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「すっげー久々」
「スレに手間取ってたんだよ! いいから行くぞ!」
「夏河という二十年ほど前に死んだ作家の屋敷で、矢島と言う男が管理人をしていた。その矢島は二十年前失踪したが、その娘さんである小百合さんが次長を通して杉下さんに依頼をしてきた。亡くなった母の遺品を整理していたら、夏河の創作ノートらしきものを見つけたんだが、その中にどうも矢島さんが夏河を殺した証拠があると言っている。物心ついた時にはいなくなっていた父親、たとえ殺人犯だとしても会いたいのだろう。引きうけるとして、次長と小百合さんは昔からの仲のようだが、どのような? ――うん? 母の就職先を探したり学費を援助してくれた恩人?」
「普通に考えれば隠し子ですねえ。カイトの胸中は複雑に違いありません。問題のノートですが、鑑定するための直筆の文章が存在しませんが、ノートに買い物のメモが挟まっていて、屋敷の雑用係も勤めていた矢島さんへ夏河が渡したリストと思われます。その筆跡とは確かに一致してますね。ノートには殺人を仄めかすことが書かれていますなら、小説家の創作ノートなら何が書かれていても不思議はないのでは?」
「いやそうじゃない。夏河は自分で体験したことしか書けない作家だったようで、自殺未遂した登場人物を描くため自殺を図り緊急搬送されたこともあるっていう変人だ。そして体感したことを創作ノートに書き留め、小説が出来たら全部焼いていたと。なら、自分が殺される話を書こうとしたら本当に殺されてしまい、ノートだけが残ったわけか。可能性としてはあり得るが、とにかくその屋敷に行ってみないか?」
「夏河の屋敷は当時社交場として知られサロンなんて呼ばれてた。今はサロンの関係者で夏河と親交のあった富豪の須磨子さんという方が会長を務める財団が管理している。亡くなった夫の財産で慈善団体を作り、何十億と言う遺産を女性や子供たちに寄付している篤志家として有名なんだ。表舞台にはほとんど立たず『最後の淑女』と呼ばれているって。とにかく彼女に聞いてみよう」
「二十年前遺体を発見したのは担当の人だった。一月カンヅメ状態でいて、なおかつそれに前後して管理人の矢島さんが失踪したため訪ねる人間もいなくて発見がかなり遅れてしまった。そのせいで詳しい死亡推定時刻も他殺の証拠もなくなった。自殺と判断されたが、ノートが発見されていればどうだったか。んで、肝心のノートの中身は?」
「ええと……「私はあの男の罪を告発するつもりだ。そしてあの男は私の決意に気付いている。あの男は私を殺す気だ。私を階段から突き落とすことだって容易だろう」――ううん、確かに殺人の予感っぽいね。あの男が矢島さんとは書かれてないけど、他に「突然、玄関の開く音がした。あの男が帰ってきたのだ」って。編集者も締めだした屋敷に自由に出入りできるのは管理人くらいじゃないかな。当時の写真あったけど、ガタイいいねえ夏河は。ノートにもテニスやっててペアを組んだあの男が怪我をしたなんてあるけど、怪我をしたのが矢島さんかな? 一番気になる描写は「私はあの男の罪を告発すべきか迷う。すれば傷つく者がいる。あの男の罪は例えるなら杜鵑の罪だ」これは何らかの罪をあの男が犯し、それを夏河が告発しようとしたため殺されたってとこかな。しかし……ホトトギス?」
「『あの声で トカゲ喰らうか 杜鵑』――何て句があるらしい。トカゲ喰らうか……ちょっと調べてみようか」
「句の内容は、美しい声でなく杜鵑も醜いトカゲや虫を食べている。転じて、見かけは美しい人間もその内面にはどんな醜い姿をしているかわからない――なんと、矢島さんは飲み屋での喧嘩で人を殴り殺し懲役となっていた。仮にその罪を夏河が小説の題材にしようとしたとすれば、殺人の動機にはなる。しかし、それは矢島さんが夏河を殺したということにはならない。検証してみよう」
「仮に絞め殺した後遺体を梁から吊ったとした場合、梁から直接引っ掛けるのでは重くて引っ張れません。しかし、注目したのは壁に絵を掛けるためのフック。これを介せば、なんとか引っ張れます。他殺の可能性が出てきましたね。ま、とは言っても二十年前の事件ですから既に時効が成立してますから罪には問えませんが……おや、須磨子さん小百合さんのこと覚えてたみたいですよ」
「道理で二人に協力してきたわけだ。当時のサロンでは彼女は天使のように愛されていた。そのサロンには次長もいたらしいな。須磨子さんからは小百合さんには何も言わないでくれって頼まれたが、たとえ殺人犯でも父親に会いたいと切実に願った彼女を無視するわけにもな――言い辛いが、全てを……へ? 知ってる?」
「小百合さんどころか、妻にもサロンの皆にも話してた!? それじゃ全ての前提がひっくり返ってしまう。間違った推理をしていたというのか――?」
「よく考えてみれば変だったんです。ノートには「突き落とすのも容易」とありましたが、ガタイのいい体をしていた夏河に比べて矢島さんは小柄。その上突然玄関を開けて入ってきたとありますが、管理人とはいえ主人の自宅に無断で入ったりしませんよ。もしかしたら「あの男」とは夏河自身のことを刺すのでは? ならば問題は「私」が誰かです。注目されるのは、テニスのミスで負傷したという夏河のところ、手を怪我して不自由した夏河に代わってメモの代筆をしていたなら筆跡も一致する――そんな人は、須磨子さんしかいないのでは? だとしたら告発しようとした罪は何か。杜鵑で最も有名な習性は――託卵ですよね」
「元囚人の矢島さんを雇う代わりに奥さんと関係を迫り小百合さんを作ったことをあろうことか自慢気に話した夏河。それどころか、須磨子さんの夫やサロンの男どもみんなやってたという衝撃の事実を聞かされ、激情のまま殺してしまったんだろう。そこに来たのが矢島さん。小百合のことを知ってて知らない振りをしていた彼は、事実が発覚することを恐れて自殺に偽装して隠ぺいする代わりに消える自分に代わって二人を守ってくれるよう須磨子さんに頼んだ。失踪後はどこが誰も知らないところで暮らしているらしい」
「自白した以上、調書を取らないといけないよね……あ、でも、サロンの男は酷い奴らばっかだけど、次長は例外だったんだって。きっと、小百合さん親子へ援助をしていたのは須磨子さんで、次長は名前を貸していただけだと思う。慈善事業に財産のほとんどを使ったのは夫への復讐だと言うけど……それだけでこれほどの活動はできないでしょ。やっぱり最後の淑女は最後の淑女だったね」
現実VS虚構(ニッポンVSゴジラ) 2016.08.31
レビュー企画 相棒Legend12 2015.09.20
レビュー企画 相棒Legend11 2015.07.28
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