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新型コロナウィルス感染症が拡大し、 緊急事態宣言が出され、様々な職場で在宅勤務が行われ始めた頃から、 『ペスト』と共に、多数の人たちに読まれることになった作品。 私も、今回ようやく本著を手にし、読了しました。 *** 「たしかに、手洗い、うがい、マスクの着用、人ごみには極力近づかない。 日本中が普段やらないことを実行しましたから。 その結果、消費はかなり落ち込んでいます。 町はガラガラという時期が何カ月か続きましたからな。 旅行、コンサート、展覧会など軒並みキャンセルが続きました。 中止も多い。経済は大打撃を受けました。」(p.43)この作品の中で、閣僚の一人が述べた言葉ですが、まるで、2020年の日本を見て述べているかのようです。 「まず、不特定多数の人が集まる所には行かない。 それには、不要不急の外出を避けることがいちばんです。 やむをえず人に会うときには、対人距離をしっかり保つことです。 飛沫は1メートルから2メートル以内に飛び散ります。」(p.170)『首都感染』は、2010年12月に刊行され、2013年11月に文庫化された作品です。信じられないほどの、既視感です。 <ウイルスは人を区別するわけじゃない。等しく平等だ。隙を見せたものが捕まる。 誰の言葉か覚えているでしょ>(p.195)主人公の優司がかつて述べた言葉を、医師の岡本が電話で本人に確認した場面です。今、まさに肝に銘じておきたい言葉です。 このような大規模な感染症の封じ込めは、しょせん不可能なのだ。 なるべく狭い範囲に感染をとどめて、 その間にパンデミック・ワクチンを作って国民に接種するしか方法はない。(p.214)『首都感染』では、中国から入り込んできたウイルスを、首都封鎖により封じ込め、その間に、ワクチンや抗インフルエンザ薬の開発に成功し、感染は終息していきます。それに比べ、今回のコロナウイルスは全国に感染が拡大し、厳しい状況です。やはり、その終息はワクチンや薬剤の開発を待つしかないのでしょうか。さて、成毛眞さんによる巻末の『解説』には、次のように記されています。 そうなのです。 わたくしは高嶋哲夫作品をこれから起こる未来の記録、 いわば未来のノンフィクションとして読んでいるのです。(中略) 高嶋哲夫さんはじつは小説家などではなく、 預言者なのではないかと思っているファンも少なくないのではないでしょうか。 たしかに東日本大震災の6年前に『TSUNAMI』発表したことは 驚くべき先見性のあらわれです。(中略) しかし『TSUNAMI』は『M8』の翌年に書かれています。 『M8』は東京直下型地震をシミュレーションした小説です。 つまり阪神淡路大震災の9年後に書かれた首都圏版です。 大震災といえでも、「十年一昔」となって 人々が天災を忘れ始めたころに警告を発した小説なのです。(中略) ところで、本書『首都感染』は中国で流行しはじめたSARSから 8年目に書かれた小説です。 そろそろ人々が感染症の怖さを忘れたころに出版されました。(p.580)高嶋さんの先見性もスゴイですが、成毛さんも相当スゴイです。
2020.10.31
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またしても、お久しぶりの伊坂作品。 それでも、やはり流石の筆力と安定感。 『グラスホッパー』の槿(あさがお)やスズメバチ、 『マリアビートル』の蜜柑&檸檬の名前が登場するのも嬉しいですね。 さて、この作品の主人公・兜は、恐妻家でありながら、腕利きの殺し屋です。 その息子・克己は、そんな父の姿を冷静に見つめ、時に気の利いた言葉を投げかけます。 そして、父である兜が同業者によって命を奪われた後は、主人公の座を引き継ぐことに。 ただし、克己は父が殺し屋ではあるとはつゆ知らず、自身も殺し屋ではありません。本作は殺し屋たちが繰り広げる、生きるか死ぬかのお話でありながら、実は、夫婦や親子といった家族について、とても考えさせられる作品になっています。殺し屋にも家族がいるのですね。では最後に、私がこの作品で最も印象に残った箇所をご紹介します。 「中学生か?」まずはそう訊ねた。 兜の言い方にどこか温情的な響きを感じたのだろうか、少年は肩を抑えながら、 「ふざけるなよ。すげえ痛いじゃねぇか。暴力振るうなよ」と若干、強気の、 媚びるか強硬かの二択で後者を選んだのだろう、そういった態度に出た。 「痛かったか」 「超痛いっての、これはひどいって」 このような猿芝居で学校の教師はうろたえたりするのか、 これが普段は通用するのか、と兜は感心した。 少年の肩に手をやり、今度は先ほどよりも強く力を込めた。 少年は悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込む。(p.200)
2020.10.31
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谷中でアンティークの着物販売業を営む栞。 両親は、母親の不倫が原因で離婚し、栞は父親の、妹・花子は母親の籍に入った。 父親は、実家のある北陸の山奥で暮らし始め、数年前にバツイチの女性と再婚。 母親は、花子と種違いの妹・楽子の3人で、現在、都営住宅で暮らしている。 栞は、高校卒業まで、父親と北陸の家で暮らしていた。 元カレの雪道君とは、高校卒業後一緒に上京するも、別れてから6年近くになる。 その別れには、花子が大きく関わっていた模様。 現在、彼には奥さんもいるが、栞のもとには未だに年賀状が届く。そんな栞が営む店に、客としてやって来たのが木ノ下春一郎。木ノ下は、町田に最近戸建て住宅を買ったばかりで、妻ひとり娘ひとり猫一匹と暮らしている。その後、木ノ下と栞は、逢瀬を重ねることに…… ***小川さんらしい、ほのぼのとした雰囲気の文体で綴られてはいるものの、内容としては、妻子ある男性と未婚女性との間の許されぬ恋愛を描いたお話。母親が歩んだ道と同じような道を、娘もまた歩もうというのか……かつては文学の王道であったこの題材も、今のご時世では受け入れられない?
