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【11月】「篠原さん、今日できれば定時で上がりたいのですが・・・。」先月の契約で一段と忙しくなり、ずっと残業が続いている。そして多恵子のパソコンの亀の歩みのようなスピードは相変わらずだった。でも1日くらい帰してあげたい。「ちょっと、今の仕事の進み具合見せてくれる?」彼女の手持ちの仕事を確認する。「上がっていいよ。待ち合わせ?」・・・さりげなくデートか確認する。「いいえ。一人です。」“はい、デートです。”とは言わないか・・・。正直気になる。終業1時間前、彼女が時計を横目で見ながらパソコンを打っている。さりげなく画面を確認すると、データの単位が間違っていた。「川村、データの単位間違ってないか?」「あっ。」彼女が泣きそうな顔になる。やり直したら定時には帰れないだろう。僕は彼女のパソコンがどんなに遅くても手伝ったことはない。「頑張ってやり直せ。その仕事は今日上がらないとまずい。」「はい。」ここからが、さすが彼女と思った。一瞬にして立ち直れるのか、彼女の表情が変わる。そして僕に手伝ってくれなどと、すがっても来ない。定時になった。彼女はもくもくと続ける。「代わるよ。上がっていいよ。」「いえ、大丈夫です。遊びの予定なので、あきらめます。 こんなに仕事いっぱいの日に映画見ようなんて、 無理したから失敗するんです。すみません。」「なんて映画?レイトショウがあるか検索してみるよ。」彼女は恋愛映画の題名を言った。恋愛映画、僕の絶対見ないジャンルの一つだ。「21:30からレイトショウがあるよ。 ここを20:50に出れば充分間に合う。」「はい!この映画、今日までなんです。」まだ時間があるので、彼女一人でもできるかもしれないがパソコン以外のこの企業へのレポートを僕は作成する。20:30完了し、僕が確認する。「OK。帰っていいぞ。まだ間に合うから。」「・・・篠原さん、せっかく調べてもらったのですが、レイトショウはあきらめます。痴漢とか、いたら怖いので。」
Feb 28, 2006
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「引いてないよ・・・。 引いてないし、姉さんは全然ダメじゃないよ。」「・・・私、男の人とそうなるって思うと変に潔癖で、 シャワーを浴びないのか、相手の手がきれいに洗ってあるか、 避妊してくれるか、相手の家だったらシーツがきれいか、 とか他にも色々・・・。」「そっか。そりゃ大変だ。」「このまま一生ヴァージンだったらどうしよう。」「それはありえないでしょ。」「・・・?」「その心配は、僕が解決しますから。・・・何てな。」彼が左手を腰に当てて、右手を大きく上げた。“ヒーローみたい。・・・ヒーロー?”「助けてくれるの、ヒーロー? ・・・思い出したんだけど、松永があなたの事、 ヒーロー系だって言ってた。」「仮面ライダーとか、ナントカ戦隊とか?」「・・・に変身する前の美青年って事じゃない?」「えっ、ヒーローって変身前は女性の相談にのってんの?」「まさか!子供番組よ。違うわよ。 あなたのルックスがヒーロー系なの。」彼の冗談に2人で大笑いした。大笑いでごまかしながら私は大胆にも彼に抱きついた。彼の耳元で内緒話のように話した。「今夜、解決して・・・。」「・・・だって約束したでしょ。」彼は私の体を優しく離しながら答える。「旅行に来る前、“レイプしない”って約束したでしょ。」「約束なんか、破っていいもん。」「酒も飲んでるし、またにしよう。」「また、なんてないもの。旅行から帰ったらナツホとでしょ。 嫌なら断ってくれて・・・」「断ってないでしょ。」彼が珍しく、私の言葉にかぶせて否定した。「姉さん。俺は姉さんと、酒飲んでそうなりたくないだけ。 俺なりに、姉さんとの関係を大事に思ってるから。 ・・・さて。俺、先に寝ます。」私の答えを待たずに彼が立ち上がった。私もあわてて立ち上がろうとすると、「姉さん。30分先に寝かせて。一緒に部屋に行ったら、俺、もう無理。」彼は就寝準備もすばやく床についた――。
Feb 27, 2006
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ネット小説ランキング>恋愛シリアス部門>「ビロードの背中」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります☆(月1回) 「姉さん、俺の年くらいの頃って、どんなだったの?」「・・・今、25歳だっけ。私の25歳は、にっくきゴルフ生活かな。 25歳か。戻りたいなあ、でも戻りたくないかなぁ。」「ン?」「自分に自信がないのと、うぬぼれが強いのとが交差してた。 こう見えてもけっこう勉強家で、なんだか色々な資格取った。 一つ資格が取れるたび、女友達減っていった。 いつも、チャラチャラした人と私は違うって態度に出していたし。 テニスとかエアロビの教室にも通ってた。 ゴルフなんてすごく上手になっちゃって、接待ゴルフに 毎週日曜日スケジュールに入れられちゃって。 自分の時間全然なくなって。 デートもできなかった・・・。ま、彼氏もいなかったし。 でも、忙しくても彼氏のできる人はできるのよね。 でもそんなのダメなの。勉強なんかしなくていいのよ。 だって、『私できな~い。』って言ってる子に男性は優しいもの。 そして結婚とかしちゃうんだから。 だから視点を変えて料理も頑張ったの。でも結果は一緒。 仕事も係長までになったけど、孤独だし。 それでも若い頃は『飲みに行こう』って男性社員からよく 声かけられたけど、いつから無くなっちゃったのかしら?」いつもの彼。自分の意見は言わずにじっくりと私の話しに付き合う。「無くなってないじゃない。