全40件 (40件中 1-40件目)
1
投票は電子化は投票の操作を容易にする。2016年のアメリカ大統領選挙でこの点が問題になったことは本ブログでも指摘した通りだ。そうした懸念に対する回答としてマイクロソフトは「エレクションガード」なる技術を発表した。これで選挙は安全・・・ということにはならない。 例えば、マイクロソフトが開発したOS、Windowsのセキュリティ機能をコントロールするソフトウェアに2種類のカギが存在していることが発見されたのは1998年のこと。ひとつはマイクロソフトが作業に使う合法的なカギのようだが、もうひとつが謎だと指摘されていた。 マイクロソフトの開発者が削除を忘れたカギのラベルも発見されている。ひとつにはKEY、もうひとつにはNSAKEYと書かれていた。素直に読めば、NSAのカギということになる。 Windows 2000の場合、3種類の鍵が見つかった。第1のカギはマイクロソフト用、第2のカギはアメリカ政府が使う「合法的な合い鍵」だとして、第3のカギは説明不能だと話題になっていた。(Duncan Campbell, "Development of Surveillance Technology and Risk of Abuse of Economic Information Part 4/4: Interception Capabilities 2000," April 1999) マイクロソフトに限らず、アメリカのインターネットやコンピュータに関連した有力企業はCIAやNSAといった情報機関と関係が深いのだが、エレクションガードの場合、資金が開発企業へ国防総省のDARPA(国防高等研究計画局)から流れ込んでいる。 DARPAは個人情報を集め、蓄積、そして分析するシステムを開発してきた。個人の家族や生年月日は勿論、学歴、銀行口座の内容、ATMの利用記録、投薬記録、運転免許証のデータ、航空券の購入記録、住宅ローンの支払い内容、電子メールに関する記録、インターネットでアクセスしたサイトに関する記録、クレジット・カードのデータ、IC乗車券を使っていれば電車での移動状況、ETCを使えば自動車の動き、GPSを搭載した携帯電話持ち歩いていれば個人の行動が監視される。スマート家電も監視の道具になる。そうした個人情報を集中管理するシステムが開発されている。 こうしたシステムの開発に戦争ビジネスが関係しているが、エレクションガードも同様。不特定多数、おそらくすべての人間を監視しようとしているDARPAが黒幕の投票システムによって民主主義が守られると期待することはできない。
2019.05.31
いわゆる「ロシアゲート」を特別検察官として捜査してきたロバート・マラーが5月29日、正式に辞任した。2016年の大統領選挙で敗北した民主党はその選挙にロシア政府が介入したと主張、有力メディアがその主張を宣伝、その宣伝につけられたタグが「ロシアゲート」だ。4月18日に公表されたマラーの報告書は「ロシアゲート」を裏づける証拠が存在しないことを認めている。 本ブログでは何度も書いてきたが、もし「ロシアゲート」が事実なら特別検察官を任命する必要はない。アメリカの電子情報機関NSAの技術部長を務め、通信傍受システムの開発を主導し、NSA史上最高の数学者にひとりと言われている内部告発者のウィリアム・ビニーが指摘しているように、NSAはすべての通信を傍受、保管している。もし疑惑が事実ならFBIは必要な証拠をすべて手にすることができた。 ビニーと同じ専門家で、「ロシアゲート」を調査したIBMの元プログラム・マネージャー、スキップ・フォルデンも内部の人間が行ったとしている。転送速度など技術的な分析からインターネットを通じたハッキングではないというのだ。 しかし、FBIも特別検察官もNSAに情報の提供を求めていないようで、通信傍受について最も精通している専門家のひとりであるビニーに話を聞いていない。 選挙キャンペーンの途中で民主党の幹部やヒラリー・クリントンの不正行為を明らかにする電子メールを2016年3月16日にウィキリークスが公表、その中に2015年5月26日の時点でヒラリー・クリントンを候補者にすると決めていたことを示唆する電子メールもあった。 この電子メールが明らかにされる前から次期大統領はクリントンに内定しているという話は流れていた。2015年6月にオーストリアで開かれたビルダーバーグ・グループの会合にジム・メッシナというヒラリー・クリントンの旧友が出席していたからだ。(ビルダーバーグ・グループについての話は割愛する) ウィキリークスの電子メール公表も「陰謀」だと宣伝されてきたのだが、その創設者であるジュリアン・アッサンジから事情聴取していない。それどころかロシア政府にハッキングされたとされるDNC(民主党全国委員会)のサーバーを調べてもいない。DNCがセキュリティー顧問として雇っているクラウドストライクなる会社から提供された情報を証拠だとしている。この会社はクリントンと関係が深い。 マラーが特別検察官に任命される2カ月前、2017年3月にアダム・シッフ下院議員が下院情報委員会で前年の大統領選挙にロシアが介入したとする声明を出し、「ロシアゲート」なる茶番劇の幕が上がった。 シッフが主張の根拠にしたのはイギリスの対外情報機関MI6(SIS)の元オフィサー、クリストファー・スティールが作成した報告書。根拠が薄弱だということはスティール自身も認めている代物だ。 スティールに調査を依頼したのはフュージョン、そのフュージョンを雇ったマーク・エリアス弁護士はヒラリー・クリントン陣営や民主党全国委員会の法律顧問を務めていた。 フュージョンを創設したひとりであるグレン・シンプソンによると、同社は2016年秋にネリー・オーなる人物にドナルド・トランプの調査と分析を依頼している。その夫であるブルース・オーは司法省の幹部で、このオーとシンプソンは2016年11月に会っている。その直後にブルースは司法省のポストを失い、フュージョンはスティールに調査を依頼することになる。 ランド・ポール上院議員によると「確認されていない偽物のスティール文書」を情報報告へ含めるように主張したのはCIA長官だったジョン・ブレナン。同議員はブレナンに宣誓証言させるように求めている。ブレナンがロシアゲートの仕掛け人だと主張する人は少なくない。 マラーの捜査が終わった段階で「ロシアゲート」の捜査が始まった経緯を捜査するためにコネチカット州の連邦検事、ジョン・ドゥラムが任命された。これまでドゥラムはFBI捜査官やボストン警察が犯罪組織を癒着している疑惑、CIAによる尋問テープの破壊行為などを調べたことで知られている。FBIの幹部、あるいは元幹部は動揺しているようだ。ドゥラムの捜査に対抗する意味でも「ドナルド・トランプ大統領への疑惑は残っている」と主張する必要がマラーにはあるのだろう。 投票結果の不正操作はジョージ・W・ブッシュが大統領に選ばれた2000年の選挙から問題になっていた。バタフライ型投票用紙などが原因で混乱、出口調査と公式発表との差が大きかったことにも疑惑の目が向けられた。 この選挙ではネオコンに担がれた共和党のブッシュと民主党のアル・ゴアが争っていたが、ゴアへの投票を減らすため、怪しげなブラック・リストや正体不明の「選挙監視員」による投票妨害が報告されている。集計の過程でゴアの得票が減っていると指摘する報道もあった。 その後、投票は電子化が進み、操作は容易になる。2016年の選挙の前にそうした指摘があった。例えばDESI(ダイボルド・エレクション・システムズ/現在の社名はプレミア・エレクション・ソリューションズ)の機械が実際の投票数と違う数字を集計結果として表示することを大学などの研究者が指摘していたほか、ハート・インターシビックという会社はミット・ロムニー家との関係が明らかにされた。問題になった機械に限らず、コンピュータ化が進めば投票結果の操作は容易だ。 ちなみに、ミット・ロムニーはボストン・コンサルティング・グループで働いていたことがあるが、その同僚のひとりがベンヤミン・ネタニヤフである。 選挙前からヒラリー・クリントンが軍需産業のロッキード・マーチンを後ろ盾とし、巨大金融資本と連携していることは知られていた。漏洩した彼女の電子メールは投機家のジョージ・ソロスが政策的な指示を彼女に出していることを明らかにしている。このソロスはビジネスで、ロスチャイルド金融帝国と結びついている。 クリントンはバラク・オバマと同じようにロシアとの関係を悪化させ、軍事的な緊張を高めようとしていた。ロシアや中国を潰さないとアメリカ中心の支配システムが崩壊することは不可避だとアメリカ支配層も考えていただろう。好戦派は軍事的に潰してしまえという立場。ところがロシアとの関係修復を主張するドナルド・トランプが大統領選挙で勝ってしまった。トランプが「ロシアゲート」で攻撃され、戦争へと引きずられてきた一因はここにある。
2019.05.30
エクアドル大使館の内部でイギリスの警察当局に逮捕されたジュリアン・アッサンジに対する司法手続がスウェーデンで再開された。6月3日にはスウェーデンの裁判所がアッサンジを審問する予定になっている。ところがアッサンジは健康状態が悪化してまともに会話できない状態で、病院で手当を受けていると報道されている。 未確認情報だが、すでにアッサンジは精神病の治療を施されていると伝えられていた。アメリカ空軍の退役中佐でNSAの仕事をしていたこともあるカレン・クワイトコウスキーが得た情報によると、そうした症状が出たのはイギリスとアメリカの当局者から尋問を受けた後だという。 アッサンジを尋問しているアメリカ人は国防総省、FBI、CIAに所属、BZ(3-キヌクリジニルベンジラート)という薬物が使用されているようだ。これを使うと幻覚を生じさせ、現実と幻覚を混乱させるほか、昏睡、物忘れなどを含む意識障害、あるいは運動失調症を引き起こすとされている。 言うまでもなく、この薬物を利用して情報を手に入れることはできない。そうした目的の薬物ではない。現在、CIAの長官を務めているジーナ・ハスペルは拷問を指揮してきた人物で、「血まみれジーナ」とも「薬物ジーナ」とも呼ばれている。BZはそのハスペルが拷問に使っていた薬物のひとつだともいう。 これが事実ならアッサンジは何らかの形で証言できない状態にさせられようとしているのかもしれない。アッサンジの起訴理由が認められるなら権力犯罪の追及は重罪だということになる。つまりジャーナリズムの否定であり、言論の自由の否定でもある。 そうした批判を回避するためなのか、アメリカではウィキリークスへ情報を提供したブラドレー・マニング(現在はチェルシー・マニングと名乗っている)を脅している。 マニングは2010年5月に逮捕されて懲役35年を言い渡されたが、2017年5月に釈放された。ところが今年(2019年)3月、アッサンジに対する弾圧を正当化する証言をマニングが拒否したことから裁判所は再収監を命令した。外へ出られたのは5月9日。 ところが、裁判所は再びマニングに証言を要求、それを拒否したことから刑務所へまた入れられた。服役中、60日までは毎日500ドル、それ以降は1000ドルの罰金も課せられる。アメリカの裁判システムはマニングに偽証を強要している。 安倍晋三政権に限らず、歴代の日本政府は日本とアメリカは共通の価値観を持っていると公言してきた。すでに大手の新聞、雑誌、放送局などは事実の追求を放棄、支配層の発表を垂れ流すだけになっているが、細々と事実を追い求め、発表することも難しくなるかもしれない。
2019.05.30
欧州議会の選挙が5月23日から24日にかけて実施された。議員の任期は5年で、その総数は751名。欧州委員会が作成した法案を修正したり否決する役割を負っている。EUの中核機関とは言えない。欧州委員会は28名の委員で構成されているが、運営するために約2万5000名の職員を抱えている。 EUは1993年のマーストリヒト条約発効に伴って誕生した。その前身はEC(欧州共同体)。このECについて堀田善衛はその「幹部たちのほとんどは旧貴族です。つまり、旧貴族の子弟たちが、今ではECをすべて取り仕切っているということになります。」(堀田善衛著『めぐりあいし人びと』集英社、1993年)と書いている。この構造はEUになってからも基本的に変化していない。 王族や貴族と呼ばれている集団は長年、政略結婚を繰り返してきた。そうした支配層の内部対立は自分たちを弱体化させ、庶民に権力を奪われることを彼らは熟知している。万国の支配者は団結の大切さを理解している。 そこで、支配者は被支配者である庶民の団結を妨害しようとしてきた。支配者と被支配者との戦いという構図をにならないように宗教、民族、人種、性別などで対立するように仕向けていく。支配者に矛先が向かないように庶民を操るわけだ。 そうした対立を作り上げる仕組みに教育やメディアも組み込まれている。そうした支配層の洗脳もあり、庶民は国境を越えた団結という意思は希薄だ。 ところで、EU内での役割が限られている欧州議会だが、議員が選挙で決められる。そのため、EUに住む人びとの意見を知ることはできる。今回はEU加盟国が奪われた主権を取り戻そうと主張する政党が支持率を上げたことが特徴だと言えるだろう。 各国が奪われた主権のひとつが通貨の発行権。これを奪われたことで独自の経済政策を打ち出すことが困難になった。通貨は支配システムを支える柱のひとつだ。 通貨の発行権を放棄することで国を破綻させたのがギリシャである。それまでも経済は厳しかったが、破綻するような状態ではなかった。破綻へ向かって転げ落ちる切っ掛けはドラクマからユーロへの通貨切り替え。2001年のことだ。 EUのルールに従うとこの通貨切り替えはできなかったはずだが、財政状況の悪さを隠し、実行された。その不正行為を主導したのは巨大金融機関のゴールドマン・サックス。財政状況の悪さを隠す手法をギリシャ政府に教え、債務を膨らませたのだ。 その手法とは、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などを使って国民に事態を隠しながら借金を急増させ、投機集団からカネを受け取る代償として公共部門の収入を差し出すということが行われていたという。借金漬けにした後、「格付け会社」がギリシャ国債の格付けを引き下げて混乱は始まった。 ギリシャを破綻させる作業が続いていたであろう2002年から05年にかけてゴールドマン・サックスの副会長を務めていたマリオ・ドラギは06年にイタリア銀行総裁、そして11年にはECB(欧州中央銀行)総裁に就任する。 その間、2004年に開催されたアテネ・オリンピックも財政悪化の一因になっている。ギリシャ国内で開発がブームになるのだが、中には建設が許可されていない場所で違法な融資によって開発しようとする業者も現れる。開発の中止が命令されていたケースもあった。このブームで業者と手を組んだ役人の中には賄賂を手にしたものが少なくなかったと言われている。 経済破綻したギリシャに対する政策はECB、IMF、そして欧州委員会、つまり欧米支配層で編成される「トロイカ」が決定することになった。トロイカの基本スタンスは危機の尻拭いを庶民に押しつけ、債権者、つまり欧米の巨大金融資本を助けるというもの。それが緊縮財政だ。 そうした理不尽な要求をギリシャ人は拒否する姿勢を示す。2015年1月に行われた総選挙でシリザ(急進左翼進歩連合)を勝たせた。シリザはアレクシス・チプラス政権を成立させる。7月の国民投票では61%以上がトロイカの要求を拒否した。 トロイカの要求に従うと年金や賃金がさらに減額され、社会保障の水準も低下し続け、失業者を増やして問題を深刻化させると考えたからだ。つまりギリシャを食い物にしようという欧米支配層の政策を止めることを人びとはチプラス政権に望んだのだが、そういう展開にはならなかった。 チプラス政権で当初、財務大臣を務めたヤニス・バルファキスによると、チプラス首相は国民投票で勝つと思っていなかった。そこでその結果を無視することにしたという。そしてバルファキスは辞任する。 バラク・オバマ政権は2015年3月にビクトリア・ヌランド国務次官補をギリシャへ派遣する。ヌランドはチプラス首相に対し、NATOの結束を乱したり、ドイツやトロイカに対して債務不履行を宣言するなと警告、さらにクーデターや暗殺を示唆したとも言われている。イギリスのサンデー・タイムズ紙は7月5日、軍も加わったネメシス(復讐の女神)という暗号名の秘密作戦が用意されていると伝えていた。チプラス政権は支持者の願いを無視、EUからの離脱とドラクマへの復帰を拒否した。 そのチプラス首相に対しては、ロシアのウラジミル・プーチン大統領がサンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで天然ガス輸送用のパイプライン、トルコ・ストリームの建設に絡んで50億ドルを前払いすると提案されているが、これを拒否した。 アメリカに従い、ロードス島とクレタ島の中間にあるカルパトス島にギリシャ軍はアメリカ軍と共同で基地を建設、アメリカ軍のF22戦闘機の拠点にしようと計画していると言われている。 その後、ギリシャは危機を脱したと報道されたが、予定通り進んでも債務の返済にはあと半世紀は必要だとされている。しかも支援の過程で経済は4分の1に縮小、若者や専門技術を持つ人びとを中心に約40万人のギリシャ人が国外へ移住、メンテナンスを放棄したことからインフラを含む700億ユーロ相当の資産が失われた。ギリシャ危機が終わったのではなく、ギリシャという国が終わったのだと言う人は少なくない。そしてチプラスはロシアへ接触する。 これはギリシャだけではなく、EU全体が抱えている問題である。ギリシャの経済破綻はアメリカをはじめとする西側の支配層に従うと何が待っているかを示すことにもなった。その記憶は消えない。その記憶のひとつの結果が今回の選挙に現れている。
2019.05.29
しかし、ここにきて情況が大きく変化している。ロシア、中国、韓国に朝鮮も加わったのだ。アメリカの恫喝は朝鮮に通用しなくなった。現在、アメリカ政府は中国を経済的に攻撃しているが、中国がその気になればアメリカ人の生活は成り立たない。レアアースの輸出禁止も噂になっている。 日本人の中には中国の技術水準を過小評価している人が少なくないが、日本企業の管理職の話によると、すでに若い世代では中国は日本より勝っている。 2011年2月、バラク・オバマ米大統領(当時)はアップルのスティーブン・ジョブスCEO(同)に対し、同社のiPhoneをアメリカで生産しないかともちかけたところ、アメリカへ戻ることはないと言われたという。中国では必要な組立工やエンジニアを集めることが容易で、生産規模を柔軟に変更でき、供給ラインが充実しているうえ、労働者の技術水準が高いことが理由だと説明されたようだ。 中国の技術力が向上していることはアングロ・サクソン系諸国の情報機関も認めている。2018年7月にカナダ東部のノバスコシアでアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの情報機関トップがカナダのジャスティン・トルドー首相と会談している。 そして中国のエレクトリニクス技術を安全保障上の脅威だとして取り引きを規制し始め、12月1日にバンクーバーの空港でカナダ当局が中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイ・テクノロジーズのCFO(最高財務責任者)である孟晩舟を逮捕した。 アメリカ政府の命令でグーグルはこのファーウェイとの契約履行を中断、半導体や通信機器会社のクアルコム、半導体素子メーカーのインテルなどもグーグルに同調しているようだ。重要な部品を入手できなくなる可能性があるのだが、中国側もこうしたことは想定していただろう。 今話題になっている5G(第5世代移動通信システム)の開発ではアメリカ系企業よりファーウェイは進んでいると言われている。ファーウェイをアメリカ政府が攻撃している大きな理由はここにあると考えている人は少なくない。それだけの技術力をすでに中国企業は持っているということだ。 今回、トランプ大統領は安倍晋三首相とイランについても話し合ったという。アメリカ政府はイランとの間で軍事的な緊張を高めているが、これはマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、そしてジョン・ボルトン国家安全保障補佐官が進めてきた。その背後にはイスラエルとサウジアラビアの現体制がある。 しかし、イランとの戦争はアメリカ軍の上層部も反対している。2003年のイラク侵略では約31万人が投入されたが、ドナルド・ラムズフェルド国防長官は10万人で十分だと主張、それに対してエリック・シンセキ陸軍参謀総長(当時)は占領して治安を保つためには80万人が必要だとしていた。結局、31万人では足りなかった。 そのイラクの人口は約2600万人であるのに対し、イランは8100万人。つまりイランを占領するためには240万人を動員しなければならないのだが、アメリカ軍は予備役を含めても214万人。つまり戦力が足りない。 しかも、イラクの場合は少数派のスンニ派が多数派のシーア派を支配する国だったが、イランは多数派のシーア派が実権を握っている国であり、同じシーア派の国になったイラクも黙ってはいないだろう。サウジアラビアのシーア派も潜在的に大きな力を持っている。 核攻撃で一気に壊滅させるという手段はあるが、今のロシア政府はそうしたことを容認しないだろう。核戦争になる可能性がある。そうならなくても戦乱は中東全域に広がり、石油の供給は難しくなる。世界はパニックだ。 日本がイランとアメリカの仲介をするという話もあるが、日本政府がアメリカ支配層の操り人形だということは広く知られている。しかもイラン外相はイランがアメリカと話し合いに入るという報道を否定している。朝鮮と同じようにイランもアメリカ政府を相手にしていない。 脅せば屈すると信じているアメリカ、イスラエル、サウジアラビアの好戦派の妄想に引きずられたアメリカは窮地に陥った。(了)
