013年3月20日 ★★★☆☆ 「ひまわりと子犬の7日間」 もともとは、保健所で殺処分になりそうだった野犬と仔犬二匹を助けたというだけの話。それが果たして映画になるのか、どうか。愛犬家でもない私の興味は、ひとえに平松恵美子さんの初監督作品だということだけにあった。彼女は我が郷土倉敷の出身、しかも私は所属していないが、岡山の映画サークルから飛び立った努力の人なのである。 前半は見事だったと思う。一つ一つの場面が丁寧に描かれていて、役者は尽く「自然に見える演技」をしていた。しかも山田組仕込みの自然な笑いも出ていた。 ただ、後半まとめる段階になって、やはり感動話としてまとめ過ぎた感はある(実際は7日間ではなくて、延長して21日間だったことは不問に付す)。イーストウッド監督みたいな「あっと驚く展開」を最後に一つ欲しかったのは、わがままなんだろうか。例えば、ひまわりは実際飼い始められて「しあわせ太り」をしたらしい。事実が持つそんなエピソードを使って、実際のひまわりを登場させて気の利いた「演技」をさせるとか。 期待の新人監督だけに、彼女には成功してもらいたい。 (解説) 『日輪の遺産』の堺雅人と『しあわせのかおり』の中谷美紀が共演し、動物管理所で起きた実話を基に人と犬とのきずなを描いた感動のヒューマン・ドラマ。二人の子どものシングルファーザーでもある動物管理所の職員が、人間不信になり子犬を育てるのら犬と出会い、犬と人が信頼を築くプロセスを通して命やきずなといった大切なものをつづる。監督は、山田洋次監督のもとで助監督や脚本を務めるなど経験を積み、本作が初監督作品となる平松恵美子。犬と人との交流と周囲の人々の人情を描く、ハートフルなストーリーに期待。 in movix倉敷 2013年3月20日 ★★★★☆ 「フライト」 もう上映は終わりかけているけど、やはり気になって観てみた。満足のゆく出来だった。粗筋ならば、すでに何回も頭に入っている。 ネタバレになるけど、 多分機長は最後は自らアル中だったことを認めるんだろうな、とも思っていた。見所は、しかしそこに至るまでの心の揺れである。アル中であることをウソで固めて来たはずの「非常に優秀なパイロット」という設定を、デンゼル・ワシントンは無表情な表情を「微妙に」使い分け、時に一人の時や心を許した女性に感情を曝露し、弱い部分や狡い部分も見せ、そして「男」である部分も見せる。見応えがあった。あの、ぶよぶよの肉体は役作りなんだろうか? (解説) 『フォレスト・ガンプ/一期一会』のロバート・ゼメキス監督と『トレーニング デイ』のデンゼル・ワシントンがタッグを組んだ話題作。旅客機の緊急着陸を成し遂げたものの血液中から検出されたアルコールにより英雄から一転、糾弾される主人公の機長の苦悩を描く。弁護士を『アイアンマン』シリーズのドン・チードルが演じ、友人を名脇役のジョン・グッドマンが好演。善悪では割り切れない人間の業の深さを描いた深遠な心理描写にうなる。 in movix倉敷 2013年3月27日 ★★★★☆
2013年04月01日
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実はある機関紙に映画評(「映画って、エエが!」)を連載しているのですが、今月は久しぶりにクラッシックを選んでこれにしました。因みに、「エエが」は多分岡山方言で「良いなあ」という意味だと思います(^_^;)。 「フォロー・ミー」 1972年の作品ですが、隠れた名作です。ずっとDVDはおろか、ビデオ化もされてなくて幻の作品と言われていたのですが、3年前に「午前10時の映画祭」で取り上げられて、めでたくDVD化されました。 3年前に「映画祭」で観た時、リバイバル上映でなければ迷わずベストテンに入れていたと思います。今は岡山県下どのTSUTAYAにも入荷している様です。(その点、前々回の「エリックを探して」はレンタル店に置いてなかったようです。すみませんでした) 英国上流階級の紳士と米国から流れてきた元ヒッピーの女性がロンドンで出会い、夫婦になる。その二人と、妻の浮気調査を命じられた探偵の、主に三人を中心に描かれる会話劇です。監督は「第三の男」の キャロル・リード 、これが遺作になりました。 新婚夫婦の最初の危機、日毎何処かへ出掛けて行って帰って来ない妻への夫の不倫疑惑、しかし実は‥‥。 ありふれた題材なのに、観終わった後には豊かな気持ちになれるのは何故なんだろう。それはひとえに、新妻のミア・ファローが魅力的に描かれているからです。『君を見ていると、僕の中で素晴らしい音が聞こえてきた』というセリフが嘘に聞こえないこと。これがこの作品のカギでしょう。写真を見ると、彼女はそんなに美人というタイプじゃない。けれども、銀幕の中では輝いています。私は彼女が散歩途中にゴミ箱に捨てた上等な帽子を、失業者のオバサンがかぶっていると知った時の彼女のぱっと弾ける笑顔を見た時に「音楽」が聞こえて来ました。 映画音楽も素晴らしい。ジョン・バリーの切なく美しいテーマ音楽をバックに、妖精のようにロンドンの名所旧跡を自由に歩き回るベリンダ(ミア・ファロー)。浜辺で夕陽、サファリ公園のイルカ、イーストエンドのパブ、ロンドンの様々な名前のついた通り。その後を真っ白なコートを着て目立って仕方ない私立探偵クリストフォルー(トポル)が尾行する。映画を観たらロケ地巡りをしたくなります。 語る視点が、夫から私立探偵、そして妻へと変わることで、「生きるためにたいせつなこと」が浮かび上がってくる脚本は見事です。(1972年作品、レンタル可能) produced by 「13日の水曜日」碧猫さん
2013年03月31日
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「愛、アムール」 老老介護の話である。話の内容とは全く無関係だが、私はずっと私の叔母夫婦の今までとこれからを考えていた。状態はこれとは違うが、深刻さは似通っている。 叔母の認知症が一挙に深まったのは五年前叔母の弟で私の父親の臨終の場だった。彼女はその時から「なーんも分からん様になった。頭がおかしゅうなったんかなあ」と、それ以降何千回も言うことになる口癖を言う様になった。 86歳の叔母と89歳の叔父には子供はいない。近所に住んでいるので、入退院の時やケアマネージャーとの相談は私が担当することになっていた。叔父は20年ほど前から肺気腫を患い、その世話は一手に叔母が引き受けていたのであるが、今は立場が逆転している。 四年前には、叔母が入院していた時に、家にいるはずの叔父の反応がないということで、警察を呼んで戸を破って安否を確かめたこともあった(耳が遠いので、物音に気がつかず、寝ていただけだった)。 叔母の血糖値が高くなり、叔父が血糖コントロールが出来なくて低血糖で意識がなくなり倒れたことがこの3年で4回、脱水症状で叔父叔母とも倒れて救急車を呼んだことが2回、叔母の判断能力は皆無に近く、叔父の認知症も進んできたが、お金がないと思いこんでいて、叔父は絶対施設に入ろうとはしない。 この映画を観た日から4日後に、私は叔母だけを施設に入れようとしている。叔父が家を離れたがらないから、命には変えられないと説得中だが、多分無理やり2人を別れさせることになるだろう。 叔父は叔母を毎日叱りながら、面倒を見てきた。しかし、それも限界だ。 「何か他に方法があるか?」 と夫のジョルジュは言った。 「病院には返さないと約束したんだ」とも。叔母夫婦にはその約束は無い。けれども、二人が離れ離れになったあとが怖い。 ジョルジュとアンヌの場合には、あれも仕方なかったのだろう。二人には娘が居た。娘が仕事を辞めて介護に徹していたならば、もちろん結末は違っていた。でも、それは普通に出来ないことである。 (解説) 夫ジョルジュを演じるのは、1966年の世界的ヒット作『男と女』に主演したジャン=ルイ・トランティニャン。彼をイメージして執筆された脚本、その1シーン1シーンを、名優は、卓越した表現力でさらに印象づける。 妻アンヌには、戦後の広島を舞台にしたアラン・レネ監督の『二十四時間の情事』でヒロインを演じたエマニュエル・リヴァ。オーディションでアンヌ役を得た彼女は、往年の美貌に加え、年を重ねて磨かれた存在感で難役を見事に演じきった。ともにフランスを代表する名優、齢80を越えたふたりが見せるのは、熟成された男と女の人生そのものである。 さらに、彼らの娘エヴァ役にはハネケ作品『ピアニスト』でカンヌ映画祭女優賞を受賞したイザベル・ユペールが扮し、夫妻の愛弟子のピアニスト役には、ヨーロッパでその名を高める現代ピアニスト、アレクサンドル・タローが実名で登場。劇中音楽も担当している。 カンヌの栄冠に続き、ヨーロッパ映画賞では作品、監督、男優、女優、脚本、撮影の主要6部門にノミネート。そして米・アカデミー賞においても注目を集めること必至の、至高の愛の物語。 愛する者が死に臨む、その姿を見届けることは、はたして愛の終焉か。それとも幸福の完成なのか。名匠と最高のキャスト陣は、静かな熱を持って、究極の問いを投げかける。 結果、今年のアカデミー外国語映画賞を受賞した。 inシネマクレール 2013年3月17日 ★★★★☆ (追伸) 昨日、叔母を施設にいれて来ました。自分がどういう状況にあるのか、分かっていない様子です。本来は社交的な人なので、集団生活で馴染むのではないかと期待しています。 心配は残された叔父です。 「今日来るとは思わんかった。急なんじゃな」と、2日前に伝えていたことも忘れている状況だし、味噌汁の火をかけて煮たっている状況だし。引き続きヘルパーは毎日来てくれることになってはいるし、暫くはしょっちゅう顔をのぞかせようとは思っていますが‥‥。昨日顔をのぞかせたときには、案外元気だったので、少し安心しました。 私自身、施設にいれて少しはホッとするかと思いきや、一日中心が重くなったままでした。夫婦を離れ離れにさせたことは許せるのか。「愛、アムール」のジョルジュは妻を中腰でベッドに移動させることも出来たし、まだまだ元気だった。しかし、妻との約束や将来のことに潰されたのか、あのような選択をした。最後の場面で罪悪感に苛まれてはいないとは、想像出来る。あれは2人だけの問題を2人で決着つけたからだろう。しかし、私の場合は息子でもない。第三者がこんな決定をして良かったのか。でも、叔父に「他に方法」を探す能力は多分無い。もやもやが堂々巡りです‥‥。
2013年03月22日
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2月に観た映画は9作。後半に集中していますが、「集中して」観ました。 「DOCUMENTARY OF AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?」 過去ニ作にあった様な、プロの選抜メンバーとまだプロに成り切らない少女たちとの対比は描かれない。全員プロしか、カメラは捉えない。セミプロを撮る様な余裕がなかったからだ。前田敦子卒業と、恋愛禁止条例による脱退、左遷騒動というふたつのことで全てを埋め尽くしたと言っていい。 選抜メンバーの前では、カメラは既に空気のようなものだ。このドキュメンタリーで、泣いている場面はおそらく半分以上だと思う。それが全て「ガチの涙」であることを、既に「AKBファン」になってしまった私は保証出来る。それは、反対にいえば「本当に恐ろしいこと」なのである。アイドルという立場を得ることによって喪失した「プライバシー」を、彼女たちは真っ正面から引き受けている。そういう貴重な記録になっている。 恋愛禁止条例という「人間否定」の制度については、又別の処でじっくり書かなくてはいけないが、ここではその中で「ガチ」に頑張っている彼女たちをじっくり観させてもらった。 私の「押し」は、「優子」と「珠理奈」であることを再確認した2時間でもあった。 (解説) アイドルグループ、AKB48のセンターとしてグループをけん引してきた前田敦子が卒業し、新たな時代を迎えた2012年のAKB48を追ったドキュメンタリー。前田の脱退決定後の選抜メンバーを決める総選挙や東京ドームでは初めてとなるコンサート、前田の卒業公演など1年間の出来事をたどりながら、その裏で繰り広げられた新エースをめぐるライバル争いや恋愛禁止条例などを映し出し、素顔をさらすメンバーたちに迫っていく。ここ数年のエンターテインメント業界をリードする国民的アイドルのAKB48の日常は、ファンはもちろん、そうではない人にも興味がつきない。 監督:高橋栄樹 企画:秋元康 in movix倉敷 2013年2月14日 ★★★★☆ 「きいろいゾウ」 何を隠そう宮崎あおいファンとしては、たとえ嫌いな向井理が出ていようとも逃さず観るのが正しいファンの在り方ではある。 観て良かった。「ユリイカ」の頃の感情のブレが激しく、それがそのまま顔に出て来る、瞳だけで全てを語る彼女が観れた。「良い娘」の彼女が続いていただけにとっても嬉しい。 向井理は相変わらず、一本調子の演技しか出来ない。 ちよっとした「理想の恋人夫婦」だけども、まあいいのではないかな。 (解説) 作家・西加奈子の人気小説を、『軽蔑』などの廣木隆一監督が映画化したラブストーリー。出会って間もなく結婚した夫婦が、1通の手紙をきっかけに擦れ違いながらも過去と向き合い、絆を深めていく姿を描く。共に原作のファンだという向井理と宮崎あおいが初共演を果たす。彼らを取り巻く人々には柄本明、松原智恵子、リリー・フランキーら多彩な顔ぶれがそろうほか、人気子役の濱田龍臣、本田望結らが出演。 in movix倉敷 2013年2月14日 ★★★★☆ 「王になった男」 要は王様取り替え物語である。これはシリアスな史劇だが、一年後に作られた「私が王だ」は、喜劇が作られている。もともと朝鮮演芸の仮面劇には、ずっと王様が庶民の場まで降りて来て卑猥な事を行う話がずっと演られていた。宮廷の中は魔界殿ではあるが、時には庶民のための施政も行われた。それはもしかしたら、こんな事もあったからかもしれないというのは、現代韓国の政治状況から言っても「リアル」な話なのかもしれない。 実際の光海君の治世は現代でも二面性があったと評価されているらしい。 イ・ビョンホンは安心して観ていられる。王様と庶民の顔を演じわけるだけではなく、影武者が次第と王の威厳を身につける様子、しかしながら、最終的には非情な王には成りきれない様子を見事に演じわけていた。 脇役者としてどこでもきちんとした役つくりをするチャン・グァン、美人じゃないけど忘れられない顔のシム・ウンギョンが毒味役の少女として出ている。 (解説) 豪華絢爛な王朝時代を舞台に、実在した朝鮮15代目の王・光海の秘密に迫る、史実にフィクションを取り混ぜた重厚な歴史大作。韓国では、宮廷エンタテインメントの面白さ、理想の政治的リーダーシップを訴えるイ・ビョンホンの名演が圧倒的な共感と感動を呼び、1100万人を超える大ヒットを記録。2012年の大鐘賞映画祭では史上最多15部門を受賞した。理想を見失った冷酷な王・光海と、正義感溢れる庶民派の影武者・ハソンの二役を演じるイ・ビョンホンは、時にシリアスに場を引き締め、時にユーモラスに場をなごませる。今最も注目を集める女優、ハン・ヒョジュが、2人の王の愛を受ける王妃役を妖艶かつ威厳たっぷりに演じ、華を添えている。 監督 チュ・チャンミン 出演 イ・ビョンホン リュ・スンリョン ハン・ヒョジュ キム・イングォン inシネマクレール 2013年2月17日 ★★★☆☆ 「桐島、部活やめるってよ」 「いやあ、面白っかたね。さすがキネマ旬報第二位になって、凱旋上映になっただけのことはあるね」 「あたしはよくわからなかったな。桐島っていう生徒がバレー部をやめるってだけで、事件も何も起きないし、ごちゃごちゃ彼の同級生が出て来て、突然おわっちゃったし」 「去年の夏に公開された時には、桐島本人はとうとう最後まで登場しないし、殺人事件も起きない事を知らない観客も多かったからストレス溜まったかもしれないね。それでも、映画の評判がじわじわ広がって、最後にはこんなに評価された。それは、高校生の群像劇を描きながら、リアルなティーンズの気持ち、特に想いのすれ違いの現実を巧みに描いたからじゃないかな」 「それはちょっと面白かったんだけど、あたしは批判的に描いている映画部の先生の云う「半径1mの世界」を描いているに過ぎないと思うな。一人ひとりの心理を描く方法は斬新だけど、結局高校生風俗を描いているだけ」 「だからこそ、クライマックスのゾンビ映画が活きるんだよ。一見、自分たちとは全く関係ない世界に没頭することで、実はほんの一瞬世界と繋がっている実感を持つ。それは、部活だけではなく、大人の世界にも通じる。だからこそこの映画は普遍性にむけて開かれているのだと思う。完全に成功しているとは言えないけれどね」 「例えば?」 「あの学生が飛び降りたら普通自殺したと思うだろ?だけど、誰もそういう反応をしなかった。あれは映像的には失敗だね」 「ティーン俳優がいっぱい出て嬉しかったな。大後寿々花だけは、かなり年寄だったけど」 「個人的には、映研はどうしていつもゾンビ映画オタクばかりなんだろ。ファンタジーでもいいじゃないか」 「やっぱり、作り易いからでしょ」 inシネマクレール 2013年2月17日 ★★★★☆ 「ゼロ・ダーク・サーティ」 こんなので、アカデミー賞を獲られたら、もう二度とこの賞のことを語らないぞ、と思わせる鷹派作品。 確かにドキュメンタリータッチの硬質な映像は魅力的だが、「ハート・ロッカー」の時にも感じた違和感は本物だと確信した。