社員じゃないけど、 俺と飲みに行ったりしてるじゃない。」“そうだ!みんながうらやましがるような青年と一緒だった。”「あっ、そうだった。 ・・・私、なんでも勉強して努力すればって。 でも、セックスは別。セックスは一人じゃ無理なの。 勉強する事はできても、パートナーがいなきゃダメなの。 だから・・・だから今でもヴァージン。」ここまで話すと緊張が解けたのか、涙があふれボロボロと流れた。「どうして頑張れなかったんだろ。あなたとのあの日も。」「頑張るってものとは違うと思うんだけど。 あの日は俺が悪かったし。」「・・・私、ダメなの。」私はついに泣いてしまった。しかも鼻水まで心配しなければならないような大泣き。彼は私に干していた風呂タオルを差し出した。私は顔を覆ってしばらく泣いた。“私は今まで・・・。”もう後は、泣いた勢いで支離滅裂な不安や不満を彼にぶつけた。彼はずっと聞いてくれた。時折「そっか。」と言いながら。泣くなんて久しぶり。いつも我慢してきた。我慢しなきゃならないと、立場や年齢を自分で決めてしまっていた。“泣いてもいいんだ・・・。”私の心も静かになってきた。タオルの下の顔が想像するだけで怖い。顔が熱く熱を持ってるし、まぶたは腫れてとても重い。しかし、ここまでの姿を彼に見せてしまったら、気持ちが引くだろうと考えていたら、「どうした?落ち着いた?」彼が私の頭を、子供にするようになでた。「引いた?」「引いてないよ・・・。 引いてないし、姉さんは全然ダメじゃないよ。」
Feb 26, 2006
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「・・・そろそろ姉さんの話し聞かせてよ。」「もう一つだけ。ナツホの名前のイメージからだけど。 彼女、小さくて、あなたとの後あなたのシャツとか着て 下はパンティだけで、あなたの入れたコーヒー飲んでいそう。」「あっ全然違うね。背も高いしさ。 さっ、姉さんの話にしよう。」「背、高いんだ。シャツは?」「もうっ。・・・終わると彼女すぐ洋服着ちゃうの。 そのままベッドで話する事ないね。 彼女は泊まっていった事は一度もないんだけど、 泊まってくのかなって思うくらい遅くまで部屋にいて。 テレビや音楽を嫌がるからシーンとしてるって日もあれば 洋服着てすぐ帰っちゃう時もある。・・・正直、そういう日はちょっと落ち込む。」「帰らない日に、彼女の事少し聞いたりできないの?」「俺が自宅のクッションに座ってコーヒー飲んでると 一緒に座ってくるんだ。 ・・・で、『塗り絵、描いて。』って頼まれるの。 だからマジックで動物とか花とか描いて渡すと、 色鉛筆で塗ってる。 俺には『本の続き読んでいいよ。』って。 俺も本読んだり、仕事しちゃったり。 彼女も、窓開けて人の流れ見てたり、舞台の本読んでたり。」「塗り絵なんて可愛いね。」「そう、何度もダメだって言ってるのに、仕事用の 値段の高い方の色鉛筆使うんだ。」「絵については何て?」「・・・ 『こんなに澄んだ絵、絵本になったら子供たちが読むんだね。 その絵本画家さんが、昼間っから女とヤってたなんて知ったら、 世のお母様方は驚くだろうな。』 って言う。」私は笑ってしまった。彼もやっと、少しの笑顔を私に見せた。「さあ、姉さんの話しようよ。」「私の事は普段話してるじゃないの。 今日話さなきゃならない事なんて。』「姉さん、俺の年くらいの頃って、どんなだったの?」
Feb 25, 2006
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【10月】今日は朝から彼女と2人で営業だった。午前中に2社、午後に1社。全て大成功だった。やはり、彼女の営業手腕は素晴らしいものだった。 取引先の社長は彼女の話に耳を傾け、契約書に印を押す。中には彼女のミニスカートからすらりと伸びた足を見てセクハラな事を言うオヤジもいたが、さらりとかわして難なく契約に持ち込んだ。僕は彼女にあっぱれと感じながらも、営業手腕にはシットする。これなら本社が手放したくない理由が分かる。そして本社の営業課の男性社員の気持ちも分かる。僕たちはカフェで一息ついてから支社に戻る事にした。「ミニスカートもきれいな足も、武器なのか。」僕のこの言葉は、敏腕へのシットより、僕ですら直視できない彼女の足をスケベなオヤジたちに見られるのが嫌だった。「篠原さんも、本社の男性と同じ事言いますね。」 彼女はほんの少し不機嫌に答える。「私は落とすと決まったらどんな武器だって使いますよ。 出し惜しみしないんです。取引先の社長にも、篠原さんにも。」篠原さんにも、と聞いて思い出した。思い切って聞いてみる。「営業に出るとき、ガーターストッキングって本当?」「はぁ?誰から聞いたんですか。 ・・・まだ営業に出たばかりの頃の話です。 ガーターストッキングだと契約が取れたんです、私。 だからジンクスのようになってたかな。 でも今なかなか売ってなくて。 ちなみに冬は普通のパンツスーツですけど 契約取れました。」「そうなんだ。」「あ、でも今日は朝から営業って分かっていたので・・・」彼女は腰を椅子からずらし、太腿とその半分くらいが隠れるミニスカートの裾を手に持とうとし、小指と薬指がスカートに入った。不覚にも僕はその様子をじっと見てしまった。“めくるのかな。”「篠原さん。」はっと我に返った。「篠原さん、エッチですね。」もう、開き直るしかなかった。《男はみんな》と言おうとしたが世界の男のせいにしてはならない。「僕は・・・エッチだよ。」「・・・よかった、気が合って。」彼女は内緒話のように僕の耳を覆った。「・・・実は私もエッチなんです。」離れた多恵子の目を、僕はじっと見た。多恵子はニコッと笑うと「さて、会社に帰りましょうか。」と元気良く立ち上がった。そうだ、まだ仕事中だった!・・・ところで、今日のストッキングは?
