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2013.01.12
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カテゴリ: 読書案内
【田口ランディ/コンセント】
20130113

◆引きこもりをテーマにした社会派小説をねらうも、結果オカルト小説

私にはものすごい蔵書家の友人が二人ほどいて、ありがたいことに、おもしろそうな本を見繕ってせっせと貸してくれる。
一人は小説に限らず、流行の最先端をいくマンガはもとより、テレビ東京で深夜に放送した『ウルトラQ』の録画ビデオまで、私の変わった嗜好を存分に満たしてくれる良質なものばかりをだ。
もう一人もスゴイ。貸してくれる本という本の最終ページに蔵書印がちゃっかり押印されていて、一体どちらの資産家のお方だったかとびっくりしてしまう。しかも、ほとんどの本がハードカバーで、帯まで付いて、染み一つなく、まるで昨日買って来たばかりのような状態ではないか。まかり間違って私がお煎餅を持った指でページをめくろうものなら、おそらく訴訟問題になりかねないような按配だ。(←これはいくらか大げさかも)

さて『コンセント』。この小説は、後者の方からお借りした。
作品が発表された2000年には、各新聞、雑誌の書評欄などでずいぶん取り上げられていた。
田口ランディという名前はそれまで訊いたことがなかったが、イヤでも気になる存在となった。もともと田口ランディという人物は、ネット上で自身のコラムをメルマガとして幾多の人々に配信して来た、新しいタイプのライターである。その彼女が、引きこもりの兄をモデルにして書いたらしいのだ。(実際の兄も、すでに亡くなっている)

話はこうだ。主人公ユキの、十歳年上の兄が亡くなった。引きこもりで一人暮らしをしていた兄が、アパートの自室で死んでいるのが発見されたのだ。それはもう腐敗が酷く、「おびただしい量のどす黒い血液が、台所のPタイルの上にゼリーのように凝結していた。その、血のゼリーの中を蛆がぴたぴたと這っていた」という状態だった。
そのころから、ユキの精神の均衡が崩れてゆく。
ユキは、大学時代の心理学研究室の恩師であり、元恋人でもあった国貞にカウンセリングの依頼をする。

正に、ユキの女性器はコンセントだった。

とまぁ性を中心とした精神世界のお話のようだが、主人公の兄の幽霊などが出て来るあたりは、やはりオカルトかもしれない。
死体清掃会社の社員とか、沖縄のユタを研究している友人とか、脇を固めるキャラクターもなかなかおもしろい。
こういう作品は、どうも少女小説とかファンタジー小説の延長に思えるのだが、どうだろう?
私の頭の中に、さる漫画家の描く映像が浮かぶのだが、アニメ化しても良いほどの鮮やかな心象描写が印象に残る。
『月刊コミック電撃大王』などが連載したらどうだろうか? きっと支持されると思うのだが。

『コンセント』田口ランディ・著


☆次回(読書案内No.34)は沢木耕太郎の『無名』を予定しています。

~読書案内~   その他

■No. 1 取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ
複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!
■No. 3 雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!
■No. 4 完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する
青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ
■No. 6 しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる
■No. 7 白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す
■No. 8 ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている
■No. 9 女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説
■No.10 或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル
■No.11 東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず
■No.12 お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人
■No.13 レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?
■No.14 山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く
■No.15 佐藤春夫/この三つのもの 細君譲渡事件の真相が語られる
■No.16 角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く
■No.17 室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛
■No.18 織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話
■No.19 谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。
■No.20 車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか
■No.21 松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場
■No.22 川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!
■No.23 丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの
■No.24 宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!
■No.25 岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話
■No.26 柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?
■No.27 宮尾登美子/櫂 妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべし
■No.28 向田邦子/阿修羅のごとく いくつもの顔を持ち合わせているのが女なのだ
■No.29 樋口一葉/にごりえ 明治の娼妓のコイバナ、そして人情沙汰
■No.30 南木佳士/阿弥陀堂だより 信州の自然美に触れて生き返る
■No.31 東川篤哉/謎解きはディナーのあとで エンターテインメント性重視、ポップでライトなミステリー小説
■No.32 辻仁成/ピアニシモ 25歳ぐらいまでに読んでおきたい青春小説

◆番外篇.1 新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
◆番外篇.2 菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
◆番外篇.3 芥川龍之介と菊池寛 唯ぼんやりとした不安、ハナはこちらなり。





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最終更新日  2013.01.12 06:13:50
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