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高域についてはどうだろうか。出力トランスのところで説明したように、出力トランスを半分のインピーダンスで使っているため、超高域ではインピーダンス特性にピークが出てしまう。それを抑えるために、まずCRによる補正(C2-R2,C3-R3)を行っている。 高域の時定数は実質3段と考えられ、出力トランスのところで2段分(T2,T3)が働き、1段目は初段と2段目の間(T1)である。この他にも各段で時定数は存在しているが、影響の大きいのはこの3段と言うことである。出力トランスの帯域が狭いため、そこ(T2,T3)を第1ポールにするより他無い。この2つの間ではスタガー比を取る余地がほとんどないので、大量のNFBをかけることは不可能である。T2,T3は70kHzと120kHz程度と見積もられた。両者は近いところにあるがどうしようもない。 1段目のT1も、元々の定数では230kHz程度であった。せめてこの時定数は、T2,T3から遠ざけたいものだ。苦心の末編み出したのが中和回路である。図のように時定数の原因となっている2段目のP-G間容量を、逆位相のPからGへの容量を追加することで打ち消そうという寸法である。3.3pFを追加したことでT1は380kHzとなり、ほとんど影響はなくなった。。 出力管周りについて補足である。出力管のグリッドには元々200Ωが直列に入っていた。グリッド電流の測定などに使っていたのであるが、直列抵抗があると歪み率が悪化するため、短絡することにした。10Φ10Tのコイルを並列に入れてある。計算してみると0.5uH位なので、全くコイルとしては機能していないことになる。出力管のスクリーングリッドには、直列抵抗を入れずに直接プレートとつないでいる。SGの損失の点でも、発振防止という意味でも、特に必要はないと判断した。 NFBは8.6dB程度である。NFBをかけることで、左右の利得もそろい、歪みも低くなる。高域の安定度については、時定数がほぼ2段に近い配置であるため、特別な積分補正は設けず、NFB抵抗(1.6kΩ)に微分補正のC(330pF)を並列にしているだけである。600kHz付近に生じるピークが気になったので、入力段にLPF(4.7kΩF×68pF→500kHz程度)を入れることにした。最終的なチェックは方形波特性で見る。定格負荷では10kHzの方形波がオーバーシュートのみでリンギングを生じないこと、0.1uFのみの負荷で発振しないこと、の2点をチェックする。高域特性は、余り補正しすぎない方がよい。適当なところに止めた方が生き生きとした音になる。
2012.07.16
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さて、次に時定数とNFBの設計について説明しよう。まずは低域である。低域の時定数はカソードフォロワー段の前に1つ(T1)と、出力トランス(T2)の計2つである。まず、出力トランスによる時定数を評価してみよう。出力トランスXE-60-5の1次インダクタンスを測定したところ、最小値22H-最大値380H(カタログ値)となった。最大値については、実測すると波形が大きく歪んでくるので、カタログ値を使うことにした。出力管の内部抵抗が1.2kΩ、負荷抵抗が2.6kΩとすれば実質820Ω程度になる。8Ωの基準負荷に対して、T2は22-380H÷820Ω→0.34-5.9Hzとなる。 最初、これを第1ポールとして、カソードフォロワー前段の時定数はそれより大きく、0.47uF×2.2MΩ→0.15Hz程度に選ぶ予定であった。しかし、あまり帯域を広げても、出力トランスが歪んでしまうのだ。周波数に比例して許容入力電圧は下がっていくため、1W出力での周波数特性すらまともに測れなくなってしまう。これでは気持ちが悪い。結局、総合的な周波数特性と出力トランスの歪みを避ける観点から、前段の時定数T1を0.22uF×220kΩ→3.3Hzに選ぶことにした。出力トランスの時定数とかぶっているようだが、NFBが8.6/8.7dB程度と少ないので問題はない。 出力トランスの歪みを避けるために、アンプの入力にサブソニックフィルター(0.033uF×1MΩ→4.8Hz程度)を入れることも試してみたが、実用上は問題ないレベルなので取り除くことにした。カソードフォロワー前段(T1)と出力トランスの時定数(T2)と、2段のフィルターが入っているため、超低域での入力余裕度は十分である。またD.F.値も10Hzまで4.7/4.6とフラットであった。前段の時定数の影響で超低域で一旦D.F.値が少し悪化するとしても、出力トランスの時定数のためにDCに近づくにつれD.F.値は向上すると思われる。ちなみに出力トランス2次側の直流抵抗は0.4Ωくらいである。DCアンプがよくもてはやされるが、直流まで再生する必要があるわけではなく、直流まで負荷に制動がかかり、どんな入力を入れても極端な歪みを生じなければよいのだ。
2012.07.07
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少し古い話になるのだが、フルトヴェングラーのザルツブルグ音楽祭での実況録音を集めたCD集がORFEOから発売された。これに、特典盤として'47.8のブラームス交響曲第1番の実況録音が付いていた。これを評論家の宇野功芳氏がフルトヴェングラーのベストの演奏ではないかと雑誌に書いていた。これは聴いてみなければ、と言うことで早速購入したのであるが、探してみるとフルトヴェングラー指揮のブラームス交響曲第1番はこれで7種類目と言うことになってしまった。左上段は(A) '45.1 BPOライブ(第4楽章のみ)左中段は(B) '47 VPOスタジオ中央上段は(C) '47.8 VPOライブ(今回購入)中央中段は(D) '51.10 NDRライブ(「ハンブルグの奇蹟」)左下段は(E) '53.5 BPOライブ右上段は(F) '52.1 VPOライブのCD,SACD(EMIレーベル)右下段は(G) '52.2 BPOライブのCD,SACD(グラモフォン)(VPOはウィーンフィル、BPOはベルリンフィル、NDRは北西ドイツ交響楽団)聴き比べの結果であるが、まず録音品質がずいぶん違う。(A)は最終楽章のみなので除外するとして、問題の(C)は音が不安定であまり楽しめなかった。(B)は唯一のスタジオ録音で、音は悪くないがゆったりした演奏である。ということで、結局以前から定評のある(D),(E),(F),(G)の4種類のライブ録音に絞られた。(D)は少し早めのテンポで躍動感があるのに対し、(E)は堂々としていて力強い。(F)は音が美しく充実した演奏。しかし、何と言っても(G)である。第1楽章冒頭のティンパニーの音からすさまじく、終楽章の盛り上がりも劇的と言う他はない。重苦しくリズムが粘る演奏だが、終結部ではテンポが大爆発を起こし、フルトヴェングラーを聴く醍醐味を味わえる。大変な名演であることを再確認した。SACDはわずかに音がまろやかに聞こえる。バーンスタイン・VPOやミュンシュ・パリ管の演奏も悪くはないが、そういうスマートな演奏に比べて、(G)は古色蒼然たる演奏ではあるが、圧倒的な存在感と説得力は素晴らしい。せめてもう少し音が良ければ…、とあらためて感じた次第である。
2012.07.01
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