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にわかに兵を退(ひ)きだしたアラゴン軍を逃がしてなるかと、アパサ軍の兵たちが追撃態勢に入っている。
敵味方が激しく入り乱れた接近戦と化していたため、いざや退くとなっても、それはアラゴン軍の兵たちにとって容易いことではなかった。
だが、今や戦場は、水煙が立ち上るほどの酷い土砂降り状態である。
天から叩きつける雨脚は、鉄壁の水のカーテンとなって、数センチ先の視界さえも遮断する。
それでも、アパサは、戦場を駆け回って執拗に敵兵を追い求め、さして大柄でもない肉体のどこから湧き出るのかと思えるほどの猛烈なパワーで、特大の戦斧を振るっていた。
しかし、さすがのアパサも、狂ったように降りしきるゲリラ豪雨の中で敵兵を次々に見失い、奥歯をギリギリと噛み締めて厳つい双肩をわななかせている。
彼は、強度の憤激のために、野生児のような散切り頭の髪を逆立たせ、天を仰いで吠え上げた。
「おい、雨っ!!!
おまえは俺たちの味方なのか、それとも、敵どもの味方なのか?!
もうちょいで副王直下の大敵を完全に打ちのめすことができたってのによぉ!!」
とはいえ、どんなに天に向かって管巻(くだま)いてみても、この悪天候の中で、これ以上の戦いの続行は、味方の兵のためにも無理があると、さしものアパサ自身も察していた。
そう理屈では分かっていても、腹の底では、自軍が優位であったという思いがあるだけに、アラゴンを取り逃がした上、このような中途半端なかたちで戦さの続行が困難になってしまったことが口惜しくてならなかったのだ。
そのようなアパサの耳に、ゴウゴウと滝のように唸る雨音の向こうから、聞き覚えのある若者の声が懸命に呼びかけているのが聞こえてきた。
「アパサ殿!!
そこにいるのはアパサ殿ですよね?!
ああ、やっと見つけました。
この豪雨だし、誰も彼もが泥だらけだし、探すのに難儀しました。
とにかく、やっとお会いできて良かったです。
俺です、アンドレスです!
トゥパク・アマル様の伝令でまいりました」
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アパサ≫(インカ軍)
隣国「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。
「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。
◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆
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