Feb 24, 2006
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・・・彼は今まで、ナツホとの心の中を誰にも話せずに来たのだろう。「俺に甘えてきて本当に可愛いなって思ってると、『今日いい事あったんだ。』って言うから、『何があったの?』って聞くと、『いい事。』って 答えるんだ。 何度も何度もしがみついてくるように・・・聞くと 『今日は嫌な事があったの。忘れたい。』って・・・。 半分泣いてるような時もあるし。 もう聞いても答えない事、分かってるから。」「どうするの。」「ま、そのまま続けるとか。 ・・・でも、半泣きの女の子に、って思うと 自分で自分が嫌になる。 前は心配して優しい言葉の一つも 言ってあげられたらって思ってたけどね。 俺に優しくして欲しくないって言うから。」「なんで優しくされたくないの?」「分からない。本当に分からないの。 だから聞こうとすると、はぐらかすように遮断される。」「だけど、自分の感情を素直にあなたにぶつけてる。」・・・ただ、普通の人と表現方法が違うだけ。彼女はなぜかの理由を話したいのではなく、言い訳を聞いて欲しいのでもない。彼によって、彼女は解放されたいのだ。なら、ベッドから離れた二人はどうしているのか。なぜ、彼女は彼に優しくされたくないのか。「でも姉さん。人は話してコミュニケーションとるでしょ。 だから人なんじゃない。 姉さんが話してくれると、俺ホッとするよ。」自分の事を自分から話さない彼と、彼の事を聞きたがらない彼女。 自分の事を語りたがらない彼女と、話の聞き上手な彼。ちぐはぐのような、かみ合っているような・・・。「―― 俺、少し彼女との関係に疲れてきてるのかな。」彼がやっとこっちを見た。彼女との話をしている彼は、何かを思い出すように前を向いたまま寂しそうな表情をしていた。こっちを見て、ホッとしたように微笑する。「・・・そろそろ姉さんの話し聞かせてよ。」
Feb 24, 2006
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「ビロードの背中」-第8章の6-「・・・俺、タバコ吸ってもいい?」彼は立ち上がって、かばんからタバコを取ってきた。私は、彼がタバコを吸う事も知らなかった。ファミレスも、いつも禁煙席だった。「タバコ吸うなんて、知らなかった。」「あんまり多くないよ。一日半箱位かな。」タバコを吸う彼を初めて見た。人差し指と中指に深くはさんで、口元を覆うようにして吸う。吸う時、少しだけ目を細める。うっすらとヒゲの伸びた口元に長い指と切りそろえられた爪。彼とタバコがキスする。何度も。何度も。“なんだかエロティック・・・。私も彼と、一度キスした。”「・・・さっきの質問だけど。・・・絵がね。いいの。」それだけ言うと再びタバコを吸うだけで、黙ってしまった。「それが答えです。」「・・・それが答えなの?」「・・・情けない話なんだけど、俺、彼女との事にすごく影響される。そんなバカなって自分でも思うんだけど。スケッチブックを見ると、以前の絵とは全て違う。彼女の精神状態が俺の中に入ってきちゃう感じ、って言えばいいのかな。なんかうまく言えないんだけど・・・。で、絵を描くと、絵の表情が躍動的で色彩も・・・簡単に言えば自分が描いたとは思えない絵になるの。技術とか経験とかじゃなくて、その時のパワーのような。本当に?って思うでしょ。どう説明していいのか分からないんだけど。すごくいい絵が描けるの。」彼女が彼に浸透して、絵ににじみ出る。そんな事あるのか?「たぶん異常な関係だから、刺激が強いのかもしれないね。」「異常な関係?」「俺、本当に彼女分かんないの。姉さんは俺に何でも話してくれる。 それが嬉しいし、喜怒哀楽が素直で、よく分かっていいでしょ。 でも、彼女はさ・・・。」考え込むように黙る。「俺、しゃべりすぎだな・・・。」彼は続けて2本目のタバコに火をつけた。「お姉さんは大人よ。大丈夫、続けて。 お酒のせい、お酒のせい。」
Feb 23, 2006
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【9月】「川村、今度のサッカーの試合見に来ない? 弁当も作ってきて欲しいんだけど。」今年は残暑が厳しく、しかも彼女は一度もサッカーに興味を持つような話はした事がない。ダメで元々。だって恋人って訳じゃないし。ところが意外にあっさり「いいですよ。何日ですか?」話をしながらパソコンを打っている彼女を見て、成長したなぁと感心しながら「19日の日曜日に。」「はい。詳細は後でにしてください。」パソコンを打ちながらではこれが限界らしい。もしかしたらサッカーの事もよく考えないうちに引き受けたのかも。「ありがとう。」19日の朝、9:00に待ち合わせてチームの先輩の自動車に乗ってグランドに集合した。話題はこの試合と多恵子の話に集中する。サッカーの試合には幸運の女神・多恵子のお陰なのか勝利し、弁当も多恵子と勝利でとても美味しい。14:30頃、先輩の自動車でグランドを後にした。途中大粒の雨が降ってきた。夕立の激しさでフロントガラスは滝のようになっていた。僕のマンションの前に着くと他の自動車が横付けされていて入り口まで寄せられない。「僕たち、ここで降りて走ります。」「彼女はどこかの駅まで連れて行こうか?」なんて気の聞かない先輩の言葉。僕たちは先輩の言葉に感謝の振りをしながら2人で降り、走った。たった30m位だったがずぶぬれになってしまった。エレベーターに乗ると冷房が入っているのか異常に寒かった。「もう少しだから。」彼女は声は出さず、うなずいて腕を擦って震えていた。Tシャツが雨に透けて薄い水色のブラジャーが見えた。