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準惑星天涯でのガイナス戦に勝利した後、 シャロン紫壇中隊長は2階級特進して大佐となり、 独立混成降下猟兵第1連隊として再編された部隊の連隊長に着任、 マイア先任兵曹長も少尉として連隊司令部に移動し、連隊長附となった。 一方、新編された第1壱岐派遣艦隊の司令長官には香椎士郎中将が着任、 水上魁吾が率いる既存の壱岐派遣艦隊は第2壱岐派遣艦隊となり、 この2つの派遣艦隊の上部機構である壱岐方面艦隊司令長官を香椎が兼任することに。 これを機に、水上と兵站監の火伏礼二は、大佐から少将に昇進した。その頃、天涯に向けてガイナスの偵察衛星と思われる小惑星が接近、衝突する。小惑星の調査に向かった警備艦は撃破され、地上の守備隊も脱出するしかなかった。その後、ガイナスが天涯に軌道エレベーターを建設したことが判明したため、小惑星要塞を攻略すべく、第1壱岐派遣艦隊のほぼ全戦力を投入することが決定した。そして、火伏の部下である兵站監補佐・音羽主計中佐、軍需部長補佐・白子主計中佐、第1壱岐派遣艦隊司令部の主計長・バーキン大江主計中佐、第2壱岐派遣艦隊司令部の主計長・カザリン辻村主計少佐は、4人で協力して、方面艦隊司令部直卒の医療チーム編成に取り掛かった。しかし、ガイナス艦と遭遇した第1壱岐派遣艦隊は次々に撃破されてしまい、降下猟兵を天涯に残したまま戦線を離脱、第3管区司令部のある準惑星禍露棲へ帰還する。壊滅状態となった降下猟兵第1中隊と第2中隊は、降下モジュールを使って要塞を脱出、第3管区司令部ではなく、バーキンらが設定した野戦病院に収容されたのだった。その頃、壱岐の軍需生産の最重要拠点トムスク7の事実上の所有者であり、タオ迫水の義父でもあるアーロン安久は、火伏の工場管理を快く思っておらず内政干渉の火種である火伏を暗殺すべく、トムスク7で爆発事故を発生させる。が、この謀は、タオの妻であり、アーロンの娘であるクーリア迫水に暴かれてしまう。 ***このお話は、女性の活躍が本当に目立ちますね。シャロンはもちろんですが、降下猟兵第2中隊超アンドレア園崎や、壱岐方面艦隊参謀長・一木魅猫に、壱岐星系根拠地隊司令秘書室長・坂上好子、さらに、主計長のバーキンやカザリンも大活躍。そして、女性の中でも妻という立場の人たちの存在感がスゴイ。クーリアだけでなく、フリッツ霧島の妻・ブレンダ、そして火伏の妻・朽綱八重。特に八重は、夫以上の活躍をこれから見せてくれそうな予感。私が一番注目しているキャラクターです。
2020.08.14
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『マツダ 心を燃やす逆転の経営』に次の一文がありました。 現場に無理難題が降ってくる時点でその計画は失敗であり、 やらなくてもいい仕事をさせられただけなのに……。 「英雄の誕生とは兵站の失敗にすぎない」という言葉を思い出す。(p.66) これは、著者の山中さんが、まとめのページに書いていた文章ですが、 この言葉の出所が本著であり、本著ではこのように記されています。 「貴官らに自由裁量を与えた以上、責任を負うのが小職の仕事だ。 忘れるな、英雄などというものは、戦争では不要だ。 為すべき手順と準備が万全なら、英雄が生まれる余地はない。 勝つべき戦に勝つだけだ。 英雄の誕生とは、兵站の失敗に過ぎん」 そして火伏は続ける。 「小職の部下に、英雄はいらんからな」(p.240)出雲星系防衛軍軍務局第1部兵站監兼軍需部長の火伏礼二が、部下である同主計少佐兼兵站監補佐の音羽定信に述べた言葉です。 どんな状況で、どのようにしてこの言葉が出てきたのかを知りたくて、本著を手にすることになりました(既に完結巻まで手元にありますが)。この作品は、戦闘のアクションシーンで魅了するタイプのお話ではなく、その基盤となる政治的、経済的、軍事的駆け引きが最大の見所となるようです。それ故、SFとは言いながらも、それぞれの人々が属する部署の背景について、しっかりと把握しておく必要がありそうです。 伝承を信じるなら、4000年前に地球人類は、 異星人の脅威から地球を守る防波堤として、 恒星間宇宙船に人類や家畜などの凍結受精卵を載せ、 複数の恒星系に送り出したという。 これは播種船計画と呼ばれた。(中略) 出雲星系に到達した播種船は、2000年前に惑星出雲に着陸し、 人類を増やし、社会を築き、文明を発達させ、 ついに植民した人類は宇宙に到達し、さらに星系内の惑星にも拠点を築いた。