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●読んだ本●「復讐の傷痕―遺伝子捜査官アレックス―」ローリー・アンドリューズ著大野尚江=訳 早川書房■あらすじ(抜粋)身元不明のその死体がAFIPに運び込まれたのは、特異な銃創で刺された傷口があったからだ。アレックスはDNA分析で、被害者が最近ベトナムへ渡航するための予防接種を受けていたことを突きとめ、身元を特定する。だが捜査は行き詰まり、アレックスは手がかりを追ってベトナムへ。事件の裏に巨大な陰謀が潜んでいるとも知らずに・・・・・・・難事件に、危険な恋に、体当たりで挑むアレックスの奮闘をスリリングに描く会心作!■感想アレックスシリーズの2作目を飛ばして3作目を読んでしまったらしい。でも読み進めるには特に支障はなかった。恋人のルークがヨーロッパに出掛けて行きアレックスの大冒険が始まる。どうしてアレックスの事件は恋人が消えている間に起こるんだろうか?仕事の出来る女だけど恋人と同棲していると仕事中心の生活や事件の関与には躊躇が出てくるからだろうか?AFIPの所長ワイアット大佐の肝いりの問題を押し付けられ断り切れずに始めたアメリカ兵が持ち込んだベトナム人骸骨の返還に関して身元特定のために遺伝子を調べ始めたアレックスは父が亡くなったベトナムでの行動と何らかの関係があるのではないかと不安になり敬愛する父の姿を追って骸骨を持ち込む経緯調べに熱中する。二つの事件がベトナムへと向かいアレックスは恐ろしい事件に巻き込まれるのだが、事件の背景が見えて来て解決しそうなのに三分の二までしか読んでいないので残ったこの厚さで何が語られるのだろうか?と思っていたらとんでもない事件に発展して行く。読んでない方はお楽しみに(*^_^*)だけどこんなに危険な目に合っていたらトラウマでおかしくならないだろうか?と個人的に思った。何故彼女は普通に生きていられるのかな?すご~く基盤がしっかりしている?でもふらふらした男性とばかり付き合っているアレックスは父が不在だった事に関連した不安があるのだろうと思う。専門的な技術が随所に出て来てそれはとても面白かった。分析して調べて行くのはとても面白そうだ。wowowでやっている「リ・ジェネシス バイオ犯罪捜査班」でも地球規模の危機を回避するためにギリギリに追い詰められた状況の中で最高の技術者達がぶつかり合いマクロの難問を解きほぐして行くのだがそのスリルに似た謎解きがあって面白かった。ただここは「気付くだろう」と突っ込みたくなった所もあったけれどもね。そして時に行動面で軽薄さを感じないでもない。最高の科学者が書いたスリルと危険に満ちたベトナム戦争の傷の深さを知る事の出来る大切な一冊だと思った。アレックスは大胆で猪突猛進で、行動派の女性だ。スケールの大きさにも脱帽した。こんなに自分を信じて生きていられるってうらやましい限りだ。★追記(途中で書いていたもの)その道のプロエッショナルが書いているだけあって、専門的な事がとても刺激的で面白い。DNAから個人を突き止めるために色んな手法を思い付いてソフトを作ったりする。面白い、その道筋が。「血液や皮膚のDNAは 両親から半分ずつ受け継いだ計3万個の遺伝子を含んでいるが、 頭蓋骨は 母親から受け継がれるミトコンドリアDNAだけで、 遺伝子は37個しか持たず、 細胞にエネルギーを与える働きをする」へえええ~~~~~。知らなかったなぁ。頭蓋骨のDNAは母親からだけのものだなんて。しかもたったの37個!!少し賢くなった気がした(((((^m^
April 20, 2009
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●読んだ本●「殺してしまえば判らない」射逆裕二著 角川書店■あらすじ(ほぼ抜粋)首藤彪(たけし)三十四歳の妻彩理は一年前に東伊豆の自宅で首をナイフで刺した状態で亡くなっていた。確たる物証もないまま妻は自殺として処理され彪は失意のあまり東伊豆を離れるが、エリートサラリーマンで仕事人間だった彪は徐々に行き詰るようになり彩理の死の真相を究明するために一年後に仕事を辞めて再びそこで暮らす決意をする。だが、引っ越してきた直後、周囲で発生する陰惨な事件やトラブルに巻き込まれてしまう。その渦中で知り合いとなってしまった奇妙な女装マニアの中年男・狐久保朝志。外見に似合わず頭脳明晰、観察力抜群な彼の活躍で、彪の周囲で起こる事件は次々と解決していき、さらには妻の死の真相まで知ることとなるのだが…。予測不能な展開と軽妙な文体、そしてアクの強い探偵の鮮やかすぎる推理で、読者を超絶&挑発の迷宮へと誘う本格ミステリ。斯界を震撼させる女装探偵・狐久保朝志初登場。横溝正史ミステリ大賞作家が放つ超絶&挑発しまくりの本格迷宮推理。 ■感想ただただ題名の奇抜さに惹かれて手に取って読んだ本です。確かに死んでしまったら真実は隠蔽されてしまうかもしれないです。読み易くて爽やかな文章で主人公の彪の一人称で語られて行くためするすると気楽な小説を読むように読んで行きました。最後に伏線が解るのですが少~し無理があるような気がしました。黄色いドレスしか着ない女装趣味の中年元検事がどたばたと走り回っていつの間にか事件をあちこちで解決していると言う不思議な推理小説ですが、推理小説と言うより彪の人生の大事な転換点のお話しと言う感じでした。彪がこれからどう生きて行くんでしょうか暖かい目で見守りたい気持ちになりました。
April 19, 2009
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●読んだ本●「浮遊死体」カレン・キエフスキー著 ―キャット・コロラド事件簿シリーズ―柿沼瑛子=訳 福武文庫■あらすじ(あとがきから抜粋)サクラメントで細々と私立探偵を営むキャットのもとに、二十歳そこそこの女性が訪ねてくる。彼女の名はペイジ。ペイジの依頼は、自分が子供の頃に事故死したという両親について調査をしてほしいというものだった。聞くと、亡くなった祖母フローレンスの遺産を相続するために、母ルビーの死亡を証明する書類が必要なのだという。ところが、調査の手始めにと訪れたフローレンスの弁護士が、その夜に不可解な死を遂げ、キャット自身も何者かに命を狙われる。事件に深入りしたキャットが期せずして家庭内の骸骨(秘密)を探り当ててしまう。■感想とても読み易くて面白かった。キャットやペイジの行動と育成環境との関係を強く意識して書かれた内容になっているがやはり育成環境で苦しんでいる私から見るとキャットの苦しみは中途半端と言うか悩み足りない気がした。ストーリーについてはするすると走り出した車に乗っている感じでいつの間にか大事なシーンが沢山続いて、どんどん秘密が暴かれて行くので飽きないのだが、探偵ならそこに気付かないはずはないんじゃないか?と突っ込みたくなる所が少しあった。概ね読み甲斐があり充実していた一冊だった。
April 8, 2009
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●読んだ本●「家族療法」 平泉悦郎著 監修・福田俊一 朝日文庫楽天では売り切れだったのでアマゾンのユーズドを見たら16円からありました。■目次はじめに第一話 おじいちゃんの椅子(登校拒否)第二話 隠されていたルール(登校拒否)第三話 パレンタル・チャイルド(いじめ)第四話 喧嘩をやめなきゃ食べない(拒食症)第五話 離婚をしてても親は親(登校拒否)第六話 すこし遅れた巣立ち(ノイローゼ)第七話 いまは突っ張っているけれど(非行)第八話 シーソーゲーム(離婚の危機)「家族療法とは」・・・・・福田俊一おわりに■内容この本は大阪の「淀屋橋心理療法センター」における家族療法の治療の実例が載せられています。『家族はルールと言うゆるいゴムで お互いに結ばれていて、 父親があちらに行けば 母親の首がちょっと締まってきつくなり、 母親が動けば 子どももそれにつられてよろめくといった しがらみの中で生きているわけです。 こういう全体としての動きを「システム」と呼び、 一つの有機体のように家族をとらえるのが 「家族システム論」なのです。』これが家族療法の素になっている考え方で最初に色んな家族の例とその治療過程が書いてあります。これは家族をシステムとして見て力関係の非バランスのために歪んだ関係をちょっとした刺激や提案や自分達の行動を毎日書く事で自分達で徐々に関係を修復して行くとても分かり易い治療法でした。治療と言ってもカウンセラーがとても訓練が行き届いているので家族一人一人のわずかな仕草や反応や顔つきなどを見てその微妙な関係を観察してその家族に合う刺激を与えると力関係による微妙な変化が家族に全体に劇的に影響をもたらして徐々に歪みが修復されて行くと言う全く今まで考えた事のない考え方と治療の仕方でした。ここでは深層心理や背景などを追求したりせず関係性や役割を自覚させる事で驚く変化をもたらすのです。これらの実例の中で何度も出て来るのは「両親連合」と「世代間境界」です。●「健康的な家族」と大事だと感じた事(あちこちから抜粋)・「両親連合」 親の世代は仲良くても喧嘩をしてもかまわないから、 子どもを巻き込まずに連合すること。・「世代間境界」 親と子どもの世代の間に、 良い意味の無関心があり、 しかし、 大事な時は十分に子どもに注意が向く 「けじめ」のこと。・「両親連合」と「世代間境界」が出来ていれば、 子どもに情緒障害は起こらない。 優しい子どもほど、 巻き込まれる。・「世代間連合」が慢性的に出来てしまえば、 その子ともう一方の親の関係は疎遠になる。・問題を考えると「疲れる、死にそうだ」と言うが、 これは専門家には「心身症的だ」と言われる。 心身症的家族は、葛藤が起こると 回避のメカニズムが自動的に働く。 その働きは、 誰かが泣く事で 家族への思いやりや 気遣いを引き出す形をとる事が多い。・兄弟姉妹間で親のような 保護者的な役割を果たす子どもを 「パレンタル・チャイルド」(親的な子ども) と呼ぶ。 少しの表情の変化、 誰に話を振るのか、 どういう態度か、 関係性を少しの情報で 実に克明に見事に 洞察・観察・推測して行く。・問題は夫婦関係。 夫が妻の情緒的な支えになれるかどうか。 結婚する前は親子関係が原点だが 結婚したら夫婦関係が原点。 ■感想読んで行くうちに数学的に見えて来て面白かったです。そして私がずっと追求して来たのもと全く違ったものなので驚きました。各家庭を考える時に傾向を見るのが解りやすくなると思いました。でも、形だけで普通の生活に戻ってしまうと一人一人の心の追及の機会を失くすのではないかと言う心配もありました。ですが、とりあえず形を整えて苦しくない状況にしてから深い所に入って行く人はいるし、深い所を見たくない人にとっては西洋医学の薬のようなものだと思いました。そう。世の中には真実を見たくない人は多いと思います。だからこの治療法は形から整えて居心地を良くすると言う点でとても優れていると思いました。ここに載せてある実例はどの家庭でも父親の力が弱くなって母親と子どもの繋がりが強くなり過ぎると関係性が崩れて行くようです。確かに、父親と関係が薄い子どもは大人になってから落ち着きが悪い気がします。私もその一人ですが。読んで反省したのは私は娘との関係が強過ぎて夫婦間は希薄な関係だと言う事です。娘には無意識のうちに何でも話してしまいます。「もうピーに お父さんの愚痴を言うまいと思うんだよ。 でも、お父さんと会話すると 些細な事でもすれ違ってしまって すごく困難を感じるんだよね。 あ!! また愚痴を言ってしまったーー。 言うまいと決心してたのに。 ピーとは話が通じるから楽で 無意識のうちに話しちゃうんだよね」そんな感じになってる毎日です。ピーと私は密接な関係なので、私の問題が全部ピーに現れるのだと思います。「家族ごとにルールがあり、 ルールの歪みが子どもに出る」これだなと思いました。夫婦連合を強くして世代間境界を作り上げる。自分自身を充実させる。これなんじゃないかなと思います。根元が弱っている自分を強くしたいと思いました。夫婦関係を強めるのもつい子ども達に愚痴を言ってしまうのも相当に難しい事です。何しろ長い間支え合って来たものですから。
March 31, 2009
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●読んだ本●「パラダイスの針」上・下ジョナサン・ケラーマン著北澤和彦=訳 新潮文庫楽天になかったのでアマゾンで見たら中古が恐ろしく安いです。アマゾンの「パラダイスの針・上」アマゾンの「パラダイスの針・下」■あらすじ(扉より抜粋)・上臨床心理医アレックスと恋人ロビンは、南海の孤島にやってきた。島に住む老医師から臨床データの整理をたのまれたのだ。二人は、かつて日本軍が本部にしたという立派な屋敷に案内され、楽園生活を楽しむ。しかし不気味なクモ園を見せられ、食人を思わせるバラバラ殺人の話を聞き、ビキニ核実験のエピソードに接するうち、半分基地のこの島が恐ろしい秘密を隠していることに気付く――。・下島の将来を託そうと、老医師が息子のように世話してきた看護人ベンが、殺人容疑で逮捕された。アレックスは老医師のたっての希望で彼に面会するが、状況は圧倒的に不利だ。やがてある嵐の夜、健康に不安を訴えていた医師の姿が消える。彼の遺した言葉を手がかりに、必死に行方を探すアレックスの前に現れたものは――。密室の謎解きと驚愕の結末が楽しめる異色作。■感想南国の孤島での資料研究の仕事はアレックスにとって息抜きも兼ねたものとなりロビンにとっても痛めた手首の療養がてらのバカンスになるかに見えたが島に着いてから見えたものの端々に怪しげで不吉なイメージが散りばめられ楽園のように美しくのどかな島は実は問題に満ちている事が少しずつ顕になって行く。登場人物の行動や態度が謎だらけで何と何が繋がっているのか見当が付かず非常に好奇心を刺激された。「上」はあっと言う間に読んだのだが「下」の方はどんどん雲行きが怪しくなって来て秘密の重さに圧倒されて最後の三分の一に手こずった。読み応えはたっぷりだった。パムがその後どうなったのか全く触れていないのが少し不満だった。気の毒じゃないか、彼女。でも秘密だらけ、謎だらけの面白い一冊だった。
March 30, 2009
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●読んだ本●「捜査官ガラーノ」パトリシア・コーンウェル著相原真理子=訳 講談社文庫 ■あらすじ(カバーより抜粋)褐色の肌、漆黒の髪、さまざまに変化する瞳。秀でた容姿と確かな手腕を持つウィンストン・ガラーノは、二十年前の老女殺害事件を再捜査するように命じられる。だが、彼が動き出そうとした矢先に、脅迫と不吉な予言がなされる。バーボンを愛しハーレーを駆るニューヒーロー誕生!コーンウェルの新シリーズ開幕!■感想コーンウェルの「検視官ケイ」シリーズはかなりの数を読み、しっかりしたものだったので借りてみた。それぞれの人物像がはっきりしていてその点では読みやすかったし、ガラーノとおばあちゃんが素敵だったけれど短い話だったせいかあちこちで私でさえ突っ込みたくなる所があった。「そんなに頭が良い人なら まずそこは気付くよね」「それはおかしいぞって 思うようね」などなど。そんな流れで事件解決?とも思った。うん。何か釈然としない。設定は面白いんだけど。二作目に期待しよう。久しぶりに薄い本を読んだので読むのは楽だった。そうよ。たまには短いのをさくっと読みたいじゃないの。
March 13, 2009
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●読んだ本●「ようこそ女たちの王国へ」ウェン・スペンサー著早川書房■あらすじ(本書の紹介より抜粋)極端に男性が少ないこの世界では、当然ながら女王が統治し、兵士も職人も何から何まで女性中心だ。一方男性は貴重な存在のため、誘拐などされぬよう姉妹たちの固いガードのもとで育てられていた。ウィスラー家の長男ジェリンはもうすぐ16歳。ある日、盗賊に襲われた娘を助けたところ、彼女は王女のひとりだった。迎えに来た王家の長姉(エルデスト)レン王女は生来の美貌のうえに心優しいジェリンに一目ぼれ、ぜひ夫にと熱望するが・・・・。■感想ウェン・スペンサーの処女作である「エイリアン・テイスト」が楽しかったので珍しくも買って読んだ。男性が希少価値であるために財産として扱われたり勉強させずに女性の相手だけをさせる・・・。一族の女性全員と婚姻関係にあり10人~30人の妻がいるが外に出ると略奪されるので家の中だけで暮らして行くって。うううむ。19世紀の貴族の女性のような扱われ方で女性がいかに惨めに生きていたかを男性よ思い知るが良い。。。。なんて言いたくなった。ウェン・スペンサーさん、やっぱり女性だった。美貌の若者が、国政をも巻き込む陰謀を暴くめくるめく冒険小説と言う感じだった。誠実で健気で賢くて優しくて勇敢で正直な上に美貌の主人公ジェリン。アマゾネス的な強い女性達の社会で賢く生きて行く。色んな謎や事件を解決して行く珍しい男性として脚光を浴びても謙遜さと優しさを忘れない。難しいのから逃げたい時に楽しく読む一冊かな。
