全13件 (13件中 1-13件目)
1
2021年9月刊明日出版・アスブックス著者:佐倉紫さん身体が丈夫で多産の家系ゆえに、結婚を申し込まれた子爵令嬢のレイチェル。子作りするべく夫ミゲルの寝室を訪れるが……?身体が丈夫で多産の家系であることを理由に、若き公爵ミゲルから結婚を申し込まれた子爵令嬢レイチェル。貧乏な実家に資金援助してもらった恩を返すべく、期待されたとおり子作りに励もうとするも、突如寝室を訪れた彼女にミゲルは激しく動揺する。実は彼は対人コミュニケーションが苦手で、新妻にどう接すればいいのか悩んでいた。普通の会話すら難しい二人。果たしてこの調子で、子作りはいつになるのやら……カタブツ公爵とポジティブ令嬢の新婚ドタバタラブ! ↑公式サイトより、あらすじ引用登場人物 レイチェル=ヒロイン。貧乏子爵家の長女だが、公爵に見初められて結婚した。 何事にも一生懸命な性格なため、実家に毎月多額の援助をしてもら っているからには妻としての役目を果たさねばと、結婚式後も一向 に同衾しない夫にしびれを切らして夜這いを掛ける。 ミゲル=ヒーロー。レイチェルの夫でフィングラム公爵家当主。 レイチェルに一目惚れして求婚し、無事に式を挙げたまでは良かっ たが、重度のコミュ障なこともあり、当初はレイチェルと会話する のもままならなかった。 トマス=代々フィングラム家に仕える老執事。 先代の度を過ぎた教育により、極度の緊張感に襲われて人付き合い が出来ないミゲルを心配していた。この度無事に妻を迎えて一安心 していた所、新たな問題が持ち上がり夫妻にあれこれとアドバイス している。 ミア=ミゲルの従姉妹でシュトベリエ侯爵令嬢。 レイチェルの人柄を気に入り、彼女との結婚で従兄弟のコミュ障も 多少はマシになったことを喜んでいた。だが、自分の失言のせいで 二人に離縁の危機が訪れたこともあって、詫びも兼ねて根回しに動 いた。シュトベリエ侯爵夫人 =ミゲルの伯母でミアの母。親戚の了承も得ず結婚した甥に腹を立て 舞踏会の名目で夫妻を呼び出した。ミアからレイチェルの噂話を聞 き、公爵夫人に相応しくないと二人を離縁させるよう、国王に直訴 する。初見のレーベルさんです。62ページという短編ながら、やはりこの作家さんのお話は外さない。購入できるのは今のところamazonでしかないみたいで、kindle unlimited会員向けの読み放題対象にもなっています。(表紙イラストがいつもより大きいのは、楽天ブックスで取り扱いされていないからです)貧乏子沢山の子爵家の長女・レイチェルは、フィングラム公爵に見初められ輿入れするも、よくよく自分が選ばれた理由を聞くと「身体が丈夫だから」、加えて多産家系の女と言うのも決め手だったらしい。だが、結婚するにあたり、子爵家に毎月かなりの額の援助を約束してくれたこともあって、レイチェルはこの話に飛びついた。実は、とある噂のせいで彼女には碌な縁談が無いだろうと母にも諦められていたくらいだ、理由は何であれ求められている跡継ぎを産むべく頑張らねばと意気込んでいた。とにかくポジティブシンキングなヒロインですが、ヒーローのミゲルは跡継ぎが欲しいから彼女と結婚したのではなく、レイチェルに一目惚れしたから。でも、執事のトマスが心配する程に重度なコミュ障の彼は、当の本人を前にするとまともに喋ることも出来ない。そんな二人が同衾するなど以ての外。トマスが見かねて、毎夜肩透かしを食っているレイチェルに夜這いを提案するも、敢無く失敗。ならば、お互いお喋りの時間を設けて、先ずはミゲルにレイチェルに慣れるよう進言。この作戦は功を奏し、一週間もしないうちに二人で腕を組んで庭の散策もできるようになっていたが、ある日、ミゲルの伯母であるシュトベリエ侯爵夫人から舞踏会の招待状が届き、夫婦同伴で出席することに。だが、元々二人の結婚に思う所があった夫人は娘のミアから、レイチェルが春先に起こした木登り事件を聞き、そんな女が公爵夫人などとんでもないと、早々に離縁するよう騒ぎ立て・・・。この木登り事件がミゲルがレイチェルを見初めた出来事なんですが、この夫人の怒りが後に国王一家を巻き込んでの騒動になります。とは言え、レイチェルが何故木に登ったのか、その理由のおかげで却って国王夫妻に二人の結婚は祝福されます。ミアが余計な一言を言わなければ起きなかった騒動ですが、悪意を持っての失言ではなかっただけに二人が離縁しないで済むよう根回しを買って出たのも彼女でした。この一件から二カ月後、漸く夫婦の営みを成功させて、お終い。ページ数のおかげか、割と展開の予想も付く構成とストーリーだったんですけど、シンプルながらキャラ同士の会話がテンポ良くて面白い。そして、主人公カップルがまた良いバランスなんですよ。この作家さんは、ヘタレなヒーローを描かせたらピカイチかもしれない。その分ヒロインが逞しくポジティブで好感の持てる子でした。あのラストの様子だと早々に跡継ぎを授かりそう。評価:★★★★★面白いのでおススメです。
2022.05.31
コメント(0)
2021年9月刊プランタン出版・e-ティアラ著者:川奈あめさん乙女ゲームの世界に転生したら、悪役令嬢と一緒に破滅するモブキャラだった! 巻き込まれたくない一心で『お嬢さま』をフォローしながら細々と生活してきたエマは、ゲームイベントで王太子カイルに気に入られて!? 「愛し尽くして、俺なしではいられない体にしてやる」強烈な色香を放つ彼に囚われ、熱いキスや愛撫で下腹部がぐしゃぐしゃになるくらい愛されながら、狂おしいほどの快楽に堕ちていき……。 ↑楽天ブックスより、あらすじ引用ピッコマの<待てば\0>にて読了。読み終わるまで結構日数かかりました(苦笑)この1巻分なら最後まで無料で読めます。(但し、前述の通り日数かかっても良い人前提の方法ですが)とある乙女ゲームの悪役令嬢の召使いに転生したヒロイン。このままでは自分もとばっちりを食うのではと懸念して、幼少時からお嬢様を真っ当な人間にすべく奮闘します。努力の甲斐あって悪役令嬢どころか心優しいお嬢様に育ったけれど、破滅エンドフラグはあちこちにある。あの手この手で回避しては来たが、高等学校に入学するとついにメイン攻略キャラである王太子(ヒーロー)に出会います。ゲームでの彼はお嬢様に惚れられるも、このままなら主人公と恋に落ちるはず。なのに、当のお嬢様はまるで王太子に興味がなく、彼もまた主人公キャラに無関心で何故かモブキャラなはずのヒロインに興味を持ち始めます。どうやら、お嬢様を真人間に育てたおかげでゲームの展開&主人公が変わったらしく・・・。流行りの悪役令嬢ものかと思いきや、そのお付きの召使いがヒロインと言う割と珍しいお話です。まだ2巻目は読めてないので最後はどうなるか不明なれど、1巻のラストでは王太子妃にとヒーローに望まれます。ので、2巻のラストは結婚して終わりじゃないかな。身分差はどうとでもやりようがあるとか言ってたし。一応、この1巻で終了でも問題ない終わり方してます。あらすじでは思い切り官能的な関係っぽく書かれているものの、ラブシーン自体はそこまで多くありません。寧ろ、どうしてこんなあらすじにした(苦笑)評価:★★★★☆内容自体は満点。それにしても何で現代の日本の女子高生みたいな制服なんだろ。表紙絵だけ見るとヤンキーと女子高生みたいな図なので、そこだけ惜しい気が。あとこのページ数にしては若干お高めの設定だと思います。
2022.04.10
コメント(0)
2019年4月刊アマゾナイトノベルス著者:金林美結さんコピー用紙や文房具を調達した台車をゴロゴロ押していたはずなのに…。転んで起きた先は、西洋風の異世界だった!!携帯も圏外だが、とりあえず散らばった荷物を台車に積み直すのは主人公の田口 直美。日本語以外の言語もわかるチート発生。お金も知り合いも伝手もないこの世界で、一緒に転がりこんだコピー用紙と文房具をフル活用して特技である絵を描くと勝手に有名画家ってことになってしまった!恵まれていたとは言い難い人生を送っていた彼女が、画家として活躍する中で異世界でたくさんの人の優しさに触れ…。 ↑楽天ブックスより、あらすじ引用kindleにて購入。異世界転移ものです。TL小説と言うより、ジャンルとしては女性向けのファンタジー小説に近いかも。勤め先のお局様の嫌がらせで大量のコピー用紙と文房具を調達しに行っていたヒロインが異世界転移してそこで画家として生きていくと言うお話。ヒロインがとにかくポジティブで好印象。何故か言葉も通じるし、元の世界に戻れないならここで生きていく方法を探そうと思案した結果、スキルを活かして似顔絵屋を始めることに。最初は世話になっている宿屋の食堂で、じわじわとお得意さんを増やしていくんですが、評判が巡り巡ってヒロインが転移した国の王太子一家の肖像画まで依頼されたりします。そして、その時依頼に来た騎士団長であるヒーローと出会い、少々トラブルに遭いながらも徐々に関係が発展して行き、同棲生活後に結婚。ひったくりやスリが横行してたり、まるっきり長閑な生活ではないけれど世知辛い現代日本よりずっと生き生きと異世界ライフを送っている様が良いのです。評価:★★★★ビーンズ文庫とかお好きな方は楽しめるかと。
2022.04.02
コメント(0)
2020年6月刊天海社・DAIANA文庫著者:佐倉紫さん伯爵家の愛人の子として別邸で母と静かに暮らすはずだったミランダ。正妻からの苛めはエスカレートしていき、母の死後はとうとう修道院に追いやられてしまった。修道院でも院長や修道女からは奴隷のような扱いを受けるうちに、感情を表に出さない娘になる。修道女としての最後の試練は俗世への未練を断ち切ること。そのため、一時期元の生活に戻るという修行を迎え、五年ぶりに修道院の門をくぐるのだった。行くあてがあるわけでもないミランダを出迎えたのは、見知らぬ美丈夫の抱擁。「おまえは五年前の約束通り、責任を取っておれと結婚するんだ」と言われる。身に覚えのない言葉に驚くミランダだが、ヴィクターと名乗るこの青年は問答無用でミランダを自邸に連れていき、気前よくドレスや風呂、豪華な食事を振る舞うのだった。この人はいったい誰? なぜわたしのことを知っているの? ↑楽天ブックスより、あらすじ引用kindle unlimited会員向けの読み放題にて読了。不遇ヒロインのシンデレラストーリーです。ここからネタバレと感想。ミランダは所謂私生児である。父はフィーチェイス伯爵家の当主で母は邸で働いていたメイドであった。母が身籠ったことを機に父は別邸を用意して住まわせていたのだが、本妻のエリザにしてみれば許しがたいことだ。エリザはミランダを産んだばかりの母を苛め抜き、その心労がたたって母は病を患い亡くなった。残されたミランダは父がつけてくれた乳母のサマンサの手によりすくすくと育ったが、エリザの嫌がらせは止まることを知らず、十二歳になった彼女は修道院に入れられることとなったのだ。エリザの実家は侯爵家で、父が事業を起こした際に資金を援助してもらった手前、妻に頭が上がらなかった。手助けしたくても出来なかったのは判るが、ミランダの修道院での暮らしは酷いものだった。貴族令嬢の行儀見習いの場も兼ねているせいで、彼女達にさせるわけにはいかないのか雑役の類は私生児だと言う理由でミランダに回って来た。挙句虐めや暴力など日常茶飯事で食事すら抜かれる日々。しかも、サマンサが面会の際に差し入れてくれた日用品は全て院長たちに取り上げられていた。こんな劣悪な環境下でよくもまあ今まで無事に生きて来れたものである。あれから五年が経ち、漸く修道女見習いの期間を終えたミランダには最後の試練が課せられる。半年間俗世で暮らしてそのまま還俗するか、院に戻って正式な修道女になるか決めなければならない。だが、一応ミランダの実家はフィーチェイス伯爵家であるため、エリザが幅を利かせている以上彼女が受け入れられることは無いだろう。行く当てもなく、ひと月もしないまま戻ってくるに違いないと院長に意地の悪い笑みで言われたが、悔しいかな本当にそうなりそうで気が重い。だが、院の門を開けるなり大声でフルネームで呼ばれたミランダは「待ちくたびれた」ときつく抱きしめられたのだった。