(p.14)これが、出雲星系について説明した箇所。続いては、出雲星系と共にある4つの星系、八島・周防・瑞穂・壱岐について説明した箇所。 出雲星系は人類コンソーシアムの中で、文明発祥の地だ。 他の4つの星系は、出雲星系からの植民の結果だ。 そして我らが壱岐星系は、出雲星系から20光年も離れた辺境の地であり、 同時に人類コンソーシアムの中で、2番目の経済力・工業技術力を有する星系だ。 原則として、人類コンソーシアムの5星系は対等な政治的権限を持ちはするが、 国力の差は如何ともし難く、特に軍事面で人類コンソーシアム艦隊は、 実質的に出雲星系艦隊といっても過言ではない。 壱岐星系以外の八島・周防・瑞穂の3星系は、 出雲の庇護下に置かれているようなものだ。 壱岐星系に独立志向が強いのは、出雲星系からもっとも遠いために、 輸送コストが馬鹿にならず、否応なく地場産業を発展させねばならなかったためだ。 (p.24)5つの星系のパワーバランスが、簡潔に記されています。出雲と壱岐は、ちょっとしたライバル関係にあることが伺われます。そして、人類コンソーシアム(consortium)艦隊について説明したのが次の箇所。やはり、ここにおいても出雲星系が幅を利かせていることが分かります。 コンソーシアム艦隊は、 出雲星系にしか人類が居住していない時代に編成された歴史から、 ながらく出雲星系防衛軍そのものだった。 その後、複数の星系に植民が行われ、各星系政府が誕生すると、 軍令系統は各星系政府との連合形態となった。 しかし、工業力・経済力から、 軍政系統はそのまま出雲星系防衛軍軍務局が担当することとなっていた。(p.33)このような状況下、壱岐星系で異星人が作ったと思われる無人衛星が発見されます。「ガイナス」と呼ばれることになった異星人の拠点と思われる準惑星天涯に向けて、危機管理委員会の命令でコンソーシアム艦隊が派遣されることになり、その司令長官に水上魁吾が、兵站監に火伏礼二が着任します。その艦上会議で、壱岐星系統合政府筆頭執政官のタオ迫水は、コンソーシアム艦隊が、戦時体制を口実に壱岐星系を直接管理することの阻止に成功。それに対し、水上と火伏は、壱岐を戦争に耐えられる兵站基地とするため、壱岐星にある北方特殊機械製造所に降下猟兵第7中隊を派遣し、占領させます。タオは、コンソーシアム艦隊所属壱岐星系根拠地隊指令・相賀祐輔に抗議しますが、相賀の口から出た「兵站の保証の見返りとしての主権の保証」には同意を示します。一方、壱岐派遣艦隊の強襲艦ゲンブで、降下猟兵を率いたシャロン紫壇中隊長は、マイア先任兵曹長の活躍も相まって、天涯でのガイナス戦に勝利したのでした。 ***SFということで、様々な独自設定が現実世界のものとは大きく異なるため、それらを理解しながら読み進める必要があり、その速度は鈍りがちでした。それでも、その世界観や筆者の文体にも次第に慣れてきて、天涯でのガイナス戦は、かなり楽しむことが出来ました。 「ならば、軍隊を組織化する理由。 それは暴力装置で凡人を戦力化するためだ。 歴史を見ればわかる。 少数精鋭のエリート部隊では、戦闘では勝てても、 戦争という大きな枠組みでは勝てない。 少数精鋭と言うと聞こえはいいが、 要するに組織の不備を、 少数の有能な人間への負荷で凌いでいるに過ぎない。 勝てる軍隊とは、凡人を戦力化できる組織なんだよ。 機構がしっかりしていれば、凡人が粛々と与えられた仕事をするだけで、 組織は目的を達成でき、つまりは勝利することができる。 兵站とは、凡人による軍隊組織を、正常に機能させるための機構だ。 だから軍の組織が健全であり、兵站が機能しているなら、 英雄など生まれない」(p.361)これも火伏が水上に語った言葉です。それでは、第2巻の読書に突入します。
2020.08.13
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オスカー・ワイルドは、1891年に戯曲『サロメ』を仏語で書いた。 これは、女優サラ・ベルナールのために書いたものだとも噂される。 そして、その英訳をしたのが、ワイルドの同性の恋人アルフレッド・ダグラス。 英訳版挿画は、白黒のペン画で鬼才と謳われたオーブリー・ビアズリーが描いた。 このお話は、オーブリーの姉であるメイベル・ビアズリーの視点で描かれている。 幼い頃から病弱だったオーブリーだが、ワイルドとの出会いを契機に、 自らの才能を見事に開花させ、画家としての階段を着実に昇っていく。 そして、その隣にはいつも弟を支え続ける姉・メイベルの姿があった。しかし、メイベルの行動の背景には、彼女自身の強烈な願望が潜んでいた。それは、舞台の中央でスポットライトを浴び続ける主演女優としの成功。そして、心の底から愛する弟を誰にも渡したくないという切実な思い。やがて、彼女自身がサロメと化していく。