政府に対する批判的な視点がほとんど無いのである。あるのは、仕事に没頭する人々への「賛歌」である。 確率は60%-80%とも言われたビランディン急襲(パキスタンへの軍事行動だし、有無を言わさず男女を殺している)になぜGOサインが出たのか、生物学的な確認もしないで殺害したビランディンを海に投機したのは何故か、という様な「世界にとって重要なこと」に一切応えようとしていない。拷問に対しても批判というよりか、擁護している。 ただ、2011年5月1日から1年足らずでこんな大作を作る監督並びに製作者の力量は凄い。日本で「原発事故」を真っ正面から作る映画ができるのはいつのことになるやら。 それにしても、ステルス製の攻撃用ヘリって(^_^;)。 (解説) 911全米同時多発テロの首謀者にしてテロ組織アルカイダの指導者、ビンラディンの殺害計画が題材のサスペンス。CIAの女性分析官の姿を通し、全世界を驚がくさせた同作戦の全貌を描き出す。メガホンを取るのは、アカデミー賞で作品賞などを受賞した『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー。『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』などで注目のジェシカ・チャステインが、狂気にも似た執念でビンラディンを追跡する主人公を熱演。リアル志向のアクションやドキュメント風の映像も見ものだ。 in TOHOシネマズ岡南 2013年2月20日 ★★☆☆☆ 「草原の椅子」 50歳にして、「親友」が出来、血は繋がらないが「子供」と、「一目惚れ」までしてしまう。50歳でも出来るかもしれない。気持ちを全部セリフで説明する難点はあるが、実年齢の役者が一生懸命演っているのがいい。 パキスタンには、モノがない分、みんな純粋に生きているのだと聞いた事がある。 やれるかもしれない。そんな気持ちに少しなった。 (解説) 芥川賞作家の宮本輝が阪神・淡路大震災で被災したことをきっかけに、シルクロード6,700キロ、40日にわたる旅を体験して執筆した小説を映画化。『八日目の蝉』の成島出監督がメガホンを取り、男女4人が世界最後の桃源郷と呼ばれるパキスタンのフンザへ旅する姿を描く。人生の岐路に立ち今後の生き方を模索する登場人物たちを、佐藤浩市、西村雅彦、吉瀬美智子が演じる。パキスタンで日本映画初となる長期撮影を敢行した雄大な光景が見もの。 in movix倉敷 2013年2月24日 ★★★★☆ 「レ・ミゼラブル」 久しぶりに「二回目の鑑賞」をした。 去年のマイ・ベストワンである。アン・ハサウェイアカデミー助演女優賞受賞おめでとう記念でもある。今週で上映終わりということもある。 やっぱり最後はボロボロ泣かされた。前回よりも泣かされたかもしれない。改めて良くできていると思う。 ファンティーヌ(アン・ハサウェイ)の歌を英語の歌詞で聴くと、細かく感情を入れて歌っていることがよく分かる。エポニーヌの届かぬ片想いの歌と、この二つが唯一ただ一度きり歌われたにもかかわらず、忘れられない歌になるのは、演技と歌唱力とメロディーラインの勝利だろう。 と、同時にこのミュージカルは何度も同じメロディーラインが使われるが、歌詞を変えて全く違う物語を紡ぐ。しかも、同時に三つのメロディーラインを載せるということまでしている。そうすることで、大河物語としてテーマの強調と、起承転結を歌に託すということを実現しているのだと思う。(シャルベールがジャン・バルジャンに最初に逃げられた時に歌う曲と、最後に歌う曲は、メロディーラインは一緒だが、歌詞と映像を見事に対比させて作っていた) 物語を冷静に観ればかなり強引に作られていることが分かる。しかし、だからこそ、安心して「お約束の話」について行き、細かな演出に涙する事が出来る。思うに、エンタメとはこうあるべきなのだろう。 「民衆の歌」が頭の中でいつまでも鳴り止まない。 in TOHOシネマズ岡南 2013年2月27日 ★★★★★ 「横道世之介」 最初の新宿駅の場面は、えんえんとブルマーのアイドルが歌う場面を映していて、このまま160分もやられたらたまらないな〜、と思っていたら途中で突然時制が1987年から2003年に何回か移ってしまうショットが出てきて、その辺りから時間が気にならなくなった。むしろ、このままずっと「なんでもない彼らの日常」を見ていたいという気持ちになった。それはおそらく緊密に映像を作っているからだろう。 横道世之介は一度聞いたら忘れられない名前なのだが、そしてとっても性格のいい男なのだが、それ以外は、むしろ彼の周りの方が特異な人が集まっていたと思う。学生結婚をする男女、ゲイ、パーティー女史、成金お嬢様。そんな彼等から世之介は「彼を思い出すと自然と笑みになる」男として記憶に残っていた。 そうやって自分の学生時代を思い出すと、そういう友達がいないことに慄然とした。苦い思い出はたくさんあるんだけど。一方私はそんな男になれているだろうか。なれてないよな~。 人の生きている意味なんて、世之介以上のものはないのだなと思う。 祥子と世之介は喧嘩別れをしたのではないだろう。35歳の祥子が生活しているのがアフリカならば、それは二週間のフランス留学がキッカケだったに違いない。彼女が独身だという事は、16年間ずっとそれにかかりきりだったのだろう。そんな事も想像出来るいい脚本だった。 (解説) 『パレード』『悪人』の原作者として知られる吉田修一が毎日新聞で連載していた作品を映画化。長崎から上京してきたお人よしの主人公の青年と周囲の人々のエピソードが描かれる。主人公とヒロインには、『蛇にピアス』で共演を果たした高良健吾と吉高由里子がふんし、メガホンを『南極料理人』『キツツキと雨』の沖田修一が取る。サンバサークルで披露する太陽の格好をした主人公の姿など、さまざまな要素で楽しませてくれる青春ストーリーに引き込まれる。 in TOHOシネマズ岡南 2013年2月27日 ★★★★☆ 「砂漠でサーモンフイッシイング」 事実が元の映画なのかな、と思いきや、次第と国家プロジェクトと恋愛が平行して描かれる様になり、なんか無理やり結末をつけてしまった。 英国はよく政治家を茶化す映画を作るが、今回は不快になった。なんか、やっぱりなんかお金持ちの道楽映画の様に思えたから。 駄作の部類。 (解説) アラブの大富豪からの「イエメンでサケを釣りたい」という無理難題に応えるために奔走する人たちをコミカルに描いたドラマ。主人公の不器用な水産学者を、『スター・ウォーズ』シリーズや『ムーラン・ルージュ』のユアン・マクレガーが演じ、『プラダを着た悪魔』のエミリー・ブラントと『ずっとあなたを愛してる』のクリスティン・スコット・トーマスの実力派キャストが脇を固める。監督には『ギルバート・グレイプ』のラッセ・ハルストレム。『スラムドッグ$ミリオネア』のサイモン・ボーフォイが脚本を手掛ける。一見くだらないと思えることに大人が夢中になる姿に感動する。 in movix倉敷 2013年2月28日 ★★★☆☆
2013年03月06日
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2012年劇場鑑賞数126本。とりあえず記録として、洋邦画併せてベストを発表しておきたいと思います。これをベスト5にまとめる作業が残っているのですが、邦画が良いのが多くて頭を悩ませています。でも、ベストワンは「レ・ミゼラブル」で決定です。正月映画ですから、まだ見ていない方は是非映画館で観て下さい。邦画Bestテン(暫定)1.夢売るふたり 2.わが母の記 3.ヒミズ 4.鍵泥棒のメソッド 5.終の信託 6.ALWAYS 三丁目の夕日'64 7.悪の教典 8.テルマエ・ロマエ 9.道-白磁の人 10.ニッポンの嘘 報道写真家福島菊次郎90歳邦画Bestテン短評夢売るはその完成度に唸った。母の記は何よりも樹木希林の怪演に。ヒミズには現代の神話を感じた。鍵泥棒は最も良質なコメディ。信託は後を引く問いかけ力。ALWAYSには今年1番泣いた。教典にエンタメの可能性。テルマエはヒットの功績で。道を観てソウルの墓へ行った。そして、菊次郎は今度の総選挙結果を見てこう言ったという。ある人のツイートからコピーします。@asama888: 昨日、92歳の福島菊次郎さんに電話して総選挙について聞いた。「自民は長いこと平和憲法を変えたいと思っていたが国民を怖れていた。今は戦争やりたいやつばかりで戦争を反省していない。アジア蔑視感がまだある。経済が行き詰まっている時に戦争が起きる」。菊次郎さんの心配を共有しないと。今年度洋画Bestテン(暫定)1.レ・ミゼラブル2.ダークナイト・ライジング3.少年と自転車4.高地戦5.ポエトリー6.シャーロックホームズ7.捜査官X8.メランコリア9.永遠の僕たち10.ニューイヤーズ・イヴ洋画Bestテン短評レ・ミゼは文句なく洋邦併せて今年Bestワン。私のミュージカル嫌いを克服させたのが大きかった。2.3.4が横一線で迷ったが、「ダークナイト」三部作全体を評価した。少年はセリフに無い思いがどんどん伝わる。高地戦は涙を排して戦争批判に徹した。ボエトリーは監督の新たな高み。ホームズのエンタメ。捜査官のエンタメ。メンランコリアは滅亡モノの最高峰。永遠の瑞々しさ。洋画の方が低調で選ぶのに苦労はなかった。ニューイヤーズは年越し映画の新定番になるかも。作品の詳しい映画評価は、カテゴリーの洋画(2012~)を見て下さい。
2013年01月06日
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「悪の教典」も「高地戦」も思いも掛けない力作だった。期待していない時に当たると嬉しい。片っ端から観ていて嬉しいのは、こういう時だ。岡山映画祭「アントキノイノチ」瀬々敬久監督トーク付き全国公開時には、何度も見た予告編でラブストーリーだと勘違いして見損なった。どうやらなかなか「重い作品」である、と後で聞き期待して観に行った。重い、重いとみんながいうのでてっきり主人公が最後に自殺するのかと思っていたが、(確かに最後に人は死ぬけど)そんなに重くはなかった。むしろ明るかったと思う。それは後の監督トークでも証明された。「人生を全うしたのだ、としたかった。死を悲しくさせたくなかった」と言っていた。瀬々敬久監督の特徴は手撮りの揺れる映像なのであるが、何故そうなるのか聞いていた。「最近渦中に入って撮りたい、という意識が大きくなった。ど真ん中に入って撮りたい。昔は個人と社会が対立が明確だったが、今はグッチャリしている。今は政治家がえらいと思っている人はほとんどいない。私の故郷は限界集落、分析的な態度はもう取れなくなっている。渦中でのたうち回るという感じ。」それを「当事者性」だと言っていた。プロの映画監督の話を久しぶりに聞けて楽しかった。(解説)親友の命を奪った彼、かけがえのない命を守れなかった彼女。遺品整理という命と向き合う現場で二人は出会った。今、全国でイジメを含めて様々な事件が起こりながら、そのことを深く考えることができない私たち。こんな時代のなかで、映画は生と死という普遍的テーマを若い二人の目線で描きます。生きているかぎり人とつながっていたい!榮倉奈々の好演が光るなか、今回は、日本映画字幕付きバリアフリーでの上映を実現。あらゆる世代に必見の作品。2011年,監督:瀬々敬久,131分,出演:岡田将生、榮倉奈々,製作:松竹2012年11月17日★★★★☆「綱引いちゃった!」女性の団結パワーは食べて、笑って、泣いて。という作品。こういう地産地消(大分県)映画はときどき傑作が生まれるので、チェックはしたが、だいたいは想定内の推移だった。生涯で二回目の試写会に当たった(^-^)/。ホントはもっと褒めたいんだけど、性格なので仕方ない。in movix倉敷2012年11月19日★★★☆☆「悪の教典」大島優子が観ている途中で気分が悪くなり「この映画嫌いです」と「感想(断じて批判ではない)」を述べて退出した作品です。正視に耐えられないような場面はあるが、もちろん退出はそれが理由ではないだろう。蓮実はいわゆる人間性欠落のサイコキラーであり、それが知能指数の高い者に備わればどういうことが起きるか。という作品です。学校の中の人間関係は、秘密を持っている者や、同性愛やセクハラ、憧れや知性、勇気や思いやりが渦巻く小世界であり、それをコントロールしている蓮実は、ある意味AKBセンター大島優子の「分身」(←こんなのAKB大島押しが見たら大変なことになるからナイショね)なので、気分が悪くなったのだと思う。実に正当な評価だと思う。貴志祐介はかつて「青の炎」という作品を書いた。IQの高い高校生が家族を守るために完全犯罪を実行する話だ。この高校生には人間性があり、だからこそ完全犯罪に綻びが出来たのである。いわば日本版の「罪と罰」で私の好きな作品だ。「悪の教典」はその「人間性」をなくせばどうなるのか、追求したのだろう。蓮実は躊躇いが一切無い。だから、多くの殺人は完全犯罪だった。私は性格がもともと擦れているので、気分が悪くならなかったが、蓮実が完全犯罪を狙ったのかどうかだけが、関心の的だった。動機も方法も確かに完全犯罪に向かっていた。しかし、どうしてもクラス全員を殺すのならば、綻びが起きない方がおかしいのではないか。ハスミンは本当に完全犯罪を狙ったのか。狙ったのである。もちろん100%勝算があったわけではないことは、最後でわかった。「ヒミズ」に引き続き染谷将太と二階堂ふみが重要な役どころで出る。今回は2人ともエリート高校生だが、やはり土くさい。上手く育って欲しい。三池監督は、どうして毎年力作を発表出来るのか。「13人の刺客」を観て以降、私の中では欠かせない監督になった。いわゆる「イイコ」の映画を撮らないと決めて、自由になったのかもしれない。しかし、この10年の怒涛の監督の数は凄い。改めて調べると、この四年間だけで9作も撮っているのである。その中には「ヤッターマン」などの漫画実写モノから「一命」などの本格時代劇、「クローズZERO」などの学園暴力モノなど実にバラエティに富んでいる。さて、小説ではどこまでリアリティがあったかわからないが、私はこのサイコキラー、IQ高い高いと言いながら、やはり稚拙に見える。そもそもこの大量殺人は自分の犯した犯罪を糊塗するためだった。しかし、(たとえ失敗した後でもゲームを楽しむバージョンがあったとしても)やはり割に合わないのではないか。「to be continued」という言葉が最後に流れる。これは続編を考えているということではないだろう。監督からのジョークぽいメッセージ(つまり、まだ彼は負けていない)なのだろう。(解説)「黒い家」「青の炎」などで知られる貴志祐介のベストセラー小説を実写化したサスペンス。生徒に慕われる高校教師でありながら、自身の目的のためなら殺人もいとわない狂気の男が繰り広げる凶行の数々を息詰まるタッチで描く。『海猿』シリーズの伊藤英明が、同シリーズとは打って変わって究極の悪人を怪演。『ヒミズ』でベネチア国際映画祭新人俳優賞を受賞した二階堂ふみと染谷将太、『バッテリー』の林遣都らが共演。『クローズZERO』シリーズの三池崇史がメガホンを取り、鮮烈なバイオレンス描写を随所でさく裂させている。in movix倉敷2012年11月22日★★★★☆「高地戦」宣伝は停戦協定から12時間後までの38度戦を決定する戦いについてばかりだったけど、映画の大部分はそこに至るまでの、「戦場の地獄」を描いている。映画は明確に「軍隊批判」である。こういう映画が100億wの巨費で作られ、数ある韓国映画の中で最高の賞を獲るということに韓国社会の健全さを見る。ヨンピョが北の高地戦に送られたのは南の防諜の仕事で「仕方なく共産党に協力した者まで、どうして処分するのか」と、人前で幹部を批判したからだ。そのようなことで、実際に多くの罪ない人が命を落としていたことが、多分最近になって明らかになったようだ。逃げる為に味方を置き去りにする部隊と、その部隊を殲滅して逃げ、秘密を共有する部隊。邪魔になる隊長を射殺する部隊。敵と文通をしてしまう部隊。そこにあるのは、戦争の不条理と、敵味方も同じ人間にだという強烈な「認識」なのである。(最後の戦闘直前で両陣営で図らずも合唱してしまう歌、「あの時は戦争をする理由がはっきりとわかっていたが、長い戦闘の間に忘れてしまった」と言ってしまう北の将校)朝鮮戦争とは何だったのか。まだ終わっていない戦争を60年経ってようやく真正面から見ようとしているのかもしれない。(解説)朝鮮戦争の激戦地を舞台に、停戦協定成立から発効までの12時間に行われた最後の戦闘に参加した兵士たちの姿を描いた戦争映画。韓国国内では大ヒットし、高評価を得た。出演は「トンマッコルへようこそ」のシン・ハギュン、「白夜行 白い闇の中を歩く」のコ・ス。監督は「義兄弟 SECRET REUNION」のチャン・フン。シン・ハギュン:Kang Eun-pyoコ・ス:Kim Soo-hyeokイ・ジェフン:Shin Il-Youngリュ・スンス:Oh Gi-yeongコ・チャンソク:Yang Hyo-samイ・デビッド:Nam Seong-sikチョ・ジヌン:チョン・インギ:パク・ヨンソ:リュ・スンニョン:Hyeon Jeong-yoonキム・オクピン:Cha Tae-kyeonginシネマクレール2012年11月26日★★★★★
2012年12月24日