2019.05.28
ドナルド・トランプ米大統領がエアフォース・ワンで5月25日に羽田空港へ到着した。そこから駐米大使公邸へ向かい、トヨタ自動車の豊田章男社長やソフトバンク・グループの孫正義会長など日本の企業経営者らとの会合に出席したという。アメリカ軍の横田基地ではなく羽田空港だったということは、今回の来日目的が威圧ではないということだろう。 本ブログでは何度か書いたが、日本の大企業はアメリカ支配層の政策に動揺している。明治維新以来、日本で支配者面している人びとはイギリスやアメリカの支配層に従属することで自分の地位と富を確保してきた。アングロ・サクソンの支配者に逆らうことは自らの地位と富を失うことを意味している。 しかし、中国とのビジネスなしに企業を存続させられない日本企業の経営者としてはロシアや中国が進める計画に乗る必要がある。ロシアは2015年から毎年ウラジオストックでEEF(東方経済フォーラム)を開催、ビジネスを通じて各国との関係を強化してきた。日本の経済界もロシアや中国との関係を悪化させたくないはず。そうした動きと日本企業のスキャンダル発覚は無縁でないだろう。 中国が進めている一帯一路をロシアのシベリア横断鉄道などにつなぐほか、北極海を経由してヨーロッパへ向かう航路も計画されている。北極海ルートはロシアの沿岸を進むことになるが、マラッカ海峡、スエズ運河、パナマ運河に比べてアメリカによる妨害を受けにくく、注目されている。 また、ロシアは天然ガスを運ぶパイプラインの建設にも熱心で、2014年以降、ヨーロッパ向け以上に中国への輸送に力を入れている。 極東地域の鉄道やパイプラインを延長、朝鮮半島を南下させようという計画もある。この計画にとって最大のネックは朝鮮だった。ソ連の大統領だったミハイル・ゴルバチョフに見捨てられた朝鮮は1990年代に統一教会から多額の資金を受け取る関係になっている。つまり朝鮮はCIAの影響下に入った。 その朝鮮を説得するため、2011年夏にロシアのドミトリ・メドベージェフ首相がシベリアで朝鮮の最高指導者だった金正日、つまり金正恩の父親と会っている。 その際、メドベージェフ首相は金正日に対し、110億ドル近くあったソ連時代の負債の90%を棒引きにするだけでなく、鉱物資源の開発などに10億ドルを投資すると提案している。ロシア政府は鉄道を南下させ、鉄道と並行してパイプラインを建設しようとしていたはずだ。 ところが、2011年12月に金正日が急死してしまう。朝鮮の国営メディアによると、12月17日に列車で移動中に車内で急性心筋梗塞を起こしたというが、韓国の情報機関であるNIS(国家情報院)の元世勲院長(2009年~13年)は暗殺説を唱えていた。 その後、後継者の金正恩はミサイルの発射実験を行ったり核兵器の開発をアピール、少なくとも結果として、東アジアの軍事的な緊張を高めることになった。ロシアの計画を進めにくい情況ができあがったわけである。(つづく)
2019.05.28
シリアのイドリブ、シリア東部からイラク西部にかけての地域、ホルムズ海峡などで軍事的な緊張が高まっている。緊張の原因を作っているのはアメリカ。ソ連消滅後の1990年代からアメリカの有力メディアは軍事侵略の旗振り役を演じてきたことも事実だ。 2015年9月30日にシリア政府の要請で介入したロシア軍の攻撃でジハード傭兵の支配地域は急速に縮小してきたが、イドリブはまだ傭兵に支配されている。 イドリブの武装集団はアル・カイダ系のアル・ヌスラ、あるいはその集団と連携していると言われている。アメリカのCIAの影響下にあり、イギリスの特殊部隊SASやフランスの情報機関DGSEのメンバーが指揮しているとも報告されている。 それだけでなく、イドリブの武装集団はトルコともまだ関係が続いているようだ。最近もトルコから軍事物資がイドリブへ運び込まれたとする情報が流れた。ロシアやイランへ接近しているトルコがイドリブではロシアと対立する情況にある。 2011年3月に外部勢力が傭兵を使ってシリアへの侵略戦争を始めた当時、その主な拠点はトルコにあるアメリカ空軍のインシルリク基地。そこで戦闘員を訓練し、そこから物資をシリア国内へ運んでいた。 当時のような役割をトルコは果たしていないが、戦闘集団との関係は清算できていない。アメリカにとって、そこが付け目だろう。この難問をシリアやロシアは解けるだろうか? シリアやロシアがイドリブを制圧した場合、それまでそこを支配していたジハード傭兵は国境を越えてトルコへ流れ込む可能性がある。すでにアメリカの軍や情報機関は相当数の戦闘員(おそらく傭兵の幹部、各国の情報機関員や特殊部隊員)を避難させているが、「雇い止め」になった傭兵は厄介な問題だ。 当初から傭兵の主な供給国はサウジアラビアだが、それ以外にもさまざまな地域から集まっている。例えばチェチェン、新疆ウイグル自治区、フィリピンのミンダナオ島、ワッハーブ派への改宗工作が数十年にわたって続けられてきたインドネシア、中国西部の新疆ウイグル自治区など。ミャンマーのロヒンギャが住む地域へも戦闘員が潜り込んでいるとも言われている。そしてヨーロッパへ帰る戦闘員もいる。東南アジアから人が流れ込むルートを整備している日本も無関係ではない。
2019.05.27
イギリスではEUからの離脱を巡って混乱が続き、テレサ・メイ首相は辞任を表明した。この離脱、いわゆるBrexitは2016年6月に実施された国民投票で決まったのだ。 その背景には巨大資本の横暴があった。強者総取りの新自由主義に対する反発だ。その6年前、ギリシャの経済危機でEUが抱える根本的な問題に人びとが気づいたことも大きいだろう。 EUは決して民主的な仕組みではない。堀田善衛はEUの前身であるECについて「幹部たちのほとんどは旧貴族です。つまり、旧貴族の子弟たちが、今ではECをすべて取り仕切っているということになります」(堀田善衛著『めぐりあいし人びと』集英社、1993年)と書いている。1993年のマーストリヒト条約発効に伴って誕生したEUも基本的に同じだ。 新自由主義では富の独占を正当化するため、「トリクルダウン理論」なるものを主張してきた。富裕層を豊かにすれば富が非富裕層へ流れ落ちて国民全体が豊かになるというのだ。「搾取」に対抗するために誰かが考えたのだろうが、荒唐無稽なおとぎ話にすぎない。 しかし、国民投票では支配層の一部もEUからの離脱に賛成していたと言われている。理由は明確でないが、EUが定める人権などにかんする規定や対ロシア政策に反発していた可能性はある。 イギリスでEUからの離脱が議論される直前、そのEUは大きく揺れていた。ギリシャで財政危機が表面化したのだ。 ギリシャの財政危機を招いた大きな原因は第2次世界世界大戦や軍事クーデターによる国の破壊。年金制度や公務員の問題を宣伝していた有力メディアは真の原因に人びとが気づかないようにしたかったのだろう。いや、何も考えず、支配層に言われたことを垂れ流したのかもしれない。 そうした経済状態だったギリシャだが、それでも破綻が差し迫っていたわけではなかった。経済破綻に向かって暴走しはじめたの通貨をドラクマからユーロへ切り替えた2001年のことである。この切り替えでギリシャは経済的な主権を失ってしまった。 EUのルールに従うとこの通貨切り替えはできなかったはずなのだが、切り替えられた。そこには不正が存在している。財政状況の悪さを隠したのだ。 その作業で中心的な役割を果たしたのが巨大金融機関のゴールドマン・サックス。財政状況の悪さを隠す手法をギリシャ政府に教え、債務を膨らませたのだ。 その手法とは、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などを使って国民に事態を隠しながら借金を急増させ、投機集団からカネを受け取る代償として公共部門の収入を差し出すということが行われていたという。借金漬けにした後、「格付け会社」がギリシャ国債の格付けを引き下げて混乱は始まった。 ギリシャを破綻させる作業が続いていたであろう2002年から05年にかけてゴールドマン・サックスの副会長を務めていたマリオ・ドラギは06年にイタリア銀行総裁、そして11年にはECB(欧州中央銀行)総裁に就任する。 経済破綻したギリシャに対する政策はECB、IMF、そして欧州委員会で編成される「トロイカ」が決定することになった。トロイカの基本スタンスは危機の尻拭いを庶民に押しつけ、債権者、つまり欧米の巨大金融資本を助けるというもの。それが緊縮財政だ。 そうした理不尽な要求をギリシャ人は拒否する姿勢を示す。2015年1月に行われた総選挙でシリザを勝たせ、7月の国民投票では61%以上がトロイカの要求を拒否した。 トロイカの要求に従うと年金や賃金がさらに減額され、社会保障の水準も低下し続け、失業者を増やして問題を深刻化させると考えたからだ。選挙で勝ったシリザはアレクシス・チプラス政権を成立させる。 それに対し、アメリカのバラク・オバマ政権は2015年3月にネオコンのビクトリア・ヌランド国務次官補をギリシャへ派遣する。その前年の2月にアメリカ政府はウクライナでネオ・ナチを使ったクーデターを成功させたが、その際に現場で指揮していたのはヌランドだった。 この次官補はチプラス首相に対し、NATOの結束を乱したり、ドイツやトロイカに対して債務不履行を宣言するなと警告、さらにクーデターや暗殺を示唆したとも言われている。イギリスのサンデー・タイムズ紙は7月5日、軍も加わったネメシス(復讐の女神)という暗号名の秘密作戦が用意されていると伝えていた。 チプラス政権はアメリカやイスラエルとの間でEMA(東地中海同盟)を結び、2018年春からギリシャのラリサ空軍基地はアメリカ軍のUAV(無人機)、MQ-9リーパー(プレデターBとも呼ばれる)の拠点として運用されている。カルパトス島にアメリカ軍とギリシャ軍の基地を建設、アメリカ軍のF22戦闘機の拠点にしようという計画もあるようだ。この島はエーゲ海のデデカネス諸島に属し、ロードス島とクレタ島の中間にある。 また、ギリシャ政府は同国の東北部にあるアレクサンドルポリをイスラエルから天然ガスを運ぶためのハブ基地にしようと目論んでいる。地中海の東側、リビア、エジプト、パレスチナ(ガザ)、イスラエル、レバノン、シリア、トルコ、ギリシャを含む地域に天然ガス田があり、その利権をイスラエルとそのスポンサーが手に入れようとしている。この資源調査に加わったノーブル・エナジーのロビイストにはビル・クリントン元米大統領が含まれている。 ノーブル・エナジーは2010年、イスラエル北部で推定埋蔵量約4500億立方メートルの大規模ガス田を発見したと発表したが、USGS(アメリカ地質調査所)の推定によると、エジプトからギリシャにかけての海域には9兆8000億立方メートルの天然ガスと34億バーレルの原油が眠っている。 ギリシャ政府にはもうひとつの選択肢があった。ロシアのサンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムでチプラス首相はロシアのウラジミル・プーチン大統領と会談、天然ガス輸送用のパイプライン、トルコ・ストリームの建設に絡んで50億ドルを前払いすると提案されているのだ。このロシアからの提案をチプラス政権は拒否し、アメリカに従う道を選んだ。 新自由主義体制の支配者に対する国民の怒りはイギリスでも高まり、労働党の党員はニューレーバーを拒否する。2015年9月には本来の労働党と考え方が近いジェレミー・コービンが党首に選ばれた。 2007年11月から11年5月までIMFの専務理事を務めていたフランス人のドミニク・ストロス-カーンでさえ、新自由主義に批判的な発言をしている。 彼は2011年4月にネオコンの拠点と言われるブルッキングス研究所で講演し、失業や不平等は不安定の種をまき、市場経済を蝕むことになりかねないと主張、その不平等を弱め、より公正な機会や資源の分配を保証するべきだと語っている。 進歩的な税制と結びついた強い社会的なセーフティ・ネットが市場の主導する不平等を和らげることができ、健康や教育への投資は決定的だとも語っている。さらに、停滞する実質賃金などに関する団体交渉権も重要だとしていた。そうした認識がEUでは支配層の内部でも広がっていたことを暗示している。 そのストロス-カーンは講演の翌月、ニューヨークのホテルで逮捕された。レイプ容疑だったが、後に限りなく冤罪に近いことが判明するものの、その前に彼は専務理事を辞めさせられ、大統領候補への道は閉ざされていた。ストロス-カーンの後任専務理事は巨大資本の利益に奉仕するクリスティーヌ・ラガルドだ。 過去を振り返ると、イギリスの破綻はアメリカやイギリスを支配している勢力にとって悪いことではなさそうだ。そうした展開を避ける道をイギリス国民が選べるかどうかで未来は変わってくる。
2019.05.26
東京琉球館で6月14日(金曜日)の午後7時から「米中経済戦争と世界新秩序」について考えてみたいと思います。予約制とのことですので、興味のある方は事前に下記まで連絡してください。東京琉球館住所:東京都豊島区駒込2-17-8電話:03-5974-1333http://dotouch.cocolog-nifty.com/ アメリカやイギリスを中心とするアングロ・サクソン系の5カ国の情報機関、いわゆるファイブ・アイズ(FVEY)は衛星通信の始まった1970年代から電子的な情報活動に力を入れています。その中心がアメリカのNSAとイギリスのGCHQです。 このグループはイスラエルの8200部隊とも連携、通信の傍受をはじめとする監視システムを整備し、バックドア(裏口)を組み込んだシステムを世界規模で売ってきました。各国の政策を事前に知り、資金の流れを調べ、個人情報を集め、有力者の弱みを握ろうというわけです。言うまでもなく、インターネットやコンピュータの分野で大きな影響力を持っているアメリカ系企業はそうした情報機関と緊密な関係にあります。 こうした情報活動は1970年代から問題になっているのですが、その流れは止まりませんでした。個人的な経験ですが、日本ではマスコミだけでなく、リベラル派、左翼、右翼、市民活動家といった人びともその問題に触れたがりませんでした。一瞬、話題になっても表面的な話で終わり、すぐに忘れてしまうようです。唯一の例外が山川暁夫さんでした。 こうした電子的な情報活動はアメリカやイギリスの独擅場でしたが、中国の技術力が向上したことで情況は大きく変化しています。そこで2018年7月、ファイブ・アイズのトップたちがカナダ東部のノバスコシアに集まり、カナダのジャスティン・トルドー首相を交えて会談しています。これは本ブログでも書いてきました。 その会議から5カ月後、バンクーバーの空港でカナダ当局が中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイ・テクノロジーズのCFO(最高財務責任者)である孟晩舟が逮捕されます。 21世紀に入って再独立したロシアをアメリカの支配層は力尽くで潰そうしますが、それが裏目に出ます。EUに向いていたロシアの目は中国へ向けられ、中国はアメリカを警戒するようになり、ロシアと中国を接近させてしまったのです。さらにアメリカ軍の弱さとロシア軍の強さがわかり、ロシア政府の巧妙な政策でアメリカの影響力は急速に低下しはじめました。 ロシアと中国はすでに戦略的な同盟関係にありますが、そこに韓国や朝鮮も参加しそうです。アメリカに従属していると言われるEUもロシアとの関係を切ろうとはしていません。日本にも動揺があるようです。 そこでアメリカ支配層は恫喝で従わせようとしますが、その脅しが相手国の利益を大きく損なう事態を招いてしまいます。そしてアメリカの求心力はますます弱まることになりました。 アメリカの支配システムを支える重要な柱のひとつはドル体制ですが、そのドルが基軸通貨の地位から陥落しそうなこともアメリカの支配層を慌てさせているはずです。ドル体制を揺るがしている震源地もロシアと中国。ドナルド・トランプ政権は中国に的を絞ったようですが、中国とロシアが離反することはないでしょう。 中国とアメリカが衝突した背景にはアメリカが望む世界新秩序とロシアと中国を中心とするグループが目指している世界新秩序が見えます。世界は歴史の分岐点に立っていると言っても言い過ぎではないでしょう。6月14日にはそうしたことについて考えてみたいと思います。
2019.05.25
ジュリアン・アッサンジに対する追加起訴があった。アメリカ政府が秘密にしていた情報を違法に入手し、公表したことが「1917年のスパイ活動法」に違反するという主張で、すべてが有罪になると最大懲役175年になる。 アッサンジが創設者のひとりであるウィキリークスは内部告発を支援する活動を続けてきた。内部告発とは政府というより支配層の暗部を明るみに出す行為。ウィキリークスの場合、イラクやアフガニスタンにおける戦争の実態、2016年の大統領選挙における不正を明るみに出した民主党とヒラリー・クリントンの電子メールなどを公表している。 公表された情報には映像も含まれている。2010年4月に公開された映像はアメリカ軍の戦闘ヘリコプターから撮影されたもので、そのヘリコプターが非武装の人びとを銃撃しているようすが記録されてしる。犠牲者の中にはロイターの取材チームが含まれていた。 この映像を含むイラク戦争の実態を明らかにする情報をウィキリークスへ提供したのはブラドレー・マニング(現在はチェルシー・マニングと名乗っている)特技兵。2010年5月に逮捕された。その前にアメリカの当局がアッサンジを起訴していたことが明らかになっている。 そのアッサンジが2010年8月にスウェーデンで事件の容疑者になる。ベッドの上でのトラブルが原因で逮捕状が出され、その事実をスウェーデン警察がタブロイド紙にリーク、そのタブロイド紙がセンセーショナルに伝えた。 これが「レイプ事件」の始まりだが、その翌日には主任検事が令状を取り消してしまう。事件性はないと判断したのだが、その決定を検事局長が翻して捜査を再開を決めた。 しかし、アメリカの当局はすでにアッサンジを秘密裏に起訴している。アメリカ側から命令を受けなくても、その意向を忖度すれば拘束しなければならない。つまり、捜査の再開は政治的な判断だったと見られている。 そうした中、9月27日にアッサンジはスウェーデンを離れてロンドンへ向かう。スウェーデン当局は11月にアッサンジを国際手配するが、2017年に捜査を打ち切った。冤罪だと言うことを認めたのである。 イギリスの警察当局はスウェーデン当局の要請を受けてという形でアッサンジを逮捕しようとするのだが、ヨーロッパの場合、裁判所の発行した令状でなければ無効とされている。アッサンジのケースでは検察官が出したもの。つまり無効なのである。それをイギリスの裁判所は有効だと認めた。超法規的な決定だと言えるだろう。 言うまでもなく、これまでイギリスの警察がアッサンジを逮捕できなかったのはエクアドル大使館で保護されていたからである。エクアドルはアッサンジの亡命を認めていた。その決定を新大統領のレニン・モレノが取り消し、4月11日にアッサンジは大使館内で逮捕されたのである。 これまでもアメリカの支配システムは内部告発者を厳しく取り締まってきた。自分たちの悪事が露見することを極度に恐れている。悪事が知られても決定的な証拠がでなければ「謀略論だ」と言って逃げることも可能だが、それが出てきたら大変なことになる。証拠の大半は廃棄しているだろうが、完全に行うことは難しい。 内部告発を公にすることは本来、ジャーナリストの仕事である。そのジャーナリストが1970年代の後半から急速に減ってしまった。有力メディアのプロパガンダ機関化が徹底し、ジャーナリストの居場所がなくなってきたのだ。 有力メディアは巨大資本に飲み込まれ、支配層に選ばれた記者や編集者は支配システムへ組み込まれていく。BAPはその一例だ。記者や編集者に情報を提供、その条件として守秘義務を負わせるということもあるようだ。必然的に某情報機関の協力者になる。 飴と鞭で記者や編集者は取り込まれ、有力メディアは支配システムの宣伝部門になってしまった。そうした中、登場してきたのがウィキリークスだ。 アメリカの当局者はアッサンジをジャーナリストだと認めていないが、それは自分たちの影響下にないからだろう。誰でもそう名乗ればジャーナリストだ。支配層の承認はいらない。アメリカの支配システムは言論の自由を公然と否定するステージに入ったと言える。
