当然、業務出張なので全部会社持ちです。ピース!
飛行機はルフトハンザでした。離陸して水平飛行に移ると、すぐにドイツ人のスチュワーデスがやって来ました。何を言ってるのか全く聞き取れないでいると、彼女は日本人のスチュワーデスを連れて来ました。お食事は魚と肉のどちらにしますか、と日本語で訊かれて愕然としました。そんな簡単なことさえ聞き取れなかったのです。その時点で、出張の失敗を予感しました。連れて来たお客さんは、英語もドイツ語もできない人だったから、青ざめていたのは私だけではありません。
ドイツでは案の定、高価な機械がどうなっているのか、それを我が社でどうカスタマイズすれば良いのか、全然わかりませんでした。そういうことを把握するのが目的の出張だったのです。でも、そんな難しいこと、日本語でもわかなかったはずです。真っ青な我々を見た大きなドイツ人エンジニアは、我々よりガミラス星人みたいでしたが、色だけなら我々の方がガミラス星人みたいでした。
けれども、そんな顔色なんて真っ青なうちには入らなかったのです。連れて来たお客さんが、フリーの日にデパートでお土産に包丁を買ったのです。当時、ドイツ製の包丁はブランドでした。その包丁をリュックに挿して歩いていたところを警察に捕まったのです。
わーわーと大騒ぎしている彼の電話で呼び出されました。
彼の名は古いドイツの戦車のキャタピラの音みたいに「轟」でした。でも、そのときの彼の名前にはあと2つくらい車の字を加えても良いぐらいやかましかったので、親がきっと願ったに違いない、やかましい子になりますように、という思いは、十分にその気持ちを表す字がなくて、仕方なく「轟」にしたはずです。
急いで彼を警察に迎えに行くと、もう人間とは言えないぐらい青くなった彼が居ました。警察では、街中で刃物をリュックに挿して歩くのは非常識だ、と叱られました。うわさ通り、ドイツ人はまともなことしか言いません。でも彼は動顛して訳の分からない言い訳をしていました。黙らずに何かわからないことばかり喚いていていれば、危ない人に見えちゃうのも当然です。
結局、半日近い事情説明の末に釈放された彼は、あほんだらぁ、と捨て台詞を残しました。誰がアホウだったのか本当はわかっていたけど、お客さんには相槌を打つのが私です。ドイツの神様、ごめんなさい。
そんな苦難を共にすれば、たかが仕事ぐらい大したことありません。もっと他にもたくさん苦難があったものの、書けない事情があって書けません。
ともあれ帰国すると、彼は我が社による日本仕様へのカスタマイズが必須であることを社内で説き伏せてくれました。そりゃあれだけやかましければ、ドイツの警官でない限り、誰でも彼の言うことを聞いてくれるでしょう。おかげで、私はその仕事の受注に成功したのでした。
再びピース!
以上
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