2020.10.18
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優莉結衣は、泉が丘高校に編入し、4月に3年3組の生徒になった。 赴任したばかりの化学教師・伊賀原が担任となり、 前年度、2年2組で結衣を担任した普久山は、3年1組の担任に。 そんな中、原爆製造の疑いをかけられた3年3組の米谷智幸が行方不明になる。 田代ファミリーに多額の懸賞金をかけられ、行く先々で命を狙われる結衣は、 凜香や異母兄の篤志、清墨学園で争ったパグェのパク・ヨンジュらと共に 懸賞金目当てに群がる面々を牽制しつつ、原爆の設置場所を探る。 そして、石掛工業高校の地下室でそれを発見すると、その無力化に成功する。結衣の殺害に失敗した田代槇人は、拉致していた結衣の双子の姉・智沙子を解放。清墨学園事件でのアリバイを失った結衣は、検察審査会に申立書を提出されることに。さらに、田代槇人は、息子の勇次のファンミーティングの会場となるフェリーで、国外脱出を目論むのだった。しかし、結衣は、そのフェリーへの潜入に成功。凜香、篤志、ヨンジュらもそこに加わって、田代ファミリーを壊滅へと追い込むと共に、妹の弘子の救出にも成功する。その後、東京高等地方簡易裁判所で、審査結果が申し渡された。 ***今巻は、これまでのお話で登場した様々なキャラクターたちが登場し、振り返りをしながら、全体の総括をする一冊に仕上がっています。それでも、勇次はまだ生きているでしょうし、まだ未解決の部分もあります。何と言っても、今後最大の注目は、12年ぶりに目覚めた市村凜ですね。
2020.10.18
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「病気と平気の線引きはどこ?」 言い換えると、「具合が悪いなーと思ったときに、 どこまでは放っておいてよくて、どんなサインが出たら病院にいけばいいの?」。 この問いかけに、病理専門学者である筆者が答えた一冊です。 ***まず、「第1章 病気ってどうやって決めるの」では、病気だと決めるのは、基本的に、本人、医者、社会の3つとしています。最初に、自分自身が、これまでの経験に基づいて将来を予測し、決める。それができないときは、医者に診てもらって、病気かどうかを決めてもらう。それ以外に、周囲にいる人々が「患者」を病気というワクに当てはめ、文字通り患者として対処するケースもあります。そして、病気には、すぐわかるものと、なかなかわからないものがあります。すぐわかる病気は、医者がすぐに行動できますが、なかなかわからない病気は、医者も時間をかけないとわかりません。そこで、「様子をみる」ということになるのです。 ・病気というのは現在だけで成り立っているものではない。 時間軸を加えた解析が必要。 ・病気というのはかなり難しい。 医療現場ではそもそも病気の全てをわかろうとする前に行動し、 それが結果的に人々の役に立つ。(p.104)続く「第2章 それって結局どんな病気なの?」では、「腹痛」を通じて「体性痛」と「内臓痛」について説明したり、「かぜと肺炎の違い」を、自力で勝てる感染症かどうかで説明したりしています。さらに、喘息やアトピー、高血圧、腰痛、がんなどにも言及しています。最後の「第3章 病気と気持ちの関係は?」では、「病は気合じゃ治らない」とし、「ビタミンCやローヤルゼリーも関係ない」ともしています。第3章は、他の章に比べると、かなりコンパクトですね。
2020.10.18
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これはフィクション? それともノンフィクション? もちろん、ほとんどの作品はフィクションのはずです。 それでも、いくつかの作品には、村上さん自身と強く重なる部分が。 『猫を棄てる』に漂っていたものと同じものが、そこには確かに存在します。 例えば、「クリーム」の舞台は神戸。 ある女の子からから招待されたピアノ演奏会の会場は、 阪急電車の**駅からバスに乗り、山頂近くのバス停で降りてから、 少し歩いたところにある、財閥系会社が所有運営する小ぶりなホール。(現在は、阪急電車駅前から六甲山上、摩耶山上に向かうバス路線はありません)「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」の舞台も神戸。主人公が通っていたのは、山の上にあるかなり規模の大きな公立の高校。