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11月に観た映画(上)11月は9作観ました。この月は、二作は商業映画では無く、映画祭の作品です。「黄金を抱いて翔べ」今まで観た高村薫原作の映画で、1番高村色がある作品だったと思う。背景とディテールをとことん突き詰める彼女の作風を、脚本をとことん削ることでなんとか実現していたのではないだろうか。単に役者達が頑張ったということもある。チャンミンが思った以上に良い味を出していた。ただ、エンタメ映画として成立させたいのならば(それ以外にこの映画の目的は無いと思うが)、小説ならば行間から分かる彼等の「社会にひと泡吹かせたい」気持ちとか、二重スパイのあいつの生死などをもっと工夫してほしかった。(解説)日本推理サスペンス大賞に輝く高村薫のデビュー小説を、『パッチギ!』シリーズなどの井筒和幸が実写化したクライム・ムービー。万全の警護システムが敷かれた銀行地下金庫からの金塊強奪に挑む男たちと計画の思わぬ行方を、息詰まるタッチで活写する。『悪人』の妻夫木聡、『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』の浅野忠信、『BECK』の桐谷健太、『釣りバカ日誌』シリーズの西田敏行、東方神起のチャンミンなど、豪華な顔ぶれが結集。裏切りや疑心が交錯する物語に加え、計画の推移を綿密に追ったディテールにこだわった描写も必見。in movix倉敷2012年11月4日★★★★☆「のぼうの城」2時間半近くにも及ぶ上映時間が気にならない、かなりの力作でした。知将か愚将かは、問題ではない。視点を変えれば見えるものがある。上から目線では無く、下から目線で見えるものがある。彼は、ただそれだけだったのだろう。野村萬斎が正に「はまり役」でした。この映画の製作が2010年だったということにビックリ。あまりにも大震災津波に酷似している「水攻め」の映像から、公開がおそらくまる一年延びたのだろう。でも、急がなくて良かったかもしれない。観客はみんなゆっくりした気分でみる事が出来た。ただ、一つ気になるのは、彼が「戦い」を決断した本当の理由が良くわからなかったこと。姫のためで無いとしたらなんだったのか。そして、本当にそれで良いと思ったのか。農民を抜けさせるエピソードをまるまる省略したのは、やはり良くなかった(おそらく撮っていた筈だ)。彼の心像風景は説明不足だった。史実をもとに作っているからこそ、訴えるモノがあったと思う。最後の現在の行田市の風景は気になっていたので、大変嬉しかった。(解説)戦国末期、豊臣秀吉、石田三成勢の2万人の大軍に屈せず、たった500名の兵で抗戦、勝利した実在の武将・成田長親の姿を描く時代劇。『ゼロの焦点』の犬童一心と『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』の樋口真嗣が異色のダブル監督に挑み、第29回城戸賞を受賞した和田竜のオリジナル脚本を映像化。“のぼう様”と呼ばれたヒロイックな主人公を野村萬斎が熱演するほか、佐藤浩市、山口智充、成宮寛貴らが城を守る侍大将を演じる。底知れぬ人気で人心を掌握した主人公の魅力や、豊臣・石田軍による水攻めシーンなど、見どころ満載の歴史大作だ。in movix倉敷2012年11月12日★★★★☆「あの日、あの時、愛の記憶」うーむ、外れですね。ゲットーに芽生えたユダヤ人とワルシャワ蜂起抵抗青年との恋と逃避行、というのは目新しくて良いのですが、もっとも大事な処を描かないというのは、やはり良くなかった。そういうこともあったのね、という映画になってしまった。ニューヨークパートは、退屈極まりない。(解説)アウシュヴィッツ収容所から脱走し生き別れた恋人たちが39年後に再会したという驚くべき実 話を、感動の映画に作り上げたのは、監督アンナ・ジャスティスと脚本家パメラ・カッツの女 性二人。 1944年のポーランドと1976年のニューヨーク。蘇るハンナの記憶と、現在のハンナの姿を巧み に交錯させながら、女性ならではの視点で一人の女性の喪失と再生を力強く描きだしていく。 この切ない愛の物語は、戦争によって引き裂かれた恋人たちを描いた『ひまわり』、『シェル ブールの雨傘』などの名作に続く新たなる感動作である。同時に、戦争という特殊な状況下だけの物語ではなく、誰しもが胸に秘める忘れられない恋や、「あの時、もし…」という気持ちを 思い起こす、胸しめつけられる大人のラブストーリーだ。inシネマクレール2012年11月12日★★★☆☆「北のカナリアたち」自殺しようとした男が、顔の汚れを拭われただけでそれを思いとどまる為には、やはり吉永小百合をキャスティングしなくちゃいけなかったのだろうな。同じ原作者でも、監督でこうも内容が変わるものなのか。結局監督が人間を信頼しているかどうかの違いなんだろうか。そりゃラストをあのようにしたことに異議は挟みたくはない。歌う場面だけで全てを語っていたかもしれない。けれどもせっかく集まったあの豪華俳優たちの言葉のやり取りを聞きたかった。特に宮崎あおいと満島ひかりはとうとう一言も言葉をかわさなかった。同じ年の同じ日に生まれた2人の初顔合わせなんだよ!さすが、木村大作。はっとする景色が幾つもあった。(解説)『告白』の原作者である湊かなえの小説「往復書簡」の一編「二十年後の宿題」を、日本を代表する女優・吉永小百合を主演に迎え、『大鹿村騒動記』の阪本順治監督が映画化したヒューマン・サスペンス。20年前に起きた悲劇により引き裂かれた教師と教え子たちがある事件を機に再会し、それぞれが抱える心の傷や真実が明らかになっていくさまを描く。共演には柴田恭兵、里見浩太朗、仲村トオル、森山未來、宮崎あおい、松田龍平など、ベテランから若手まで実力派が勢ぞろいする。in movix倉敷2012年11月15日★★★★☆岡山映画祭 鑑賞 第一弾『ひかりのおと』まだ稚拙である。アフレコ録音は仕方がないが、絵と音がピタリと合っていない。俳優は所々棒読みになっている。自殺を試みた男が半日後に助けてくれた男の人生相談に乗り、なおかつ助言をしている。脚本はまだまだだ。しかし、である。県北の冬の荒寥感とときおり差す温かな光や、ストーブの温もり、朝の光、夜の闇、オール真庭ロケでしかだし得ない県北の空気を見事にだしていた。編集もときおり西川美和監督を彷彿させる見事さを出していた。俳優は一様にまだまだだけど、おばあちゃん役は見事な存在感を出していた。聞くと、プロの俳優2-3人以外は主人公含め地元から採用したらしい。おばあちゃんは、最初ダメでセリフを少なくしたのと、演技指導に気を配ったとのこと。プロはお任せにしたのが私のみるところ悪かったと思う。厳しい酪農の現実もきちんと切り取っていて、好感が持てる。映画と農業の両立はタイヘンだけど、頑張って欲しい。次はなんと!歴史モノ、しかも津山山中一揆をやる予定だと打ち明けてくれた。嬉しい。(解説)2011年,脚本・監督:山崎樹一朗,89分,出演:藤久善友、森衣里その土地と人の営みを見つめる”地産地生“映画岡山 県北、山深きところ。代々酪農を営む狩谷家の長男・雄介は音楽を志し東京で暮らしてきたが、父の怪我をきっかけに家業を手伝うため故郷に戻った。しかし消 えぬ音楽への思いや酪農の現状、恋人との行き違いから、この土地を引き継ぎ、酪農家として生きていくのか迷いを抱えていた・・・。岡山県真庭市で農業を営 む映画作家・山崎樹一郎が若き酪農家の葛藤と未来へのささやかな希望を「土地からの視点」で描いた長編初監督作品。山崎樹一朗(やまさき じゅいちろう) : 1978年大阪出身。岡山県真庭市在住。学生のころ京都国際学生映画祭の企画運営に携わる。大学卒業後、映画監督・佐藤訪米の経営する「祇園みみお」にてスタッフ兼助監督として過ごし、8年間の京都生活を止め父の実家である真庭市に移住。現在トマト農家。農事組合法人ファーモニーズまにわ理事。2012年11月17日★★★☆☆
2012年12月23日
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10月後半に観た映画です。それにしても、アンゲロプロスの追悼特集で9-10月に三本観て、改めてこの作家の仕事の素晴らしさを再確認したのでした。「永遠と一日」老作家は不治の病を得て、入院前の最後の一日を過ごそうとする。ふとしたことから、アルバニアから逃げて来た少年を助ける。老人と少年、妻の過去からの「愛の言葉」、19世紀の詩人が祖国ギリシャに戻り「言葉を買いながら」詩をつくる、「人生は美しい」という老作家。「明日の時の長さは?」「永遠と一日よ」と答える亡き妻。これは私がアンゲロプロスの映画を初めて感動して観た作品だ。あれから13年、その時の記憶は、いかにあやふやでかつ鮮明なものだったかを思い知る2時間になった。アルバニア国境の霧の場面は、最後に来るのだとばかり思っていた。中盤の場面だった。そして、まるで銀河鉄道を思い起こすような深夜のバスの車中の場面は、少なくとも1時間はあるのだと思っていた。10分くらいしかなかった。老作家が一日で、一生を回顧する様に、私はこの映画的体験を「新たな映画的体験」とも言える体験をしたのだと思う。老作家は目の前の少年を見逃しはしなかった。たった1人の少年を助けただけだ。しかし、それが「人間の条件」だと思う。私は、その条件を持っているのだろうか。(解説)詩人の人生最後の一日の心の旅を重厚なタッチで描きだした映像叙情詩。監督・脚本は「ユリシーズの瞳」のギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロス。脚本協力は「シテール島の船出」以来アンゲロプロスと組むイタリアの名脚本家トニーノ・グエッラ(「ノスタルジア」)と、ペトロス・マルカリス、ジョルジオ・シルヴァーニ。製作はアンゲロプロス、シルヴァーニ、エリック・ユーマン(「ユリシーズの瞳」、監督作『ジェマ港』)、アメデオ・パガーニ。撮影のヨルゴス・アルバニティス(冬のシーン撮影)とアンドレアス・シナノス(夏のシーン撮影)、音楽のエレニ・カラインドルーはアンゲロプロス作品の常連。美術はヨルゴス・パッツァス。編集はヤニス・ツィツォプロス。録音はニコス・パパディミトリウ。衣裳はヨルゴス・ジアカス、コスタス・ディミトリアディス。出演は「ベルリン 天使の詩」「星の王子さまを探して」のブルーノ・ガンツ、「恋する女」のイザベル・ルノー、実際にアルバニア難民の少年アキレアス・スケヴィス、『親和力』のファビリチィオ・ベンティヴォリオ、「狩人」のニコス・クロウスほか。98年カンヌ映画祭パルム・ドール(大賞)受賞。inシネマクレール2012年10月14日★★★★★「ツナグ」ストーリーは想定通り、しかし感じたことは想定外。ツッコミ所は多い。こんな需要の高い仕事、あんな面接で簡単に引き受けちゃったらちょっと考えただけでも10通りのトラブルを考えることが出来る。つまり、あまりにも都合よく話が回り過ぎる。おばあちゃんも言っていたけど、「ツナグって、仕事は人の人生を引き受けるって事なんだからね」それでも、たとえ出てきた「死んだ人たち」が「記憶の総合体」なんだとしても、「死んだ人たち」は重要な事を私たちに教えてくれた。だから、観て良かったと思う。「死んだ人たち」は死んだ時から決して一歩たりとも変わらない。歩美が気がつく様に「ふと誰かが自分を見ている様に感じることがある。それが自分の行動を律する」のである。柳田國男の祖先崇拝、日本の恥の文化、八百の神、加藤周一の「今=ここ」論、等々に通じる、それは極めて日本らしい「物語」なのではないか。個人的には全部のエピソードにやられてしまいました。作品的には、三つのエピソードが淡々と進むので、盛り上がりに欠けたと思う。しかし、ハリウッド映画の様にしなくて良かったとつくづく思う。「解説」第32回吉川英治文学新人賞に輝く、辻村深月の小説を実写化したファンタジー・ドラマ。死んだ者と生きる者の再会を仲介する使者“ツナグ”の見習いを努める高校生が、さまざまな依頼者の姿を目の当たりにして成長する姿を追う。『王様とボク』などの松坂桃李が主人公の歩美を好演、ツナグの師匠でもある彼の祖母を『わが母の記』の樹木希林が演じ、温かな掛け合いを見せてくれる。人と人のつながり、家族の絆、生死を深く見つめた物語もさることながら、佐藤隆太、桐谷美玲、八千草薫、仲代達矢といった豪華共演陣の顔ぶれも見ものだ。監督・脚本:平川雄一朗in movix倉敷2012年10月18日★★★★☆「エクスペンタブルズ2」たまたま券を手にいれたので観た。前作は観ていない(←またかよ)。単なる傭兵軍団の活躍を描いた作品。一人で主役を張れる役者が少なくとも6人、贅沢な作品なのだが、なのだが…。彼らはいったいなんのために闘っているのだろうか。映画である以上、金とは言わせない。今回はたまたまプルトニウムの流出という危機に立ち向かったのだが、それは偶然そうなったあだけで、彼等のモチベーションがそれで上がった気配はない。国家のためとか、正義のために闘っている「雰囲気」はないのである。「死んだ仲間のための弔い合戦」、そのためにあんなことやこんなことまでするのか?結局、性癖の様に彼らは「闘いたいから闘っている」様に思える。なんだかな~、と思う。プルトニウムをあんな乱暴に扱って、やっぱり米国という国の放射能オンチって奴は!(解説)シルヴェスター・スタローンを筆頭に、アクション・スターが一堂に会した超大作の続編。墜落機からのデータボックス回収を引き受けた傭兵(ようへい)部隊エクスペンダブルズが、それを機に旧ソ連軍の埋蔵プルトニウムをめぐる壮絶な戦いに巻き込まれる。前作に続いての出演となるジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ドルフ・ラングレンらに加え、『最後のブルース・リー/ドラゴンへの道』のチャック・ノリス、『その男 ヴァン・ダム』のジャン=クロード・ヴァン・ダムも参戦。戦車が市街地を砲撃しながら激走するなど、前作を上回る迫力の見せ場が次から次へと現れる。in movix倉敷2012年10月21日★★★☆☆「映画 スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!」たまたま券が手に入ったので、観た。前作は見ていない(←こればっか)画質はテレビとそう変わっていない様に思える。しかし‼なんと子供たちには(大人は貰えない)、カードと頭に着けるお面と、そしてプリキュア達さが決定的にピンチに陥った時に応援出来る特製ペンライトが貰えるのであーる。映画の最初に「ピンチになった時に付けて応援してあげて!」と説明が入る。画面で彼女たちは何度も何度もピンチになって、子供たちが一人ふたりとペンライトを付けているのだけど、なかなかみんなのものになっていかない。いまどきの子供たちはひとりでなかなか判断出来ない。横並び意識があるのである。そして絵本の世界の住人達がなぜか突然ペンライトを持ってプリキュア達を応援し始めるのであーる。その時、約9割の子供たちがペンライトをつける。(←イマイチ盛り上がらなかったなー)その他、最後の歌が始まったら、「みんなで踊ろう」と呼びかけるなど、これは「親子イベント」なんですね。貴重な体験をさせて貰いました。しっかり、春休み映画の予告もしていました。(解説)少女たちが力を合わせて戦う人気テレビアニメのシリーズ第9弾「スマイルプリキュア!」の劇場版。プリキュアたちが絵本の世界をちぐはぐにしようとする魔王と戦い、笑顔を取り戻そうと奮闘する姿を描く。絵本の世界の住人、ニコの声を、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの綾波レイなどで人気の林原めぐみが担当。シンデレラや桃太郎などが登場する絵本の登場人物と共に競演するプリキュアたちの姿が楽しめる。監督:黒田成美脚本:米村正二in movix倉敷2012年10月27日★★★☆☆「終の信託」検察の巧みな調書取りや、草刈民代の抑えながらも堂々とした演技、役所広司の鬼気迫る病人演技、あえてミステリー仕立ては取らずにストレートに作った周防監督の演出意図、見応えがありました。公開二日目とは思えない少ない観客が可哀相です。ただ、彼女は実は正しかったのだと思えない演出は、これを娯楽作品と果たして呼べるかどうか。亀山千広がプロデュースしていたが、全国公開にしたのは、間違いだったのではないか。ミステリーでも、検察告発映画でもない。「こういう場合の尊厳死」をどう考えるか。そういう問いかけだと思う。巧妙にオミットされているのは、家族の視線である。臨床の場で、あんなことまでして家族はどう思ったか。省略する事で、ミステリー仕立ては避け得たが、完全に女医目線の映画になり、かなり座り心地の悪い映画になった。監督は多分それも計算に入れている。しかし、娯楽作品ではない。「何故殺してはいけないのか?生命は尊重されなければならないからだ!」という検察官に対して、「生命を尊重しなければならないのは、人の幸せのためでしょ?幸せにならなければ、どうするのですか!」女医の最後の叫びが重くのしかかる。私はどう答えたら、いいのだろうか。(解説)『それでもボクはやってない』の周防正行監督が、法律家でもある朔立木の小説を実写化したラブストーリー。重度のぜんそく患者と恋に落ち、彼の願いから延命治療を止めた行動を殺人だと検察に追及される女医の姿を見つめる。草刈民代と役所広司が『Shall we ダンス?』からおよそ16年ぶりとなる共演を果たし、愛と死に翻弄(ほんろう)される男女を熱演。また、浅野忠信や大沢たかおが脇を固め、実力派ならではの妙演を披露する。生死を賭した純愛を描くのみならず、終末医療の現場で起きている問題にも踏み込んだ重厚な作品。in movix倉敷2012年10月28日★★★★☆