2019.05.24
アメリカ国務省は5月21日、シリア政府軍が化学兵器を使った疑いがあるとする声明を出したと報道されている。これまでもアメリカをはじめとする西側の政府や有力メディアは繰り返しシリア政府軍側が化学兵器を使ったと主張してきたが、いずれも嘘だということが明らかにされてきた。 2018年4月にもそうした宣伝が展開されている。アメリカをはじめとする西側の政府や有力メディアは政府軍がドゥーマで4月7日に化学兵器を使用したと主張したのだ。その情報源はSCD(シリア市民防衛/通称白いヘルメット)やアル・カイダ系武装集団のジャイシュ・アル・イスラム。 シリア政府はロシア政府のアドバイスに従い、早い段階で化学兵器を廃棄しているのだが、それでも化学兵器を口実にしている。別のシナリオを思いつかなかったのだろうか? この武装集団はアル・カイダ系のアル・ヌスラと連携(タグの違い)、アメリカのCIAの影響下にある。イギリスの特殊部隊SASやフランスの情報機関DGSEのメンバーが指揮しているとも報告されている。SCDは武装勢力と一心同体だ。これらの集団は西側メディアの情報源でもある。つまり西側メディアは「テロリスト」、あるいはその雇い主の広報的な役割を果たしてきた。 国務省が声明を発表する8日前、OPCW(化学兵器禁止機関)の内部文書が明るみに出ている。OPCWで専門家の中心的な存在であるイラン・ヘンダーソン名義の文書で、化学物質が入っていた筒状の物体は航空機から投下されたのではなく、人の手で地面に置かれていたことを証拠は示していると指摘している。 つまりSCD、あるいはジャイシュ・アル・イスラムが化学兵器を使ったということだが、この事実をOPCWの上層部は公表された報告書の中で隠していたということ。OPCWの幹部はアメリカ支配層の意向を忖度したのだろうが、その情報隠しが明らかになったことを有力メディアは無視している。有力メディアも同じように忖度しているのだろう。 OPCWの調査チームが現地入りする直前、アメリカ、イギリス、フランス3カ国の軍隊はこの攻撃を口実にしてシリアを100機以上の巡航ミサイルで攻撃した。 攻撃側はシリア政府軍の基地を破壊するつもりだったのだろうが、ロシア国防省の説明によると、使われたミサイルのうち71機をシリア政府軍は撃墜したという。その1年前にも似たような攻撃があったが、その時よりも撃墜率は上がっている。 ミサイル攻撃は皮肉なことにアメリカ/NATO軍の弱さとロシアの防空システムの優秀さを証明することになり、アメリカの支配システムの弱体化を促進することになってしまった。 本ブログでは繰り返し書いてきたが、アメリカ政府が軍事侵攻を正当化する口実として化学兵器を言い始めたのは2012年8月のこと。シリアに対する直接的な直接的な軍事介入の「レッド・ライン」は生物化学兵器の使用だとバラク・オバマ大統領が宣言したのだ。 2012年12月になると、国務長官だったヒラリー・クリントンがシリアのバシャール・アル・アサド大統領は化学兵器を使う可能性があると語る。 そして2013年1月29日付けのデイリー・メール紙には、オバマ政権がシリアで化学兵器を使ってその責任をアサド政権に押しつける作戦をオバマ大統領が許可したという記述がイギリスの軍事関連企業ブリタム防衛の社内電子メールの中に書かれているとする記事が載った。(同紙のサイトからこの記事はすぐに削除された) その後、シリア政府軍が化学兵器を使ったとする話を西側の政府や有力メディアは何度か主張してきたが、いずれも嘘が明らかにされている。それでもアメリカ政府は同じシナリオを繰り返し、有力メディアはそれを垂れ流している。
2019.05.23
このブログは読者の方々に支えられています。世界情勢を分析し、情報を発信するため、カンパ/寄付をお願い申し上げます。 民主主義を実現するためには正確な情報を知ることが不可欠であり、「秘密保護」ではなく「情報公開」が必要です。残念ながらプロパガンダ機関化している有力メディアに情報を頼るわけにはいかないため、独自に調査し、分析しなければなりません。 支配層が人びとに知られたくない情報が内部告発という形で明らかにされることがあります。以前から内部告発者は弾圧されてきましたが、21世紀に入ってから処罰が厳しくなりました。 内部告発を支援する活動をしてきたウィキリークスのジュリアン・アッサンジは正規の法的手続を経ず、今年4月11日にエクアドル大使館でロンドン警視庁の捜査官によって逮捕されました。 ウィキリークスにアメリカ軍の不正行為を明らかにする情報を提供したブラドレー・マニング(現在はチェルシー・マニングと名乗っている)は2013年7月に懲役35年を言い渡されましたが、17年1月に外へ出ることができました。 しかし、アッサンジの逮捕が視野に入ったアメリカの司法システムはマニングに証言させようとします。アッサンジをアメリカへ移送し、有罪にする口実を作りたいのでしょうが、その証言をマニングは拒否、3月8日に再び収監されました。5月9日に再び刑務所を出ますが、再び司法当局は証言を要求、再び拒否したことから5月16日にまた収監されてしまいます。 マニングはイラクでアメリカ軍のヘリコプターが非武装の人びとを銃撃して死傷させる様子を撮影した映像を含むイラク戦争の実態などを内部告発、それをアッサンジたちは公表したのです。 アメリカを中心とする西側世界では現在、そうした告発を「犯罪」と見なし、それを有力メディアは受け入れているのです。かつて「大本営発表」を垂れ流していたことへの反省は微塵も感じられません。 アメリカ支配層はドルという基軸通貨を発行する特権を使って世界の経済を支配、監視システムを強化し、報道の統制で自分たちにとって都合の良い幻影を人びとに信じさせようとしています。そうした状況を打破するためにも事実を伝える必要があります。「櫻井ジャーナル」が活動を続けるため、支援をお願い申し上げます。櫻井 春彦振込先巣鴨信用金庫店番号:002(大塚支店)預金種目:普通口座番号:0002105口座名:櫻井春彦
2019.05.22
アメリカ支配層は1992年2月の段階で自国が唯一の超大国になったと認識、潜在的なライバルやアメリカへの完全な従属を拒否する国々を潰し、エネルギー資源を支配するという戦略を立てた。いわゆるウォルフォウィッツ・ドクトリンである。 彼らがもっとも警戒すべき潜在的なライバルと認識したのが東アジア、つまり中国。それが東アジア重視にほかならないのだが、EUも仲間とは見なされていない。アメリカを拠点とする巨大資本が世界を支配する仕組みとしてTPP(環太平洋連携協定)、TTIP(環大西洋貿易投資協定)、TiSA(新サービス貿易協定)が打ち出されたのはそのためだ。 この新秩序へ移行できた場合でもアメリカは通貨システムを支配し、情報を独占するつもりだろう。それができなければ新秩序で覇者として振る舞うことができない。このアメリカを中心とするアングロ・サクソン系の国々を除けば、新秩序では主権を失うということでもある。 アメリカが通信システムを支配、情報を独占し、監視体制を地球規模で築き上げようとしていることは1970年代から指摘されていた。程度の差はあるが、アメリカのコンピュータやインターネット関連の企業が情報機関の影響下にあることもその頃から知られている。 つまり、そうした企業から自立必要があると言われてきたのだが、アメリカ系企業への依存から脱することはできずにここまできた。中国も例外ではない。 アメリカ系企業の技術がアメリカ支配層の世界支配に使われていることも理解していただろうが、それほど切迫した問題だとは認識していなかったように見える。ソ連でもそうだったように、中国にも漠然としたアメリカ信仰が蔓延していた可能性もある。 しかし、今回のアメリカ政府による経済戦争はそうした認識が幻想にすぎないことを明確にした。5G(第5世代移動通信システム)の技術で中国はアメリカより勝っていると言われている。この5Gのネットワークは健康に悪い影響があると懸念されているが、このシステムへの移行は避けられそうにない。これもアメリカ側を焦らせているだろう。 ファーウェイ・テクノロジーズ(華為)が攻撃されている一因はここにあると言われているが、技術面でアメリカ系企業から自立する必要があるとは以前から言われていたこと。今回の一件が切っ掛けになり、そうした方向へ進み始めることも考えられる。
2019.05.21
グーグルはファーウェイ・テクノロジーズ(華為)との契約履行を中断すると伝えられている。 言うまでもなくファーウェイは中国の大手通信機器メーカーで、アメリカ政府が行っている対中国経済戦争の一環ということになるだろう。半導体や通信機器会社のクアルコム、半導体素子メーカーのインテルなどもグーグルに同調しているようだ。 こうした契約の履行を拒否する理由としてシリコンバレーの企業はファーウェイが中国政府のために情報を収集する活動をしているからだとしているが、アメリカのコンピュータやインターネットに関連した企業がCIAやNSAといったアメリアの情報機関と連携していることは公然の秘密だ。 エレクトロニクス技術が発展する前からアメリカの情報機関や治安機関、つまりCIA、NSA、FBIなどは監視システムを築いてきた。そのターゲットは戦争に反対する人びとで、FBIが1950年代から始めたCOINTELPRO、CIAが1967年から始めたMHケイアスは悪名高い。 1970年代に入ってエレクトロニクス技術が急速に進歩しはじめると監視技術も進歩していく。通信の傍受、トラップ・ドアを組み込んだシステムの販売による情報の収集、情報を分析するシステムの開発などが急速に進んでいくのだ。その中心には国防総省のDARPA(国防高等研究計画局)が存在する。 こうした動きは1970年代の半ばにアメリカ議会で調べられている。上院の「情報活動に関する政府の工作を調べる特別委員会」や下院の「情報特別委員会」だ。 上院の委員会はフランク・チャーチ議員が委員長を務めたことからチャーチ委員会と呼ばれ、下院の委員会はオーティス・パイク議員(当初はルシエン・ネジ議員だが、すぐに交代)が委員長に就任したことからパイク委員会と呼ばれ、両委員会とも情報機関の秘密工作について調査、その中に電子的な情報の収集システムも含まれていた。こうした調査が行われるまで、NSAの存在は一般に知られていなかった。 そうした調査を踏まえ、チャーチ上院議員は1975年8月にテレビでアメリカ政府の通信傍受能力はアメリカ国民に向けられる可能性があり、そうなると人々の隠れる場所は存在しないと警鐘を鳴らしている。 NSAにはパートナー機関が存在する。イギリスのGCHQだ。この2機関はUKUSAを編成、監視活動を規制する法律を回避するために協力し合ってきた。このGCHQも存在が秘密にされていた。最近の表現を使うと、NSAやGCHQの話は「都市伝説」であり、そうしたことを口にする人は「謀略史観」の持ち主だと見なされていたわけだ。 GCHQの存在を明らかにしたのはジャーナリストのダンカン・キャンベル。1976年のこと。キャンベルは1988年に地球規模の通信傍受システムECHELONが存在することを記事の中で指摘した。 現在、通話や電子メールなどすべてをUKUSAは傍受、記録していると言われている。電子メールへ自由にアクセスするためのツール、XKEYSCOREの存在を内部告発で明らかにしたのはエドワード・スノーデン。そのツールをNSAは日本の防衛省情報本部電波部へ渡したとされている。 その一方、不特定多数の情報を集め、蓄積、分析するシステムの開発も進む。1970年代に民間企業が開発したPROMISもそうしたもので、日本の検察も注目、1979年3月と80年3月に概説資料と研究報告の翻訳として『研究部資料』に関連文書が掲載されている。 1981年1月にアメリカではロナルド・レーガンが大統領に就任するが、この政権はPROMISを自分のものにするため、開発会社を倒産に追い込む。 この倒産は裁判になり、1988年2月にワシントン破産裁判所のジョージ・ベイソン判事は司法省が不正な手段を使って開発会社のINSLAWを破産させ、PROMISを横領したと認めた。 翌年11月にはワシントン連邦地裁のウィリアム・ブライアント判事も破産裁判所を支持する判決を言い渡し、下院の司法委員会も1992年9月に破産裁判所の結論を支持する内容の報告書を公表している。 その後、1997年8月に最高裁は司法省の言い分を認める判決を言い渡したが、そう判断する理由とされたのはイラン・コントラ事件で偽証して有罪になったロバート・マクファーレン、あるいは証券詐欺や銀行詐欺などでロサンゼルスの連邦地裁で有罪の評決を受けるアール・ブライアンという「信頼できる証人」の証言だ。 PROMISはアメリカとイスラエルの情報機関の手に渡り、それぞれがトラップ・ドアを組み込み、国際機関、各国の政府機関、あるいは金融機関などへ売られた。そうした機関へ集まった情報は自動的にアメリカへ流れることになる。 アメリカ、イギリス、イスラエルなどは通信の傍受、不特定多数の情報収集と分析を戦略として推進してきた。シリコンバレーの企業はその巨大監視システムの一部だ。インターネットはこうした勢力によって築かれたのである。 こうした監視システムは街中に張り巡らされたカメラ、IC乗車券、ETC、いわゆるスマート家電とつながる。さまざまな分野での電子化の裏では監視の目が光っている。このネットワークは学校や図書館にも忍び込み、思想を調査するだけでなく、「潜在的反逆者」のあぶり出しにも使われようとしている。住民基本台帳ネットワークやマイナンバー制度は個人情報を集中管理する基盤になると考えるべきだ。 通信分野で台頭してきた中国企業が自分たちと同じことを始める恐怖をアメリカ、イギリス、イスラエルなどは感じているだろう。情報は通貨と並ぶ支配システムの柱。ドル体制が揺らぎ、情報独占が崩れるということは、アメリカ帝国の終焉を意味している。
2019.05.21
イギリスを拠点とするアラビア語のメディア「新アラブ」によると、イラク西部のアル・アンバールにあるアメリカ軍の空軍基地で、同軍の司令官たちが地域の部族リーダーたちと会議を開いた。その際、アメリカ側は部族リーダーに対し、各部族へ武器を供給すると約束したという。 現在、イラクの政府や議会はアメリカ軍に対し、国外へ出て行くように求めはじめている。アメリカ政府、特にマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、そしてジョン・ボルトン国家安全保障補佐官はイランを攻撃する姿勢を見せているが、これに対する反発で反米感情が高まっている。部族を武装集団かするのは、そうしたイラク政府などの力を弱めるためだと考えるべきだろう。 アル・アンバールはシリア、ヨルダン、サウジアラビアに接する地域で、アメリカ軍は少なくともふたつの軍事基地を建設済み。今回、会議が開かれた基地はイギリス軍も使用しているとされている。 ここからシリアへ入った地域は油田地帯。アメリカ軍がクルドを使って占領、ここに近づくシリア政府軍やロシア軍の顧問を攻撃してきた。そのシリア側の地域へダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)の戦闘部隊が安全に移動できるようなルートをアメリカ軍は建設しようとしているのではないかとアル・アンバールの役人たちは疑っている。 またイラクでの報道によると、同国の治安を担っているハシド・アル・シャービ(人民動員軍)の現地司令官は、アメリカ軍がシリアとの国境周辺を偵察して入手した情報、あるいはハシド・アル・シャービから入手した情報をシリア東部にいるダーイッシュへ渡しているという。 シリアからイラクへかけての地域は一時期、ダーイッシュに支配されていた。彼らは2014年1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にモスルを制圧している。 モスル制圧の際にトヨタ製小型トラック「ハイラックス」の新車を連ねた「パレード」が行われ、その様子を撮影した写真が世界に伝えられてダーイッシュの存在は広く知られるようになった。 このパレードが行われたことで疑惑の目がアメリカの軍や情報機関に向けられる。本ブログでも繰り返し書いてきたが、偵察衛星、無人機、通信傍受、人間による情報活動などでアメリカの軍や情報機関は武装集団の動きを知っていたはずで、容易に攻撃できたからだ。 ダーイッシュが売り出されたわけだが、その直後に彼らは残虐性をアピール、西側では報復の雰囲気が作られ、アメリカ主導軍がシリアで勝手に空爆を始めた。その空爆でシリアのインフラは破壊され、市民が殺され、その一方で武装勢力へは「誤投下」で物資を提供することになった。ダーイッシュの占領地域は拡大、ダマスカスへ迫る。 ダーイッシュ的な集団の登場をアメリカ軍の情報機関DIAは2014年8月の時点で警告していた。ホワイトハウスに提出された報告書の中で、反シリア政府軍の主力はサラフ主義者やムスリム同胞団だと指摘、戦闘集団としてアル・ヌスラ(AQIと実態は同じだと指摘)の名前を挙げている。それだけでなく、東部シリア(ハサカやデリゾール)にサラフ主義者の支配国が作られる可能性があると警告していた。 この警告をした当時のDIAを指揮していたのはマイケル・フリン中将。ダーイッシュが売り出された2014年にホワイトハウスの内部で中東政策を巡って激しいやりとりがあったようで、この年の8月にフリンは解任され、退役を強いられる。 退役後の2015年8月にフリンはアル・ジャジーラの番組へ出演、その際に司会者からダーイッシュの出現を見通していたにもかかわらず阻止しなかった責任を問わる。 それに対し、フリンは自分たちの任務はできる限り正確な情報を提出することにあり、その情報に基づいて政策を決定するのは大統領の役目だと答えている。当時の大統領はバラク・オバマ。つまり、オバマ大統領の「穏健派支援」がダーイッシュを生み出し、勢力を拡大させたというわけだ。 DIAの警告通りにダーイッシュが出現、支配していた地域をアメリカ軍が占領している。2015年9月にロシア軍がシリア政府の要請で介入してからダーイッシュを含むジハード傭兵の支配地域が急速に縮小していくが、そこへシリア政府軍が入る前にアメリカ、イギリス、フランスなどが軍隊を入れたのだ。あからさまな侵略だ。 1991年12月にソ連が消滅して以来、こうした侵略をアメリカの好戦派は世界規模で続けている。ユーゴスラビアからはじまり、アフガニスタン、イラク、リビア、シリア、イラン等々。アフリカのサハラ砂漠以南でも傭兵を使った侵略を始めた。東南アジアでもそうした兆候が見られる。 侵略を正当化するためにアメリカの支配層はさまざまなタグを作った。例えば、民主化、人道、テロとの戦争、大量破壊兵器、R2P(保護する責任)等々。こうしたタグをもっともらしく見せるため、偽旗作戦も行われてきた。 アメリカによる支配を肯定したい人はこうしたタグを信じたいだろうが、アメリカ支配層のこうしたやり方に辟易している人が増えている。買収、恫喝、暗殺、クーデター、侵略戦争という従前通りの手法で世界を支配しようとしているが、通じなくなりつつある。中には全面核戦争も辞さないという勢力も存在するようだが、支配層の内部にもそれにはついて行けないという人が少なくないだろう。
