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街路樹についた。 空が高くて気持ちがいい。 初日とあってお腹がしくしく痛かったが駐車場に入る頃にはそんなものは何処かにすっ飛んでいた。白いワゴン車が、朝日を浴びて眩しく光っていた。9時、この時間なら店長の瀬川だろうと思いながら、裕子も車から降りた。 店に入り、静まり返った通路から休憩室に向かう。固いドアノブを左右に何度か回し、重い扉を押し開けた。静まり返った中を見渡すと、説明会の夜には気づかなかったものが目に入る。二坪ほどのスペースの正面に「更衣室」と書かれた扉が二つ並んでいる。左側には、お粗末なロッカーが壁を塞ぎ、キャラクターのシールを剥がした跡だとか誰かが蹴飛ばたようなへこみがある。ほぼ中央に置かれた色気の無いテーブルは従業員が食事をする為のもので、5.6人がやっと囲める大きさだ。 上には吹けば飛ぶような灰皿が置かれ、白板のマーカーやらボールペンが散乱していた。 裕子は存在感のない窓を見た。 隣家の庭の木々が迫っていて、採光も換気もあまり期待できない。曇りガラスでカーテンもないから余計に寒々しい。 「ああ・・・・・・」 裕子は鼻水を啜りながらエアコンのスイッチを入れると、さっそく更衣室に入った。「ぼんやりしている時間はない! 」パイプに下がったハンガー、腰から下に位置する収納、とって付けたような鏡。無理をすれば、3人が着替える事ができる位のスペース。 床にはスノコが2枚ひいてある。「足が冷たい! 速く着替えないと」 着慣れないコックコート、白いズボン、更にサロン(前掛け)の結び方も容易ではない。最後に肩まで伸びた髪を上げて、キャップの中におさめなくてはいけない。 新米のタイの色はオレンジ。 タイを指示通りに結ぶだけで5分以上かかる。「あれ? これ? 」と呟きながら着替えを終え、鏡をみると、さも仕事ができそうなスタイルになっていた。「いいじゃない! なかなかだよ! カッコだけは・・・・・・」 更衣室をでると、さっきつけたはずのエアコンが機能していないことに気づく。「え! ウイングも動いているし、音もこんなに大きいのに温風が出ていない! 」 型が古いエアコンは、インバーター機能がなくて作動するのに時間がかかる。 ショールームのように至れり尽くせりの環境ではないことを知った裕子は気持ちのリセットを済ませて、時計を見た。10時まであと30分。 革の切れた椅子に腰掛け、両手で膝を擦りながら温風を待った。エアコンが効き始めた頃、続々と10時オープンの面々が入って来た。「おはようっス! 」 フロアーの若い女性ふたり、キッチンの男性ふたりが左右のドアを開けた。「暖かい~! 」 彼女達はそう言って、制服に着替えはじめた。着慣れたコックコート姿で早々に更衣室から出てきたのは、小林太郎だった。「おはようございます。 香川と申します、あの、今日からキッチンでお世話になります」「おはよ・・・・」 小林の挨拶は、途中から大きなアクビに変わった。眠気でまどろんだ表情が、しゃきっとした真っ白なコックコートで更に浮いて見えた。「バックヤードでしょ? 早く行かないと駄目じゃない? 」「そうなんですか? 」(まだ10時になってないのに) 宮原洋介は赤い髪をキャップからチラリと見せて、裕子に声をかけてきた。おっとりした小林より、ずっと若く、元気のいい今風の子に思えた。 裕子は早速、洋介の後ろを追う様にキッチンに向かった。 タイムカードを押す。 まずはここからスタートだ。(とノートに書いてある)「えーと確か、入り、スタート? あれ? 昔のトースターみたいに紙のカードを入れて、ガシャンと音がして、飛び上がってくるアレがいいのに! へんなタイムカード! 」「社員番号何番? 」 イライラして足踏みをする裕子に洋介が肩を叩いて、訊いてきた。「183番です」 洋介はボタンを押し始めた。「いい? 店番がこう、で香川さんの183でしょ、その後・・・・・・で、これで終わり」 説明会で教えられたが、11ものボタンを押すことは裕子にはきつい。「帰りは『出』 じゃなくて、『退』 を押すんだよ」「はい、そうですね、帰りは退ですね」 (そこまで間抜けじゃない! ) 洋介は少し悪戯っぽく笑った後、キッチンへ入っていった。「あのう! 明日も教えてくれますか? 」 裕子が勇気を出して言った言葉は、独り言になってしまった。 撮影しば桜さん 次回「世代」 (スタンバイ・・・そこは戦場)