“この風邪をひきそうな事態に何を考えているんだ、僕は。”部屋に入るとすぐシャワーを浴びられるよう準備をした。「シャワー浴びれば暖かくなるよ。」彼女も素直にそれに従った。僕はバスタオルと着替えを用意した。彼女がシャワーから出てきた。僕のTシャツとジャージの裾を捲って履く彼女にドキッとする。続けて僕が入った。熱い湯にホッとさせられ、彼女の水色のブラの事を思い出した。僕の大きいTシャツをぶかぶかに着ている多恵子はセクシーだ。2人ともシャワーを浴びたこのシチュエーションに、次の展開を色々想像する。“まずはコーヒーを入れて、暑いのに試合に来てくれた事に感謝しなきゃ。そして風邪の心配をしよう。もしかしたらキスくらいはするかも。・・・つーか、中学生か僕は。”シャワーから出た僕に意外な展開が待っていた。彼女はいなくなっていて、メモが残してあった。《雨がやんだので帰ります。サッカーの試合も勝ててよかったですね。着替えありがとうございます。貸してもらいます。では明日会社で。》僕はすぐに玄関を開けた。太陽が顔を出していた。
Feb 23, 2006
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【8月】夏休みに入る前に会社全員参加で毎年恒例の決起大会が行われた。毎年店を貸しきり、要はビールの飲み会だ。その日は池本の隣の席に着いた。池本の右隣の席に高久彩子が座り、僕や池本に料理を取ってくれたりビールを注いでくれたり、かいがいしく面倒を見てくれている。「池本さんから聞いたんですけど、篠原さんは社内恋愛しないって 決めてるって本当ですか?」確かに今まで会社の女性と付き合ったことはない。でも決めてると言った事もない。高久彩子の問いに僕は池本を見た。「高久ちゃん、篠原君のこと憧れてるらしいよ。ねぇ~。」と池本と彩子が顔を見合わせる。“篠原君とお前が呼ぶな。”「・・・だって、大人っぽくて素敵だなって。」「そうだ。高久ちゃん、篠原君の隣に座るといいよ。」 高久彩子は25歳で顔も可愛い。背が低く守ってあげたくなるような女性で、彼女と恋愛したい男性社員も少なくない。僕も好かれれば悪い気はしない。話をしながら、いい子だなとも思った。そういえば池本は?と思い探すと川村多恵子の隣に座って話している。多恵子の楽しく笑う顔に、僕はなぜかシットする。
Feb 23, 2006
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【7月】僕はサッカーチームに入っていて毎週日曜日に練習、時々試合をしている。と多恵子に話したら「私も何か運動したいな。今、ヨガも流行ってますよね。」の話から、今週の土曜日2人で公園でデートすることになった。デートといえるのか運動目的なのか、彼女がバトミントンを持ってくると話した。僕は運動神経は悪くないほうだ。あまりバトミントンの経験はないが遊び程度なら。土曜日多恵子は大きな手さげかばんにラケット2本を入れて現れた。ラケットには有名スポーツメーカーのカバーが掛けてある。「私、高校のときバトミントン部だったんですよ。」ほとんど草、時々坊主、申し訳程度の芝生の上にレジャーシートを敷き、僕たちはバトミントンを始めた。多恵子の打ち返しのシャトルのスピードは流石に速く、僕もかなり真剣に取り組まなければ拾えなかった。ほんの遊びのつもりが試合のようにラリーが続く。「ひと休みしましょう。お弁当作ってきたんですよ。」7月にしては少し曇っていて涼しいのが助かった。もっとも、まさに試合後の僕たちは暑くて500mlのペットボトルのお茶を一気飲みする。冷たい。冷えている。「朝、1時間くらい凍らせて、大体このくらいの時間で溶けるんですよ。まだあと2本あるから。」彼女は素早くお弁当を広げ、割り箸、ウェットティッシュなどを用意する。おにぎりが7個とおかずが4品。その中に男心をくすぐる里芋と人参とシメジの煮物が入っていた。早速口に運ぶ。美味い。「今冷凍食品で材料がカットしてあるものが打ってるんですよ。だから味付けだけすればOKなんです。私も一人暮らしだからよく利用しますよ。何しろ煮物って煮とけばいいからそばについてなくてもいいでしょ。要は楽なんですよ。」 話から普段の料理の様子が伺える。営業の多恵子と家庭の多恵子のギャップが想像を楽しませる。「ロシアンおにぎり、作ってきたんです。7個全部具が違います。一つだけキムチの刻んだものが入ってるんですよ。さぁ、選んでください。」一つ目は昆布だった。セーフ!おにぎりもおかずも美味しい。二つ目にビンゴだった。僕はお茶をがぶ飲みする。彼女は僕の食べかけのおにぎりを手から取ると食べ始めた。三つ目もビンゴだった。「あっそうか。明太子もだめですよね。」何の抵抗もなく僕の食べかけのおにぎりを食べる彼女が可愛く頼もしく感じた。しかしあまりにも楽しそうに笑う彼女に“お前、Sだろ。 ”と思った。またこのシチュエーションが結構楽しく笑える僕は“M”かもしれない。
Feb 22, 2006