彼はヴィクターと名乗り、彼女が修道院入りする前に結婚の約束をしたので迎えに来たのだと言う。とんと覚えのないミランダは半信半疑であったが、馬車に乗せられてやって来た屋敷にはサマンサが待っていた。道中新手の人攫いかとヴィクターを疑っていたミランダは心中で反省し、サマンサとの再会を喜んだ。邸には大勢の使用人がおり、その至れり尽くせりな対応に一生分の贅沢を味わった気分である。特に彼女のためにと用意されたハーブ園は何よりもうれしい贈り物だった。伯爵家の別邸で暮らしていた際はハーブに詳しいサマンサに習い、薬やポプリを作っては売って生活費の足しにしていたものだ。エリザに父からの生活費まで着服されていたからであるが、おかげで今となってはハーブはミランダの唯一の趣味になった。サマンサの話によれば、二年前にエリザによって伯爵家から解雇されたらしく、新たな職を探していた彼女の前に現れたヴィクターがこの邸でミランダが出てくるのを待つよう言われたのだそうだ。彼の話に、一も二も無く飛びついたサマンサは当然ヴィクターが何者か知っているが、それはミランダが自分で彼に聞くべきことだといくら頼んでも教えてくれなかった。どうやら、この贅沢な邸すら本宅ではなく別邸と聞いているし、相当な金持ちには違いない。おそらく高位貴族の子息ではないかと踏んでいるのだが・・・。業を煮やして思い切って尋ねたミランダに、彼は身分に囚われずに自分を見てほしいと言うだけで、今のところは明かす気は無い様だ。この邸で世話になってひと月ほど経ち、ここでの暮らしにも慣れて来た。ヴィクターは度々ミランダに結婚する気になったかと尋ねて来たけれど、先ずその約束自体記憶にない彼女は答えに困っていた。彼に惹かれ始めているのは間違いないのだけれど、今一つ決心がつかないのは今までの彼女の身の上にも起因していた。幼いころからエリザに卑下され、自分がいかに産まれてきてはいけない人間だったのかと言われ続けていれば素直に幸せについて考えられないのは致し方ないことだ。それでも、最近はヴィクターの姿が見えないと落ち着かないし食事も美味しく感じないくらいには彼に依存しているのは判る。そんな彼女に彼はあるヒントをくれた。そして、それをきっかけにミランダは二人の出会いと約束を思い出したのだった。五年前、修道院入りする前夜のこと、ラベンダーの軟膏を大量に作って町で売った所結構な金額になった。これでせめて美味しい物でも食べようとサマンサと帰路に就くと、河辺から子供らしいうめき声が聞こえる。見ると丸々肥え太った少年が太ももをざっくり切ってしまったようで動けずにいた。ミランダは放って置けずにサマンサに人を呼んでくるよう頼むと自分は少年の手当をした。下履きまで脱がせたことで少年の下半身を見てしまった彼女はしきりに無礼者と詰られたが気にせず応急処置を施し、サマンサに呼ばれた馬車で少年を家まで送らせた。別れ際に少年は礼を言うでもなく、自分の下半身を見た以上責任を取って結婚しろと喚いていたっけ。待てよ、結婚?まさかと思いあの時の少年かと尋ねるとヴィクターは肯定したが、あの肥満児が五年でこれほど変わっていれば気付かないのは当然である。彼は当時、出来の良い兄と比較され両親に厳しく躾けられたことに反発心が芽生え敢えて叱られるようなことばかりしていた。すっかり暴君になってしまったヴィクターは、何人もの家庭教師が匙を投げる程であった。当然父は厳しく諫めたが、お互いの為にも暫く家族と顔を合わせない方が良いと判断。彼を郊外の別邸へ送ったのだが、事の他それはヴィクターも堪えたようでストレスで生活も荒れて果てに過食に走り肥え太ってしまったと言う。その日は気晴らしに遠乗りに出掛けたはいいが、馬をぞんざいに扱って振り落とされた挙句怪我を負いそこをミランダに助けられたのが二人の出会いのあらましだ。治療の際、修道院に行きたくないと溢していた彼女が忘れられず気になって仕方なかった。結婚の約束もしてるし、俗世に出て来た彼女が見直すような男になろうと決心したヴィクターは努力を続け、ダイエットにも成功した。合わせて勉強や武術の鍛錬も人一倍打ち込み結果一年も経たないうちに父にも認められるまでになったのだ。その後、サマンサにコンタクトを取りミランダの身の上を知ると伯爵の説得に出向いた。取り敢えず結婚の約束は伏せて居場所のない彼女を引き取りたいと。話を聞き、彼はこれほどまでに自分を想ってくれていたのだと思うとミランダは胸が熱くなった。ヴィクターの家族は暴君だった彼を更生させるきっかけになった人物として彼女との結婚を歓迎しているそうだ。いずれ彼らとも会って欲しいと言われ、彼女は頷くのだった。それからしばらく経ち、観劇に出掛けたミランダはヴィクターと離れている隙に新聞記者に囲まれて騒動になりかけたが、その際一人の令嬢を巻き込んだことでミランダが記者にキレて激昂したことが記事になってしまった。しかも、その記事を携えてヴィクターの邸にエリザが乗り込んで来た。彼女の持つ記事の見出しは「第二王子の結婚は間近」というもので、ミランダは薄々思い始めていた予想が当たっていたことを知った。だが、エリザは私生児が王子妃になることが業腹らしく、ミランダに罵詈雑言を浴びせかけたが、今の自分はもう昔とは違うのだ流石にもう言われっぱなしではいられない。正論を言い返してきたミランダに激昂して殴りつけようとしたエリザを止めたのはヴィクターだった。彼は、未来の王子妃への無礼は問題にさせてもらうと告げると、エリザのこれまでの悪行も公表すると宣言した。彼女は修道院に送られるべき伯爵からの寄付金を着服しており、院長に手を回してミランダを虐待させるよう仕向けていたのだった。元々あの修道院自体きな臭い所で、内偵も進みいずれ監査が入るらしく、もっと公になることはあるだろう。一先ず、ヴィクターはエリザの王宮への出入りを固く禁じた。その数日後、ミランダはヴィクターの家族、すなわち王家の方々と顔合わせを果たしていた。私生児と言うことで王子妃に相応しくないと悩んでいた彼女のために、王妃の親戚が養子縁組をしてくれると言う。気にせず自分たちの家族になってくれと告げる国王にミランダは漸くヴィクターとの結婚を受け入れる決心がついた。父であるフィーチェイス伯爵はエリザの非道ぶりに気付いてなかったらしく、真実を知って大層ショックを受けたのだそうだ。勤めていた議員を辞職するほどに責任を感じていたという父は、息子の親権を勝ち取りエリザとは離縁した。事業の才能がある伯爵を遊ばせておくのは惜しいと王太子が財務相談役として徴用してくれたと聞く。これからはまだ幼い息子を立派に育てていくと言う父に、内心色々誤解していたミランダは影ながら力になりたいと考えていた。王子妃としての教育が始まりはしたものの、自分は貴婦人としての教育もほとんど受けていないのでヴィクターとの結婚は数年先になりそうだ。修道院はトップ連中が全て挿げ替えられて随分と良い環境になったと聞く。ミランダは趣味と実益を兼ねてサマンサとハーブ事業を始めたいらしく、売り上げを慈善事業にあてたいのだと二人は将来のことについて楽しく話し合うのだった。本妻の性格の悪さが強烈なお話でした。旦那さんの立場が弱く手出しできないのかと思いきや、何のことは無く当の旦那には愛人の子ともうまくやっていると報告してたそうで、修道院行きも行儀見習いと称してたらしい。そりゃ、お父さんも事実を知った時はショックだったろうな。いい人そうなだけに連帯責任を問われた時は気の毒だったけど、これを機に離縁出来たのは良かったのかも。取り敢えず、本妻と修道院の院長たちはちゃんと罰されたようです。ヒロインは不憫すぎる半生でしたが、国王一家が出来た性格の人達なだけに嫁に行っても仲良くやれそう。王太子がいるからヒーローは王位を継がない立場ってのも多少は気楽かもしれない。評価:★★★★この作家さんのお話はやっぱり面白いです。
2022.03.14
コメント(0)
2020年9月刊天海社・DIANA文庫著者:なかゆんきなこさん「疫病で両親を失い、天涯孤独となったリリー。生きていくために牧場を手放し、思い出のつまった村を離れて働く決意をするそばからエヴァレット伯爵家令嬢の忘れ形見だったことが判明。政略結婚の駒として祖父伯爵に呼び戻されたリリーは、わずか一ヶ月で礼儀作法と教養を叩き込まれ、“血まみれ将軍”“首狩り将軍”の異名をとる侯爵シルヴェスターにめあわされることに。噂以上の顰め面とあまりにも鋭い眼光に委縮してしまうリリーだったが、シルヴェスターから結婚相手が自分で本当にいいのかと念押しされ、相手を慮る態度に縁談を受け入れた。不安と緊張でいっぱいの挙式。永遠の愛を誓うキス。新婚生活がはじまり、リリーはシルヴェスターのやさしさひとつひとつに触れながら、少しずつ心を開き、穏やかな愛を育んでいく。ところが社交界でリリーは令嬢たちから歓迎されず……」↑楽天ブックスより、あらすじ文引用こちらも電子書籍販売オンリーのレーベルさんですね。kindle unlimited会員の読み放題対象作品のためそちらで読了。ピッコマでも公開されていて「待てば100」を利用すれば終盤近くまでなら無料で読めます。物語としては王道のシンデレラストーリーで、まあ有体に言うと、まんまタイトル通りのお話。ここからネタバレと感想。幸せな花嫁さんになるのが両親二人の願いで自分の夢だったヒロイン・リリーは、小さな農場兼牧場を営む両親と堅実ながら明るく幸せに暮らしていましたが、王国全土で蔓延した流行り病に罹り両親は共に儚くなってしまい、彼女一人が残されます。王都から遠く、医者も薬も届くのに時間がかかったために自分たちが住んでいる村では件の疫病で甚大な被害が出ていましたが村長始め、生き残った村人たちは何くれとなくリリーを気にかけ良くしてくれました。しかし、3人で何とか切り盛りしていた牧場と農場はリリー1人では立ち行かない、牧場を始める時に作った借金もあり、牛込みで全て売り払い借金返済に充てても全額には遠いため、自分は村を出て働くことを決心。幸い、母からもしもの時のためにと礼儀作法や読み書き、マナーなどみっちり仕込まれており、運が良ければ貴族の屋敷でメイドの仕事にでもありつけるかもしれない。そんなある日、家の前に立派な馬車が乗りつけられ、降りて来た紳士はエヴァレット伯爵家からの使いで執事のモーリスと名乗り、リリーを迎えに来たという。実はリリーの母シャロンはエヴァレット伯爵家の長女で、屋敷で働いていた父・デニスと恋に落ち二人は駆け落ち。伯爵は手を尽くして娘を探したものの見つからず、10年ほど経ち漸くこの村で暮らす二人を探し当てたが既にリリーが産まれており、最早引き離すことはできないと判断、母の弟夫婦からの説得もあって何とか伯爵に許され、以降定期的に伯爵家から様子見の使者が来ていたらしい。そんな実家との関係が続く中、シャロンは夫婦共々流行り病に罹り、たまたま定期連絡の様子見が来る時期と重なってすぐさま伯爵家に連絡が行ったが、急いで用意した医者と薬は間に合わなかった。そこで残された娘のリリーを伯爵家に迎え入れることになったらしく、後継の叔父夫婦は仲が良かった姉の忘れ形見であるリリーの到着を心待ちにしているとか。夫妻が残した借金も伯爵家が肩代わりしてくれるとの申し出もあったが一先ずその話は断り、両親が亡くなっても天涯孤独ではなかった事と祖父と叔父夫婦に会いたい気持ちもありリリーは伯爵家で世話になると決め、王都へ旅立ちます。が、期待を膨らませて初対面した祖父は気難しく頑固そうな男で、道中モーリスから聞いていた人物像とは随分印象が違って戸惑うも、自分を引き取った真の理由を聞かされ唖然。母・シャロンにはとある侯爵家長男の婚約者がおり結婚式の日取りも決まりかけていたが、兼ねてよりデニスと恋仲だった母は駆け落ちを決行。当然破談となり侯爵家は面目を潰されたと大層怒り、エヴァレット家は婚約破棄の違約金に加えてかなりの額の賠償金を支払うために領地もいくつか手放し、伯爵家は傾いた。長年、何とかエヴァレット家の再興を考えていた伯爵は、先の大戦での英雄であり、資産家でもあるラングフォード侯爵家の当主・シルヴェスターが結婚相手を探しているが、何とも血生臭い異名と強面のせいか中々相手が決まらないとの噂を聞きつけ、リリーの存在を思い出し伯爵家側から結婚話を持ち掛けた。