陽炎の向こう側　　浅井　キラリ

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2008/09/23

森口は、大きなため息をついた。

「どうしたんだ？森口のため息は、ろくなため息じゃないからな。」

「びっくりさせるなよ。いきなり後ろから。何でもないよ。言うと、お前に、またお叱りを頂戴するからな。」

「あの女性のことだろ？どうせ。わかっているさ。行き詰まったって訳か。私立探偵さん。」

「まったっく、お前ってやつは。その通り。いいか、これで。」

「どこまで、分かったんだよ。」

「その写真らしき女性は、結婚していて、２児の母親らしい。

彼女と親しかった女性が職場に残っていて、電話して聞いたんだが、アメリカに行って去年の夏の初めに帰ってきたらしい。

ただ、帰ってきてから、出産して以来連絡を取り合っていないと言っていた。

「結婚していて、アメリカに夫の赴任か何かで行っていて、二人目の子供も出産して、幸せそのものの家庭じゃないか。

そんなところに、あの患者の亭主が入っていく隙なんてないと思うけど。

第一、接点がないじゃないか。

奇跡的に、街で出会ったとしても、お互いに家庭があるんだし、彼女は、２人の子供の母親だ。

関係ないと思うよ。」

「そう思うんだけれど・・・・。」

「またまた、お前の、だけどが始まったか。

前も言ったが、お前は、精神科の医師で、私立探偵じゃないんだ。

その患者さんを精神的に立ち直らせるお手伝いをするのが役目だろう？」

「今更、言われなくたって分かっているさ。

でも、なんか、引っかかるんだよな。

優しい、ご主人だったはずなのに。

彼女の川村さんのご主人に向ける言葉にはものすごい棘があったよ。

女性の方から身を引いていったそうだからな。」

「じゃあ、なおさら、今更、二人の間に何かがあるわけないじゃないか。

そのご主人だって、今から１０年以上も前のことを悔いて、自殺なんかするか？」

「お前、間違っても、その女性の亭主の所に電話なんかするなよ。

問題を大きくするな。

患者さんに、前向きになってもらうことだけに専念しろ。

彼女にとってもそれが一番だ。

過去を振り返っても苦しむだけだ。新たな、生きる道筋を付けてやるのが、今のお前の仕事だろう？」

「そうだな。川口の言うとおりだ。」

そう言ったものの、森口の心のなかで、『彩子』という女性が気になって仕方なかった。

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