March 10, 2009
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●読んだ本●「遺伝子捜査官アレックス」ローリー・アンドリューズ著大野尚江=訳 早川書房■あらすじ(扉より抜粋・全部盛り込んであってすごい!)軍が運営する病理学研究所AFIPに勤務する遺伝子学者アレックス・ブレーク。スペイン風邪ウィルスのゲノム解析と言う自分の研究に専念していた彼女は、新所長の就任で、予想外の任務に就く。海軍基地の周辺で次々に女性が襲われる連続殺人事件の遺伝子捜査に駆りだされたのだ。反発しながらも、徐々に捜査へのめりこむアレックスだが・・・・。専門知識を武器に、体当たりの捜査に、そして危険な恋にも挑む、新ヒロイン登場。著者紹介には――――――――――法医学と遺伝子学の専門家であり、国際的にその名声は知られている。アメリカ政府によるヒトゲノム計画では、連邦諮問委員会で法的、倫理的、社会的影響の審議責任者をつとめた。シカゴ・ケント大学終身教授。1999年の『ヒト・クローン無法地帯 生殖医療がビジネスになった日』をはじめとするノンフィクションの著作もあるが、フィクションでは本書がデビュー作となる。――――――――――――――――■感想著者紹介にあるように、遺伝子研究においてはその筋の超専門家なので研究所での機械の使い方や研究費や上司との関係性などが非常に説得力があり、「CSIシリーズ」や「クリミナルマインド」のアメリカサスペンスドラマファンである所の私は科学捜査についてはある程度知っているつもりになっていたので、本当の研究者が書くDNAの取り出し方や捜査の仕方については興味津々だった。DNAが実はテレビドラマで見るように簡単に本人かどうかが解る訳ではなく他の人との比較としての確率が問題になって来るなんて事は初耳だったのでとても面白く真剣に読んだ。最近、また頭が悪くなって働かないのでこの本を読むのに一ヶ月も掛かってしまった(大汗)また、研究畑一筋だったアレックスが科学捜査に携わるようになって行く様子や人柄についても丁寧に書いてあるので読み落とすまいとこちらも丁寧に読んだので時間が掛かってしまった。30代の金髪スレンダー美女アレックスの個性的な人柄は元気一杯で行動的で読んでいて元気がもらえた。著者がしたかった事をアレックスにさせているのか著者が常に前向きに行動している人なのか。これまでの仕事振りを見るときっと著者自身がバイタリティに溢れた魅力的な人なんだろうなぁと思った。言うべき事を言い、信念を貫き通し、自分に正直で、反省はしても後悔しない。猪突猛進で突き進み失敗はしても自分を責め過ぎずポジティブ思考で走り続けるアレックス。読んでいて楽しかった。生き生きとしたアレックスの生き様がとても気持ち良かった。恋の行方については最後の方が省き過ぎ?少し説明して欲しかったなぁ。あんなんで良いのか?と思った。でも、これが処女作だなんてレベルが高いなぁ。推理小説を読んでいるといつの間にか解決していた本に時々出会うのだがこの本もヒントや証拠がジワジワ集まって来たせいか私の頭が悪いせいかいつの間にか解決していてリアルな気がした。ある時、全部の符号が合ってパチン!と解決なんてそうそうあるもんじゃないと思うのでリアルに感じたのかもしれない。でも逆に、だから一気に解決する話はすっきり爽快になるのかもしれない。次作はすぐに本題に入って読み甲斐があるらしいので是非頭が働く状況で読んでみたい(*^_^*)あ、解った!!物足りない理由が。連続殺人者の苦悩が見えなかったからだと思う。連続殺人を犯してしまう理由だけじゃなくその苦悩も少し書いてあると厚みが感じられたのかもしれないと今思った。
February 22, 2009
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●読んだ本●「警視庁 検死官」芹沢常行+斎藤充功◎共著 同朋舎出版 警視庁の検死官を長く勤め退職後も後進の指導と育成に寄与しているとして生存者叙勲で勲五等双光旭日章を受賞した芹沢常行氏の経験をノンフィクション・ライターの斎藤充功氏がまとめた検死の現場の本である。■もくじ プロローグ第一章 検死官登場 「園児誘拐・一酸化炭素中毒死体」 第二章 十一の現場 ――死体にとり憑かれた検死官 「九十七ヶ所の怨念・刀創死体」 「殺しの手・絞殺死体」 「外交官令嬢・焼死死体」 「五反田トルコ会館・刀傷死体」 「事件にならぬ足・中毒死死体」 「上野一家・挫裂創死死体」 「整形美人・絞殺死体」 「密室殺人にならなかった自殺体」 「証を得て人を求む・絞殺死体」 「三千体目の死体」 「交通事故死体・検死は要注意」 第三章 十一の現場・番外編 「108・拳銃魔」第四章 殺しのテクニック 「絞殺」「扼殺」「窒息死」「創傷死」 「薬物死・一(睡眠薬)」「薬物死・二(ヒ素)」 「薬物死・三(青酸カリ)」「薬物死・四(農薬・硫酸)」 「ガス中毒死」「溺死」「焼死」「ショック死」第五章 OB検死官、警察大学校で講義 「凶器」「殺しの名称」「鈍器での殺人」 「脳挫傷」「列車による死」「自殺」 「めずらしい自殺」「自殺者の心理」 「初任幹部への講義」 第六章 死体は招く 「現場保存」「検死に要する時間」 「検死のポイント」「死体の隠し場所」 エピローグ――「七つ道具」■感想サスペンスの小説を読んだりドラマや映画を沢山読んでいるけれど実際の検死の現場がどうなっているのかを知ろうと思って借りた本です。 現場や死体の写真も載せてあり非常に恐かったです。殺人に至った経緯や状況も書いてあり人間の悲しい生き様?性?育成環境ゆえ?人間は悲しいと思いました。本物であるだけに非常に説得力があって状況を読むのも少しずつしか読めませんでした。すご~くエネルギーを費やしました。
January 28, 2009
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●読んだ本●「水銀奇譚」牧野修著 理論社■あらすじ(扉より抜粋)シンクロナイズド・スイミングに打ち込む香織には、現実の高校生活より、水の中のほうがリアリティがある。肉体をコントロールし、完璧な演技をすることがすべての世界。すべては雨と、連続して発見された溺死体から始まった。死んだのは、香織の小学校時代の教師や友人ばかり。当時の記憶が、鈍い痛みとともによみがえってくる。「選ばれし者」だけが入部できる秘密のクラブ、錬金術やオカルトにくわしい美少年の謎の失踪……。やがて、香織の身にも奇妙な出来事が次々と襲いかかる。鋭利な言葉と奇抜な発想で異世界を構築する牧野修がはなつ青春ホラー・ミステリー!■感想香織の感情を切り離したような冷たく排他的な思いがひどくきつく感じた。プロットは面白いのだがそんなに恐くないホラーだった。香織の排他的な所の方がよほど恐かった。そんな香織が皆を救おうと立ち向かうあたりがそれまでに持った香織の人格と違うように思えた。自分一人が満足していれば他人なんか関係ないとシンクロのパートナーに合わせる事を全くしない香織が皆のために闘い出したのは何故なんだろう?その辺が私には読み込めていないのかな?桐生薫の行動もホラーらしいと思っていたら最後に突然丸く収まったので何か拍子抜けした感があった。人はそんなに変わるものか?そんなに急に?友人達の性格も一貫していない感じを受けて何か、すっきりしない思いが残った。ストーリーとしては面白かったのだが登場人物の性格と行動が時々一致しない感じがもったいない。真の科学クラブの所はとても面白かった。小学生の時にこんな仲間がいたらさぞかしスリリングな思いをするんだろう。それにしても香織の孤独な青春は淋しくて虚しいんじゃないかなと思ってしまった。そんな香織の成長記でもあるのだろうな。事件の後は心の奥に秘めていた人のぬくもりを求める香織が生きて行くのだろうか。淡々とした描写が読み易くて面白かった。香織や薫がなかなか魅力的だった。だからちょっともったいない。ハッピーエンドなのに哀しい感覚が残っている。
January 26, 2009
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●読んだ本●「きみに会いたい」芝田勝茂著あかね書房 (ヤングアダルト) こんな本です。■あらすじ中学生の幸恵は小さい頃から人の思念が心の中に聞こえてしまう能力を持っているため聞きたくない事まで聞こえてしまい知りたくない事まで知ってしまうのでとても苦しんで来た。だから幸恵はその能力を封じた。心を閉ざして学友からも距離を取って生きていた。ある日、街を歩いている時に12~3歳の少年の声が幸恵の心の中に聞こえてきた。「金色の夕暮れ・・・・・ 涙が出そうになるのはどうして・・・・ ひとりぼっちだ・・・・ だれもわかってくれない・・・・ だれも考えてなんかくれない・・・・・」その日から幸恵の心に向かって少年が呼びかけて来るようになった。幸恵は悩んだ末に寝る前に「おやすみなさい」だけを言う事にした。すると少年の幸福な思いが飛び込んで来た。それから少しずつ始まった幸恵と少年の交流。それは日本の危機をも予期させる思いもよらない出来事の始まりだった。「セカイ系」「サイコ・ファンタジー」などの作品として分類されているようだ。■感想思春期の少女の苦しみ、デリケートで孤独な思いが能力者と言う形を取って描かれていると思う。孤独な少年少女の心の叫びが力となった時の大きさはその悲しさや辛さをよく表していると思った。そしてそれを乗り越えて行く強さは前を向いて生きる勇気を与えてくれると思った。日本にも良いヤングアダルトがあると知りとてもうれしかった。・「セカイ系」とははてなキーワード・「きみに会いたい」 芝田勝茂著の感想サイト
January 23, 2009
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●読んだ本●「あなたの病気には意味がある」高田明和著光文社 KAPPA BOOKS■目次・プロローグ 意味のない病気などない・第一章 近眼の女性は男を虜にする・第二章 アレルギーは清潔社会の証し・第三章 血友病の女性は長生きする・第四章 嫉妬する人間は生命欲が強い・第五章 同性愛と男女の違い・第六章 自閉症児は異才を秘めている・第七章 糖尿病こそ一病息災のもと・第八章 統合失調症だった天才ノーベル賞数学者・第九章 うつ病の人は向上心が強い努力家で感性も鋭い・第十章 不安神経症の人は危険感知に優れている・第十一章 眠らなくても生命は損なわれない・第十二章 痴呆になれは不安が消える?・第十三章 生きている、だから老化する・第十四章 人はなぜがんになるのか?この本は大雑把に言ってしまえば高田明和さんと言う医学博士が遺伝子学的見地と民族的、人間の歴史的見地とデータから考え合わせた病気と言う現象の考察と言う感じでした。特に興味深かったのは・第五章の「同性愛と男女の違い」で予てより考えていた事が遺伝子レベル・細胞レベルで書いてありました。それは「同性愛者と異性愛者では脳と遺伝子に違いがある」の所に詳しく書いてありました。性同一性障害が脳と体の性の不一致から来る問題なら同性愛者だってきっと脳の問題なのだろうと思っていたのです。―・―・― 以下抜粋 ―・―・―視床下部の前の方に四つの神経細胞があり、前視床下部間質核(INAH)と名付けられた。このINAHは1~4まで番号が振られ、4は男女差はないが、2と3は男性の方が大きい。同性愛者と異性愛者では脳と遺伝子に違いがある。神経学者サイモン・ルベイが「サイエンス」誌に、INAHの大きさを男・女・同性愛者で比較した論文を出した。INAH3だけは同性愛者の神経細胞の数が異性愛の男性の数より少ないと報告。同性愛と異性愛の人の遺伝子に差があると、米国国立がん研究所のディーン・ハマー博士が報告。家族や親族に同性愛の人がいると同性愛者の確率が高くなる。母方の伯父・従兄弟に同性愛の人が多く、父方にはあまりいない。同性愛の兄弟の場合、DNAなら50%プラスの部分まで確率は同じ。X染色体の長腕の端にある部位、Xq28と呼ばれる部分も似ていた。―・―・―・―・―・―・―・―・―・―きっと己を偽って苦しんで来た人は多いんじゃないかと思いました。育成環境でそうなってしまう人もいるかもしれないけれどかなりの確率で遺伝子的な問題なんだと思いました。他には第十二章「痴呆になれは不安が消える?」を読んでいて、認知症になった母の看病をしていて忘れてしまう母は常に人の目や評判ばかりを気にしていた昔よりずっと幸せそうに見えたのでとても納得が行きました。第十四章「人はなぜがんになるのか?」では最後にこのように書かれていました。「若いときは遺伝子があなたをがんから守ってくれる」のですから、「年をとってからは、あなた自身が守る」のです。うん、その通りだなぁ~と思いました。生活環境や食べる物や生き方を選ぶのは自分自分だから。大人になったら自分が責任を負うべきでそのためにも自分が納得した生き方が出来たら・・・と思いました。題名から期待していたものとは内容が違っていましたが病気と言う現象を視点を変えて見るという点で面白かったです。
January 14, 2009
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●読んだ本●「マイ・ハートビート」ギャレット・フレイマン=ウェア著宮家あゆみ=訳 河出書房新社 (ヤングアダルト) ■あらすじ(扉より抜粋)エレンは14歳。天才肌の兄・リンクと、リンクの美しい親友ジェームズを愛しているが、あるとき同級生の女の子から、ふたりは愛し合っているんじゃなかと聞かれて動揺する。秘密の多すぎる友情、ものごとの本当の見方。詮索と裏切り、真実とハッピーエンドの関係。ちょっと奇抜な三角関係をめぐり、愛について、愛する人について、自分を好きになる方法につて、エレンは探しはじめた・・・・・・。本書は2002年のパブリッシャーズ・ジャーナル誌のベスト・チルドレンズ・ブックスやスクール・ライブラリー・ジャーナル誌のベスト・ブックスに選ばれ、2003年にはヤングアダルト部門の書籍に与えられる賞として名高い、マイケル・プリンツ賞のオナー・ブック賞を受賞した。■感想14歳のエレンが兄とジェームズの事や家族間の関係や学校での事を通して少しずつ成長して行く様子がとても丁寧に一人称で書かれてある。幼くて知らないからこそ根本的な事を根っこから考えたり調べたりして、それまでは兄や両親の言う事を鵜呑みにしがちだった事を自分の感じる事を見つめ深く掘り下げて自分の考えを探り出して行くのがとても好ましかった。
January 12, 2009
