JEWEL

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2026年03月12日
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てんぱる様 からお借りしました。

「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

(暑いな・・)

ジェフリーは、額に浮かぶ汗を乱暴に手の甲で拭いながら、何度目かの溜息を吐いた。
彼は懐から、出陣前に海斗から渡された簪を取り出した。
(カイト、俺は必ずお前達の元へ帰る。)
「青天君様。」
「敵の動きは?」

「問題?」
「それが、敵兵にはかなり腕の立つ呪術師が居るとか・・」
「戦に呪術師なんて要るのか?」
「古来から、呪術師の存在は彼らにとって必要不可欠な存在だったらしい。人の生死や戦の勝利、政・・呪術師は時の権力者の駒として使われていたようだ。」
「呪術師の事にやけに詳しいな、ナイジェル。」
ジェフリーの親友であるナイジェル=グラハムは、ジェフリーの言葉を聞いた途端、顔を曇らせた。
「まぁな・・」
「済まない、不味い事を聞いたな。」
「嫌、気にしていないからいい。それよりもジェフリー、麗妃について色々とわかった事がある。」
「色々とわかった事?」
「あの女は、王都の近くにあった妓楼へ幼い頃に売られたらしい。」

「まぁ、話を聞け。麗妃は、元は小国の貴族の娘だったそうだ。あの女は野心家で、お前を亡き者にしたいのだろう。」
「そうはさせないさ。」
ジェフリーがそう言った時、彼が立っていた木の幹に、深々と一本の矢が突き刺さった。
「敵襲だ!」
「クソ、俺達を見張っていたのか!」