婚姻が成れば多額の支度金と金銭援助が見込め、ラングフォード侯爵家の後ろ盾も付く。しかも、もしどうしても夫婦同士性格が合わないとなれば後継さえ産んでくれたなら、離縁にも応じる上、多額の慰謝料を支払い伯爵家との関係も解消しないと言う。よっぽど結婚相手に困ってるのか、かなりの好条件でとにかくこの結婚は何一つ伯爵に損は無いどころか得ばかり。シャロンが過去に背負わせた伯爵家の損害と迷惑をその娘のリリーが償えと言う何とも心無い命令でした。家の借金さえもままならないのに、いくつもの領地まで売って作った伯爵家の損害額など返せる当てのないリリーは泣く泣くその話を承諾。急ぎ伯爵令嬢としての教育が施されますが、母の教育の賜物で基礎はしっかりしていたおかげで予想よりも仕上がりは早かった。この伯爵の言動にかなりムカつきますが、家格が上の侯爵家に恥をかかせて伯爵家に多大な迷惑とかけた娘は可愛さ余って憎さ百倍と言った心境なんでしょう。ましてや娘を浚って行ったデニスには憎しみと怒りの念しかないようで、父にも似ているリリーにもいい印象を持っていない様子。幸いあの後対面した叔父夫婦が姪のリリーにも良くしてくれて、実は様子見の者を寄越していたのも、医者と薬を届けようと動いてくれてたのも叔父でした。こんな話断ってもいいんだと言ってくれたけど、その後被るであろう叔父たちへの迷惑を考えればリリーの選択肢は一つ。祖父の言動からして違和感あると思っていたら、やはりリリー親子を見守ってくれてたのは叔父夫婦と分かり余計に迷惑はかけられませんよね。そして初顔合わせの日、伯爵邸にやって来たシルヴェスターは何とも眼光鋭い青年で、さすがは「首狩り将軍」の異名に相応しい強面でした。窓から眺めていたリリーは視線に気づいたシルヴェスターに睨まれ萎縮してしまい、顔合わせの席は何とも気まずい雰囲気。しかし、彼は本当に自分が相手でいいのか?と念押しで何度も尋ね、リリーの気持ちを慮る姿勢を見せ顔に似合わず優しい人なのだなと感じた彼女は不安はあるものの承諾の意志を伝え、その後盛大な結婚式を挙げると二人は晴れて夫婦となりました。若くして侯爵夫人となり暮らし始めたラングフォード邸での生活は何とも快適で、使用人達は過去にシルヴェスターに拾われた者も多く、主人への忠義に厚い彼らは漸く来てくれた奥方に喜び気持ちよく尽くしてくれる。夫のシルヴェスターも表情は怖いけど、リリーを溺愛し、何かと慣れぬ贈り物をしては喜ばせようとしてくれて、政略結婚だったけどいつしか彼女も夫に対して愛情を持ち始めます。生活にも慣れた頃、避けて通れぬ社交の場に招かれることとなり、そこでリリーは貴族令嬢達に口さがない事を言われ傷付きます。そんな令嬢達を諫め彼女を助けてくれたのは「社交界の花」と呼ばれ、見るからに令嬢の中の令嬢な雰囲気のパトリシア・オルコット嬢でした。話し上手で夜会に慣れぬ自分に仲良くしようと言ってくれたパトリシアにリリーは憧れ、その後茶会にも何度か呼ばれ親交を交わしますが、ある日同席した令嬢から、パトリシアがシルヴェスターと元恋人同士で婚約目前だったが、彼女の父である侯爵に「首狩り将軍」に娘はやれないと泣く泣く引き裂かれたという経緯があったと聞きショックを受けるリリー。しかもパトリシアはまだ彼に未練があるようだ。その話を耳にして以降、何故かリリーの目につく所でパトリシアとシルヴェスターの不貞を示唆する出来事がいくつも起き、彼女の不安は増す一方。なのに、当のシルヴェスターは弁解もしない上に、リリーの外出を禁じるとまで言ってきた。積もり積もった怒りでリリーはキレて大喧嘩となり、実家に帰るとまで言い出して・・・。終盤近くまでこんな展開ですが、読んでて怪しいなぁと思ってた一連のシルヴェスターの不貞疑惑はパトリシアが仕組んだもので、彼とは付き合ってすらおらず、逆に「首狩り将軍」との結婚などごめんだと持ち上がった婚約話は彼女から断っていた。でも、よくよく考えてみれば20代で将軍まで登り詰めたシルヴェスターは侯爵家の当主でもありかなりの優良物件だった。逃した魚はあまりにも大きい。なのに正統な血筋でもない田舎娘がシルヴェスターの妻に収まるとは、と何とも自分勝手な嫉妬から二人を仲違いして離縁させ、その後に後妻に収まろうと企んでた性悪女でした。離縁にリリーが応じないならどこかに呼び出して浚い、駆け落ちでもしたことにして消してしまえとまで考えてたそうだから、いやはやどういう性格してんのよ。しかしそんな浅はかな目論見はあっさり見抜かれており、リリーに近づくパトリシアの行動に目を光らせていたシルヴェスターは証拠を掴むまで彼女を泳がせていましたが、パトリシアからの苛めに耐えかね辞職したオルコット侯爵家の元メイドから作戦の全容を聞くや、さすがにリリーの殺害は最後の手段だろうがそこまでパトリシアが視野に入れてるなら急ぐ必要がある。不安にさせないため口を噤んでいたことが逆効果となり、身の安全のために外出を禁じたらリリーにキレられたのが大喧嘩になったあらまし。悪いことはできないもので、シルヴェスターの意趣返しにより、パトリシアの本性とやらかしていた事が大勢の貴族たちの前で暴かれ、罪には問われずとも彼女はもう社交界では相手にされないだろうことは明白。今回の騒動を全く知らなかったパトリシアの父・オルコット侯爵が、分別ある人っぽそうなだけに少し気の毒でした(^_^;) 娘の恋路を邪魔した鬼父みたいな話まで捏造されてたしね。バカな娘のせいで・・・。作中の悪人と言えばこのパトリシアくらいのもので(悪人に該当しそうなエヴァレット伯爵は理由を思えばただの性格悪い頑固な爺さんなだけ)一連の騒動で夫婦関係に亀裂は入りかけたものの惚れた弱みか、割とすぐにシルヴェスターが折れて事情説明するので仲直りも早くじれじれ度も少な目です。この辺展開が早いのはページ数の都合かな。初対面時に睨まれたのは単にリリーが好みのドストライクでガン見してた所、目つきが鋭くなっていたというオチ。はいはいバカップルw何だかんだと可愛らしい夫婦のお話でした。評価:★★★★展開も早いしTL小説を読みなれない方にも読みやすいかと。話も面白いのでおススメです。絵柄のせいか、表紙&挿絵イラスト見るにヒーローの外見は強面というよりただ目つきの悪いハンサムにしか見えない(笑)
2022.01.21
コメント(0)
2021年9月刊くるみ舎・こはく文庫著者:宮永レンさん「まもなく18歳になるロッティは、来月には孤児院を出なければならない。そのために仕事を探しているが、うまくいかない。そんな時、たまたま泥棒に遭った老紳士ヴォルフを助けると「うちに来るといい」と言われ、仕事が得られたと大喜び。だが翌日、彼女のもとにヴォルフの息子を名乗る端正な顔立ちの青年がやってきて、金目当てだろうと一方的決めつけ、いくばくかの硬貨を置いてあきらめるよう言い放つ。さらにその翌日には、別の者がロッティを迎えにくる。混乱するロッティ。そんな彼女は迎えの者から、ヴォルフ老人がリンジー伯爵であること、伯爵がロッティを養女にと望んでいること、そして息子のトレヴァーが反対していることを教えられて驚く。戸惑いながらリンジー伯爵家に向かうロッティを、温かく迎えてくれるヴォルフと、拒絶する嫡男のトレヴァー。そんなトレヴァーから、ロッティは伯爵令嬢としての社交マナーを学ぶことになるのだが……。」↑楽天ブックスより、あらすじ文引用昨日に引き続き、こはく文庫の作品です。こちらもamazon kindle unlimitedにて読み放題対象品となっており、私はそちらで読みました。大まかな内容としては、孤児院育ちの少女がひょんなことから伯爵家の養女となり、他人に厳しく自分にも厳しい義兄と恋に落ち幸せになるお話。貴族ものが続いてますけど、単に一時期ドハマりし大量に読んでたおかげで感想のストックがたんまりあるからです(苦笑)現代ものもそのうち合間に挟みますので。ここからネタバレと感想。じきに18歳の誕生日を迎えるヒロイン・ロッティは孤児院育ち。孤児院の規定で18歳になると独り立ちして出て行かねばならず、「衣食住」揃った職場を地元の町で探していました。が、顔馴染みで最後の希望だった宿屋の女将からも不景気から人は足りているとすまなそうに断られ途方に暮れるロッティ。ヒロインは孤児なため、住み込みに食事つきという仕事条件も判るんですが、「衣」までとなるとお仕着せがあれば尚良しってことかな。この国では18歳から成人とみなされ、同時に様々な事も解禁となるため出来る仕事内容も増える。孤児院はどこもカツカツで成人になった者達まで置いておけません、そこであの規定でした。優しい院長は子供たちが成人して旅立って行くたびにこの規定に胸を痛め、もうすぐ出て行くロッテイのことも心配していました。ロッティはそんな院長のいる孤児院があるこの町に愛着があり離れがたく思っているけれど、田舎であまり治安も良くなく貧しいここで住み込みの働き口を探すのは難しい。腹を決めて別のもう少し栄えた町に行くべきかと考えていたその時、背後で老人の騒ぐ声が聞こえ目をやると、どうやら持っていた高価そうなステッキを引ったくられたらしい。正義感が強く足の速さに覚えのあるロッティは犯人を追いかけ、勝手に転んだ犯人から無事ステッキを取り返し持ち主に渡しますが、改めて見るとステッキの頭部分には大粒の宝石が嵌めこまれており、老紳士は随分と身なりも良くおそらく貴族と思われた。ここは治安が悪い。こんな紳士が一人で歩いていたらさぞいいカモだったろうと、やんわり注意すると、感謝の言葉を述べる紳士は是非ロッティの両親にもお礼をしたいと言うと、孤児院育ちなので親はいない、話の流れからじきに孤児院を出る歳になるから職探しをしていることもつい話してしまいます。そしてそれが難航してることも。ロッティの事情を聴き、紳士は「なら、うちに来ないか?」と提案。仕事の斡旋かと喜ぶ彼女に紳士はライアン・モルダー・ヴォルフと名乗り、リンジー伯爵だと言う。リンジー領のことは噂で聞いたことしかないが、この町から離れることになっても伯爵家で働けるならありがたい。幸いにも紳士は院長の名前を知っており、あの孤児院の子なら申し分ないと言い、後日孤児院に迎えの馬車を寄越すからと告げ、紳士とは一旦別れます。荷造りしながら迎えの訪れを心待ちにするロッティ。数日後、銀髪の気難しそうだがやけに顔のいい青年が孤児院にやって来て、ロッテイに面会するとおもむろに金貨の入った袋を渡し、この話は無かったことにしてくれと無愛想に告げられます。せっかく見つかった仕事をあの紳士から取り消されたのならともかく別人に横柄に告げられた挙句、金をやるから文句を言うなばりの態度に頭にきたロッティは納得いかないと食い下がり、二人は一触即発なムードに。金も返そうとしたが、それを無視して話は終わったとばかりに立ち去る青年。この状況にまたもや途方に暮れるロッティ。院長に職が見つかったと喜ばせたばかりなのに、断られた事は黙っていなければまた心配させてしまう。まんじりともしないまま誕生日を迎えたロッティが取り敢えず貰った金貨でリンジー領に向かうことを決意していたら、そのリンジー伯爵家からの迎えの馬車が到着し、乗っていた従僕から先日の青年・トレヴァーが伯爵の長男であること、彼は父親がどこの馬の骨とも判らないロッティを養女にすることを大反対し、勝手に金で解決しに行ったのだと聞かされ、情報量の多さに唖然とするロッティ。先ず、仕事の斡旋ではなく「うちに来い」とは養女になれと言う意味だとは予想外だった。そりゃいきなり聞かされた息子は反対するよ。どちらにせよ今日で孤児院は出て行かねばならず、約束通り迎えが来た。かくて、ロッティはリンジー領へ旅立つこととなりました。父がメイドを雇った程度で遠路はるばる断りに来たトレヴァーって、と思っていたら、まさかの養女とは。伯爵も随分気に入ったんだなってことですが、財産目当てで人のいい父相手に一芝居打って近付き取り入ったのでは?と思われても仕方ない気はします。トレヴァーは彼女の為人を知りませんからね。