2020.08.12
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『万能鑑定士Qの最終巻』で、その最後を締めくくったはずの凜田莉子。 その莉子が、この時期に私たちの前にまた姿を現してくれました。 タイトルからもわかるように『万能鑑定士Qの事件簿1』の前日譚。 「力士シール事件」前、「エメラルド密輸事件」後の2009年のお話です。 品川の防潮扉に描かれていたバンクシー作と思われるステンシル画。 それに、ゴッホ作と思われる油絵、さらに「漢委奴国王」の金印を、 莉子は、東京、熱海、グアムで次々に目にしていくことになります。 そして、その背景に隠された陰謀に、いつしか巻き込まれ……まだ鑑定士としては駆け出しで、自分自身に自信が持ちきれない莉子を、様々な面でサポートするのが、レイ、デニス、ゲンゾーの親子三世代、グアムで出会ったPI(プライベート・インベスティゲーター)たち。まだ、とっても初々しい莉子が、国内外を元気いっぱい駆け回ります。 ***さて、コロナ禍真只中のこの時期に、本著発行の真の狙いは何?私のような『グアムの探偵』シリーズ未読者を、何とか取り込もうとして?それとも、あまりにも激しい優莉結衣を書き続けることに、さすがの松岡さんも少々お疲れ?裏表紙には「シリーズ最後にして最初、最大の事件に挑む!」とありますが……
2020.08.12
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2019年夏、武蔵小杉高校に転校する少し前、優莉結衣は泉が丘高校にいた。 同校野球部が夏の甲子園出場を果たし、結衣も甲子園に応援に来ていたが、 試合中にライフル魔騒動が発生、結衣はそれに大きく関わることになってしまう。 しかし、死者も出たその事件を、世間は多くを知ることがないまま月日が過ぎた。 そして、2020年3月。 芳窪高校を除籍になった結衣は、京都の緊急事案児童保護センターにいた。 そこから神藤刑事に連行され、甲子園警察署で事情聴取を受けることに。 結衣は、少しずつあの日の出来事を、そして真相を語り始める……つい先日の3月11日、新型コロナウィルス大流行で今年の選抜中止が決定した。そして今朝、箕面市の草野球場で爆発があった後、甲子園のホームベースに爆弾を仕掛けたとの犯行声明が送られてきた。去年の騒ぎを受け、甲子園の警備は甲子園署刑事2課特務1係が全てを取り仕切る。すべては、この日、大型輸送用ヘリを誰にも邪魔されず甲子園球場に着陸させ、大勢の武装集団を動員して、武器を大量に調達するためだった。チュオニアン騒動で海上警備隊が警戒が強められ、権晟会の密輸ルートを壊滅させられた田代ファミリーの姿が見え隠れする。 ***結衣は、神藤や泉が丘高校の生徒の協力を得ながら危機を乗り越え、田代ファミリーを窮地に追い込みました。しかし、田代ファミリーは、結衣の病弱な姉・智沙子の他、異母兄・篤志や詠美を利用して、総力戦に出て来ようとしている模様です。 「高校生でもわかる」結衣はいった。 「人は学ぶ。教訓を得て、急速にウィルスへの対抗手段を見つけていく。 感染連鎖を断ちきる知恵も個々に備わる。いずれ収束に向かう」(p.331)今日から「2020年甲子園高校野球交流試合」が始まりました。一日も早く、ウィルスへの対抗手段を見つけ、収束に向かいますように。
2020.08.10
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アンリ・マティスを描いた「うつくしい墓」、 エドガー・ドガを描いた「エトワール」、 ポール・セザンヌを描いた「タンギー爺さん」、 そして、クロード・モネを描いた「ジヴェルニーの食卓」。 2009年~2012年に「すばる」に掲載された4つの作品が、 2013年に1冊にまとめられて刊行、2015年には文庫化された。マティスのもとで家政婦として働いたマリア、アメリカ出身の女性画家メアリー・カサット、パリで画材屋兼画廊を営んでいたタンギー親父の娘、そして、モネの義理の娘ブランシュ・オシュデ。この4人の女性を介して、4人の巨匠とそれを取り巻く人々が生き生きと描かれていく。まさに、それは「文字を使って描きあげる」という言葉がピッタリ。こんなことが出来る作家は、そうそう見当たらない。原田マハは、その第一人者である。