2019.05.20
アメリカとイランとの間の軍事的な緊張が高まる中、ドナルド・トランプ米大統領がイランとの軍事衝突を避けるよう指示したと5月17日に伝えられた。 政府内で攻撃したがっているのはマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、そしてジョン・ボルトン国家安全保障補佐官。ボルトンには解任説も流れている。 アメリカ支配層の内部で対立が激しくなり、流れに変化が生じているようにも見えるが、アメリカに対する世界的な反発を抑えるため、「良いアメリカ人」と「悪いアメリカ人」という演出をしている可能性もある。 これまでも支配層の内部で意見の対立はあったが、2001年9月11日以降、ネオコンのような好戦派が主導権を握ってきた。バラク・オバマ政権で国務長官は好戦派のヒラリー・クリントンから慎重派のジョン・ケリーへ2013年1月に交代したが、その後、政権自体は好戦的な方向へ動いている。 トランプ大統領がシリアからアメリカ軍を撤退させるように命じた際にも反発は強く、有力メディアや議会だけでなく、閣内でもそうした意見が出ている。 例えば、国防長官だったジェームズ・マティスは撤退の命令書に署名したものの、辞任を表明した。その後、ペンス、ポンペオ、ボルトンたちの抵抗で撤兵は実現していない。 当初、オバマ政権はシリアもリビアと同じようにジハード傭兵で体制を揺さぶり、偽旗作戦でアメリカ/NATOが軍事介入して止めを刺すという方針だったのだろうが失敗した。2015年9月にシリア政府の要請でロシア軍が介入、ジハード傭兵の支配地域は急速に縮小、今でも残っている支配地域はイドリブだけだ。 ジハード傭兵の替わりに侵略の手先となったのはクルド系の武装組織。ユーフラテス川の北側を支配している。ユーフラテス川沿い、イラクに近い地域には油田地帯があるのだが、ここを占領しているのはアメリカ軍だ。この地域からイラクにかけての地域でアメリカの現地軍は兵力を増強、ジハード傭兵の訓練も進めている。 イランを攻撃する際、イラクは重要な拠点になるのだが、そのイラクでは政府も議会もイラン攻撃に自国が使われることを拒否、イラクにいる外国軍を追い出すための法律も準備されている。今年に入ってポンペオはイラクを訪問しているが、そうした情況が反映されている可能性がある。 イランに対する好戦的な姿勢はイスラエルやサウジアラビアに歓迎されているが、トルコやイラクはアメリカ離れを加速、EUも反発している。 イランを攻撃した場合、ホルムズ海峡が封鎖される可能性があり、その封鎖を解くためにアメリカが軍隊(少なくとも十数万人)と投入した場合、コントロール不能になり、中東全域が戦火で覆われることも想定できる。最悪の場合は世界大戦だ。 イギリスとフランスは1939年の終わりにバクー(当時はソ連領)の油田を占領する作戦を立てていた。パイク作戦だ。イラン、トルコ、シリアから飛び立った爆撃機で攻撃、ソ連を弱体化させようとしたのだが、その作戦がドイツとソ連を結びつけることになると懸念、実行されなかったともいう。ドイツがソ連に対する侵攻作戦(バルバロッサ作戦)を始めたのは1941年5月である。 ちなみに、そのドイツが降伏した直後、1945年5月にウィンストン・チャーチル英首相はJPS(合同作戦本部)に対してソ連へ軍事侵攻するための作戦を立案するように命令、その月の22日にはアンシンカブル作戦が提出されている。7月1日に米英軍数十師団とドイツの10師団が「第3次世界大戦」を始める想定になっていた。この作戦が実行されなかったのは、ソ連が日本と手を組む可能性があったからだとも言われている。 現在でもイラン、トルコ、シリアはロシアを攻撃する際、重要な拠点になる。爆撃機を発進させたりミサイルを発射するだけでなく、傭兵を送り込む拠点になる。イラン攻撃の先にロシア侵略をロシア政府は想定しているだろう。アメリカ軍によるイラン侵攻を黙認するほどウラジミル・プーチン大統領が「お人好し」だとは思えない。 空母エイブラハム・リンカーンや複数のB-52爆撃機をアメリカ軍は中東へ派遣しているようだが、戦争の破滅的な結果を理解している人物がアメリカ軍の上層部にも少なくないと言われている。 イラクを先制攻撃する際、統合参謀本部は大義のなさ(大量破壊兵器の話が嘘だということを知っていた)や作戦の無謀さから抵抗、開戦が約1年間延びたようだ。今回はその時より開戦に対する反対の声は強いだろう。 アメリカ支配層の内部で力関係に変化が生じている可能性がある。ロシアゲートをでっち上げたCIAやFBIを調べるためにコネチカット州の連邦検事、ジョン・ドゥラムが任命されたのもそうしたことが影響しているかもしれない。
2019.05.19
アメリカ、イギリス、フランスの3カ国は2018年4月14日にシリアを100機以上の巡航ミサイルで攻撃した。ロシア国防省の説明によると、そのうち71機をシリア政府軍は撃墜したという。 この攻撃を正当化するため、攻撃側は政府軍がドゥーマで4月7日に化学兵器を使用したと宣伝していた。その情報源はSCD(シリア市民防衛/通称白いヘルメット)やアル・カイダ系武装集団のジャイシュ・アル・イスラム。 この武装集団はCIAの影響下にあり、アル・カイダ系のアル・ヌスラと連携(タグの違い)、イギリスの特殊部隊SASやフランスの情報機関DGSEのメンバーが指揮しているとも報告されている。 ミサイル攻撃の直前、国連の専門機関であるWHO(世界保健機関)は化学兵器の使用で多くの犠牲者が出ているとする声明を出したが、その情報源はWHOがパートナーと呼ぶ団体。その中に含まれているMSFはSCDを訓練している。独自の調査をしたわけでなく、アル・カイダ系勢力の宣伝をそのまま主張しただけだ。攻撃はOPCW(化学兵器禁止機関)の調査チームが現地へ入る直前でもあった。 OPCWは今年、ドゥーマで化学兵器が使用されたが、武装勢力によるものだということを示す証拠は見つからなかったと報告している。 しかし、ここにきてOPCWで専門家の中心的な存在であるイラン・ヘンダーソン名義の文書が表に出てきた。この文書が本物であることは確認されている。その中で、化学物質が入っていた筒状の物体は航空機から投下されたのではなく、証拠は人の手で地面に置かれていたことを示唆している。つまり、SCD、あるいはジャイシュ・アル・イスラムが化学兵器を使ったことを示している。この事実をOPCWの上層部は隠したわけだ。 ドゥーマでシリア政府軍が化学兵器を使ったというアメリカ政府などの主張を西側の有力メディアは垂れ流していたが、当初から疑問の声が挙がっていた。そうした疑問は有力メディアの中からも出ている。 イギリスのインディペンデント紙が派遣していたロバート・フィスク特派員は攻撃があったとされる地域へ入り、治療に当たった医師らを取材、その際に患者は毒ガスではなく粉塵による呼吸困難が原因で担ぎ込まれたという説明を受けている。毒ガス攻撃があったことを示す痕跡はないという。 また、アメリカのケーブル・テレビ局OANの記者も現地を調査し、同じ内容の報告をしている。ロシア系のRTは西側の有力メディアが化学兵器の被害者だとして報道した子どもとその父親を取材、やはり化学兵器が使用されたという話を否定している。 化学兵器が使われたと宣伝する際にSCDが使った映像がでっち上げであることを否定できなかった西側の有力メディアだが、それでも政府軍による化学兵器の攻撃はあったと主張していた。 本ブログでは繰り返し書いてきたが、アメリカ政府が軍事侵攻を正当化する口実として化学兵器を言い始めたのは2012年8月のこと。シリアに対する直接的な直接的な軍事介入の「レッド・ライン」は生物化学兵器の使用だとバラク・オバマ大統領が宣言したのだ。 この頃、アメリカ軍の情報機関DIAからシリア情勢に関する報告書がホワイトハウスへ提出されている。その中にはシリアの反政府軍の主力がサラフ主義者やムスリム同胞団だと記述されていた。また武装組織としてアル・カイダ系武装集団のAQI(アル・ヌスラと実態は同じだと指摘されていた)の名前が挙げられていた。当時、オバマ大統領は反政府軍のうち「穏健派」を支援していると主張していたが、そうした集団は存在しないことを伝えていたのだ。 それだけでなく、DIAはオバマ政権の政策がシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフ主義者の支配地域を作ることになるとも警告していた。ダーイッシュの出現を見通していたわけだ。それはオバマ政権の作戦だったとも言える。 2012年12月になると、国務長官だったヒラリー・クリントンがシリアのバシャール・アル・アサド大統領は化学兵器を使う可能性があると語る。 そして2013年1月29日付けのデイリー・メール紙には、オバマ政権がシリアで化学兵器を使ってその責任をアサド政権に押しつける作戦をオバマ大統領が許可したという記述がイギリスの軍事関連企業ブリタム防衛の社内電子メールの中に書かれているとする記事が載った。(同紙のサイトからこの記事はすぐに削除された) その後、シリア政府軍が化学兵器を使ったとする話を西側の政府や有力メディアは何度か主張するが、本ブログでも指摘してきたように、いずれも嘘が明らかにされてきた。今回、明らかにされた文書もアメリカの影響下にある国際機関の実態を暴くものだと言えるだろう。
2019.05.18
ドナルド・トランプ政権が中国製品に対する関税率を高め、中国が報復するという展開になっている。中でもアメリカが激しく攻撃しているターゲットが中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイ(華為)だ。 アメリカの支配層はライバルだったソ連が1991年12月に消滅した直後、潜在的ライバルの中で最も警戒すべき相手として中国を想定、「東アジア重視」を打ち出した。 しかし、今の情況は当時と違う。ソ連の中核だったロシアが21世紀に入ってウラジミル・プーチンを中心として再独立に成功、2014年にウクライナでアメリカがネオ・ナチを使ったクーデターを実行した後はロシアと中国が戦略的な同盟関係を結んだ。 ターゲットを分断して個別撃破、あわよくばターゲット同士を戦わせるという手法をアングロ・サクソン系の国は使ってきたのだが、強引にロシアを再属国化しようとして強力なライバルを生み出してしまったのである。「ロシアとの関係修復」はロシアと中国の分断策なのかもしれないが、通用しないだろう。 アメリカは1970年代から製造業を国外へ出し、生産力は低下した。その象徴がかつて自動車産業の中心だったデトロイトの衰退だろう。1991年12月にアメリカの支配層は自国が「唯一の超大国」になったと考えたことが影響したのか、そうした傾向は強まったように見える。 2011年2月、こうした傾向を懸念したバラク・オバマ大統領(当時)はアップルのスティーブン・ジョブスCEO(同)に対して同社のiPhoneをアメリカで生産しないかともちかけたところ、アメリカへ戻ることはないと言われる。中国では必要な組立工やエンジニアを集めることが容易で、生産規模を柔軟に変更でき、供給ラインが充実しているうえ、労働者の技術水準が高いからだという。 労働者の技術水準が高い大きな理由は教育システムが整備されていることにある。アメリカや日本では考えない、つまり騙しやすい人間を作り出すため、政策的に公教育が破壊されてきた。その結果、生産現場で必要な中間レベルの技術を持つ人が育っていないのだ。かなり前から日本でも技術系学生のレベルが落ちているという声を聞く。 アメリカや日本が生産力を回復したいなら、AI化やロボット化を進めた工場を建設するしかない。つまり人間を必要としない工場だ。 それでもアメリカはエレクトロニクス技術は維持してきた。情報と通貨の支配はアメリカが世界を勢力下におくための柱だが、その根幹にはエレクトロニクス技術がある。 アメリカにはNSAという電子情報機関がある。あらゆる情報を電子的に集め、蓄積、分析している機関だ。勿論、CIAにもそうした能力はあるが、中心はNSA。アメリカのインターネット関連企業がそうした情報機関と密接に結びついていることは広く知られている。そもそもインターネットがアメリカによって構築されたものだ。 通信技術はアメリカ支配層が世界を支配する上で重要な要素なのだが、その分野で中国がアメリカを凌駕しはじめている。その象徴がファーウェイである。 NSAは法律の規制から逃れるため、イギリスのGCHQと連合してUKUSAを作り上げた。例えば、アメリカで自国民に対する監視活動が規制されても、GCHQに頼めば規制の対象外になる。 こうした電子情報機関の危険性は1970年代から指摘されていた。例えば、アメリカ上院のフランク・チャーチ議員は1975年8月、NBCのミート・ザ・プレスという番組に出演、アメリカ政府の通信傍受能力がアメリカ国民に向けられたなら、人々の隠れる場所は存在しないと警鐘を鳴らしている。 UKUSAは「UK」のGCHQと「USA」のNSAが中心だが、オーストラリアのASIO、カナダのCSE、ニュージーランドのGCSBも参加している。このシステムはアメリカとイギリスが他の3カ国を支配するためにも使われている。 この5カ国の情報機関の幹部が2018年7月にカナダ東部のノバスコシアに集まって会談した。会議にはアメリカのジーナ・ハスペルCIA長官、イギリスのマイケル・ヤンガーMI6長官も参加している。中国のエレクトリニクス技術を安全保障上の脅威だと考え、対応策を協議したようだ。 そして同年12月1日、バンクーバーの空港でカナダ当局はファーウェイのCFO(最高財務責任者)で同社の創業者である任正非の娘でもある孟晩舟を逮捕したのだ。
2019.05.17
いわゆるロシアゲートの第2幕目が始まった。CIA出身のウィリアム・バー司法長官がロシアゲートの捜査が始まった経緯を捜査するためにコネチカット州の連邦検事、ジョン・ドゥラムを任命したのだ。FBIゲートの捜査が始まったとも言える。 これまでドゥラムはFBI捜査官やボストン警察が犯罪組織を癒着している疑惑、CIAによる尋問テープの破壊行為などを調べたことで知られている。 ロバート・マラー特別検察官のロシアゲートに関する捜査ではジュリアン・アッサンジのような重要人物から事情を聞くこともなく、ハッキングされたという民主党のサーバーも調べていない。結局、新しい証拠を見つけられなかった。疑惑に根拠があるかのような主張もしているが、事実の裏付けがない。つまり「お告げ」や「御筆先」の類いにすぎないのだ。 マラーが特別検察官に任命されたこと事実がロシアゲート事件がでっち上げであることを示しているという指摘があった。 アメリカの電子情報機関NSAの不正を内部告発したことでも知られているウィリアム・ビニーによると、ロシアゲートが事実なら、そのすべての通信をNSAは傍受、記録している。そのNSAから傍受記録を取り寄せるだけで決着が付いてしまい、特別検察官を任命する必要はないということだ。 ビニーは1970年から2001年にかけてNSAに所属、技術部門の幹部として通信傍受システムの開発を主導、NSA史上最高の数学者にひとりと言われている人物。退職後、NSAが使っている憲法に違反した監視プログラムを告発、2007年にはFBIから家宅捜索を受けているが、重要文書を持ち出さなかったので刑務所へは入れられなかったという。 ロシアゲートの核心部分は、ウィキリークスが公表したヒラリー・クリントンやDNC(民主党全国委員会)の電子メール。いくつもの不正行為がそこには含まれていた。例えば、クリントンは3万2000件近い電子メールを消去、つまり証拠を消している。全てのメールはNSAが記録しているので容易に調べられるのだが、そうした捜査をFBIは行っていない。DNCのサーバーも調べていない。 ビニーを含む専門家たちはそうした電子メールがハッキングで盗まれたという主張を否定する。そうした専門家のひとりでロシアゲートを調査したIBMの元プログラム・マネージャー、スキップ・フォルデンも内部の人間が行ったとしている。転送速度など技術的な分析からインターネットを通じたハッキングではないというのだ。 ロシアゲートが作り話であることは特別検察官も理解していただろう。この疑惑を事実だとするためにはトランプの周辺にいる人物を別件で逮捕、司法取引でロシアゲートに関して偽証させるしかなかったと推測する人もいる。ところがその工作に失敗したようだ。 ロシアゲートの開幕を告げたのはアダム・シッフ下院議員。2017年3月に下院情報委員会で、前年の大統領選挙にロシアが介入したとする声明を出したのだ。何も証拠は示さなかったものの、その年の5月にマラーが特別検察官に任命されたのである。 シッフの主張は元MI6(イギリスの対外情報機関)オフィサーのクリストファー・スティールが作成した報告書だが、根拠薄弱だということはスティール自身も認めている。 スティールに調査を依頼したのはフュージョンなる会社、そのフュージョンを雇ったマーク・エリアス弁護士はヒラリー・クリントン陣営や民主党全国委員会の法律顧問を務めていた。 フュージョンを創設したひとりであるグレン・シンプソンによると、同社は2016年秋にネリー・オーなる人物にドナルド・トランプの調査と分析を依頼している。その夫であるブルース・オーは司法省の幹部で、このオーとシンプソンは2016年11月に会っていた。その直後にブルースは司法省のポストを失い、フュージョンはスティールに調査を依頼することになる。 ロシアゲートという作り話の中心にいるのは、2013年3月から17年1月までCIA長官を務めたジョン・ブレナンだと見られている。このブレナン、2010年8月から17年1月まで国家情報長官を務めたジェームズ・クラッパー、あるいはFBIの幹部たちが今後、捜査の対象になる。FBIにはバラク・オバマ政権のためにドナルド・トランプ陣営をスパイしていた疑惑も浮上している。 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されてからアメリカ支配層の内部で主導権を握ったネオコンだが、ここにきて権力バランスに変化が生じている可能性もある。
2019.05.17