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●読んだ本●「エイリアン・テイスト」 ウェン・スペンサー著赤尾秀子=訳 早川書房■あらすじオレゴン州ユカイアの森林で狼に育てられたユカイアは推定12歳の頃にジョー・ママに保護されて密かに生活をしていたのだがマックスと知り合ってから人探し専門の探偵業を手伝うようになった。ユカイア(現在は21歳)には完璧な記憶力と臭いを総て嗅ぎ分ける力、そして血液を舐めただけでDNAを識別する力も持ち合わせていた。強靭な体力と人間離れした運動能力にも優れていたが、ジョー・ママとラーラ・ママ妹のキャリーと相棒のマックスを愛する心優しい寡黙な青年だった。親しい刑事クレイナックに協力を頼まれて残忍な殺人事件の現場から消えた女性を探しているうちにユカイアは恐ろしい事件に巻き込まれFBIのインディゴ捜査官と協力しながら事件解決に奔走する事になる。やがて知る自分の出自と宇宙規模の恐ろしい計画。ユカイアは苦しみ傷付きながらも常に正面から立ち向かって行った。これがウェン・スペンサーのデビュー作。2001年処女長編を対象とした「コンプトン・クルーク賞」を受賞。■感想いや~~~~面白かった!!!最高!!!と言いたい。まあ、都合の良過ぎる所は気にせず飛ばして(^_^)何しろ主人公のユカイアの設定背景が凄まじいのにユカイアは力む所が無くいつも自然体で静かに見守っている。素直で正直で優しいのに思い立ったら突き進む強さと優しさを備えている。人間界で暮らすようになって間もないせいかとても純粋無垢で裏表が無い。ユカイアの性格と能力にすぐに大ファンになったヽ(^。^)ノ驚く状況が次々に舞い込むのだが恐怖心や守りよりも今何をすべきかを学んで行動して行くその素直さも私にはとても魅力的だった。エイリアン関係の状況は恐ろしく人間や少数集団で闘えるのかと心配したが記憶力、推察力、判断力と柔軟性を備えたユカイアは静かに波乱の中に駆け込んで行く。ううう。こんなヒーローものは大好きだ===!!!え、これはヒーローものじゃないのかな?これは多分SFハードボイルド探偵物って所だろうか。表紙のチャラさに騙されなくて良かった。ライトノベルズの軽い読み物かと思ってしまった。若い人向けにマンガイラストの表紙にしたんだろうけど中身の濃さが伝わらないと思うなぁ。続編がその後に4冊出ているが日本で翻訳して出してもらえるのかな?出版してもらうためにもこの本を買おうかと思っている。2003年発表の「ティンカー」もSFが大好きな読者が選ぶサファイア賞を受賞したそうで久々にSFに返り咲こうかと思った。とても楽しかった~~\(~o~)/映画にしても良さそうだと思った。ちなみにこのウェン・スペンサーは日本のアニメの大ファンだそうです♪
January 8, 2009
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●読んだ本●「涙のタトゥー」ギャレット・フレイマン=ウェア著ないとう ふみこ訳 POPLAR涙のタトゥーを顔にいれた少年と出会い、変わりはじめる15歳の少女ソフィーを描く、喪失と再生の物語。■あらすじ(素晴らしいので訳者あとがきより抜粋)ソフィーは、ニューヨークの私立高校に通う十五歳の女の子。二年半前に最愛の弟を病気で失い、さらに両親も離婚。今も心の傷をかかえたまま、ひたすら勉強に打ち込む日々を送っています。そんな彼女の前に現れたのが、母を亡くして頬に涙のタトゥーを入れた十七歳の少年、フランシス。ソフィーがタトゥーに惹きつけられて、ついちらちらと盗み見ていると、フランシスは、いきなりソフィーの手を取って自分のタトゥーに押し当て、彼女をどぎまぎさせます。少し風変わりだけれど、自然体で、思いやりのあるフランシスは、固い殻をかぶったソフィーの心のなかにするりと入り込み、そのしこりを徐々にときほぐしてゆきます。ヤングアダルトでのデビュー作である本書は米国の児童書書評誌(BCCB)によって、2,000年度のブルーリボン賞に選定されています。■感想(前半は私なりのあらすじ)8歳の弟を失くしてから二年半、弟の記憶が薄れて行く事を恐れてソフィーは一日二回弟を思い出すのを日課としていた。いつまでも変わらない弟がいるのに自分だけがどんどん変わって行く事が罪に感じられソフィーは二年半前の自分を保とうと男子から交際を申し込まれても断り続け12歳だった自分を続けていこうと頑なに自分の変化を拒絶していた。母と離婚した父は自分中心で弟のエアハートが6歳で発病してから仕事を増やして留守が多くなり、浮気までした。ソフィーはいつまでも父を許す事が出来ない。ソフィーがエアハートの部屋を使うようになっても広くなったアパートと母の淋しさを埋める事は出来ない。ソフィーの家族は2年半経っても姉を含めて4人共エアハートの死を受け入れる事が出来なかった。でもフランシスは8歳で亡くした母の死を父と共に受け入れるために母の骨を散骨した祖母の庭に毎週行き母といつもいられるようにと左目の下に自分の瞳の色と同じ緑色の涙をタトゥーにしてした。ソフィーの家での「普通」をフランシスが静かに変えて行く様子がとても暖かくて優しさに満ちていて人との関わりのありがたさに感謝する思いが湧いた。フランシスがいつも自然体できっと自己一致が出来ているからだろうと思う。ソフィーは弟の死と父の浮気と両親の離婚を乗り越えるために沢山の縛りを自分の中に築いて行った。ああ、ソフィーの気持ちが良く解る。12歳の少女が自分を守るために必死で壁を作り上げたのだ。そしてキリキリと己を縛りながら変化を拒絶して生きていた。フランシスの優しさや自然体がそれを溶かして行く様が、毎日のちょっとした出来事の積み重ねの中でソフィーによって語られて行く。人の傷は優しさで溶かせるんだなぁと優しく切ない気持ちになった。健気なソフィーが痛ましいくらいだった。傷付いた人は周りの人からは見えない所で頑張っているんだよね。家族を失う辛さを乗り越えるのは簡単には出来なくて逃げる事が出来なくて悲しみも苦しさも今を受け入れる事から始まるのかもしれないと思った。秀逸な作品ですごく久しぶりに一気読みした。良い話を読んだとうれしい気持ちが残った。久々のヤングアダルトだったが素晴らしい一冊に出会えた。母の死を乗り越えていない私にとってヒントになる優しい本だった。訳者の方のあとがきも秀逸で、あとがきに書いてある感想などはこの話の総てを語っていると感じてこの話がこんなにも読みやすいのは翻訳家さんの力量もあっての事だと思った。素晴らしい小説に素晴らしい翻訳家さん。忘れられない一冊になった。二作目の「マイ・ハートビート」は優れたヤングアダルト作品に贈られるマイケル・L・プリンツ賞のオナー賞を受賞しているそうなので是非、二作目も読みたいと思った。●カバーイラストを描いている 丹地陽子 ( Yoko Tanji )さんのサイト不思議な世界観が漂う素敵なイラストが見れます♪
December 31, 2008
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●読んだ本●「それでも警官は微笑う」日明恩(たちもりめぐみ)著 講談社 ■あらすじ頭が固くて、思い込んだらまっしぐらの責任感の強くて朴訥な池袋署の刑事一課強行犯係の巡査部長・武本正純は、茶道家元の次男で型破りの警部補潮崎と組んで怪しい小銃を追っているうちに麻薬取締捜査官・宮田剛に出会った。宮田はある事件を密かに追っていたのだ。出所がはっきりしない小銃を追ううちに武本と潮崎は宮田が追う事件との繋がりを知り安住課長をも巻き込んで日本に蔓延しつつある小銃と宮田の事件を追い始める。日明恩のデビュー作にして第25回メフィスト賞受賞作。■感想アメリカの推理小説のような題名とカバーイラストがポップなのとであまり期待しないで読み始めたのだが始まりからわくわくして引き込まれた。見た目で侮ってはいけませんでした。とてもしっかりした小説でした。デリカシーや繊細さが無く真っ直ぐで無骨で揺らぎのない正義感の持ち主の武本と饒舌家でオシャレでパソコンに強くて記憶力がすごくてお茶目で常識外れで繊細で純粋な潮崎のコンビは濃い組み合わせで非常に面白かった。権力や縦社会やコネや規則に縛られている警察内部において武本達刑事や麻取の取締官達は日本警察の誠実な良心とでも言うべき存在で頼もしく痛快で読んでいて楽しかった。これはドラマにしても解り易くて面白いのではないかと思った。デビュー作と言うのに取材力と構成力の充実に驚いた。すごいなぁ。よく調べたなぁ。と率直に思った。犯人に関してはちょっとスッキリしなかったけれど。いつか続編を書くつもりなのかな?と思ってしまった。キャラの濃い人が一杯出て来て面白かった。どの人もそれぞれに好きになった。いいヤツが沢山出て来る警察物なんて珍しくてうれしい事極まりない。
December 23, 2008
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「リーシーの物語」上・下 スティーヴン・キング著白石 朗=訳 文藝春秋 ■あらすじ(扉より抜粋)有名作家だったスコットを亡くして二年。いまだ悲しみの癒えぬリーシーは、ようやくスコットの遺品の整理を始めた。ナッシュヴィルの大学でスコットが撃たれて瀕死の重症を負った日のこと。辛い少年時代について聞かされた雪山での午後・・・・・・。思い出をかみしめるリーシーは、やがて、スコットが何かを自分に知らせようと、「道しるべ」を遺品に忍ばせていたことに気づいた。夫は何を知らせようとしているのか?頻発する謎と怪事のさなか、スコットの未発表原稿を狙うストーカーが身辺にあらわれはじめ、リーシーへ魔手を伸ばし―――スティーヴン・キングが濃密な筆致と緻密きわまる構成で贈る大作。圧倒的な感動をもたらす終末へ向けて、精緻な伏線がひそやかに紡がれてゆく。■感想(上の感想)スティーヴン・キングの小説を読むのは多分20年振りくらいで文体や与えるイメージが全く違っていたので驚いた。姉達とのやり取りや生活の中でリーシーが思い付いた事や感じた事考えた事や思い出した事を、特に夫との思い出をランダムに書いてあるので流れを掴むのがとても難しくてようやく飲み込めるようになったのが上の終わりの方だった。それまでリーシーの思い付いた事のあれやこれやそれやなにやらかにやら総てに付き合って来たのでリーシーが何を言おうとしているのか何を感じて何を思い出しているのか段々解るようになったのが、上の終わり頃だった。スコットとリーシーの関係。スコットの性格。スコットの人生。スコットの謎掛け。スコットを闇から引き上げたリーシーの存在。リーシーがいてスコットが素晴らしい作家でいられた。これこそリーシーの物語だ。本当に。(下の感想)何度も何度も出て来るスコットとリーシーにしか解らない独特の単語。「道行きの留(りゅう)」「うまうまツリー」「黒いぬるぬる」「ブーヤ・ムーン」「ロング・ボーイ」「血のブール」等等。それら夫婦の隠語が飛び交いリーシーの思いの断片や記憶の断片、リーシーの第六感のようなもの、日常生活の細々とした事、スコットからのヒント、回想シーンでのスコットの言葉。そういったものがバラバラにジグソーパズルのように散りばめられていて何が何だか解らなくて、整理しつつ、後戻りして読み返しつつ、行きつ戻りつして、リーシーの独り言に翻弄されて、読むのに四苦八苦した。途中で何度放棄しようと思った事か(苦笑)だけど、重量感たっぷりの独特の世界が確立していて最後まで読む気力をもらえた。最後に気になったのものはリーシーの罵り言葉「カスったれな○○」が山程出て来てちょっとうんざりしたもののリーシーはそうやって罵りつつ自分を奮い立たせて毎日を過ごしているんだなぁとちょっと親しみを感じた。もっと気になったのは訳のひらがな。どこまでひらがなにするのか?何?若い人狙いの戦略なの?と考えてしまった。例えば「うしなう」「とりかえす」「とどまる」「うしろをふりかえり」「とどまる」「めぐらせる」「いえるほど」「あらわす」「わからない」「ふたたびやってきて」などなどなどなど・・・・。これは絶対漢字の方が意味が伝わるでしょう!!「あらわす」なんて、漢字で意味が違いますから。「来て」「失う」「取り返す」ほら、こっちの方が絶対解りやすい!!!!最近の翻訳ミステリにおいて漢字が使われなくなりつつある事については「活字中毒者の手探りサイト」のmadara様も書いていたのですが、新しい本を読んでみてなるほどと思いました。これは出版社の意向なんでしょうか?間違っていると思います。全体の感想としてはこんなにも深い愛情で結び付いた夫婦も存在するのであろうなぁ~~。そう、これは夫婦愛について書かれた恐いファンタジーなのかな?私はジャンル分けが上手く出来ない人です。
December 6, 2008
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●読んだ本●「死せるものすべてに」上・下 ジョン・コナリー著北澤和彦=訳 講談社文庫 ■あらすじチャーリー・”バード”・パーカーは妻と激しい口論の末いつものように酒場で酒を飲み、深夜に家に帰り着くと妻と幼い娘は凄惨な状況で殺されていた。刑事を辞め、酒を断ったバードは生きたまま妻と娘の顔の皮を剥ぎ内臓を取り出した犯人を追いかけるが総てが空回りに終わり、時間潰しに探偵の手伝いをした事から行方不明の少年探しを手伝う事になった。葛藤の日々の中でバードは事件を解決し、そして妻子殺しの犯人を徐々に追い詰めて行く。2000年シェイマス賞最優秀処女長編賞(アメリカ私立探偵作家クラブ主催)■感想何しろ膨大な登場人物に辟易した。「主要登場人物」に書き切れない。そして回りくどい文章?やたら難しい比喩?何を言おうとしているのか理解するのに難渋した。肉付けが多いので奥行きのある物語になったがノートに名前と関係を書き付けておけば良かったと思うほど人が出て来た。しかもどの人物もバードとの関係が大事なので飛ばし読みは出来ない。今私の脳は普段の十分の一くらいしか働かないので全く参ってしまって読むのに時間が掛かってしまった。でも「下」の方に行くと文章に慣れたのか関係性が見えて来てすぐに把握出来るようになった。そうすると今度は登場人物各々の抱える問題の暗い深淵をも覗き込んでしまい深くて暗くて重たいものを一緒に背負い込んでしまったような感じがして1ページ1ページが重たく突き刺さって来た。少し前まで刑事だったバードの一番信頼出来る友人と言うのが家宅侵入犯のエンジェルと殺し屋のルイスと言うあたりが面白く刑事時代のバードがどんな刑事だったのかと想像した。でも誠意のある信頼関係でこの二人とバードは不思議な絆がある。刑事だったのに犯罪者と信頼関係が出来上がっていると言う辺りが普通の元刑事と違う幅の広さと言うか深さが感じられた。このエンジェルとルイスが私は結構好きだった。脇役が好きと言うのは私にしては珍しい。しかし話はどんどん凄絶なものになって行くのでその暴力性に慣れないものがあった。スプラッターは苦手なんですね私(^^ゞバードは裏社会にどんどん切り込んで行くので心配性の私はどきどきしっ放しで(笑)この後バードはこの凄まじい傷跡をどうやって癒して生きて行くかと心配になった。こんな経験をしても朝起きて夜は何とか眠るんだろうな。悪夢にうなされ、しばしば起こされて他人の空似に衝撃を受けたり物音に怯えたりしながら生きて行くんだろうな。バードに好感は持てるけれど友達になれるかどうかは解らない。剃刀の刃みたいで近くにいると傷付きそうだ。こんな複雑で魅力的な人が出て来る話が処女作なんてその後が期待されるけれど翻訳ミステリが出版されるのは少ないらしい。細かい所は抜くと重厚感のある読み応えのある本だった。表現については、戦闘シーンの文章のぎこちなさや「編集人に会うのか」と言う文章などを見て「編集者だろう!!」と突っ込んでしまいああ、これは訳者に問題ありか?と思った。原書を読めたら違う感想もあったかもしれない。
November 2, 2008
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先日、ジョン・ハーヴェイの「血と肉を分けた者」の感想を書いた時楽天内にこの本の感想を書いた方がいらっしゃらなかったのでネットで探してみたところ「活字中毒者の手探りサイト」のmadara様に巡り会う事が出来ました。そして「猫のコーナー♪」でマグマさんという驚くほど賢い猫との遭遇から日々の思い出やエピソードがとても面白く書いてあり感動しました。それで翌日にピーにも読んであげました(^_^)とても楽しかったのでBBSに感想を書きました所喜んで頂きました♪しかもなんと「活字中毒者連盟ミステリ支部宮城支部長」と言う大役までいただいてしまいました!!!驚きましたがミステリ好きでいれば良いようなので出来る範囲で頑張ります(*^ー^)ノミステリ好きの方はどうぞいらしてはいかがでしょうか?歓迎していただけます♪とても解りやすいHPの作りで、読んだ本の紹介や感想も書いてあります。とにかく解りやすいので素晴らしいです~~(^_^)●「活字中毒者の手探りサイト」様
October 17, 2008