2007/01/31
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月末の土曜日は毎月ではないけれど、都内のライブへ 私の住むここ、ネオンはパチンコ屋とバスターミナル。 車のライト・・・ そして、チカチカして今にも切れそうな街灯がいくつか。 だから、仕事以外でネオンと♪を楽しめる月末最終土曜日は、煌めく時間。 「ドラゴン・クライ」のベースマン、凄腕! 人気者。makobassさん 一体感のある空間でのひと時、ドラムをまたはじめよう!と毎回思う・・時間がない。 方向音痴の私を駅で待っていてくれるお姉さんにも感謝。 帰りは実家に泊まる。 一人になった母とのひと時。 70歳を過ぎて、掃除機やお風呂の掃除、買い物など、 ちょっとした日常のことに危険が潜む。 ぎっくり腰をやって以来、ちょっと気になる。 じっとしていない性分だから、余計に心配。 長女としては 対して役に立たたないけれど。 近所に住む兄弟(ちなみ私は5人兄弟)の所にも寄って、こんな事して・・・・ 迷惑だろうな? 猫心。 掃除中見つけた毛糸で作った帽子。 (萌え~! 秋葉デヴュー? 暖かくてうっとり。 嫌がらない~) ちなみに家でもこんな物を作って「自分の時間」に癒される。 (テロで崩壊したツインタワーの写真は本物。お人形と椅子以外はいちおう手作り) (これは並べただけ~) そう言えば、こんな豆腐見つけた どっかで聞いた名前。 男前? これから読もうかな~と思う本 さてさて、もう2月になろうとしている。 ブログを立ち上げて一年が過ぎ、素敵な仲間と出会ったことを振り返る。 残念なことに、閉鎖の寂しさも味わった。 でもでも、あたたかな触れ合いのネットワークが広がったことは確か。 私の大切な人、中学2年生~60代の先輩まで、北~南~西~、鼓動のボタンON! 心の絆に体温が流れる。 共感、共鳴、納得、爽快、再確認、意見交換、うっとり、にっこり、しくしく。 これからも、できたらドアを閉鎖しないでいてほしい。 次回 「世代」15 タイムカード 「裕子はその業界で、いかに無能であるかを知らされる」
2007/01/29
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冬晴れの青空が続いた。 遥かに、高く、暮らしの音やら匂いやら、そういう風景を引き連れて、太陽は昇ったり沈んだりを繰り返した。それは特別に我武者羅でもなく、安穏でも素朴でもない日々だった。裕子は縁遠くなった通院と安静、そして遮断の暮らしを振り返った。病んでいる時の最大の良薬は「希望」。 生存の権利を与えられ、縁あって地球にひょこんと生まれた。 しかも人間に生まれてきた。 だから希望を失ったら、きっと他の生き物に失礼だと思うのだ。 ライ麦パンを口にくわえ、コーヒーの香りに近づく為に身体を傾けた。パンの端がコーヒーで染みた。 「食べるか、嗅ぐか、どっちかにしないと」 電話がなった。忘れかけていた「街路樹」の瀬川からだった。意外にも面接が通り、早速来週から来て欲しいと言う内容だった。「アイミー」がアイスミルク、「レスカ」はレモンスカッシュ。そんな呼び方がカッコイイと思っていた高校時代、「学生街の喫茶店」を聞きながらいきがっていた時代。 今は街から姿を消しつつある喫茶店で、そんな昔のアルバイトを「経験」とされてしまったオバサン。世間にやりきれなくなったわけではない、希望の欠片をにぎった裕子の再出発。 年齢は5つばかり誤魔化したものの、勇んで行った説明会。「なーんだ、オバサンじゃん! 」 回路の違う若者の言葉が、そ知らぬ顔をして裕子の肩にしがみ付く。「もしもし・・・・・・」「久しぶり! 」「私、アルバイトが決まったの」「そう! 声が元気だもの。 よかったね! でフリー? 派遣? 」「ああ、あの業界には戻らない。 接客も卒業する。 復帰はね、あのね、レストラン」 裕子の話は忙しい。 ダンスサークルが感染したのか。「レストラン? 裕子さんが? 」「そ! 裏方、お皿洗い」「えっ! 大丈夫? っていうか、他にもあるでしょう? 