2012年12月22日
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10月はなんと11作も映画を観ました。実は、映画館ののCMモニターに登録して、月に2-4作品無料で見ることが出来る様になったのです。観る映画は選ぶ事はできないのですが、映画ならばなんでも観たい私にはピッタリです。プリキュアだって喜んで観ました。二回に分けて報告します。「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」監督 長谷川三郎この映画を見ていた10月1日のちょうどその時、世界一危険なオスプレイが世界一危険な 普天間基地に配備された。ゲート前の抗議の、何百人もの座り込みを機動隊で強制排除した上での配備。政府がついに沖縄を切り捨てた瞬間である。しかし、その具体的な状況は遂にほとんどのメデイアは報道しなかった。90歳の報道写真家福島菊次郎は「世のメデイアは5W1Hで記事を書いていれば、それで良しとする」と嫌悪感を露わにした。まるきり、何も変わっていない。YouTubeで確かにメデイアで報道されない事実も知られる様になった。しかし、10分の映像も一枚のプロの写真には叶わない部分がまだまだあるのではないか。そんなことを、私は思った。カメラマンの学校で90歳になろうとしている福島は言う「プライバシーの尊重など守らなければならないことはある。しかし、撮る対象が法律に違反している時には、法律を犯してでも撮らなければならない」若いカメラマンたちは、果たしてどう思ったのだろうか。沖縄の例で言えば、この空間は日米安保条約に基づく米軍提供地域であったために逮捕される恐れもあった。だから座り込みをしていたのは主に白髪の年配の方たちが声を掛け合って最前線で座り込みをしていたのである。それを取材する過程でカメラマンにも累が及ばないという保証はない。しかし、それでもそれを取材するのが、そしてそれを発表するのが本来の報道写真家というものだろう。ヒロシマ被爆者の中村さんに密着した体験に始まり、祝島、三里塚、ウーマンリヴ、安田講堂、水俣、フクシマ、常に反権力の側に自らの立場を鮮明にして入ったからこそ、新聞や週刊誌には撮れない機動隊に殴られる学生、あるいは三里塚の女性、自衛隊基基地の隠し撮り、祝島のおばちゃんたちの笑顔なども撮れたのである。「中立な立場など無い」福島は言うが、報道とは正にそうなのだ。安田講堂占拠までの全共闘運動を全面肯定しているので、私としては全てを良しとするわけではないけれども、「昔は反権力の場にいることは私はできなかった。しかし今はそれが自由に出来る」若者を素直に応援していたのだと思う。年金ももらわず、生活保護も拒否し「最後は孤独死だろう。それは国に殺されたと思ってください」と言っているあたりかなり「カッコイイおじいちゃん」でした。inシネマクレール2012年10月1日★★★★☆「青いソラ白い雲」ともかく金子修介監督の新作を見逃したくなかった。「プライド」も「ばかもの」も後でDVDを観たら傑作で、かなり後悔したからだ。さて、今作が傑作かと言うと、かなり苦しい。主演の森星(もりひかり)はモデル出身の全くの新人で、存在感だけで選ばれたことが明らかだからである。それならば、脇役がきちんと固めればいいのだが、予算のせいか少し無理が出たようだ。しかし、言いたいことはストレートに伝わって来たし、いい意味で肩の力を抜いた作品になっていた。私は好きです。仁科貴は昔から父親似だったけど、年取って無精髭を生やしていたら、また生き返ったんじゃないかというくらい川谷拓三とクリソツになっていた。震災直後の二ヶ月から半年の日本の空気感がよく出ていた。見えない放射能に怯えながら「こういう時勢」というのが頭から離れない。みんな何処かでウソついて、政府が真っ先にウソついて、でもやっぱり助け合いたいと思っている。日本人離れしたリエ役の森星のこれからも注目したい。inシネマクレール2012年10月1日★★★★☆「ハンガーゲーム」米国製「バトルロワイアル」という話だったが、似て非なるものだった。深作欣二監督は、近未来の若者に強制的に擬似戦争を体験させ、それがいかに非人間的なものか、人間が人間でなくなるのかを、映像で見せるというものだった。しかし、この映画の意図はどうやらそんなことではない。ここでは、どうやって「ヒーロー」が生まれるのか、という話になってしまっている。どうしてアメリカ映画というのは、こうなっちゃうんだろ。近未来の社会では、地方の反乱を鎮圧した後、各地区から少年少女2人を選出させ合計24人が最後の1人になるまで殺し合いをさせるゲームを制定していた。「制圧の印に毎年24人を殺すのは簡単だ。何故1人を残すと思う?希望だよ。人間は僅かでも希望があれば生きる。ただし、希望が膨らみすぎてはいけない」思うにこの設定は失敗だ。支配の手段としてハンガーゲームを創出し、全国にテレビ中継するのは、殆ど百害あって一理無しだと私は思う。現にあんな単純な事で黒人地区に暴動が起きたりしている。今まで74回も続いてきたのが奇跡だろう。 その矛盾を糊塗するために、新たな矛盾を作る映画になっている。おやおや。(解説)スーザン・コリンズの小説を映画化し、全米で興行収入4億ドルを越える大ヒットを飛ばした話題作。ある独裁国家を舞台に、生き残りを賭けて戦う“ハンガー・ゲーム”に出場することになった10代の少年少女たちの姿を描く。主演は「ウィンターズ・ボーン」でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたジェニファー・ローレンス。監督はゲイリー・コスジェニファー・ローレンス:Katniss Everdeenジョシュ・ハッチャーソン:Peeta Mellarkリアム・ヘムズワース:Gale Hawthorneウディ・ハレルソン:Haymitch Abernathyエリザベス・バンクス:Effie Trinketレニー・クラヴィッツ:Cinnaスタンリー・トゥッチ:Caesar Flickermanドナルド・サザーランド:President Snowin movix倉敷2012年10月4日★★★☆☆「アウトレイジ ビヨンド」たまたま券が手に入ったので観た。前作は観ていない。みんな悪人というのは、確かにその通りなんだけど、明らかに大友(北野武)に感情移入する様に作られている。なんだ、いつものたけし映画じゃないか。それと構造は健さんのヤクザ映画と同じ、ガマンにガマンを重ねて、やがて大友が少し捻くれて「爆発」する。まあ、いいけどね。顔のアップが多く、役者の悪人顔を愉しむ、そんな映画なのだろう。(解説)世界中から熱い注目を浴びる北野武監督が、巨大暴力団組織の内部抗争をバイオレンス描写たっぷりに描いた『アウトレイジ』の続編。前作で死んだはずの元山王会大友組組長・大友がまさかの復活を果たし、関東と関西の二大暴力団の抗争に組織壊滅を図る警察の思惑が絡み合い、その渦中に大友が巻き込まれていく。前作から続投するビートたけし、三浦友和、加瀬亮、小日向文世らをはじめ、新たに登場する西田敏行、高橋克典、新井浩文、塩見三省、中尾彬らの悪人ぶりが見もの。in movix倉敷2012年10月7日★★★☆☆「るろうに剣心」人斬り抜刀斎として生きた10年前を否定し、人を切れない刀を持ち歩く緋村剣心。剣(武力)は、人を殺す以外に役立てる道はあるのか。1人の青年の魂の旅が始まる。最後まで遂に人を殺さずに終わらした作り方に憲法9条の精神を見た。多分早送りを利用したスピード感あふれる殺陣は、同じくスピードが命の刺客を描いた「あずみ」では、描けなかった男の戦いならではの見事な死闘をきちんと描いていた。剣心と相楽の戦いの場面が、倉敷美観地区が使われていた。普段は明るい柳堀が、夜の照明を使っているとはいえ、あそこまで江戸時代になるとは、映画マジックをつくづく感じた。漫画のイメージをほぼ踏襲して、ツッコミ処はたくさんあったが普通にいい感じのエンタメでした。(解説)優しい笑顔と、人を思いやる心。少年のような華奢な身体に長い髪。そんな男が、人を助けるために立ち上がるとき、眼光鋭く一変する。神より速く、修羅より強く、一対多数の戦いも瞬時に制す。けれど相手がどんな悪人でも、自ら立てた〈不殺(ころさず)の誓い〉に従って、決して命を奪いはしない――大ベストセラーコミック、和月伸宏の「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」(集英社刊)、ついに初の実写映画化が実現した。大友啓史佐藤健、武井咲、吉川晃司、蒼井優in movix倉敷2012年10月10日★★★★☆「最強のふたり」事故で全身麻痺となり車いす生活を送る富豪フィリップは、介護士面接にやってきて、開口一番「不採用のサインをくれ」と切りだした場違いな黒人青年ドリスを採用する。大富豪とスラムヤング、クラシックとソウル、高級スーツとスウェット、文学的な会話と下ネタ──。全てにわたり二人の世界は衝突し続けるが、やがて互いを受け入れ、とんでもないユーモアに富んだ最強の友情が生まれ始める。と、いう話であることは事前に聞いていたし、予告編でもある程度わかっていた。でも退屈しなかった、ということは、それなりに丁寧な作品だったということなのだろう。エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ監督出演者 フランソワ・クリュゼ、オマール・シーin TOHOシネマズ岡南2012年10月11日★★★☆☆
2012年12月21日
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9月に観た映画の後半です。9月は夏休み後で、例年2月と9月は、映画の力作が多い傾向があります。この9月もそうでした。「天地明察」滝田洋二郎 監督出演 岡田准一、宮崎あおい、市川亀治郎、中井貴一宮崎あおいは可愛いし、色っぽいし、しっかりしているし、最高の嫁さんだなあ。え?そんな話じゃあない?どうして一介の碁打ちがあそこまで才能を見出され優遇されたのか。その謎が解けなかった。山崎闇斎が戦死を遂げたり、予め解っているはずの日食に大袈裟な演出を施すなど、白ける演出が鼻に付く。職人滝田監督の悪いところが出た。洋書を借りて地図をつくったのはいいけど、あんな不完全な世界地図でどうして北京と日本で緯度が15度違っていたと正確に測れたのか。映画ではわからない世界だったような気がする。in movix倉敷2012年9月16日★★★☆☆「バイオハザード5 リトリビューション」主演 ミラ・ジョヴォヴィッチたまたま、券が手に入ったので、映画館でこのシリーズを初めて見た。内容は無いがシリーズ化されるのも理解出来た。全く退屈しないのである。昨日の敵は今日の味方、昨日の味方は今日の敵。日本マンガ(ゲーム)では当たり前の常識が世界の常識になりつつある。神と悪魔では通用しない価値観が世界を席巻しつゝある。まるでアンデッドの様に。in movix倉敷2012年9月16日★★★☆☆「夢売るふたり」今のところ、邦画で「わが母の記」を抜き今年ベストの作品です。結婚詐欺は犯罪である。しかし、結婚前に恋人が男の開業資金を提供して援助するのは、美談である。貫也(阿部サダヲ)の妻の里子(松たか子)は言う。「何もウソをつく必要はないのよ。彼女たちの夢を少し後押ししてあげるだけ」やっている事は立派な詐欺でも、火事で開業資金が足りないこと、妻もいることも隠さない、借用書も作成し借金のつもりでお金を貰っているから貫也は自然体のままで「ウソ」をつく。女性も多くは雲隠れされても「何か事情があったのよ」と自分に言い訳している。「ウソ」と「真実」の違いは何なのか。「ゆれる」「ディアドクター」以来のテーマを、西川美和監督は俳優の見事な演技とスタッフ陣に支えられて、絶妙な作品に仕上げた。流石だ。風で揺れる木の葉から天気の移り変わりによる時間の経過の描写まで、ひとつとして無駄なコマがない。現代の邦画で、一コマ一コマにここまで緊張感持って観れる作品はほとんど無い。監督作品を見慣れていない人は、あいまいなラストに戸惑いを覚えるかもしれなあが、私にとっては明確だった。多くの観客は多くの解釈を持つかもしれない。人に語りたくて仕方なくなる。それが西川作品の魅力である。唯一意味がわからなかったのは、里子がトイレから出てナプキンを装着する場面なのだが、誰か教えて欲しい。後で色々教えてもらった処によると、里子は「子供が出来ていない」ことに相当焦っていたみたいだ。それが、その後の展開に大きなドラマを生み出す。そういう意味で非常に重要な場面だったみたいだ。貫也と里子は「夢を売る」商売を始めたのだから、それなりの報酬を得る。しかしこの商売はおそらくどこかで「人間性」をも売っていたのだろう。貫也よりも参謀役の里子の人間が壊れて行く様がこの映画の見どころのひとつだ。「告白」の時にはあの演技は偶然かと思ったが、松たか子、いい役者になった。一方、田中麗奈は今回も脱がなかった。「源氏物語」の時は監督が悪いのだと思っていた。しかし今回で田中麗奈のわがままだと確信した。別に大勢に影響しないが、私は脱ぐべきだったと思う。そうでないなら、こんな役など引き受けなければいい。鈴木砂羽や松たか子の体当たり演技を見習え、と言いたい。in TOHOシネマズ岡南2012年9月18日★★★★★「こうのとり、たちずさんで」(91年作品)監督 テオ・アンゲロプロス出演 マルチェロ・マストロヤンニ、ジャンヌ・モローTVレポーター(作者の分身)が、アルバニアとの国境の町に難民の取材に出かける。そこで、突然失踪したある大物政治家に出会う。彼は何故失踪したのか、というタテ糸のストーリーはおそらく重要ではない。冷戦の「崩壊」を受けて、とりあえず作れるところまで作った。そんな感じがする。当時のギリシャの政治状況が分からないので、上手く言えない。大切な人は去っていく。難民の苦労と哀しみ。そんな曖昧なモノだけが、廃墟みたいな町を背景に語られていく。相変わらず、長回しの映像は多くを語る。男と女の出会いの場面。ダンスで騒がしいホテルの酒場で、男は様々な謎に囚われ、ただ酒を飲みに席につく。その最初から少女といってもいいような女がずっと背を伸ばして男だけを見つめている。隣あって座っても暫く男は女に気がつかない。一回見ても、物思いに囚われて直ぐに目をそらした。二回目、女が見ていると認識するが、直ぐに無視する。三回目、初めて女をしげしげと見つめる。その間女は塑像のように男を見つめている。男は、興味はもつが、やはり何を思ったか席を立つ。ふと振り返る。女は騒がしい酒場の中で男だけを見つめている。男はもう一度振り返る。気持ちが通じ合う。女が席を立つ。近づいてゆっくり男について行く。次の場面、男は黙って女を自分の部屋に招き入れる。次の場面、女のうなじに男が触ろうとして果たせない。次の場面、夜明けの酒場。男と女のセリフがそこで初めてなされる。男は女が誰かの名前を呼んでいたのを訊く。女は逃げるように去っていく。その間、約10-15分、饒舌なラブストーリーより、よっぽど内容があった。最後の有名な(難民に振り与えられる仕事の)電柱作業人が処刑された人のように一列に空の中に浮かんでいるラストシーン。一回見ただけではわからない映画でした。でも、もう一度見たいと思わせる映画。フィルムの劣化がかなり進んでおり、映画館で見るのは、これが最後だったかもしれない。それは、人と人との出会いに似ている。inシネマクレール2012年9月21日★★★☆☆「鍵泥棒のメソッド」「メソッド」とは論理的に体系づけた方法。功術。功法。(はてなキーワードより)映画にとって「冒頭」はとっても大事である。創る側にとってはそこで観客をどれだけ引きつけるか決まるし、観客にとっては「面白み」を冒頭である程度想像する。冒頭、部下10人ほどの前でキャリアウーマンらしき女性がびっしりのスケジュール帳を見ながら「二ヶ月後に結婚する事にした。相手はまだいない。候補があれば教えて欲しい」と宣言する。部下たちも冷静に反応する。美人で優秀だけど、ひとつ抜けている。面白いキャラである。私は末広涼子は好きじゃないのだが、これでこの映画楽しめると確信した。さてこの作品、題名から見て「泥棒モノ」と勘違いしてはいけない。ネタばらしは出来ないのであるが、内田監督の作品は今までも、いかに観客を気持ちよく「騙す」か、というエンタメだった。今回も実に気持ちよく騙された。一番気持ち良かった。という事だけ言っておこう。おしまい。では、身も蓋もないので、この作品は演技という究極の「騙す」映画であるという事だけ言っておこう。実際の主役である堺雅人について。彼は今回実にむつかしい役をしている。演技する役を演技しながら、いつもより下手に見せる役である。香川照之も演技を演技する場面はあるのだが、それよりも他の場面で我々を騙してくれる。更に凄いのは、それよりも凄い演技者がいた、という事だ(笑)。(解説より)第58回カンヌ国際映画祭フランス作家協会賞、鉄道賞、最優秀ドイツ批評家賞、最優秀ヤング批評家賞の4冠に輝いた「運命じゃない人」や「アフタースクール」でトリッキーな構成を構築し、国内外で高い評価を受けた内田けんじ監督のコメディ。殺し屋が転倒事故により記憶を失う場に居合わせた売れない役者が、こっそり立場を入れ替えてしまうことから起こる騒動を描く。「アフタースクール」「ツレがうつになりまして。」の堺雅人が後先考えずに行動してしまう売れない役者を、「キサラギ」「劔岳/点の記」の香川照之が殺気みなぎらせる殺し屋だったものの記憶を失くし自分が役者だと思い込む男を演じる。他、「おくりびと」の広末涼子らが出演。in movix倉敷2012年9月28日★★★★☆
