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無理にかぐや姫のものを処分することはないよな。
たとえものがなくたって、忘れられるわけがないんだから。
このお弁当だって、無理して全部食べる必要はないのかな。
なんて思ってるうちに、彼女も頑張ってたいらげてしまった。
「お腹一杯。もう歩けない。」
僕にもたれかかってきた。
「しょうがないなあ。山頂まで行くんだろう。」
「だって、お腹が重いんだもの。」
「そんなに一杯食べなくてもいいのに。」
急に黙り込んでしまう。
僕と同じ思いなのだろうか。
「もう少し休憩してから行くかい?」
「いいよ。腹ごなしに歩くから。
その代わり、引っ張ってね。」
「重くて引っ張れないよ。」
「ひどい」
唇を尖らせると小鳥みたいだ。
「じゃあ行くよ。」
手を差し伸べると、
すがるようにつかまってくる。
切なくなるけど、懸命にこらえて立ち上がらせた。
最後までもつかな・・・。
手を繋いだまま、先に歩き出す。
「そんなに引っ張らないで。痛いよ。」
「引っ張ってと言ったくせに。」
後ろを振り返らずに言う。
「もう少し優しくして。」
哀しげな声出すなよ。
こっちまで哀しくなるじゃないか・・・。
「ごめん。」
歩調をゆっくりにした。
二人で黙々と歩く。
段々日が傾いてきた。
林が切れたところから、
ふもとの湖が見える。
夕焼けが映って、紫色になっている。
幻想的な眺めだなと
見入ってしまった。
彼女もじっと見つめている。
でもその目はもっと遠くを見ているようだ。
僕は目に入らないのだろうか。
目が潤んでいるように見えたのに、
急にこっちを見ると
「早く行こう。」
と手をつかんで歩き出す。
いつの間にか手が離れていたんだな。
それさえ気がつかないなんて。
今度は彼女に引きずられるように、
山頂へ向かった。
そこに行くと月の使者が来てるような気がして、
足取りが重くなる。
まだ月も出てないのにそんなわけないよな。
自分にそう言い聞かせながら、足を進める。
やっと着いた時は、もう暗くなっていた。
うっすら月も出てきた。
やはり満月だ。
昨日とどこが違うのかと思うが、
微妙に違うんだろうな。
たったそれだけで帰ってしまうとは。
彼女を探すと、展望台のベンチに座って、
ぼんやり月を見上げてる。
「十五夜のお月見をしたら、
十三夜にも同じ場所でお月見しないといけないのよ。」
つぶやくように言っている。
「ここでまた十三夜の月見をしないといけないのか?」
「 片見月
と言って、
両方見ないと不吉なんですって。」
「脅かさないでくれよ。」
笑おうと思ったけど、頬が引きつってしまった。
一人でまたここまで月見しに来るなんて、
勘弁して欲しいよ。
二人だって大変なのに、
一人なんて淋しくてやってられない・・・。
「無理して来なくていいのよ。」
ぼそっと独り言のようだ。
「分からないよ。そのときになってみなきゃ。」
これが本音だ。
「そうよね。」
なんか他人事のように浮け流す。
ベンチの背もたれに体を預けたまま、
身動きひとつしない。
揺り動かしたいような気がしてくる。
このまま月に連れて行かれるのは嫌だ。
「十三夜の月見に来るよ。」
うつろな目が僕を見据える。
「本当?」
正気を取り戻した目だ。
その目から涙が零れ落ちた。
思わず抱きしめてしまう。
「必ず来るよ。」
「きっとね。約束よ。」
僕まで涙が溢れてしまっていた。
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