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従軍医と共に、再び、負傷兵の治療場へと戻ったコイユールではあったが、今しがたの突然のアンドレスとの再会に、その心はすっかりここにあらずの状態になっていた。
三年以上前に会って以来、この反乱がはじまってからは、同じ陣営にいながらも彼女の前には全く姿を現さぬアンドレスの真意は、コイユールには推察することしかできなかった。
歳月が経ち、もはや自分のことなど忘れてしまったのか、あるいは、彼の立場や責任の重さ故に、安易な行動をとれぬためなのか…。
しかし、先ほどの、アンドレスの目の色は、そして、あの時の瞬間に覚えた感覚は、コイユールの心に熱い波紋を投げかけずにはいられなかった。
いや、アンドレスの真意は、結局は、今も、わかりはしない。
アンドレスの自分に対する感情がどうであるか、ということよりも、むしろ、コイユールは、己のアンドレスに対する感情の強さを、再び、真正面から突きつけられた思いに憑かれていたのだった。
アンドレスがインカ軍で重要な位置にあり、彼なりに懸命にその責を果たそうとしていることを認識していた彼女は、彼が存分に力を発揮できるように決して邪魔はすまいと、そして、自分も自分なりにインカのために精一杯のことをしていくのみだと、心を既に整理していたはずだった。
だというのに、偶然、アンドレスを間近に目にしただけで、これほどに心が動揺し、胸苦しいのは、どうしたことだろう…――!!
(私、本当は、アンドレスのこと…全然、気持ちの整理なんて、ついていないのでは?)
自問自答しながら、無意識に深い溜息が漏れる。
ふと気付くと、すっかり上の空になっていた自分の手は、全く誤った薬草の配合をしているではないか。
(いけない…しっかりしないと!!)
すっかり慌てて薬草を配合し直しているコイユールに、やはり負傷兵の看護に当たるインカ族の女性が、心配そうに視線を向けた。
「コイユール、少し休んだ方がいいわ。
ここは、私が見ているから、ね。」
と、優しい笑顔で促してくれる。
コイユールは申し訳なさそうに瞳を揺らしたが、しかし、とても仕事が手につく状態でないのは、自分が一番よくわかっていた。
「ありがとう…。
それじゃ、ちょっと…外の空気でも吸ってこようかしら。」
「行ってらっしゃい。」
再び相手の優しい笑顔に背中を押され、コイユールも微笑み返し、「それじゃ…。」と、治療場を出ていった。
治療場を出ると、既に、雪のやんだ夜の野営場のそこかしこからは、兵たちが炊き出しをしているのだろう、煮炊きされた食物のにおいが漂ってくる。
そんな空気の中を歩んでいると、ふと、祖母のいる故郷が無性に懐かしく思い起こされてきた。
「お婆ちゃん…どうしているかしら…。」
しかし、たちまち故郷の連想の中から祖母の姿は消えゆき、やはり、そこに現われ出(い)でてくるのは、まだ少年だった懐かしくも愛しいアンドレスの姿ばかりであった。
いっそう切ない思いで胸が締めつけられる。
コイユールは、記憶を吹き飛ばすように、思い切り頭を振った。
そして、険しい目で前方を見据えながら、意識的にアンドレスのことは考えまいとしながら、当ても無くただ野営地を歩みはじめた。
◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆
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