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【6月】僕たちの支社の服装はカジュアルだ。何かあってすぐ営業に行けるようスーツ等はロッカーに置いてあるが、基本的に内勤の服装にはこだわっていない。彼女はいつもブラウスやカットソー、下はチノパンやロングスカートで化粧も薄く、髪は黒に近い茶色のショートヘアー。いわゆる地味な容姿だった。ある時、本社の部長より連絡があり多恵子が急に営業に行くことになった。「取引先が川村君でないと話しにならないって、本社の新営業マンに クレームが。大手なのでこの場をうまくまとめて欲しい。」との事。支社長も本社の部長命令にかなり緊張している。多恵子は「はい。」と答え席から立ち上がる。他の社員もこの事態の多恵子に視線が集まる。「篠原さん、お願いがあります。大森興産の最新の資料データと 社長個人のデータ・それと奥様のデータ・例えば最近の趣味とか 習い事とか、用意してもらえますか。私は15分後に出かけます。」 「OK。」僕はまるで本社にいるような気分になる。15分後、更衣室から多恵子が着替えて入ってきた。僕を含め支社の人間が唖然とする。髪は額を出すように分け形よくまとめている。顔はアイライン1本でこんなにも変わるのかと思うほど目を引き立たせ、口紅もローズの濃い色。服も胸元の開いた黒のスーツにダイヤモンドのネックレス。スカートはひざ上10cm位のミニスカートに5cm位の黒のヒール。多恵子は机から社章を取り出すと胸元につけた。多恵子に見とれている僕に、「篠原さん、資料見せてもらえますか。それと、ここからの大森興産までの 電車と道路、打ち出して下さい。」僕がパソコンで新たに打ち出している隣で、彼女が資料を読んでいる。少し机にかがんでいるので多恵子の胸の谷間が僕の目に入ってきた。多恵子は全ての資料を受け取ると「サンキュー。」と言いながら僕にウィンクした。多恵子が支社のドアから出て行くとどよめきが起こった。「かっこいい!」と若い女性職員が黄色い声を出す。支社長が僕の席に来て耳打ちする。「流石だね。川村君もだけど、篠原君の情報データ処理も。」そして「はい、全員仕事に戻って!」と大きな声で指示する。しばらくすると僕の同期の池本が多恵子の席に座った。「篠原君、知ってるかな?川村ってスーツの下はガーターストッキング らしいよ。」「えっ。」「その様子じゃ知らないよね。今日の川村、いい女だったなあ。」僕らは顔を見合わせてうなずいた。池本が席に戻った後も僕の頭と耳に「ガーターストッキング」の響きが離れなくなってしまった・・・。パソコンが一人で使えたこともあって、多恵子の分も含めて今日の仕事は終了した。時計を見たら19:00だった。帰宅の用意をしていると携帯が鳴った。多恵子だ。「今から戻ります。」「もう終了した。帰っていいよ。」「篠原さん、食事しましたか?夕食一緒に食べませんか。」僕たちは某駅で待ち合わせした。今日の川村多恵子と待ち合わせと思うと心が躍る。駅に着くと多恵子が先に待っていた。周囲の目を引く凛とした美しさだった。「篠原さん。」そう言うと右腕を僕の左腕に絡ませてきた。悪い気はしない。「この近くに美味しいカレー屋さんがあるんですよ。そこはどうですか。」返答する前に連れて行かれた。店内はカウンターとテーブルが選べるようになっている。「カウンターで。」彼女が答えると店員が案内する。着席するとさっそく水が運ばれ注文が取られる。「私、チーズカレーの辛口。」「ビーフカレーの・・・甘口。」不思議そうな顔で多恵子が、そして店員までもが僕を見る。ここが大人として、男としての欠点。僕は辛いものが苦手なのだ。「篠原さん、かわいいですね。」「ほっとけ。ところでなんでカウンター席を選んだの?」「私、篠原さんの右側の顔が好きなんです。さっき腕組んで 左側の顔を見たけど、右側の方が素敵ですね。」“はぁ?” 褒められているのか、からかわれているのか。 声が好きで、右側の顔が好きって。・・・なんじゃ、そりゃ。
Feb 22, 2006
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emyがビロードと平行して書いた短編をアップしちゃいます。。また違った感じで楽しんでいただけるのでは。。。ビロードはいよいよクライマックスに向かってまっしぐらですが、その前にちょっと一息入れてデザートを召上れ・・・。 「束縛」【4月】彼女が今年度の人事異動でこの支社に来た。そして僕の席の隣に。あの《川村多恵子》が。多恵子は本社で男勝りの営業をこなすスーパーウーマン。大きな契約をいくつも成功させたという彼女を知らない者はこの会社にはいないだろう。しかし、この支社への移動は多恵子の強い希望らしい。本社の営業課は、泣く泣く彼女を手放したらしいと聞いた。なぜだろう。この支社は本社と違って、営業も内勤も自分でこなす。相手先の約束、資料データ作成・整理、その他の雑用すべて。そして僕は知った。多恵子はパソコンが全くできないことを!パソコンは2人で1台。左の席に僕、右の席に多恵子、そして真ん中にパソコンが置いてある。支社長の「篠原君、川村君の面倒見てあげてね。」の言葉に、パソコン指導から入った。正直そんな時間の余裕など無いところに余計な仕事も増えて、僕は毎日帰宅が深夜になった。もちろん多恵子も深夜になる。僕の根気はいつまで持つか。あの、うわさに高い営業のスーパーウーマン多恵子のパソコンに今夜も付き合う・・・。【5月】多恵子のパソコンの作業は慣れないせいか亀の歩みのようにのろく、資料データ作成は普通なら20分位のところを一時間位かかっている。その間にも、「あの、篠原さん・・・。」と声を掛けられ、僕の仕事もよく中断させられる。しかし僕の根気は思ったよりも続き、今のところ僕なりに優しく指導している。 ある日の残業の夜、多恵子が「篠原さん、帰宅したら電話してもよいですか。」と聞いてきた。「いいけど。でも、話したい事なら今話してもいいよ。」・・・どうせ2人で残業しているんだし。「あの、電話したいんですけど。家族や彼女に気を使いますか?」僕は1人暮らしだし、恋人とも7ヶ月前に別れていた。僕たちは電話番号を交換した。 僕が帰宅して30分後、携帯が鳴った。多恵子からだった。「川村です。」「篠原です。どうした?」「私、篠原さんの声が聞きたくて・・・。