何もそんな地味な仕事じゃなくたって? 」「今は無になって、なんかこう・・・・・・黙々と働きたいんだ私」「黙々と・・・・・・そうか。 身体を少しずつ慣らすっていうことね」 そうでもなかった。だから裕子は、明海にはそれ以上話さなかった。そして明海も、裕子の潔い決断が嫌いではなかった。 秀明は夕飯を終えると、咳払いしながらお茶を入れてきた裕子を見た。「アルバイトする」「そう。 身体はもういいのか? 寝込むことになってもしらないぞ」「ダンスも週一で、つまらないし。 やっぱり仕事をしていないと落ち着かない性分」「どこ? 」「レストランの厨房、キッチンって言った方が聞えがいいか」 秀明は飲みかけたお茶を吹き出した。淡々と言い放された言葉に耳を疑った。 「週4日、一日4時間」「勝手にしろ! 」 裕子はクスッと笑って洗濯物が入ったカゴを抱えながら、隣の和室に避難した。テレビの音が大きくなった。 次回 「世代」 15 タイムカード 撮影kitakitune05さんさん
2007/01/27
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「街路樹」は三度目だった。二度目は、紅葉が美しく街を染めている頃で店が凄く混んでいた。 結局ドリンクバーができたと言う他の店に移動した。 今夜は裏口からだ。 裕子は「関係者以外の立ち入りは禁止」と書かれた文字を見た。自分が関係者になるかどうかはわからない。 重い扉を開け、事務所を目指して通路を歩く。 扉はいくつかあるが活気のある扉の向こうは厨房に決まっている。 「ならばここ? 」 とドアをあけると倉庫。 薄くらい中、焦りと緊張が増して来る。 点滴がぽたぽたと落ちるのを見ながらトイレを我慢しているような焦り。「面接はこちらです! 」 男の声がした。 事務所の扉は開いていて、張られたプレートが見えなかったのだ。たぶん、二回位はその前を通り過ぎている。「すみません! 」 時計を見ると6時ぴったり。 謝ることはないと思いながら、中に入った。チーフの西田は先に面接を終えた数人に、ご苦労様と声をかけた。 彼等は裕子の脇を遠慮がちに通り過ぎた。 「どうぞ! 今、店長がきますから」「はい、香川と申します。 あのう? 」 裕子は入り口の方を振り返って言った。「ああ、彼等は夜のアルバイトです。 学生ですよ」 西田はそう言って、細めの眼鏡をクイッと上げると何故かにんまり笑った。店長の瀬川がやってきた。少し神経質そうに見えたが、西田とは世代が違うことは明らかにわかる。気さくな笑顔とテンポのいい動きは、まるで西田と対照的な印象だ。「香川裕子です」 裕子は再び立って元気いっぱい言った。 そうして、たぶん45度位頭を下げた。「わかっています。 ここに履歴書がありますから」 西田は立ち上がった裕子を見上げていた。 面接がはじまった。店長の瀬川の言葉には無駄が無く、不足もなく、心地良いとさえ感じられた。「香川さん! ところで料理は得意ですか? 」 西田の声に、緩んだ肩に再び力が入った。「はい、普通です」「いいんです、それで。 普通にできればいいんです」 普通と言う言葉の基準が微妙でも、ある時には都合がいい言葉かもしれない。「過去にこういった仕事のご経験は? 」「喫茶店で半年」「そうですか! 」 西田は「半年」から先の言葉を遮った。履歴書に無いくらい昔のこと。 たぶん25年位前のあれはたぶん、高校生の頃・・・・・・慌てながら、もう一方の脳が遠い昔にフラッシュバックしている。限りなく勘違いに近い納得の表情。 それが二つ目の前で微笑む。 伝えるタイミングを失うと、つい笑って誤魔化してしまうものだ。 瀬川がこれで最後とばかりに訊ねた。「どうして街路樹を? 」 なかなか話が噛みあわない隣の「にんまり」と違って、瀬川は歯切れがよく波長が合う。「はい、インテリアが素敵!・・・・・・いえ(矢沢君が爽やか! 違う!)裏方で無になって働きたいと思ったからです。 そして・・・・・・」「香川さん! 無になってもらっては困ります! 」 実際その通りのことを西田が言った。「はい。 でもキッチン希望です! 」「わかっています。 履歴書に書いてありますし、うちの店、フロア―に出てもらうのは30歳までなので」(ズコッ!) 面接はあっけなく終わった。