2012年10月24日
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9月に観た映画は全部で10本。いやあ、8月は日本にいなかったので、見過ぎました。二回に分けて紹介します。「アベンジャーズ」監督:ジョス・ウェドン脚本:ジョス・ウェドン出演ロバート・ダウニー・Jr.:Tony Stark / Iron Manクリス・エヴァンス:Steve Rogers / Captain Americaマーク・ラファロ:Bruce Banner / The Hulkクリス・ヘムズワース:Thorスカーレット・ヨハンソン:Natasha Romanoff / Black Widowジェレミー・レナー:Clint Barton / Hawkeyeトム・ヒドルストン:Lokiクラーク・グレッグ:Agent Phil Coulsonステラン・スカルスガルド:Selvigサミュエル・L・ジャクソン:Nick Fury四年に一度くらいのお祭りならば、こういう映画もいいんじゃないのと思う。ヒーローたちの集まるにしては、敵は弱すぎたのではないか。しかし、ソーたちの出現を名目に人間制御不可能のエネルギー源を使って武器を開発するなどの政府のやり口は、正に現代の問題であり、それにきちんと批判的視点を持っていたのにはホッとしました。人間ドラマが薄いのは、仕方ないのかな。スカーレット・ヨハンソンが美味しいところを全部もって行ってしまったのは、他の人たちには、かわいそうというしかない。in movix倉敷2012年9月2日★★★☆☆「プロメテウス」監督 リドリー・スコットノオミ・ラパス:Elizabeth Shawマイケル・ファスベンダー:Davidガイ・ピアース:Peter Weylandイドリス・エルバ:Janekローガン・マーシャル=グリーン:Charlie Hollowayシャーリーズ・セロン:Meredith Vickersケイト・ディッキー:Fordレイフ・スポール:Millburnショーン・ハリス:Fifieldベネディクト・ウォン:Ravelエミュ・エリオット:Chanceパトリック・ウィルソン:Shaw's Fatherいろいろいわくありげな、映画でした。半分ぐらい説明せずに作っているので、あとはいろいろ解釈して呉れ、と投げ出している様でした。例えそうなのだとしても、シャーリーズ・セロン様のあの終わらし方は納得いかない(←そんなことじゃない?)。冒頭の場面は「あれ」しか手段はなかったのか?デイビットのあの悪戯は何の意味があったのか?「小さな事から大事に至る」という字幕は、もっと粋な台詞にできなかったのか?結局あの一宇宙船で「あんな事まで」しようとしたのか?そもそも宇宙船が滅びた原因な内的なモノか外的なモノか?ショウ博士、ちよっと超人?ショウ博士の疑問に賛成、でもわかる事はないんだろうな。映画を見ていない事には(見ていても)分からん事ばかりが浮かんで来る作品でした。in movix倉敷2012年9月6日★★★☆☆「霧の中の風景」シネマ・クレールの追悼アンゲロプロス特集です。(88年ギリシャ・仏)監督 テオ・アンゲロプロス出演 タニア・パライオログウ、ミカリス・ゼーケ冒頭の長回しは、佇む12歳と5歳の姉弟の10センチぐらい目の前で、ドイツ行き夜行列車が過ぎさって行く。過ぎさって行くのは、世の中である。姉弟はやがて決心して、その汽車に乗る。父親を探して。ロードムービーであり、極めて象徴的な作品だった。「首を縄でつって…」と呟き続ける塑像の様な女性、巨大な何かの像の右手を軍のヘリコプターが持ち去って行く場面、演劇旅団の終焉、少女への試練と初恋の終わり、そして霧の中から現れた一本の父親の様な優しい木。思いがけず、現代劇だった。演劇旅団に見切りを付けた青年が、軍隊に入るのは何かの象徴なのだろうか。姉弟は最後は生きていたんだろうか。フイルムはかなり劣化していた。もうフイルムで観るのは、これが最後だったのだろう。inシネマクレール2012年9月7日★★★★☆「ムサン日記 白い犬」製作・脚本・監督・主演 パク・ジョンボム出演 チン・ヨンウク、カン・ウンジン、ベック脱北者青年スンチョルの日常。何時でも首が切られる時給4000w(280円)の先が見えない仕事、日曜礼拝で出会った女性への片想い等々、これ等は現代韓国青年の日常そのものだろう。ソウルの片隅で、友人と部屋をシェアしながら生きるスンチョルなの孤独を慰めるのは、拾って来た犬のベックだけというのが、あまりにも悲しい。だから、ベックが事故で死んだのを眺めるスンチョルは、多分自分の死体を眺めていたのである。inシネマクレール2012年9月10日★★★★☆「あなたへ」余白を楽しむ作品ですね。だから、最後の謎解きは少し余計だったかな?佐藤浩市があのままで終わるはずが無い、と私は思っていた。しかし、ハトの話はなかなかだった。やはり、健さんはひとりで生きていくのが似合っている。でも、大滝秀治の演技に撃たれた、と健さんは言っているらしいが、「テーマですよね」とベタ褒めしたらしいが、私にはいつもの大滝秀治にしか見えなかった。81歳の男が60代の男の佇まいを演じる。顔は80代だが、佇まいは60代である。そのギャップが不思議な作品だった。in TOHOシネマズ岡南2012年9月13日★★★☆☆
2012年10月23日
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7月に見た映画のまとめです。(一作品だけ八月にかかっている)期待しながら後一歩という作品が多かった。しかし、私の映画評は基本辛口です。「アメージングスパイダーマン」「秘密を持つものは、責任が伴うのよ」前回シリーズは「力を持つものは、責任が伴う」だったけど、叔父さんは今度は何も言わずに死んだので、この叔母さんの言葉がシリーズを貫くテーマになりそうです。前回は9.11を受けて「正義とは何か」「ヒーローとは何か」がずっと尾を引いていたが、今度はそれから開放されて、単純なヒーローものになりそうです。主人公、ヒロインがイケメン、美女で軽く楽しめる内容になるのかな。in TOHOシネマズ岡南2012年7月1日★★★☆☆「サニー」1986年、等身大のソウル女子高生の青春。韓国らしい独裁政権打倒デモと一緒に縄張り争い(←また古い!)のケンカをする場面などは、楽しい映画的な趣向。何ということもなくつるんで楽しかった日々は、おそらく全ての世界共通のティーン女性たちの世界だろう。まあ、男にはあんまりわからん世界ですな。少し羨ましいけど。inシネマクレール2012年7月8日★★★☆☆「グスコーブドリの伝記」イハートーブの森や田んぼ、そして村の風景や都市の様子を「創造」していて、楽しかった。原作からの改変は仕方ないが、それでもお気に入りの場面を変えていたり、削っていたりすると、がっかりしたのは否めない。お父さんはあんな風に家を出て欲しくなかった。人口雨を降らす幻想的な場面を入れて欲しかった。ネリとの再会場面を描いて欲しかった。火山を爆発させるのは、あくまでも「科学的」的に描いて欲しかった。結局は賢治の解釈の仕方になるのかな。ただ、今の時期にこれを描く意義は有る。監督・脚本・絵コンテ:杉井ギサブロー原作:宮沢賢治監修:天沢退二郎in movix倉敷2012年7月12日★★★☆☆「苦役列車」西村賢太の芥川賞作品の映画化。この作品に共感するかしないか、貫多が好きか嫌いか、で言えば、どちらかと共感しない作品である。貫多の置かれている環境が現代の派遣切りの環境そのものだとしても、それでその人物に同情しても仕方ない。もともと「私小説」の世界なのだ。あくまでも、自分に起きた事を克明に描いた小説なのである。映像が客観的に日雇い暮らしの生活を克明に描いたとしても、作品の意図は全く別の処にある。私は、ひたすら「康子ちゃん(前田敦子)早く逃げなよ」と、祈っていた。今迄前田敦子を一度も良いと思った事はないのだが、今回は「可愛い」と思った。それにしても、今回前田敦子ファンには衝撃的なシーンが盛りだくさんだ。なにしろ、(おそらく)始めてのキスシーンはあるわ、シースルーのヌード(?)はあるわ、彼女が屎尿の瓶を持って「処置」をする場面まであるのである。例によって、西村賢太はこの作品の悪口を言っているらしい。「映画化はその原作とは離れるモノだ」その原則を知ってか知らずか、わがままを書いて憚らない西村賢太という人物は、(結構な原作使用料も貰っているだろうに)つくづく嫌なやつではある。山下監督はこの様に「心底嫌なやつ」も、何か一つその人間でしか出来ないことはある。と、「描く」。本来であればこの主人公は、映画の中で直ぐに殺されてしまうか、主人公を裏切るか、或いは敵キャラとして憎まれるか、という役柄だ。森山未來は映画のそれを主人公としてしっかりと演じた。映像として残してみたいという監督の希望は分からないでも無いけど、やっぱり私は「嫌い」です。一年前の「マイバックページ」はその年のマイベストワンだった。つくづく映画の出来と映画の好みは違うモノだと思いしった。in TOHOシネマズ岡南2012年7月14日★★★☆☆「捜査官X」何故1917年の雲南省の田舎の村での出来事なのか。推理ものだけに、途中まで孫文が出て来るんじゃないかと訝っていました(^_^;)。それとは、真逆の方向で、やはり歴史的な経緯があった様だ。さすが、三千年の歴史を持つ大陸ではある。そして、まるで自然と一体と化した様な村。あの村にあの娘なら、私もずっと住みたくなります。金城武が全面に出ているけど、主演はドニー・イェンなんですよね。素晴らしい存在感、表情、そして武演!また、妻のタン・ウェイが素晴らしい。やはり中国のエンタメは、見事である。監督はピーター・チャン。出演ドニー・イェン:Liu Jin-xi金城武:Xu Bai-jiuタン・ウェイ:Ayuジミー・ウォング:The Masterクララ・ウェイ:The Master's wifeリー・シャオラン:Xu’s wifeinシネマクレール2012年7月16日★★★★☆「ルートアイリッシュ」wrong place,wrong time.(悪い時に、悪い処へ)友人なフランキーがイラクで戦死した。会社は「世界で一番危険な道路を行ってはいたが、たまたまだ。悪い時に悪い処へいただけだ」という。同じ民間兵として生きて来たファーガスは一つの映像を手に入れる。彼は真相の解明に、そして復讐にはまり込んでいく。真相に近い衝撃映像を手にいれても公表しようとは、しない。その多くが闇に葬られている事を彼は知っているからである。「民間兵は指令17号のお陰でなんのおとがめもなく帰国するんだ」まるで沖縄の地位協定の様にそういうことが日常茶飯事なのだろう。しかし、イラクでは10万人以上の民間人が死んでいる。ファーガスもその中で自分が「壊れて」いる事を半分自覚している。しかし、真相に近づいた時に彼のとった行動はー。2011年12月のオバマのイラク戦争集結宣言を受けて、ケン・ローチ監督は「真のイラク戦争終結は、すべての戦争請負業者たちが、あの地から去ってはじめてなされると我々は信じている」と言った。不都合な真実は、ここにも有る。inシネマクレール2012年7月16日★★★★☆「ヘルタースケルター」「お姉ちゃんは強いから綺麗になれたのよ」「違うわ。綺麗になると強くなるのよ」沢尻エリカは、ほぼ完璧だったと思う。この映画がもし(多分)当たらなかったのだとしたら、エスカレートしていくりりこの欲望を「ヒリヒリするような危機感」で演出できなかった、監督に原因があるだろう。「スノーホワイト」のシャリーズ・セロンも凄かったが、沢尻もこれでもか、という露出度で(いや、ひつこい位に)魅せてくれた。ただ、もし噂が本当なのだとしたら、この程度の熱演に薬を頼らざるを得なかった沢尻エリカという女優の力量はここまでという事になる。何処かで書いたが、彼女がブレイクする直前(今から7年ほど前)、岡山の場末の単館で「問題のない私たち」の舞台あいさつに立った時、まるで新人で未成年とは思えない位に堂々としていて、「私の夢は有名な女優になることじゃない。世界に通用するモデルになること」と言い切ったのが、忘れられない。映画の中で全てのファッション雑誌の表紙を飾っている彼女を見た時に「その夢は、こんな形で映像に残ったけど、君はその儚さを既に知ってしまった。そんなに早く知ってどうするというのか」と、心配にならざるを得なかった。映画の中に彼女の人生が透けて見える。「観たいモノを見せてあげる」彼女のこれからの人生が心配だ。(←つくづく美人は得だね〜)スタッフ監督:蜷川実花 原作:岡崎京子 脚本:金子ありさキャスト沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏、寺島進、哀川翔、窪塚洋介、桃井かおりin movix倉敷2012年7月21日★★★☆☆「おおかみこどもの雨と雪」狼男の子供を産んだらどうなるか。そういう仮定の元に、世界の片隅で「家族」を作ることを真面目に追求した作品。やっぱり子育て経験の無い私には、ただそれだけの作品になってしまった。悪くはない。疾走場面は細田監督のオハコではある。それは見ていて気持ち良い場面だった。全体的に「生と死」の描き方が緩いと思う。おおかみおとこの死の真相を隠したのは、全体のテーマをハッキリさせる上で当然だったとは思う。しかし、雨や花の生死を別けた理由がハッキリしない。あれをハッキリ描かなかったのは、都合の良いアニメだと言われても仕方ない。最近宮部みゆきの「英雄の書」を読んだ。小学五年の少女が「世界の滅亡」に対して敢然と立ち向かう話である。11歳というのは、それ程に「一人前」なのだろうか。重松清の小学五年も形は違いこそすれ、世界と敢然と立ち向かう。雨が独り立ちするのも認めてあげなくちゃいけないんだろうな。スタッフ監督・原作・脚本:細田守、脚本:奥寺佐渡子キャスト(声の出演)宮崎あおい、大沢たかお、染谷将太、麻生久美子、谷村美月、菅原文太in movix倉敷2012年7月21日★★★☆☆「裏切りのサーカス」MI6の二重スパイの存在を指摘した為に解雇された元同僚の女性は、スマイリーに云う。「昔は良かった」「昔だって、同じ戦争だった」「けれども、本当の戦争だった。誇りを持てた」ソ連という本当の敵も無くなった今なら、あの女性はなんというだろうか。1976年の東西冷戦の頃がまだ良かった、と言うだろうか。70年代のイギリスを隅々まで(多分)再現し、緊密なスパイ映画を作っていた。一つ70年代と違うのは、この映画のテーマそのものが、正義も国境も無くなった現代そのものの風景の様に見えるという事。そういう意味では、スパイたちは、「最先端」の国際情勢を生きているのかもしれない。監督:トーマス・アルフレッドソン脚本:ブリジット・オコナー脚本:ピーター・ストローハンinシネマクレール2012年7月23日★★★★☆「バットマン・ライジング」「人はなぜ堕ちると思う?」「……」「這い上がるためさ」三部作の冒頭で、ブルース・ウェイン(バットマン)の父親が言った言葉が、このシリーズのテーマだったことが最後になって解るという作品でした。9.11を経て、一度アメリカのヒーロー像は解体されなくてはならなかった。試行錯誤の末に辿り着いたのが、やはり単純に「ゴッサム・シティは守らなければならない」という結論なのだろう。どんなに悪人や狡い奴が居ようと構わない。守ろうと決めたものは、守らなくてはならない。何故か。副本部長の様に「人は変わり得る」からである。だから、ヒーローは、単純にヒーローでなければならない。伝説として生きなければならない。と、同時に、自由でなければならない。ロビンがバットマンに弟子入りするのは、そういう意味だし、「マスクは自分を守るためではない、愛する者を守るためだ」というのもそういう意味なのだろう。当たり前だが、遂にあれ程の混乱と囚人開放の中、ジョーカーは出てこなかった。八年の間に獄死したとみるべきだろう。in movix倉敷2012年8月6日★★★★☆
2012年09月24日