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●読んだ本●「血と肉を分けた者」 ジョン・ハーヴェイ著 日暮雅通=訳 講談社■あらすじ家庭での問題に傷つきノッティンガムシャーの警察を辞めてコーンウォールに引退して静かに暮らしていたエルダーは十四年前に失踪して行方不明のままになっている少女スーザンの事をずっと引きずっていた。スーザン失踪と同じ頃に、やはり十六歳の少女ルーシーを残忍な方法で暴行し殺人したマッケアナンとドナルドの二人を逮捕した。彼らがスーザンの失踪に関与しているとエルダーは考えたが立証出来ずに未解決になったままだった。ドナルドの仮釈放を知ったエルダーはスーザンの行方を調べ直すためにノッティングシャーに戻りスーザンの周囲にいた人達に接触を図る。凄惨な子供時代を経て17歳で殺人事件に関与し14年間刑務所で暮らしていたドナルドは釈放後、仮釈放者用の宿泊施設に向かい何とか社会に馴染もうとするのだが。2004年CWA賞(英国推理作家協会賞)のシルバー・タガー賞受賞作品。■感想ノッティングシャー州の警察を途中で辞めて引退したエルダーの私生活と遣り残した思いを引きずっていた16歳の行方不明のスーザンの捜査が色んな形で絡み合っている作品だった。子供の殺人や暴行は家庭内の方が多く、イギリスでもアメリカと同様の混乱の社会なのだなと思った。エルダーの生活は悪夢から始まり、悪夢の元へと引き寄せられて行くかのようだ。そしておぞましい現実はこの日本でも人ごとではなく嫌な事件が続いている事を思い出す。話はよく出来ていたが読み進めるのが苦しい作品だった。崩壊している家庭で育った子供は幸せも安らぎも知らないで大人になり自分の傷を他人に広げて社会全体を恐怖に陥れる。それらの悪循環について思索させられた作品だった。みんながある程度幸せならこんな目に合わずに済むのにと思ってしまった。不平等な社会。弱い者ほど叩きのめされる社会。弱い者から狙われる社会。悲しい社会だ。
October 12, 2008
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●読んだ本●「風の影」上・下 カルロス・ルイス・サフォン著木村裕美=訳 集英社 ・「風の影」HP■あらすじ■-上巻の説明文から抜粋-1945年のバルセロナ。霧深い夏の朝、ダニエル少年は父親に連れて行かれた「忘れられた本の墓場」で出逢った『風の影』に深く感動する。謎の作家フリアン・カラックスの隠された過去の探求は、内戦に傷ついた都市の記憶を甦らせるとともに、愛と憎悪に満ちた物語の中で少年の精神を成長させる・・・。17言語、37カ国で翻訳出版され、世界中の読者から熱い支持を得ている本格的歴史、恋愛、冒険ミステリー。■感想■10歳のダニエルが経験する様々な出来事を共に経験し、登場する沢山の人達の人生にそっと寄り添い、胸いっぱいの人々の生き様と思いを抱え、一緒に歩いていた20年の歳月。内戦で傷付いた都市で繰り広げられる怪しさや恐怖や純愛や親切。読むほどに引き込まれてダニエルが生きていたバルセロナの片隅に一緒にひっそり生きているような気さえして来た。ダニエルの苦しみ。ダニエルの愛。ダニエルの惑い。ダニエルの懸命さ。ダニエルは優しい少年で、純粋で真っ直ぐだからすぐに好きになった。それでいて大人と対等に渡り合う度胸も持ち、大切な物を守る勇気も持ち、フリアン・カラックスを追いながら成長してバルセロナの影に潜む危険に身を晒しそれでもカラックスを追い続けずには居られなかった。生涯で一度だけ出逢う素晴らしい宝物の一冊の本。今の携帯やネットが発達した日本では理解し難いのかもしれない。でも小説好きな人間にはたまらない設定が盛り沢山で『風の影』とダニエルを中心に物語が進んでいく。たまりませんでしたね。登場人物一人一人を丁寧に書いてあり、だから小説の中では誰しもが生き生きと動き回っている。複雑な物語が少しずつ見え始め最後には苦しくなって時々逃げたりしたが何とか読み終える事が出来た。最後の行を読み終わった時涙が沸いて来た。苦しかった時代を乗り越えた人々への賞賛の思いと苦しみの中でのたうちながら生き永らえた人への苦しい拍手とで胸が詰まってしまったのだ。とても感動して、しばらく放心状態になった。素晴らしい一冊に出会ったのだと実感した。この物語は私の胸の中に住みついてしまったようだ。ネタばれになるので書けないが何もかも納得の行く終わり方だった。生き残った人間は幸せになろうね。残酷な現実が待っていても飲み込まれないようにしっかり立って見渡していようね。あなたの一番大事なものは何なんだろう?私の一番大事なものは・・・・・・・・・心かな。
September 22, 2008
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昨日、夫を泉に送った帰り道、ピーと二人で八文字屋の近くの魚出汁のラーメン屋さんに行きました。お昼にいつも行列が出来ているから美味しいんじゃないかと夫が言っていたからです。不思議な味でしたが、さっぱりしていて美味しかったです。そして八文字屋と言う本屋に行ったのですが、ピーはずっと「忍たま乱太郎」を探しているのですがどこに行っても見つけられないんです。本屋さんで「忍たま乱太郎」は売っていないんでしょうか?この八文字屋と言う書店は山形が本店です。とても大きい書店で珍しい本も取り揃えており他所で見つからない本も簡単に見つかる田舎では品揃えが良い店なんです。しかも本棚のあちこちに図書館のように椅子が置いてありじっくり座って読んだりゆっくり出来るようになっています。 こういう椅子があちこちに置いてあるので座って本を読んでいる人が結構います。 ここは絵本が置いてある子供用のテーブルとベンチです。図書館のように椅子が置いてある本屋なんて良いな~といつも思います。本と慣れ親しんで下さい。本を楽しみましょう。と言われているみたいでうれしくなるんです。さあ、買え!早く買え!と急かされているのではなく自分が欲しい本を選んでくださいね、と言うお店の方針が伝わってくる気がします。入り口近くにはドトールがあるので店内には珈琲の良い香りまで広がっておりとても寛いで本を探せます。でもピーが欲しい最近の忍たまは見つかりませんでした。ついでに9月2日の私の手の甲にぐっさり刺さっていて太い太い点滴針を押さえ込んでいるテープに包まれた写真です。 この点滴針の出っ張った所が時々あちこちにぶつかったり引っかかると手の甲の針が差し込まれている血管がぐいぐいと動くもので痛いのなんのって(涙)一旦外してしまうともしもまた造影剤でのCTスキャンや手術とかなるとまた痛い思いをするのでずーーーっと太い針を刺していたのでした。今日も針の近辺は紫と黄緑に腫れており治りきっていません。お腹はと言えば今日は大分楽になっています。まだ痛いですが。明日も光線治療に励みます(^ ○ ^)
September 7, 2008
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●読んだ本●「黒い犬」 スティーヴン・ブース著 宮脇裕子=訳 創元推理文庫■あらすじイングランド中央部ピーク地方のイードゥンデイルの美しい風景で観光客を集めているモーヘイ村にあるに住む15歳の少女ローラ・ヴァーノンが行方不明になり、村も街も大騒ぎとなって警察は捜索に当たった。二日後に犬を散歩させていたハリー・ディキンスンと言う老人が血の付いたスニーカーを発見し、その近くに案内してもらった刑事のベン・クーパーがローラの遺体を発見するに至った。土地に詳しいベンは新任のダイアン・フライと共にローラを殺した犯人を探し始めたが、頑固なハリーや代々モーヘイ村に住む人々と引っ越して間もないの住人の間には見えない壁が存在し捜査がなかなか進まない。そしてベンの家庭の問題。フライの抱える問題。二人の間に軋轢や共感が生まれ協力し合ったり反発し合ったりしながら次第に理解が深まりながら捜査は少しずつ核心に近づいて行く。イギリスで人気の警察小説《ベン・クーパー&ダイアン・フライ》シリーズの第一弾。■感想 地元で生まれ育った馴染みの人々の間で生きるベンの苦しみ。都会で孤独に育った女性刑事としての問題も抱えたフライの苦しみ。二人の刑事の思いがぶつかり合い絡み合いながら物語を積み上げて行く。家族より友情を大事にするため軋轢が生じているハリーの家庭。子供時代からの友人と3人でたむろしいてる様子はとても楽しそうだ。妻より大事な友人。孫より大事な友人。苦難を乗り越えて来た仲間でもある友人。私にはそんなに付きっきりの友人がいないのでないがしろにされる家族に肩入れしてしまう。殺されたローラの隠された日常が暴かれて行き、金持ちの上流家庭の内幕も暴かれて行く。苦しみを暴露したローラの兄の嘆き。登場人物の生活や美しい風景が丁寧に書いてあり、最後に解る結末の意味の深さを積み上げて行く。じっくりと読ませる深い思いを持つ話だった。一人一人がしっかり生活しており息づいていた。昔ながらのイギリスの田舎が残っているモーヘイ村の様子が見えるようだった。田舎の美しさと残酷さ。正直に言ってしまえば少女の死より悲しい結末だった。それはローラの視点で書いていないからかもしれない。ローラの視点で書いたら全く違う物語になったかもしれない。みんな傷付いてそれでも明日も生きていくんだなと思った。そうだ、人はそれでも生きて行く。
August 28, 2008
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●借りた本●最近、頭の中に出てくる景色を探しています。それで山や里山や田舎の本を借りました。「美しき村へ」 淡交社文 飯田辰彦写真 俵純治・菅野勝美「日本の原風景に出会う旅」と言う副題がついています。・宮崎県日向市東郷町「坪谷」(つぼや)・新潟県佐渡市「竹田」(たけだ)・山形県鶴岡市「大鳥」(おおとり)・岐阜県飛騨市宮川町「種蔵」(たねくら)・長崎県対馬市上県町「志多留」(したる)・茨城県常陸大田市「持方」(もちかた)・和歌山県古座川町「三尾川」(みとがわ)・静岡県静岡市葵区「有東木」(うとうぎ)・石川県穴水町「甲」(かぶと)・高知県四万十町「里川」・秋田県由利本荘市「百宅」(ももやけ)・長野県大鹿村「上蔵」(わぞ)・島根県隠岐郡隠岐の島町「都万」(つま)「静かな山 小さな山」 石井光造著東京新聞出版局静かな山 小さな山 (写真がありませんでした)-山歩きの楽しみ-・頂上に行けなかった山 不動沢から鳥海山 台倉高山 青松葉山・山の本の忘れられた山 京丸から京丸山 星尾峠と兜岩山・名山の隣の山 上州子持山 黒森山・ワンデンルグと峠歩き 丹波天平 三国峠旧道歩き 碓氷峠旧道歩き・源流の山歩き 七時雨山と北上川源流 上の原と高杖ケ原・山岳信仰の山 肘折から葉山 高妻山と乙妻山・頂上の湿原 湿原の項 田代岳 毛渡沢から平標山・山の地形と地質 海谷駒ケ岳と明星山 雨飾山・きのこの山 井川峠から山伏岳 里の沢から御月山・ブナの山 白神岳から十二湖へ 真瀬岳・地図にない道 鳥ノ胸山 羽山・山里への思い 常葉鎌倉岳 二王山「名建築に泊まる」 稲葉なおと著 新潮社・怪しき男爵の館で怯える 「山月」神奈川県・西の大建築家・武田五一の邸宅が忍者ハウスに 「白河院」京都府・お殿様の屋敷でお姐さんは大サービス 「柳川・御花」福岡県・江戸の湯治場に学ぶ昭和モダニズム 「積善館」群馬県・海運王の迎賓館で立ち退きを迫られる 「舞子ホテル」兵庫県・黒柿、鉄刀木、神代杉。箱根で銘木に囲まれる 「環翠楼」神奈川県・明治の豪邸でつっつく牡丹鍋の味 「楽々荘」京都府・”幻の東京五輪迎賓館”で見た儀式 「十和田ホテル」秋田県・国宝に囲まれた宿坊の以外な一日 「高野山別格本山 金剛三昧院」和歌山県・昭和初期の洋風サロンで帝大学士気分に浸る 「学士会館」東京都・イタリア人建築家のリゾートホテルで悶える 「リゾナーレ小渕沢」山梨県・間越欄間の七福神が笑い、膳の上の海老が泣く 「麻野館」三重県・朱色の欄干に囲まれた教師の楽園 「花のいえ」京都府・大正のリゾートホテルでヅカファンを探す 「宝塚ホテル」兵庫県・昭和のお屋敷で見た女将さんのショータイム 「京亭」埼玉県・古建築を潰すということ 「洋々閣」佐賀県・明治の迷宮に彷徨う人々 「金具屋」長野県・大正の茶室で名物料理の謎を解く 「ゆうりぞうと京都・洛翠」京都府・ヴォーリズの宣教師住宅に隠れた技 「いんのしまペンション白滝山荘」広島県・伊達藩の御殿で裸人の不思議に迫る 「湯元不忘閣」宮城県・「懸崖造」の急階段を下りる白い足 「麻吉」三重県・回り続ける水車と麦藁帽子 「金湯館」群馬県・匠の離れで教わる、お姐さんの誉め方 「村尾旅館」山形県・シャレー風観光ホテルに揺れる心 「雲仙観光ホテル」長崎県・金箔の貴賓室で、恋人達のメッカを思う 「朝日館」三重県・孤高の建築家・白井晟一の遺構に響いたひと声 「稲住温泉」秋田県・江戸の宿坊で「会長」は山伏に捕まった 「竹林院群芳園」奈良県・アールデコの館はなぜ英国人客で埋まったのか 「小樽グランドホテル・クラシック」北海道・建築学生憧れの和風ホテル巡礼 「東光園」鳥取県・明治建築界の首領が遺した「旅立ちの窓」 「東京ステーションホテル」東京都
August 26, 2008
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●読んだ本●「格闘する者に○」三浦しをん著 草思社■あらすじ(カバーから抜粋)藤崎可南子は就職活動中。希望は出版社、漫画雑誌の編集者だ。ところがいざ活動を始めてみると、思いもよらないことばかり。「平服」でとの案内に従って豹柄ブーツで説明会に出かけると、周りはマニュアル通りのリクルートスーツを着た輩ばかりだし、面接官は「あーあ、女子はこれだからなー」と、セクハラまがいのやる気なしの発言。これが会社?これが世間てもの?こんな下らないことが常識なわけ?悩める可南子の家庭では、また別の悶着が・・・・・・。格闘する青春の日々を、斬新な感性と妄想力で描く、新世代の新人作家、鮮烈なデビュー作。■感想ものすごくどうでも良さそうな日常的な会話とものすごく大切なことが入り混じっているので不思議な感じがしました。漫画好きらしくて漫画の話がしばしば出て来ます。出てくる男性がほとんど全員、それぞれにとても魅力的でした。友達の二木君。弟の旅人君。可南子がお付き合いしている年配の書道家西園寺さん。父と付き人の谷沢氏。友人の忍君。みんなそれぞれに個性的でいい男達です。所が女性陣はあまりにもリアル過ぎて?魅力的に感じませんでした。一番の仲良し砂子はどこにいても目立つ美人なのにそれ以上の何かが見えて来なくて。なんだろう?なぜなんだろう?「格闘する者に○」と言う題と表紙が十代の少年?少女?が思い詰めているように見えるイラストでその横顔にも惹かれて借りたのでしたが何と格闘したのかな?と読後に考えました。格闘ってすごくぎりぎりの言葉なのでそうとう激しいものか相当暗くて重たいものを想定してしまったのでした。でも、最後まで緊張感のないままふわんふわんと進んで行くわけで。こういう所が新世代って事なのかなと思いましたが。文章はとても読みやすかったです。きっと就職活動と家の跡目相続で格闘したんですね。でも問題は現在進行形で終わってはいなかったです。何も終わっていない?旅人君だけが自己表現をはっきりさせましたが。うううんんん。読みやすかったけど私の中に何が残ったのかは解りませんでした。いつか解るかもしれないけど。若者であるピー(15歳)の感想も聞きたかったのですが読むのに時間が掛かるからと断られました。ううむ。今の若者のリアルと言う点で新世代と言う事でしょうか。他の本も読んでみないと解らないですね。
August 26, 2008
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●読みかけの本●「不幸にする親」ダン・ニューハース著― 人生を奪われる子ども ― 玉置悟=訳 講談社「コントロールする親」の中でも、「条件つきの愛」自分の損得が大事極度の自己中心性ステータスの崇拝強迫観念的な要求感情が極度に不安定身体的な虐待をする親大人に成長できていないなどはうちの親に当てはまり、他の幾つかは息子を育てる時に私たち夫婦が犯した間違いが当てはまった。「問題をよく理解しよう」の所で泣いてばかりいるのでなかなか進まず苦しくなって止まってしまい、この先の肝心な「問題を解決しよう」まで行き着けなかった。ああ~~~。図書館は延長しても1ケ月。この本に辿りつけなかった。子供時代と、その影響のせいで起こったあれやこれや。大人になって引きずって人生をコントロール出来ないという苦しみ。自分の人生を愛せない悲しみ。この本に向かうには力が必要だった。途中で降参したので買って手元に置いて力が満ちた時に読もうと思った。何しろ一番大事なこれからが書いてあるのに読めていない。そこが読みたいのに理解する段階で苦しくて悲しくて。買って向き合おうと思う。
August 19, 2008