アメリカ政府は世界規模で軍事的な緊張を高めようとしている。すでにユーゴスラビアを爆撃、アフガニスタンやイランへ軍事侵攻、リビアやシリアへジハード傭兵を送り込んで国を破壊してきたが、思惑通りには進んでいないようだ。ロシアや中国は勿論、アメリカの占領下にあるイラク、アメリカの属国と化しているEUも言いなりにならなくなっている。それでもアメリカ政府はシリアでの軍事作戦を続け、イランを侵略する姿勢を見せているが、アメリカ軍の内部からも無理だという声が聞こえてくる。 イラク、シリア、そしてイランを殲滅する計画をネオコンが立てたのは遅くとも1991年のこと。ネオコンはイスラエルを作り上げた勢力と近い関係にあり、シオニストの一派。サウジアラビアもその勢力によって作られた。今、イランを中東支配の上で目障りな存在だと考えているのはこのイスラエルとサウジアラビア。この2カ国の意向に従ってアメリカ政府は動いていると言われている。 しかし、現在のアメリカ大統領、ドナルド・トランプをネオコンと呼ぶことはできない。トランプもシオニストを後ろ盾にしているが、ネオコンとは違う派閥だと考えられるからだ。 2016年の大統領選挙でトランプへ最も多額の寄付をしたのはシェルドン・アデルソン。アメリカのラス・ベガスとペンシルベニア、東南アジアのマカオとシンガボールでカジノを経営、日本にもカジノを作らせるように要求していた人物で、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と親しい。 ネタニヤフは1976年にマサチューセッツ工科大学を卒業してからボストン・コンサルティング・グループで働いているが、このときの同僚の中にミット・ロムニーがいた。 1978年にネタニヤフはイスラエルへ戻るが、82年へ外交官としてアメリカへ渡る。その時に親しくなったひとりがフレッド・トランプ、つまりドナルド・トランプの父親だ。 一方、ネタニヤフの父親、ベンシオン・ネタニヤフは1940年にアメリカへ渡り、「修正主義シオニズム」の祖であるウラジミル・ジャボチンスキーの秘書を務めた。ジャボチンスキーは1940年に死亡する。第2次世界大戦後にはコーネル大学などで教鞭を執った。 ネオコンはロシア制圧を目標にしているに対し、ジャボチンスキー系の人びとは今でも大イスラエル、つまりユーフラテス川とナイル川で挟まれている地域を支配しようとしている。 イスラエルではゴラン高原に続いてヨルダン川西岸を併合しようとする動きがあるが、それは序の口にすぎない。イスラエルの支配地域をイラク、シリア、イラン、レバノン、エジプトに広げると公言している活動家もいる。サウジアラビアもターゲットに含まれているはずだ。つまり、どこかの時点でイスラエルとサウジアラビアの利害が衝突する。 アメリカは東シナ海や南シナ海では中国を軍事的に威圧しているが、中国はロシアの戦略的な同盟国であると同時にイランを支援している国でもある。ネオコンにとってもジャボチンスキー派にとっても敵になった。 この両派にとって産油国のベネズエラは手に入れたい国。トランプ政権のクーデター工作にネオコンも賛成、従って有力メディアも支援している。 ネオコンは自分たちのターゲットであるロシアとの関係を絶とうとしてきたが、大イスラエルを目論むネタニヤフは盛んにロシアを訪問してきた。ロシアに出てきてほしくないからだろう。 ジャボチンスキー派と近いキリスト教系カルトのマイク・ポンペオ国務長官は5月14日にソチでロシアのウラジミル・プーチン大統領と会談したが、この訪問の目的もネタニヤフと同じだろう。ロシアをおとなしくさせるために何かを約束したかもしれないが、アメリカが約束を守らないことをプーチンは理解しているはず。 アメリカとロシアの関係を改善することで両国は合意したというが、それでロシアが譲歩する可能性はない。2011年2月にアメリカなどがリビアへの侵略を開始、3月17日には国連の安全保障理事会でリビア上空に飛行禁止空域を設定することを認める決議が採択された。 これはアメリカ、イギリス、フランスなどリビア侵略を狙う国が制空権を握りやすくすることが目的だということは明らかだったが、中国やロシアは決議で棄権している。このときのロシア大統領、ドミトリー・メドベージェフはアメリカとの関係回復を優先したのだが、その決定を知った当時の首相、ウラジミル・プーチンは激怒したという。アメリカが何を狙っているか誰でもわかるだろうとプーチンは考えたはずだ。今回、プーチン大統領がトランプ政権に譲歩するとは思えない。
2019.05.16
アメリカではベネズエラへ軍事侵攻するべきだとする宣伝が聞かれる。ホワイトハウスではマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、ジョン・ボルトン国家安全保障補佐官が攻撃したがっている。 トランプが大統領に就任した翌月、つまり2017年2月にマイケル・フリン国家安全保障担当補佐官が辞任に追い込まれた。2012年7月から14年8月までアメリカ軍の情報機関DIAの局長を務めていたフリンはシリア情勢にも精通していた。 リビアやシリアへの傭兵を使った侵略を始めたのはバラク・オバマ政権。リビアでカダフィ政権が倒された頃にはNATO軍が地上のアル・カイダ系武装集団LIFGと連携していることが知られるようになり、その戦闘員が武器と一緒にシリアへ運ばれていることも報道されていた。 そこでオバマ大統領が言い始めたのが「穏健派」。「良いアル・カイダ」と「悪いアル・カイダ」が存在、アメリカは「良いアル・カイダ」を支援しているから問題ないという主張だったのだが、それをDIAは否定する報告書を2012年8月にホワイトハウスへ提出している。 オバマ政権が支援する武装勢力はサラフ主義者やムスリム同胞団が主力だとDIAは指摘、戦闘集団としてアル・ヌスラ(実態はAQIと同じだと指摘)の名前を挙げている。またオバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになるとも警告していた。その警告が2014年にダーイッシュという形で現実なる。 ダーイッシュが勢力を拡大し始める際、アメリカ軍やCIAが支援している可能性は高い。2014年1月にファルージャでダーイッシュは「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧、その際にトヨタ製の真新しい小型トラック「ハイラックス」を連ねてパレードしている。その後継を撮影した写真が世界規模で流れ、その存在が知られるようになった。 問題は、なぜパレードができたのかということ。アメリカ軍やCIAはスパイ衛星、偵察機、通信傍受、人を使って得た情報などでダーイッシュの動きを把握していたはずだが、反応していない。パレードしている車列などは格好の攻撃目標のはずなのだが、アメリカ軍は何もしていないのだ。 こうした情況の中、ホワイトハウスの内部で激しいやりとりがあった可能性が高い。そしてフリンは追い出された。このフリンをトランプが国家安全保障補佐官に任命したのである。そしてフリンはホワイトハウスから追い出され、トランプが攻撃され続けている。 トランプを失脚させ、マイク・ペンスを副大統領から大統領に昇格させるという計画が存在するとも伝えらたが、トランプを排除できないまま、ペンスを中心とするチームがホワイトハウスを動かし始めているようにも見える。 トランプはロシアとの関係修復を訴えて大統領選挙で勝利したが、これはネオコンのような好戦派にとっては許しがたいこと。アメリカ支配層はロシアが再独立への道を歩き出した直後からロシアとの軍事的な緊張を高めようとしている。ジョージ・W・ブッシュ政権は2002年、一方的にABM(弾道弾迎撃ミサイル)から離脱、今年2月にはトランプ大統領はINF(中距離核戦力)全廃条約の破棄をロシアへ通告、それを受けてロシアは条約義務履行の停止を宣言した。 アメリカの好戦派が強引に世界支配を実現しようとする中、ロシアは中国と戦略的な同盟関係を結んだ。パイプラインや鉄道の建設などインフラでの結びつきを強めているが、その動きに朝鮮半島の2カ国も加わろうとしている。 アメリカと朝鮮との問題はアメリカと中国との問題から派生しているのだが、2014年頃からアメリカの相手は中露同盟に変化した。 この中露同盟はアメリカの一極支配から離脱、新しい世界秩序を築こうとしている。アメリカの支配層は巨大資本という私的な権力が支配する新秩序を目指していたが、そのプランが揺らいでいる。アメリカの支配層が正気を失っているのはそのためだろう。プーチンがポンペオたちの要求に応じる可能性は小さい。(了)
2019.05.15
マイク・ポンペオ国務長官は5月14日にソチでロシアのウラジミル・プーチン大統領と会談、両者はアメリカとロシアの関係を改善する必要性を語った。会談では軍事問題のほか、シリア、朝鮮半島、アフガニスタン、リビア、イラン、ベネズエラなどの情勢について話し合ったという。 シリアは2011年3月からアメリカなどの外国勢力が送り込んだジハード傭兵部隊の侵略を受けてきたが、15年9月にロシアがシリア政府の要請で軍事介入してから傭兵の勢力範囲は急速に縮小してきた。そこでアメリカはクルドを新たな手先とする一方、地上部隊を派遣して油田地帯を支配し続けようとしている。 本ブログでは繰り返し書いてきたが、ネオコンは1980年代からイラクのサダム・フセイン体制を倒して親イスラエル派の政権を樹立、シリアとイランを分断した上でシリアを制圧、最終的にはイランを支配しようとしてきた。 イランは1979年からイスラムを統治の基盤に据える国になったが、その前のパーレビ朝はイギリス、アメリカ、イスラエルに支配されていた。イランは産油国だというだけでなく、中東を支配するうえでもロシアに軍事的な圧力を加えるうえでも重要な国である。 ニューヨーク・タイムズ紙によると、ジョン・ボルトン国家安全保障補佐官やパトリック・シャナハン国防長官はアメリカ軍12万人にイランを侵略させようと計画している。勿論、この程度の戦力では地上戦を戦えない。 2003年3月に始まったイラクへの先制攻撃でも31万人が動員されている。これでも当時、少なすぎると言われていたが、イランが相手の場合、これを大幅に上回る戦力が必要だろう。しかも、中東からの石油供給は大幅に細る可能性が高い。実際にイランを軍事攻撃することはできないと言われるのは、こうした事情があるからだ。 アフガニスタンはイランの東側に位置している。アメリカが1970年代からアフガニスタンを支配するための秘密工作を始めた理由のひとつはパイプラインの建設だったが、希少金属の存在も重要な理由。最近では中国が進める一帯一路をつぶすための拠点としての意味も強まってきた。 リビアはシリアより1カ月ほど前から同じように侵略されている。かつてはヨーロッパ諸国より生活水準の高く、教育、医療、電力料金は無料、農業は元手なしで始めることができる国だったが、ムアンマル・アル・カダフィ体制が崩壊してからは無法地帯と化している。 リビアが侵略された理由のひとつは石油資源であり、もうひとつは独自の通貨としてディナールという金貨を導入しようとしていたことにある。カダフィはドル体制から離脱し、独自の通貨を採用することでアフリカを経済的に独立させようと考えていた。アフリカの利権で食いつないでいるようなフランスやイギリス、ドル体制が崩れれば支配システムも崩れてしまうアメリカにとってカダフィは危険な存在になっていた。 現在、リビアには国連に承認されたGNA(国民合意政府)がトリポリに存在、ファイズ・サラージが首相になっている。そのトリポリにハリファ・ハフタルを中心のとするLNA(リビア民族軍)が迫り、戦闘が激しくなっている。そうした中、GNAはトランプ大統領に対し、外国勢力によるハフタル支援を止めさせるように求めた。 LNAをサウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプトが支援していることが知られている。ハフタルは1960年からCIAに保護され、アフタルに従う武装グループはアメリカで軍事訓練を受けてきた人物で、2011年2月に始まったリビアに対する侵攻作戦へも参加した。ハフタルは過去に何度かロシアを訪問、政府高官と会談しているが、ロシアが具体的に支援しているわけではない。(つづく)
2019.05.15
アメリカのドナルド・トランプ大統領は中国製品に対する関税引き上げを決めた。それに対抗して中国の習近平国家主席も関税の引き上げを決めたが、それだけでなく農産物の購入を中止する可能性があるという。ブラジルやEUからの輸入で穴埋めできるようである。 2014年にバラク・オバマ政権はネオ・ナチを使い、ウクライナでクーデターを実行したが、戦略的に重要なクリミアを制圧することに失敗した。そこでアメリカはEUに対してロシアへの「制裁」に同調するように要求、EUは呑んだが、その結果、乳製品をロシアへ売れなくなり、だぶついている。中国が買うならEUは売るだろう。 世界的に注目されていたのは石油。昨年10月に中国はアメリカからの石油輸入を止めると発表、今年3月まで実際に輸入は止まった。同じことをするのではないかと見られていたのだが、今回は見送られたようだ。 しかし、その一方でイランからの石油輸入は増えている。アメリカのイランに対する制裁は無視されているわけだ。すでにロシアからエネルギー資源を運ぶパイプラインの建設が進んでいるので、アメリカやサウジアラビアに石油や天然ガスを依存する必要性は今後、さらに低下していく。 このエネルギー資源の輸送ネットワークにはロシアと中国だけでなく韓国や朝鮮も参加するだろう。アメリカに逆らえない日本はコストの高い石油や天然ガスを買わざるをえなくなりそうだ。 現在、ロシアや中国はアメリカからの影響を排除するため、ドル離れを進めている。今後、中国がサウジアラビアに対してドルでなく人民元で決済することを求めてくることは不可避。それをサウジアラビアが呑んだ場合、ドル体制は大きく揺らぐことになる。 本ブログでは繰り返し書いてきたが、アメリカは1970年代から生産を軽視、多国籍企業は工場を国外へ移転させてきた。そうした多国籍企業のカネ儲けに海兵隊をはじめとするアメリカの軍隊は奉仕してきたと第2次世界大戦の前に告発していたのがスメドリー・バトラー少将だ。 現在のアメリカは基軸通貨であるドルを発行する特権で生きながらえている国。発行したドルを実社会から回収しないと新たに発行することが困難になり、システムは破綻する。 ドルをアメリカへ還流させるひとつの仕組みが石油取引を利用したもの。つまり産油国に決済をドルに限定させ、産油国に集まったドルを財務省証券や高額兵器の購入といった形でアメリカへ戻すわけだ。 アメリカ系の多国籍企業は工場を中国へ移転させた。労働者は多く、教育水準も低くないためだ。日本の企業からも21世紀に入った頃から学生の質は日本より中国やインドの方が高いという声を聞くようになった。日本やアメリカでは公教育が政策として破壊されたが、その影響が出たということだろう。 結果としてアメリカは商品を中国から買うことになるが、中国はアメリカの高額兵器を買わない。財務省証券の保有額をみるとほぼ横ばい、つまり買い増していない。アメリカへ還流していないということで、ドル体制は危険な状態になっている。もし中国がロシアと同じように手持ちの財務省証券を大量に売却した場合、金融市場はパニックになるかもしれない。 中国から輸入される製品に対する関税の引き上げはアメリカでの課税を回避しているアメリカ系企業から税金を取る立てることになるが、アメリカが抱えてる経済システムの問題を解決することはできない。
2019.05.14
アメリカ軍は空母エイブラハム・リンカーンと戦略爆撃機のB-52を中東へ派遣してイランに圧力を加えようとしているが、すでに空母は海軍の主役ではない。戦争になれば、ミサイルで簡単に撃沈されてしまう。今は潜水艦とミサイルの重要度が増していると言われている。 実際、イラン側は戦闘になればミサイルで撃沈すると警告しているのだが、どうしてもアメリカにイランを攻撃させたいアメリカのシオニスト、イスラエル、サウジアラビアなどはアメリカの空母を撃沈してイランに責任をなすりつけようとしていると疑っている。 いわゆる偽旗作戦だが、これはアメリカ支配層の常套手段でもある。例えば、1898年にキューバのハバナ港でアメリカの軍艦メインが爆沈した事件。アメリカはスペインが爆弾を仕掛けたと主張、「米西戦争」を開始、ラテン・アメリカを植民地化する。フィリピンもこの戦争で手に入れたのだが自作自演説は消えていない。 統合参謀本部やCIAの好戦派はドワイト・アイゼンハワー政権の時代からキューバへの軍事侵攻を計画していた。当初の予定では、亡命キューバ人の部隊に奇襲攻撃をさせ、その部隊を救援するという口実でアメリカ軍が攻撃するという手順になっていたが、アメリカ軍の侵攻はジョン・F・ケネディ大統領に阻止された。 そのケネディは1961年11月にアレン・ダレスCIA長官を、62年1月にはチャールズ・キャベルCIA副長官を、62年2月には秘密工作部門の責任者だったリチャード・ビッセル計画局長も解任している。 好戦派のひとりであるライマン・レムニッツァー統合参謀本部議長はそれでも侵略を諦めず、1962年3月にノースウッズと名づけられた偽旗作戦を国防長官に説明、拒否されている。その後も議長は大統領を説得しようとするが失敗、1962年10月にケネディはレムニッツァーの議長再任を拒否した。 ノースウッズに関連した資料の大半は廃棄されてしまったので詳細は不明だが、残された文書によると、キューバのグアンタナモにあるアメリカ海軍の基地をキューバ側のエージェントを装って攻撃、グアンタナモ湾に浮かぶアメリカの艦船を爆破してその責任をキューバに押しつけることが考えられている。 また、マイアミを含むフロリダの都市やワシントンでプラスチック爆弾を爆発させてキューバのエージェントを逮捕、事前に用意していた書類を公表してキューバ政府が実行したと人びとに信じさせる計画もあった。 また、民間旅客機の撃墜も演出しようとしていた。フロリダ州にあるエグリン空軍基地で民間機のコピー機を作り、本物の航空機は自動操縦できるようにする。 CIAが選んだ人びとを乗せたコピー機を本物として通常のフライトのように離陸させ、途中で無人の本物と入れ替える。コピー機はエグリン基地へ降り、無人機はフライト・プランに従って飛行、キューバ上空で救助信号を出し、キューバのミグ戦闘機に攻撃されていると報告、その途中で自爆するというシナリオになっていた。 これらはノースウッズに含まれるテロ行為の一部にすぎないのだが、好戦派がキューバ制圧にこれほど執着する理由は、当時、彼らが計画していたソ連や中国に対する先制核攻撃にあったと見るべきだろう。 アメリカ軍が1957年に作成したドロップショット作戦では300発の核爆弾をソ連の100都市に落とすることになっていたのだが、そのために必要な戦略爆撃機やICBM(大陸間弾道ミサイル)の準備にはある程度の時間が必要。 アメリカが必要なICBMを準備でき、しかもソ連が準備できていないという条件を満たすのは1963年の後半だと考えられていた。レムニッツァーは議長でなくなっていたが、好戦派仲間のカーティス・ルメイ空軍参謀長がいる。 そして1963年11月22日、ケネディ大統領は暗殺された。CIAはキューバ犯行説、ソ連黒幕説を流して「報復攻撃」へ誘導しようとするが、失敗した。 ベトナムへ軍事介入する口実として使われた1964年の「トンキン湾事件」も偽旗作戦のひとつとして有名。アメリカの駆逐艦が北ベトナムの魚雷艇に砲撃されたとアメリカ政府は宣伝、1965年2月には「報復」と称して本格的な北ベトナムに対する空爆を始めているが、この事件の背後にはアメリカの特殊部隊による作戦があった。 この特殊部隊の指揮下にあった南ベトナム軍の哨戒魚雷艇が1964年7月に北ベトナムを攻撃、北ベトナムが派遣した高速艇が到着したときには姿を消してた。そこには情報収集活動をしていたアメリカの駆逐艦、マドックスがいるだけ。北ベトナムはマドックスを「報復」として攻撃したと言われている。 アメリカでは北ベトナムからの先制攻撃で戦闘になったとされ、議会は「東南アジアにおける行動に関する議会決議(トンキン湾決議)」を可決、1965年2月からアメリカ軍は「ローリング・サンダー作戦」を開始、ベトナムへの本格的な軍事介入になる。 イランを攻撃するため、似たようなことをネオコンは目論んでいると疑われているのだ。 巨大金融資本と結びついたシオニスト、いわゆるネオコンは1980年代からイラクのサダム・フセインを排除しようとしていた。イラクに親イスラエル体制を築いてトルコ、イラク、ヨルダンの親イスラエル国帯を築いてシリアとイランを分断、両国を破壊しようと考えたのだ。 1991年、湾岸戦争が終わった直後に国防次官のポール・ウォルフォウィッツはイラク、イラン、シリアを殲滅すると口にしていたとウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官は語っているが、これはネオコンが1980年代から言っていたことだ。 1991年12月にソ連が消滅、その2カ月後にウォルフォウィッツを中心とするネオコンのグループは国防総省のDPG(国防計画指針)草稿という形で世界制覇プランを作成した。いわゆるウォルフォウィッツ・ドクトリンである。ネオコンは現在に至るまでこの作戦に執着している。 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されるが、そのショックを利用してネオコンは一気に国内の刑務所化と国外での軍事侵略を本格化させた。 世界貿易センターとペンタゴンが攻撃されてまもなく、国防長官の周辺は軍事侵略の予定国リストを作成する。イラク、シリア、イランにレバノン、リビア、ソマリア、スーダンを加えた7カ国だ。いずれも9月11日の攻撃とは関係なく、関係が疑われた2カ国は含まれていない。
