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車窓からのどかな光が差し込んでは、長女の足元で揺らいでいる。 「見せて」 と、横並びの座席の左隣から右手を伸ばして手のひらを広げた。 「え、何を?」 「デジカメ」 「ああ、デジカメね」 わたしはバッグをまさぐって、それを彼女の手のひらに乗せた。 長女は、しばらく無言で撮りためていた画像を見ていた。 「これはどこ?」 最近通い始めたバーの料理を撮った画像をわたしに示した。 「たまに立ち寄っているバーだよ」 「これは?」 「ああ、先日行った鎌倉、東慶寺」 「へぇー」 「何?」 「なんでもないけど、ちょっと安心した」 「何を?」 「うん。適当にさ、愉しんでいるんだなぁーって」 「そう?」 きっとわたしのことが気がかりなのだろうけれど、青春真っ只中の長女は、忙しくて仕方がないのだ。 先ほどまで四、五人でにぎやかにしゃべっていた中年女性グループが降りて、わたし達はその後に坐ったばかりだった。 「あんな風にはならないで」 と、そのグループに眉をひそめていた。 「ご心配なく。一人遊びができるんだよ、母さんは」 わたしは笑いながら答えたが、長女はわたしがつるむ事が嫌いなことを誰よりも知っていながらの忠告だった。 「だから安心した。こうして愉しんでいるんだなぁって」 長女は笑った。 わたしも笑った。 もちろんわたしは、時として大勢といるときも楽しいし、どのようにも対応できるファジーな人間なのだけれど、一人の方が圧倒的に多かった だから傍から見ると、かなり孤独で寂しそうに映るのかもしれない。 時折、娘たちと小さな旅をする。 そんなとき、わたしは幸せを噛み締める。 大人に成長した彼女らを眺めるのも嬉しいし、厳しく躾けた成果を垣間見る機会でもあった。 「今度はWちゃと一緒に旅がしたいね」 と、長女。 次女とは勤務のシフトの関係で、なかなか一緒に行動が取れないでいた。 「そうね。一緒だともっと楽しいよね」 小さな旅でいい。 小さな旅がいい。 そこで得る会話は、宝石のようにまばゆいから。 次はいつになるのかなぁ。 足元の光は車窓から入り、影や日向を繰り返しては出ていった。 こんなささやかな瞬間が、わたしの幸せなのだった。
2009年03月22日
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先週の日曜日。 あまりの陽気に誘われて、ぶらり北鎌倉へ。 早春の花々が青い空をバックに、伸びをしているようだった。 春はいいなぁ。 冬眠から目覚めたカエルさえ、絵になるから。 大きく深呼吸をして、春を吸い込んだ。 からだの中を通り抜ける風が、鬱屈していた冬を追い出してくれた。
2009年03月18日
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仕事の忙しさに翻弄されていたら、辺りはもうすっかり春になっていた。 柔らかで優しい光が開け放たれたべランダから入ってきて、白いレースのカーテンの上で踊っている。 あの厳しくて寒かった冬から、どうやら開放されつつあるのだろう。 春は良い。 大地が目覚めて、そして人間も覚醒する。 日本人に生まれて良かったと思う瞬間だ。 長かった南洋生活は、頭の切り替えがどうもうまくいかなかった。 一体今が何月でどの季節なのか、からだが覚えられなくて困ったものだ。 四季ごとに、今はどの季節だと実感し堪能できる日本は、外に出なければ分からなかったことである。 さて。 三月もすでに真ん中。 もう少しで百花繚乱が訪れる。 そんな気配を少しからだで感じてこよう。 今日はいざ、鎌倉だ。^^
2009年03月15日
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