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November 21, 2006
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 家に帰るともう夜で、僕は緊張しきっていた神経が一気に緩んで眠くなってしまった。
「和泉さん、僕はもう寝ますね」
「ああ、俺も疲れたからもう寝るよ」そう言って和泉さんはクッションを枕にして床に寝転がった。僕はそれを見た後、電気を消してベッドに潜り込んだ。

 何だったんだろう?
 疑問が僕の頭の中で繰り返される。
 こうやってぼんやりと考えると、頭の中が整理されてきた。今日の事はもう過ぎ去った事なのですべてを過去にしてしまいたかったのだが、ある事に気付いてしまった。いや、これは気付くのに遅すぎたくらいだ。ふと振り返ってみればすぐに分かる。

 アランさんは、誘拐犯なんかではない。

 誘拐犯だったら、道に迷っても僕や和泉さんのような人に場所は聞かないだろう。もし本当に道に迷ったとしても、仲間に電話でもすればいいし、電話が出来なくたって一般人に場所が知られてしまうような方法をとるとは考えづらい。
 さらにアランさんが誘拐犯ではないとする根拠がもう一つある。

 僕は極度の方向音痴で地図の内容もさっぱり分からない。だから道を尋ねてきたアランさんには、僕なりに頑張ったつもりでも全然違う場所を教えてしまったはずだ。そうなればますますアランさんは誘拐犯とは違う事になる。
 もちろん僕の考えにだって穴がある。アランさんは少し緊張感のない誘拐犯で、僕の絶対的な方向音痴も運良くかいくぐった、という事かもしれない。まあ、そんな誘拐犯がいるとも思えないし、地図も読めない僕の道案内がたまたま当たるなんて、それこそ確変が起こらない限りありえないだろう。

 だが、逆にアランさんが誘拐犯という身分ではないと説明がつかない事がある。アランさんが誘拐犯ではないとすると、アランさんは、あの誘拐犯が来るまではおそらく使われていなかったであろう倉庫に用があると言う事になってしまう。それはおかしい。
 目的地ではないはずの倉庫の周りでアランさんは緊張した面持ちで歩いていた、少なくとも一時間以上は。アランさんには目的地ではない場所にとどまるような理由があったのだろうか?

 そして最後にあの惨劇だ。ここまで来ると説明がつかないどころではないし、思い出しただけでもがくがくと震えてしまう。でも、それは脳の片隅に追いやっておいて、疑問点だけを抽出する事にする。

 なぜ、目的地ではない倉庫をすぐに離れなかったのか?
 なぜ、倉庫の中に入っていったのか?

 分かるわけがなかった。
 ……寝るか。
 僕は早々にこの問題を投げ出して寝た。



 今日は気分が乗らないので大学をサボる事にする。
 いつものように森野にメールを送る。『今日は全部サボるから、出来る限り出席を頼む』
 これで今日一日はオフになった。
 そうは言っても外に出るような気分でもないのでテレビをつけて、昨日、アランさんに出したのと同じコーヒーを淹れる。
 スポーツのニュースを眺めながらコーヒーに口をつけたとき、ふと気付いた。

 昨日あんな事があったのに仕事に行ったのだろうか? 仕事熱心なのは偉いが、泥棒は偉くない。真面目に働けばいいのになぜあの人は泥棒なんかやっているのだろう。
 ニュースの内容がスポーツから天気予報に移ったとき、森野からメールが届いた。
『今日、レポート提出があるけど休むのか?』
 そうだった。今日はレポートを提出する日だったのだ。
 僕は授業中に終わらせたはずのレポート用紙をバッグの中から探した。紙がぐしゃぐしゃになってはいたが、ちゃんと最後までやってある。せっかくやってあるんだから今日はレポートを提出しなくてはならないだろう。しかし、僕には外に出る気なんて毛頭ない。どうするか迷った挙句、僕は森野に電話する事にした。
「久倉、どうするんだよ。今日は来ないのか?」僕が話す前に森野が先に話を始めた。
「森野さん、相談なんですが、この部屋まで取りに来ては頂けないでしょうか?」
「え?」
「あっ、やっぱり無理だよね。そうだよね」
「……じゃあ、今から行くよ」
「あ、そう? 助かるよ」
「プリントを用意して待ってろよ」
「はいはい、お願いします」
 森野はうちまで来てくれるようだった。なかなか気の利くやつである。それから僕は森野が来るまで、またボーっとしている事にした。


『ピンポン、ピンポン』
 来客を知らせる音がした。今はちょうど授業が終わってお昼の時間だから、やってきたのは森野だろう。僕は、のそのそと玄関まで移動して玄関の鍵を開けた。
「よう、久倉」やってきたのはやはり森野だった。「特に用事もないのに休んでるのか。風邪?」
「いや、今日はだるいから」昨日あった事を森野に話すわけにもいかず、適当な理由を作った。
「ああ、そう」森野はその事には特に興味を示さなかった。
「ちょっと待ってて、レポート取って来るから」
「あ、それと財布も持って来いよ」森野は妙な注文をした。
「財布?」
「この前飲んだとき、二千円貸しただろ?」
「ああ、そうか。分かった」森野は僕に貸したお金を返して貰うついでにレポートを出してくれるようだった。なるほど、と感心しつつ、僕は千円札二枚とレポート用紙を取ってきて、森野に渡した。
「ではご注文の品、確かに受け取りました」何かの業者のような台詞を吐いて森野は僕の家を後にした。





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Last updated  November 22, 2006 12:11:58 AM
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