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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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2022年10月29日

【短編小説】『いま、人格代わるね。』3 -最終話-

【MMD】Novel Jinkaku SamuneSmall1.png

【第2話:救済願望の沼】 からの続き

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<登場人物>
空木 零依(うつき れい)
 ♂主人公、29歳の会社員
 目標も趣味もなく孤独に生きていたが、
 光空(るあ)との出逢いから壮絶な運命に巻き込まれる

無垢品 光空(むくしな るあ)
 ♀22歳、主人公に好意を抱き近づくが、
 実は彼女の中に複数の”別人”がいて…?

※光空(るあ)のメイン人格※
1. レオ  ⇒関西弁の明るい青年、もっとも出番が多い
2. セイヤ ⇒好戦的で暴力的
3. サキ  ⇒非常に色欲の強い、派手好きなお姉さん
4. クレハ ⇒もの静かで優しい淑女
5.   ⇒本人曰く「もう1人メインがいる」らしいが…?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第3話:実体のない”カノジョ”】



光空の人格交代の真実を知ってから、
1年が過ぎた。

少し落ち着いてきたようで、
光空が倒れる頻度が減ってきた。

僕が消耗した後は、
レオやクレハが心のケアをしてくれた。

小さなケンカは何度もあったが、
そのたびに僕の心はこう語りかけてきた。

「彼女の苦しみに比べたら…。」

それは呪いの言葉。

自分にウソをつき、
恋人のすれ違いから目をそらすための。


ーー


そんなある日、
些細なことで光空と意見が食い違った。

僕は今回も穏便に済ませたかったが、
タイミングを逸してしまった。

彼女はいつもの”人格交代の交渉”を始めた。
怒りに任せたときは、交渉がとてもスピーディーだ。

零依
「やってしまった…。」
「凶暴なセイヤが出てくる…!」




だが、光空は冷静だった。
押し黙ったかと思うと、キッチンへ向かった。

そして、
引き出しからおもむろに包丁を取り出し、
自分の首筋に当てた。


零依
「やめなさい!!」


僕は彼女から包丁を取り上げた。
刹那、あの感覚が僕の背筋を通り抜けた。

なぜか、わかるんだ。
”彼女の人格が交代した感覚”だけは。



(?)
『返してよ!私はもう死ぬの!』


零依
「返さない!命を粗末にするな!」


セイヤかと思ったが、
僕が会ったことのない人格だった。

5人目のメイン人格・ エレナ だ。

光空の両腕の傷跡は、
ほとんどがエレナが刻んだもの。

エレナは、
光空の自己否定と自傷行為を
一手に引き受けてきたのだ。




エレナは包丁を取り返そうと、
僕へ飛びかかってきた。

僕はとっさに包丁を後方へ投げ、
エレナを受け止めた。

(エレナ)
『切るの!切らせてよ!もう死にたい!』


零依
「そんなことはさせないよ!」


(エレナ)
『どうしてよ!』
『私を愛していないんでしょ?!』
『だからあんなことが言えるんでしょ?!』


エレナは再び、
キッチンの引き出しに手を伸ばした。

刃物に近づけたら、
もう本当にやってしまいそうだった。

(エレナ)
『私を見捨てるなら…!』
『あなたを殺して私も死んでやる!』


零依
「命を人質にして脅すのは止めろ!!!」


…そう叫んだ瞬間、僕は我に返った。
そして全身から血の気が引いていった。

この言葉はかつて、
僕自身がもっとも傷ついた言葉。
もう絶縁した両親から投げつけられた言葉。



エレナは、その場にうずくまって泣き始めた。
凍りついた僕の背中に、罪悪感がほとばしった。

僕はエレナをなだめるより先に、
家中の刃物という刃物を処分した。


次の日から、
まな板は”キッチンのオブジェ”になった。



