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2004年09月08日
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 今日から集中講義。といっても一日も何コマもあるわけではないのだが。質問紙を学生に配った。回収した紙には、質問ではなくて、ほとんどが授業への注文、苦情だった。けっこうへこむものである。7月まで教えていた聖カタリナ女子高校では同じように質問紙を配っても、質問しかなかったのだが。要望に応えられるよう頑張りたい。

 帰り、バスを待った。一時間に二本しかない時間帯だった。少し余裕をもってバス停に着き、バスのくるのを待ったそれなのにいつまでもこない。日陰がなくて、さすがに盛夏ほどのことはないとはいえ、溶けてしまうようだった。待っている間に、村上春樹の『アフターダーク』にあった次のようなエピソードを思い出したら、ひどく悲しい気持ちになってしまった。

 ハワイのある島に流れ着いた三人の兄弟の話である。彼らはある日、漁に出たが、嵐にあって誰もいない島の海岸に流れ着いてしまった。その島の真ん中には高い山が聳えていた。その夜、神様が三人の夢の中に現れていった。もう少し先の海岸に三つの大きな丸い岩がある。それを好きなところに転がして行きなさい。岩を転がし終えたところが、おまえたちそれぞれが生きるべき場所だ。高い場所に行けば行くほど世界を遠くまで見渡すことができるけれど、どこまで行くかは各人の自由である、と。岩は大きくて重く、転がすのは大変だった。一番下の弟が最初に音を上げた。僕はここでいいよ、ここなら海岸にも近いし、魚もとれる。そんなに遠くまで世界が見られなくてもいい。他の二人はなお先まで進んで行った。山の中腹辺りで次男が音を上げた。僕はここでいいよ。ここなら果実も豊富に実っているし、十分生活していくことができる。そんなに遠くまで世界が見られなくてもいい。一番上の兄はなおも坂道を歩み続けた。道は狭く険しくなっていったが、世界を少しでも遠くまで見たいと思った。そして何ヶ月もかけて山の頂まで岩を押し上げることができた。

「彼はそこで止まり、世界を眺めた。今では誰よりも遠くの世界まで見渡すことができた。そこが彼の住む場所だった。草も生えないし、鳥も飛ばないような場所だった。水分といえば氷と霜を舐めるしかなかったし、食べ物と言えば、苔をかじるしかなかった。でも後悔はしなかった。彼には世界を見渡すことができたからだ」(p.25)

 後悔しなかったというが本当なんだろうか、と思った。むしろ後悔してはいけないと思ったのではないか。なにしろこんなに努力してここまできたのだから…自分とこの一番上の兄を重ねてしまった。ずいぶん遠くまできたのに本当にこれでよかったのか。この兄と同様、世界を見渡すために多くのことを犠牲にしてしまったのではないか。何事もなく普通の人生を選んでいたら今頃どうなっていたのだろう。もっと豊かな人生を送れたのではなかったか。

 そんなことを思う一方で、自分の生き方に自負心がないわけではない。今こそ豊かな人生なので、世界を遠くまで見えることこそ、哲学を学ぶと決めた時の目標だったのである。しかし現実はそれにしてはあまりに不安定きわまりない生活ではある。この上、何も失うものはないけれど、これから先どうするのか…山頂であっても、あるいは、苦労して到達した山頂にこそ永遠に輝く貝があると考えていけないことはないのではないか…

 結局、バスは二十分も遅れてきた。バスには三人しか乗っていなかった。きっとみんなバスを待たなかったのだろう。いや忍耐強く待った人こそ、少数の幸福者ではないのか。心が揺れた日だった。





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最終更新日  2004年09月08日 22時02分13秒
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