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2018年06月13日

『物語を忘れた外国語』中〈六月〉十二日






 語学の学習の仕方について、さまざまな提言というか、ヒントになるようなことをあちこちで書かれている師であるけれども、この『物語を忘れた外国語』では、語学の勉強の一環として本、特に小説を読むことを推奨している。この考えには、心の底から賛成するし、自分でも外国語を学ぶモチベーションの一つにしていたことがある。
 語学の授業で、文法的な正しさと、文法事項が現れるというだけの理由で選ばれた無味乾燥の文章を読まされるのには辟易していたし、小説好き、物語好きとしては、多少難しくてもいいし、習っていない文法事項が出てきてもいいから、読んで楽しめる文章を読ませてもらえないかと思ってもいた。
 以前血迷って個人的に英語の復習をしようと考えたときに、好きな小説を読もうと丸善まで出かけたことがある。そこで見つけた当時熱心に翻訳を読みふけっていたとある小説を購入した。引き返せなくなるように、続き物だったこともあって全巻取り寄せるなんてことまでしてしまった。

 それなのに、それなのに、読めなかったのである。読めなかったのは自分の英語力のなさが一番の問題だったのかもしれないけれども、ストーリーは頭の中に入っているし、何度も読み返した本なので、細部まで思い起こすこともできた。英語の文章を読みながら、これはあれのことかな、日本語では確かこうなっていたかななんてことを思い返すことはできていたのだが、読み続けることができなかった。
 これは何も英語だけの話ではなくて、今現在、当時の英語よりもはるかにできるようになっているチェコ語でも同じなのである。チェコ語で書かれた文章を読むこと自体に問題はない。新聞や週刊誌の記事なんかは、わからない言葉がいくつかあっても読み通して大体理解できていると思うし、わからない言葉が全体の理解に重要だと感じたときには、辞書を引いたりうちのに質問したりしている。

 だけど、一番読みたいはずの小説が読めないのである。これまで、あれこれチェコ語で小説を読むのに挑戦してきたけれども、読み通せたのは子供向けの『メリハルという名の靴』一冊きりである。もちろん、幼児向けのクルテクあたりは読めたけど、あれを読書とは言いたくない。同じ子供向けでも『俺たち五人組』は早々に挫折したし、テレビドラマの「チェトニツェー・フモレスキ」の原作みたいなのも、ノベライズも読み通せなかった。
 これでは、浪漫主義言語学に続いて、師の弟子を名乗るわけにはいけないではないか。名乗れはしても、不肖の弟子にしかなれない。何年先になるかはわからないけど、次に日本に帰る機会があったら、本を贈ってくれた知人にお願いをして師に会わせてもらって、師匠とかお師匠様と呼ぶ許可をもらおうと思っていたのに、このままでは不肖すぎて師匠と呼べない。

 では何がいけないのだろうと、あれこれ考えて思い至ったのが、自分の読書のしかたである。速読のやり方を学んだわけではないが、特に小説、面白い小説を読むときにはスピードが大切なのである。一回目の読書では細かいところはあまり気にせず、どんどん先に読んでいく。やめられない止まらない状態になるのが小説の醍醐味なのである。その結果、面白いとなれば、即座に二回目の読書に入り、今度はあまり気にせずに読んでいた細部を意識しながら読み進める。二回目なので細かいところまで意識してもスピードは落ちない。
 外国語の読書で問題なのがこのスピード感、やめられない感で、わからない単語を無視するにしてもスピードが上がらないのである。2、3ページ読んだぐらいで、あまりの話の進まなさに本を放り出してしまう。そして、次に途中から読み始めるということもできない。日本語だと文字を一字一字追いかけていくのではなく、目の中に入ってくる塊を一度に理解できるけれども、チェコ語の場合でもそれは不可能で一語一語、場合によっては一文字一文字読んでいかないと理解できない。これが、チェコでの読書がスピードが上がらず、まどろっこしく感じてしまう理由である。

 そう言えば以前、外国語からの翻訳小説が苦手だったのも、人名が覚えられなくて、いちいち前に戻って確認する必要があったからだったなあ。ロシア文学なんていまだにそれで読む気になれないし。トルストイもドストエフスキーも途中で挫折してしまって、ロシア文学で最後まで読み通せたのは、レルモントフの『現代の英雄』しかない。うーん、やっぱり不肖の弟子である。不肖を返上するためにも、チェコ語の小説、できれば歴史小説を読み上げるのを目標にしようか。一生の目標になりそうである。
2018年6月12日22時55分。












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