言い合いにもなったから第一印象はお互い最悪でしたが、屋敷で再会した伯爵の話によれば、遅く出来た息子のトレヴァーは地方裁判所の判事を務めており、優秀だがお堅い性格で人付き合いと特に女性が嫌いらしく、いい歳になっても結婚する気が更々ないことに憂いてました。そして伯爵はずっと女の子が欲しかったから、正義感が強く優しいロッティを一目で気に入り養女に迎えたのだとも。会話の途中で仕事から帰宅したトレヴァーと再会しますが、案の定ロッティには冷たい態度。でも当主が決めてもはや覆ることは無いだろうし、彼女ももうここに来てしまった。これ以上反対しても仕方ないから諦めたが、その上引退して以降慈善事業に全財産をつぎ込みそうな父に頭を痛めていると、そんな息子の苦労も見ないふりして、伯爵はロッティに貴族令嬢として最低限必要なマナーと勉強の教師をしてやってくれとトレヴァーに頼みます。売り言葉に買い言葉でまんまと教師役を引き受けさせられたトレヴァーの、やるからには妥協せず徹底的な厳しい授業が始まり、ロッテイは生真面目ながらたまに不器用な優しさを見せる彼に次第に惹かれていき・・・。所謂義兄妹ものの恋愛ストーリーですが、見ての通りの関係のため背徳感はゼロ。ヒロインを養女に決めたのも彼女の性格もさることながら育てた院長の為人もあったようで、なぜ伯爵が孤児院に詳しいのかと思ったら慈善事業に力を入れてたからだと分かり、これも後にヒーロー&ヒロインの将来にも繋がっていきます。ページ数の兼ね合いか、途中でトレヴァーが捜査に携わっておりロッテイの友人も被害にあった結婚詐欺&連続女性誘拐事件も水面下で起こっていて、二人の恋を挟みながら話はさくさく展開していきます。お堅いトレヴァーがロッテイに落ちるのも早かったwロッテイが事件に巻き込まれ、無事保護された時に勢いで告白、そのまま一線越えかけたものの、トレヴァーもあの時はよく我慢したなぁと感心しました。事件後、リンジー伯爵にロッティとの養子縁組を解消してもらい、兄妹の関係でなくなってから式を挙げることにことになるのですが、余計なトラブル回避のためか法律で養子縁組の解消は最低1年経たないと受理されない決まりとなっていました。そこでのんびり時を待つよりはと、トレヴァーは判事を辞め、彼女と心通わせるうちに興味を持ち始めた父親の慈善事業の仕事を受け継ぎ精力的に活動を始めます。ロッテイと二人で数多くの貴族の催しに顔を出しては融資や寄付を募り、事件解決で王家からの覚えも目出度く、その上活動に一枚噛んでくれたことから様々な支援や基金設立に成功。その中には孤児院出身の子供たちの就労支援や生活が安定するまでの生活費の支給、やむに已まれず一人で子供を育てる女性たちへの職業斡旋や経済的支援というものもありました。そんな忙しい日々を送り長いようで1年はあっという間に過ぎ、沢山の功績を上げた二人は多くの人に祝福されて式を挙げ結ばれました、で幕。ヒロインが前向きで真っ直ぐな明るい性格なので序盤はヒーローとは喧嘩ばかりでしたが、結構可愛い関係の二人で読んでて何とも微笑ましかったです。評価:★★★☆この時代背景にしては二人が着手した基金の制度が素晴らしい
2022.01.20
コメント(0)
2020年8月刊くるみ舎・こはく文庫著者:上原緒弥さん「両親を不幸な事故で亡くし、叔父夫婦に引き取られた元伯爵令嬢・シャロン。使用人同然の扱いに耐えながら慎ましやかに暮らしていたある日、従姉妹のアデラに、隣国の宰相の元に嫁ぐよう王命が下る。しかし相手が冷冷酷無比な人物だという噂の宰相であるため、アデルは婚礼を受け入れない。そこで、シャロンが身代わりとして嫁がされることに……。使用人としての生活に未練もなく、半ば自暴自棄な状態で新婚生活をスタートしたシャロン。しかし夫となった隣国の宰相・マティアスは噂とは異なり、シャロンに優しく接してくれる。新居の使用人たちからも親切にされ、シャロンは「身代わりの花嫁」であることに罪悪感を募らせていく。夫婦としての生活を続けていく内、マティアスに惹かれ始めたシャロンは、彼から「アデラ」と偽りの名前を呼ばれることさえも辛くなりはじめて……。」↑楽天ブックスより、あらすじ文引用こちらも電子書籍オンリーのレーベルさんですね。約1年半くらい前の作品で、amazon kindle unlimitedの読み放題対象になっており、私もそちらで読みました。内容は正に王道、不遇ヒロインが身代わり花嫁になるシンデレラストーリーです。ここからネタバレと感想。ヒロインのシャロン・メレディスは侯爵家の長女。事故で両親と妹を一度に亡くし、叔父のティアニー伯爵家に引き取られます。父に似て優しく穏やかな叔父はシャロンに良くしてくれていたけれど、その妻のイヴェットと娘のアデラからの風当たりは強く、叔父が急死してからはシャロンは二人から使用人同然の扱いを受けるようになり、虐げられながらも耐え続けていました。おかげで彼女は誰と話す時でも吃音が出て、使用人からも馬鹿にされる始末。叔父さんが良い人だっただけに、つくづく貴族同士の政略結婚恐るべしと思いました。こんな性格悪い奥さんとじゃさぞ毎日気も休まらなかったろうに。しかも娘も母親そっくりの気性と来てる。そんなある日、アデラのいつもの我儘でオレンジを買いに行かされたシャロンは町でならず者たちに絡まれるもフード姿の青年に助けられて事なきを得ます。ほんの僅かな邂逅でしたが、家族と叔父が亡くなってからは初めて優しく気遣われたせいかシャロンはフードで顔も良く見えなかったけどその青年が忘れられませんでした。この出来事から暫く経ち、アデラに隣国の宰相に嫁ぐよう王命が下ります。今回の二人の結婚は両国の友好関係をを示す大事なものですが、宰相ことアルヴィエ公爵には冷酷無比で不細工な男だという噂があり、そんな人に嫁ぐなんて真っ平だと駄々をこねるアデラ。娘可愛さに困り果てたイヴェットは、社交界デビューもしておらず、どうせ顔は知られていないのだからとシャロンをアデラとして嫁がせることを画策します。思うんですけど、この手の身代わり婚系の話は本物が家出してたりして苦肉の策としての方法で、今回の場合使用人たちに口を噤ませたとしても隣国に嫁に行った娘が外を出歩くわけにもいかないし、本物のアデラをずっと隠れて暮らさせる気なんですかね。こっそり外国にでも出なきゃ嫁にも行けないやん(^_^;)これまでの生活ですっかり諦め癖が付いていたシャロンは、このまま使用人扱いされ続けて生きるよりはマシだとイヴェットの命令に従い、アデラ・ティアニーとして隣国の公爵マティアス・アルヴィエに嫁ぎます。色々覚悟してやって来た公爵家ですが、当主のマティアスは冷酷無比な面など欠片もなく、ましては不細工などととんでもない長身でハンサムな青年でした。吃音癖の抜けない彼女の話を根気よく聞き、優しく接してくれる夫に惹かれていくシャロン。使用人達もみな気の良い者たちばかりで若き公爵夫人を歓迎してくれている。マティアスの母が訪ねてきた時も侍女たちの助けもあり何とか上手く対応できたようで、結果義母にも気に入られ、マティアスもまた彼女を愛しく思い始めます。でも、この生活が幸せなほど自分が身代わりの花嫁なことを気に病み始めた彼女は、マティアスにアデラではなく、本名であるシャロンと呼んで欲しいと願うようになりました。そんな折、家族の命日が近づき、ティアニー家にいた時も欠かさなかった墓参りをしに国に帰りたいとダメもとでマティアスに頼みます。親代わりで世話になった伯父一家の墓だと偽る心苦しい願い出でしたが、マティアスは快諾。しかも付いてきてくれると言う。かくて、墓地ににやって来た二人は墓周りを綺麗に掃除し、マティアスが墓に眠る家族に挨拶までしてくれたことに胸を熱くするシャロン。そんな二人を、伯父一家の墓参りに訪れていたアデラが木の陰から覗いていました。シャロンの隣に立ち、彼女に気遣うよう接するマティアスを目にし、噂に聞いてた宰相と全然違うじゃない、と憤慨した彼女は母に相談してシャロンとの入れ替わりを目論んで・・・。このクソ母子、あろうことかマティアスの留守中にアルヴィエ邸に乗り込んでシャロンを脅し、アデラに妻の座を譲るよう命じるんですが、噂を鵜呑みにして結婚を嫌がり無理矢理身代わりにして結婚させておきながら、後でいざ相手の良さに気付くや立場を変われと好き勝手言ってくる。でも、シャロンも勇気を振り絞りその命令を拒否。怒り心頭なイヴェットに殺されかけた所を帰宅したマティアスに救われますが、悪いのはシャロンだと叔母が嘘八百を並べ立て身代わり結婚のことも暴露されます。が、マティアスはそれがどうした、な態度。彼はとうに気付いていました、なぜならシャロンはオレンジの子だった。見るからに使用人の身なりをしていた娘が伯爵令嬢として嫁いで来たのだから、何かあると思い最初は彼女のことも少し疑っていたけど、おどおどしていた彼女がそんな大それたことを目論むはずもなく、イヴェット達に脅されるなりして無理矢理やらされていたに違いないと。更に結婚相手の身上はよく調べるものだとの答えに、ホントそれな。実は、叔父・ティアニー伯爵と隣国の国王は旧知の仲で、死の直前に「妻が自分を殺そうとしている、もし自分が死んだら墓を暴いてでも死体を調べてほしい」という旨の手紙を王に送っていました。非公式の調査のためにマティアスが秘密裏に動いてたらしく、その最中、偶然ならず者たちに襲われていたシャロンを助けたのだったというオチ。デスヨネー、だと思ってた。シャロンを始末しようと持ち込んだ毒は叔父の遺体から検出されたのと同じもので、それが証拠となってイヴェットが夫を毒殺したことが判明します。その後イヴェットは本国へ強制送還され重罪人として裁かれることが決まり、アデラは父の殺人には加担せずとも、偽装結婚を示唆し侯爵令嬢への脅迫罪が問われ、加えてとある証言から貴族令嬢数人を手酷く迫害していたことが発覚し、極めて悪質と判断され修道院送りが決まったそう。ティアニー家は取り潰しとなり、シャロンも脅されてのこととは言え偽装結婚の片棒を担いでいたことから罪に問われるかと思いきや、マティアスの口利きと王の計らいで無罪放免。しかも、二人は愛し合っていることからメレディス侯爵令嬢として嫁ぎ直すこことなりました。シャロンは自分が嫁ぐことで後継がいなくなるメレディスの名を返上しようとしますが、結婚後も生涯名乗ることを許されたそうなので、ミドルネームにでも入れるのかしら。不遇ものお決まりのざまぁ展開にはなったものの、性格悪いだけでなく叔母親子がマジものの犯罪者だったことにΣ(・□・;)てっきり叔父さんは普通に心筋梗塞みたいな病気で急死したのかと。シャロンだけでなく貴族令嬢達まで虐め抜いてたアデラは、誰に見られるかもわからないのに外出して伯父一家の命日に墓参りに来てたらしいから、よくわからん子だったなぁと言う印象。シャロンのことはただ自分より身分が上の従妹を妬んで虐めてただけで生前のメレディス夫妻のことは慕ってたってこと?ちょっとツッコミ所もありましたが、ヒロインが健気なのとストーリーとしては王道なので身代わり花嫁ものが好きならアリかな。決してつまらなくはないので。ヒーローのマティアスがスパダリ系なのも良かったです。評価:★★★あらすじには元伯爵令嬢とありますが、プロットから変更でもしたのか本文ではヒロインは侯爵令嬢です。
2022.01.19
コメント(0)