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●読んだ本●「からくりからくさ」 梨木香歩著 新潮社 単行本 文庫本■あらすじ祖母が亡くなって五十日目に祖母の家を訪れた容子は、家の中を綺麗に掃除して押入れの桐の箱の中で祖母のお浄土送りをしていた「りかさん」を迎えに行ったが、りかさんはまだ戻っておらずただの人形に見えた。そのままでは荒んで行くし容子の染色の場所も必要だった事もあって、容子が祖母の家の管理人になって女学生専門の下宿をする事になった。すぐに容子の友人のマーガレットと、容子が外弟子として通っている染織工房に織糸を買いに来る美大の女子学生内山紀久と佐伯与希子の3人が下宿することになった。初日に容子はりかさんの話をして居間にいつもりかさんを座らせて5人の生活が始まった。それは容子が祖母から受け継いだ昔からの知恵袋に満ちた素朴で静かでつましくも簡素で優しい生活だった。紀久の機織の音。容子が植物から染めた美しい糸。東洋の不思議を孕んだ与希子のキリム。日本のあいまいさを理解したくても理論派であるために常にはっきりモノを言うマーガレット。静かに座っているりかさん。5人の生活は、まるで横糸と縦糸による個性的で美しい織物のような生活だった。5人の交流はどんどん広がって行きそれぞれの物語が交差して複雑になり思わぬ糸が手繰られる事となった。■感想始めは、旧き良き日本の知恵のような清楚で爽やかな生活を二十代の女性4人が過ごす、穏やかで日常的な話だと思い、のほほんと楽しみながら読んでいた。すると紀久と与希子の出自や先祖の事、りかさんや人形の件。更には海外へと旅に出た神崎やマーガレットの背景にあるもの。沢山の事が少しずつ織物のように紡がれて織込められて行き、推理物のようであり、手織り人の物語でもあり、日本の女性たちの生き様であり、ととても濃厚で重く話に広がって行き大変驚いた。容子達の日々の選び方や生き方を読みながら私は何のために生きているのか?これからどう生きて行こうか?と考えされられ、とても刺激になった。でも、あくまでもたおやかに優しく物語は進むのだ。不思議な物語だった。
August 16, 2008
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●読んだ本●「翳りゆく夏」赤井三尋著 講談社 文庫本 単行本■あらすじ大手新聞社「東西新聞社」では来年の入社内定者の一人、朝倉比呂子の出自について「週刊秀峰」に記事が出てしまう事を知り、人事厚生局長の武藤が社長の杉田に呼び出された。『誘拐犯の娘を記者にする大東西の「公正と良識」』と言う見出しだ。朝倉比呂子の父親は20年前に乳幼児の誘拐事件を起こし亡くなっていた。2才だった比呂子は母親もすぐに病で亡くし養女になって生きて来た。試験の結果はトップクラスの優秀な人材だった。会社側は個人情報が漏れた事を重要視し、比呂子になるべく余波が当たらないように動いた。一方、東西新聞の大株主の命令で20年前の乳幼児誘拐事件を隠密裏に調べ直すよう社長の杉山から言い渡された梶は、2年前の失態を取り返すべく朝倉比呂子の父親が起こした事件を調べ始める。■感想堅実で安定した文章でとても読みやすくて面白かった。小さな事実を積み上げて行くこういう推理物が大好きなのだと思う。読み応えのある小説に出くわすとうれしくてにやにやしてしまう。登場人物一人一人がしっかり生きていて人生を歩んでいるのが伝わる。大企業なのに人間を大事にする誠実な会社人間が沢山登場するためか誘拐事件と言う苦しい内容にもかかわらず希望が残る思いで読めた。日本の新聞社は、親の犯罪歴よりも本人の能力と人間性を選ぶ、と言うのが事実ならとてもうれしいな。日本の将来にも希望が持てるのではないだろうか。本当にそうなら。第49回江戸川乱歩賞受賞作のこの作品は著者が長編小説を書くのが二作目と言うものだがしっかり丁寧に書いてあって赤井さんの力量が伺われる。所々に強引さが感じられけれど著者の良いものを書きたいと言う誠意が感じられる作品だと思う。ただ、比呂子に感情移入をした俊治と千代のその後も書いて欲しかった。俊治はどういう生き方を選んだのだろうか?すごく気になる。最後に選考員たちの選評が書いてあったのだが、なんと不知火京介「マッチメイク」と2作受賞であった。「マッチメイク」は去年の5月に読んで感想を書いていた。これは初めて読んだプロレス推理小説で受賞作が2作あるという選評を読んだ記憶がある。そのもう1作の方がこの「翳りゆく夏」だった。なるほど対照的な2作品でどちらも選考に残ったのは頷けた。とても良い読書時間を過ごせた。
August 10, 2008
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●読んだ本●「風邪の効用」 野口晴哉著 筑摩書房■解説より抜粋風邪は自然の健康法である。風邪は治すべきものではない、経過するものであると主張する著者は、自然な経過を乱しさえしなければ、風邪をひいた後は、あたかも蛇が脱皮するかのように新鮮な体になると説く。本書は、「闘病」という言葉に象徴される現代の病気に対する考え方を一変させる。風邪を通して、人間の心や生き方を見つめた野口晴哉の名著。■感想返してしまったのでおぼろげな記憶しかないのですが、風邪を引くことによって体の中の毒素を排出するので風邪を引くと体のリセットになるという事らしくて読んでいてなるほど!!と思いました。確かに風邪を引いて寝込んだ後はすっきりしていますね。風邪を邪魔者扱いしていたのですがリセットの良い機会だとこれからは大事にして風邪を前向きに受け入れて寝込みたいです。風邪の引き方も書いてあり、これは買って手元に置きたいと思いました。この本を読んでいて人間の病気に対する考え方を変えるべきだと思いました。自覚は無くても体は大事な事を知っていて風邪や病気で教えてくれているとつくづく思います。誰しも体は賢くて苦しい生き方をしていると体が限界だよと教えてくれるんですね。体の声に耳を澄ませば自分らしく生きる助けになると思いました。
August 8, 2008
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●読んだ本●「月長石の魔犬」秋月涼介 講談社■あらすじ(本当に荒い筋)霧島悠璃は、早く先生に殺されたいといつも思っている。鴇冬静流は、石細工師の風桜青紫に一目ぼれして「青紫堂」に押しかけ手伝いをしていたが、静流の軽率な行為によって猟奇殺人事件に巻き込まれてしまう。相次いで見つかった二人の若い女性の遺体の頭部は切り取られ犬の頭部が縫い付けられていた。静流は青紫をも巻き込み犯人探しをさせられるはめに陥り深みにはまっていった。メフィスト賞受賞作品。■感想舞台設定は凝っていて面白いけれど女性達が余りにも短絡な人間なのにちょっと呆れました。著者の女性像はなじり合いや罵りあいのケンカをしている低学年の小学生男子みたいです。女性は感情的だと思っているのでしょうが、それにしても主要人物の女性が何人も幼いやり取りをしていて、すぐに激昂したり言葉に反応していきり立ったり空威張りしたり乗せられて調子に乗ったり魅力的じゃない女性ばかりが沢山出てくるのは何でしょうか。ストーリーを台無しにしている気がしました。殺されたいと願っている悠璃について一番深く書いてあるのかもしれません。女性達の人間性の幼さのせいで話しが薄っぺらに感じてしまいました。異常とは?正常とは?と問いかける大きな問題提起をしているのに最後には何事も無かったように元の生活に戻るのは納得が行かなかったです。シリーズ化するためなのでしょうか。メフィスト賞がどんなものか知らないで読んだのですが、賞を取っているのだからある程度のレベルに達してると思って借りたわけで。もったいないです。人間一人一人にもっと深みがあるととても充実した物語になったろうと思われああ惜しいと思いました。その後、著者がどう成長したかを知るために最近の著作を読もうかと思います。(ちょっと偉そうかな。 でもほんとにもったいない)
August 6, 2008
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●読んだ本●「二つの月の記憶」 岸田今日子著 講談社女優、岸田今日子の短編集。●オートバイ●二つの月の記憶●K村やすらぎの里●P婦人の冒険●赤い帽子●逆光の中の樹●引き裂かれて■感想薄氷を踏んでいるような、危ういエロティシズムが潜んでいる気がした。ちょっと足を踏み外すと引き返せないエロスの世界に真逆さまに落ちて行くようなもろくて繊細な危うさ。毎日の生活の中には、ドアの向こうに子供が知らない得体の知れない何かが潜んでいるような、でも実は子供だって持ち合わせているのかもしれないような。それでいてニヤリとしてしまう余裕があって、するすると読みやすくて解り易い文章と流れがとても面白かった。何かすれすれの所に踏みとどまっているようなちょっと怪しげでキラキラした短編集だった。女優岸田今日子がこんな味と翳りのある小説を書く人だなんて知らなかった。面白い人だなぁ。でも亡くなってしまったんだなぁ。残念。
July 31, 2008
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●読んだ本●「イノセンス 女性刑事ぺトラ 上・下」 ジョナサン・ケラーマン著北澤和彦=著 講談社文庫 ■あらすじ母と2人でトレーラーに住んでいるウィリアム・ブラッドリー・ストレート(12歳)は生活保護を受けながら酒に溺れジャンキーの母が連れ込んだボーイフレンドに虐待を受け殺される危険を感じて家出をした。あちこちの公園に基地を作り路上生活を続けていたビリーはある夜公園で男性が女性を無残に殺す所を目撃してしまった。恐怖におののき、逃げ出したビリーに次々に問題が降りかかる。一方、公園で殺されたリサの事件を担当する事になった女性刑事ぺトラ・コナーは現場近くに残されていた本や食事の後を見つけて目撃者がいたのではないかと考えた。上司からの圧力や同僚の問題、自身の思いを抱えつつ事件に当たるぺトラは壁を少しずつ崩して行き真実に迫って行く。その間ビリーは放浪を続けながら危険をかいくぐり必死で生きていた。ぺトラとビリーが交差する時事件の真相が明らかになる。■感想中古店で見つけた50円の「イノセンス 下」はとても面白そうだった。「上」を探しても無いのでどうしても読みたくて図書館で借りた「イノセンス 上」。ビリーは小柄だが賢くて知恵のある少年で危険を察知しては逃げ回って生きながらえた。守ってくれない母をそれでも愛し、誰にも救ってもらえない非情な事態でも欲を言わずに必死で生き抜くその健気さと誠実な性格に胸が痛んだ。ぺトラにも事情があり、癒されない思いを抱いて日々を生きている。相棒のストゥーと家庭。同僚のウィル。リサの元夫の三流映画スターのラムジー。ラムジーの幼馴染でマネジャーのバルチ。ビリーが知り合うサム。土産物売りのズカノフ。母のボーイフレンドのモラン。登場人物の生活や感情その生き様や思いが丁寧に綴られている。一人一人がしっかりと息づいておりとても奥行きのある読み応えのある話だった。最近、読書に熱中できなかったのが嘘のようにこの本を読み始めたら夢中になって読んだ。面白かったです。しっかりしたプロット。騙された~~~と言ううれしい悲鳴( ̄ー ̄)☆ ケラーマンの小説は「大きな枝が折れる時」と「プライヴェート・アイ」を読んだだけだが、この2冊ともアレックスシリーズで私はアレックスよりぺトラの方が面白いと感じた。これはケラーマンが作家として充実して来たからかもしれないし私の感じ方が変ったのかもしれないけど、ぺトラシリーズを是非読みたいと思った。充実度満点だった。
July 15, 2008
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●読んだ本●「夏のこどもたち」 川島誠著 角川文庫短編集なので一作ずつ簡単に書きます。 ●「笑われたい」 「オレ」(高校生)が中学生だった頃の話。 中学に入った直後に転校して来た ケンジという同級生のことを 「オレ」の目線から書いてある。 つまらないジョークを飛ばし いつも笑われて中心にいようとしていたケンジ。 感想 ちゃらちゃらした口調なのだが、 「オレ」は結構ケンジを観察していたようで 不快に思いつつも 気になっていたのだろうと思う。 中学校に潜む虐めの体質を さらりと書いてある。 ●「インステップ」 転校生の僕(小5)はサッカーだけは得意だ。 でも新しい小学校では、 でかい女子が僕の邪魔をする。 新しい環境に慣れるまでの 高井雅弘の苛立ちと不安と努力。 感想 転校生は不安を抱え プライドにしがみついて乗り越えようとしている。 大変だろう事と、 自分を変えていく勇気とが 前向きに生きる秘訣なのかな。 ●「バトン・パス」 陸上選手の僕(小6)は短距離走が速くない。 夏の大会でリレーに出る事になったが バトンのパスも上手く行かない。 でも僕は遅いなりに頑張って練習した。 感想 学校で自信のない子は こうして力を付けて行くのだろうと思った。 逃げないで向かうから 自信が付いて行くんだと思った。 ●「夏のこどもたち」 おれ、朽木元(中3)は左目がない。 だから体育だけはうまく行かない。 他はほぼオール10なのに。 おれは熱くなる事も 皆に流される事もない。 だけど何をして良いか解らない。 だからそう言う時は勉強をする。 ずっと学級委員をしてきた優等生だが ただ勉強をしていただけだ。 担任の瀬川先生に、 校則問題を話し合う特別な委員会の クラス委員の一人に 強引に決められてしまった。 そんなのはどうでも良い。 どうでもいいからさぼっているうちに 問題はとんでも無い方に走り出した。 おれはどうでもいいんだ、そんなこと。 家では母親が酒ばかり飲んでいる。 おれは何をしたらいいか解らない。 感想 私は多分 10年ほど前にこの話を読んだ記憶がある。 当時の私は、 しばらくの間世間に疎くなっていたため 私の精神の慣らしのために まずは児童書から読み始めた。 それは赤ちゃんに 離乳食を与えるようなものだった。 児童書ばかりを数年読んだ。 始めは小さい子向けの本から読み、 段々とヤングアダルトを読むようになった。 それから大人の優しい話を読み、 次には少し厳しい話を読み、 ようやく本来の推理小説までたどり着いた。 この「夏のこどもたち」は 私がヤングアダルトを読み終える頃に 読んだのだと思う。 当時の私には、 この話は退廃的で暗くて灰色のイメージで 希望の無い少年、少女の話だと思っていた。 爽やかでは無い感情ばかりが気になって その向こうが全く見えていなかった。 不快感だけが残った。 そして先日、 中古店で50円で買ったこの本は、 「夏のこどもたち」という楽しげな題名と 可愛い子供達が並ぶ 爽やかな水彩画に騙されて買ったのだ。 所が短編3作は、 短い中に小中学生の 生き生きとした感情や生活が 感性豊かに瑞々しく書いてあり、 深い精神性が伝わってくるものだった。 そして中篇の「夏のこどもたち」の元君。 成績優秀だが片目のハンデがあり、 いつも酒を飲んでいる母親と 出張ばかりの父親がおり 斜に構えた物の味方や観察力の鋭さと 毒舌的な表現が素晴らしくて、 すぐにその魅力に参ってしまった。 例えば体育教師の島本が 問題児の高橋に声を掛けるシーンがある。 元は立ち去ろうとしていた時だ。●----------------------------------------------● 「なあタカハシィ、 本当はおまえは授業に出たいんだろう。 寂しいんだろう?」 最高だった。思わず振り向いてしまった。 島本はいいやつだって言い方もできるけどね。●----------------------------------------------● ここの「最高」は 「最高にばかばかしい」の最高で 「島本はいいやつだって・・・」のいいやつは 能天気と言う意味だ。 元の性格、感性を この短い文章がよく表している。 十数年前の私は、 この小説の素晴らしさに気付けなかった。 私は小学生から読書に親しんで来たけれど 私は小説を書く事は出来ないと感じていた。 それは私の根が短絡的だから。 単純でストレートな人間だから。 だから私が自分で納得出来るような話は 書けないと知っていたから。 計らずも、こんな珠玉のような小説を 十数年前には理解できない人間だという事から 自分の直感 「私は自分が納得できる小説は書けない」 を証明してしまった。 こんなにキラキラ輝くような 瑞々しくも、 思春期の危うさや純粋さや切なさを 短い中に凝縮した 素晴らしい一遍を、 私は理解出来なかったのだから。 もっと豊かな人間になるために 川島さんの本をこれから探そう!!!