ーーーーー



産業医
『ドクターストップです。』
『もう出社してはいけません。』


エレナと出会ってから1年後。
僕は勤務先の産業医からこう言われた。

僕は心身の限界を超え、会社を退職した。
産業医の診断書には”うつ病”と書かれていた。

僕は療養のため、自宅にいる時間が増えた。

光空はたまにアルバイトをしていたが、
精神の不安定さから長続きしなかった。

だから、
僕が回復するまで蓄えと失業保険でしのぐ。
光空もそれで納得した。

はずだったが……。



(光空)
『もう別れましょう…。』


ある日、
光空は目に涙をためながら言った。

零依
「…え…?」


(光空)
『私たち、一緒に居てもお互いのためにならないと思う。』
『零依は収入がないし、私もバイト辞めて生活が不安なの。』


零依
(ちょっと待ってくれ、それはあまりにも…。)


などと抗議する気力は、もう残っていなかった。

零依
「せめて話をさせてほしい。」
「レオかクレハに代わってもらえないかな…?」


(光空)
『あの2人?もう居ないよ。』


零依
「もう居ない…?」


(光空)
『ええ。小言がうるさかったから…。』



『黙 っ て も ら っ た の』




…包丁についた血痕を舐めるようなしぐさ。
…冷たく鋭い眼光。

光空はついに誰かを手にかけてしまった。
彼女の中にいた2人の人格を。


今の光空は本体なのか?
それともエレナに交代していたのか?

もはや僕には、それすらわからなかった。


ーー


(光空)
『明日、パパとママが来るの。』
『私の分の家具と日用品を取りにくるから。』


翌日、光空の両親を名乗る夫婦が訪ねてきた。

長身で若々しい美男美女。
シンプルなブランド品に身を包み、
一見”裕福そう”だった。

2人は慣れた引っ越し業者のように、
娘の私物を車へ積み込んでいった。

モノがなくなった部屋で、
光空の父親は笑顔で僕にこう言った。

光空の父親
『じゃ、元気でな!兄ちゃん!』


遠ざかる車の窓から、光空が手を振っていた。
僕はただ、呆然と立ち尽くした。

9月の青空が、少しだけ目に沁みた。



ーーーーー



僕は空っぽの部屋の真ん中に寝転がった。

どうして、こんなになるまで…。

いや、どうして僕は光空と別れなかったのか。
身を削って光空に”しがみついた”のか。

その答えはすぐに見つかった。
僕は”帰る場所”を求めて彷徨っていたからだ。



「命を人質にして脅すのはやめろ!」

僕の両親にとって、僕はエレナだった。

親からの愛情がほしい、関心を向けてほしい。
寂しい、寂しい、寂しい。孤独。

そんなものが絡まり合った末に、
僕は自分の腕を傷つけてきた。

そして、両親に同じセリフを言わせた。

あたたかい家族を夢見た僕は、
正反対の”絶縁”という結末を迎えた。




僕にとって光空との交際は、
親からもらえなかった愛情をもらう”再挑戦”だった。

そして光空もまた、
”親の操り人形”から逃れたかった。

そこにあったのは、恋愛感情ではなかった。

”親代わりがほしい” という無意識の願いが、
イビツに惹かれ合っただけ。



ーーーーー



人間は多くの仮面
「≒ペルソナ」をつけて生きている。


 家族思いの私
 明るく楽しい友人の私
 仕事ができる社員の私

誰もが多かれ少なかれ多重人格だ。

僕は、光空のいくつものペルソナに出会ったが、
「本当のルア」に出会ったことがあったのか?

レオ、セイヤ、サキ、クレハ、エレナ…。

そして本体すら、
彼氏用に作られたペルソナの1つだったのか?

カノジョの実体は、
いったいどこにあったんだろうか?



これは全くの偶然だが、

Rua(ルア)とは、とある国の言葉で 「虚無」




ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』 全6話

【短編小説】『黒い羊と無菌狂』 全2話


⇒この小説のPV



⇒参考書籍








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