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November 20, 2006
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 倉庫の中から、子供の泣く声が聞こえた。何かを叫んだが、少年、もしくは僕が激しく動揺していたため、僕には聞き取る事が出来なかった。
 目の前の光景には現実感が足りなかった。
 本当に縛られている子供がいる。本当に銃弾で倒れた大人が二人いる。本当に血が噴き出しているし、本当に子供が泣いている。これは全部本当の事だ。でも、これほど作り物のような、悪夢のような光景を僕は見た事がない。
 僕は今、驚いている。もし本当にこんな現場に来たら、僕は叫び声を上げながら呼吸も忘れて走って逃げるものだと思っていた。それなのに、実際に来てみればそれほど高等な事は出来ないと思い知ったからだ。
 目や耳が正常に作用しているのかを確認し、それを確認した後に映画の撮影ではないかとカメラを探す。カメラが無かったら幻覚を見せられているのではないかと何かを疑い、何かなんて思いつくわけも無く、子供の泣き声に吐き気を覚える。
 僕に出来たのはこれぐらいだった。現実を認められず、小指の先さえ動かせなかった。僕は自分で思っていた以上に役立たずだったようだ。

 和泉さんがアランさんに駆け寄る。そして、もう一人の男にも駆け寄った。
「久倉、電話だ。救急車を呼ぼう」和泉さんはこんな事には慣れているのか、とても冷静だった。
 僕は自分で電話が掛けられられる状態ではなく、和泉さんに携帯を投げて外に出た。外に出た理由は特にない。強いて挙げるなら、子供に僕が嘔吐する姿を見せるのはあまり良い事ではないな、と思ったぐらいだ。

 人は船酔いで吐き、酒の飲みすぎでも吐く。それぐらいは僕にも分かっていた。でも、頭がおかしくなるほどの泣き声を聞きながら広がっていく血だまりを見ても吐く、という事までは知らなかった。まあおそらく、知ったところでこれを今後の人生に活かす事などないだろう。
 一通り吐くと、僕はまた倉庫の中に戻った。倉庫の中ではやはり子供が泣いていた。そして、和泉さんが険しい顔をしてそれを見ていた。
「おかしいと思わないか、久倉」
 僕は一度吐いたお陰で、気分はだいぶ楽になっていた。「何がですか?」
「この二人は互いに撃ち合った」二人とも銃を手にしていて、二人とも胸の辺りを撃ち抜かれていた。
「そうみたいですね」僕達はもちろん撃ってないし、子供は縛られていて撃てないのだからアランさんともう一人がお互いに撃ち合ったのだ。
 和泉さんは言った。「この二人は仲間だったんだろう?」
「それはまあ、そうなんじゃないですか? 仲間じゃないのに同じところに居るのはおかしいですよ」正直なところ、そんな事はどうでも良くて、僕は一刻も早くこの場を離れたかった。
「こいつらは、何で仲間なのに撃ち合いをするんだ?」
「そんなの仲間割れに決まっているじゃないですか」パートナーの相性が悪かった場合、結婚相手となら離婚をするし、犯罪グループの中なら仲間割れをする。そういう事だろう。
「久倉。仲間割れっていうのは金を得てからするものだ。こいつらは少年を近くに置いているんだからまだ金をもらっていない。仲間割れはおかしい」

「仕事をするときは人数が多い方がいい。金を分けるときは人数が少ない方がいい。殺すなら、金を得てから金を分ける前の間が基本だ。でもまあ、今後一緒に仕事を続けていった方が何かと便利な事が多いから、本当は殺さない方が良いに決まってるんだがな」
 和泉さんは一般常識のように言い切った。でも、一般人の僕にこれが基本だと言われても戸惑ってしまう。

 僕と和泉さんが話していると誰かが嘔吐するような音が聞こえた。和泉さんは平気そうだし、僕は今は吐いていないので、僕でもない。それなら、他には誰なのだろうか?
 思いを巡らせて見ると、僕は肌の白い少年がいた事を思い出した。
 僕はあわてて駆け寄り、国籍不明の少年に英語で話しかけた。

(お兄ちゃん、英語、話せるんだ)この少年の言葉も、目の前で起きたであろう銃撃戦の後に発した言葉にしては冷静だった。
 僕も少年もきっとまだ混乱していて、大事なところが考えられないようになっているんだろう。だから体に一番なじんでいる日常的な行動、ありふれた行動しか出来ないんだ。
(お兄ちゃん、今度は僕を何処に連れて行くの?)この少年は犯人達に何度も連れまわされていたようだった。(またコンクリートの部屋に行くの? それは嫌だけど、う、海よりは、そっちがいい)
 少年は『海』と言う言葉に恐怖を抱いていた。おそらく『海に行くときは自分が死ぬ時なのだ』と犯人達に聞かされていたのだろう。
 僕はとりあえず敵ではないと示すために説明する事にした。
(これからここに『ピーポー、ピーポー』とか『ファンファンファンファン』とかそういう音を出す車が来て、日本のおじちゃんたちが君を保護してくれるからちょっと待っててね)
 僕は極力優しさをアピールするために音の真似を面白くやってみせた。だが、少年の視界には僕と僕の後ろに転がっている二人の大人が同時に入っていた。だからなのだろう。少年には引きつった笑顔を浮かべるのが精一杯のようだった。しかもそれは、僕の気遣いに対する少年のやさしさから出た笑みではなく、ここで笑わなくては殺されるのではないかという恐怖から生まれた笑顔だったので、僕は少しもうれしくなかった。

「久倉。もうここは危ない、行こう」
「危ないってなんですか?」
「そろそろ警察が来る。早く」和泉さんは言い切る前に僕の腕をぐいぐい引っ張ってその場を後にした。ちなみに僕は和泉さんと違って『警察が危ない』と思った事はない。





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Last updated  November 20, 2006 10:17:26 PM
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