July 9, 2008
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●読んだ本●「ランボー・クラブ」 岸田るり子著 東京創元社■あらすじ■不登校中の生駒川菊巳(中3)は自分と同じ後天性の色覚障害のサイト「ランボー・クラブ」に載せてあったアルチュール・ランボーの詩を見て驚いた。何故かフランス語で書いてある詩が読めるのだ。しかも意味も解るのだ。今まで一度もフランス語を勉強した事はないのに。最近、浮かんでくる夢や記憶はまるで自分が自分でないような気がする。自分は一体何者なのだろうか?母や義父の態度もおかしくなってきて菊巳の疑念や不安が増して行く中で殺人事件が起きた。ここから始まる菊巳の自分探しが思いもよらない過去を暴き出す。■感想■ジグソーパズルのようにバラバラな情報が点在して少しずつ形を成して行くのだが、ずっとその形の意味が解らずピースがバラバラのままだった。後半になって、事実と事実が繋がれて行きすごく面白かった。が、残念な事にラストが日本の2時間サスペンスドラマのよくある終焉のように何故こうなったのかとか何故こうしたのかとか理由を言い合う謎解き合戦が不自然に続くのだ。あの断崖でのやり取りとか水辺の告白ごっととか例の有り得ない情況がラストにやって来てガッカリ。菊巳君関係は重くてシリアスでそれを和らげるためにか私立探偵関係はおちゃらけ担当みたいに間抜けなやり取りが多くて何かちぐはぐな感じがした。もったいないなあ。折角重奏な積み重ねが出来ていたのに。途中まではワクワクと楽しかった。装丁も好きです♪
July 2, 2008
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●読んだ本●「歩道」 柴田よしき著(「聖なる黒夜」単行本 限定冊子に収録された短編)この「上」に収録されているようです。2月25日に書いた「聖なる黒夜」の感想に詳しいあらすじが書いてあります。「聖なる黒夜」に出てくる練が事件に巻き込まれる前の生活が書いてあります。練の家族と育った家庭環境。静かに生きていた練の生活。あの悲惨な人生に転落していく前の青春の真ん中の練がそこにいて、「聖なる黒夜」の最初の練の無力さがよく理解出来ました。私はとても練に同情しています。それは、全く責任の無い練が邪な連中の犠牲者になりただただ巻き込まれて翻弄され自分を失い、全てを失い、細い糸のような偶然によってようやく生きながらえて来た人だからです。何が自分にとって良い事なのか、どう生きたら良いのか解らなくなって川面を流されて行く木の葉のように自らではどうしようもない力に押し流されて立ち向かい様もなくもろい精神が、少し私に似ていると感じたからかもしれません。親の道具に過ぎない存在と言う点でも私と似ていると思いました。積極的に生きて来たのではなく、成す術が無く現状を把握出来ずにうろたえながら生きて来た、と言う練の人生に同情したのだと思います。苦しみに翻弄される前の練は孤独で地道に生きる静かな青年でした。その後を考えながら読むのは余りに切ない気持ちになりました。小説の中の人物なのだけど練が幸せになって欲しいと思いました。だけど、どうして題名が「歩道」なんだろう?練が車道に投げ込まれる前が歩道を歩いていた・・・と言う感じの人生だから?ら?私が読んだ単行本にはこの短編が付いていなかったのでわざわざコピーして送って下さったLake Moraineさんに心からお礼を申し上げますm(_ _)mありがとうございます~~ヽ(´▽`)ノ”
June 27, 2008
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本が読めなくなった私がようやく読んだ本。最近精神的にネガティブなので感想も暗いす(^^ゞ●読んだ本●「卵の緒」瀬尾まいこ著(短編集) 新潮文庫一話目「卵の緒」 (ネタバレ有り)■あらすじ鈴江育生(小4)は母と2人暮らしだ。育生は学校の授業でへその緒の事を知り日頃から不安に思っていた「自分は捨て子なのではないのか」を確認しようとしたが、母は卵の欠片を渡して「卵で産んだ」と言う。不安が消えない育生だが、明るく元気な母と優しい祖父母、母が好きな朝ちゃんや同級生の池内君など育生を取り巻く人々は優しい。その優しい心のやり取りが綴られている。■感想現代の童話みたいだと思った。心から愛してくれる他人に育てられるのと愛してくれない実の親に育てられるのとあなたならどちらを選ぶだろうか?みたいな究極の選択を思った。私は実の親に育てられたから大きい事は言えないけれども選べるものなら愛してくれる他人に育ててもらったら・・・・・・・・・・・・・・・どう育ったのかなあ。でも愛してくれる人に育てられた人は自分の居場所を持っている気がする。自己肯定が出来るんだから無駄に自分を責めて苦しむ事がないんだもの。だからいざと言う時強いんじゃないかと私は勝手に思っている。赤ちゃん時代に父親を亡くした男の子が大人の男性をそんなに簡単に受け入れることが出来るのだろうか?どう接して良いか解らずにうろたえるんじゃないだろうか?と思ってしまった。あんまりするすると問題が解決して行くので童話みたいだと思った。ほんとかよ、みたいな。これがデビュー作と言う事だが、文章は綺麗で読みやすい。心地良い後味でそう言う点ではいい気持ちです。二話目「7's blood」 (ネタバレ有り) ■あらすじ高校3年生の七子は父を病気で亡くし、母と二人暮しだった。父の愛人だった女性が傷害事件を起して刑務所に入っている間だけ、七子と父親が同じ七生(小学6年)を預かると母が言い出した。七生は気が利いて素直で可愛くて家事を何でもこなす誰にでも好かれる男の子だったが七子は疎ましく感じていた。しかし、母が入院してしまい2人きりでの生活の中で少しずつ心の距離が縮まり七子の気持ちが変わって行った。■感想著者の瀬尾さんはお父さんのいない家庭で育ったそうで二話とも母子家庭の話だった。埋めたい家庭内の「父親」と言う穴を埋めるための話のように感じた。でも、どちらも厳しい内容ながらもとても柔らかい感触がして暖かさが残る。瀬尾さんは愛されて育ったのだと思った。七子はお母さんから愛されているじゃないか。愛された人は一人になっても強いんじゃないかとやはり勝手に思っている。邪険にされ、母親の気まぐれに翻弄されて生きて来た七生がこんなにも素直に育つものだろうか?七生は厳しい環境で育ったから現実面では強いかもしれないけれど自分を支えると言う点ではどうだろうか?母親の都合で振り回されて生きて来た子供が自分を支える手立てを持っているとはなかなか思えない。だから七子より七生の方が強いなんてちょっと納得行かないなぁ。と言う、私の中から出て来た感情。多分、私の中にある被害者意識が七子の持っている「愛されている者」へ嫉妬しているのかもしれない。私のようにネジレタ感情に身もだえしていない人はきっと優しい気持ちで読めるだろうと思う。著者の暖かさと強さと孤独感?心の穴?欠損部分?そう言うものを感じて、とても複雑な思いがした。だけど全体としては柔らかくてしなやかな絹の布のようだ。
June 19, 2008
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●読みかけた本●「にんじん」 ジュール・ルナール著窪田般彌/訳これは世界児童文学全集に入っているものを小学高学年か中学生の頃に読んでまるで私のようだと感じてずっと他人とは思えない感情を抱いて来た本です。それで先日、中古本屋で見つけた時に大人になってから読み返してみようと思って買いました。でも20ページまで読んで逃げ出しました。子供向けの小説よりずっと残酷でした。大人になって色んな事が解るようになり、しかも最近やけに過敏になっている私にはとても厳しい内容でした。なので読むのを止めました。最近、本が読めなくなっている私が手に取ったのにダメでした。いつか精神的に回復したら読めるかもしれません(^^ゞ●内容そばかすと赤毛の少年が母親から「にんじん」と呼ばれ疎んじられ苛められても、にんじんは頑張って母に気に入ってもらうべく努力をするが報われない話。って書くと怒る人がいるかなぁ。これはジュール・ルナールの自伝的な話です。
June 6, 2008
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●読んだ本●「家守奇譚」(いえもりきたん)梨木香歩著 新潮社 単行本 文庫本■あらすじ頃は明治。売れない作家の綿貫征四郎は、学生時代に湖で亡くなった親友高堂の実家の守を頼まれて住み込み始めた。高堂の父親が隠居して娘の近くに住むので窓の開け閉めなどの家の守をして月々なにがしかの物も貰えると言う事で、渡りに船と越して来た。庭の木々は伸びるに任せていたが、綿貫は散歩の折に池の傍のサルスベリを毎日撫でていた所サルスベリにすっかり惚れられてしまった。嵐の夜に床の間の掛け軸の中から高堂が出て来てサルスベリの話しなどをして行った。ある時、稿料が入って綿貫が肉を買って来た所犬が家まで付いて来てしまった。すると高堂が現れて、その犬を飼えと言う。しかも名前を「ゴロー」と名付けて行った。このゴローと言う犬が一緒に暮らしてみるととても飼いやすくて便利な犬だった。犬好きの隣家のおかみさんがゴローのために食べ物を差し入れしてくれる事から綿貫の食事が豊かになり犬を養う所か犬に養ってもらう身になってしまった。他にも池の周りで起きるゴタゴタの仲裁をしたり、河童の干からびた物を川まで返しにお使いに出たり、狸のいたずらから助けてくれたりとゴローはひどく優秀で役に立つ犬であった。高堂の実家に住むようになってから不思議な事が通常の生活になってしまった綿貫の不思議な心地良い生活が綴られている。■感想夏目漱石の「坊ちゃん」のような昔風の美しい文体の語り口で綴られているこの本はとても心地良くて身近に置いておきたいと思った。この本は摩訶不思議なことが日常に起きていつの間にかそれが何の不思議もない事になって行きさあ、今度は何がやってくるんだととても楽しくなる、他に類を見ない楽しくて可笑しくて心に沁みるような大切な一冊になった。綿貫と近隣の人々との交流もほのぼのとして気持ちが暖かくなる。こんな小説は初めて読んだ。美しい文章を読んでいると日本語が繊細で表現の豊かな力を持っている事を思い出した。宝物の一冊だ。
March 16, 2008
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● 読んだ本●「聖なる黒夜」 柴田よしき著 角川書店 単行本 文庫本上・下■あらすじ捜査一課の係長、麻生龍太郎が朝方に事件の連絡を受けて現場に着くと被害者の韮崎誠一(東日本連合会春日組の大幹部)がバスタブの中で死んでいた。非常に頭が良くて用心深い韮崎が殺された。これは非常事態だった。抗争事件に発展する前に犯人を捕まえないと戦争が始まってしまう。マル防の及川たちも出張って捜一と強力体制を取り、捜査本部が設置された。麻生が及川に促されて連れて行かれたのは韮崎の資金作りをしている山内練の家だった。山内は韮崎が殺された事を知って大量のアルコールを摂りまともに話し合える状態ではなかった。山内の顔を見た麻生は驚いた。10年前に大学院生だった優男の山内を逮捕して起訴したのが麻生だったからだ。しかし、山内の事件は女子大生障害未遂で初犯でもあり執行猶予が付くと踏んでいたので、麻生は山内には執行猶予が付いてすぐに更生するだろうと思っていたのだ。美しい女顔の山内を刑務所なんかに放り込んだらどんな生活が待っているか解っていた麻生は山内を早めに自白させようと空調施設の壊れた真夏の暑い部屋で泣き続けて頑固に否認する青年に苛立つ神経をなだめながら落としたのだ。所が10年後に会った山内は暴力団の大幹部の韮崎の愛人の一人であり、暴力団の資金を作る土地転がしや株取引をする裏方の人間になっていた。麻生は山内がそこまで転落した理由が気になり調べ始めた。そこに見えて来たのは自白よりも証拠で詰めて行くのを心情とした麻生が目差していた理念を覆すものだった。そして韮崎事件の追及によって暴かれた闇に葬られた悲しみが次々に麻生を見舞う。韮崎を殺したのは?山内が転落した理由は?自分の信念は?己がどんな人間なのか?麻生の進む先に未来はあるのだろうか?■感想辛い内容だったので、読み切るのに時間が掛かった。でも、濃い内容だと感じたので頑張って読んだら最後には声にならない長いため息が出た。「ああ、なんてこった・・・」そんな濃い思いの詰まったため息が出た。始めは、男性同士の絡みのシーンが事細かに綴られている所が多くて参ったのだが、多分これは必要な描写なのだろうと私にしてはすごく頑張って読んだ。だって読み飛ばしたら大事な所で話しが見えなくなるかもしれない。「人は愚かな生き物で、 それでも地べたを這いずって生きている。」大きなくくりとしての感想はこれ。人の愚かさは恨み辛みを生み出し、人が人を裁くことで難しさは増強されて行く。憎しみは憎悪を生み、憎悪は仕返しを生み、仕返しは犯罪を生み、人の心を蝕んで堕ちて行く。冤罪はその人とその家族と関係者を全て巻き込み取り返しの付かない事実ばかりを生み出し、取り返しの付かない人生を生み出す。人はほんの少しでも油断すると大きな間違いを犯す。だからと言って私のようにいつもビクビク生きる訳には行くまい。悲惨な事実の積み重ねで物語は悲壮感と重厚感に貫かれ、複雑で説明出来ないほどの情況に悲しみと憎しみ連鎖が連なり、それで出た最後のため息「ああ、なんてこった・・・」この本を読んでいる間中ずっと重かったのだが、淫乱でヤクザの片棒を担がされている練がそれでも私は好きで、幸せになって欲しいとずーーーーっと思っていた。練は本質的に良心を持っていて抗いがたい運命に翻弄され暗転の人生で自暴自棄になりつつもそれでも人を憎み切れず諦めつつも心の中に大事なものを抱えてずっと大切にして来たのだと思った。だから練の所業も余り気にならずその健気さと心もとなさに魅かれてこの人だけは幸せになって欲しいと思った。私は健気な人に惹かれるんだなぁ。主人公の麻生はとてもストイックで淡々とした感情の人で正義感があり安心して読んでいられた。結局の所、悲惨な事件が沢山扱われているのに、悪党が沢山出てくるのに、私自身は憎しみを感じる事が出来なかった。ただ、悲しみが渦巻いている。そんな感じ。読み応えは予想を遥かに上回り、手応えのある話を読みたい方にはお勧めします。
February 25, 2008
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●読んだ本●「フリーキー・グリーンアイ」ジョイス・キャロル・オーツ=著大嶌双恵=訳 ソニーマガジンズ■あらすじ14歳の誕生日の数週間前にフランチェスカ(フランキー)・ピアソンは境界を越えた。パーティーで知り合った大学生にレイプされそうになった時、フランキーは境界を越えて自分の中にフリーキー・グリーンアイが現われてフランキーを助けてくれた。その日からフランキーはそれまでのフランキーの他にフリーキー・グリーンアイの目を通して周囲を見るようになった。元フットボールのスター選手だったパパは人気のスポーツキャスターだ。ハンサムな二十歳の兄のトッドと10歳の妹サマンサ。優しいママの5人家族のピアソン家は仲良しでとても上手く行っていたのに、深夜にパパとママが言い争うようになってママが顎や手首の痣を隠すようになった。そうしてママが自分のゾーンに行くようになり、ピリピリした空気が家の中を満たすようになった。サマンさは怯えてフランキーを頼るようになり、フランキーは気付かない振りをして家族を繋ぎとめようとした。フランキーにはフリーキー・グリーンアイが現れて見ない振りをしている事実を教えてくれた。ピアソン家の歯車はどんどん狂い始めフランキーは混乱の中で苦しみ、フリーキー・グリーンアイの助けを得て現実に立ち向おうとする。■感想私はアメリカの一人称の女の子の話しが好きだ。例えばシャロン・クリーチの「めぐりめぐる月」。 これは特別な一冊だ。女の子の目から見える事が綴られて事実や現実が少しずつ構築されて行くその過程が好きだ。主人公の女の子の感性で見える事や感じた事が細かに書いてあるのは友達の話を聞いているようでとても心地良い。今回のこの「フリーキー・グリーンアイ」は段々とフランキーの抱える問題点が浮き上がって来てフランキーが見ようとしない恐ろしい事実が中年の私にはくっきりと見えてしまう。だから読んでいくうちにどんどん悲しくなった。ピアソン家の崩壊の音が聞こえて来てとても苦しかった。人は見ようとしないと現実は見えないもので見えないのだからどんなに目の前にあってもその人にとっては存在さえしないのだ。私の夫はそんな人だからフランキーが目の前で起きている事から逃げているのがよ~~~く解った。私も見えているのに見ないものがあるんだろうなぁ。気付いていないだけでそこに在るのに見えていない事が。美しい文章は読みやすくてフランキーの健気さは痛ましかった。フランキーは自分を守るためにフリーキー・グリーンアイを作り出したのだと思う。自分を自分で守らなければならない子供がどれほど沢山いるんだろうか。ママの頑張りは悲しいばかりだった。素適な人なのに。カゴの鳥状態は私にも経験があるので胸が痛んだ。人を操作しようとする人の恐さは自分が経験して来たので真に迫る苦しさを感じた。人間の弱さが伝わる話だった。人は自分の弱さを認めたくないので隠すのです。
February 2, 2008