2021年12月刊IRIEnovel著者:更紗さん「「オリヴィア。君には、俺なしではいられなくなってもらう」家の借財が嵩み爵位を返上することとなった貧乏男爵家の娘、オリヴィア。もう貴族ではいられない。人生最後の夜会に参加した翌朝、誰もが恐れる『黒衣の仮面公』ブラッド=ロンダングが現れ、オリヴィアを妻にしたいと求婚の申し出をした。驚くオリヴィアをよそに、欲に駆られた継母は勝手に婚約を決めてしまったのだが、それはオリヴィアの人生を一変させてーー?」↑楽天ブックスよりあらすじ文引用先月上旬発売の電子書籍ノベルなので結構新しい作品ですね。このレーベルさんはkindleでの取り扱いがないため、ピッコマでポイントチャージ(課金)して読みました。過去に起きた事件で兄を失い、自身も心と体に傷を負った孤独な公爵が前向きな没落貴族の令嬢と出会って恋に落ち、愛すること自分を取り戻していくお話。ここからネタバレと感想です。貧しいせいで縁遠かった仮面舞踏会に貴族令嬢として最後の思い出作りにと参加したヒロイン・オリヴィア=ハートレイ。領地も狭く実入りの少ないハートレイ男爵家は何とか細々とやってきたが借財が嵩み、ついに立ち行かなくなった父は爵位の返上を決意。既にオリヴィアも幼馴染の親が経営している商会で働かせてもらうことが決まっている。でも、彼女なりの精一杯のおしゃれをしても時代遅れのドレスと目立つ赤い髪、貴族らしからぬ畑仕事で焼けた肌を見て仮面を付けていても既にオリヴィアだとバレており、そこかしこから「渇きの令嬢」と揶揄されていましたが、これまた今回珍しく参加した「黒衣の仮面公」ことブラッド=ロンダング公爵の登場で会場内の空気は一変。5年前、王位継承争いで対立していた派閥貴族の陰謀で襲撃を受けたロンダング公爵は、一緒にいた兄を殺された上に自分も重傷を負い、更に肌を焼く薬品をかけられ、幸い命はとりとめたものの顔と上半身には醜い火傷に似た傷跡が残ってしまっていた。見目麗しく社交界でも人気者だった彼の姿は見る影もなく、こうした催しに参加しても誰も近寄ろうとしない。この有名な悲劇は貴族の噂話に疎いオリヴィアも耳にしていましたが、傷を隠すためか伸ばした黒髪と同色の仮面、一見黒ずくめで地味に見えながらもセンスの良い服装と洗練された佇まいの彼に興味を持ちます。貴族人生最後の夜会で踊るのはこの方しかいないと、参加者たちから遠巻きにされていたにブラッドにダンスを申し込むオリヴィア。かつて社交界の人気者だっただけに上手いリードのブラッドにオリヴィアは彼を選んだ自分の勘が当たっていたことに満足しますが、ダンスの後、お互い離れがたくバルコニーへ移動して会話を交わす中、オリヴィアの事情と明るく前向きで初めて自分の傷跡を見ても怖がらない彼女に興味が湧き、そして妻にしたいと考えるブラッド。二人はそのまま別れましたが、翌日父が王宮へ爵位返上の手続きに出向き屋敷を留守中、ブラッドがハートレイ家を訪れ、オリヴィアに結婚を申し込みます。僅かな時間の邂逅でも昨夜の件でブラッドを憎からず思ってはいても自分はもう貴族ですらなくなるため、その申し出を断ろうとすると爵位返上に納得いかず文句を言い続けていた継母が、公爵家との縁組に大喜び。これで金銭的援助も期待できると勝手に了承の返事をしてしまいます。が、そんな母子の様子を見てブラッドはオリヴィアの意志も鑑みて、では一か月の間公爵家で一緒に暮らして自分を知ってもらい、どうしてもその気にならないなら破談にしてもいいという妥協案を提示。しかも、彼が上に手回しして、爵位返上をせずハートレイ家がそのまま領主でいられるようにしてくれていました。父も今頃王宮で話を聞いて戻ってくるだろうとも。ブラッドさん、公爵の権力をフル行使してこんな短時間で外堀を埋めて、囲いまくって来てますが、内心でも必ず一か月の間に自分に惚れさせると燃えておりました。そして始まった公爵家での生活は何とも快適でした。良く気の利く使用人たちに、食事も美味しく、用意された沢山のセンスがいいドレス。しかも、専用メイドに毎日丁寧に高価なオイルなどで髪や肌を手入れしてもらってるうちにオリヴィアが元から持ち合わせていた美しさにも磨きがかかっていきます。ある日、社交の場に出るのも勉強だとブラッドに伴われ、舞踏会に出席したオリヴィアは自分が働くはずだった商会の跡取りで幼馴染のフィルと再会しますが、どうやら彼は今回の彼女の婚約が気に入らない様子で公爵相手にも終始慇懃無礼な態度にハラハラ。更に会場ではブラッドにとって喜ばしくない元婚約者・ヘザーとの再会もあり、オリヴィアが今の自分の婚約者だとヘザーに紹介します。だが、ブラッドが席を外して一人になったオリヴィアはヘザーから「彼の容姿が醜くならなければあんたなんて相手にもされない、玉の輿に乗れてラッキーだったわね」(意訳)と嫌味を言われ、彼と暮らしその人となりを知るうちにもう既にブラッドのことが好きになっていた彼女はもやもやするのでした。このヘザー、事件後ブラッドの傷跡を見て悲鳴を上げた挙句彼との婚約を解消して傷心のブラッドを更に傷つけた人物なんですが、その後嫁いだホーランド伯爵家は件の派閥争いでブラッド側に敗れた派閥の一つでした。何も元婚約者の派閥と争ってた家に嫁がんでも、となんて空気読めない女だと思ったら、やっぱりただのアホだったようで。王太子が即位したら反対派閥は粛清の憂き目にあうのは明白。ホーランド家は取り潰しになる前にと、せめてもの意趣返しとして、贅沢をしたいヘザーを焚き付けブラッドの殺害を画策していました。折しもヘザーの出現と投げつけられた言葉、フィルからの忠告などが重なり、お試し期間だからか自分に触れても一線を越えないブラッドの言動にも不安に駆られたオリヴィアは彼と言い合いになり、結果、激昂した勢いで無理矢理ことに及ぼうとしたブラッドは己を恥じ、奇しくも約束の期限最後の日の朝、彼女をハートレイ家に帰します。馬車で送り届けられ、一か月ぶりに帰ったハートレイ領は見違えるほど綺麗で立派になっており、驚いている彼女に声をかけて来た顔見知りの領民の話によれば、オリヴィアが旅立った後、公爵家からの依頼で数名のスペシャリスト達が派遣されて来て、以前から水捌けの悪さで問題視されていた畑回りに水路の設置など様々な改善を施された結果、瞬く間に今のような立派で美しい土地になったと言う。しかも男爵家の財政の立て直しまで。いい旦那さんですねと褒められ、胸を熱くして面映ゆい気持ちになるオリヴィア。この一連のシーン、ヒロインがヒーローを更に惚れ直すという割と重要なファクターだとは思うんですが、ここで忘れてはいけない、前述にある通りまだ一か月しか経過していないことを。せめて三か月くらい経ってればこの領地の様変わりにも納得いくのだけど、いくらその道のスペシャリストでも水路の設計や設置だけでも一月くらいかかりそうなだけに(^_^;)まあ細かいことを気にしてはいけないな。途中フィルとも会い、彼から想いを告げられますが、オリヴィアにもう迷いはなく気持ちは決まっていました。彼女の想いが揺らがないと知るやフィルは潔く身を引きオリヴィアを送り出します。ロンダング邸に着き、早く彼に会いたいと部屋に飛び込んだ彼女が見たのは、毒薬を飲み使用人たちに応急処置をされているブラッドとその傍で気が狂ったように笑い続けるヘザーの姿で・・・・。執事の応急処置がかなりの手際だったのともしもの時のための備えでヘザー来訪の際に人を配置していたのが功を奏しブラッドは助かります。オリヴィアに害を加えると脅されちゃ毒も飲まざるを得ないですよねぇ。黒幕のホーランド伯爵家が作中一番の悪役ですが、派閥争いに負けたのは先見の明が無いからで逆恨みもいい所。元婚約者という立場からブラッドに近づける存在として白羽の矢を立てられ、その虚栄心を擽り実行犯にさせれたヘザーにも全く同情心湧かず、オリヴィアにけちょんけちょんに言われていた様はちょっとスッキリしました。まあ、ヘザーも黙って聞いてるタマでもなかったですけど。この事件の一か月後二人は式を挙げ結ばれましたという終わり方ですが、ラストがほぼ丸々ラブシーンだったのは我慢を重ねて漸く感はあったので、良かったねブラッド、って感じです。評価:★★★★薄い文庫本1冊分くらいのボリュームがあり読み応えありました。作者さんの書き方もあるのか、読んでてヒロインのオリヴィアよりブラッドの方に感情移入してしまった稀有な作品。時間経過の違和感が唯一の欠点(?)
2022.01.18
コメント(0)
2021年7月刊夢中文庫セレナイト著者:織原深雪さん「貧乏子爵家の娘・サリーは家を支えるため、侍女見習いとして今日も真面目に働いている。ある日、友人の誘いで参加した仮面舞踏会でひとりの男性と出会うと、名前も素顔も知らないまま、サリーはその男性と一夜を共にしてしまう。翌朝、彼が次期公爵にして宰相補佐官のローウェン・マクレガーだと気づくと、あまりの身分の差に、サリーは逃げるようにして彼の前から去るのだった。しかし、一か月後、ローウェンの子を妊娠していることが判明。このまま王宮で働くことはできないと思ったサリーは仕事を辞め、城下で針子として働き始めるのだが、その一方で、ローウェンは行方をくらませたサリーを捜していて……?」↑楽天ブックスよりあらすじ文引用こちらもamazonのkindle unlimited会員なら読み放題対象作品になってます。楽天のブログ&商品リンク貼っといて言うのもなんですが、ピッコマ等で連載中のTL小説が結構な数でこの読み放題ラインナップに入ってるので、お試し会員で最初の2か月、\99(だったかな)で読めるだけで読んで解約するか、毎月\980払っても引き続き会員続けるのもある程度の節約にはなると思います。(電子でしか読めない作品もかなり増えましたし)ラストが気になってそこだけ課金も1作とかなら少額で済みますが、必ず何作か出てくるのが常ですからね。塵積もを考えると・・・。何だかんだと毎月10冊くらいは文庫やノベルスも買っちゃうんですけど、抑えてるつもりでも結構な出費なので、この読み放題はかなり助かってます。またもや前置きが長くなりましたが、ここから本題のネタバレ&感想です。ヒロイン・サリーは貧乏子爵令嬢で、家のために王宮の侍女見習いとして真面目に働きながら給金から少なくない金額を毎月仕送りしていました。ある日、そんな生活の気晴らしになればと友人に誘われてとある仮面舞踏会に参加したサリーは、そこで運命的な出会いをします。しかも、お互い仮面をつけながらも相手側の青年もサリーを気に入ったようで、場の空気と雰囲気に流されるまま会場から抜け出した二人は一夜を共に。早朝目を覚まし、正気に戻ったサリーは隣に寝ている青年に目をやると、何と以前から密かに思いを寄せており遠くから見つめるだけだった宰相補佐官のローウェンだった。役職もさることながら、もうすぐ公爵を継ぐらしいローウェンと貧乏子爵の娘の自分では身分差があり過ぎると、彼が起きる前に逃げ出したサリーは、昨夜のことは自分だけの思い出にしようと心に決めます。友人から怪しまれながら、こういう時に限って広い宮内だというのにローウェンと鉢合わせそうになり、必死に身を隠すサリー。そして、ローウェンの方もまた一夜を共にした女性を探しており、ふと視線に入った侍女見習いの少女が何とも彼女に似ている。確かめようと近付こうとすると、もう逃げ出してしまった後で話を聞くこともできない。サリーにとっては美しい思い出ですが、相手は一夜の過ちと思ってるかもしれない。しかもかなりの身分違いということも拍車をかけ、自分勝手な思い込みから二の足を踏んでるサリーに読んでて少しモダモダしますが、ローウェンにとっても忘れられない女性だったようで、せめて眠る前に名前くらい聞いていればと後悔していました。そんな日が続いてあの夜から1ヶ月、サリーは酷く体調を崩し更には月のものまで遅れていることから、まさかの思いで医師の診断を受けると、やはり予想通り彼女は妊娠していました。父親はローウェンで間違いないけど、またもや勝手な思い込みで一人で子供を産み育てることを決心するサリー。そうなれば、このまま王宮にいるわけにもいかないと友人にだけは事情を話してサリーは侍女見習いを辞め、実家にも知らせないまま城下にある洋裁店で針子として働くように。その頃、仮面舞踏会の出席者を秘密裏に調べていたローウェンは、この王宮勤めの侍女見習い達が数人参加していたことを知り、あの風貌とあからさまに自分を避けていた態度からもうあの夜の相手がサリーだと確信していました。が、時すでに遅くサリーは城から去った後。没落寸前の子爵家の娘というからローウェンのために身を引き姿を消したのだろうと察しは付いたものの、このまま連れ戻しても根本的な問題は解決はしない。ローウェンは彼女の実家に探りを入れ捜索を続けつつもサリーを妻に迎えるべく外堀も埋め始めます。