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軒並み賑わいだ商店街。 僕は真っ赤なポインセチアに目を落とした後、本来苦手な人込みに紛れる。 「本当に好きなんだね、こういう通りが」 優がそのまま首を傾げれば、僕の肩に乗るバランスを得ているのに、僕等には何も起こらない。 見上げる眼差しにドキっとするだけで、僕はお預けをくらったままだ。「わー!簪(かんざし)がある」 僕よりずっと年上なのに、浅草がそんなに珍しくて新鮮なのか。 優は布やべっ甲の簪に見惚れている。 僕は隣のかぐや姫を月に帰したくない。 「それでさあ、先週あそこで買った毛糸、何か作ったわけ?」「セーター・・・・・ああマフラーって言っておこう。 浩樹とお父様の分よ」 ふたりの間に暮らしの匂いが入ると、僕は揺れる。 「嬉しいな! そう言えば先週、横浜に送ってくれた花、ウイン・・・えーと」「ウインターコスモス」「そう、それ。 親父、喜んでいたよ。 母は花が凄く好きだったし」「お茶目な花でしょ。 多年草だから毎年お友達を増やしてくれるわよ、きっと」 優は時々革ジャンを掴んで、僕からはぐれないようにしている。 「イブはどうする?」 一番のメインを、辺りの発色や活気に紛れさせて言ったのに、優は空かさず反応した。 「車で冬の海を見に行く? 」「駄目よ!車は走る個室だから。 ハンドル一つで何処にでも行くのよ、あの物体」 優は瞳の奥で謎めいた輝きを見せた。 僕は何度かそれに出会っているけれど、優の思わくに頷くと、彼女はとても可愛い仕草で僕を覗き込む。そして僕はそれにやられる。 「東京タワーはどう? 」「いいね!」 東京タワーは小畑千恵子と行った思い出の場所で、それから間もなく僕等は別れた。 今、何故そんなことを思い出すのか。 優のOKに言葉以外のアクションがあってもいいのに、僕は千恵子を思っている。 まるで魔法にかかったように千恵子が消えない。 「浩樹、昔の恋人を思い出してるでしょう?」「どうして?」 (わかるの?) その時、僕に魔法をかけているのは実は優ではないかと、ふと思った。 photo by kitakitune07さん
2007/08/30
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雨の囁き 秋の足音 今朝の目覚めは、心地よかった。 昨日まで熱を溜め込んだ地面は、しっとり濡れて気持よさそう 夫 「抹茶金時みたいだな,これ」 ~ 妻 「そういう生活感が感性のアンテナを壊すんだわ!」 もう編み編みは終り・・・こういう雨の日が好き。ひとりの時間が好き。 早々に家事を追え、マイブームに取り掛かろう。 BMはミスターロンリー、マイ・ディアライフ、他ジャズ「メイクアップシャドウ」 by 井上陽水。 袋田の滝 photo by NOBU
2007/08/29
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「失礼するよ」 一刻も早くこの圧力から開放されたい。 体のすみずみまで衝撃を浴びた俺は鉛のような心臓を抱えて立ち上がった。 「血は争えないわね、誠二さん? もちろん私も・・・・・」 優の声を背中で聞き、壁の無い個室を出ようとした。 一歩が出ない。 どっちの足も言う事をきかない。鏡に映った目は充血し、毛穴からは汗が噴出し、声も出ない。「君の母親は誰? レイプした男は? 毒殺? 親父の始末は?・・・・・」 やがて俺は目覚めた。 見慣れた天井、ベッドカバー、シンプルなスタンド、遮光カーテン、クリスマスローズの鉢、遊泳する熱帯魚、馴染んだ空気、車道と摩擦を繰り返すタイヤの音、淡々と時を刻む時計。 汗でぐっしょり濡れた体を横たえたまま、動悸が治まるの待った。 俺が正常になった頃、眠剤さえ打ちのめした夜がしらじらと明けた。タイマー作動した暖房のウイングが左右に動き出した頃、俺はジャケットからタバコを取り出した。閉じられたカーテンの端を摘まんで外に空があることを確認した後、ひんやりしたソファーに腰を下ろし、冷静に「夢の中の現実」に思いを巡らせた。 もうこれ以上の過酷に苛まれることはないと苦笑した。 「夕舞」で最後に聞いたのは、千恵子の名前だった。 総てのものと関係している・・・・そんな笑みを浮かべた優も、しだいに勢いを失い焦燥の檻の中に沈んでいった。 前で肩を落とす男に喰らいついて失ったエネルギーが優の体を空洞にした。「俺は千恵子を犯していない。 父親と同じ罪を犯していない。 千恵子は死んでいない。君と千恵子の接点がない。 君は妹ではない」 俺はひとつひとつを否定した。 「どうってことないさ・・・・・通りすがりの女と終わっただけのことだ。肌に合わない本のページを一枚捲って溜め息をつけば総てが終わる」 photo by kitakitune07さん