篠原さんの声が好きなんです。パソコン教えていただいてて、隣で響く声がすきなんです。電話の声も素敵でした。思い切って電話番号聞いてよかったです。ありがとうございました。おやすみなさい。」「・・・せっかくだから、五分くらい話そうよ。」 その後30分くらいは話して電話を切った。多恵子がなぜこの支社を希望したのか。本社の営業体制に疲れたらしい。周りはほとんどが男性。しかもプライドが高く、仲間というよりライバルという意識。女だから~、女のくせに~と言われ続け、ま、心が病気になりそうだったという事だった。だから僕のように時間をかけてパソコンを教えてくれる人は驚いたし嬉しいと。もっとも、本社では資料データは自分で作成しなくても、それ専門の女性に頼むらしいが、男性社員には親切で彼女には意地悪する人もいたらしい。また、彼女が今年の3月で28歳になった事も知った。僕が今年31歳になると言ったら、もっと年上かと思い驚いたと言った。「老けてる?」って聞いたら、大人の男の色気を感じると、嬉しい事を言ってくれた・・・。「束縛」【6月】に続く。。。
Feb 21, 2006
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「ビロードの背中」 -第8章の5-「・・・芸術家同士の話ね。外見じゃないって言うけど、 オフィスはスーツが正解かも。よく社会人を心得てますね。」「この間の臨時の仕事みたく、急できつい仕事も多いけど、 やる気になるね。 で、俺は、憧れの姉さんにも、 勇気出してみようって思ったの。 姉さんみたいな人と友達にもしもなれたら、 俺も強運がめぐって来るような気がして。 まっ、俺の勇気はメールアドレスが精一杯だったけど。」「・・・初めてメール交換した時は、私も嬉しかった。 私、モテないから。」「・・・姉さんは出来すぎちゃうのかな。 姉さん落とすの、難しそうだもの。 よっぽど男の方に自信がないと無理かな。 誰だって、アンタなんか相手にするわけないでしょ、 って言われたくないし・・・。 傷つくの怖いよ、男って。」「でも、彼女は勇気を出してあなたを落とした。 髪まで切って、落とした。」「別に付き合ってるわけじゃないし。 彼女、自分の事全然話さないし。 大体、俺の事だって、どう思ってるのか。 俺の事も聞かないし・・・。」「それでも一緒にいるのは、少なくとも あなたは彼女が好きなんでしょ。 それとも ・・・したいから?」彼は黙って下を向いてしまった。沈黙が続く。なんて質問してしまったの。これで、彼女が好きだと彼が答えたら、私はどうするのだろう。「姉さん。」の声に、心が飛び上がる。「・・・俺、タバコ吸ってもいい?」
Feb 19, 2006
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「・・・質問3。女優ナツホの好きなところは?」「・・・姉さん、それ聞いてどうするの。 答える必要ないでしょ。」彼は黙ってしまった。私も黙ってしまった。「・・・姉さん。せっかく二人で来てるんだから、 他の奴の話、すること無いでしょ。」「・・・前回、彼女の話し聞いた時、 正直聞かなきゃ良かったと思った。 悔しいけど、魅力的に思えて。 私には無いものでいっぱい。 とにかく全然聞きたくないの。 でも聞きたくて仕方がないの。 ・・・これって何なんだろ。 私の為に話してほしいの・・・。」しばらく黙っていた彼が、根負けしたように話し出した。「・・・俺は、聞かれたから話すんだからね。」彼は私に、念を押すように確認する。「・・・自信つけてもらったかな。 俺、絵を売り込むのすごくヘタで。 なかなか仕事もらえなくて。 出版社に絵を届ける時・・・、『絵の仕事って全然分からないんだけど、私なら、仕事以外の絵を3枚位描いて渡してくるな。たとえば、他の劇団の公演観て魅せられたら自分の演じた舞台のチラシとか持って名前だけでも売り込んでくる。もちろん、所属劇団の仕事がメインだけど、それがきっかけでその劇団に客演で出してもらえるかもしれないし。持ってった絵に厳しい事言われたり、もしかしたら捨てられちゃうかもしれないけど、やらないよりは数倍マシじゃないかな。』 って。・・・スーツとかもそう。 絵を届ける時、ジーパンとかで 行っちゃってたんだけど、『まずは外見から。話を聞いてもらう姿勢をね。』 って。 だめもとでスーツ着て、絵も、 パターンの違うの3枚持っていったら、 けっこう好感触で。 それからしばらくたってからだけど、 単発も含めて、絵の仕事が入るようになって来た・・。」
Feb 16, 2006
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「・・・では、質問1。どうして私にメールアドレス教えてくれたのですか。」「・・・いい女だなあって思ったから。」「だめ。本音トークなんだから、もっと詳しく褒めてよ。 時間はたっぷり。徹夜のつもりで聞くよ。」「何?詳しく褒めるって。」彼の顔、そして、浴衣から少し見える胸がピンク色になった。“あら、思いがけず純情なのかも。”「ほら、褒めて褒めて。」「本人前にして、厳しいなあ。」彼は私をちらっと見ると、目線をそらしてコップのビールを一気にあけた。再び私を見て話そうとするが、照れ笑いで話せない。「えっ、そんなにすごい話でもないじゃない。」照れ笑いとは裏腹に、彼は静かに話し始める。「・・・俺、カッコイイって思う女が好きなの。 姉さんを初めて見た時、まず、目の力が強いのが印象的。 それでいてすごく冷たそうで。気高い美人て感じ。 レンタルの店内もスーツで、ヒール、カツカツ言わせてさ。 それを見て、一目で気に入ってしまいました。」「・・・。で、メールは?」「・・・姉さんに挑戦してみたくなりました。 男として、高嶺の花に手を出したくなったの。 だから、返信が来た時は大喜びしました。 あ~もう、勘弁してよ。」「・・・質問2。私の好きなところ、詳しく教えてください。」「何でも俺に話してくれるところ。」「会社の愚痴や不満や、あなたに対する年上の説教とかも?」「いろいろ含めて楽しいよ。本の話なんかも・・・。」静かな声が、耳に心地いい。ピンクの胸元に、どうしても目が行ってしまう。“思ったより色白なんだ。”彼の話が耳に入らなくなってしまった。“キスしちゃおうか。”話とは全く違うことを考えてしまう。―― でも、まだ本題が残っている。