2019.05.13
アメリカとイランとの間の軍事的な緊張が高まり、アメリカ軍は空母エイブラハム・リンカーンを中東へ派遣した。イランに圧力を加えようとしているわけだが、イラン側は戦闘になればミサイルで撃沈すると警告している。 すでに空母が海軍の主役である時代は過ぎ去った。新しい時代の到来を告げる戦闘は1982年のフォークランド戦争。この戦いではイギリスの艦隊がアルゼンチンのエグゾセに苦しめられている。その後、ミサイルの性能は格段に向上、今回のイランによる警告を単なる脅しと考えるべきでない。イランはカデルやヌールといった対艦ミサイルを保有している。 フォークランド戦争の場合、イギリスのマーガレット・サッチャー首相はフランスのフランソワ・ミッテラン大統領に対し、ミサイルを無力化するコードを教えるように強く求めたとも伝えられている。教えなければブエノスアイレスを核攻撃すると脅したのだという。 この情報の信頼度は不明だが、エグゾセにはそうした仕組みがあったとしても、イランの場合はコードで無力化することはできないだろう。ロシアの高性能ミサイルが供給されている可能性もないとは言えない。 アメリカ軍はカタールに複数のB-52爆撃機を派遣しているようだが、空母を撃沈した場合はテヘランを核攻撃するという脅しなのだろう。空爆を試みた場合、イランの防空システムに撃墜されることもありえる。 第1次世界大戦が終わって間もない1919年にイギリスは石油利権を手に入れるためにペルシャを保護国にする。その2年後に陸軍の一将校にすぎなかったレザー・ハーンがテヘランを占領、25年にカージャール朝を廃して「レザー・シャー・パーレビ」を名乗るようになる。 第2次世界大戦後にイランは独立の道を歩み始め、1951年4月には議会での指名を受けて国王が首相に任命したムハマド・モサデクはAIOC(アングロ・イラニアン石油、後のBP)の国有化を決める。 当時、イランの石油利権はイギリスを支える重要な柱になっていた。1951年10月にウィンストン・チャーチルが首相に返り咲くとイギリスはクーデターに向かって加速していく。クーデターを実行するためにチャーチルが再登場したとも言える。 しかし、イギリスには自力でモサデクを排除することができない。そこでアメリカの力を借りることにし、ウォール街の大物、アレン・ダレスに接近する。1953年にドワイト・アイゼンハワーがアメリカの大統領に就任、クーデターを実行するための環境は整った。 アメリカのCIAやイギリスのMI6はエージェントをイランへ送り込み、モサデク側の軍幹部を殺していく。そして1953年6月にジョン・フォスター・ダレス国務長官はモサデク政権を転覆させる準備の許可を弟のアレンCIA長官に出している。そして作られたクーデター計画が「エイジャクス作戦」。作戦遂行のための資金を動かしていたのは、後にロッキード事件でも名前が出てくるディーク社だ。 このクーデターは成功、外国の巨大資本と結びついたパーレビ体制が復活した。その体制を守るためにSAVAKという組織がCIAやイスラエルのモサドの協力を得て創設される。拷問や尋問のテクニックはモサドから学んだのだという。 1979年1月、ムハマド・レサ・パーレビ国王が王妃とともに国外へ脱出して王制は倒れる。アメリカなどが最も恐れたのはムジャヒディン・ハルクのようなマスクス主義勢力の体制ができること。そこでイスラム勢力と西側支配層は接触している。 この年の11月に「ホメイニ師の路線に従うモスレム学生団」を名乗るグループがテヘランのアメリカ大使館を占拠、機密文書を手に入れる一方、大使館員など52名を人質にとった。 アメリカでは1980年に大統領選挙が予定されていたが、人質が解放されるかどうかは選挙結果に影響する可能性がある。そこで共和党側(ロナルド・レーガン陣営やジョージ・ブッシュ陣営)はイランの革命政権に対し、人質の解放を遅らせるように働きかけた。その代償は資産凍結の解除と武器の提供。選挙ではレーガンが勝利、ブッシュは副大統領に就任した。 イランの王制が倒された際、イスラム勢力に負けたムジャヒディン・ハルクのメンバーはイラクへ逃れ、それまでのイデオロギーを放棄する。マスード・ラジャビとマリアム・ラジャビの下、禁欲や睡眠制限などが強制され、既婚者は離婚させられるようになるなどカルト色を強めていく。現在、この組織はアメリカやイスラエルの手先として動いている。 1980年9月にイラク軍はイランの南部を攻撃、イラン・イラク戦争が始まる。イスラム革命直後で体制がまだ安定していないころのことだ。イランはアメリカから武器を受け取っていたが、その一方でアメリカの情報機関はイラクへ軍事情報を提供していた。アメリカの支配層はイランとイラクを戦わせて両国を疲弊させようとしていたと見られている。そうした中、イランはシリアとの関係を深めていく。 1980年代にネオコンはイラクのサダム・フセイン政権を倒して親イスラエル体制を築こうとしていた。そこで、フセインをペルシャ湾岸産油国の防波堤と見るアメリカ支配層の一部と対立することになる。この対立はイラン・コントラ事件やイラクゲート事件が発覚する原因になった。 ネオコンはイラクを親イスラエル国にしてシリアとイランを分断、個別撃破しようと目論んでいた。当時、トルコもヨルダンも親イスラエル国と見なされていた。 1991年、国防次官だったポール・ウォルフォウィッツはこの計画について口にし、2001年9月11日の攻撃で主導権を握ったネオコンはレバノン、リビア、ソマリア、スーダンを加えた7カ国を殲滅する計画を立てている。この計画通りにネオコンは侵略を進めてきた。 サダム・フセインに対する見方がネオコンと同じ勢力がサウジアラビアには存在する。1979年から2001年9月1日まで総合情報庁長官を務めたトゥルキ・アル・ファイサル、ブッシュ家と近く、2005年から15年まで国家安全保障会議の議長を、また12年から14年まで総合情報庁長官を務めたバンダル・ビン・スルタンたち。オサマ・ビン・ラディンはトゥルキの下で働いていた人物だ。バンダルもアル・カイダ系武装集団などを操っていた。
2019.05.12
朝鮮が行った短距離ミサイルの発射実験に関し、アメリカのドナルド・トランプ大統領は信頼関係を損なう行為ではないと発言した。朝鮮側は真の平和と安全は主権を守るための強い物理的な力必要だと主張、長距離ミサイルの発射実験も準備しているとしている。 朝鮮の金正恩労働党委員長は2月27日と28日にかけてハノイでトランプ米大統領と会談したが、合意に至らなかった。決裂した理由はマイク・ポンペオ国務長官とジョン・ボルトン国家安全保障補佐官が同席したことにあると言われている。このふたりには朝鮮と交渉する意思がない。ネオコンと同じように、従属しなければ破壊するという姿勢だ。 それから2カ月後の4月24日、金正恩委員長は列車でウラジオストックを訪れた。25日にはロシアのウラジミル・プーチン大統領と会談に入る。その際、プーチン大統領は金委員長によるアメリカとの「関係正常化の努力」と韓国との対話を歓迎したという。 本ブログでは繰り返し書いているように、プーチン大統領は朝鮮半島の軍事的な緊張を緩和させ、鉄道やパイプラインで東アジアを結びつける計画を遅くとも2011年に打ち出している。 アメリカのバラク・オバマ政権がリビアやシリアへジハード傭兵を送り込んで侵略戦争を始めたこの年の夏、ロシアのドミトリ・メドベージェフ首相はシベリアで朝鮮の最高指導者だった金正日と会い、110億ドル近くあったソ連時代の負債の90%を棒引きにし、鉱物資源の開発などに10億ドルを投資すると提案しているのだ。言うまでもなく、朝鮮は資源の宝庫。植民地化されずに開発が進めば豊かな国になる。 ロシアや中国はユーラシア大陸に鉄道網を張り巡らせ、エネルギー資源を運ぶパイプラインを建設しようとしている。朝鮮が同意すれば、鉄道とパイプラインは朝鮮半島を縦断、釜山までつながる。西の果てはヨーロッパだ。 金正恩の父、金正日はロシアの提案を受け入れたが、2011年12月に急死する。朝鮮の国営メディアによると、12月17日に列車で移動中に車内で急性心筋梗塞を起こして死亡したというが、韓国の情報機関であるNIS(国家情報院)の元世勲院長(2009年~13年)は暗殺説を唱えていた。これが事実なら、誰が殺したのか? それに対し、アメリカ支配層の基本戦略は支配と略奪。ヨーロッパ流とも言える。十字軍の中東侵略は財宝だけでなく知識を盗むことに成功した。スペインやポルトガルは15世紀から17世紀にかけて世界を荒らし回り、ラテン・アメリカで金銀財宝だけでなく、資源も略奪する。その象徴的な存在がボリビアのポトシ銀山だ。 イギリスはボーア戦争(1899年から1902年)を引き起こしてトランスバールとオレンジを併合、すでにイギリス領になっていたケープ植民地とナタールを合わせてできたのが南アフリカ連邦を作り上げる。 この地域ではダイヤモンドや金が大量に産出、その流通をロンドンがコントロールすることになる。つまり、金本位制を採用する国の通貨はロンドンが支配することになった。 ボーア戦争の前にイギリスは中国(清)の侵略に乗り出している。当時のイギリスは機械化が進んで生産力が向上していたが、生産した製品が思うように売れない。清との交易では大幅な赤字になっていた。 この状況を打開するためにイギリスは麻薬のアヘンを売りつけることにする。綿製品をイギリスからインドへ、アヘンをインドから中国へ、茶を中国からイギリスへという仕組みだ。 麻薬の流入を清政府が容認するはずはなく、戦争になる。1840年から42年まで続いたアヘン戦争と56年から60年にかけての第2次アヘン戦争だ。こうした戦争でイギリスは勝利するが、内陸部を制圧する戦力がない。そこで目をつけられたのが日本だった。このイギリスの戦略を引き継いだのがアメリカにほかならない。 時を経て20世紀の後半。1989年にベルリンの壁が壊され、90年には東西ドイツが統一された。その際、アメリカの国務長官だったジェームズ・ベイカーはソ連のエドゥアルド・シェワルナゼ外務大臣に対し、統一後もドイツはNATOにとどまるものの、東へNATOが拡大することはないと約束したことが記録に残っている。 それをミハイル・ゴルバチョフは信じたが、アメリカは約束を守らない。すでにNATO軍はロシアの玄関先まで到達、軍隊を配備し、ミサイルを設置してロシアを恫喝している。その結果として軍事的な緊張は高まり、全面核戦争の危険性は冷戦時代よりはるかに高まってしまった。これがドイツ・モデル。 ジョージ・W・ブッシュ政権の要求に従ってリビア政府は2003年に核兵器や化学兵器の廃棄を決定する。廃棄すれば「制裁」を解除することになっていたのだが、アメリカ政府は約束を守らない。それどころか、2011年2月にはバラク・オバマ大統領はアル・カイダ系武装集団などを使ってリビアを侵略する。破壊、殺戮、略奪で現在は暴力が支配する破綻国家だ。これがリビア・モデル。 アメリカ軍はベトナム戦争で負けたが、その戦争でベトナムの国土は惨憺たる状態になる。アメリカ軍による「秘密爆撃」ではカンボジアやラオスでも国土が破壊され、多くの人々が殺された。戦闘では通常兵器だけでなく、化学兵器の一種である枯れ葉剤(エージェント・オレンジ)やナパーム弾が使われている。CIAのフェニックス・プログラムでは人々を殺すだけでなく、共同体を破壊した。 ソ連が消滅してから3年後の1994年にアメリカはベトナムに対する「制裁」を解除するが、その代償としてベトナムは新自由主義を受け入れる。IMFなどの「毒饅頭」を食べることになったのだ。 しかもベトナム戦争中にアメリカ側が行った犯罪的な行為は不問に付され、ベトナムの庶民は低賃金労働者として西側巨大資本の金儲けに奉仕させられている。これがベトナム・モデルだ。 アメリカ支配層が朝鮮半島で目論んでいるのはこの3モデルのひとつ。アメリカ側が朝鮮に許す選択肢は屈服の仕方の違いであり、主権を認める気などない。それを朝鮮側も一連の交渉で理解しただろう。
2019.05.11
2020年開催が予定されている東京オリンピックのチケット抽選販売の受け付けが5月9日に始まり、最初の7時間で130万人がサイトにアクセスしたという。受付期間は28日まであり、慌て申し込む必要はない。チケットの総数は780万枚だが、今回の抽選で何枚を売るかは不明だ。これで「熱狂」と呼べるのかどうかわからない。 チケットは音楽業界でもつきもの。この業界ではファンと無縁のルートでチケットは流通すると言われている。竹中労によると、その始まりは1966年に来日したビートルズの公演からだという。場所は収容人員が1万人だという武道館で、3回の公演が予定されていた。合計3万人。最終的にコンサートは2回追加され、実際には5万枚刷られたようだ。 竹中たちが書いた「ビートルズ・レポート」によると、チケットは主催者の読売新聞を通じて売られた。葉書で募集し、抽選するという今回と似たような手順だ。 送られてきた葉書は約23万通、そのうち有効なものが20万通余り。抽選ではその1000分の37が当選になった。つまりファンの手に渡ったのは約7400枚。残りはどこへ消えたのか。 タイアップ先に流れたと言われているが、公演の直前、1500枚から1万枚のチケットが余り、関係者が必死にさばいていたという。 そこで竹中はひとつの推測をしている。チケットは5万枚以上刷られたのではないかというのだ。武道館の収容人員は1万人とされているが、入れようと思えばまだ入る。5公演で5000人。税金のかからないチケットが5000枚とも言える。 こうした仕組みはその後も日本の音楽業界に残ったと聞く。ファンとは無縁のところでチケットやCDが動いているということだ。最近ではダウンロードが盛んなので、いかようにも操作できるだろう。CDが売れている、あるいはダウンロードが多いからといって人気があるとは限らないと言える。 ところで、オリンピックにはさまざまな問題がある。1936年に開かれたベルリン・オリンピックはナチスのプロパガンダに利用され、80年のモスクワ・オリンピックではアメリカが不参加を各国に働きかけて反ソ連の宣伝に使い、そのアメリカのロサンゼルスで開催された84年のオリンピックはビジネス化が一気に進んだ。 2004年にアテネでオリンピックが開かれた際には経費が負担になっただけでなく、開発がブームになる。建設が許可されていない場所で違法な融資による開発を目論む業者もいた。このブームで業者と手を組んだ役人の中には賄賂を手にしたものが少なくなかったと言われている。そのつけも国の財政にのしかかることになった。 2012年のロンドン・オリンピックでは治安システムが強化されている。顔の識別も可能な監視カメラを張り巡らせ、無人機による監視も導入、通信内容の盗聴、携帯電話やオイスター・カード(イギリスの交通機関を利用できるICカード)を利用した個人の追跡も実用化させた。海兵隊や警察の大規模な「警備訓練」も実施され、本番では警備のために軍から1万3500名が投入されたという。 東京オリンピックはすでに問題が山積している。例えば、JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和会長が3月19日、オリンピック・パラリンピックの招致に絡む贈賄容疑に絡んで退任を表明している。この贈賄容疑についてはイギリスのガーディアン紙が2016年5月11日付けの紙面で取り上げた。 東京で2020年にオリンピックを開催することが決まったのは2013年9月のIOC(国際オリンピック委員会)の総会だが、このときのプレゼンテーションで安倍晋三首相は「福島の状況はアンダーコントロール」であり、「汚染水による影響は0.3平方キロメートルの範囲内に完全にブロックされている」と語っていた。明らかな嘘だ。その嘘を各国の委員、要するにアメリカだろうが、受け入れた。 その前後、同年7月と10月に東京五輪招致委員会からIAAF(国際陸上競技連盟)の会長だったラミン・ディアクの息子が関連するブラック・タイディングスの秘密口座へ130万ユーロが振り込まれたとフランスの警察当局からの情報として伝えられている。その息子、パパ・マサタ・ディアクは当時、IAAFにコンサルタントとして雇われていた。 その口座を管理していたとされているイアン・タン・トン・ハンはパパ・マサタ・ディアクと親しく、IAAFの幹部と定期的に接触しているとされている。アスリート・マネージメント・アンド・サービスのコンサルタントとして働いているが、この会社は電通スポーツの子会社だという。電通はブラック・タイディングスへの支払いを知らず、タンがコンサルタントとして雇われた事実はないとしているようだ。 東京五輪招致委員会の理事長だった竹田恒和はタンと契約する際、「コンサルタントから申し入れがあり、電通にも確認して必要と判断したのを私が決済した」としている。竹田との関係から電通元専務の高橋治之の名前も浮上した。(エコノミスト、2016年8月23日) スポーツの世界は音楽業界と同じように胡散臭い。
2019.05.10
リビアを2011年2月に攻撃した際、アル・カイダ系武装集団のLIFGが攻撃側の手先として使われていた。同年10月にムアンマル・アル・カダフィは倒され、カダフィ自身は惨殺されるのだが、その際にアメリカ/NATOとLIFGの関係を隠しきれなくなってしまう。 カダフィ政権はイラクのサダム・フセイン政権と同じようにアル・カイダ系の集団を厳しく取り締まり、1998年3月にはICPO(国際刑事警察機構)を通じてオサマ・ビン・ラディンを国際手配している。これをアメリカやイギリスの情報機関は無視した。ケニアとタンザニアのアメリカ大使館が爆破されたのはその5カ月後だ。 LIFGはその少し前、イギリスの対外情報機関MI6によって編成される。そのメンバーはCIAがアフガニスタンで傭兵として使っていた戦闘員が中心だ。LIFGがアル・カイダへ正式加盟したのは2007年だとされているが、これは形式的な話に過ぎない。 この武装集団は1996年にカダフィ暗殺を試みて失敗している。カダフィ政権がオサマ・ビン・ラディンを国際手配したのはこの事件が原因である。MI5(イギリスの治安機関)の元オフィサー、デイビッド・シャイラーによると、この暗殺の黒幕はMI6だった。 LIFGがアル・カイダ系だということが広く知られるようになるのはカダフィ体制が倒されてから。反カダフィ派の拠点だったベンガジの裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられ、その映像が世界に伝えられたことが大きいだろう。 アメリカ/NATOはリビアで戦っていた戦闘員をシリアへ運び、バシャール・アル・アサド体制に対する攻撃態勢を強化するのだが、バラク・オバマ政権がアサド政権を転覆させるために使っていた集団がアル・カイダ系だということが発覚、批判の声があがる。 そこでオバマ政権は「穏健派」と「過激派」という理屈を使って切り抜けようとするが、2012年にアメリカ軍の情報機関DIAは「穏健派」など存在しないと報告している。 組織なりシステムなりの隠さねばならない秘密が露見しかかった際、ある部分を悪玉にして責任をそこへ集中させ、本体につながる部分を善玉として描き、助けるということが行われる。Aさんとその背後のシステムを助けるために実権のないBに責任を押しつけるというようなことだ。これもダメージ・コントロールのひとつと言えるだろう。
2019.05.09