(これはご自身が卒業した、灘区にある出身校をイメージしているのでしょう)そして、ガールフレンドの家は、いつも聴いていた神戸のラジオ放送局の近く、海岸に近い松林の中にありました。(この放送局は、かつて須磨にありましたが、現在はハーバーランドに移転しています)彼女が運転するトヨタ・クラウンで六甲山の上にあるホテルのカフェに行き、そこで別れ話をした後、主人公はケーブルカーに乗って一人で山を下ります。(ケーブルカー下車後も、鉄道まではさらにバスに乗るか、結構な距離を歩く必要あり)主人公は東京の大学に進学し、卒業後すぐに結婚、東京で物書きをしました。(村上さん自身は東京で学生結婚、ジャズ喫茶開業後に大学を卒業し、やがて作家に) そして、「ヤクルト・スワローズ詩集」。これは、ノンフィクション。スワローズとの関りも、幼少時の思い出も、まさに村上さん自身のものにちがいありません。(阪神タイガースと、こんな関りがあったとは……)私としては、「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」が面白かったです。そして、最も村上ワールドを感じさせてくれたのは「一人称単数」でした。
2020.10.17
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新型コロナウィルス感染症が拡大し、 緊急事態宣言が出され、様々な職場で在宅勤務が行われ始めた頃、 本著が多数の人たちに読まれていることを知り購入。 随分時間がかかりましたが、ようやく読了しました。 それにしても、元々フランス語で書かれたものを日本語に訳してあるためか、 普段のリズムでテンポ良く読むということが、最後まで出来ませんでした。 また、哲学や宗教の空気感が全体に漂っており、文章も難解。 最近読んだものの中では、読み進めるのに最も労力を必要としました。 ***1940年代、当時フランス領だったアルジェリアの要港・オランで、最初は鼠が群れをなして死に始め、やがて人も発熱で次々に死んでいく。ペスト地区宣言が発表され、市門を閉鎖すると共に信書の交換も禁止されると、市外電話の利用も緊急時のみに制限され、電報が唯一の情報伝達手段になる。外部と遮断された孤立状態の中、人々の態度や行動、考え方も変化していく。その様子が、医師リウーの視点でドキュメンタリー風に描かれる。やがて、その災厄は唐突に収束し、人々は元の生活へと戻っていく。しかし、それぞれに訪れた結末は、人生の不条理を感じずにはいられないものだった。
2020.10.04
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準惑星天涯奪還戦で、ガイナスの小惑星要塞と軌道エレベーターを破壊し、 ガイナス艦隊の一掃に成功した壱岐方面艦隊は、 独立混成降下猟兵第1連隊を地表に降下させ、ガイナスの地下都市制圧を目指す。 そして、アンドレア少佐らの働きによって、それは実現される。 その後開かれた危機管理委員会。 出雲科学者チーム担当官となったブレンダ霧島は、ガイナスの意識構造について 「我々と接触した時点でガイナスは知能を有していたが、それは知性ではなく、 数と密度が増え、相転移により初めて集合知性が誕生した」と述べる。ガイナスは準惑星天涯の地下都市を核融合爆弾で完全破壊すると、96隻の艦隊を禍露棲の周回軌道に乗せようとする。セリーヌ司令官は、味方の損失ゼロで、これを全滅させることに成功。しかし、これはガイナスの陽動であり、主力288隻は壱岐に向かっていた。水神司令長官は、集合知性の恐怖心を利用して、その進行を阻止。ガイナス艦隊は壱岐攻撃を中止して方向転換。方面艦隊は、惑星百合若周辺に集結してこれを迎え撃つ。残った37隻が本拠地へと向かったため、ガイナスの拠点が特定された。やがて、敷島星系にガイナスの母星があるとの情報が、ブレンダにもたらされる。 ***兵站監に復帰した火伏が、ガイナスの壱岐攻撃を阻止する陰の立役者となったり、朽綱八重、クーリア迫水、ブレンダ霧島が危機管理委員会で一堂に会したりと、興味深いエピソードやシーンもありましたが、盛り上がりという点では、少々物足りなさを感じました。それは、ガイナス主力艦隊が、あまりにも呆気なく壱岐攻撃を放棄してしまったことと、その背景にある「集合知性」というものが、今一つピンとこないため。結局、「一区切りついたな」と実感出来ないままに、第一部が終了。『星系出雲の兵站ー遠征ー』へと、お話は続いていきます。
2020.10.03
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