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6月に見た映画は全部で7作。全体的に力作ばかりだった。毎年6月、つまり春休みと夏休みの端境期に好い映画がやってくる。7日(木)inMOVIX倉敷『ミットナイト・イン・パリ』いっとき、ウッディ・アレン映画を寅さんの代わりにしようと決意した事があった。毎年毎回失恋して終わるので、癒されると思ったからである。しかし、試みは失敗に終わった。所詮ニューヨークのブルジョワ知識人と自分とでは住む世界が違うと、悟ったからである。そうは言っても、日本の某喜劇監督よりは、よっぽどこちらの方が好みではある。可笑しくて哀しくてチョット人生の機微を見せてくれる監督の作品をこれからも観て行きたい9日(土)inシネマクレール「別離」イラン映画ではあるが、戦争や貧困の話ではない。宗教がバックボーンにあるが、多分どの国でも共感し得る所がたくさんある。だから、ゴールデングローブ賞&アカデミー賞で外国映画賞を獲ったのだ。普遍的な「家族」の話である。 * 監督、脚本:アスガー・ファルハディミステリー的な要素もあるから、最後まで目が離せない。イラン独特の宗教生活と男性社会を折り込みながら、まさかの法廷劇に移っていく脚本は流石です。ふた組の家族は、一方は進歩的、一方は貧困層、対象的なようではあるが、相手を嫌いじゃないけど上手くいっていない様子が良く描けていた。そして、なんと全員少しづつ嘘をついている!全ては愛する人を守るために。全ては自分のエゴと弱さのために。前作「彼女が消えた浜辺」は見逃した。今度観てみようと思う。アルツハイマーのお爺ちゃんが喋らなくなったのは、もしかしたら「演技」だったのかもしれないね。11日(月)inシネマクレール「ポエトリー アグネスの詩」詩作教室の先生は「今、詩は死につつある」という。しかしながら、ソウル郊外でまだこのような詩の朗読会が盛況を博していること自体、日本と「水準」が違うということが分かる。66歳のミジャも、中学三年の孫も、娘アグネスが同級生に乱暴を受けて自殺してしまった母親も、みんな言葉に出来ない想いを抱えている。ミジャや詩作教室の生徒たちは、一様に詩作は「難しい」という。呟く様に俳句や短歌をものにする我々にはまた違う次元の「言葉」が彼の国にはあるのだろう。聖書は神との約束であり、それとの葛藤を前作「シークレット・サンシャイン」で描いた監督は、今度は「主体的」に紡ぐ詩によって、自分と世界との葛藤を、あらゆる美しさ、醜さ、移ろいゆくもの、確固としたものとの葛藤を描こうとしたのであろう。最後の場面をどう捉えるかは、観客に委ねられてはいるが、私はミジャの採った行動はひとつしか無いと思う。監督・脚本:イ・チャンドン出演ユン・ジョンヒ:Mijaイ・デヴィッド:Jongwookキム・ヒラ:M. Kangアン・ネサン:Kibum's fatherパク・ミョンシン:Heejin's mother14日(水)in TOHOシネマズ岡南「外事警察 その男に騙されるな」国際テロを未然に防ぐためには法を侵すぎりぎりまであらゆる手段を使い、時には民間人まで引きこむ、日本のCIAとも言われる諜報部隊・外事警察のベールに包まれた姿を描くサスペンス。麻生幾の『外事警察 CODE:ジャスミン』(NHK出版刊)を原案としている。監督はドラマ『ハゲタカ』の演出で注目された堀切園健太郎。徐昌義が「その男」住本に云う。「思い出した。その目を見た事がある。公安が人を騙す時の目だ。何が目的だ?国益か?」住本はすべての希望が潰えそうになっている状況で、韓国のI公安に行動原理を聞かれる。「俺は人と人との信頼を信じたいだけだ」。絶体絶命の場面で、果たしてそれを言うのか?とは思う。しかし、それはもしかして、彼の本音だったのかもしれない。民間人をもスパイに利用し、味方をも騙し、上司の国益のみに振り回される状況からをも逸脱し、手段を問わずに彼が守ろうとしたものは、その時点での最大のテロ行為を防ぐこと。多分この一点であり、それは、「国益」や「家族の絆」をも超えてだれをもが、信じる事の出来る「大義」である、と彼は人間を「信頼」しているのだろう。それは、「神の居ない国」日本で、あり得るべき男の生き方なのかもしれない。尾野真千子の久しぶりの映画出演ということで、期待したのだか、住本を相対化する役割しか持たされていず、ちょっと甘ちゃんで、残念だった。真木よう子は良かった。最後のセリフなんて、彼女の人生がよく現れていた。見事なのは、田中泯である。最後の最後で、住本の嘘を見破ったのは当然としても、そうではないかもしれない状況で、よく思いきれた。という様な役を存在感持って演じ切った。ちょっと見応えのあるサスペンスだった。「ハゲタカ」もこれ位の水準でやってくれたら良かったのに。渡部篤郎:住本健司キム・ガンウ:真木よう子:奥田果織尾野真千子:松沢陽菜田中泯:徐昌義イム・ヒョンジュン:北見敏之:金沢涼雅滝藤賢一:久野秀真渋川清彦:森永卓也山本浩司:大友遥人豊嶋花:奥田琴美イ・ギョンヨン:キム・ウンス:パク・ウォンサン:遠藤憲一:倉田俊貴余貴美子:村松久美石橋凌:有賀正太郎14日(水)in TOHOシネマズ岡南「道 白磁の人」林業技師として朝鮮半島に渡り、多くの荒れ果てた山林を生き返らせ今でも敬愛され続ける浅川巧の生涯を描いた江宮隆之の『白磁の人』(河出文庫)を映画化。監督は高橋伴明。この日、偶然にも二つ、日本映画でありながら韓国語が半分くらい飛び交う映画を観た。「外事警察」と本作である。どちらの映画にも「このチョッ○リが!」という言葉が出て来る。「外事警察」では、説明も無くカタカナで出て来たが、本作では「く○日本人」と訳していた。これは日本人の蔑称。豚足のチョッパルに人を意味するイがついてチ○ッパリ(豚足人)とのこと。これは足袋をはいて下駄とかわらじをはく日本人の足を豚足に例えてのことだそうだ。大体に於いて、日本人が韓国との摩擦を描く時、努めて公平に描こうとする。韓国映画では、そういう映画はなかなか作られない。そういう意味では、この前のオダギリジョーが主演した「マイウェイ」は貴重だった。日韓共に転けてしまったのは、もしかしてものすごく残念なことだったのかもしれない。この映画は、「マイウェイ」ほど金をかけて居ないので、なんとか採算が取れるのではないか。質は悪く無い。「自虐史観だ」と嫌韓派は言うかもしれない。しかし、努めて公平な事実のみ描いている。唯一オーバーなのは、威張り散らす軍人のメイキャップが少し歌舞伎調になっていることであるが、わかり易くする為に仕方なかったのだろう。巧の母親役の手塚理美は朝鮮人の葬式の列を見て「どうしてあんなに泣き叫ぶのかねえ、みっともない」と嫌悪感を示すが、息子の巧の葬式の時にふと列を離れて独り小屋で嗚咽する。その時朝鮮人のオモニがやぅてきて「泣けばいいんだよ」と背中をさするのである。この時、日本人も韓国人も「分かり合える」映画が出来たと、かんじた。主演 吉沢悠:ペ・スビン:酒井若菜:石垣佑磨:塩谷瞬:黒川智花:大杉漣:手塚理美:19日(火)inMOVIX倉敷「スノーホワイト」世界中で愛されているグリム童話「白雪姫」を大胆にアレンジした、白雪姫と女王が死闘を繰り広げるアドベンチャー。(ネタバレ全開です)シャーリーズ・セロン様とクリスティン・スチュワートじゃ最初から勝負にならないわな。スノーホワイトが城内に攻め込んだあと、いとも簡単に城の頂上に上がれたのは、ラヴェンナに勝算があったからで戦術的なものでした。「物語」が決まっているので、あんなことになっているけれども、どうしてスノーホワイトが勝てたのかは「意味わかんない」状態ですな。ともかく、最初から最後までセロン様の方が美しく、表現豊かで、存在感がありました。処でスノーホワイトはあの鏡をどうしたか。壊したならば、映像に残しているはず。残していないので、保存しているのだとみなければいけない( ̄ー ̄)。げに恐ろしきは、美への女の業。さて、映像はなかなか凝ったものでした。特に素晴らしいのは、森の小人たちが住んでいる妖精の森。「アバター」と「もののけ姫」にインスパイアされた映像が続きいろいろ愉しませてくれた。西洋人が「もののけ姫」を作るとこうなるのだな、ということもわかって面白い。森の神さまがスノーホワイトにお辞儀をするのである。西洋では、あくまで英雄は一人であり、神から宣託されないといけないのである。ラヴェンナにとっては「美」と「力」はイコールであった。でも何故一番でなければいけないのだろうか。ア・プリオリにそうきめつけているのが、脚本的に何か気になった。監督:ルパート・サンダーズ衣装デザイン:コリーン・アトウッドキャスト クリステン・スチュワート、シャーリーズ・セロン、クリス・ヘムズワース、サム・クラフリン25日(月)inシネマクレール「シェイム」一応設定を見ていたので、本当の「シェイムー恥ー」は見当がついていたし、ほぼ実際そうだった。何故、「ほぼ」なのかと言うと、シシーのほうはどうなのか、ということがなかなか判断できなかったのである。しかし、完全にブライアンだけの事情ということも分かる。まあ、男はこんなもんだと思う。ブライアンが映画的に映えるのは、ひとえに彼が「勝ち組」でかつ表が良い為に、金があっていくらでも金で買えるし、時にはめちゃくちゃモテるというだけなのである。彼のような心の事情が無くても、男は(時には)つまらない意地の為に、ト○コ通い(古い!)することは、良くあっただろう。普通のOLとの普通のデートがものすごくゆっくり撮ってかつ退屈なのは、意識してやっているのだろうが、本当に退屈だった。現代ニューヨークの風景を旨く切り取っている。そういう意味でのみ記憶に残る映画だった。監督 スティーヴ・マックィーン出演マイケル・ファスベンダー:Brandon Sullivanキャリー・マリガン:Sissy Sullivanジェームズ・バッジ・デール:David Fisherニコール・バハーリー:Marianne 「公式サイトより」男は、仕事以外のすべての時間を〈セッ○ス〉に注ぎ込んでいる。アダルト○イトを閲覧し、ビデオを収集し、行きずりの女性と、プロの女性と、その場限りのセ○クスを重ねている。彼の名はブランドン、上司に期待される有能な社員だが、現代社会が生んだ病、セッ○ス依存症を抱えている。それでも、一人で暮らす洒落たマンションで、毎日勤勉にセッ○スに集中していた時は、ある意味一貫性のある人生を送っていた。そんな確立されたシングルライフの均衡を破ったのは、突然転がり込んできた妹シシーの存在だ。人との心の繋がりを一切求めず、感情を排して生きてきたブランドン。他者の愛を渇望し、激情の塊となって生きるシシー。対極にある二人は、激しく衝突し、想いはすれ違い、それぞれの孤独をさらに色濃くさせていく。 妹への抑制の効かないイラ立ちをぶつけるかのように、無意味な快感だけを追い求めるブランドンを見続けるあなたは皮膚感覚で、得体のしれない不穏な空気を感じるだろう。(略)
2012年07月17日
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5月はいつの間にか13作観ていました。文字数をオーバーしたので、2回に分けます。「ブライズメイズ 史上最悪のウエディングプラン」監督 ポール・フェイグ出演 クリスティン・ウィグ「宇宙人ポール」、マーヤ・ルドルフ、ローズ・バーン「X-MENファーストゼネレーション」、クリス・オダウド、メリッサ・マッカーシー ブライズメイズ(花嫁介添人)というのは、結局ウエディングプランナーを友人達が引き受けるということなのね。 全米では、大笑いの渦だったみたいだが、日本では、一部分受けに終わるだろうと予測します。とりあえず、私の感想はそうです。アメリカン下ネタジョークは日本には馴染まないと思う。 「ハングオーバー」女性版か、はたまた裏「セックス・アンド・ザ・シティ」か、という宣伝文句は全く正しい。途中で帰ろうかと思った映画は久しぶりだった。後半は無理矢理感動、恋愛もので終わらしたので、何とか見終えることが出来た。女性の感想はどうなんだろう。 シネマ・クレール2012年5月1日『愛しの座敷わらし』監督 和泉聖治出演 水谷豊、安田成美、濱田龍臣、橋本愛、草笛光子盛岡の夏は美しいねえ、特に舞台になった遠野?久しぶりの金子成人の脚本、職人監督和泉聖治のコンビで、可もなく不可もない家族映画を見てきました。あまりにも簡単に家族が仲直りするけど、これも座敷わらしのおかげだと思えば、納得がいくわけで…。水谷豊と安田成美、この二人で曲がった心の子供が出来るはずがない。冒険の全くない作品でした。2012年5月1日「わが母の記」監督 原田眞人出演 役所広司、樹木希林、宮崎あおい、三国連太郎、 劇場 Movix倉敷昔「しろばんば」は愛読書だった。中学生の時、少年の成長記は一通り読んだ。下村湖人「次郎物語」山本有三「路傍の石」。これもその一つだった。一つ特徴的なのは、あまり教訓的では無いこと、お祖父さんの妾と一緒に土蔵に住む少年の日々が何とも哀愁を帯びていたということだった。「母親に捨てられた」そう少年の心に染み付いた想いは、読んでいる私の心に傷とは残らなかったと思う。この作品執筆時期には、まだ実の母親のホントの気持ちには、井上靖は気がついていないはずなのではあるが。井上靖の自伝小説で追いかけたのは、疾風怒涛の柔道に明け暮れた大学時代まで。それ以降の話は全く知らなかったので、とても新鮮に観る事が出来た。 樹木希林のゆっくりと呆けて行く様があまりにもリアルで、かつ、洪作の母親としての存在感が素晴らしい。これで彼女に主演女優賞が行かなければ、どれで取れるのか、と私は思う。介護施設も整っていないこの頃、母親の為に女中を頼み、別荘地に一年ほど避難出来る境遇は特別な環境であって、「普遍的な話」ではないのだろうか。そうではない。母親の呆け方や、家族の右往左往は、多かれ少なかれ階層と時代を越えて、とても共感出来るモノに仕上がっていた。家父長的な作家の家族の姿こそいまはないが、一つの家族の典型を作っていたと思う。 役所広司は職人的な仕事をこなし、作家の視点だけでは平坦になる為、娘の視点も、宮崎あおいは単なる語り部に終わらないリアル感を出していた。 誰でも「思い出す」部分がある力作だった。2012年5月6日「おとなのけんか」監督 ロマン・ポランスキー主演 ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、ジョン・C・ライリー原題は「CARNAGE」【名詞】【不可算名詞】大虐殺.用例a scene of carnage 修羅(しゆら)場.[イタリア語「死肉」の意]by研究社 新英和中辞典私は普通の犬も食わない「けんか」の意味かと思っていた。やはりそうじやない、「死肉」ですな。大ヒット舞台劇をポランスキー監督がオスカー女優男優を駆使して、飽きもさせぬ室内劇に仕上げた。CMを観た限りでは、二幕ものかな、と思っていたが、何と一幕もので一挙に見せてくれた。本来、一瞬にして攻守逆転、敵味方入れ替わるには、それなりの「間」が必要なはずだが、この四人には必要ない。偽善と傲慢、傍若無人とヒステリー、大人の様々な「嫌な所」をこれでもか、というくらい見せてくれる、いうなればそれだけの終わったらなんかスッキリするような作品です。ラストは大人のけんかに子供には出る必要はなかったという意味か。劇場 シネマクレール2012年5月7日『テルマエ・ロマエ』監督 武内英樹 出演 阿部寛、上戸彩、竹内力、北村一輝、市村正親、宍戸開、キムラ緑子、笹野高史 Movix倉敷平日なのに、なかなかの入りでした。始終笑いが起きていましたが、今のまでのコメディと違い、爆発的な笑いではなく、「ああ、昔のローマ人が現代のお風呂を見たら、こんな処が凄いと思うんだ」という「発見」の笑いなのです。昔の映画には、この様な「文明風刺」の笑いが多かったとおもうのですが、最近はとんと見ない。そういう意味で新鮮です。 基本的に原作通り。ローマの施設再現は少しちゃちぃ処はありましたが、まあ、コメディなんで許されるでしょう。上戸彩がかわゆく、少し色っぽく、大人になったんだなあと実感しました。いいコメディアンヌをしていたと思います。竹内力が「三途の川」と言った時にはドキリとしました。最後は、温泉に浸かれて良かったんじゃ無いでしょうか。2012年5月10日『宇宙兄弟』 とりあえず、JAXAの試験を受けてみたいなあと思っているひとにとっては、為になる映画だろうと思う。後、ほかに良いところは…、見っ、見つからない!監督 森義隆出演 小栗旬、岡田将生、麻生久美子、堤真一、濱田岳、新井浩文、井上芳雄 「幸せの教室」監督・製作・脚本・出演 トム・ハンクス出演 ジュリア・ロバーツ、学歴を理由にスーパーの店長をリストラされた主人公が、再就職の為に入学した学校でさまざまな人と出会い、世界を広げていく。という話らしいので、(色々参考になりそうで)ものすごく期待していたのだけど、 都合いい脚本とだらけた演出、意味不明のセリフ。トム・ハンクスって、こんなに才能無かったけ。 メリル・ストリープの次女 グレース・ガマーがトムのクラスメートとして出ていたが、全くのその他大勢。何の輝きも無かった(当たり前か)。 (注意 )私の映画評は基本辛口です。絶賛するのは、約1/5の割合です(多分)。悪口記事を読まされるのは不快だ、と思われる方は、遠慮無くコメント下さい。載せるのを控えるべきか、検討します。
2012年06月05日
