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二人で抱き合いながら泣いてしまうなんて、
自分でも情けないよな。
せめて僕だけはしっかりしないと、と思ってるのに。
かぐや姫はもうすぐ月に帰ってしまうんだ。
頭では分かっていても、とても信じられない。
そんなこと信じたくないのだ。
十五夜の夜だと言うのに、月の使者なんて来ないじゃないか。
たとえ来たって、帰すものか。
彼女を抱きしめる手に力がこもってしまう。
「苦しいよ。」
しゃくりながら、あえいでいる。
少し手を緩めて、彼女の顔を覗きこむ。
「ごめん。離したくなくて。」
「嬉しいけど、痛いよ。」
涙で濡れた顔で笑ってみせる。
こんな時でも笑顔が眩しいな。
こんな時だからこそか・・・。
やっぱり引き止めるのは無理なのかな。
未練を断ちがたい。
月が急に大きくなったように見えた。
光が膨らんで、何かが降りてくる。
月の使者か。
彼女を渡すものか。
肩をぐいと引き寄せた。
降りてきたのは、天女のような女性だ。
最初かぐや姫に逢ったときのような薄絹を着ている。
羽衣というべきなのだろうか。
「今までかぐや姫を守ってくださって、ありがとうございます。」
丁重に頭を下げられると、調子が狂うなあ。
「どういたしまして。」
僕まで礼をしてしまう。
「今日はかぐや姫をお迎えに来ました。」
そう言うと、彼女を引っ張っていく。
言葉は柔らかいが、力は強いのだ。
女性とは思えない。
「彼女は僕といるんだ。」
引き戻そうとするが、力が入らない。
どうしたというんだろう。
彼女はうつむいているばかりだ。
「さあ、帰りましょうね。」
月の使いは彼女を促した。
「帰りたくない。」
声は小さいが、凛として言う。
「そんなわけにはいかないのです。」
有無を言わせず、連れ帰ろうとする。
僕は体が動かなくなって、
口さえも思うように動かない。
目だけが彼女を追っていく。
「十三夜の月を見てね。」
振り返りながら、彼女が叫ぶ。
首を縦に振ったつもりだが、
彼女に伝わっただろうか。
だんだん遠ざかって行く彼女を見ながら、
また涙がこぼれてきた。
せめて彼女の姿を目にとどめたいのに、
霞んできてしまう。
涙をぬぐおうにも、手が動かないのだ。
ただ呆然と立ちすくんでいるしかなかった。
空のかなたの彼女が霧のように消えていくのを見つめながら。
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