内部告発を公表してきたウィキリークスの創始者であるジュリアン・アッサンジがロンドンのエクアドル大使館でロンドン警視庁の捜査官に逮捕されたのは4月11日のことだった。イギリスで最も警備の厳しい刑務所に収監され、精神病の治療を施されている。 アメリカ空軍の退役中佐でNSAの仕事をしていたこともあるカレン・クワイトコウスキーによると、そうした症状が出たのはイギリスとアメリカの当局者から尋問を受けた後だという。 アッサンジを尋問しているアメリカ人は国防総省、FBI、CIAに所属、BZ(3-キヌクリジニルベンジラート)という薬物が使用されているようだ。これを使うと幻覚を生じさせ、現実と幻覚を混乱させるほか、昏睡、物忘れなどを含む意識障害、あるいは運動失調症を引き起こすとされている。この薬物を利用して情報を手に入れることはできない。そうした目的の薬物ではない。アッサンジを廃人にしようとしていると懸念する人がいるのはそのためだ。 現在、CIA長官を務めるジーナ・ハスペルは拷問を指揮していた経験があり、「血まみれジーナ」とも「ケミカル・ジーナ」とも呼ばれている。BZを使った拷問でもCIA長官になったハスペルは中心的な役割を果たしているだろう。 アッサンジに対する刑事告訴の中身に犯罪と呼べるようなものはないに等しいという声は少なくない。彼が逮捕、起訴された唯一の理由はジャーナリズムを実践したからなのである。イギリスやアメリカではジャーナリズムが犯罪になったということだ。そのイギリスやアメリカと同じ価値観を有しているという安倍晋三政権がジャーナリズムを否定するのは当然なのだろう。 一方、アメリカでもイギリスでも日本でも、有力メディアはジャーナリズムをとっくの昔に放棄している。むのたけじが1991年に「新聞・放送・出版・写真・広告の分野で働く800人の団体」が主催する講演会の冒頭で語ったように、「ジャーナリズムはとうにくたばった」のである。
2019.05.09
自分にとって好ましくない情報が公表されることが判明した場合、それが公表される前にある程度の事実を認めてしまい、そこから自分に都合のいい話を展開することがある。人間は最初に聞いた話の印象が強く残るからだ。いわゆるダメージ・コントロールである。 意図的なものであれ、不可抗力であれ、何らかの事情で支配システムの暗部、あるいは本質が露見しかかることもあるが、そうしたケースではそこから本筋にたどり着かないように話題を脇道へと誘導していく。システムを維持したい人びとはまず隠蔽を図るだろうが、それに失敗すると、ある程度のことは認めてしまい、そこから本筋にたどり着かないようにするのだ。 勿論、その際、外部の人間が納得するようなストーリーを描く必要はある。逆に、どこへ追及の矛先を向けさせようとしているかを観察すると、支配システムの一端が浮かび上がることもある。 例えばボブ・ケリー元上院議員の場合。1983年1月から1987年1月にかけてネブラスカ州知事、1989年1月から2001年1月までネブラスカ州選出の上院議員で、1992年には大統領選に出馬している。 ケリーはベトナム戦争に海軍の特殊部隊SEALのメンバーとして従軍しているのだが、その当時のスキャンダルが2001年4月に伝えられた。政界を引退した直後のことだ。 彼の率いる部隊が1969年に農村を襲撃し、女性や子どもなど村民を殺している。そのうち3名は妊婦だった。何人かは首を切られている。生き残ったのは12歳の少女だけだ。 本ブログの読者ならすぐに気づくと思うが、これはCIAと特殊部隊が実行していたフェニックス・プログラムの一環。虐殺の調査が進むとCIAと特殊部隊、さらにそうした暴力組織を動かしている支配層の責任が問われることもありえた。 そこで、報道の前にケリーは銃撃されたので反撃したというストーリーを語っている。有力メディアにはCIAのエージェントや協力者がいるので、そうしたネットワークからの支援を彼は受けていたはずだ。 その後、ケリーは9/11委員会のメンバーになる。言うまでもなく、2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターやバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された事件を調べた委員会で、真相を隠蔽したと批判する人も少なくない。 言うまでもなく、日本でもダメージ・コントロールは行われている。
2019.05.08
CNNは5月6日付けの報道でフアン・グアイドを選挙で選ばれたベネズエラの大統領だと伝えた。勿論、間違いだ。アメリカ支配層はベネズエラの石油利権をアメリカの巨大企業へ渡すと公言しているグアイドを「暫定大統領」に指名しているが、勿論、本当の大統領はニコラス・マドゥロである。日頃、偽報道を続けているCNNだったことから、「またやった」と笑われていたが、今回はさすがにすぐ訂正した。 現在、ドナルド・トランプ政権はエリオット・エイブラムズにベネズエラの政権転覆工作を指揮させている。ウーゴ・チャベスが大統領選挙だった2002年にもアメリカ政府はクーデターを仕掛けたが、このときの黒幕はオットー・ライヒ、ジョン・ネグロポンテ、そしてエイブラムズだ。 エイブラムスは1980年代からラテン・アメリカでの秘密工作に加わっている人物。当時、CIAはニカラグアの革命政権を倒そうとしていたが、その工作資金を調達するためにコカインの密輸に手を出していた。 ニカラグアだけでなく、エル・サルバドルでも秘密工作、いわゆる「汚い戦争」を展開し、その中でCIAの手先だった軍人や警官が1980年3月にカトリックのオスカル・ロメロ大司教を暗殺、その年の12月にはカトリックの修道女ら4名を惨殺している。1981年12月にはエル・モソテ村で住民900名から1200名を殺した。この村民虐殺についてエイブラムズはコミュニストのプロパガンダだと主張、偽証に問われることになる。 そのエイブラムズが仕掛けているクーデターは今のところ失敗。グアイドが大統領になることは困難だろう。そこで噂されているのがグアイド暗殺。それを利用してアメリカ主導軍がベネズエラへ攻め込むのではないかというわけだ。 アメリカ軍の幹部は賛成しそうにないが、好戦的な文民はやりかねない。イラクの時もリビアの時もシリアの時もそうだった。 アメリカの場合、有力メディアはこぞってアメリカ支配層が望むストーリーを流している。CNNはそのひとつだが、かつてCIAと特殊部隊が東南アジアで行った秘密工作に切り込んでいる。 ベトナム戦争でCIAと特殊部隊は住民を皆殺しにしたり、都市部でテロ活動を行うフェニックス・プログラムを実行していた。 この作戦は1967年5月にリンドン・ジョンソン大統領の腹心だったNSCのロバート・コマーがDEPCORDSとしてベトナム入りしたところからスタートする。そのコマーが中心になり、MACVとCIAは秘密プログラムのICEXを始動させる。これはすぐフェニックス・プログラムに名称が変わる。 このプログラムを一時指揮、1973年9月から76年1月までCIA長官を務めたウィリアム・コルビーは議会証言で、1968年8月から71年5月までの期間に2万0587人のベトナム市民が犠牲になったとしているが、別の推計では4万1000人近く。 1968年3月、ソンミ村のミ・ライ地区とミ・ケ地区で住民がアメリカ軍の部隊に虐殺される。犠牲者の数はアメリカ軍によるとミ・ライ地区だけで347人、ベトナム側の主張ではミ・ライ地区とミ・ケ地区を合わせて504人だという。この虐殺はフェニックス・プログラムの一環だった。 事件が発覚したのは、たまたま上空にいたアメリカ軍のヘリコプターのヒュー・トンプソンという兵士が虐殺を止めたからである。この事件を何人かの兵士が告発しているが、従軍記者や従軍カメラマンは報道しなかった。そうした告発があることを知ったシーモア・ハーシュが記事にしたのは1969年11月になってからである。 CNNは1998年6月、アメリカ軍のMACV-SOGが1970年に逃亡米兵をサリンで殺害したと報じた。その作戦名はテイルウィンド(追い風)。CNNは軍関係者だけでなく有力メディアから攻撃され、調査を行ったふたりのプロデューサーは誤報だと認めるように要求されるが拒否、解雇された。そのひとり、エイプリル・オリバーによると、放送では示されなかった重要な情報をCNNは隠しているという。 その放送の翌年、アメリカ陸軍の第4心理作戦群の隊員が2週間ほどCNNの本部で活動していたことも明らかになっている。「産業訓練」というプログラムの一環で、編集に直接はタッチしていなかったとしても、心理戦の部隊を受け入れると言うこと自体、報道機関としては許されない行為だ。アメリカ軍の広報担当だったトーマス・コリンズ少佐によると、派遣された軍人はCNNの社員と同じように働き、ニュースにも携わったという。
2019.05.08
アメリカ海軍は2隻の駆逐艦、プレブルとチャン・フーンを5月6日に南シナ海南沙諸島近く、中国が領有権を主張する海域へ入れ、航行させた。その前日、ドナルド・トランプ米大統領はツイッターに、2000億ドル相当の中国製品に対する関税を10日に現在の10%から25%へ引き上げると投稿している。恫喝はアメリカ支配層の常套手段だ。 現在の情況は貿易戦争と表現されるようだが、その原因はアメリカの経済政策にある。1971年8月にリチャード・ニクソン大統領はドルと金との交換停止を発表、ドルが金と公定価格で交換できるとう前提で成り立っていたブレトン・ウッズ体制は崩壊、世界の主要国は変動相場制へ移行したのだが、そうした移行の原因はアメリカ経済の破綻。 金という裏付けをなくしたドルが基軸通貨から陥落させないようにドルをアメリカへ還流させる仕組みが考えられた。その象徴がペトロダラー。石油取引の決済をドルに限定させることで各国にドルを集めさせ、産油国に集まったドルをアメリカ国債や高額兵器を購入させるという形で還流させるというものだ。その代償として産油国の支配者は安全と富を保証される。 日本もアメリカへ製品を売ってドルを受け取り、そのドルをアメリカ国債や高額兵器という形で還流させている。問題は、還流していくドルの源泉は企業の儲けではなく庶民の収入ということ。大企業がアメリカとの取り引きで儲けるほど日本の庶民は貧しくなっていく。 アメリカは生産でなくドルを発行することで製品を手に入れる金融マジックを導入、そのマジックを広めるために広められた「理屈」が新自由主義だと言えるだろう。投機市場も資金を実社会から吸い上げるのに利用されている。投機バブルとはハイパーインフレの別形態だ。 当然のことながらアメリカ国内では生産分野の仕事が減り、庶民の生活水準は下がっていく。1980年代の問題化した際、その責任を押しつけられたのが日本だった。今は中国だ。 その中国は急速に技術力を向上させ、アメリカが世界支配に使ってきたエレクトロニクスの分野も中国の存在感が強まっている。 昨年7月、カナダ東部のノバスコシアでアングロ・サクソン系5カ国、つまりアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの情報機関幹部がカナダのジャスティン・トルドー首相と会談している。 そして中国のエレクトリニクス技術を安全保障上の脅威だとして取り引きを規制し始め、12月1日にバンクーバーの空港でカナダ当局が中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイ・テクノロジーズのCFO(最高財務責任者)である孟晩舟を逮捕した。この人物は同社の創業者である任正非の娘だ。中国との交渉を有利に進めるための人質ということだろう。 しかし、中国とアメリカとの対立は貿易収支が問題なのではない。中国はロシアと連携、世界の交易システムを根本的に変えようとしている。このまま進めばドル体制は崩壊、ドル体制が崩壊すればアメリカは破綻する。その破綻が遠くないと考えている人は少なくない。いや、すでに破綻したと考えている人もいる。
2019.05.07
J・エドガー・フーバーは1935年3月から72年5月に死ぬまでFBI長官の座にあった。その前、1924年5月から35年3月にかけては調査局の長官を務めている。37年間にわたってFBIのトップに君臨できたのは議員を含む社会に影響力を持っている人びとの弱みを握っていたからだろう。 弱みを握るためには個人情報を集める。基礎的にデータは勿論、通信の傍受、あらゆる手段を使った追跡、室内の盗聴や盗撮なども行う。電子的な監視システムが整備されつつある現在、情報は自動的に集められ、分析されているが、エレクトロニクス技術が発展する前、彼らはターゲットを絞っていた。 CIAと同じようにFBIも反戦運動を危険視。そうして傾向のある議員は排除している。例えば、「プライバシー侵害に関する上院小委員会」のエドワード・ロング委員長を攻撃する記事がライフ誌に掲載されたが、その黒幕はフーバー。議員は政治的にダメージを受け、1968年の選挙で落選している。 アメリカが警察国家的な色彩を帯びつつあることに危惧を抱き、フーバーと衝突していたコーネリアス・ギャラガー下院議員も1967年の秋、ライフ誌から攻撃されている。ギャラガー議員がマフィアと非常に親しく、定期的に顔合わせをしているとする捏造記事を掲載したのだが、事実ではなかった。翌年の8月にも議員がマフィアの手先で協力者だとする記事が掲載された。 電子的な情報活動の一端が明るみに出た1970年代にはフランク・チャーチ上院議員も警鐘を鳴らしている。同議員は1975年8月、NBCのミート・ザ・プレスという番組に出演、そこでアメリカ政府の通信傍受能力はアメリカ国民に向けられる可能性があり、そうなると人々の隠れる場所は存在しないと語っていたのだ。 逆に、フーバーと親しかった議員もいる。そのひとりがジョセフ・マッカーシー上院議員。フーバーはライバルのCIAを攻撃するためにもマッカーシーを使った。ジェラルド・フォードやロナルド・レーガンもフーバーと緊密な関係にあった。 それに対し、CIAの幹部でアレン・ダレスの側近のひとりとして有名なジェームズ・ジーザス・アングルトンはフーバーの弱みを握っていたと言われている。フーバーは部下と同性愛の関係にあったのだが、行為を撮影した映像を持っていて、何人かにそれを見せているという。 CIAはマフィアを手先として使っていたが、口封じのために何人かの大物は殺されている。例えばサム・ジアンカーナやジョン・ロッセリだ。 しかし、殺されなかった暗黒街の顔役もいる。例えばユダヤ系のメイヤー・ランスキーだが、この人物もフーバー長官を脅せる写真を持っていたとされている。 大統領選挙に勝利したジョン・F・ケネディはCIAの幹部と同じようにフーバーを解任する意向だったと言われている。大統領の意向を無視して独断で動く彼らは危険だという判断だ。 CIAのアレン・ダレス長官、チャールズ・キャベル副長官、リチャード・ビッセル計画局長は解任したが、フーバーに手をつける前にジョンとロバートのケネディ兄弟は暗殺された。 誰かを操るため、その人物の弱みを握るのは常套手段だ。情報機関や捜査機関だけでなく、犯罪組織、ビジネスの世界、あるいは個人でも使う。所属するタレントを拘束するために弱みを握る、場合によっては弱みを作るというようなことが行われていたという話を耳にする。今も続いているかどうかは知らない。 社会的に影響力のある人びとは庶民が行えば犯罪とされるようなことも許されるという。そうした仕組みは日本にもアメリカにもあり、トルーマン・カポーティは自身の作品である『叶えられた祈り』(川本三郎訳、新潮文庫)でその辺の事情を描いている。 その小説に登場するミス・セルフはある種のサービス業を営んでいるのだが、その仕事内容を説明する中で「客を脅迫したり、何か困らすようなことをしたら、とてもこわい報いが待っているわ。その報いって、ここをクビになるだけなんてなまやさしいものじゃないわよ。」と口にする。 逆に、もしその客を排除しなければならないと支配層が判断したなら、その行為が明らかにされるわけだ。どのような地位にあろうと、自分が法律を超越した特別な存在だとは思わない方が良い。
2019.05.06
パトリック・シャナハン国防長官代理がヨーロッパ訪問を中止、5月3日にマイク・ポンペオ国務長官やジョン・ボルトン国家安全保障補佐官と密室で会議を開いた。ベネズエラのニコラス・マドゥロ政権を倒すための方策について話し合ったと見られている。 アメリカの支配層はウーゴ・チャベスが大統領選挙で勝利した1998年からクーデターを目論んできた。第2期目が始まった2002年のクーデターではエリオット・エイブラムズ、オットー・ライヒ、ジョン・ネグロポンテが黒幕。 エイブラムスは1980年代からラテン・アメリカでの秘密工作に加わっている人物。当時、CIAはニカラグアの革命政権を倒そうとしていたが、その工作資金を調達するためにコカインの密輸に手を出していた。麻薬取引はCIA内部の調査でも確認されているが、有力メディアはその事実を封印するため、この問題を記事にしたサンノゼ・マーキュリー紙の記者を新聞社から追い出し、自殺に追い込んでいる。 ニカラグアだけでなく、エル・サルバドルでも秘密工作、いわゆる「汚い戦争」を実行していた。その戦争ではCIAの手先だった軍人や警官が1980年3月にカトリックのオスカル・ロメロ大司教を暗殺、その年の12月にはカトリックの修道女ら4名を惨殺している。1981年12月にはエル・モソテの村で住民900名から1200名を殺した。この村民虐殺についてエイブラムズはコミュニストのプロパガンダだと主張、偽証に問われることになる。 エル・サルバドルではアメリカの巨大企業にとって目障りな人びとを殺していく「死の部隊」が存在したが、その部隊を訓練していたのはアメリカの軍事顧問団。その中心的な存在だった人物がジェームズ・スティール大佐。 その当時、少将だったデイビッド・ペトレイアスはスティールの行っていることを見て感銘を受け、後に中央軍司令官となったペトレイアスはスティールをイラクへ呼び寄せ、そこでエル・サルバドルと同じように「死の部隊」を編成させた。 当時のイラク駐在大使は2002年のクーデターでエイブラムズと同じように中心メンバーだったジョン・ネグロポンテ。クーデター時は国連大使だ。その下でスティールは活動していた。 オットー・ライヒは1986年から89年にかけてベネズエラ駐在大使を務めたオットー・ライヒ、国連大使だったジョン・ネグロポンテ、そしてエイブラムズが黒幕だった。 結局、2002年のクーデターは失敗に終わる。OPECの事務局長を務めていたベネズエラ人のアリ・ロドリゲスからウーゴ・チャベス大統領へ事前に計画が知らされたことが大きいが、それでアメリカ支配層があきらめることはなかった。 例えば、ウィキリークスが公表したアメリカの外交文書によると、2006年にもベネズエラではクーデターが計画されている。「民主的機関」、つまりアメリカの支配システムに操られている機関を強化し、チャベスの政治的な拠点に潜入、チャベス派を分裂させ、それによってアメリカの重要なビジネスを保護し、チャベスを国際的に孤立させるとしている。 この計画も成功しなかったものの、チャベスは2013年3月、癌のために58歳の若さで死亡して排除された。アメリカは発癌性のウィルスを開発、実際に使っていると言われているが、チャベスのケースがそれに該当するかどうかは不明だ。 チャベスの後継者がマドゥロだが、チャベスと違ってカリスマ性はない。チャベスの死による不安定化を利用して2014年にアメリカはクーデターを企てるが、成功しなかった。 その当時に比べ、アメリカ支配層の手先が動員できる人の数はかなり減っている。それは今回のクーデター劇でも明らか。「カラー革命」方式が失敗した後、政府要人や軍の幹部を買収しようと試みたようだが、うまくいかなかったようだ。 そこで好戦派はアメリカ軍を侵攻させようとしているが、軍人は無謀だと判断している。山岳地帯やジャングルがあり、ベトナム戦争と同じことになると見られているが、その広さはベトナムの比ではない。 そうした中、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はベネズエラのホルヘ・アレアサ外相と会談した後、ワシントンの無責任なベネズエラの政権を軍事力で転覆させようという計画は国際法に違反した行為であり、破局を招くと警告した。
2019.05.06