2007/08/27
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どんな役回りか、女は優の微笑みに応えるように美しい指である方向を示した。「この植物、『見返り美人』って言うんですって」 大きな見返り美人の隙間で、月のような心細い灯りが揺らめき、独特の空気が漂う。 壁のない個室に導かれた俺は、澱んだ圧迫にじわじわと固められ、これも優が仕掛ける夢なのだ、と言い聞かせた。「不愉快だ!」と言って出口に向かう男を、「通せん坊」と、両手を開いて優が止めた。悪戯な小悪魔は、立ち去るには不自然な間あいを与えて、冴えない男の足を止めた。 大理石のテーブルに音もなく置かれたグラスの水を、俺は一気に飲んだ後、隣の優をチラッと見た。 彼女だけが今の状況にふさわしい顔をしている。 ただこのままでは気持ちにけじめがつかない。 たぶん前にいる男も・・・・・「私は帰る・・・・・」「待って」 テーブルに置かれた写真には色褪せた茂みを背景に、若い女性がレンズを見つめてにっこり笑っていた。「誰だ? 知らん」「こちらはいかが?」 二枚目の写真をゆっくりテーブル這わせる優の顔は、自信に満ちていた。 「横浜、港の見える丘公園?・・・・」 馴染みのあった場所を口にした俺は、思わず写真を手に取って凝視した。(親父と・・・・・優?)「誠二さん、私は父親にも母親にも似ているってことね」「そ、そんな・・・・・」「今更! 馬鹿げている」「今更? 認めて下さったみたいね」 俺が男と呼ぶ人の声は既に冷静さを失い、優を取り巻く空間にがんじがらめにされていた。俺は彼女の証人になっていた。 それだけではない。 彼女の手中に握られたものは、今か今かと開放を待っている。「昔のことだ」「社長さん、よくある話とは言わせない。 『現場に出くわせた恋人』を装った名優さん?レイプさせたあの男は、体が覚えていると言ったわ。 レイプでしか味わえない快感とお金の両方を手に入れたって、額をてからせ獣のような血走った目でそう言ったわ・・・・社長? そこまでして手にした御令嬢との長い長い結婚生活はいかがでした? 」 俺は震えた手で空になったグラスを握っていた。 photo by しっぽ2さん
2007/08/25
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一片(ひとひら)のページを捲るように夜が去った。俺の脳は消化不良でイカれ、澄んだ冬の青空を見ることもできない程の不適合を極めていた。 もう彼女はどこかへ消えただろう。 ある晩マンションの扉を開けて俺に微笑み、ある日花に頬を近づけて清楚に佇み、ある晩夢に現われて俺を誘い、それはとめどなく非凡に満ちた時間の流れだった。「どうせなら、三人で御一緒しません?」「私は結構だ!」 それは俺も同じだ、それ以上に御免こうむると、俺は無言の拒否を投げつけた。世田谷を出て長い間、存在すら忘れかけていた親父との再会を企てたのは、紛れも無く優なのだ。今頃親父は予期せぬ圧力に押しつぶされ、倒れているかもしれない。 それならそれで俺は一向に構わない。 優の接近で、初老の親父は俺以上に逆上せ上がっていたわけで、全貌を明らかにした優の満ち足りた瞳も、次第に色褪せ、声の勢いが失せる頃には抜け殻のようになっていた。 今、何故彼女のことが気にかかるのか・・・血がそうさせるのか。 俺は「俺」を失ってしまったのかもしれない。 同席を拒否した俺に、優は飄々と言ってのけた。「いいじゃない。 だってこの方は、私の父親でもあるんだから」「悪い冗談を・・・・・」「誠二さん、私達をよく見て」 優は言葉を無くした男に、顎をくいっと向けて微笑んだ。憎しみに満ちたその顔は、優ではなく悪魔だった。 photo by kitakitune07さん
2007/08/22