「駄目だー。 まあ仕方がない、とんちんかんな私、別世界でやっていけるとも思えない」 独り言をいいながら、事務所を後にした。「それにしても足元が冷える! レストランの表と裏はそれこそ別世界だ」 裕子は「街路樹」を出て、さっそうと歩き出した。スーツを着て、図面ケースを持って、さっそうと歩いたあの頃のように、真冬の夜風を浴びながら。 諦めと開き直りが何故だか裕子をスッキリさせた。「とりあえずの一歩、ステップは踏んだぞ! 」 不定愁訴から離れられ、働こうと思える自分がうれしかった。 ダンスサークルで鍛えられた体力と精神力、つまりは図太さがあれば、拾ってくれる所で黙々と働ければそれでいい。 裕子はさっそうと歩いた。 「前進は死闘。 後退は一瞬」 来た道と反対方向へ、気取りながら背筋を伸ばして。 撮影 SOU
2007/01/25
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タイミングを心得ていたウェイターが、テーブルにやってきた。オーダーをリモコンのようなものに打ち込んでいく。 (へー、凄いなあ、今はボタンでピッピと押していくんだ・・・・・・)メンバーはアイスコーヒーやアイスティー、おまけにケーキやパフェを早口で伝える。彼はそれらを復唱すると、にっこり微笑んで言った。「少々お待ちくださいませ」爽やかな青年の胸には「矢沢」と書かれたネームプレートがあった。 そしてはじまった。語らいというより、お喋りというより、それは助走もなく突っ走った。一分間のワード数はかなりのもの。 ダンスの後の余力としては凄すぎる。このパワーが萎んだ日本を支えているのか! 居眠りしている国会議員も目を覚ます迫力。まるで、夏の夜空にドカーン!とあがった、うちあげ花火。一瞬、形を魅せる花火はすぐに光の雫となって、パラパラと地上に散っていく。リーダーを中心に交わされる会話は、四方八方からの言葉と宙でいったん交差する。そして直ぐに散る。裕子には話題の中心がわからない。 受験や就職、息子、娘の自慢、亭主の愚痴、熟の紹介から結婚に話が飛ぶかと思えば、退職金の使い道、離婚、不倫、ダイエット、温泉案内と、話は忙しい。 隣でコーヒーを飲んで寛いでいる男性が、新聞で壁を作った。話が筒抜けだー。 喧しいだろう、とても気が休まるはずはない。裕子はそんな隣を気にしながらも、話す相手の目を追ったが二つの目では足りないことがわかった。 そうしてただ目をパチクリさせるばかりとなった頃、息切れがしてきた。 トレーにドリンクをのせて矢沢君がやってきた。続いて持ちきれないデザートの色とりどりを、若い女性が「クリーム餡蜜の方は? 」「チョコレートムースは? 」 と丁寧に聞きながらテーブルに置いていった。その数秒の静寂に、裕子はすかさず深呼吸をした。お喋り合戦再開。 人の話は聞いていない。 空っぽの頷きと自分の言葉を吐き出せばこの場はいいらしい。 「ねえ! 私のイチゴが小さいわ」 その後、クリームがあの店より少ない、あなたの方が餡が多い、寒天はダイエットにいいと言いながら、彼女達はものすごく幸せそうな顔でそれらを食べた。喋るか、食べるか、どちらかにして欲しいと思いながら、裕子も弾みで頼んだチーズケーキを口に運んだ。これだけ喋れば、新陳代謝も良くなって、贅肉と一緒にコレステロールもぶっ飛ぶだろう。すごい所にデビューを果たしてしまった。 しかも病み上がりだ。「香川さん! 」 キラキラ光るラメのティーシャツの上で、二つの目がやはり光っていた。「はい!」「香川さんは、失礼だけど専業主婦かしら? 」「はい」 (・・・・・・今は) それだけ聞くと、彼女も残りのメンバーも再び口を動かしはじめた。返事をはぐらかすことは避けて、できるだけ「はい」と「いいえ」で多くを語らず、いや語れず、空っぽの頷きをしながらでも輪の中にいよう。 裕子は静かに思った。社会勉強をしている矢沢君やウェイトレスに少しの関心の視線を送りながら、この裏でテーブルに並んだデザートを作る顔が、いくつもあることを想像した。 その後も、ダンスの後は幾つかのお気に入りの店をローテーションで廻ることが繰り返された。 誰かが新しい店を開拓してくれば、そちらに流れ、あちらに流れ。そうやってダンスより激しい時間と共に、裕子の上で秋が通り過ぎていった。心身共にすさんだ暮らしで落ちた体重が、じわじわと戻ってきたことに裕子はとても感謝をした。 リビングでビートの効いた曲が流れた。「復活するぞ! 」 医者にもらった薬の空袋が遠い遠い過去のものに見えた。 次回 「世代」 ~ 面接はこちらです! 撮影pooh0529さん