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●読んだ本●「闇の守り人」 上橋菜穂子=著偕成社 二木真希子=絵 単行本 文庫本 ■あらすじ短槍使いの女用心棒バルサシリーズ2作目。新ヨゴ皇国の第二王子、チャグムの精霊の守り人としての運命を助けたバルサは恩人のジグロと自分の運命を大きく変えた故郷カンバルに向かうために地底に広がる洞窟に入って行った。無常な運命に翻弄された6歳だった少女のバルサが泣きながらジグロに手を引かれて抜けた真っ暗闇の洞窟を逆に辿ってみようと思ったのだ。入ってはいけない、火を持ち込んではいけない恐ろしい洞窟をジグロの短槍の柄を書き写した模様に従って手探りで進んで行くと松明の匂いと子供の悲鳴が聞こえて来た。暗闇の中を走って助けに向ったバルサはヒョウル(闇の守り人)と闘い少女と少年を救うことでカンバルの国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。■感想うつうつとしていたために最近は全く本が読めないでいた。少女マンガばかりを読んで現実逃避に走り込んでいたのだが、「闇の守り人」を返却する日が過ぎていたので重い腰を上げて焦って読み始めたらこれが面白くて面白くて一気に三分の二を読んだ。時間があれば全部読みきっていたろうと思う。「精霊の守り人」を読んだ時はアニメでワクワク感を経験してしまったため色んなシーンでの人々の心理や経緯やバックボーンを知るのが面白くてすごい作者だと確信した。今回はストーリーを知らないので始めからずっとワクワク感の連続で思いも掛けない展開やバルサへの信頼感や頼もしさがとても楽しくて面白かった。文章の確かさは言うに及ばない。バルサ達が新ヨゴ皇国の秘密を知る事で国と民が救われたようにカンバルでも大きな自然の秘密を知る事となった。上橋菜穂子さんの自然への豊かな思いや人間の弱さゆえの愛おしさが伝わるような気がした。そして時々ハッとするような言葉が出てくる。例えばP23のジグロの言葉。「ふしぎなもんで、武術をやる者には、 争いごとがむこうからやってくる」私は二十代後半に中国拳法を習いに通っていたのだがそこで知り合った高校生達の中で師範の弟さん(当時高3)が「俺が小林拳をやっていると言う噂を聞いて 色んなヤツがケンカを吹っかけてくるんだ。 こっちはケンカなんかしたくないのに、 駅や道で待ち伏せして襲い掛かって来るんだ。 仕方なく応戦して勝つと 益々そういうヤツがやって来る。 時々、小林拳なんか やらなければ良かったと思う事がある。 普通の高校生として生活したかった」と話していたのが印象深い。私はブルース・リーのファンで強くなれば自分の身を守れると思っていたのだが、強くなる事で腕馴らしや腕を見極めるためにふざけたヤツ等が群がってくるなんてそれまで考えた事も無かった。上橋菜穂子さんはどうしてその事を知ったのだろうか?上橋菜穂子さんは豊かな人だなぁ。バルサはカッコイイなあぁ。生き様が潔くて素晴らしい人だなぁ。バルサシリーズをもっと読みたくなった。
January 30, 2008
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●読んだ本●「西の魔女が死んだ」 梨木香歩著 小学館 ■あらすじ授業の合間のまいの元に祖母の訃報が入った。祖母の家に向う母の運転する車の中で、2年前に過ごした祖母の家での一ヶ月余りの輝く記憶がまいの心に戻って来た。その時、中学1年になったばかりのまいは学校に行けなくなり喘息もあったまいは田舎暮らしをしている祖母の下へと療養を兼ねて滞在することになった。祖母はイギリス人で自然に囲まれた家に一人で住んでいた。毎朝、飼っているニワトリの卵で朝ごはんを作りハーブや野菜に水をやり片付けや掃除をする祖母の手伝いをするうちにまいは自然豊かな祖母の家での暮らしにどんどん馴染んで行き、林に囲まれた陽だまりの大好きな場所も見つけて自分に優しく出来るようになった。「お祖母ちゃん大好き」とまいが言うと祖母はいつも「アイ・ノウ」と微笑むのだ。まいはお祖母ちゃんが大好きだった。そしてまいは祖母の一族が予知能力や透視能力に長けた魔女である事を知りまいもまた魔女修行をしたいとお祖母ちゃんにお願いをした。お祖母ちゃんがまいに与えた修行は精神を鍛えるために早寝早起き、食事をしっかり摂り、よく運動し、規則正しい生活をすると言うものだった。がっかりしたまいにお祖母ちゃんは「いちばん大切なのは、 意思の力。 自分で決める力、 自分で決めたことをやり遂げる力です」「まいにとっていちばん価値のあるもの、 欲しいものは、 いちばん難しい試練を乗り越えないと 得られないものかもしれませんよ」と話した。まいは自分で生活を決めて自分で行動して意思の力を強くする修行を始めた。そうしてまいの生活は祖母の強い軸を元にしっかり築かれて行った。■感想(一部ネタバレ)数年前に友人に勧められていた本をようやくようやく読みました。多分、魔女と言う言葉に抵抗があったようです。これは児童書ですが、「考え方で全てが決まってしまうよ」と教えてくれる大人にも優しい本でした。あらすじを書いていてこれではファンタジー小説のようだと思いました。実は全くそうではなく、傷付いたまいの成長の話しで優しさに包まれた誰にとっても大事な事を思い出させてくれるような清清しい話でした。お祖母ちゃんとまいの生活を読んでいるうちに私は今よりもっと庭にハーブを植えたいと思いました。私はハーブがとても好きなのですが、この話しにはハーブが沢山出てきます。ハーブが好きなのに、中古で買った私の家の庭は和風でこの庭を造った人の意思を壊すようで手を付けられないでいたのです。私はこの本を読んでいてうちの庭の好きじゃない植物は抜いたり切ったりして自分の好きな物で満たしても良いのだ!とようやく気付いたのでした。今年の目標がもう一つ増えました!!「庭を自分の好きなものにする」と言う事です。そうだ、どうして私は前の住人に遠慮していたんだろう。私はいつもそうなんです。自分を中心に考えられないようなんです。もしくはそうなるまでにものすご~~く時間が掛かるんです。それで庭は関してはここに住んで6年以上も経ってようやく自分の庭にしよう!と思えるようになったのでした。この本を読んでいるとハーブの他に木々の匂いもして来ます。私は山や緑が大好きなのでこの家に住みたいと思いました。毎日、小さな幸せに満ちた優しいルールに守られた静かで穏かな日々。いいなぁ。ピーがよく言う「高原の一軒家で暮らしたい」はこう言う刺激の少ない生活をしたいとピーは思っているのだろうか?と思いました。ここで言う刺激とは他人からの刺激で、自然がもたらしてくれる刺激は優しくて自分を見つめ直すマイペースを与えてくれる。そんな感じです。勿論、実際に田舎の一軒家で暮らす事は色々な不便があるでしょうが。その不便を補って余りある生活と言う風がこの本の中から吹いて来るのでした。以前、ドキュメンタリーで見た山口県の老夫婦が山奥の電気も水道も電話も無い所で自給自足を楽しんでいる生活を思い出しました。その老夫婦はとてもお互いを労わり気遣い合っていました。日本人の愛ってこういうものなんだな~と暖かく、暖かくおもったものでした。何もないから何もかもに感謝し大事な物が見えて来るんだろうなぁと思いました。私は携帯電話を使い始めても携帯電話の便利さに飲み込まれないようにしたいと思いました。短い話しでしたが、こんなに沢山の優しい思いをさせてくれました。でも、不登校児を持つ母親としては1ヶ月で気持ちが切り替わって都会の生活に戻って行くと言うのはあまりにも都合が良過ぎるのではないのかな?と思ってしまいました。傷付いた心はそんなに簡単には癒されないのではないのかな?と感じてしまいました。私の娘は小学5年で不登校になり、中学3年の今もまだ同学年に対する不信感に満ちています。娘の描くイラストは悲しい、暗い、危険な感じのものから最近は明るくて優しい感じのものになって来ました。5年も掛かって自分を取り戻そうとしています。勿論、心のあり方も傷付き方も人様々ですが。ですが、傷付いた心に新たな傷は追い討ちを掛けるだけで新たなスタートのための起爆剤にはならないと思うんです。そこの所、まいが自分の中の問題を解決しないで自分を傷つけた生活に戻ると言う点がお祖母ちゃんの言う「意思の力を強くする」事になったとは思えないのです。だから中学に戻った時にスムーズに生活して行けるのかな?と疑問に思いました。あんなに素適なお祖母ちゃんとの新たな確執を心に持ったまま新しい環境で楽しく過ごせるのかな?と思いました。そんな都合の良い事が出来るのであればそもそも不登校なんかにはならなかったのではないかと思われるのです。だって、自分の中の小さな疑問や不快や嫌悪を無視出来なくなったからこそ不登校になるんだと思うのです。これはこの5年間、娘を見て考えて、不登校児の親の集まりで皆さんの話を聞いていて、そして自分の事も考え続けたからこそ思う事だと思います。問題はそんなに簡単な事じゃないんだぜ。なんて思ってしまいました。感想も人それぞれ。とても暖かい気持ちや自分にとって大事な事は何かを自分で考えて決めることの大事さを改めて強くさせてくれた話しでしたが、不登校児と言う問題についてはちょっと不満でした。短いお話でしたが、そんな風に沢山の沢山の思いを残してくれた一冊の本でした。
January 15, 2008
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●読んだ本●「獣の奏者」1闘蛇編2王獣編上橋菜穂子著 講談社 ■あらすじリョザ王国の神聖な真王(ヨジェ)領を守るために大公(アルハン)領には闘蛇(トウダ)を使う闘蛇衆の村が12ある。その一つの村で生まれ育った10歳の少女エリンは幼い頃に父を失くし、霧の民(アーリョ)の母と2人暮らしをしていた。ある朝、母が世話をしている最強の闘蛇<牙>たちが全て死んでしまった。村は大騒ぎとなり、観察官は全ての責任をエリンの母に押し付けて野生の闘蛇が住む沼に投げ込んで食い殺される刑(闘蛇の裁き)に掛けられてしまう。エリンは母を救おうと、短刀を身に付けて沼を泳いで行くが闘蛇の集団に囲まれてしまう。母は「大罪を犯す」覚悟を決めて戒律を犯してエリンを救う道を選ぶ。この先、エリンは遠く真王領でジョウンに助けられ、全く違う人生を歩み始める。真王や真王を守る「堅き盾」達、王獣使い達や大公の息子達、王獣保護場でのエリンの生活と王獣との出会い。一つの王国の壮大な物語がエリンの生き様を中心に描かれている。■感想純粋で観察力と判断力と決断力の優れたエリンが聡明さと知恵と潔さで人生を切り開いて行く様子が気持ち良かった。王獣の治療の様子や蜜蜂の世話の様子がとても臨場感があった。エリンはとても魅力的な少女だった。堅き盾のイアルにも惹かれた。大公の長子シュナンも魅力的な人だった。エリンを救って育てたジョウンも豊かな人だった。真王も筋の通った人だった。エリンを擁護し続けたエサルも重みのある人だった。人間として魅力的な人が沢山登場し、波乱に満ちたエリンの人生はまだ始まったばかりなのに重くて辛い出来事をいつも逃げ出さないで立ち向かって行く。私には無い「智慧」と「逃げない」「誤魔化さない」とで人生を文字通り切り開いて行くエリンの強さに感服した。それぞれの登場人物の生き様がそれぞれの事情と人生を背負い込んでの重くて真っ直ぐなものだった。児童書だが大人こそが読んで見えるものがあると思った。生きると言う事。何を信じるかと言う事。価値基準をどう選ぶかと言う事。壮大で豊かで重みのある物語だった。確かな文章力と構成力。充実した内容だった。続きが読みたくてワクワクしながら楽しんだ。お勧め度は★★★★★ですなぁ~\(~o~)/
December 25, 2007
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●読んだ本●「猜疑」ジュディ・マーサー著 北沢あかね=訳 講談社文庫■あらすじTVプロデューサーのエアリアル・ゴールドは事件に巻き込まれ記憶喪失となりながらも、持ち前の機転と粘りで事件を乗り越えて来たが記憶喪失以前に取材していたらしいジャック・スパーリングに出会いジャックの事件を再び追い始めた。それは二年前にジャックの妻が大型ヨットから失踪しジャックが容疑者として逮捕され、起訴されたが評決不能で釈放された事件だった。2年前の自分の話を聞きだしたい事もあってジャックと食事をしたエアリアルは二人がひどく気が合う事に気付いた。複雑な思いを心に秘めたままエアリアルは事件関係者に会って事件の洗い直しを始めた。エアリアルの前には難しい選択肢が広がり何が正しくて、何を疑うべきなのか解らないデリケートな情況に陥って行く。ジャックの妻を殺したのは誰なのか?ジャックはウソを付いているのか?ヘンリーに後ろめたさを感じながらもジャックに惹かれて行く気持ちは動き出してしまった。エアリアルは混乱した感情のまま事件を調べて行く。■感想エアリアルが主人公の「喪失」「偽装」と続いてこれが第三作目。最初の2作がとても面白くて文章も勢いがあって楽しみに読み始めたのだがヘンリーとの関係も特にうれしくはなく(エアリアルがとても魅力的なのに 私がヘンリーに魅力を感じていない。 魅力的な主人公と魅力を感じない男性が 付き合っているってうれしくない)魅力を感じるジャックが犯人か犯人じゃないのかぐるぐるぐるぐると廻ってちょっとくたびれたのかもしれない。途中でどうでも良くなって来て(笑)流し読みになってしまった。何だろうか?エアリアルの中途半端な感情や行動にイライラしたのだろうか?今までのエアリアルに感じていた魅力を今回は感じなくて読み進めるのに努力が必要になったのかもしれない。読み終えるのに3週間も掛かってしまった。楽しくないからちっとも進まなくて。それに最後の最後でもジャックは何だったのか良く解らず多分こうなのかな?と考えると気付いたなりに悲しくなりなんとも言えない未消化な気持ちが残った。う~~~~~~ん。なんだかなぁ。バリンバリンと突き進んでいくエアリアルが恋をするとふにゃふにゃになっちゃうのかな?ではヘンリーとは恋じゃないのかな?それともヘンリーとは自分らしさを生かせる関係なのかな?理不尽な感情だけが残ってしまった。まあ、シリーズ物を読んでいるから読むんだけどね。あちこちに突っ込みを入れたくもなった。あんなに頭が良いのだから、こっちの可能性を考えない訳がないでしょう?別の可能性を避けて考えているのは不自然じゃないの?なんてね。あんまり楽しくなかった。でも、今まで生きて来た事で植え付けられたトラウマも記憶も消して大人の人間として自分を再構築しながら生き直すというのは今の私にはとても魅力を感じる設定だ。お年寄りが時にひどくねじくれた感情に左右されて頑固者になるのは何故なのだろうかと子供の頃や若い頃に思っていたのだが、自分が環境によるクセやトラウマによって良いものから逃げたり、自分を追い込んでしまう事を自覚してからは経験によって刻まれた恐怖心や不安感や自己不信や悲しみは自分ではなかなか消し去れない物なのでそれを消し去ってしまった記憶喪失を乗り越えるために空っぽの記憶を埋めるために大人になった自分を再構築すると言うのはひどく魅力的に見えてしまう。普段の生活の中でも湧き上がってくる苦しみや悲しみに飲み込まれそうになるとよくエアリアルの事を思い出す。環境に左右されない芯となっている自分てどんな自分なんだろうかとよく考えるこの頃。その点でこのエアリアルシリーズは私に新しい視点をくれた。
December 10, 2007
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●読んだ本●「精霊の守り人」上橋菜穂子著 偕成社 ワンダーランド15■あらすじ新ヨゴ国建国200年後の秋口。女用心棒のバルサは皇族専用の橋で起きた牛車の暴走を目撃し、川に振り落とされた第二皇子を命からがら助け出した。すると第二皇子の母君である二ノ妃から招かれ国を創った英雄であり神として崇められている皇族の二ノ宮で歓待を受けた後、真夜中に現れた二ノ妃により第二皇子チャグムを連れて逃げるよう依頼される。バルサは自分で決めた道のためチャグムを助ける道を選びチャグムを連れて抜け道を通り城を逃げ出した。そこから新ヨゴ国建国の歴史と存続に関わるバルサとチャグムの数奇な旅が始まった。■感想これはBSアニメで知っていた話で、アニメは近年でも一番と言えるほどのストーリーも画質もレベルの高い面白くて緊張感に満ちた作品だった。原作があると知って読み始めたのだが、ストーリーを知っているものを読むのは事の他難儀だった。つまりワクワク感がないので読むスピードが落ちてしまう。だからちっともはかどらなかった。私は知らない話しを読むのが好きなようだ。だけど内容はとても素晴らしかった。文章力も素晴らしかった。日本のヤングアダルトの作家で胸を掴まれるような強い引力を感じたのは「バッテリー」(あさのあつこ)以来である。上橋菜穂子さんの心の深さと文章力の素晴らしさに感動した。セリフの一文一文に登場人物の命がけの思いが込められているような力強い迫力を感じた。とてもクオリティーの高い作品に出会ってしまった。アニメでは知り得なかった登場人物達の心の内を知る事が出来て色んな事の意味がようやく理解できた。建国と皇子の状況の関係性。星読博士の何たるか。王の態度の理由。狩り人達の事情。チャグムの行動の意味。バルサの思い。タンダとトロガイ師の考え。ヤクー人達の歴史。これで再放送を見る時、初めて見た時より深い理解を持って見る事が出来る贅沢を手に入れてしまった。守り人シリーズは沢山あるので、これからはストーリーを知らないワクワク感を楽しみながら読めると思うとうれしくて仕方がない。良い作家さんを知る事ができてとってもとってもうれしい~~~(^_^)原作を紹介して下さったLake Moraineさんありがとうございますm(_ _)m
