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回路構成について一通り説明してきたが、一つ説明し忘れたことがある。プッシュプルのバランス調整についてである。ここで言うバランス調整とは、出力管のバイアス調整のことではない。それは前に述べたように、1本1本個別に調整することができる。そうではなくて、位相反転段のバランス調整のことである。2段差動増幅を採用した本機の場合、ACバランスは特に調整の必要はないのだが、DCバランスは調整する必要がある。2段目の差動増幅段のバイアスが左右ユニットで余り大きく異なると、自動調整できなくなってしまうからだ。 普通、差動増幅段のDCバランスは図(A)に示すようにカソードに可変抵抗を入れて調整する。しかし、この回路ではカソードに直列抵抗が入って性能が悪化してしまうし、何よりも信号が可変抵抗の接点を通ることになる。決して使いたくない回路である。そこで、考案したのが(B)の回路である。そう、信号系にはどこにも調整機構は入らない。実は図(C)に示すように、ヒーター電圧を制御することで左右ユニットの特性を合わせるのだ。これが、ヒーター制御バランス回路である。ヒーター電圧は±10%程度変化させることが可能である。この調整回路は、何しろ温度で制御するもので調整の効きがにぶいため、コーヒーでも飲みながらのんびり調整するとよい。また、全ての電圧増幅管に適用できるものでもない。ヒーターの中点が取り出されている球で、低雑音用としてカソード温度を低めに設定している球のみ、調整が可能なのだ。12AX7/12AU7/12AT7などは最もこの方式に適した球と言えるであろう。1段目のみならず、2段目の差動増幅段にも採用してみたが、なかなかスムーズに動作する。
2012.06.23
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さて、強力なカソードフォロワー・ドライブによりAB2級動作とすることで、6CA7(T)パラPPから60Wを取り出すことができたのだが、これは単に出力を増加させるための設計ではなく、3極管PPの繊細な音と、多極管PPの力強い音を両立させるためのものなのである。その点を詳しく説明しよう。 真空管アンプは同じ出力のTRアンプに比較して、歪みが目立たないと言われる。真空管アンプは歪みが徐々に増えるソフト・ディストーション型だからと言うのであるが、その理論的裏付けとして筆者は以前、入力余裕度という概念を提唱した。最大出力100WのTRアンプを考えてみよう。出力1Wを得るのに必要な入力電圧が0.1Vだったとすれば、10倍の1Vの電圧を入力に加えれば出力は100倍の100Wになるはずである。これ以上の入力電圧を加えたら出力は急速に歪んでしまうだろう。ところが、最大出力70Wの真空管アンプの場合、同じように入力電圧を加えても、まだ最大出力には達しない可能性がある。それは出力電圧が入力電圧に比例しないリミッタ効果によるものである。この場合、出力は70Wでも入力電圧は1W出力の時の10倍、すなわち100W相当と言うことがあり得るのだ。 最大入力電圧をEimax、1W出力時の入力電圧をEi1Wとするとき、を入力余裕度と定義する(単位W相当)。入力余裕度の高いアンプほど、平均聴取音量を上げてもピーク時の歪みが耳につかない、すなわち大きな音が出せることになる。 PPアンプでは正しくバランスを取ると偶数次の歪みはキャンセルされ、歪み成分としては3次、5次など、奇数次の高調波のみが現れる。奇数次の高調波には図に示すように波形を尖らせる位相と波形をつぶす位相があり、3極管PPは波形を尖らせる位相の歪みを発生させるのに対して、多極管PPは波形をつぶす位相の歪みを発生するのである。実はこの波形をつぶす位相の歪みがあると、入力電圧を増加させても出力があまり増加しないリミッタ効果が得られ、入力余裕度が増すのである。これが、多極管PPの力強い音の正体ではないかと思う。 カソードフォロワーを用いて出力管のグリッドを正領域まで振り込むと、3極管PPでありながらその領域では波形をつぶす位相の歪みを発生するようになる。すなわち、出力が小さいうちは波形が尖る位相の歪みを発生して3極管PPらしい繊細な音を出すが、出力が大きくなると波形をつぶす位相の歪みに変わり、多極管PPのような力強い音が出せるのだ。ちなみに本機の場合、出力は60Wに止まるが、30W~40Wの領域で動作が切り替わるため、入力余裕度はなんと100W相当を得ている。
2012.06.16
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次はカソードフォロワーによるドライブ段である。出力管6CA7(T)のグリッドを正領域まで振り込むことでAB2級動作とし、出力の大幅な増加を目指す。最初、12AU7のパラレル接続で間に合わせる予定だったのだが、出力管のバイアス電圧は1本ずつ調整したいということから、出力管1本につき双3極管1ユニットを当てることにした。これで実験してみると、12AU7では、35Wくらいしか出力が得られず、目標の50Wにはほど遠いことがわかった。グリッド電流が流れることで波形が歪んでしまうのである。これを防ぐにはインピーダンスの低い強力なドライバー段を用意する必要がある。カソードフォロワーの内部インピーダンスはほぼGm(相互コンダクタンス)の逆数で与えられる。つまりGmの大きい球ほど、内部インピーダンスが低くなるのだ。Gmの高い球として12AT7もあるが、ここでは強力管5687を使ってみることにした。規格表によれば、12AU7のGmが2.2~3.1mA/Vなのに対して、12AT7は4.0~6.0mA/V、5687は5.4~11.5mA/Vである。電流を流すほどGmは大きくなるので、1ユニットあたり10mA流すこととした。この強力ドライバーにより、何と60Wの出力が取り出せるようになった。回路は以下の通りである。
2012.06.03
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