2007/01/23
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金曜日、電車の中で読んだ本 「いい出会い」について書かれたもの。 (斎藤茂太氏) 抜粋 頷いた「うんうん、そうかもしれない! 」 「孤独に強い人ほど人脈が広がる・・・」~ 孤独に弱い人は、相手と適正な距離を取ってつきあうことができない。 自分ひとりになりたくないので、無意識のうちに自分の寂しさを埋めるために相手・・・本当に相手のことを思いやったつきあいができない。 私達は孤独に耐えられてこそ、他人との好ましい関係を結べる・・・・・ 「出会いは、今の自分に合わせてやってくる」~ 出会いは偶然のようでありながら自分の中の「何か」が引き寄せていると思いたくなる。・・・・誰とも出会わずに自分を知るのは難しい。 「目の前にある出会い 」~ 私達は死亡率100%の存在である。・・・人生には終わりがあり、あなたが持っている時間には限界がある。その限界の中で、何をして、どう生きるのか・・・人生にはたくさんの出会いがあるといってもその数は限られている。 ひとつの出会いは「もう二度とない出会い」である。 出会った人とはいつか必ず別れの日がくる。その時後悔しないように相手を大切にできているだろうか・・・・ ~**~**~**~**~**~気分を変えて~**~**~**~**~ 深夜の小悪魔 「グラスを交わし 心をもりあげ 焦点が適度に絡み 離れぬように仕掛け ほどき 魅惑の限界に今度は指を絡める 女は悪戯に甘く 男は仕組んで尚甘く 扉を開く 惜しみないステージに上りつめ 心なし酔いしれ あるいは不安を噛締めながら 流れ星を追いかけて 追いかけて 夜が落ちる瞬間に 星の煌きが散る 雫となって散り落ちる 温もりの余韻にまどろみながら 絡んだ指が力尽きて 離れ離れになった時 愛を逃がしながら 逃がしながら 合図を送る 吐息に揺れる まつ毛の下で 視線が遊ぶ先を 追いかけて 追いかけて 小悪魔が逃げぬように・・・・」 か お と 撮影しっぽ2さん
2007/01/21
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「世代」 今までのあらすじ 香川裕子 40代 契約社員でインテリア関係の仕事をする主婦。十数年目のある日、新宿にある「風雅」の春用ディスプレーを受け、いつもの段取りにとりかかる。 慣れとズレ、些細なことが大きな波動を呼び、裕子を仕事から引き離した。 その後、体調を大きく崩した裕子は昼夜反対の日々に落ちていく。 夫秀明とは、子供が産めない身体になって以来何故か冷めた関係になっていた。 退社直前にイギリスに去った後輩、雄二からの手紙。同僚からの励ましに支えられながらも、まるで太陽に見捨てられた暮らしが半年あまり続く。 ある晩リストラの文字に大きな不安を抱える夫秀明が久々に声をかけた。退職金3割増しの希望退職に踏み切った同期の谷村。 裕子のすさんだ暮らし振りと自身の今後に危機感を感じた秀明。そんな「ぎりぎり」が裕子を変えた。 「身体を動かさないと・・・・・」の言葉に多くを語らない 夫の優しさがあった。 それは裕子の沈没した心の点火となった。 好きなことからはじめよう! とダンスサークルに入った裕子。メンバーの新入りに向けられた視線は興味の的。 再出発のきっかけとなったダンスサークルはファミレス移動に重きを置くらしい。 そんなメンバーに冷や汗。 そして緊張と迫力のあまり意識の外だった最初の店「街路樹」。 そこが次の仕事のステージになることを、裕子は未だ知らない。大沢竜也率いる若者の中に、ぬけぬけと入っていく元気なオバサンになることも。 様々な世代が抱える問題、課題、価値観。さりげなく、そうして大規模な皮肉で、物語が進んでいくのか? いけるのか? 温まる地球、冷める希望展望。 裕子は何を感じ、何を問う?さらに、どうやって希望の梯子を「よいしょ! よいしょ!」と昇っていくのか? 弾けるオバサン! 勇敢なオバサン! そんな裕子に誰がした・・・・・? 後半をお楽しみに。
