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November 23, 2006
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 森野が家を出てから五分後、入れ替わるような形で和泉さんが帰ってきた。
「何処行ってたんですか、和泉さん?」
「いや、何処というわけでもない」和泉さんは少し疲れているようにみえた。
「お仕事ですか?」僕が間接的に聞いたのは詳しい事を聞いてはいけないと心の何処かで思ったからだ。
「いや、私的な事だ」和泉さんは息を大きく吐き出した後、話を始めた。「あの少年に会ってきた」
 少年?
「昨日の現場にいた少年だ。久倉も話しただろう」
 どうやら昨日縛られていた少年の事のようだ。和泉さんは今の今まであの子と会っていたらしい。僕は、何故今更会いに行くのかを疑問に思い、すぐに行動に移すその行動力に驚かされた。
「えっと、彼ですか。何でまたそんな事を」

 その紙は英語で書かれた手紙だった。「あの少年は俺と言葉が通じないから、この紙にいろいろ書いてもらった」
「何をですか?」この人が何のために少年に会いに行ったか、さっぱり分からない。
「まあ、愚痴とかいろいろだ。読めば分かる。俺は英語が読めないんだ、早く読んでくれ」
「分かりましたよ」
 この紙は手紙を書くための紙なんかではなく、ただのルーズリーフだった。きっと和泉さんがどこかで買って、持って行ったのだろう。
 僕はルーズリーフの一番上から日本語に訳していく事にした。
「双眼鏡のおじさん達へ」僕は一行目から早速意味が分からなかった。「これ、僕達の事ですか?」
「そうだ。その調子で訳していってくれ」
「分かりました。では」僕は一呼吸置いてまた続きを読み始めた。

「双眼鏡のおじさんが『好きな事を書け』と言うので書きます。きっとこれを英語のお兄さんが読むのでしょう。そのときは僕の代わりにこのおじさんに助けてくれてありがとうと言ってください。お願いします。
 今僕がいる病室におじさんが来たとき、僕はまた、さらわれてしまうのかもしれないと思い泣いてしまいました。でも、僕を昨日助けてくれた人だという事に気付き何とか泣き止みました。おじさん、泣いてしまってごめんなさい。


 僕の名前はジョンです。イギリスに住んでいました。でも何日か前に、無理やり車に乗せられて、誘拐されてしまいました。車でたくさん移動しました。船にもたくさん乗りました。いろんな国に行きました。そしておととい、あの倉庫に移ってきました。
 昨日、誘拐犯の人はこんな事を言ってました『ここは日本だ。誰も助けに来ないだろう。明後日にはようやく身代金も取れそうだし、自由まであと少しだ』と。僕はもう疲れきっていて、うとうとしながらその話を聞いていました。
 でも、誘拐犯の言う通りにはなりませんでした。昨日の事です。誰も来るはずがない倉庫に人が入ってきたのです。それはパパでした。
『ジョン、助けに来たぞ』
 パパは右手に拳銃を握っていました。僕は久しぶりに会えたパパがうれしくて、やっぱり泣いてしまいました。

 でも、誘拐犯は懐から拳銃を取り出しパパを撃ちました。ほとんど同じタイミングでした。僕は目の前が真っ白になりました。何回も同じシーンが頭の中で繰り返されました。僕は嫌でした。何回そのシーンを頭の中で繰り返してもパパは撃たれてしまっていたのです。
 僕は悲しくてまた泣きました。とてもとても悲しくて、よく分からなくなってしまいました。そして、僕の知らない間におじさん達が倉庫の中に入ってきていました。いつの間にか僕の隣には双眼鏡のおじさんがいて、僕の手を握っていました。おじさんは英語ではない言葉で何かを僕に言った後、どこかに電話を掛けました。お兄さんが外に出ている間だったのでお兄さんはその事を知らないかもしれません。でも、僕はおじさんが手を握ってくれていたお陰で少し落ち着く事が出来ました。何もかもがめちゃくちゃでよく分からなかったけど、あのときのおじさんのやさしさだけは覚えています。僕はおじさんに感謝しています。今はあのやさしさだけが僕の希望です。

 これが誘拐されてから今までに起こった事です。パパは他の病室で寝かされているそうです。僕はもう元気になったのでパパも早く元気になって欲しいと思います。いろいろあったけど、整理してみると短いです。僕は早くこの事を忘れていつもの生活に戻りたいと思います。今日中にママが来てくれるそうです。僕達はすぐに帰国します。だから、おじさん達に会う事はもうないと思いますが、僕はおじさん達を忘れません。
 こんなに長く手紙を書いたのは初めてなので眠くなってきました。もっといろいろ言いたい事があったけど、もう終わりにします。おじさん達、ありがとう。
 あと、双眼鏡大事にします。僕の一生の宝物です」





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Last updated  November 24, 2006 02:09:20 AM
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