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「夕舞」は和が醸し出す寛げる空間で、彩るネオンで戯れた後、ふと立ち寄りたくなる・・・そんな店だった。 正直なところ贅沢を好まない優が、この店に出入りしているとすれば心中穏やかでなく、どこかで男の影を感じざるを得ない。 そんなことでちょっと温度をあげた俺は、カウンターで優とグラスを交わし、「いい店だね」とありきたりのセリフを吐くしかなかった。ボックス席から戻った和服美人に、声を掛けられるまで気付かないとは俺もどうしたもんか。 「あそこの花・・・・・」 優はスポットライトに照らされたアレンジフラワーに目を向けた。それはどこか妖艶で、黒に紫の蔦のようなものを絡ませた芸術とも言い難い不思議なものだった。「彼女の作品なんですよ」 和服美人がしっとりした声でそういうと、優は作品の部分を訂正して微笑んだ。ああ、そういうことか・・・と俺がほっとしてタバコを咥えると、細い指が口元にやってきてタバコに火をつけた。指のきれいな女はそれを心がけていて、男は時折大いなる勘違いをするものだ。 その後、切れ長の目がじっと俺に向けられた。「どこかでお会いしてません?」「そうですか? たぶん人違いでしょう。俺がこんな美人、忘れるはずがない」 優は涼しい月のように、じっと前を向いたままカクテルを飲んでいる。女がボックスで呼ばれて消えると、ようやく優がカウンターで頬杖をつき、いつもの仕草を魅せた。「魅力的な人でしょう? ああいう感触って、何かしら?」「いい恋を重ねてきたんだろうな」 俺は軽やかに揺さぶった。「たとえば? ・・・・・ああ、終わらせたくない人は抱かない、とか?」 上手く交わされ、つい微笑んでしまう。「それもありだね。 この歳になると」「闇で躓いて(つまついて)、傷を負うような若い頃とは違う。女もね」 扉が開いた。 「ママ、外は雨だよ」 落ち着きのある渋い声だった。 俺は声に反応し、優は男に反応し軽く会釈をしている。男も優に「やあ!」と言ったが、連れがいるのに気付いたらしく、中途半端に空気が切れた。 「白髪が似合う紳士」 優は、男の輪郭を描いた俺に、密やかに強要した。 「いらっしゃい」 後ろで艶のある声がした後、風通しのいい領域を狙って、俺は静かに振り向いた。「ん?」 瞬間の後にやってくる数秒で、俺は混乱に陥り、まるで心を解剖されたような打撃を受けた。「誠二!」「・・・・・あら、息子さんでしたの?」 photo by kitakitune07さん
2007/08/20
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暑さもようやく落ち着いて、お盆休みが終って、ようやく普通のペースに戻る。 でも、主婦は年中無休。 ひ と り の 時 間 大切にしたい ジャズやボサノバはこんな時、いいんだよね。 秋から冬。 毎年比較的多忙になるこの季節。もうちょっとだけ、ゆっくりしよう。 熱った体を休めて・・・・充電しよう。
2007/08/18
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俺が恋愛映画を最後に観たのは、確か15,6年前だったと思う。マンハッタンの夜景には、未だツィンタワーがあった。 流れてきた甘いメロディーにうっとりしていた千恵子は、小細工したドリンクで、その夜俺に抱かれる羽目になった。千恵子は元女房の大学の後輩で、時々横浜から俺達が暮らす世田谷のマンションに遊びに来ていた。 二十歳になったばかりの彼女は、媚のない甘え上手で、何より男慣れしてない所が、俺には新鮮だった。 こっちは上手く切り抜けだが、千恵子がその後恋人と別れる結末を迎えた事は、俺の知るところではない。 俺と優(ゆう)は映画を観た後、煌めきが散る銀座を新橋方面に向かって歩いていた。 「戸田さん! 今夜は軽く飲んでいかない? 知ってる店があるの」 優の誘いは自然過ぎて、逆に不自然だった。 先週は、袋田の滝を見たいと言うので、早朝から車を走らせ、白く長いガーゼを空から降ろしたような滝を眺め、益子焼で陶芸に見入る優に、俺は見惚れていた。柄に合わない至って健康的なデートは、やがて行き着く目的への手段に過ぎない。俺は心地よく優に振りまわされながら、やっと俺が「俺に落ち着く」夜がきたと思っていた。 その男に会うまでは・・・・・ 「ここなの・・・」 優はファーのついた襟元を軽く握って、足を止めた。 photo by しっぽ2さん
2007/08/16
