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2012.11.14
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カテゴリ: 読書案内
【角田光代/幸福な遊戯】
20121114

◆男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く

早大文学部卒の角田光代は、もともとジュニア小説を手掛けていて、異なる筆名でコバルト新人賞の受賞歴もある。さすがだと思うのは、直木賞作家となった今も、ティーンを対象にした当時の、新鮮で瑞々しい感性が失われていないということだ。
デビュー作である『幸福な遊戯』は、既成の男女のあり方に囚われない、不思議な関係を綴った短編小説である。男二人と女一人の奇妙な同居生活から生じる、友情や恋愛とも異質の感情に翻弄される人間模様。

思うに、主人公・サトコのあまり恵まれなかった家庭環境に原因があるようだ。人は結局のところ、親から無償の愛を与えられて初めて自分も同じように誰かを愛することが出来る生きものなのだ。とすると、ろくに親の愛情を知らないで育った者は、人の愛し方も知らない、ということになってしまう。全てが全て、それにはあてはまらないだろうけど、少なくてもこの作品の主人公は、そういうタイプみたいだ。
親から与えられることのなかった家族愛みたいなものと、好きな男の子に対する恋心と、平和的な友情を全部ごちゃまぜにして、同居人のハルオや立人にそういう感情を押し付け、あるいは求めてしまったのだ。

印象的なのは、サトコにとって唯一信頼のできる家族である姉(すでに他家へ嫁いでいる)のセリフだ。

「人が持って生まれた運命の糸って、生まれた時からぐちゃぐちゃによじれているんだと思うの。だけどそれは、成長していくうちに、自分の手で真直ぐにできるもんなのよ。ほら、毛糸が絡まった時と同じ、焦らずいらつかず、丁寧にだまをほぐして、自分の糸を真直ぐ伸ばしていくの」

余談だが私自身、過去には様々な苦しいこと辛いことがあった。それはもう、他人様には易々とは言えないほどのことだ。でも不思議にも、目には見えないいろんな力によって助けられ、一つ一つクリアして来た。そのことで、明日を生きる自分に自信を持つことができ、今の自分を好きになることができた。
「成長していくうちに、自分の手で真直ぐにできる」ということは、実は、こういうことなのでは?と思うのだ。
20年前に『幸福な遊戯』を読んだ時、なんの感想も持たなかった私が、今はこうしてしみじみと再読できる余裕を持ち合わせている。人が唯一神から平等に与えられたものは、この時間という優しい経過なのだと思った。




~読書案内~   その他

■No. 1 取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ
■No. 2 複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!
■No. 3 雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!
■No. 4 完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する
■No. 5 青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ
しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる
■No. 7 白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す
■No. 8 ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている
女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説
■No.10 或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル
■No.11 東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず
■No.12 お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人
■No.13 レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?
■No.14 山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く
■No.15 佐藤春夫/この三つのもの 細君譲渡事件の真相が語られる

◆番外篇.1 新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!





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最終更新日  2012.11.14 06:31:43
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