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4月に観た作品は9作品でした。「ドライブ」監督 ニコラス・ウィンディング・レフンライアン・ゴズリング、キャリー・マリガン驚くほどの古典的な展開である。男(ライアン・ゴズリング)はおそらく兇状持ちの流れ者だ。ロスの街の片隅でひっそりと生きている。そこに少女の様な女性(キャリー・マリガン)とその息子に出会う。控えめなふれあい。親子に危機が訪れ、男も巻き込まれ、ヤクザ者を殺すために男は死地に赴く。映画には幾つも作られる「型」がある。「七人の侍」型もあれば、「シェーン」型もある。これはもちろん後者。型にはまっているからと言って、詰まらない作品ばかりじゃない。例えば「レオン」の様な傑作も作られる。日本も東映ヤクザ映画を作ったし、韓国も「ひまわり」や最近は「アジョシ」などの力作を作っている。この作品はカンヌ監督賞をとったという。作品の出来よりも、果たして今年の、そして将来記憶に残る作品になるのか、それだけが気になった。観客は公開二日目、日曜映画の日なのにガラガラだった。あとは口コミで増やすしかない。しかし、足りないモノがあり過ぎる。時代性はほとんど無い。目新しいのは、頭蓋骨が崩れる様な「暴力描写」と、男の特技が「運び屋」であることぐらい。女性の性格描写が弱い、というか理解出来ない。ほとんど何も主張せず、必要以上に長い間男の眼を見つめるだけだ。もっと女性の過去や生活描写をするべきである。相手のヤクザの暴力は酷いが、マフィアの裏金を盗むチンケな小者ではある。突然歌が流れ始める。まるで東映ヤクザ映画だ。男の名前は遂に一度も出てこなかった。なんか変に気取った映画だ。私は「記憶に残らない映画」だと思う。今日は偶然ライアン・ゴズリング主演の映画を二本立て続けに観た。時代的な記憶といえば、それだけであろう。2012年4月1日「スーパー・チューズデー~正義を売った日~」監督・製作・脚本・出演 ジョージ・クルーニー出演 ライアン・ゴズリング、フィリップ・シーモア・ホフマン民主党予備選、前半戦の山場オハイオ州選挙を描く。有力候補モリス知事をクルーニーが演じるが、映画作りでの彼の役割は、実際は主演のライアン・ゴズリングの選挙参謀の役割だ。つまり、監督・製作・共同脚本まで務めているのである。つくづく彼は筋金入りの社会派映画人なのだと思う。9.11が彼に「使命」を与えたのだろうか。「シリアナ」で中東石油利権を、「グッドナイト&グッドラック」でマスコミ赤狩りを、「マイレージ、マイライフ」で労働問題を扱い、大統領選挙の前に選挙の表と裏の顔を分かりやすく描いて見せる。それでいて、選挙に出ようという気はどうも無いらしい。ジョージ・クルーニーの出演映画を観ていれば、「アメリカの問題点」はきれいに整理出来るかもしれない(娯楽映画除く)。作品としては、選挙に勝つためはタカ派の有力議員を取り込むか(そのためには、彼は国務長官や副大統領の席を要求)、スタッフの引き抜きを巡っての心理選、マスコミ対応、女性問題トラブル等を遺漏なく盛り込んでいる。中盤まではよかったのであるが、いわゆる「正義を売る」場面を急ぎすぎたので無いかという気がする。何故彼女はあの選択をしたのか、どうして警察に知られる事なくああいう急展開が可能だったのか、私は納得出来ない。クルーニーさん、何処かで完成の為の「妥協」をしませんでした?2012年4月1日「白夜行」ソン・イェジン、コ・ス邦画を韓国でリメイクすると、傑作になった例を知っている(「ラブレター」?「パイラン」)ので、それなりに期待したのだが、結局邦画も韓国版も原作を超えられない、という例になってしまった。ソン・イェジンは24歳の設定にしては、肌が荒れすぎていて残念な所もあるが、流石に最もヒロインらしかった。濡れ場もこなし、繊細な表情も見事に演じ分けていた。コ・スは殺人を重ねているという顔をしていない。しかし、白夜を行く彼らの歴史と悲しみはやはり映画の枠では無理があるようだ「アーティスト」監督 ミシェル・アザナヴィシウス出演 ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョベタベタなロマンチック・ラブストーリーです。予告編にほとんど全てのストーリーが入っています。(すみません、ネタバレしました)何故サイレントが素晴らしいのか、果たしてこの映画で伝わるのだろうか。サイレントと云えども、字幕で基本的なセリフは知ることが出来る。観なければならないのは、セリフとセリフの間の言葉にならない心理なのである。ジョージが恋に落ちて行く様は、良くで来ていた。しかし、例えばこの前観た「結婚哲学」(1929)程に出演者は目でものを言わない。効果音や、映像効果、そして犬のアギーに大きく助けられてしまった。これがアカデミー賞五部門も獲る程の傑作なのか、私は大いに疑問だ。アギーは素晴らしい。犬に助演賞を渡すべきだった。サイレント映画のリスペクト作品としては、まあ楽しめた。音楽も素晴らしい。2012年4月12日「僕達急行 A列車で行こう」「僕たちにしか分からない世界があるさ」鉄道おたくの話である。(彼らは「マニア」と自称している)たまたま知り合った二人は、「車窓を見ながら音楽を聴く」派と「車両設備に関心がある」派とわかれているが、共通の趣味で実に「男らしい自然な」友達になる。恋と仕事と趣味が絡み合う淡々とした話だったけれど、とっても良かった。趣味が高じると、女性と上手く付き合えない、というのは、とっても共感する。趣味の中で「映画」は、多分女性との関係で言えば一番ハードルが低いと思うが、それでも調子に乗って語り出したことで、失敗したことが多くあった(遠い目)。セリフ回しが特別である。「…だわ」とか「…です」とか、小津映画の様に品行方正な人たちがきちんと演技している。それが独特な世界を作っている。コメディなんだけど、再見に耐える作品になっていると思う。故森田芳光監督の意図は成功している。「バトル・シップ」監督出演エイリアンが来ました。たまたま、日米含む合同演習をしていました。バリアに遮蔽され、日米の戦艦三隻が取り残されました。戦って勝ちました。とまあ、そんな単純な話になっていると思う。しかし、ホントはそんな単純な話では無いはずである。ついに彼らの本当の目的はわからなかった。彼らは機械を使って攻撃可能な相手には「破壊」を判断しているようだが、武器を持っていなかったり、相手の瞳を見て敵意が無ければ決して攻撃しようとしなかった。彼らは多分先発隊であって、通信手段を妨害したとしても、基本的にはやってくるだろう。エイリアンとの「交渉」はこれからなのである。勲章を貰って、嬉しがっている場合じゃない。スピーディーな展開、軍人らしい浅野忠信等、面白かった。まあ、それだけかな。2012年4月19日「ジョン・カーター」監督 アンドリュー・スタントン出演 テイラー・キッチュ、リン・コリンズ、 話の筋から言うと、現代の火星の姿を考えると、少なくとも人間が生きていける空気が無いから、カーターの「バルスーム」を救うという試みは失敗したのだと考えていいのだろうか。それとも大逆転があったのだろうか(地下に帝国を作っているとか)。とまあ、そんな事を想像させる荒唐無稽を絵に描いたよう(映画に描いたよう)な作品です。原作が100年前に書かれたモノ(エドガー・ライス・バローズ「火星のプリンセス」)だから、ある意味当然なのかもしれない。 よくまとめていると思う。突っ込み処は当然だとさえ割り切れば、まるで10巻のファンタジーSFを読み終えた様な気がします。 テイラー・キッチュは「バトルシップ」に続く大作主演作。マッチョな肉体に甘いマスク、しかし、大味。これからどうなるか。 2012年4月26日「ももへの手紙」原案・脚本・監督 沖浦啓之出演 加山加恋、優香、西田敏行 お父さんを事故でなくした母娘が三原から汐島行のフェリーに乗っていた。母親の故郷で暮らすためである。その時に妖怪三匹が母娘に何故かくっついて来た。ももには、その三匹が何故か見えるようになり…。 瀬戸内の島の風景とはまさにこの通り。あそこでも見た、此処でも見た、という様な景色がいっぱいだった。港や狭い路地、高台からの風景、何でもある雑貨屋、等々。きちんと取材していると思う。(実際の主なロケ地はしまなみ海道の下島や竹原の街並らしい) しかしながら、少し恣意的な脚本だったと思う。驚きはない。例えば気になったのは、ももは嵐の橋を渡った後どうしたのかなということ。ラストの盛り上がりを作る為のとってつけたエピソードでは無かっただろうか。 それなりに泣かせはする。少年少女の為のジュブナイルという感じだった。 2012年4月26日「ピナ・バウシュ 夢の教室」監督 アン・リンセルビナ・バウシュ、ベネディクト・ビリエ、ダンスの経験の無いティーンエイジャー達が、世界的な舞踏家ピナ・バウシュの指導の元、彼女の代表作「コンタクトホーフ」の舞台を作る。毎週土曜日、10ヶ月の特訓の成果は如何に。ピナは「感情を開放しなさい」という。若者たちは、ピュアに応える。踊りの意味はおそらく最後の最後になって、彼ら自身が掴んていくものた、という教え方みたいだ。映画を見ている私には、どういうストーリーなのか、ついに最後までちんぷんかんぷんだったけど、彼ら彼女達の踊りは、確かに次第と色が着いて行ったという感じだった。それでも、若者の「変化」がもっと劇的に現れるのかと期待していたのであるが、よくわからなかった。彼らは一様に「人見知りがなくなった」「積極的になった」と、発言しているのであるが、映像できちんと見せて欲しかった。若者たちの掘り下げ方が少し弱いかも。(←期待し過ぎていたか)2010年 独作品シネマ・クレール2012年4月23日
2012年05月16日
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3月8作品観ました。「トワイライトサーガ ブレイキング・ゾーン」エドワードとベラはごく普通の出会いをし、熱烈な恋をし、ごく普通に学生結婚をして、ごく普通にハネムーンベイビーに恵まれました。ただ一つ違っていたのは、ご主人はヴァンパイアだったのです。 前半はくどいくらいにごく普通のハネムーンシーンが描かれる(失恋したジェイコブが外に飛び出て数日カナダの山奥を飛び回ったというエピソードはまあ、ご愛嬌)。 要は、普通のヴァンパイアモノにはない「恋愛沙汰」がこの作品のウリで、シリーズものだから、仕方なく観てしまっている(←その割には、公開週に観てまっせ)。 ベラと赤ちゃんの命は次の完結編を待て、という風には終わらなかったところが、まあ、良心的。でも、完結編はもうちょっと「壮大に」終わって欲しいな。 「戦火の馬」ジョーイ、或いはフランソワは見た、戦争を。戦場の残酷さ、あっけなく斃れていく人間、戦争の名の下に行われる非人道的なこと、兄弟愛や敵味方通しの友情、信じるに足るモノ。人間を主人公にしない時のスピルバーグは安心して見ていられる。しかし、今回あまりインパクトは無かった。あまりにも予定調和。せめて、終わり方をもっと壮大なものにしてくれたら、高得点になったのだが。「メランコリア」監督 ラース・フォン・トリアー出演 キルスティン・ダンスト、シャルロット・ゲンズブール、キーファー・サザーランド 所謂、地球滅亡モノである。宗教色、SF色は全く無い。社会パニックモノでも無い。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」でヒロインが神に語りかけていた意味は、此処では既に心の中の語られない部分に仕舞われている。 ともかく、美しい。こんなにも美しい地球最後の日を世界は未だ観たことが無かっただろう。最初から最後まで映像を包み込むワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」、人間の小さな営みを無力化するかの様な壮大で、甘美で、厳粛な音楽。ドロドロとした人間社会の縮図(結婚式)を見せる第一部と、精神に変調をきたしていたジャスティンが何故か平静に戻って行きラストを迎える第二部の中に、多分監督の見せたいモノがあったのだろうか。しかし、私はこの「美しさ」に取り込まれてはいけない、と自戒する。 ジャスティン役のキルスティン・ダンストはこれでカンヌ主演女優賞を採ったという。輝ける花嫁、精神不安定な女、老婆の様な疲れた顔、ヴィーナスの様なハッとする様な裸身、様々な表情を観せて、流石トリアー監督といえるだろう。 シネマクレール2012年3月12日「ヒューゴの不思議な発明」監督 マーティン・スコセッシ出演 ベン・キングズレー、サシャ・ハロン・コーエン、エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、ジュード・ロウ 夢は実現出来る。だって、そこは文字通り「夢工場」だから。 そして、 世界はまるで機械のようだ。部品の一つ一つに要らないモノなんてない。人間もきっと何かの目的があるはずなんだ。…という様なテーマもあるかもしれないが、それを1930年代のパリの駅舎に限定して、限られた世界から限られた時代の目で、しかも少年の目で、時間と空間を、冒険と出会いの末に掴み取る。 とっても素敵な映画が作られた。 そして、1900年代に作られたジョルジュ・メリエスの「月世界旅行」を始めとする豊かなイマジネーションの「映画」の数々。あの夢工場は本当に素晴らしい。 子役も良い。ヒューゴを演じたエイサー・バターフィールドは純粋で知的な「少年」の理想像をそのまま体現した。クロエ・グレース・モレッツもお姉さん役をきちんと受けていたと思う。 トーホーシネマズ2012年3月14日「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」監督 ガイ・リッチー出演 ロバート・ダウニー・Jr.、ジュード・ロウ、ジャレッド・ハリスホームズは今回も、戦って、変装して、ヨーロッパの危機的状況を救おうとする。原作とはあまりにも大きく離れない程度に息もつかせない冒険活劇になっていて、適当に「ほとんど瞬間的な推理」も楽しめて春休み映画として合格でしょう。私的には、アイリーンが峰不二子みたいなキャラで好きだったのであるが、冒頭で潔く退場、今回のヒロインはパンチ不足だったと思う。ホームズのお兄ちゃんは良かった。遂にモリアーティ教授が全面的に登場。色々な悪役は居るけど、彼は全く「正当な」悪役であることがよく分かった。ホームズの決着の付け方も有り得るやり方で私の想像以上だったと思う。次回がもしあるとすれば、ホームズがこの様に「歪んだ」ルーツに関わることだと、私は「推理」するのであるが…。Movix 倉敷2012年3月20日「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」監督 フィリダ・ロイド出演 メリル・ストリープ、ジム・ブロードベント、アレキサンドラ・ローチ、ハリー・ロイド、オリヴィア・コールマン冒頭、メリル・ストリープとは思えない老女性が駅前の売店で牛乳を買う。アパートに戻り、夫と朝食を共にしながら牛乳が49シリングもした、高くなったと嘆く。鉄の首相も晩年はこんな庶民の生活を送っていたのかと思わせたところで、お付きの秘書が外に出ていた、と大騒ぎしている場面と、実は夫は幻影だったという場面で、この映画のテーマがさりげなく映し出される。作品は編年体では描かれず、何度も老女のサッチャーに戻って行く。女性の自立して、政治家になっていく姿と、夫との生活が並行して描かれる。英国人には良くわかる話だったかもしれないが、日本人の私には、ついに彼女の政治信条のよって立つところの「核」はわからなかった。私には、英国病を克服した首相というよりも、アメリカについで新自由主義の先鞭を付けた首相というイメージしかなかったのであるが、ついには、「新しい発見」はなかった。残念である。メリル・ストリープは流石である、と言っていいだろう。役になり切り、しかも彼女は彼女でしかない、という女優はこの時代に数えるぐらいしかいない。サッチャーが勇退した90年代の初め、初めて海外旅行をしたのが、英国とフランスだった。ロンドン郊外の家が200万円ほどで売りに出されていて、そうはいっても、日本程最低限の生活をするには金が掛からないことを実感する一方で、弱肉強食の民営化がどんどん進んで何かが崩れていく様も見えていた。「日本の常識は、世界の常識ではない」僅かな観光旅行で、そのことだけは持って帰ったと思う。今、ロンドンはどうなっているのであろう。筋の入った牛肉と、ジャガイモ、ミルクティー、甘すぎる山の様なお菓子、終わらない霧の世界、これらは変わらないかもしれないが、金の動きは何処までアメリカナイズされて居るか。それでもまだまだ日本程、アメリカナイズはされていないだろう。という様なことを思い出しただけの作品だった。Movix 倉敷2012年3月20日「無言歌」監督 王兵(ワン・ビン)出演 ルウ・イエ、リェン・レンジュン、シュー・ツェンツー 1956年 毛沢東は自由な批判を歓迎するといった。(百花総鳴) 1957年 彼らの弾圧が始まる。(反右派闘争) 1960年 この映画の舞台、ゴビ砂漠の収容所での彼らは三分の一がしにかけていた。農場とはとても思えない、砂漠と風と寒さ、そして餓え。一日250gの穀物。人々は草を食み、鼠をドロドロに煮て、餓えを凌ぐ。いや、しのげないで、吐いた僅かな食べもやを他の人間が啜る。眼や耳を覆いたい映像が続く。 原作の他に生存者の証言も元に作られたという。未だに中国本土の上映は叶わない。おそらく、ずっと叶わないだろう(なにしろ「大地の子」でさえ、まだ叶わないのだ)。 ほとんどドキュメンタリーの様に進んでいくが、愛する夫を尋ねて来た妻が7日前に死んだことを知り、亡骸を捜すエピソードに一番の時間を取る。無くなりかけた人間性を思い出させた話だったからだろう。 夫婦の情愛、友情、師弟愛。僅かにそれ等も映し出す。エンドロールの歌は、逃亡途中で力尽きた知識人が歌っていたのだろう。昔の知識人が左遷の中で家族を慕う歌である。最初は弱々しく、最後は情感持って歌い上げて、暗転した。 シネマクレール2012年3月26日「サラの鍵」監督 ジル・パケ=ブレネール出演 クリスティン・スコット・トーマス、メリュジーヌ・マヤンス、エイダン・クイン ユダヤ人をアウシュビッツに送ったのは、ドイツだけではなかった。1942年7月、パリの街中でユダヤ人一斉検挙が起こる。7万6千人ものユダヤ人が強制収容所に送られた。1995年、シラク大統領が初めてその事を明らかにした。 過去と現在を交互に描きながら、フランス人監督は、単なるアウシュビッツものにしないで、「我々だったら何が出来たのか」と問いかける。 反対に云えば、60年経ってもフランス人がアウシュビッツ問題に向かうには、ココまでのドラマ性を設定しないと、ダメだ、ということなのだろう。「あなたたちがいなくなれば、せいせいするわ」と侮蔑するアパートのおばさんのすぐ下の男性は「なにを言うんだ、次は我々だぞ」と叫ばす。フランス警察の容赦無いユダヤ狩りを描く一方で、子供達を助け出す若いフランス警察人も描く。 現代の女性記者ジュリアにも、高齢出産(45歳)で中絶するか否かの選択が迫る。サラの両親もサラたちを助ける事の出来ない「傷」があり、サラを助けた老夫婦も、もう一人の少女を助けれなかった「傷」があり、サラ自身も「サラの鍵」を巡る消え様も無い「傷」があった。ここの登場人物はみんな「後悔」?、或いは「悲しみ」を背負って生きている。 だからこそ、何となく前向きで終われたラストが清々しいのだろう。 シネマクレール2012年3月26日