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秋が落ちると、太陽も低い体制で窓辺を移動する。 視界で時々俺を誘っていた、黄色いハイビスカス。 替わりにやってきた花は、色も姿もまるで対称的だった。 優に出逢わなければ、その花の存在すら知らなかっただろう。 「名前の響きとはちょっと違う感じだな」「寒い冬に耐えるし、こうして見ると、星がほんわり膨らんで花になったみたいでしょ?」 その花の膨らみは優自身で、俯きながら悪戯な笑みを浮かべる。 そして足早に通り過ぎる陽を背に、俺の心の隙間を狙っている。クリスマスローズ。 花言葉 「追憶」 「スキャンダル」・・・・・(ミステリアスな夕映え天使さん!君は俺の何が欲しいんだい?) photo by kitakitune07さん
2007/08/15
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朝焼けに呼びかける蜩の声や、光と戯れたみずみずしい木の葉。 夏が去り、夕焼け色に染まる木の葉は、水分を失ってひらひらと舞う。 井の頭公園へ向かう通り沿いで、アンティーク小物やインド綿のランチョンマットが並ぶ店を見つけると、優は一定の歩調で僕から離れ、自分の世界に入り込む。優が振り返ると、紺色のパーカーから覗く白いティーシャツが眩しくて、実は優自身がもっと眩しくて・・・・・「ああ、僕はこの人を手放したくないな」と思う。 三回に一回位しか応じてくれないデートでも、解禁になっただけで僕の心は色づいた。 けれど、僕等の関係には何かが足りない。 落ち葉のように軽くて不安定で、いつか冬の朝露で土に溶けてしまうのかもしれない。「ねえ、浩樹」「ん?」 優は公園のベンチに、湖を背にして腰掛け僕を見上げた。 「ああもう! またそうやって一瞬顔を背ける」「まともに見れないんだ」「とても30を過ぎた男とは思えない。うふふ」「こういう設定で、まともに優と目を合わせるって、なんかさあ・・・・・」 優と関わる男の多くはたぶん彼女の虜になる。 僕は少しの満足に浸って肩ごしの温もりを味わう。 「サンドイッチ作ってきたの、ほら? 温かいコーヒー買って来るから待っててね」「お! 感激だなあ。 じゃ、コーヒーは僕が買ってくるよ」 優は既に自販の方へ向かっていて、時々素早く消えるから、僕はびっくりする。二つのコーヒーを頬に付け、「あったかいー!」と微笑みながら優が戻ってくると、湖の方に両足を伸ばして腰掛けていた僕は、うつむき加減で言う。「なんかさあ・・・・・」 こんな調子で話し掛けると、途切れた後の話に向けられる感心の眼差しを、ちょっと避けた具合で話すことになる。「歩いてる後ろ姿や、今の仕草・・・・・ほら、こうして頬に両手で・・・・・死んだ母に似てるな。 僕のオカンに」 その時優が示した些細な反応に、僕は何だか戸惑った。 優は心の半分を隠し、そのまた半分を閉ざし、残りの半分で男を揺さぶり、けじめや未満と言って男を挑発する。 僕は隣の核心に、小指さえ触れられない。 photo by しっぽ2さん
2007/08/12
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8月6日は「広島原爆の日」 実父は長野県で生まれ育ちましたが、志願兵になり、広島沖合いで 被爆しました。 駆逐艦に乗り合わせた仲間は5年以内に亡くなり、 たった一人残った父も、私が4歳の時に白血病で亡くなりました。 鼻血が止まらず、それはそれは悲惨でした。 昨日は「長崎原爆の日」 養父は福岡県で生まれ育ちましたが、たまたま長崎で被爆。 実父が手にできなかった被爆者手帳を、時々私達に見せがなら 戦争の悲惨さを教えてくれました。 肺と骨を癌で侵され、亡くなりました。 感謝の人です。 今年で62年。 同じ地球に生れ合わせて、人は何故争うのでしょうか? 「人間てなんなのだろう」 亡き広島市長が残された言葉です。 photo By しば桜さん
2007/08/10
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暑いです! 毎日。 厚いです! 面の皮。 熱いです! 身体。 ウォーキングをはじめて一ヶ月。 だいたい夜の同じ時間帯なので同じ人と すれ違う。 そして挨拶を交わすようになりました。 ご夫婦が一組。 親子一組。 女同士が数組。 夜風を感じて、視界の上部に濃紺の空があって、とてもいい気持ち。 道端や家々の花や、畑に目を落としたり、考え事をしたり。 ~ 今日の発見 ~ これ、ちょっと試してみたら、結構使えるんです。 泡立ちもよくて、汚れも落ちます。 スポンジと違って細かい所まで。洗った食器をいれるザル?とか、シンクとか。 いつか どこかで だれかと あいたい おいしいケーキを食べたい~(ダイエット中) 100均の小物(By ナチュラル・キッチン)に手を加え・・ ★ KAOTO MEGUMI ★
