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さて、前々回にいろいろな3極出力管(多極管の3結)を比較して、特性がきれいな6CA7/EL34に決定したと述べた。ところが、詳しく動作点を分析していく内にとんでもないことが判明した。この特性はニセモノだったのだ! 6CA7の3結ではA級シングルとAB級プッシュプルの動作例が発表されているのだが、この動作例が特性曲線から外れてしまうのである。これには困った。そこで、特性曲線を描かせるプログラムをBasicで自作し、それでいろいろシミュレーションしてみることにした。特性曲線はこんな感じになった。 特に美しい特性曲線というわけではないが、電流をたくさん流せるところはよい球である。このあたりの経緯は、MJ誌に書いたことがある。MJ 1994.1の記事 このプログラムを使って、いろいろロードラインを引いてみた結果、Eb=400V, Ip=60mA, RL=5kΩのとき、最大出力Po=19W, 歪率D=1.9%となった。これは1ペアの値なので、パラPPでは出力が2倍の38Wとなる。プレート電圧は最大定格が3結時425Vなので400Vに抑え、プレート損失の最大定格が3結時29Wくらいなので、80%強の24Wに抑えるために400V-60mAと言う動作点とした。これはかなりA級に近い電流を流した動作点だと言える。電流を絞った方が最大出力は少し大きくなるが、歪みが急激に増大してしまうため、敢えて電流を流した低歪みの動作点を選ぶことにした。。電流を変えたときの最大出力・歪率(計算値)
2012.02.11
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ところで、3極管PPがなぜ優れているかについてもう少し具体的に述べておこう。トランジスター(TR)、多極管(特にビーム管)、3極管と比べると、この順番に電源エネルギーの利用効率は悪くなっていく。ならば、TR式が一番良さそうなものだが、効率が良ければそれで性能が良いというわけではないのだ。 効率というのは、特性曲線の上で電源供給電圧と負荷抵抗を決めると、大体わかるものだ。図Aに示すTR式の場合、入力を増やせば、どんどん電流が流れるため、基本的に出力素子は歪まない。負荷抵抗を小さくすれば小さくするほど出力は増加する。どこかで頭打ちになるのは電源が歪むからなのだ。図Bに示す多極管の場合、ちょうど良い負荷抵抗を選ぶと出力が最大となる。それより負荷抵抗を小さくしても大きくしても出力は急速に小さくなってしまう。負荷が小さくなるときには出力素子が歪むが、負荷が大きくなると電圧0Vでカットオフして急激に歪む。それに比べると、図Cに示す3極管の場合は、もともと効率が悪いせいもあって負荷抵抗を変化させても出力の変化は小さい。そして常に出力素子が歪むため、出力素子の特徴が音に現れるわけだ。 アンプのテストをするときには8Ωの負荷抵抗を接続するが、現実のスピーカーは抵抗とは違う。スピーカーのインピーダンスは基準負荷よりも大きくなる傾向があるため、負荷抵抗が大きくなっても特性が悪化しない出力素子が望ましい。それは3極管である。また、出力素子が美しい歪みを発生するのも3極管だけである。多極管は急激に歪み、TRは電源が歪む。どちらも大量の負帰還をかけることが前提の出力素子なのだ。こう考えれば、効率の悪い3極出力管が実は最もスピーカーのドライブに適した出力素子であることがわかるだろう。
2012.02.03
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