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2014.04.12
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カテゴリ: 読書案内
【吉川英治/新書太閤記 二巻】
20140412

◆天が味方についた時、常識は覆る
静岡県は大きく区分すると、西部、中部、東部の三つに分けられる。
中部というのは、県庁所在地でもある静岡市を中心とした区域なのだが、その昔、駿河の国と呼ばれていた戦国時代、今川義元を筆頭にこの地をおさめていた。
その家風は「すべてが公卿風であり、下は京好み」であった。
その影響で平成の今もなお、名残りがあるとは思えないが、それでも町並みは優雅で上品、ことばの響きもおっとりした特徴を持っている。
一方、西部は浜松市を中心とした区域なのだが、隣接した愛知県の三河地域とよく似た特性を持つ。
艱難辛苦の幼少期を送った徳川家康の無骨な侍魂が根強く感じられる。
職人気質を育む土地柄のようで、現代も“ものづくりの街”として定評がある。

『太閤記(二)』では、浜松市民のそんな気質の礎となった徳川家康が、まだ松平元康という名で駿河の今川家に人質として留まっていたころの話である。
また、このころ漸く尾張の織田信長の名が世間に知られるようになった時代ともリンクする。

吉川英治の描く人物像に、完全な悪人は存在しない。
公卿風の今川義元は、どうかするとお歯黒大将のように揶揄されがちだが、決して凡将ではないし、いざという時は誰よりも早く形勢全体を察知し、いたずらに右往左往などしなかった。
読者はその時、否が応でも気づいてしまう。
どれほどの名将とはいえ、富を謳歌し、兵馬に優れたものを揃えてはいても、天に見放される場合があるのだということ。
要するに、自分の力ではどうしようもできないことが起こりうるのを示唆しているのだ。

いつのころからか我々は、“やればできる”“夢は叶う”“人一倍の努力によって自己実現”という途方もない幻想に踊らされて来た。
もちろん、ある程度の段階までは日々の積み重ねによって到達できるかもしれない。
ほんの一握りの人に限っては、幸運にも、心願を成就させるかもしれない。
しかしながら、800年も前の歴史をひもといた時、人の前に運命という巨大な海原が広がっていることに気づかされる。
だからと言って、たゆまぬ努力を放棄せよ、とは言わない。
ただ、如何せん計画どおりにはいかないのが世の常であるとだけ言っておきたい。


兵の数では圧倒的に不利だった織田勢が勝利するのだ。

人間五十年 下天のうちを較ぶれば
夢まぼろしの如くなり
ひと度、生をうけて 滅せぬもののあるべきか

この時、天を味方につけた信長だったが、その栄光も永遠ではない。

同時に、人の命運は絶えず転がり続けていて、一定ではないことも知る。
『太閤記』は、秀吉を中心とした軍記物語ではあるが、読者にそこはかとない哲学的命題を突き付けているようにも思えた。

『新書太閤記(二)』吉川英治・著

~ご参考~
・新書太閤記 一巻は コチラ

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.121)は吉川英治の「新書太閤記 三巻」を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.04.19 05:54:32
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