Feb 13, 2006
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「・・・メールの話?彼女とも、久しぶりに会うんでしょ。」あくまで私だけが思っていただけかもしれないけど、今夜は彼と特別な夜になるはずだったのに、運命はとことん私に容赦しない。「どう答えたらいいのか、正直わからないや。 せっかくの旅行が、こんなふうになっちゃうなんて・・・。」「本当に。・・・責任取ってもらおうかな。」「責任か・・・。はい。二人の良い思い出になるよう、なんでもします。」「言ったな。では、せっかく二人で来たんだもの。 本音ブッチャケトークショー!私の質問に何でも答えてもらうわよ。」私は拍手をし、軽くはしゃいだ。「えー。全然やりたくないで~す。」彼もふざけて、右手を上げて答える。「どうして?聞かれて困ることあるの。この10歳も年上のお姉さんに。 なんでも相談に乗りますよ。」彼はビールを一口飲むと、私をまっすぐ見た。「ところで、姉さんへの質問も、答えてくれるのでしょうか。」お酒のせいか、少し目が潤んでいて、眠いような、すがるような目。年下・・・しかも男のくせに、なんて色っぽい目をするんだろう。
Feb 10, 2006
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「・・・さっきの話じゃないけど、絵の仕事は順調ですか。」「定期的な仕事なら。子供向けの雑誌のとか。 でも、絵本の仕事がもう少し増えてほしいな。 ・・・姉さんは?」「あと2週間位で、大きい企画が始まる。 また帰りが遅くなるわ。」「そっか・・・。」会話が途切れてしまった。私は触れないように頑張っていたけど、やはり不自然。彼もテーブルを見つめたまま、落ち着かない様子。もう一度、心に言い聞かせた。女優のナツホが、このタイミングでメールを送ってきたのは、彼のせいではない。その前の友達の電話が無ければ、彼もメールの相手を、私の為にごまかしたろうに。バカ正直に携帯電話を見せて、メールを読まずに消去したことは、彼の精一杯の誠意と受け取らなければ・・・。しかし旅行から帰ったら、彼は友達と会い、ナツホと会う・・・。この現実が生々しくて、頭から離れない。「・・・帰ったらすぐ友達と飲みに行くなんて、忙しいわね。」彼はこちらを見ずに、フッと笑った。「そうね。飲みに行くのは楽しみかな・・・。 姉さん・・・。姉さん、俺、東京公演が今日終わること 本当に知らなかった。」「・・・メールの話?彼女とも、久しぶりに会うんでしょ。」
Feb 8, 2006
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ガラス越しに庭園を見ようと進むと、私の親くらいの熟年夫婦(と思う)が、先に来ていた。特に何も話さず、横に並んでいるだけなのだが、この旅館の佇まいと、二人の姿がしっくりとはまっていて、絵葉書を見ているようだった。“仲の良い夫婦に、言葉は要らないのかも。”「―― 月が明るいわね。」「・・・うん。 瑠璃、群青、紺、松葉、緑青・・・ 自然の色のグラデーション。」「あっ。仕事の顔。」「・・・月明かりの色って、神秘的でしょ。 心を妖しくさせるでしょ。」「たとえば、今はどんな風に。」「う~ん・・・。部屋に戻って、ビールでも飲もうとか!」私に彼が笑顔を向ける。若い。庭園を楽しむ熟年に比べ、花より団子、庭よりビール。それに素直に賛成できる私も、まだまだ若い。土産売店に入ったのは閉店の3分前だった。急いでアイスクリームを手にすると、彼がお金を払った。部屋に戻った。時計を見ると21:10だった。「売店の金額、いくらだった。私出すよ。」「もう、姉さん。恥じかかせないでよ。 これくらいの金はあるよ。」これは男の見栄というものだろうか。思い出してみれば、今までも私達はずっと割り勘定で彼に食事代を支払ってもらったことはあっても、私のほうが多く払ったことはほとんど無い。彼は駆け出しの絵本画家。私は企業の係長。彼の収入に比べたら、私は大金持ちなのに。しかしここは、若さゆえの見栄に乗らせてもらうことにした。「ありがとう。ごちそうになります。」ビール、コップ、おつまみなどを用意すると、テーブルを前に、私は彼の左側に並んで座った。彼の顔がグッと近づく。口元とアゴに、薄っすらとひげが伸びてきている。「はい。旅行にカンパイ。」と、コップを鳴らしたものの、最初のおつまみはアイスクリーム。
Feb 6, 2006