2020.08.10
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栞子と大輔の娘・扉子が登場する新シリーズの第2弾。 プロローグとエピローグには、高校生になった扉子と祖母・智恵子が登場。 扉子は、父が記した2012年と2021年の『マイブック』を祖母に見せるため、 友人・戸山圭の母親がオーナーを務めるブックカフェに来たのでした。 第1話 横溝正史『雪割草』Ⅰは、大輔の『マイブック』2012年の記述、 第3話 横溝正史『雪割草』Ⅱは、大輔の『マイブック』2021年の記述を基にして、 上島家で起こった『雪割草』の自装本と特別な付録の盗難事件が描かれています。 そして、この付録こそが、上島家の遺産相続をめぐる事件の根幹となっています。第2話 横溝正史『獄門島』も、大輔の『マイブック』2021年の記述が基になっており、小学3年生だった扉子が読もうとした『獄門島』をめぐる事件が描かれています。そして、この事件をきっかけにして、扉子と圭は友人になるのです。3つのお話が見事に繋がっており、作者の筆力にまたまた感心させられました。そして、エピローグもお見事で、母・栞子を上回る能力を発揮する扉子と、その力を見極め、引き出そうとしている祖母・智恵子の思惑に、読者は胸騒ぎ……次回作を期待せずにはおれません。 *** 扉子はどんな本でも読む。 新しいとか古いとか、子供向けとか大人向けという括りなどこの子にはない。 子供部屋の本棚には派手な表紙のライトノベルも、 マンガの文庫本も、パラフィン紙のかかった古い岩波文庫や新潮文庫まで、 雑多な種類の本がずらりと並んでいる。 文庫本がやたらと多いのは、 価格と内容のコストパフォーマンスがいいからだという。 そんな基準で本を買う小学生を初めて見た。(p.132)『教師崩壊』で触れられていた調査のことを思い出しながら、「これが読書だよな」と、一人呟いてしまいました。
2020.08.02
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妹尾昌俊さんが、教育現場の危機的状況、 なかでも教師にスポットを当て、世間に向け警鐘を鳴らす一冊。 妹尾さんの文章は、Yahoo!ニュース等でも頻繁に目にするようになりましたが、 現場感覚やその実態を、かなり忠実に伝えてくれていると感じます。 本著では「ティーチャーズ・クライシス」として、 「教師が足りない」「教育の質が危ない」「失われる先生の命」 「学びを放棄する教師たち」「信頼されない教師たち」の5つを挙げ、 様々なデータを基に、その現状について説明してくれています。第1章の「教師が足りない」は、コロナ禍の現時点でも最も切実な問題であり、いくら予算を付けようとも(これまでは付けようともしませんでしたが)、実際には、その担い手となりうる人材が絶望的に不足しています。その原因だけでなく、今後の行く末についても、著者は記しています。残りの4つのクライシスについても、どれもこれも本当に苦しい状況であり、その中で、著者は第6章で、学校が目指すべき方向を示してくれています。「欲張りな学校」をやめるしかないことは明確ですが、どこまで周囲の理解や協力を得られるかが鍵となってくるでしょう。 *** 筆者の独自調査でも、教師の1か月の読書量について聞いたところ (小説、漫画などは除く)、 小学校教員の約3割、中学校、高校の教員の4割以上が「0冊」と回答しました。 おおよそ6~8割の教員は本から学びを得ておらず、 1~2割の教員はたいへん熱心に本から学んでいる。 そんな二極化した状況が見て取れます。(p.196)著者の調査では、小説は何冊読んでも、読書量としてはゼロカウントで、全く学びに繋がらないという扱いであるということに、ちょっと驚きました。小説からも、漫画からも、作品によっては多くの学ぶべき事柄があり、それらは教員にとって、大きな力になることも多々あると思うのですが……
2020.08.02
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