小高い丘で微かな呻き声が聞こえた。
「あそこだ、ジェフリー!敵は丘の向こうに!」
ナイジェルがそう叫んだ時、彼は急に激しい頭痛に襲われた。
「どうした、ナイジェル?」
「わからない・・急に頭が・・」
―見えているぞ。
ナイジェルが突然苦しみ始め、ジェフリーが戸惑っていると、急に自分の頭の中で誰かの声が聞こえたような気がした。
気の所為かと思い、周りを見渡したが、誰も居なかった。
―何処へ逃げても無駄だ。
また、誰かの声がした。
「ジェフリー、逃げろ・・」
「ナイジェル、お前を置いていけない!」
「あいつらが・・」
「そこまでだ。」
ナイジェルとジェフリーの前に、数人の男達が現れた。
「誰だ、お前達!?」
「それは今から死ぬ奴には関係のない事だ!」
男達の中から一人、長身の男がジェフリー達の前に現れると、長剣の刃先を彼らに向けた。
「ふん、そっちがそのつもりなら俺達もお前らを生きて帰す訳にはいかないな!」
両者の間に剣呑な空気が流れた時、彼らの前に長身の男達を両脇に従えた一人の少女が現れた。
「ラキーシャ様・・」
「あなた達は、下がっていなさい。わたしは、この方達と話したい事があります。」
銀髪をなびかせた少女は、そう言いながらジェフリーとナイジェルを交互に見つめた。
『もしかして、あなたが噂の呪術師様ですか?』
『まぁ、わたくしの事をご存知なのですね?あなたは?』
『ナイジェル=グラハムと申します。』
『では、こちらの方が・・』
少女はナイジェルからジェフリーへと視線を移すと、嬉しそうに黄金色の瞳を潤ませた。
(何だ?)
ジェフリーが訝し気に自分の隣に立っているナイジェルの方を見ると、彼は苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
(あぁ・・そういう事か。)
呪術師といえども、所詮人の子である。
ましてや年端のゆかぬ少女であれば、ジェフリーの美貌に見惚れぬのも無理もない。
『客人達をわたくしの宮殿へ案内なさい。』
『ラキーシャ様・・』
『さぁ、こちらへどうぞ。』
ラキーシャに案内され、ジェフリーとナイジェルは彼女が所有する宮殿へと向かった。
『ラキーシャ様、お帰りなさいませ。』
『お帰りなさいませ。』
『お客様をお部屋に案内しなさい。』
『はい・・』
呪術師・ラキーシャの侍女と思しき銀髪の少女達は、ジェフリーとナイジェルの顔を交互に見た後、頬を赤く染めて俯いた。
『こちらです。』
「中々いい部屋だな。ナイジェル、何でそんな顔をしているんだ?」
「別に。」
『失礼致します、宴の用意が出来ましたので、大広間へお越しください。』
『わかった、すぐに行く。』
客室の扉が閉まった後、ナイジェルは溜息を吐いた。
「どうした、溜息ばかり吐いて?」
「上手く行き過ぎているな・・何か罠があるんじゃないのか?」
「お前は人を疑い過ぎだ、ナイジェル。ラキーシャっていったか?あの子は可愛かったなぁ。」
「お前、悪い癖を出すなよ?」
「はは、わかってるよ。」
「どうだか・・」
ナイジェルはそう言いながら、ジェフリーと共に大広間へと向かった。
そこでは、贅を尽くした様々な料理や酒が並び、美女達が舞い踊っていた。
「中々のものだな。」
ジェフリーがそう言いながら笑っていると、そこへ美しい衣装を纏ったラキーシャが彼の元へとやって来た。
『ようこそ、いらっしゃいました。』
『ご招待して下さり、ありがとうございます。』
『宴をどうぞ楽しんで下さいね。』
ラキーシャはそう言ってジェフリーに微笑むと、そのまま侍女達と共に大広間の奥へと向かった。
『如何ですか?炎の酒ですよ。』
『炎の酒?』
『ええ、わたし達の故郷では実った果実をすり潰し、その中に酒を注いで混ぜ込む事で完成したものです。』
『どうぞ。』
ナイジェルと共にジェフリーが炎の酒を一口飲むと、甘酸っぱい味が口の中に広がった。
『美味いな。』
宴の喧騒の中、ラキーシャと彼女付きの侍女、アイーシャとリューシャは、宮殿から離れた神殿へと向かった。
そこは周囲を森に囲まれており、華やかな宮殿から少し離れていて、宴の音楽が微かに聞こえてくる位で、広大な神殿は静寂に包まれていた。
『さぁ二人共、こちらへ来なさい。』
『はい。』
ラキーシャは神殿に祀られている獅子の像の前へと二人を立たせた。
『この像に願いを言えば、必ずその願いは叶うと言われているの。さぁ、あなた達も自分の願いを言いなさい。』
『ラキーシャ様には、叶えたい願いはあるのですか?』
『いいえ。今までわたしが願った事は、全て叶ったから。願いがなければ、無理に言わなくてもいいのよ。』
『はい・・』
『そろそろ、戻りましょうか。あの方は、わたしが居ないと機嫌を損ねてしまうから。』
そう言ったラキーシャの顔から、笑みが消えていた。