一番のハードルで反対されるだろうと懸念していたローウェンの両親である公爵夫妻は、どんな縁談にも乗り気にならず断り続けていた息子がやっと結婚する気になったと逆に大喜びで、相手が下級貴族の令嬢だと言うことも全く気にせずあっさり承諾。しかも、遠い親戚の家にでも世話になっているのでは?とサリー捜索に役立つかとその身の上を詳しく調べていたら、彼女の母の実家が王家と縁続きの由緒ある家だと判明。思わぬ副産物で口さがない貴族連中たちも黙らせられそうだった。あとはサリー本人を見つけるだけ。唯一事情を知っているサリーの友人・ベランナは、あの後結婚を理由に退職していました。お腹の中の子の父親が誰かまでは聞かされていなかった彼女は突然自分を探して訪ねて来たローウェンを見て全てを察します。でも、ずっと思い悩んでいたサリーを傍で見ていたベランナは、自分の口から全てを話すことはできない、サリー本人と話し合うべきと彼女の居場所のヒントだけをローウェンに教えると、彼を送り出します。果たして、ローウェンは臨月で産まれるギリギリまで働いていたサリーを城下町で見つけ出し・・・。総ページ数72ページということもあって、先日感想を書いた「冷徹公爵のよすが妻」より、もっと短く展開早いです。おかげで、じれじれ要素もさくさく進んでくれるので気になりません。でもやっぱりヒロインの後ろ向き思考にモダモダはするんですけど、よくよく考えてみれば、元々付き合ってたとかならともかく一夜だけの関係でしかも妊娠だもんね。そりゃ10代の子には重いか。反面、ヒーローがかなり行動的で用意周到に外堀埋めてから後顧の憂い無く妻に迎えようとしてるあたり、さすがは宰相補佐官と言ったところ。もう臨月になってたのを見るに、作中の時間経過の速さに驚きましたけど、見つけ出すまで時間かかり過ぎだろ、と。とは言え、地方にいる親戚にまで捜索範囲広げてたらしょうがないか。それに一応貴族の令嬢なのにまさか城下町で働いてるとは思わなかったんだろうな。灯台下暗し、その辺はお坊ちゃんな思考だったのかもしれない。あと、ページ数の都合、←一番の理由っぽそう(苦笑)再会後、産気づいて無事に女の子が産まれますが、ローウェンに請われるまま公爵家に迎えられ、そのまま先に婚姻届けと出生届を出し、晴れてマクレガーの姓になったサリー。その子が1歳になってから2人が式を挙げたところで終わっています。取り敢えず、義両親になる公爵夫妻が良い人そうで良かったです。あと、サリーの友人・ベランナが友達想いのよく気の回る頭のいい人だったなという印象。評価:★★★☆テーマ別アンソロに入ってそうな、さらっと読める短編って感じのお話でした。
2022.01.17
コメント(0)
2021年10月刊IRIEnovel著者:夕日さん「「ナナオ……俺を欲しがってくれ。お願いだ」将来自分の店を持つことを夢見ていたカフェ店員の笹倉七緒は、ある日異世界の『パーカネン王国』に迷い込んでしまう。面倒見のいい銀髪の騎士団長トルスティの計らいで、念願のおしゃれなカフェを開くこともできた七緒だったが、訪れる客はお酒目当ての屈強な騎士さんたちばかり。思ってたのとちょっと違う……そんなある夜、珍しくトルスティがひとり店に残っていてーー」↑楽天ブックスより、あらすじ文引用電子書籍オンリーのレーベルみたいですが、現在amazonのkindleでは取り扱いは無く、読むには画像商品リンク先の楽天ブックスや各種コミックサイトでの購入が主な方法になるみたいです。私はこの作品はピッコマのキャンペーンで課金チャージした際の還元とか、たまにあるミッションクリアで貰えた分を貯めてたポイントでまとめて購入して読みましたが、一応、終盤間近までなら無料でも読めます。際限なくなるため他のコミックサイトさんは利用しておらず形態が判らないのでピッコマを例にすると、話読みで最初の3、4話までは¥0、途中まで<待てば¥0>を利用し有料になる終盤だけ購入していくスタイルがおそらく一番お安く読める手段だと思います。TL小説なら\120~\200くらいで済んだり、レーベルや発売日にもよりますが1冊丸々無料だったりすることも。(因みにこのレーベルさんは少々割高な部類かな)ただし、異世界トリップの感想時にも書きましたが、ある程度1冊にかかる日数を覚悟できる方のみの手ではあります、念のため。「時は金なり」とは言われてもこういう節約でもしていかないとジャンル絞っても本は沢山読めませんよね。お金も無限ではないので(^_^;)前置きが長くなりましたが、ここから本題のネタバレと感想です。現在連載で読んでる途中で先を知りたくないと言う方はブラウザバック願います。簡単に言うと、異世界転移したヒロインがそこで念願だったカフェを開き、美形でやり手の騎士団長と恋仲になり慌ただしいながらも幸せに暮らすお話です。なんだかデジャヴ感じると思いきや、アルファポリスの某・異世界でカフェをなんちゃらにシチュが似てるんだな。こちらはTL小説なので、それのR18バージョンみたいな感じかなと思いましたが、本文見たら色々設定が凝っていてこれはこれで面白い。ある日勤務先のカフェに出勤途中、異世界に迷い込んでしまったヒロイン・笹倉七緒。当然見たこともない街中で途方にくれていた七緒に声をかけてくれた住人達は、たまに現れる存在「落ちてくる」異世界人と判断し、この国でそんな人達を保護し検分してくれるという部署の第三騎士団に連絡を入れ、程なく団長のトルスティが七緒を迎えにやってくる。詰所にてトルスティがここがパーカネン王国ということ、この国に限らず「落ちてくる」異世界人が少なくないことを説明してくれます。そして、おそらく戻る方法は無いことも。でも、彼女が迷い込んだこのパーカネン王国は異世界人を厚遇する温情ある国で、生活が安定するまでは無料で住まいを提供ししかも結構な額の生活費まで出してくれる何とも有難い制度がありました。なぜそこまで破格の対応を?と七緒も疑問に思いますが、続けてトルスティに説明された「落ちてくる」もの特有の力・ギフトのおかげらしい。まず、「落ちてくる」もの恩恵として必ず<言葉の壁>が無くなり、どの国に行っても言葉では苦労はしません。そして、個人個人に備わっている夫々異なるもう一つのギフトが重要で、魔法とは概念が違う大小ピンキリだが人によっては水を湧き出させたり攻撃に特化したものなど様々。パーカネンでは個々能力差はあれど、有事の際に国のためにそのギフトを使うことを条件に生活の面倒と身の安全を保障してくれるそうですが、他所ではそのギフトを恐れ異世界人を迫害している国もあるという。どうして異世界人が「落ちてくる」のか原因の究明はされてはいないものの、神々の意志が働いているという見解も王国の保護が手厚い理由にはなってるようで、何にせよ平和な国で良かったと胸を撫で下ろす七緒。そこで気になるのは自分のギフトがどんな能力なのか、期待半分で鑑定してもらうと「人生が幸運に傾きやすい」という何ともボヤっとしたもの。懸念していた検分も問題なく終わり、かくして七緒の異世界生活が始まりました。ギフトとか、王国の異世界人への神対応など面白い設定だと思います。勿論、その恩恵も危険分子でないという条件付きだけど、日本人なら先ず引っ掛からないしね。でも確かに迫害なんて一銭の得にもならないことに躍起になるより、有事の時だけとは言え国のためにその特異な力を奮ってもらった方がいいし理にかなってるのかな。七緒のギフトは本人的にはぼんやりしたものだなぁと思ってたりもしてたけど、個人的にはちょっと羨ましい能力です。一年後、国から支給されていた生活費から贅沢をせずコツコツお金を貯めていた七緒はかねてからの念願だったカフェを開くことに。もう元の世界に帰れないならこの国でやりたいことをやるって前向きですよね。あの時から何くれとなく面倒を見てくれていたトルスティが物件探しに手を貸してくれ、町で生活するうちに仲良くなった住人達の協力によりできた店は七緒の夢の集大成で、例の個別ギフトの賜物かここでの暮らしは日本でのものより順風満帆でした。が、店は予想以上に繁盛しているものの、カフェの常連となってくれたのは荒くれ者も多い騎士団の面々。彼らは勤務が終わるとやってきて、その度に飲めや歌えやの大騒ぎ。ここはいつから居酒屋にと頭を悩ませつつもそこそこお金を落としてくれる騎士団員達に文句も言えず。そんな中、忙しいだろうに毎日店に顔を出すトルスティ。ある日、閉店まで居座っていた彼は実は初めて会った時から気に入っていたと(意訳)七緒に求愛し、流されるままそのまま関係を持ってしまいます(ここからTL展開に突入)男女交際未経験だった彼女はこの状況に戸惑いますが、トルスティとするのは嫌じゃないから困る。でも彼のことが本当に好きなのか判別付かないのに、そんなことだけしてていいのかと悶々過ごしていたら、トルスティを逆恨みしたならず者達に七緒が浚われ・・・。ちょっと命と貞操の危機も感じましたが、七緒はトルスティと常連の騎士団員達により無事救出。吊り橋効果も後押ししたのか彼女もトルスティへの想いを自覚し、自分からも気持ちを告げ、晴れて二人は婚約します。伯爵家の長男らしいトルスティは家族に異世界人である七緒との結婚を反対されてまいしたが、由緒はあっても金は無い伯爵家は騎士団長にまで上り詰めた長男に出て行かれたら立ち行かない、かくして両親は折れ二人の婚姻を認め、程なく二人は夫婦となり七緒は変わらず居酒屋状態なカフェを元気に切り盛りしていました、で幕。薄い文庫本程度のぺージ数なので、ヒロインの誘拐事件を除けば後はせわしない日常と、二人が付き合いだしてからは(トルスティはそう思ってた)時々エッチって内容でしたね。七緒がポジティブなのは勿論元からの性格もあるだろうけど、ギフトや国の手厚い福利厚生制度のおかげかな、世の中やっぱり生活の保障があれば先行きは明るいんだよなぁと読んでてしみじみ思いました。なんか、出会って一年以上気があっても手を出さずにいたのに、トルスティが告白後すぐに手を出してきたから七緒もさぞビックリしたろうなぁ。せめて彼女の気持ちを確かめてから手を出してあげてよ、恋愛初心者なんだから。肉体関係だけ先行してりゃ、そりゃグルグル考えちゃうわ。彼女を気に入って通ってる騎士団員達のうちの誰かに取られるかと焦ったかららしいけど、美形で割とそつなく生きてそうなヒーローのそんな人間臭い面を可愛いと取るべきなのか。評価:★★★☆異世界人への対応など普通にラノベにも使えそうな設定は良かったと思います。あと、読んでてオムライスが食べたくなった。
2022.01.16
コメント(0)