November 19, 2007
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●読んだ本●「堕天使は地獄へ飛ぶ」マイクル・コナリー著 古沢嘉道訳 扶桑社 ■あらすじ午前2時、連絡の取れないエレノア(妻)の帰りをまんじりともせず待っていたハリウッド署の刑事ハリー・ボッシュの家にロサンジェルス市警察本部長のアーヴィングから呼び出しの電話が掛かって来た。ボッシュのチームに任せたい特別任務があると言う。それは短い急勾配のケーブル鉄道の頂上駅ケーブルカー内で殺されていたハワード・エライアスとカタリナ・ペレスの事件解決のためだった。殺されたエライアスは人権弁護士として名を馳せており、もっぱらロサンジェルス市警察を告訴していた。つまり、エライアスが殺された事が報道されると警察がエライアスを殺したと決め付けてロスで暴動が起きるかもしれない危険を孕んでいた。警察内部でも、警察官が犯人かもしれないという危惧があり捜査もひどくデリケートなものとなっていた。そんな中でボッシュのチームは犯人探しを命じられた。もしも犯人が刑事だった場合は秘匿するよう遠回しに要求されたが、もちろんボッシュは本気で取り組む覚悟だった。エレノアとの危うい関係に気をもみながら、人種問題と暴動と言う爆弾を抱えてボッシュチームは捜査を始めたが、思った以上にデリケートで難しい問題が付きまとった。ボッシュの尽きない犯罪への執念によって隠された問題や犯罪が暴露される。■感想最愛の妻を失うかもしれないと言う不安と恐怖に苛まれながらも果敢に犯罪と権力に立ち向うボッシュの執念たるやすさまじいものがある。街を揺るがすデリケートで大きな問題をどう処理するのだろうと思いつつハラハラしながら読んだ。愛して止まないエレノアが家を出てしまうかもしれない恐怖がジリジリとボッシュを焼き焦がすのに問題が山のように降りかかるのだ。やはりボッシュの執念に唸った。ラストは何とも言えない苦い物が残った。アメリカが抱える大きな問題を扱った一冊だと思う。読み終えてからこうして題名を見てなるほどと思った。人は自分を守るためにはとんでも無い事をやってしまう欲望の虜になる愚かな生き物だ。半面、どこまでも妥協せず誤魔化さずに突き進むボッシュのような人もいる。そんなボッシュは影と孤独を背負って生きている。あまりに暗い一冊だったのでひどく気持ちが落ち込んだ。
November 5, 2007
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●読んだ本●「喪失」 ジュディ・マーサー著 北沢あかね=訳 講談社文庫■あらすじ目が覚めた時、頭にこぶがあり、顔には傷があり、血まみれの服と銃がベッドの上にあった。しかも自分が解らない!その上、鏡で見た自分に違和感を覚え他人の身体に入り込んだ気持ちだった。挙句に見覚えのない家の中は物が散乱していて、これ以上に無いほどの荒らされようだった。一体、ここで何があったのだろう?私は何をしたのだろう?記憶喪失になっていたエアリアルは、不安と恐怖感におののきながらも家の中を片付けながら自分を知るために色んな物に目を通して行った。その間もシェパード犬がエアリアルの傍を片時も離れなかった。この犬も私の犬?会社の上司からの電話や近所の人とのやり取りで自分の生活を少しずつ知り、これまでのエアリアルを知るとまるで今の自分には想像の付かない女性がいた。エアリアルが暗闇で手探りしているような状態の中、また恐ろしい事件が起きてエアリアルは自分が記憶喪失になった原因とそれまでの自分の生活を調べ始めた。新しいエアリアルの人生が始まり、一つの永遠に失われた出会いと、それにまつわる素晴らしい出会いと、事件と自分の謎が解き明かされた。■感想「喪失」なんて言う悲しい題名なので用心しいしい読み始めたのだが、エアリアルがとても賢い女性で人に頼らずに自分で切り開いていく工程でどんどん知らない自分を掘り起こしていく様子がとても面白かった。勿論、警察や医者に頼るべきではないか?とじりじり思ってしまったのだが、自分が犯罪者かもしれない恐怖もあって自分で情況を把握しないうちには自分をさらけ出さないように行動するあたりがエアリアルにあって私には全く無い用心深さと芯の強さと強靭さとを感じた。それまでのエアリアルとは別人格になったエアリアルは実はそれまでのエアリアルの中でも息づいていたに違いないと私は勝手に思った。人間は表層の人間の真ん中に本来の芯を持った自分がいるんだろうと思うこの頃。私の中にはもっと賢い私が沈んでいるのかもしれない。人間として生きるための力を持っている賢さをこの愚かで弱い私だって持っているに違いないと思うのだ。そして余りにも自分を追い込んだり、余りにも無理をし過ぎた時に体調不良や病気や頭痛でこれ以上無理をしないようにと教えてくれるのだ。そう言う点で私は私の中の賢い自分を信用している。ジュディ・マーサーはエアリアルの中のそんな賢いエアリアルを引き出したに違いない。賢く正直でまっさらなエアリアルは親からの虐待や惨めな生活を他人事のように客観的に眺めてこれまで受けたであろう悪い影響を全て打ち壊してしまった。衝撃的な出来事でエアリアルは生まれ変わったのだが、私は自分の意思でそうなりたいと思っている。調度そう思っていた時期だったので、この本はとても興味深いものだった。人間は変わる事が出来る。客観的に捉えれば私だって出来るかもしれない。そんな風に考えながら読んでいたのでとても面白かった。しかもそんな私の思い入れがなくてもこの話はとても面白くて読み始めたら途中で止めて寝るのがとても難しいほどだった。一度は朝になるまで何時間も読み続けてしまった。きっとこの作家が素適な人なんだろうと思う。作品は作家を反映しているので、私の場合は人間的に魅力を感じない作家の作品を読んでいると小説にも魅力を感じなかったりする。先に第2話の「偽装」を読んで面白かったので第1話の「喪失」を読んだのだが、予想以上に面白かった。あっと言う間に読み終わった。お勧め度は★★★★★です~♪甘いかな?
October 26, 2007
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●読んだ本●「ダ・ヴィンチ・コード」 ダン・ブラウン著 越前敏弥=訳 角川文庫 ■あらすじパリのルーヴル美術館館長ジャック・ソニエールは色素欠乏症の男に襲われ、自分を守るためにカラヴァッジョの絵を壁から引き剥がして警報装置を作動させ盗難除けの鉄格子を落下させた。所が男は鉄格子の向こうから拳銃で狙いをつけてソニエールから情報を引き出そうとした。男はソニエールから情報を引き出すと腹部を撃ち、立ち去った。胃に穴の開いたソニエールは大事な情報を残すために、傷ついた己の身体に鞭を打って重大なつとめに向かった。ハーバード大学教授のロバート・ラングドンはアメリカン大学パリ校で講演を終えてホテルで寝ている所を司法警察中央局のコレ警部補により叩き起された。ラングドンはDCPJ(アメリカのFBIにほぼ相当する)からソニエール館長が死に際に残した謎の図象と文字の解明に協力を要請された。ラングドンは深夜のパリの街を抜けてルーブル美術館に向かい、危険で驚きに満ちた一夜を過ごす事件に巻き込まれて行った。■感想初めは非常に難しいパズルにワクワクしたのですが少しばかり聖書に詳しいため、この点に追求するならなぜこちらの点は追求しないのか?この点に言及しておいてこちらの事は放置するのは何故か?なんて事ばっかり気になってしまいました。いつかもう一度借りて歴史的観点からの事実をしっかり調べたいと思いました。キリスト教やそれ以前の宗教、日本にも伝わっている色んな行事や祭事の源泉が解ってメモを取りたくなりました。余りにも謎解きのための専門的な事が沢山書いてあるので下巻に辿り着いた時にはお腹がイッパイになってしまいました。私の友人は3回読み返したそうですが、私のようなぼんやりした凡人には疲れる小説でした。テーマよりも専門知識の方が中心にあるようでもっと人間に焦点を当てた方が好みでした。主人公であろうラングドンよりも影で頑張っていたソニエールに感情移入がしやすかったのは不思議でした。私の友人はソニエールにすごく感情移入したそうです。映画しか知らなかった私は彼女がソニエールに感情移入したという点が不思議でしたが、本を読んで解った気がしました。ん~~~。気力が最後まで保てば、や、専門的な文章を飛ばせばまた違うものが見えてくるかもしれません。どこまで本当で、どこからが作り物で、どの辺が思い込みの怪しい記述なのか気になって集中出来なかった事もありました。読み応えと濃さはたっぷりでした。死海文書についての参考HP・死海文書聖書外文書研究・和田幹雄・死海からのスクロール 「Qumranおよび現代奨学金の古代図書館」 ノース・カロライナ大学のサイト (日本語訳) ・The Orion Centerof Dead Sea and Associated Literature エルサレムのヘブライ大学のサイト(日本語訳)ー---------- 個人的なメモ ------------ ・ヴァチカンが、庶民を操作しやすくするために女性を貶めたのだとし ても、実際にマリアを聖母として崇めているではないか? ・聖書には偶像崇拝はいけないと書いてあるのに、偶像を崇拝している 事について触れていないのは何故か? ・イエスは自分を神だと一言も言っていない。 神から使わされた神の子だと言っているのに、実際にはイエスと神を 混同している点には触れていない。 ・これほど詳しく調べているのに、聖書とキリスト教の食い違いを指摘 していないのは何故か? ・ダ・ヴィンチがそこまで聖書に精通していたとしたなら、どうして子 供の天使を絵に描いたのか? 神のみ使いは大人の男性だけなのに? ・確かに旧約聖書(ヘブライ語の聖書・ユダヤ教の聖典)と新約聖書 (ギリシャ語の聖書・キリスト教の聖典)は書かれた趣旨が違って いると思う。 ヘブライ語の方は淡々と事実が述べられており、ギリシャ語の方は 愛が根底にあるようだ。 ・クリスマスと言われている12月25日は、太陽信仰や他の沢山の異教徒 の教えから来ている点や、その日付をコンスタンティヌスが決めた事 が書いてあるが、 これほど売れた本なのに、相変わらず12月25日にはご馳走を食べて プレゼントを交換する日になっている。 キリスト教が普及している地域にしても、いつキリストが生まれたの かなんてきっとどうでも良い事なんだろう。 大抵の人は、とりあえず特別な事が出来る日が設けられているのが大事 でその由来も、正確な所もどうでも良いようだ。 ・この本は新約聖書(ギリシャ語聖書)は手が加えられているものだ、と 言う提の下に書かれているが、その根拠はどこにあるのか? しっかり読み直して調べないと。 |
October 9, 2007
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東京にいる読書が共通の趣味の友人が「ダヴィンチ・コード」を3回も読み返したそうです。私は余りにも話題だったので原作は読んでいませんでした。でも映画はレンタルかなんかで見ました。あまりにも複雑な内容なので時々着いていけないと感じつつも最後まで見て「へええ~~これがあんな騒ぎをもたらしたんだ」とピント来ない感想を持ったのでした。それで友人に触発されて今「ダヴィンチ・コード」を読んでいます。知っている人にはうるさいかもしれないですが、最初からビックリ仰天でございます。「事実」として初めに書いてあるのが---------------------「シオン修道会」と言う1099年にヨーロッパで設立された秘密結社の会員にサー・アイザック・ニュートン。ボッティチェルリ。ヴィクトル・ユゴー。レオナルド・ダヴィンチ。らの名が含まれている秘密文書がフランス国立図書館で発見された。---------------------なんとニュートン、ボッティチェルリ、ユゴー、ダヴィンチが会員!!!驚いてネットで調べると、なんとウィキペディアには秘密文書が捏造だと言うことで偽物だったと言う・・・(汗)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AA%E3%83%B3%E4%BF%AE%E9%81%93%E4%BC%9A「ダヴィンチ・コード」を読み進めると「シオン修道会」情報が正しいと言う前提で書かれており、「テンプル騎士団」との繋がりについても書いてありました。ううう~~~ん。でも、シオン修道会が捏造だとしたらこの前提で話しが進んでいるのは割り切らないといけないですね。なんかもう、最初にかいてある「事実」と言うのは置いといて小説を楽しもうと思いました。「ダヴィンチ・コード」の中ではダヴィンチが同性愛者という前提の下に書かれています。こうなるとまたネットで調べたくなります。あちこち見ましたが、どうもハッキリしないようです。バイセクシャルではあるようです。でも定かではないようです。私は学生の頃に「科学者レオナルド ダ ビンチ展」を見に行きました。科学者としてのダヴィンチの数々の発明品や発想。沢山の発明のスケッチの数々にとても驚いたのでした。並みの天才振りではないのでした。あんな人はいないですね。(2005年に東京で行われた 「科学者レオナルド・ダ・ヴィンチにスポット」 の記事がありました)ううう~~~~ん。他にも知らない事が沢山沢山出てくるんですが、と言うか、専門的な事が羅列してあるんですがどこまで真に受けるか・・・。どこまで調べるか・・・。ま、小説として楽しもうと思って読んでいます。それにしても色んな意味で刺激の多い小説です。大好きな謎解きだらけです~(^_^)
September 26, 2007
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●読んだ本●「暗く聖なる夜」上下 マイクル・コナリー著古沢嘉通=訳 講談社文庫こちらは洋書。■あらすじボッシュシリーズ第9弾。52歳になったハリー・ボッシュは一年前に警察を辞めて年金生活をしていた。刑事時代の未解決事件の洗い出し作業を行っていたボッシュのもとに、強盗事件によって銃創で全身不随になり引退した元ロス市警のロートン・クロスから電話が入り、4年前、24歳の誕生日に殺害されたアンジェラ・ベントンについて再調査するよう刺激されたボッシュは、アンジェラが働いていた映画会社での強盗殺人事件によりロス市警強盗殺人課から取り上げられてしまったその事件を調べ始めた。倒れていたオアンジェラの両手がボッシュの心を捉えて離さなかった事件だ。誰かに向かって両手を伸ばしているような、何かを欲しているような彼女の手に突き動かされてボッシュはバッヂ無しの不利な立場の中で調べ続け、警察からの横槍やFBIの脅迫にもめげずに死者の代弁者として走り抜けた。そうして複雑に絡み合った事件と事件が少しずつ関連性を見せ始め、ボッシュは謎の輪郭を追って行く。■感想ボッシュの初めての一人称で語られたこの物語はボッシュの思いや人と成りが見えて胸に刻まれた。刑事ではなくなったボッシュが、どんな手で捜査を進めて行くのだろうかと興味津々だったのだが、障害が山のように降り被さる中でもボッシュは決して手を緩めなかった。それどころか、組織から離れたボッシュは誰に遠慮も無く動ける自由を得たようだった。そんな中でも、銃創によって全身不随の身となった元ロス市警のロートン・クロスとその妻とのやり取りや、悲壮な生活振りと成れの果て。いつまでもボッシュの心から消えない元妻のエレノアとの再会。行方不明になったFBI捜査官マーサ・ゲスラーを探すロイ・リンデルとのやり取り。話しがどんどん予想外の方向に発展し、一体真相は何なのだろうか?と途中何度か疑問に思ったものだったが、ラストに近付くと全ては無事に嵌るべきピースに見事に収まり、悲しみと絶望と諦めと裏切りと欲望と怒りに混沌となっていたこの話は、最後の最後に意外なものを提示した。いやあぁ~~~~~~~ビックリしたね。何度か引っくり返った。愛の深さと悲しさ。欲望の果ての醜さ。両極端な人間の性が見せる深い物語だった。今まで読んだボッシュシリーズの中で一番好きだなぁ~~♪ボッシュは市井の人となっても死者のためにとことん闘い抜いて、渋くてカッコイイ主人公だと初めて強く思った。今までのボッシュは「刑事」と言う枠の中にあり、どこかで「死者の代弁者」として動くのは当然だという感じで見ていたのかもしれない。「刑事」でなくなったボッシュは組織に縛られないからこそこの事件の絡んだ糸を解く事が出来たのだ。カッコイイよボッシュ!そして幾らかでも幸せになって欲しいよ、ボッシュ。あなたはずっと孤独で、生まれた時に背負ったものの責任を果たして来たのだもの。唸ったね。深い人間性を描き出したマイクル・コナリーの筆と人間性に。訳者によると、訳者はこの作品の次々作の「The Closers」が一番のお気に入りだそうだ。なんだってぇ!!この作品より素晴らしいのか?!!!是非読まなくちゃ!!日本ではこのマイクル・コナリーの人気は今一なのだそうだ。信じられない!量産化の作家の人気が高い日本では有り得る話か。とても残念だ。これほど質の高い作家があまり知られていないと言うのは。(これは母の看病中に読んだ本です)
September 16, 2007
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