2012年05月15日
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2月に観た映画は合計8本でした。「ベントハウス」ベン・ステイラー、エディ・マーフィー、高級ホテル並のサービスを行うマンハッタンの高級マンションの理事で、ウォール街の大物アーサーが詐欺罪で捕まった。マンションの従業員の年金は彼によって運営されていた。アーサーの隠し金を狙って、マンションのマネージャー達が立ち上がる。ベン・ステイラーがなんと終始知的で渋めの役をしていた。エディ・マーフィーがあんまり彼らしい役をしていなくて、どうかな、と思う。オキュパィ運動の気分が色濃く出た作品。「ドラゴンタトゥーの女」監督デヴィッド・フィンチャー出演 ルーニー・マーラ 、ダニエル・クレイグオリジナルは未見。少しテンポに追いつけなかった。ちょっと勘違いしていて、ヴァンゲル一族の中に「リスベット」の名前もあった様な気がして、引きづってしまった。それでも、一風変わったサスペンスとして、充分楽しめた。そうか、これが第一作なんだ。実は第二作のみオリジナルを観ている変わりモノの私です。リスベット役のルーニー・マーラが「ソーシャル・ネットワーク」でザッカーバーグを振る彼女だったことにビックリ。あの映画で私的には見所はあそこだけだった(これも変な見方)だけに何気に嬉しい。ビックリする様な能力と、孤独な精神を上手く同居させていたと思う。 『永遠の僕たち』監督 ガス・ヴァン・サント出演ヘンリー・ホッパー、ミア・ワシコウスカ、加瀬亮交通事故で両親を失い、臨死体験ののち特攻隊員の幽霊と話ができる様になった少年イーノック、脳腫瘍で余命三ヶ月と告げられている少女アナベル。ボーイ・ミーツ・ガール、そして余命モノ、それでも少しもダレる事がない。少年少女の初めての恋をこんなにもみずみずしく描かれている事に、改めて映画の可能性を感じた。二人の水鳥が啄む様なキスが可愛い。「アリス・イン・ワンダーランド」のミア・ワシコウスカがとってもいい。女性って、ホント年齢不詳だ。加瀬亮は頑張っていたけど、彼が絶対居ないとダメな作品じゃない。と、思うのは多分皮相的な見方なんだろうな。彼の存在があるから、二人は死を受け入れたのかもしれない。だとすれば、映画的には幽霊だけど、「限られた時間」を生きる事は、別の事で見出すべきだと云うメッセージなのかもしれない。『運命の子』監督 チェン・カイコー出演 グォ・ヨウ、ワン・シュエチー、ファン・ビンビン、チャン・フォンイーチェン・カイコー(陳凱歌)の久しぶりの歴史モノ。しかし「始皇帝暗殺」の様な圧倒的な迫力は既に無く、どちらかと言うと「北京ヴァイオリン」の様な父子の葛藤を描いたものであった。基は司馬遷「史記」の春秋時代に起きた「趙氏孤児」。ここから監督はおそらく二つの映画的インスピレーションを得たと思われる。一つは、100人の赤ん坊と自分の赤ん坊の命を秤にかけてどちらを選ぶか。一つは、復讐の為に育てた子どもは、復讐の為に使えるか。これにもう一つの要素が加わる。復讐の相手も子ども(趙氏の遺児)をそうとは知らず溺愛していて、子どもも相手を父上、育ての親を父さんと呼んでいる。この三角関係にどう決着を付けるか。決着の付け方は、偶然の要素が強く、もちろん普遍的なモノではない。監督の父子モノへの拘りは、いったい何があったのか、そちらの方が今回何故か気になって来た。「活きる」以降久しぶりにみたグォ・ヨウはやっぱり庶民の様が良く似合う。ファン・ビンビンを「孫文の義士団」、「マイウェイ」と立て続けに観た。どちらも役になり切っていて、正統美人女優として頭の中に入りました。「ウィンターズ・ボーン」監督 デブラ・グラニック出演 ジェニファー・ローレンス、ジョン・ホークス、ディル・ディッキー「フローズン・リバー」の様な、アメリカの隠れた貧困、ヒリヒリする様なサスペンスを期待していたのだが、肩すかし。サスペンスの中心はよくわからないアメリカ中西部ミズリー州の特殊な犯罪に集約されて、貧困をあぶり出すというところまで行っていない。少女が自力で希望を勝ち取るわけでは無く、おそらく叔父の作戦勝ちだったのかもしれないが、映画的には弱い。ジェニファー・ローレンスは体当たり演技だった。彼女はミスティーク役よりは、「あの日、欲望の大地で」での演技の方がすごかった。まだ二十歳になって居ないと思う。ちょっと楽しみな女優だ。「ものすごくうるさくて ありえないほど近い」監督 スティーブン・ダルトリー出演 トーマス・ホーン、トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、ジェフリー・ライト、マックス・フォン・シドー突然の愛する人との別れ。喪失感を、息子は克服しなければならない。自分の力で。アスベルガー症候群"未確定"の少年が様々な人と出会い、周りの愛情に気が付き、そして見事に"大人"になる。こんな映画が大震災の後の日本に出来てもいい。「タイム」監督 アンドリュー・ニコル出演 ジャスティン・ティンバーレイクアマンダ・セイフライド少数の人間を不死にする為に大多数の人間を殺すことを選んだ社会。オキュパイ(ウォール街占拠)運動がアメリカ中を席巻した2011年にこういう映画を作るハリウッドの底力ただし、矛盾を解決する方法が集中した富を全体にばら撒くというのは、やはりハリウッドの限界だろう。謎はふたつ残った。ウィルの父親は、バトルで死んだのでは無い、と言った時間監視局の言葉の意味は?この世界は、何故、どうやって作ったのか。仕組みがわかれば、それを変える方法も分かる。テーマとは別に、スタイリッシュなギャング映画として成功していると思う。「善き人」監督 ヴィセンテ・アモリン出演 ヴィゴ・モーテンセン、ジェイソン・アイザック、ジョディ・ウィッテカージョン・ハルダーは平凡な文学部教授である。1934年、学部長からプルーストの授業を辞める様に云われた時まだ「彼がフランス人だからですか」という文句を謂う元気はあった。ジョン・ハルダーは優しい家庭人である。認知症が進む母親の介護を出来るだけみようとし、子供への食事も作ってやる。教え子との不倫に陥った時も、家族とは円満に別れている。ジョン・ハルダーは普通のドイツ人である。第一次世界大戦に従軍、1937年段階でもまだぎこちない「ハイルヒトラー」しか出来ない。軍友でユダヤ人のモーリスとの友情は、たまたまヒトラーに小説が気に入られて昇進した後も切らさない。しかし、積極的に何かをするということはしない。そんな男が最後にユダヤ人捕虜収容所でみたもの。ドイツの軍服を着てふらふらと歩き出す。途中、誰にというわけで無く、「なぜ」というジェスチャーをする。何かを見る。これは彼の幻想なのか、と我々にも思わせる。「現実か…」ジョン・ハルダーは呟く。まるで波の様に「現実」が彼に押し寄せていた。アーリア人ということで安全圏内にいた彼は、何も、いや何かしようとしたが、何もしなかった。そのことの意味を、しっかりと描いてこの映画は終わる。英国・独逸合作。C.P.テイラーの劇の映画化らしい。信念や友情か、自らの命か、を問うテーマだけで無く、アーリア人の普通の生活を描くことで、ドイツファシズムの中の普通の人々の「罪」を問う作品になっていると思う。ここ数年、やっとそういう作品が出回りだした。日本の映画界も作るべき映画がありはしないか。シネマ・クレール2012年2月27日
2012年05月09日
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今月の労働組合機関紙に連載している映画評です。「冬の小鳥」去年公開された韓国映画ではこれが一番良かった。 韓国では特に70年代、貧しい家の子が養子として外国に行くことが多かった様だ。現在韓国ドラマや映画では、そうやって成人して帰韓して「実は…」という話が絶えない。この作品はフランスに養子に行ったウニー・ルコント監督の実体験を元に作られている。 しばらく父親の顔は出てこない。父親の自転車の前に座らされて風を切って走ったこと、父親がお酒を少し飲んで知ったばかりの歌謡曲を歌ったこと、よそ行きの服と靴を買って貰ったときの嬉しさ、田舎道でバスを緊急停車させて用を足したあと田んぼの泥濘で靴を汚してしまったこと。そんなことだけが9歳の少女の記憶に刻まれる。名優ソル・ギョングの寂しくすまなそうな貌が映るのはほんの一瞬である。 1975年、児童養護施設に預けられたジニ(キム・セロン)は父が必ず迎えに来ると信じ、頑なに周囲と馴染もうとせずに反発や反抗を繰返す。秋から春にかけて、それでも仲良しの11歳のオンニ(先輩各のお姉さん)はアメリカに養子に行った。一番年長のオンニは初恋が破れ、幼くないため家政婦として出て行った。終始、不機嫌な顔をしていたジニだが、それでもフランスの夫婦から養子にもらいたいと申し入れがある。彼女がフランスの空港に降り立つ顔はまさによそ行きのような顔であった。 少女のセリフはほとんど無い。しかし、気持ちは痛いほど伝わる。門から出て、一人で父親を探そうとしたり、少しづつ穴を掘って自らを生き埋めにしようと試みたり。養子に出る少女たちを送り出す「蛍の光」と「ふるさとの春」(韓国の童謡)の歌が三回歌われるのも効果的である。三人ともまったく同じ表情をして、同じタイミングで門を出て行くのである。 女性らしい細かな演出と女性らしくない大胆な編集が、非凡なものに感じた新人女流監督だった。 「グエムル漢江の怪物」のコ・アソンが年長のオンニを演じていて、流石だった。失恋して自殺を試みて、みんなの前で反省の弁を言っているときに、なにも知らない幼児たちの笑顔に連れられて泣き顔がだんだんがほころび顔になるのである。彼女たちがまだ本当に少女なんだな、と知らされる瞬間だった。 彼女たちは死んでしまった小鳥のように深く深く傷つく。そして、秘密の缶のケーキのように甘い甘い瞬間も過ごすのだ。(2009年韓国・フランス レンタル可能)
2012年04月14日
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キネマ旬報ベスト・テンが発表された。映画は人によって百通りの見方があるのは知っているが、いつもは教えられることが多い賞だけに今回は少し失望した。第85回キネマ旬報外国映画ベスト・テン⇒ 1,ゴーストライター 2,ソーシャル・ネットワーク 3,英国王のスピーチ 4,無言歌 5,ブラック・スワン 6,マネーボール 7,トゥルー・グリット 8,ヒア アフター 9,灼熱の魂 10,家族の庭(次)ウィンターズ・ボーン bit.ly/z0uoGY 第85回キネマ旬報ベスト・テン発表!⇒ 1.一枚のハガキ 2.大鹿村騒動記 3.冷たい熱帯魚 4.まほろ駅前多田便利軒 5.八日目の蝉 6.サウダーヂ 7.東京公園 8.モテキ 9.マイ・バック・ページ 10.探偵はBARにいる (次)監督失格 bit.ly/z0uoGY私の観た作品もたくさんあるが、順番が全然違う。特に邦画。「一枚のハガキ」は確かにいい映画だが、はたして一位に推すほどに完成度は高かったのか。監督に対する功労賞的な意味合いがなかったか。もしあったとするならば、作品自体に対する侮辱ではないのか。「大鹿村騒動記」にしても主演俳優に対する功労賞がなかったか。因みに私のベストテンは以下の通り。邦画マイ・バック・ページ 八日目の蝉 奇跡 エンディングノート Peace 死にゆく妻との旅路 モテキ 一命 一枚のハガキ 太平洋の奇跡 洋画BIUTIFULビューティフル エリックを探して ブラック・スワン 孫文の義士団 冬の小鳥 愛の勝利を ムッソリーニを愛した男 サンザシの樹の下で X-MEN:ファースト・ジェネレーション キック・アス ザ・タウン もう一つ作っているブログに九月以降観た作品の映画評アップしたいのだが、なかなか余裕が持てない。これらの作品がどの様に素晴らしく、何故上位にあるのか、とても書く時間がない。
2012年01月18日
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明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。ご無沙汰していました。生きています。年末、30日に無事韓国から帰って来ていたのですが、次の31日にどうしてもTOHOシネマズの一ヶ月フリーパスポートを取らないと、ポイントが失効してしまうために映画館に行ってしまいました。それから四日間は怒涛の映画の日々でした。パスポート以外の三本含めて11本見たといえば、家に帰ってPCを開ける間もなかったということも分っていただけますでしょうか。と、いうわけで、そのうちの一本に付いて紹介したいと思います。「真夜中のカーボーイ」去年の映画「マイ・バック・ページ」で、妻夫木演じる主人公が、この映画の感想を女子高生タレントから聞かれて、「最後がみっともない」みたいなことを言うと、彼女は反論し、「私はダスティンホフマンが怖い、怖いって云うところが好き、私はきちんと泣ける男の人が好き」と言うのである。この言葉は、この作品の最も重要な台詞で、私はこの半年ずっとこのことを考えて来た。やっと午前10時の映画祭で観ることが出来た。 果たして、ダスティンホフマンは、「怖い」と言ったときには泣いているわけではなかった。彼がボロボロ涙を流して泣いたのは死ぬ直前の失禁した事に気が着いた時だ。しかし、心の中では「怖い、怖い、死ぬのが怖い」と泣いていたに違いない。彼女は心の中で映画を観ていた。 「きちんと泣ける」とはどういうことだったのか。 ドングリさんから教えていただいたのであるが、ウィキペディアでは、アメリカンニューシネマについてこう書いている。「 ヴェトナム戦争への軍事的介入を目の当たりにすることで、国民の自国への信頼感は音を立てて崩れた。以来、懐疑的になった国民は、アメリカの内包していた暗い矛盾点(若者の無気力化・無軌道化、人種差別、ドラッグ、エスカレートしていく暴力性など)にも目を向けることになる。そして、それを招いた元凶は、政治の腐敗というところに帰結し、アメリカの各地で糾弾運動が巻き起こった。アメリカン・ニューシネマはこのような当時のアメリカの世相を投影していたと言われる。 ニューシネマと言われる作品は、反体制的な人物(若者であることが多い)が体制に敢然と闘いを挑む、もしくは刹那的な出来事に情熱を傾けるなどするのだが、最後には体制側に圧殺されるか、あるいは個人の無力さを思い知らされ、幕を閉じるものが多い。つまりアンチ・ヒーロー、アンチ・ハッピーエンドが一連の作品の特徴と言えるのだが、それは上記のような鬱屈した世相を反映していると同時に、映画だけでなく小説や演劇の世界でも流行していたサルトルの提唱する実存主義を理論的な背景とした「不条理」が根底にあるとも言われる。 」 この作品の中でも、これらの世相は描かれてはいるが、ジョンボイトとダスティンホフマンは、断じて反体制人物ではない。ただ、社会の矛盾の中で隅に追いやられた者だ。偽カーボーイのボイトは、 働くのか嫌で有閑マダムに売春をするためにテキサスからニューヨークに来たのだ。その試みは失敗し、マイアミに逃げる途中でホフマンがなくなるのである。ホフマンは、未来のボイトだった。その事に最後までボイトは気がついていない。全く気がついていないのである。恐ろしいほどに彼は最後まで泣かない。 本当に泣いているのは、終始ボイトだった。泣くべきは、自分の人生を後悔し、立ち直らなくてはならなかったのは、ボイトだったのだ。 女子高生は、あの時ボイトを責めていたのである 。そして、作品自体は、妻夫木の号泣で終わった。「マイ・バック・ページ」は反省のかけらもなかった偽反体制人物の松山ケンイチを責めている作品になっていたのだが、実際のモデルである川本三郎は、本を読むと全学連シンパであった自分を全く反省してはいない。川本三郎も原作の中では泣いていない。 さて、現代の私は果たして「きちんと泣いた」だろうか。涙をこらえてかっこつけて、そして大事なものを落として未来にむかわなかっさただろうか。現代の原発を推進した人たちは果たして「きちんと泣いた」だろうか。私は泣いていないように思う。 「きちんと泣ける」このことが、いかに難しいか、私はこれらも考えていかなければならない。
2012年01月04日
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