普通の人は目や音、触覚で確かめて安全だとわかれば、次の行動に移る。
たまに、その時に何かほかのことを考えていると、 「果たしてどうだったのか」と気になることがある。その時は、引き返してもう一回確認するということはある。しかしそれは許容範囲だと思う。
確認恐怖の人は、その不安が不快になって、気が済むまで確認行為を続ける。
そのために会社や学校に遅刻するようになる。社会生活に支障をきたすようになる。
不快感を取り去ることが目的であるので、そのうち確認行為そのものは蚊帳の外になっている。
本来確認行為は、五感を使って認知したものが、自己信頼感となって終結する。
この場合、人間の思考の中枢と言われている前頭葉にその情報が伝えられることはない。
しかし確認行為を繰り返す人は、確認行為が前頭葉に伝えられる。
前頭葉は様々な問題や課題、すぐに結論の出ない問題について、さまざまな視点から検討をしている。
この機能は人間だけに発達しているもので、動物にはほとんど見られない。
優れた機能ではあるが、反面厄介な問題もある。
取り越し苦労などしないで、直感的に、これだと思ったようなことは、その情報を前頭葉を経由しないで直接手足に指示命令した方がスムーズに事が運ぶ。
情報を前頭葉に伝えることによって、練習では難なくできていたようなことが、金縛りに遭ったような状態になって、思わぬところで苦杯を舐めるということが起きてくることになる。
レーシングカーやオートバイの競争、フィギアスケートや野球選手の動作、オーケストラの楽器の演奏などは、それまでに練習で培った動作の手順が大脳の運動野に記憶されている。
アルトサックスのプロの人に聞くと、コンサートの前には1日10時間くらい練習するという。
すると、楽譜がなくても自然に指が正確に動いてくれるようになる。
実際本番では暗譜の状態で演奏している。楽譜がある場合でも、曲の流れを掴むだけである。
練習不足の状態で、楽譜を見ながら演奏すると観客を感動させるような演奏はできない。
しかし猛練習を積んで、これならほぼ完璧に演奏できると思っても、それは虫がよすぎる。
コンサート会場の雰囲気、観客の状態の微妙なことが気になって、ふと前頭葉がちょっかいを出すことがある。「本当にうまくいくのか。演奏を間違って恥をかくのではないか。演奏仲間に迷惑をかけるのではないか」などの感情がわき起こってくるのである。
前頭葉がそれらの不安に対して検討を始めるととんでもないことが起きる。
できれば演奏中は前頭葉はゆっくり休んでおいてもらいたいのだ。
練習ではほぼ完全に出来るまで、時間をかけて体に覚えこませている。
仮に練習で完璧にこなせない場合は、その分前頭葉がしゃしゃり出て、お節介をする。
演奏者はそのプレッシャーと戦わなければならない。
本来は演奏に向けられるべき意識や注意が不安や恐怖のほうに向けられているのである。
無意識の状態で手が自然に動いているという状態をつくりあげることが大切なのだ。
そのために、プロの人はどういう風にしているのか。
前頭葉がしゃしゃり出てこないために猛練習を重ねて自分を落ち着かせている。
そうまでしても、人間の場合は必ず、ちょっと隙があれば前頭葉がしゃしゃり出てくる。
イチロー選手、羽生結弦選手を見ていると、本番前にはルーティーンと呼ばれる同じ動作を繰り返している。これは、前頭葉がしゃしゃり出てこないために、自分の決めた本番前の手順を黙々と踏むことで、大脳の運動野からダイレクトに指示命令を届けようとしているのだ。
確認恐怖症の人は、何か自分の好きな楽器をを見つけて取り組んでみると良いと思う。
最初は前頭葉が盛んに働く。ところが、 1つの曲に取り組んでいると、そのうち手の動かし方を体が覚えてしまう。つまり前頭葉がお休みしてしまう。
大脳の運動野から直接指示命令が伝えられているのである。
観衆の前で演奏してみる。そこで前頭葉が働いてくると、ほぼ思ったようには演奏はできない。
そこでは、いかに前頭葉を休ませて、大脳の運動野からダイレクトに手足に指示命令を伝えられるかどうかが成否のカギを握る。
そういうことが体でわかれば、確認行為で前頭葉が働きすぎというのは、まずいことだと体感できる。
これは観衆の前でやるプレゼンテーションや芸能、競技などでも言えることである。
確認恐怖の人は、そういう体験が不足しているのかもしれない。
確認恐怖は頭の中でそのメカニズムがわかったからといって、必ずしも克服できるとは限らないと思うのである。
それは森田理論を理解した人が、必ずしも神経症克服できるとは限らないということと同じことだ。
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