2021年10月刊夢中文庫セレナイト著者:高遠すばるさん「「かわいいアデーレ、私と結婚してほしい」ーーコンラート・フォン・シュナイダーはアデーレ・フォン・マジュラムを嫌っている。ひそやかにささやかれている噂は純然たる事実であり、かつて兄のように慕っていたコンラートは、ある日突然、アデーレを嫌いだしたのだった。……なのに、どうしてこんなことをするの? 周囲の目もあるデビュタントでの求婚の言葉と、その空気にアデーレは応えるしかなかった。ーー不安な思いで彼の妻となったが、コンラートは今までが嘘みたいに優しく、アデーレを甘やかしてくるように……。昔のように穏やかな時を過ごすうち、アデーレはコンラートの役に立ちたいと思うようになって行動しようとするが……」↑楽天ブックスよりあらすじ文引用こちらも割と新しめの作品。リンクは電子書籍ですが、オンデマンドのペーパーバック版(電子の約2倍の値段ですけど)でも発売されてるようです。amazonのkindle Uniimited会員の方は読み放題対象の作品なため無料で読めます。私はそちらで読みました。嫌われてると思い込んでた自分に自信のないヒロインが、長年苦手としていた高スペックな年上の幼馴染のヒーローに実は溺愛されていましたというお話です。恋愛ものではよくある展開と内容だと言ってしまえばそれまでなんですけど、エピローグは少々駆け足な気もしましたが限られた少ないページ数にしては上手く纏まってたと思います。ここからネタバレと感想。ヒロインの伯爵令嬢・アデーレは親同士が親友で長らく家族ぐるみで交流があり、若くして公爵家を継いだコンラートが苦手でしょうがない。幼い頃は何くれと面倒見てくれて兄のように優しかったコンラートのことが大好きだったアデーレですが、いつからか彼は自分から友達を奪い、貰った贈り物の類も取り上げて周囲から孤立させられていたから。でもそんな行動の後には必ずコンラートから代わりにと言わんばかりの高価でセンスの良いプレゼントがわんさかと贈られていましたが、そんなことされたって嬉しくもない。いつしか貴族たちのお茶会などの催しではアデーレはコンラートに嫌われているとまことしやかに噂されるように。序盤でもうコンラートの行為が、嫌っているどころかアデーレを好き過ぎて嫉妬故に周りを牽制していただけだとすぐ判るんですけど、如何せん当の本人の自己評価が低すぎる上に鈍かった(^_^;)まあ、好きな子ほど虐めるって状況とも違ったし、友人すら作らせなかったのは多少やり過ぎ感はありますね。女友達にすら妬いてたか。コンラートの妨害にもめげず孤独になりかけていたアデーレと友達付き合い続けていた令嬢・キティは、すぐ自己嫌悪に陥る彼女に「あなたは変わらずそのままでいいのよ」(意訳)とお決まりのセリフを吐き慰めますが、コンラートはそのキティとの友人付き合いこそ特に嫌がっていました。そんな二人の関係が大きく変わったのは、貴族令嬢なら誰もが待ち焦がれるデビュタントの日。アデーレの苦手意識をまるで理解していない親同士の話で当日のエスコートをコンラートにしてもらうと父から聞かされたアデーレは愕然とするも、娘の晴れの日の準備に盛り上がる両親にもはや何も言えず。周りの視線が痛い中、華やかな会場で突然コンラートは片膝をつきアデーレに求婚。思いもかけない展開に彼女もパニックになりかけますが、いくら親同士が親友でも家格的に自分から断るなんてもってのほか、しかもそんな空気じゃない。かくして二人の結婚は決まりました。盛大な結婚式を挙げ、シュナイダー家に移り住んだアデーレ。伯爵家とは比べ物にならないほどの贅沢な生活に、教育が行き届いているのか気持ち良く尽くしてくれる使用人たち、そして次期宰相候補として忙しい中でも新妻を溺愛するコンラート。最初は面食らいながらも穏やかな生活を過ごすうち、幼い頃の想いを思い出し彼のふさわしい妻になりたいと考え始めたアデーレは思いもかけない事件に巻き込まれ・・・・。戸惑いながらも愛されることで、少しずつでも自分に自信を持ち始めるヒロインの身に起こる事件が何とも痛々しくて、ここからちょっと読むのが辛い展開なんですが、貞操は無事だったのが救い。見るからに怪しく、作中でも特に注意してコンラートが近づけないようしていたキティがずっと恋焦がれていた彼の妻に収まったアデーレを恨んでやらかすんですけど、一番の友人だと思っていたキティの裏切りに当然相当なショックを受けます。が、荒事に慣れているはずもないのに、謂れのない暴力に対して勇気を振り絞り必死の抵抗をするアデーレは、まだ10代の少女なのに随分成長したなぁと思いました。愛は人を強くするとはよく言ったもので。着ていた白いドレスが真っ赤に染まるほど殴る蹴るの暴行を受けたアデーレは浚われた彼女を必死に探していたコンラートに救出され、キティも現行犯で逮捕となり事件は幕を閉じます。目を覚ました彼女に助けに行くのが遅くなったことを詫び、改めて愛してると告げるコンラート。裏でアレコレ画策して外堀埋める前に結婚する前から愛を囁いてればアデーレも妙な気を回さなかったんですけどね、そこをキティに上手く付け込まれてたわけですから。キティもコンラートにストーカーチックな勝手な想いを膨らませていた上に薬物で精神を蝕まれ嫉妬に輪がかかりアデーレに懸想していた兄を唆して事件を起こしたそうだけど、長らくアデーレを騙して自己否定させた挙句コンラートへの苦手意識を増長させるよう仕向けてたり、ホント女の妬みとは恐ろしい。事件後ほどなくして宰相となったコンラート。結婚してから大恋愛をしたというシュナイダー公爵夫妻の話は王国で登場人物の名前を変えた歌劇ともなり後世にも語り継がれたそうで。(アデーレが事件に巻き込まれたのも民衆にはドラマチックに見えたのかな)まあ、この辺は多少蛇足な気もしますが、この時代の娯楽と言えば歌劇や演劇とかだったろうし、きっと晩年まで国民の話題に上るほど随分と仲睦まじい夫婦だったんでしょうね。ラストは三男二女の子宝に恵まれ、更には六人目を妊娠中のアデーレとシュナイダー家の賑やかな日常が描かれています。97ページという短さでよくこの内容を纏めたなと。その分、二人の結婚が決まる展開も早かったりするんですが、よくある設定というのが功を奏したのかも。読者にも分かり易いから余計な説明にページを割かなくてもいいですからね。おかげでさほど時間もかからずさらっと読めますが、終盤ヒロインがかなり痛い目に合う(結構な重症だった模様)のでそういう展開が苦手な方はご注意を。タイトルにある「冷徹公爵」と言う程、冷徹だったかなと思う節はありましたが、基本ヒロイン以外どうでもいいヒーローだったのと、犯人達には容赦なかったからな。評価:★★★★個人的には好きなお話でした。気軽に読めるページ数なのも◎
2022.01.15
コメント(0)
異世界で魔女に間違われたら愛されすぎて困ります!?【電子書籍】[ 如月美樹 ]楽天で購入2020年10月より配信夢中文庫プランセ著者:如月美樹さん「転移した異世界で魔女と勘違いされてしまった奈々は、アルシャンドレ王国の国境警備隊に保護され、隊長のアンデルをはじめ騎士たちが暮らす砦で共に生活をすることに。騎士たちは皆、奈々を妹のように可愛がってくれ、異世界にいながらのほほんと暮らしていたのだが……そんなとき、敵国の兵が砦内に侵入し奈々は攫われてしまう。アルシャンドレの騎士たちは奈々を取り返そうと奮起するのだが、連れ去られた奈々は敵国の王・カレウスに求婚されてしまう! そしてなにやらカレウスには、奈々を手放せない特別な理由があるようで……。さらに、奈々を魔女と信じて疑わない教会のトップ・教皇ラセラスも、奈々を奪う機会を窺っていて──!?」↑楽天ブックス商品詳細ページよりあらすじ文引用この<夢中文庫>も電子書籍のみのレーベルさんです。最初気付かなかったんですが「王国騎士団独身寮の家政婦」シリーズの作家さんなんですね。amazonのkindleでは今読み放題のラインナップに入っているので、この作品を目にされたことがある方はそこそこいらっしゃるかも。さて、ここからネタバレ有りの感想です。ジャンルとしては異世界転移の逆ハーものってとこでしょうか。突然異世界に転移し戦場の真っただ中に放り出されたヒロイン・奈々はアルシャンドレ王国の国境警備隊に保護され、見た目の幼さ+可愛さにより(この世界の住人たちはみな体格がよく、日本人のヒロインは19歳なのに若く見られ12~14くらいだと思われている)ヒーローである砦長・アンデルを始め、騎士団員達から溺愛されのんびり暮らしていました。当初、奈々は転移してから暫くは、古くから伝承のある、神から遣わされた強大な力を持つ魔女だと思われていましたが、教会で鑑定したところ、何とも判別しにくい結果で終わったことで魔女とは断定されず。それでもまだ絶対そうでないとも言い切れないため、当面の間は砦で彼女を預かり守ることとなったのです。が、この手の異世界召喚系では珍しく、まず主人公キャラにはデフォで備わってる万能言語翻訳機能など持ち合わせていない奈々は意思疎通にも一苦労。身振り手振りでは自分の年齢すら正しく伝えられません。おかげで見た目から奈々は成人にも満たない子供だと思い込まれ、それに拍車をかけて必死に片言で喋り舌の回らない幼児言葉だったことが一層騎士たちの庇護欲をそそり、溺愛は増す一方。そんな愛されヒロインを誰かに取られやしないかと自分の執務室に置きつつ、ヤキモキするアンデル。これねぇ、序盤とエピローグ、モノローグ以外で片言で話すヒロインのセリフの語尾に「しゅ」やら「ちゅ」だの、ずーーーっと付くので読んでてちょっと、いやかなり辛かったです(^_^;)この喋り方が可愛いと思える&特に気にならない人には何の問題も無さそうですが、某・転生公爵令嬢の幼女言葉ですら読んでて苦痛だった私は面白くなければ序盤で挫折してたかも。砦での生活が続く中、漸く奈々は覚えたての数字を使い自分の年齢を皆に伝えられたけど、今度は結婚可能な年齢だと判明したことで騎士たちの目の色が変わり彼女への猛アピールが始まります。かくしてライバルは芋づる式にと増え続けアンデルの気苦労は増すばかり。そんなある夜、星祭りイベントに沸く騎士たちの隙を狙って砦に敵国の王・カレウス達が侵入し、世間ではまだ魔女疑惑のある奈々を連れ去りますが、言語翻訳機能は無くともこれまた異世界召喚モノとしてはお約束の主人公補正・人たらし能力だけはとんでもなく高かったのと、奈々が過去に悲劇の死を遂げたカレウスの妹に少し似ていたという偶然が重なり、ここでも溺愛され王妃にとまで望まれます。しかし、奈々を取り返すべく今度はアンデルたちがカレウスの城に侵入。多勢に無勢でアンデルたちは捕まり殺されそうになるものの奈々の必死の懇願と砦に帰りたいと言う気持ちを汲み、カレウスは折れ、奈々は皆と砦に返されることとなりました。この騒動から数日後、奈々とアンデルたちに王城から呼び出しがかかりますが、魔女を崇拝する教会の教皇ラセラスが何とか奈々を手に入れようと画策し暗躍し始めます。後ろ盾のいない彼女の身柄を教会から守るため、王妹を妻に持つ砦の料理長の養子縁組の話が具体的となったり、作戦の一例として更に足場を固めるべく高位貴族との婚約も提案され名乗りを上げるアンデル。ラスボスって程の存在ではないからか、一応あらすじには名前が載ってる教皇ラセラスが登場するのはなんと終盤もいい所の9章から。「魔女」とは一体?奈々がこの世界に転移された理由の判明とか、アンデルとの深まっていく仲含めここから一気に展開していきます。結構な急展開なので前フリみたいなものも特になかったのがチト残念ですが、ページ数の割に登場人物が多かった弊害かなぁ。カレウス関連の話もホント中盤も中盤からだったし。そりゃラセラスの出番も遅くなるわ。でもまあ皆いいキャラしてたと思います。割と唐突に出て来た奈々の母になる元王女殿下とか、懸念事項が全て片付き、急速に仲を縮め想いが通じ合ったアンデルと奈々は結ばれますが、シーン自体ははそこまで長くなくページ数も少な目。この辺は蛇足とまではいかずとも個人的には無くても良かった気はしますが、一応TL小説ですからね。奈々と致したことがバレてカレウスや副官始め部下たちに弄られまくるアンデルが何とも気の毒でしたwエピローグは本編から16年くらい後のお話。4人もの子宝に恵まれた二人の家庭の様子と、9章で和平を結び友好国となりアンデルたちと交流を続けているカレウスが生まれたばかりの奈々にそっくりな末娘を成人した際には嫁にと希望する微笑ましいエピが描かれています。てか、カレウスもこの時点で40歳超えてるんじゃ。しかもまだ独身だったんかいっ。早く身を固めて跡継ぎを作ってもらいたいだろう臣下たちの心労は推して図るべし、この分だと最低後15、6年はかかるぞ。(この世界の成人は15歳)彼女のために身を引きはしてもずっと奈々を忘れられなかったのね、カレウス(^_^;)異世界転移というファンタジー色の方が濃いヒロインがモテモテの逆ハー展開なライトなTL小説でありました。とは言っても、そういえばこの作者さんの王国騎士団~も同ジャンルだったっけね。このレーベルにしてはページ数も多目なのでそれなりに読みごたえはあります。ビーンズ文庫等女性向けラノベを読みなれてる方ならば、TL小説初心者でも楽しめる作風かと。評価:★★★☆個人的にヒロインの幼児言葉もどきが読んでて苦痛だったのでそこだけマイナスで。片言だけでも良かったんじゃ・・・。話の展開や登場人物は良かったと思います。
2022.01.11
コメント(0)
