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2025.10.11
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カテゴリ: 鈴木藤三郎
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「鈴木藤三郎伝」鈴木五郎著183~186ページ

  井上馨と後藤新平

 台湾製糖会社の事業目論見書は、前にも書いた通り総督府技師の山田?(ひろし)の意見に基づいたものが、製糖原料の甘蔗は、すべて農民から買入れる予定だった。したがって会社としては、耕地は一坪も所有しないことになっていた。ところが、藤三郎が実地に視察して来た結果、耕地を今のうちに所有しておくほうが、会社の将来のためであると考えて、創立総会でも、その意見を述べたものであった。また、井上馨にも、このことを報告したところ、井上も大賛成で、「それでは、土地を買入れる資金が、新たにいる訳だから、予定より早く、第二回の払込みをさせなければなるまい。至急に大株主を開いて、その了解をうるようにしなさい。わしも出席して、助言してあげよう」といった。

それで、創立総会から1か月も経たない明治34年(1901年)1月5日の午後1時から、三井集会所で大株主会を開いて、このことを懇談することになった。それには、井上と台湾民政長官の後藤新平も特に出席した。
 この『台湾製糖株式会社・特別株主総会』の司会は、例によって益田孝がした。彼は、こういう会合には慣れ切った物柔かな態度で立ち上がると、こういった。
「諸君、今日は、当会社の協議会でありまして、100株以上の大株主だけにお集まり願った次第でありますが、便宜上、鈴木氏に会長となっていただいては、いかがでしょうか?」
「賛成・・・・賛成・・・・。」の声が、二、三人の口から勢いよく呼ばれた。

「どうぞ・・・・。」

益田に、こういわれて、藤三郎が立った。そして、会長席に進んで、一礼した。彼は、井上や後藤のような高位高官の前で話しをするのは初めてなので、少し固くなった調子で、こう口を切った。
「今日、大株主諸君に御来会を願いました主旨を申し述べます。

元来、当会社の発起した当時のもくろみは、まず最初は工場と機械だけを設置いたしまして、原料の甘蔗は本島人から買入れて営業をする見込みでありました。ところが、先ごろ、私がかの地に参りまして実地に踏査いたしました結果、甘蔗の耕作をするのには、種子や肥料などに大いに改良を加える必要を悟ったのであります。しかし、この改良をするのには十分の施設がいります。それには、とうてい、他人の事業に、会社が干渉するだけでは効を奏することができません。それで、会社自身が、まず地主となって、本島人を小作人として、これに適当の方法を教えてこそ、初めてこの目的を達することができるでございましょう。

私は、そうした考えの下に、工場に適当な場所を地として2か所を選定いたしました。一は曾文渓、一は橋仔頭であります。この地は、将来事業を拡張いたしますのに、至急有望の土地でありますから、今日、この付近に耕地を買入れておくことは、会社のために利益であろうと存じます。その概略は、創立総会のおりの調査報告中にも申し述べておきましたが、なお今日は、このことにつきまして、とくと御協議を申し上げたいのでございます。

これにつきましては、井上伯爵下にも、御意見のあることを承りましたから、ただ今から閣下の御意見を、お聞かせ下さるようにお願い申し上げます。」
 藤三郎は、こういうと、井上馨の前にいって、

「どうぞ・・・・。」

と、低く頭を下げた。井上は、

「ふむ・・・・。」

と、軽くうなづくと、いかにも大政治家らしいゆったりとした態度で、演壇に立った。そして、幕末維新のころにはいくたびか白刃の下を潜って、その傷あとがまざまざと眼尻や下あごのあたりに残っていて、『ひと癖ある面魂(つらだましい)』という言葉がピッタリする顔で、じっと一同を見わたした。その気魄に押されて、一座は水を打ったようになった。


「諸君、私は当会社の株主でもなく、また役員でもないのであるから、本日、当社の大株主の協議会の席上で、当社の利害について、とやかく、申す必要はないようであります。しかし、最初、当会社の発起人諸君に向かって、この事業の有望なことを申し述べたことでもあり、また、これを大にしては、わが国の経済上に大関係を有する事業であるから、ぜひとも成功させたいものと希望しております。それで、いろいろの点について大いに勧告したこともあるから、徳義上、当社の成立した上は、本来の希望などについて、いささか考えていることを、本日、この席上でひと通り申し上げてみようと思うのであります。
 およそ人間の生活程度が進むに従って、日常消費する物も、また増加するということは免れないことであるが、中でも飲食物中の砂糖のごときは、1か年の消費額が優に3,000万円前後になっておる。そのうち、およそ2,000万円ばかりは外国から輸入された物である。また卵のような物でも、実に100万円ばかり輸入しておる。これらを、ことごとく内地で消費しておるのであるが、まことに驚くべき現象と申さなければならない。
 また、その上に、日本人は旧来の習慣として、藩政時代から上下ともに紙幣を便宜とする習慣があって、今日の兌換紙幣が危険に陥りはしまいかというようなことを、心配する者はほとんどないと申してもよいのである。
 ここにある年々の輸出入の表を見ると、さる28,9年以来、常に輸出品の増加は僅少であるのに、輸入品は急激な増加をしておる。昨年来の輸出入の差、すなわち輸入超過額は1,322万5千円余であるのに、日本銀行の引換準備金額は金6千6,700万円に過ぎない。これでは、もし将来も依然として輸入超過が続くものとすれば、ついに兌換紙幣は不換紙幣となって、札の購買力は無くなるようなことにもなろう。実に心配に堪えない次第であります。それであるから、このように正金が海外に流出するのを防ぐには、内地の生産事業を極力奨励し発達させて、輸入品を内地で製造するよりほかに良策はないと考えるのである。」
 わが国の政治の中枢にいて、日ごろ、国家の前途について頭を悩ましていた井上としては、ここでもわが国の財政の弱点と、その救済の根本策とから説き出さない訳にはいかなかった。そして、いよいよ本論に入った。





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最終更新日  2025.10.11 06:40:04


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