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―― 気まずい空気の沈黙が、少しの間で破られた。「お食事の用意をお持ちしました。」扉が開けられてほっとした安堵の空気に変わった。大きなテーブルに乗り切れないのでは、と心配するような数の豪華な料理が次々と並べられた。ふすまが閉められ、隣の部屋では別の仲居が布団を敷いていた。彼女からのメールがこのタイミングで来たのは、彼のせいではない。せっかくの旅行、楽しく過ごしたい。「すごい。超豪華料理ね!私絶対、全部おなかに入れるよ。 さっ、食べよ。いただきます。」「本当、一生分の上品を使った料理だな。」「器も上品で、美しいわ。なんか幸せ。」食事が満足の味だった事もあり、旅行本来の空気が少しずつ戻ってきた。「姉さん。御飯食べ終わったら、少し館内の散歩しようか。」「えっ、私、お化粧してないし。」「大丈夫。姉さん、美しいっすから。」「いーだ。」私達は、館内を歩いてみることにした。「姉さん、手、つなごうよ。」彼は私の左手を取った。いわゆる恋人つなぎというもの。男性と手をつなぐなんて、何年ぶりだろう。私の手が、彼の大きな手で包まれる。新しいマニキュア、新しいブレスレットに、彼の長い指が優しく絡んでいる。・・・嬉しい。でも、私達は他の人から見たら、どんな関係の二人に見えるのか。恋人、きょうだい、夫婦、それとも不倫。。。
Feb 5, 2006
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彼のかばんの中で、携帯電話が鳴った。放っておこうかとも思ったが、仕事の電話かもしれない。私は、可哀想に思ったけれど彼を起こした。彼は眠そうに起き上がり、かばんから携帯を取り、話し始めた。「仕事?」「ううん、友達。劇団の奴から。 東京公演が終わったから、飲もうって。」「今日?」「今日は楽日だから、明日かあさってってところかな。 姉さん、いつの間にか寝ちゃった。ごめんね。」彼が携帯をテーブルに置いた。 「少し疲れたかな。」と私が言おうとした時彼の携帯が再び鳴った。さっきとは違う短い音。メールだ。彼は素早く、そして決まり悪そうに携帯を握った。劇団の東京公演の終了、そしてメールとくれば、私も彼も、相手は分かる。「読んだら。」彼は画面操作をする。「姉さん、ちょっと見て。」彼は私に受信画面を見せた。送信者には「ナツホ」とあった。彼は内容を読まずに消去した。その後、携帯の電源を切った。「ナツホ?・・・ナツホって、女優の名前?」彼は軽くうなずくと、携帯電話をかばんにしまった。
Feb 4, 2006
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お風呂の前で、「絶対俺のほうが早く出るから、カギ持ってく。」「待っててくれないの。」「姉さんのその荷物見ただけで湯冷めしそうだもの。」そういえば、大浴場に一人で入るのは初めてだった。―― 心細い。いつも家族や友達が一緒だった。時間が早いせいか、誰もいないのが救いだった。大きな湯船に入りながら、彼は大丈夫かと考えた。大丈夫に決まっているけど。“泳いじゃおうかな。”風呂を出た私を、上半身を映す大きな鏡が待っていた。誰もいないのを確認すると、今夜、特別なことが起こりえるこの状況の為に、チェックしないではいられなかった。もともとあまり大きいほうではない胸は、20代の頃とあまり変わらない。しかし、23歳の女優には勝てないだろう。首は、、、。裸でボディチェックをしていたら、声が聞こえてきたので、あわてて浴衣を着た。年配の女性が4人入ってきた。化粧水をつけてハッと気がつく。“私、彼に素顔見せるの、初めてかも。”ここで化粧も不自然なので、素顔で。髪は大きなクリップでアップにした。あのブレスレット、アンクレットもつけた。部屋に帰ると、扉を開けるのがドキドキする。さてっ・・・。―― と、彼は眠っていた。8畳の部屋の隅に、座布団に頭を乗せ、上品な青色のはんてんを着て、こちらに背を向けて眠っていた。私は静かに自分の荷物を片付けた。私は仕事から、勝手に出発時間を変更して眠ってきたけれど、彼は今朝の6:30から起きていたのかもしれない・・・。私は彼の横に座り、寝顔を覗き込んだ。“一緒に来てくれて、ありがとう。”短い髪も手伝ってか、初めて見た寝顔は少年のような美しさだった。ふっと、首のキスマークを思い出した。“今の私からの向きだと、左側につけられる。・・・つけてみようか。バンパイアって、こんな気持ちなのだろうか。。。”―― 彼のかばんの中で、携帯電話が鳴った。
Feb 2, 2006
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到着駅に着いたのは、15:00近かったので、寄り道せず旅館に行くことにし、タクシーで向かった。着いた宿の、しっとりとした高級な外観に唖然としてしまった。“なんだか気を使って疲れそう。 観光ホテルのほうがリラックスできそう・・・。”「俺、緊張するよ。」場違いな空気を感じつつ、玄関に入った。しかし、中に入ってみると意外とあっさりした受付で、部屋に案内された。宿帳なるものに二人の事をどう書くか、と一瞬悩んだが、会社名二人で取っているため、詳しくは聞かれることも無かった。テーブルに向かい合って座り、お茶を飲むと彼が深く息を吐いた。「部屋そのものが緊張するよね、この広さ。」8畳の部屋に真っ黒の板の床の間。そこに大きな花の生け込み。座布団一つも大きくて、落語家かお坊さんが使いそう。上品な桜の柄のカバーがかぶせてある。隣に6畳の部屋がもう一つ。 「誘ってよかったのかな?」「こんな部屋、貴重な体験です。 ・・・姉さん、混まないうちに風呂行かない?」彼は、かばんから下着を出す。“えっ、用意ってそれだけ?”私はまず、荷物そのものを隣の部屋に移し、そこから、下着・化粧品・自分のシャンプー浴衣まで袋に詰めた。「姉さん。その袋って、風呂に何持ってくの。」
Feb 1, 2006
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