一方、宮殿の大広間で宴を楽しんでいたジェフリーとナイジェルは、一人の男が酒を飲んで騒いでいる事に気づいた。
『ラキーシャは何処だ!?』
『落ち着いて下さいませ、ラキーシャ様は間もなくいらっしゃいますから・・』
『ええい、早くラキーシャを呼んで来ぬか!』
太った男は、十指に嵌めた指輪をジャラジャラと音を立てながら、まるで幼子のように癇癪を起こしていた。
「何だ、あの男は?」
「さぁな。」
女達が癇癪を起こしている男を宥めていると、大広間にラキーシャ達が戻って来た。
『ラキーシャ、会いたかったぞ!』
『お待たせしてしまって申し訳ありません、フィーネ様。』
ラキーシャが太った男に声を掛けると、彼はラキーシャに抱きついた。
『わたしを独りにしないでくれ!』
『はいはい、わかりましたよ。』
明らかに自分よりも十歳も年上の太った男に対し、ラキーシャはまるで男の母親のように、彼に接した。
(まるで、あの男のようだ。)
ジェフリーの脳裏に、あの日の光景が浮かんで来た。
まだ実母が生きていた頃、ジェフリーは海斗と息子が居る春宮殿に住んでいた。
ジェフリーの実母は、美しく聡明な女だった。
それ故に皇帝から寵愛を受け、その所為で女達の嫉妬と悪意の的となった。
実母はいつしか精神を病み、皇帝は彼女を捨て、新しい妃を後宮に迎えた。
それが、麗妃―ラウルだった。
麗妃の執拗かつ巧妙で悪辣な嫌がらせに、ジェフリーの実母は春宮殿の自室にある梁で首を吊った。
それを発見したのは、七歳だったジェフリーだった。
―母上、起きて!
美しかった実母は、全身から汚物を垂れ流し、虚ろな彼女の瞳は濁った硝子玉のようだった。
誰が、実母を殺したのか。
『お可哀想に、まだ青天君様は幼いというのに・・』
葬儀に現れた麗妃は、そう言いながら涙を流した。
(俺はお前を決して許さない。)
―いつか、麗妃に血の涙を流させてやるーそんな想いを抱えながら、ジェフリーは生きてきたのだった。
「ジェフリー、どうした?」
「いや・・少し、昔の事を思い出していたんだ。」
「そうか・・」
ジェフリーの凄惨な過去を知っているナイジェルは、何も言わずにジェフリーから離れた。
「何処へ行く?」
「少し、外の風に当たってくる。ここは少し暑いからな。」
「わかった。」
ナイジェルは人が溢れる大広間から、人気のないバルコニーへと向かった。
冷たい夜風が自分の頬を撫でるのを感じながら、ナイジェルは宮殿のバルコニーから母の故郷を眺めた。
ナイジェルの母は、ラキーシャと同じ呪術師であった。
美しく艶やかな髪をなびかせ、青灰色の瞳を持つ美人だった。
美しく聡明なナイジェルの母は、ナイジェルの父に見初められ、彼の妾となった。
名家の御曹司であるナイジェルの父の妾となっても、母は彼に頼らず、女手ひとつでナイジェルを育てた。
呪術師でありながらも、手先が器用であった母は、先祖代々から伝わる刺繡の技術を用いた装飾品を売り、生計を立てていた。
暮らしは余り豊かではなかったが、ナイジェルは母と一緒ならば何も要らなかった。
このまま、幸せな暮らしが続けばいい―ナイジェルはそう思っていた、あの日までは。
ナイジェルの母は、仕事でナイジェルが家を空けていた時に、彼の異母弟に殺された。母の亡骸を手厚く葬った後、ナイジェルはその足で初めて父の元へ―グラハム家へと向かった。
母の仇を討とうとしたナイジェルは、一瞬の隙を突かれ、異母弟から右目の光を奪われた。
しかしナイジェルが異母弟に抱いたのは、憎しみではなく憐みの情だった。
グラハム家の世話になりたくなくて、軍に入った。
ナイジェルはジェフリーにその才能を見込まれ、彼の副官にまで出世した。
(母さん、母さんの故郷は美しいな・・一緒に見たかったよ。)
ナイジェルがバルコニーで暫く感傷に浸っていると、そこへ一人の少女がやって来た。
『もし、あなたは・・』
少女は、そう言ってナイジェルを見つめ、次の言葉を継ごうとした時、ラキーシャが彼らの元へとやって来た。
『グラハム様、あなたにお会いしたいとおっしゃる方が・・』
『俺に?』
『はい。わたくしと共に、神殿へ来て下さいませんか?』
『わかった。』
ラキーシャに連れられ、ナイジェルは宮殿から出て神殿へと向かった。
『こちらです。』
ラキーシャと共に神殿の中へと入ったナイジェルは、不気味なほどに静寂に包まれた空間の中央に、供物台のようなものが置いてある事に気づいた。
『ラキーシャ様、俺に会いたい人は何処に?』
ラキーシャは、隠し持っていた短剣をナイジェルに向け、彼にこう告げた。
『あなたには、ここで死んで頂きます。』

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最終更新日  2026年03月12日 20時48分43秒
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