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April 18, 2022
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カテゴリ: REALIZE
翌日、約束通りハワードは警察病院にアランを訪ねていた。着替えをロッカーに入れ、ベッドサイドのスツールに座ると、ボーグに聞いた話を伝えた。アランからは、こちらに転移してからの情報を聞かされ、二人は考え込んでいる。

「今回殺された平田は、やはりヒカルのベビーシッターだった。うまく誘い出してアジトを突き止める予定だったんだが、思わぬ邪魔が入って逃げられてしまったんだ」
「思わぬ邪魔?ですか」

 おうむ返しに尋ねるハワードに、ちょっと言いにくそうなアランが答える。

「まぁ、ファンってやつだよ。君なら経験あるだろう。こちらにしたら見ず知らずの人だが、向こうはすっかり知り合いのつもりで親し気に話してくる人種。」

 はぁ、と疲れた表情の王太子に憐みの視線を送る。ああ、確かに。以前はそんなことばかりだった。プライベートなんてないに等しい。

「突然目隠しされて、恐怖で体中が硬直したよ。まあ、店によく来てくれていたお客さんだったんだけどね。それからしばらくは平田を見失ったあたりで調べていたんだ。そうしたら、偶然、平田の勤務先が分かったんだよ。普通の会社に勤めていた。何気なく周りに聞くと、やはりわがままで身勝手な性格だと口をそろえて話していた。そこで、同僚だという女性から気になることを聞き出したんだ。平田は昔、どこかの国の王女を教育する係に選ばれていたと豪語していたというんだ。赤ん坊の時からの英才教育だと話していたそうなんだ」
「ベビーシッターをしていたってことですか? だけど、私がヒカル様と一緒にこちらに来た時、ベビーシッターの会社に電話したら、こちらからの申し込みは翌日にはキャンセルされたと言われました。」
「なんだって?! それじゃあ、僕がその会社に電話しているときに、すでに奴らはその行動を見ていたってことか。そんなことは平田本人も言ってなかった。ハワード君、どうも嫌な予感がする。今からすぐうちに帰ってヒカルを守ってくれ。もし、ヒカルに出来そうなら、魔術の気配がないか確かめさせるといい。」



「承知しました!」

 ハワードが急いで準備していると、思い立ったようにアランがハワードの腕をつかんだ。

「ハワード君、あの子を守ってほしいけど、まだ、その…、まだ取らないでくれ!」

 次の瞬間、ハワードはゆでだこのように真っ赤になってしまった。

「な、な、何の話ですか? 取るだなんて、あ、あの方は私などには手の届かない尊い存在です。第一、あの方の倍以上も生きている私が振り向いてもらえるとは思えません」
「だけど、気になってるだろ? 忘れないでくれ、まだ12歳なんだ。まだ僕のかわいい娘でいてほしいんだ。」
「…分かりました。彼女の事は、私たちが絶対に守ります」

 ハワードは愛する娘を取られそうな哀れな父親の手をそっと外して握手すると、ヒカルの元へと急いだ。
 ハワードが去ったすぐ後に、再び来訪者があった。

「失礼します。森亜蘭さんですね。捜査のご協力ありがとうございました。無事、犯人が捕まりました。ご家族がお見えになるようなら、明日にも退院できますよ」
「犯人の名前をうかがっても?」



「平田太一郎。被害者の夫です。どうも被害者は金遣いが荒かったようで、我慢の限界だったようです。では、お大事に」

 よくある話、と刑事はあっさり切り上げて行った。欲望のまま行動するあたり、やはりデビリアーノだったのだろうか。アランは思いめぐらせながらスマートフォンを取り出した。


「ただいま戻りました。」

ハワードが帰宅すると、ヒカルが満面の笑みで飛び出してきた。

「ハワードさん、お父さん退院できるんだって!今、連絡が入ったの!」


 さりげなく、室内を確認して、ハワードは静かすぎることに気が付いた。

「リッキーはどちらに?」
「それが、久しぶりに会えたからってボーグさんに会ってくるって、出て行ったの。」
「それは、いつ頃ですか?」
「ついさっきよ。もうすぐハワードさんが帰ってくるから私はお留守番してくれって」

 リッキーがヒカルを一人にしてボーグさんを訪ねるのは違和感がある。嫌な予感がじわじわと心を埋め始めていた。

「ヒカル、この店内や住居部分に魔術を使った気配を感じるところはないですか?もし出来そうならでいいのですが、 殿下から調べてもらう様にと言われています」
「お父さんが? ん、ちょっと待ってね」

 ヒカルはゆっくりと店内を回り、それぞれの部屋、そして厨房をめぐってダイニングを調べ上げた。固定電話の前に来た時、ヒカルの顔色が変わった。

「もしかしたら、この辺りかも…。」

 つぶやき始めるヒカルを不意に引き寄せ、ハワードが明るい声で言う。

「そうだ、ヒカル。あの紅の騎士の本を見せてよ」
「え?いいけど…」

 そのままぐいぐい奥へと連れていかれながら、ヒカルにもピンと来たようだった。そして、自分の部屋に来ると、じっと気配を確かめ、ほっとした表情になる。

「ここは気配がないのですね」
「うん、あの固定電話のあたりだけ、気配というより、今も何かがのぞき見しているみたいだった。」
「やっぱり…」

 ヒカルはハワードに問いかける視線を送る。何も知らされないのはずるい。

「殿下から伺ったのですが、どうやら殿下がこちらで調べていることなどが筒抜けになっていたようなんです。それで、家の中を調べてもらえと言われたのですよ。
それと、失礼かもしれませんが、私はどうもボーグさんに違和感を覚えます。異世界の病室で殿下などと呼ぶのはおかしいでしょう。あの場にいたみんなが、平民らしい呼び方をしているのに。それに、王妃様のことを嫌っているような言い方も気になりました。」

 ヒカルが眉を寄せる。掌をぎゅっと握りしめて、ハワードを見つめる目が不安に揺れている。

「大丈夫です。リッキーはなんとなく気づいているようでした。だから、今日の外出にヒカルを連れて行かなかったんだと思います。明日には殿下も退院されます。あと少しの辛抱ですよ」
「分かったわ。何日も待ち続けていたんだもん。1日ぐらい平気よ。さて、お昼ごはん、サンドウィッチを作ろうと思うの。手伝ってもらってもいい?」
「はい、承知しました。」

 気持ちを切り替えて上を向くと、ヒカルは元気に立ち上がった。けなげな後ろ姿に胸が締め付けられる。ハワードは小さな後ろ姿を見守りながら、そのあとに続いた。

つづく





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最終更新日  April 18, 2022 09:24:10 AM
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