すでに「一帯一路」は中国だけのプジョジェクトではなくなっている。2015年には中国とロシアが一帯一路をユーラシア経済連合(アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、ロシア)と連結させると宣言しているように、プロジェクトは中国とロシアが共同で進め始めたのだ。 4月25日から27日にかけて北京で開催された第2回目の「一帯一路フォーラム」にはパキスタン、フィリピン、イタリアを含む126の国や地域の代表が参加したと伝えられている。そのフォーラムではロシアのウラジミル・プーチン大統領の演説が注目されていた。 冷戦に勝ったと浮かれたアメリカの支配層は傲慢、強欲、凶暴という本性をあらわにしてしまい、求心力を失いつつある。支配システムが崩れ始めているのだが、それを力で止めようとし、ますます情況を悪くしてしまった。 そうした中、忠実なるアメリカ支配層の僕である安倍晋三首相はフォーラムが開かれている最中、4月26日にワシントンDCでドナルド・トランプ大統領に会っている。フォーラムに出席したのは自民党の二階俊博幹事長だ。 イギリスの戦略を引き継いだアメリカはユーラシア大陸の周辺部を支配し、内陸部を締め上げようとしてきた。ジョージ・ケナンの封じ込め政策やズビグネフ・ブレジンスキーのグランド・チェスボードもその戦略に基づいている。 一帯一路は「海のシルクロード」と「陸のシルクロード」が組み合わされているが、海のシルクロードは米英が想定する封鎖帯を突破することを意味する。アメリカが日本を巻き込み、東シナ海や南シナ海で軍事的に中国を抑え込もうとしているのはそのためだ。マラッカ海峡の封鎖も考えているだろう。アメリカは中国に航行の自由は認めない。 また、陸のシルクロードを寸断するため、アメリカはジハード傭兵を投入していると見られている。新疆ウイグル自治区、カフカス、アフガニスタンでは活動しているが、次のターゲットはトルコとも言われている。ウクライナのクーデターにもそうした意味がある。 そうした中、ロシア経由のルートが重要性を増しているようだ。ロシアにはシベリア横断鉄道があるが、一帯一路がそれとリンクすることも間違いない。またロシアの協力で中国は北極海ルートでヨーロッパとつながる可能性が高まっている。そうなると、中国はマラッカ海峡、スエズ運河、パナマ運河のリスクが小さくなる。アメリカ政府が文句を言っているのはそのためだ。 苦境に陥っているアメリカは軍事力や通貨を使った恫喝を続けているが、そうした強硬策は中国とロシアをますます強く結びつけることになり、その2カ国へ多くの国々を接近させていくことになった。アメリカに従属する日本は追い詰められていく。
2019.05.05
安倍晋三政権は追い詰められている。アメリカの戦略に従って中国、韓国/朝鮮、ロシアを悪魔化した幻影を国民に信じさせてきたが、その戦略が日本を破滅させつつある。それは以前からだが、そのスピードが速まり、日本に余裕がなくなってきたのだ。本ブログでは繰り返し書いてきたが、日本の経済界は矛盾に耐えられなくなっているように見える。 彼らが服従しているアメリカの支配層が急速に弱体化、その傲慢さや強欲さを隠さなくなった、いや隠せなくなり、アメリカの命令に従うと日本は近い将来に破滅してしまう情況になっているのだが、アメリカから自立しようとすると日本で支配者面している人びとは自らの地位と財産/収入を維持できなくなる。この矛盾を天皇の交代で解消することはできない。 第二次世界大戦で降伏する前も後も日本は天皇制官僚国家である。そのシステムを作り上げたのがいわゆる「明治維新」にほかならない。イギリスを後ろ盾とする長州と薩摩が手を組み、徳川体制を打倒して天皇制官僚システムを作り上げたわけだ。その新体制を「明治王朝」と呼ぶ外国人もいる。 関東大震災のあった1923年から日本はウォール街の巨大金融機関、JPモルガンの強い影響を受けるようになる。1933年3月から45年4月まで、ウォール街と対立していたニューディール派のフランクリン・ルーズベルト政権の時代は日米主従関係が崩れるが、駐日大使はルーズベルトが大統領に就任する直前に送り込まれたモルガン人脈のジョセフ・グルーだ。この人物は大戦後、日本の「民主化」、つまり民主主義的な衣をまとった天皇制官僚システムを形作ったジャパン・ロビーの中心でもある。 1991年12月にソ連が消滅、ネオコンはアメリカが「唯一の超大国」になり、誰から咎められることなく軍事力を行使できるようになったと考えた。このネオコンは欧米の金融資本とも深く結びついている。 そうした考え方に基づき、国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツが中心になり、1992年2月に作られた世界制覇プランがウォルフォウィッツ・ドクトリン。そのドクトリンに基づいて日本をアメリカの戦争マシーンへ組み込む出発点が1995年に出されたナイ・レポートだ。 そのドクトリンの前提はアメリカのライバルだったソ連の消滅とロシアの属国化。西側巨大資本の傀儡だったボリス・エリツィンの時代はパクス・アメリカーナは実現しそうに見えたが、21世紀にロシアが再独立に成功、ウォルフォウィッツ・ドクトリンの前提は崩れた。 そこで、ネオコンたちは力でロシアを再属国化しようとしたが、成功していない。その間、アメリカは自らの傲慢さ、強欲さ、そして弱さを明らかにしてしまった。中国、トルコ、韓国、朝鮮などの政策変更はこうした情況の変化も影響しているだろう。傀儡と見られているドイツの首相もアメリカの言いなりにはなっていない。
2019.05.04
アメリカ政府が仕掛けたベネズエラのクーデターは失敗に終わった。ドナルド・トランプ大統領は乗り気でないようで、推進しているのはマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、ジョン・ボルトン国家安全保障補佐官たち。大統領がシリアからの撤兵を命じたときに抵抗、命令を阻止したトリオだ。 シリアを含む中東から北アフリカにかけての地域で展開されてきた政権転覆プロジェクトやウクライナでのネオ・ナチを手先に使ったクーデターを支援していたアメリカの有力メディアはベネズエラでも侵略の応援団。 例によって「民主化」を求める人びとが「独裁者」を追い詰めるという西側の「リベラル派」が喜びそうなストーリーを有力メディアは流しているのだが、事実との乖離が大きい。ワシントン・ポスト紙は大規模な政府支持デモの参加者を約500人と主張したが、映像を見れば明らかに嘘。自らの信頼度を下げることになっている。 アメリカ政府がベネズエラの「暫定大統領」に任命したフアン・グアイドは4月30日に軍事蜂起を呼びかけたが、「笛吹けど踊らず」。グアイドと同様、反政府派の象徴になっているレオポルド・ロペスはスペイン大使館へ逃げ込み、クーデターに参加した兵士25名はブラジル大使館へ逃げ込んでいる。 ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は航空機でキューバへ逃げようとしていたポンペオ国務長官はメディアに説明、失笑を買った。ポンペオもワシントン・ポスト紙もクーデターは成功すると信じていた、あるいはベネズエラ政府から偽情報をつかまされていたのかもしれない。 おそらくアメリカ側は政府の要人や軍の幹部を買収することに失敗したのだろうが、次はアメリカ軍の侵攻というを政府の好戦トリオや有力メディアなどは考えているかもしれないが、戦争になれば泥沼化は必至で、数十年は戦闘が続くと考えられている。統合参謀本部は軍事侵攻に乗り気ではないだろう。 イラク、シリア、イランへ軍事侵攻するというプランをポール・ウォルフォウィッツがフォート・アーウィンの司令官だったウェズリー・クラーク准将(当時)に語ったのは1991年。ソ連の消滅を見通し、アメリカは好き勝手に軍事力を行使できると主張していたという。当時、ウォルフォウィッツは国防次官を務めていた。 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された直後、クラークは統合参謀本部を訪れる。欧州連合軍最高司令官を経て2000年に退役していた。退役時は大将だ。 そこでクラークは国防長官の計画を知らされる。イラク、シリア、イランに加え、レバノン、リビア、ソマリア、そしてスーダンを攻撃するというのだ。この計画を教えた軍人は苦悩の表情を見せていたという。アメリカ軍の幹部の中にはネオコンの軍事作戦を愚かだと考える人が少なくなかった。(自衛隊の幹部は違うが。) ベネズエラへの軍事侵攻が無謀だという意見がある中、トランプ政権で教育長官を務めるベッツィ・デボスの弟で、傭兵会社のブラックウォーター(2009年にXE、11年にアカデミへ名称変更)を創設したエリック・プリンスは傭兵5000名を投入できればベネズエラの政権転覆に貢献できると発言したという。 プリンスは海軍の特殊部隊SEALの元メンバー。特殊部隊は歴史的にCIAと近い関係にある。
2019.05.03
日本のマスコミは天皇が退位する、即位すると騒いでいる。彼らにとって天皇とは「至高の存在」なのだろう。日本は第2次世界大戦で降伏する前と同じように天皇制官僚国家であり、その元首は天皇だということである。 しかし、徳川時代の天皇は忘れ去られた存在だった。当時の天皇は生活に困窮し、短歌を売っていたという話を聞いたこともある。徳川の拠点である江戸に住む人びとが「公方様」として意識していたのは徳川家だ。 その忘れられた天皇を発掘し、徳川に代わる体制の象徴にしようとした人びとがいた。その人びとによって現在の天皇制、明治王朝が誕生した。その後ろ盾がイギリスの支配層だ。 徳川から明治へ移行する時期、つまり明治維新の頃、イギリスはビクトリア女王が君臨していた。心霊術にのめり込んでいた人物として知られている。 女王は夫のアルバート(ドイツのザクセン・コーブルク・ゴータ公の次男で、夫妻はいとこの関係)からアドバイスを受けていたとされているが、それ以上に影響力を持っていたと思われるのがネイサン・ロスチャイルド、セシル・ローズ、ウィリアム・ステッド、レジナルド・ブレット(エシャー卿)、アルフレッド・ミルナー(ミルナー卿)など。 言うまでもなくロスチャイルドは強大な金融資本の支配者でローズのスポンサー。ステッドはジャーナリストで、ブレッドはビクトリア女王の相談相手だ。後にブレッドはエドワード7世やジョージ5世の顧問を務めることになる。 当時のイギリスはいわゆる産業革命で生産力が上がったものの、商品が思うように売れない。国内では貧富の差が拡大、民の貧困化が深刻になる。そこで始めたのが麻薬取引と侵略戦争。中国(清)の富を奪うためにアヘン戦争を始めたのが1840年。その年にビクトリア女王とアルバートが結婚している。イギリスが「世界経済の覇者」と呼ばれるようになるのはそれ以降だ。大英帝国とは侵略と略奪で成り立っていた。 中国より前にイギリスが植民地化していたインドでは1857年に傭兵(セポイ)が武装蜂起、一般のインド人を巻き込んで大反乱になった。鎮圧されたのは1859年。その年にアヘンと武器の取り引きで大儲けしていたジャーディン・マセソンは日本へふたりのエージェントを送り込む。ひとりは歴史小説で有名なトーマス・グラバーで、赴任地は長崎。もうひとりはジャーディン・マセソンの創設者一族に属すウィリアム・ケズウィックで、赴任地は横浜。 明治政府は1872年の琉球併合から台湾派兵、江華島事件、日清戦争、日露戦争というように東アジア侵略を開始、その背後にはイギリスが存在していた。日本人はイギリスの支配者に操られていたと言える。 そのイギリスは1899年からボーア戦争(南アフリカ戦争)を開始、金やダイヤモンドを産出する南アフリカを制圧する。その直前に南アフリカではダイヤモンドが発見され、その利権に目をつけたイギリスの支配者たちが引き起こした戦争だった。後に首相となるウィンストン・チャーチルもこの戦争で頭角を現している。この戦争で世界の金をイギリスが支配するようになり、金本位制を採用する国々の通貨も支配できるようになった。 ちなみにチャーチルは貴族階級の家に生まれたが、父親のランドルフ・チャーチルは甘やかされて育ったプレーボーイで、46歳のときに梅毒が原因で死亡している。 生前、ランドルフはネイサン・ロスチャイルドから多額の借金をしていたことでも知られ、その額は現在の価値に換算すると数百万ポンド、つまり数億円。いくらでも借りられたという。ランドルフがロスチャイルドを裏切らない限り、借金は返済する必要がなかったようだ。 ネイサン・ロスチャイルドと親しい関係にあったジョージ・ピーボディーは銀行を経営していたが、そのパートナーがジュニアス・モルガン。その息子がジョン・ピアポント・モルガンだ。ネイサンはこの若者をアメリカにおけるビジネスの責任者にしている。そして巨大銀行のJPモルガンが生まれる。関東大震災以降の日本に大きな影響力を及ぼすことになるのはこのJPモルガン。 この銀行が中心になり、アメリカでは1933年から34年にかけてフランクリン・ルーズベルト政権を倒し、ファシズム体制を樹立させようというクーデターが計画されている。 そのJPモルガンが駐日大使として日本へ送り込んできたのがジョセフ・グルー。本ブログでは繰り返し書いてきたが、グルーと親しかった日本人には秩父宮、松平恒雄、徳川家達、樺山愛輔、牧野伸顕、吉田茂、岸信介、松岡洋右などが含まれる。中でも親しかったのは松岡。戦争が始まり、離日する直前にグルーがゴルフした相手は岸だ 要するにイギリスとアメリカの金融資本はつながっているのだが、その金融資本を中心とする支配層がベネズエラの石油を狙っている。 4月30日にもクーデターが試みられたが失敗、フアン・グアイドと反政府派の象徴になっているレオポルド・ロペス(2014年のクーデター未遂で自宅軟禁中だったが、クーデター派によって解放されていた)はスペイン大使館へ逃げ込み、クーデターに参加した兵士25名はブラジル大使館へ逃げ込んだ。 クーデタの失敗を受け、アメリカのマイク・ポンペオ国務長官はメディアに対し、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は航空機でキューバへ逃げようとしていたが、ロシアの説得で留まったと主張している。実際はごく狭い地域で混乱があっただけで、基本的に国内は安定、逃亡するような状況ではなかった。ポンペオは失笑を買っただけ。 アメリカ支配層が発する嘘の質が急速に劣悪化している。アメリカを中心とする支配システムの崩壊は早いかもしれない。アメリカの支配システムが崩れれば、日本の天皇制官僚制も維持できなくなる。
2019.05.02
ベネズエラで4月30日にラ・カルロタ空軍基地の外で銃撃戦があったという。(上空に向けて発砲した兵士がいただけだともされている。)基地のそばで反政府派と見られる兵士に囲まれたフアン・グアイドが軍事蜂起を呼びかける映像が流れているが、クーデター騒動は200メートル×500メートル程度の狭い地域で起こっているだけだとも言われている。 現地からの情報によると、「カラー革命」、つまり旧ソ連圏で西側支配層が仕掛けた市民を動員しての政権転覆工作が失敗した後に一部の部隊が軍事蜂起、グアイドや反政府派の人びとがクーデター軍を支援するような形になっている。 ベネズエラの政権転覆工作を実行しているグループは2003年にセルビアで設立されたCANVAS、その組織を設立したオトポール(抵抗)!から手ほどきを受けている。 オトポール(抵抗)!はスロボダン・ミロシェビッチの体制を倒す目的で1998年に作られた。これらにはNED(ナショナル民主主義基金)、IRI(国際共和研究所)、USAID(米国国際開発局)などから、つまりCIAから資金が提供されている。 現在、アメリカ支配層によるベネズエラの政権転覆工作を指揮しているのはエリオット・エイブラムズ。ウゴ・チャベス大統領時代の2002年に実行されたクーデターは3人のアメリカ人、つまり1986年から89年にかけてベネズエラ駐在大使を務めたオットー・ライヒ、国連大使だったジョン・ネグロポンテ、そしてエイブラムズが黒幕だった。それ以外にもクーデター計画はあった。 エイブラムズはCIAが1980年代に中米で行った秘密工作に参加している。当時、ニカラグアでは反革命ゲリラのコントラを使って政権転覆を目論み、エル・サルバドルの「汚い戦争」にも関係している。 エル・サルバドルでは1980年3月にCIAの手先になっていた軍人や警官がカトリックのオスカル・ロメロ大司教を暗殺、その年の12月にはカトリックの修道女ら4名を惨殺、81年12月にはエル・モソテの村で住民900名から1200名を殺している。エイブラムズはそのエル・モソテの村での虐殺について1982年2月に上院外交委員会で偽証している。 そのエイブラムズの描いた計画に基づいてだと見られているが、グアイドは2月23日に起こると事前に予告、バージン・グループを率いるイギリスの富豪、リチャード・ブランソンはその日にコンサートを開いた。 コンサートに20万人以上が集まったとワシントン・ポスト紙は伝えていたが、その様子を撮影した写真から実際は1万5000人くらいと推測されている。20万人程度の観客を集めたかったのだろうが、失敗した。 コンサートの開催日に「人道的援助物資」を積んだUSAID、つまりCIAのトラックがコロンビア領内に出現し、現在は使われていない橋を渡ってベネズエラ領へ侵入しようと試みた。政府軍からの銃撃を誘ったが、失敗している。そこで反政府派はトラックに火炎瓶を投げ込んで燃やし、政府軍に責任を押しつけようとしたが、これもうまくいかなかった。 そこでグアイドは不法出国して周辺国を回り、3月4日に帰国するが、ニコラス・マドゥロ政権は無視。その3日後にベネズエラでは大規模な停電があり、アメリカのマイク・ポンペオ国務長官はベネズエラ政府の無能さが原因だと主張する。が、アメリカ側の破壊工作と見る人が少なくない。
2019.05.01
日本の支配層が執着している現在の「元号」は一世一元、つまり天皇と一心同体の関係にある。天災、事変、祥瑞、即位などさまざまな理由で改められていた本来の元号とは異質。薩摩と長州を中心とする「明治王朝」によって作り上げられた新しいものである。 今でも続く明治王朝とは天皇制官僚体制であり、その上にはイギリスやアメリカを支配する巨大金融資本が君臨している。その歴史は本ブログでも繰り返し書いてきた。明治王朝が築かれる過程で自由民権運動が破壊され、琉球併合を手始めに東アジア侵略をはじめている。 その侵略を後押ししていたのがイギリスの支配層。中でも重要や役割を果たしたジャーディン・マセソンは中国(清)への麻薬密輸や武器取引で大儲けした会社だ。麻薬を売りつけるため、イギリスは1840年から42年にかけてアヘン戦争、56年から60年までアロー戦争を引き起こしている。 彼らが扱っていた麻薬、つまりアヘンはインドから持ち込まれていた。そのインドを支配するためにイギリスの東インド会社は傭兵(セポイ)を使っていたが、この傭兵が1857年に武装蜂起、一般のインド人を巻き込んで大反乱になる。 蜂起軍は統制されていなかったことから1859年に鎮圧されるが、その年にジャーディン・マセソンはふたりのエージェントを日本へ送り込んでいる。ひとりは某作家の歴史小説で有名なトーマス・グラバーで、赴任地は長崎。もうひとりはジャーディン・マセソンの創設者一族に属すウィリアム・ケズウィックで、赴任地は横浜。 日本を貿易の対象と見ていただろうが、それだけでなく、傭兵の供給地にしようと目論んでいた可能性が高い。アヘン戦争やアロー戦争でイギリスは中国に勝利したが、それは海戦。内陸部を支配する兵力を持っていなかった。傭兵が必要、ということで日本が目をつけられたのだろう。だからこそ、イギリスは戦費を用立て、技術を提供している。 明治以降は勿論だが、それ以前も日本が世界と無縁だったわけではない。そもそも「鎖国」という表現が正しくない。外国との交流はあったが、徳川体制が管理していただけである。現在も人びとが勝手に外国へ出て行ったり、外国人が勝手に日本へ入ってくれば犯罪だ。 ところが、日本は外国と関係ない閉じた空間だという前提で歴史を考え、歴史も因果の連鎖として捉える人が少なくない。現在の内政を語る場合にも似たことが言える。少なからぬ日本人は空間的な広がりや時間的な流れで現状を見ることができない。 日本人がそうした思考をする一因は元号にあるのではないだろうか。元号は日本独自のもので、外国の出来事との関連を考えるためには不便。歴史も寸断され、大きな流れとして捉えることには不向きだ。しかも出来事を天皇と結びつけて考えることを強いる。元号は支配層が情報操作する道具としても機能している。
2019.05.01
全40件 (40件中 1-40件目)
1