2007/08/08
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次に会う相手、村松浩樹へのアクションは正直私を疲れさせた。浩樹は横浜を離れ高崎の電器部品工場で、鼻の天辺に油を付け汗まみれになって働いていた。 夏を迎える頃、突然天国に逝った母の墓の前で、静かに手を合わせる父親と浩樹を、私は胸を痛めながら見ていた。 もう取り返しがつかない。 母は無限の彼方に、私は有限の時空に舞い戻った。 私に何ができるのだろうか。汗や涙が一滴また一滴と吸い込まれる石が心の真ん中にあって、瑞々しいエネルギーも未来も微笑ましく映る。 彼はそれに気付いていない。 父親の血を引いたのだとしたら、戸田のしたたかさも同じことが言える。憎むべきは運命だと知りながら、アスファルトの余熱がむらむらと込み上げる。 声を聞けば輪郭が欲しくなり、姿を見れば逢って温もりを感じたくなる。笑顔を見たくなる。 未満と言う鉄則を維持するには意志より強い覚悟がいる。 訳を知らない浩樹に理不尽に降りかかった覚悟は、一方で「逢いたい」という感情を掻き立てた。携帯で繋がった彼の夢に入り込んだ雨の晩、あまりの愛おしさにキスをした。10歳も年上の女性に憧れ以上の感情を抱く男の発色を、私はうかつに見逃した。戸惑いの中、思わくを退けて作動した毛細血管は、紛れもなく自身であり・・・・・エゴで我儘な成分の浮遊を、神経を束にして押さえつけなければいけない。 こと浩樹に対しては・・・・・・ photo by しっぽ2さん
2007/08/06
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地上は多くの緑を失い、高いビルが空めがけて競うように伸びていた。湖で息絶える日まで暮らした武蔵野大地は、舞い降りるに相応しい故郷だった。 宇宙を彷徨いはじめたあの人は、二度も私に命を与えてくれ、二度目の生命は「あなたが存分に使いなさい」と自らの寿命を差し出した。 もう母に会う事は許されない。 中央線沿線は、昭和の出で立ちが残る商店街がいくつも残っていて、僅かに時間を止めていた。 一人で入れる居酒屋や気取らない店が立ち並び、過去を探り合わない安心感と懐かしさが、心を留める。 戸田誠二に接触するという最初の目的を果たした後、国分寺から高円寺に移り住み、あの夜の程好く絡んだ視線を引きずった彼が、再び嗅ぎつけてくるよう仕掛けた。 数日後、彼は鋭いトゲのある薔薇の魔法にかかって青梅街道を走ってきた。私は店先に出て火照った歩道に水を注し、何食わぬ顔で黄色いハイビスカスに頬を寄せ、涼しげに女を魅せる。装った偶然の網にかかった彼は、花言葉「 新しい恋 」の誘いに惜しみなく反応してくれた。 私は強烈な使命感に心震えた。 photo by kitakitune07さん
2007/08/03
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ささやかな贈り物と言って、星をばら撒いた。その多くは地球を避けて彷徨い、月に手が届きそうな辺りに落ち着いた後、煌めきはじめた。「失った時間を好きなように使うといい」「平均寿命からするとまだ20年は生きられたのに、魂のバトンタッチなんて・・・・・」「もう充分」「幸せの黄色いハンカチ、覚えてる?」「退屈を持て余して、足をぶらぶらさせて観てた。 最後の思い出」「地上は変わったの、あの頃とは。 でも、今からでも何だって始められる。 あなたなら・・・・・」「憎んでる? あの人のこと」「憎しみは彼が消してくれた。この30数年で。 死の淵から私を救ってくれてあの子を産んで・・・・・。 後はあなたが存分に使いなさい」「時間は素晴らしい万物の素材だから? 」「そう。 さあ、早く行きなさい!夏がはじまる」「・・・・・さようなら。 そしてありがとう!」 水底から地上に、そして宇宙で彷徨い続け、27年の歳月を経て蘇った。受け継いだ命の成分には、溢れるほどの愛と一握りの過ちと憎しみが混ざっていて、そのいん石のような混入物を、道徳的根拠によって取り除く業を得た。 きっと私がしようとしている事は、あの人が望むことではないかもしれない。 photo by しっぽ2さんさん
2007/08/02
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