間違いで求婚された女は一年後離縁される【合本版】【電子書籍】[ ヤマトミライ ]楽天で購入2019年1月発売アマゾナイトノベルス著者:ヤマトミライさん「『一目見た時から私の心は貴方に奪われていた。どうか私の妻になって欲しい。私の愛しい人』「不義の子」と父親に娘としてすら認められず、使用人以上に酷使され満足に食事も与えられなかったシェリルは愛情に飢えていた。そんな彼女に届いた一通の手紙。私を選んでくれた唯一の人。私に愛を注いでくれる人。もうすぐ心暖かなセノーデル辺境伯様に会える!そう願ったのもつかの間、シェリルは予想だにしない言葉を投げつけられる。「いったいお前は誰だ!?」幸せを夢見て、彼の元へと嫁いだシェリルに待っていた悲劇とは?!」↑アマゾナイトノベルス商品ページよりあらすじ引用こちらのレーベルは電子書籍でのみで販売していて、amazonのkindleで購入して読みました。小説家になろうで連載されていたTL小説をまとめて加筆訂正されてるものです。コミカライズ版がもうかなり長いことピッコマの恋愛、TLジャンルでランキング上位に入っているので、この原作よりそちらを読んだことがある方の方が多いかも。去年末くらいまでは小説の方はなろうでも読めていたのですが、どうやら削除されてしまったようです。まあ、なろうにも改訂版で載ってたし内容も変わらないからコミックサイトから削除するよう言われたのかな。さて、ここからネタバレと感想です。詳細ではないですが先の展開は知りたくないっ、な方はブラウザバックお願いします。ヒロイン・シェリルはハルウェート侯爵家の長女でありながら一族の特徴である銀髪も青い瞳のどちらも受け継がない黒髪黒瞳で生まれたため、父からは不義の子と蔑まれ娘とは認めてもらえていません。加えて、母の死後すぐ迎え入れられた継母や2歳下の異母妹からは使用人よりキツイ仕事をさせられる毎日。食事すら満足に与えられない時も多々ありそんな不遇な生活を20年近く耐え忍んできました。このシェリルがとにかく可哀そうなのと侯爵家の連中の言動が胸糞過ぎてマジ許すまじ何でここまでするかな、彼女が養子とかならともかく実の家族やで。人の心とは?と一晩位かけて全員正座させて説きたくなる。とは言え、一応この手の不遇ヒロインものお約束のざまぁ要素も含まれてるので最後にこの家族はそれなりの報いを受けます。辛い日々を過ごしていた冬のある日、シェリル宛にセノーデル辺境伯と名乗る人物から求婚の手紙が届きます。「あなたに一目惚れしたから是非私の妻に」的な内容が書かれていたものの、必ず家族全員で出なければならない催し以外は屋敷で働いているシェリルにはとんと覚えが無い。美人と評判の妹・リリアならそんな話もあるだろうけど、と混乱する中、このクソ親父ついにはどこかでこっそり色目使って引っ掛けて来たんだろうと責める始末。それでも厄介者の娘を追い出すいい機会とばかりに了承の返事を出すと、後日輿入れの支度金2000万ジェンが届き、更にその数日後迎えに来た馬車で(結構な破格ぶりらしいのを思うと、おそらくジェン=日本円の万と捉えていいかと)シェリルは王都から片道何日もかかる雪深いセノーデル領へ。当然、支度金は一切彼女の嫁入り準備のためには使われず、持ち込まれた荷物は妹のおさがりである季節外れのドレス数枚と唯一の趣味である裁縫道具を詰めたトランク一つのみ。迎えに来た御者はあまりの荷物の少なさと、道中季節外れの薄い服で凍えるシェリルに疑問を持ちますが、使用人が侯爵令嬢に余計なことは言えないため、口を噤んでいました。そんな彼女の到着を待ちわびていた夫・セノーデル辺境伯グレイグは現れたシェリルの顔を見た途端誰何の声を上げます。実はグレイグが一目惚れし求婚したのは妹のリリアであることがすぐに発覚しますが、その美貌から数多くの男性と浮名を流し醜聞の多いリリアは外で初対面の相手にはシェリルと名乗っており、当のグレイグのことは鼻にもかけていませんでした。早馬でハルウェート家に経緯を問い合わせたグレイグは返信を読んで茫然。結婚の了承を貰ってすぐ貴族院にシェリルの名で婚姻届けを出してしまったので今更撤回できず、しかも法律上最低1年間は離縁することができません。人違いなのだから離縁後はリリアと再婚も考えましたが侯爵家側はそれを拒否、リリアも国境に近く雪国で田舎(と思われてる)辺境伯領に嫁ぐのはまっぴらだったので。フられただけでなく騙されていたショックからか、リリアでなければ離縁後に誰と結婚しても一緒だと吐き捨てるグレイグに地獄のような日々から引っ張り出してくれた上、ハンサムな彼に一目で好感を持ったシェリルは誰でも一緒なら自分ではだめなのかと縋るも、リリアの策略でシェリルこそ男狂いの好きものということにされていた彼女を妻になどとんでもないと突っぱねます。だが、書類上だけでも妻ではあるため、一年だけは屋敷に置いてやると豪華にあつらえた妻用の部屋ではなく客間に押し込まれたシェリルはそこで一人寂しく過ごすことに。父からは離縁されても屋敷に戻ることは許さないと、問い合わせの返信に同封されていたメモ紙のようなものに書かれており途方に暮れるシェリル。一年後離縁されたらどこに行けばいいのか。支度金をガメといてホントムカツクわこの家族 この件、グレイグが訴え出れば普通に詐欺罪になるのではと思いつつも、一応シェリル宛に求婚出してるからなぁ、何にせよリリアの周到さに唖然。ここから数か月もの間シェリルはグレイグには放っておかれるんですけど、潤沢な支度金を渡してるにも関わらず彼女の荷物があまりにもみすぼらしく少ないことを顔も見ようともしないグレイグは知る由もない中、執事のテリーは年の功か件の噂を疑います。世話をしながら話をするうち段々と彼女の人となりを知り、疑問は確信に変わり何くれと気にかけてシェリルに優しく接してくれるようになったテリーとセノーデル邸の使用人達。ここまで読んだ時点では侯爵家の面々より多少はマシでもグレイグがしょうもない男に見えるんですが、まー何もかも悪いのは姉の名を騙っていい顔した挙句、気を持たせるようなことをしてた上に自分の醜聞まで姉に擦り付けてたリリアですからね。何でグレイグもこんな女に惚れたのかといえば、一目惚れされる程の美人なのと、しょうもない噂の多い姉妹を気遣い庇う(勿論リリアの大嘘)姿に心動かされたかららしい。テリーのモノローグによればグレイグにとって初めての本気の恋だったというから。ちょくちょく女遊びはしてたらしいけど、早くに両親を亡くし愛に飢えてたこともあり、ああもショックを受けていたのも致し方ないのかもしれない。そんな生活が続いた中、グレイグが商談による隣国への長期出張中に起きた領地と屋敷に蔓延した流行り病の際に1人奮闘していたシェリルの働きを実際に目にしたことで彼女への誤解は解け、二人の仲が改善されることとなります。お詫びとお礼を兼ねて招待された夕食の席で、事情の説明を促されたシェリルは実家の無礼と自分が侯爵の嫡子ではないと土下座して詫び、続いてその口から侯爵家のことが語られます。一族の色味を持たない子を産んだと妻を責め追い詰め死なせた挙句、残された娘を不義の子と言い続けて使用人扱いしていた侯爵にグレイグも憤慨してましたが、それが普通の反応というもの。本来シェリルに使われるはずなのに用途不明となっている支度金のことも含め、やっぱりどう考えてもおかしいのは侯爵家の面々。グレイグは自らの過ちを心から詫び、こんな寒い雪国で季節外れの薄い生地の古着しか持たない彼女に暖かくセンスのいい高価なドレスを何着も贈り、時には領地にある市場への視察に気晴らしになればと二人で出かけ、毎日食事も一緒に採るようになる頃にはもうシェリルに惹かれていることを自ら内心でも認めます。なのに、離縁したら行き場のなくなる彼女の居場所を作ってやろうと次の嫁ぎ先を探し始める主人にテリーも困惑。清楚な見た目で優しく気立ての良い娘だしグレイグももう惚れてるのだから離縁などせずそのまま嫁として迎え入れればいいのに、今まで何か月も無視した挙句辛い思いをさせてしまった自分には夫の資格はないという。この時点で使用人たちがじれじれするほど二人は両片思いのドツボにハマってました(苦笑)グレイグ、ここからどんどんと本来のいい男に戻っていくのだけど、グルグルし過ぎてスパダリにはなりきれておらず、色々と惜しい。が、離縁のタイムリミットであった一年が終りに近づいた頃、昔からの友人の招待で訪れた隣国で二人の仲を決定づける大事件が起き、ついにグレイグはシェリルを妻に迎えることを決意。屋敷の使用人たちに祝福され晴れて二人は夫婦となりましたが、幸せな新婚生活を過ごしていたシェリルのもとにグレイグの留守中、もう一年経ったし離縁するんでしょ?とリリアが次の辺境伯夫人になるべくセノーデル邸に現れ、屋敷を占拠するというどエライことをしでかします。幸い手遅れになるギリギリのところで帰宅したグレイグの一計により事なきを得て、リリアは相当の報いを受けることになります。ここはもう読んでてスッキリしました。よしよしよくやった!どうやら、リリアはシェリルが嫁いだ後もアレコレやらかして王都にいられなくなっていました。大金ではあったけど支度金をガメてた時点でおかしいと思ってたら、やはり侯爵家の家計はひっ迫しており、頼みの綱は大物を引っ掛けてくれそうな美人のリリアでした。でも、彼女の醜聞が社交界では広がり過ぎていて都の貴族への輿入れはもう無理。そこで侯爵が持ってきたのは隣国の金持ちだがリリアよりかなり年上でしかも嗜虐趣味があると言う噂のある子爵との婚姻。身売り同然な縁談から逃げ回っていたリリアは、あんな金額の支度金をポンと出す裕福な地方の辺境伯であるグレイグを思い出し、姉の離縁後にその妻になってしまえば、起こした行動だったのです。身から出た錆とは言え実はかなり追い詰められてたのね。結果、セドリックは意趣返しとして、屋敷から緊急の知らせを受けた帰りの道中で件の子爵に連絡を取ってリリアを迎え来させており、そのまま彼女は子爵に連れていかれ事件はあっけなく終わりました。正式に式を挙げて数年後、顔はグレイグ似ながら銀髪碧眼の男の子を産んでいたシェリル。王太子の婚姻で訪れた王都で孫の姿を見た侯爵は愕然。娘を二人とも嫁に出してしまった侯爵家は跡取りがおらず、ハルウェート家の先行きは暗い。その後、侯爵から何通もの謝罪と孫との面会を求める手紙が届きますがシェリルはそれを拒否。さすがに今更、母への仕打ちと虐げられた年月を無しには出来ませんでした。セノーデル家から養子をとることはもう無理でしょうし、リリアが子爵との間に産んだ子は二人ともハルウェート家の色味を持っていなかったのは報い以外の何物でもない気はします。多分、シェリルの髪と瞳の色は母方の血の隔世遺伝とかだったんだろうに愚かなことをしたもので。この一連の侯爵家へのざまぁ要素は読んでてスッキリ。しかしながら少々ツッコミ部分も。どうもこの作者さん、物語の都合でか辺境伯をただの地方の田舎貴族として書いてる節が見受けられたのが気になって。国境の警備まで任されてるのかは不明なれど、地方長官のような役目と独自の権限ががあるらしい辺境伯が領地と屋敷を守る騎士団くらい持っていないのは・・・。屋敷がある国境付近で隣国と小競り合いでも起きたらどうすんの(^_^;)おまけに使用人の数は妙に少なく、主人の不在中とは言え、たかがリリアとボディーガード兼メイドの女二人に屋敷が制圧されてたことに違和感しかなく。それなら敢えて辺境伯になどせず、普通にグレイグは田舎に領地を構えている羽振りのいい伯爵とかでも良かった気がします。あと、グレイグの腹を決めさせるため入れたのでしょうが、体調を崩したシェリルが二人で招待された舞踏会でとある男に介抱の名目で連れ出され凌辱されかかるんですけど、とにかくこのシーンがねちっこくて肝心の二人の初夜のシーンより力入っててなんだかな、と。正直ドン引きレベルな胸糞場面なので、ヒロインがヒーロー以外に無体な真似をされるのを読むのが苦手、という方はご注意を。大筋は面白かったし不遇のヒロインものが好きな方にはおススメできます。評価:★★★★★3つ半と迷いましたが、不遇なヒロインのシンデレラストーリーは大好きなので★4つで絵柄が綺麗で可愛いコミカライズ版の方が読みやすいのですが、こちらも電子オンリーなの残念。やっぱり好きな話は紙媒体で手元に持っておきたいかな。
2022.01.10
コメント(0)
全13件 (13件中 1-13件目)
1