2007/01/20
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気象庁が「梅雨明け」というと、あくる日はたいがい雨が降る。二日続いた雨がようやく止み、裕子はダンスシューズとペットボトルを色褪せたスポーツバックに入れた。 自転車に跨って、頭の天辺で空に大きな円を描いて気持ちを整えた。 新入りに向けられる視線は、太陽を避けてきた裕子には尚のこと眩しい。訊問のライトを浴びるような眩しさだから、躍動みなぎる太陽とか爽やかな陽射しとは当然違う。 ダンスサークル水曜昼の部は、見渡す限り40代から50前後の元気な主婦。夜のサークルとは年齢層だけでなく空気まで違う。 ふくよかな風船が弾けそうなのにテレビショッピングで見る「圧縮蒲団収納袋」のように、酸欠状態を招く予感が漂う。裕子にとってダンスそのものは、いい汗をかけば技術向上はそこそこでいい。 基礎体操でよどんだ身体が活性化され、ストレッチで心が空に向かって伸びてくれれば尚うれしい。 そんなスタートのはずだった。 ところがいい汗の後の冷や汗が、裕子を待っていた。ダンスが終わると彼女達にはお決まりのコースがあった。 予期せぬドキドキは久々だった。リーダー率いる軍団の移動。 ティータイム、と聞えはいいがコレステロールを増やしに行くような、あるいはダンスで出した汗を取り戻しに行くような恒例。「香川さんって言ったかしら? ご一緒しません? 」「行くわよねえ? 」 僅かな贅肉を着替えながら、メンバーが言った。「は? はい、ぜひ・・・・・・」 つい応えてしまった。 新入りに興味深く向けられた視線に、仕事で馴染んだ笑顔は愛想と引きつりの効果を出す。着替えを終えると、派手なラメのティーシャツとブランド物の布バッグを潔く肩にかけたリーダーを先頭に自転車が動き出す。「駅の向こうなの! ついて来てねー」「はい・・・・・」(もうちょっとゆっくり! 群れからはみ出す醜いアヒル)「大丈夫よね、若いから! 」 暫くぶりに身体を動かし、少しずつ以前の自分に戻ろうと決めた矢先、正直しんどい。そうして到着したのは、通りに面した街路樹の木漏れ日の中に佇むイタリアンレストラン。そこには「街路樹」という大きな文字があった。 ペパーミントブルーの外壁に、どっしりとした木製のドア。 石段の横には寄せ植えの鉢がさりげなく並んでいた。 裕子が冷静を引っ張り出して一瞬見たのはそれだけたった。何がなんだかわからない緊張と成り行き。店内をみる余裕はなく元気な背中に従う。そうして、復帰の第一歩となる小社会。 自分の設計図とは少し違ったその場所に今はちょっと身を置いて、時の流れに添おうと裕子は思った。跳び箱の助走。 薄紙を剥ぐように元気を取り戻した証に、何はともあれ感謝をする。 「お客様10名様で・・・・・・どうぞこちらへ」 黒いチャイナ風の制服を着た青年が、さわやかにそう言った。「いえ、今日は11人よ! 」メンバーは、指定化されたと思われる奥のボックス席に腰掛けた。そうして色とりどりファッションで身を包んだ彼女達は、クーラーが冷える何のと言った後さし出されたメニューより早く、「新入り」裕子に視線を向けた。「・・・・・・よ、よろしくお願いします」 裕子は常連のオバサンの群れに慣らされたウェイターの、見て見ぬ振りに気付いた。気付きながらそう言って頭を下げた。 撮影 kitakitune05さん
2007/01/18
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せわしさから遠ざかった日々でも、空っぽになることは、別の疲れを感じさせる。それを自覚できるようになったことは、明るい回復の兆しだった。時折点滅している留守番電話は同僚の明海からで、それはいつも遠慮がちな声だった。ただ、そこに沁みこんだ思いやりは希望の灯火として、裕子の心をあたためた。イギリス留学中の雄二から、インターネットを通じて知り合ったガールフレンドとのツーショットの写真が送られてきた。 そして新たな出会い方を、うやむやに想像しながら時が経ったことを実感する。 その晩、秀明が希望退職に踏み切った同期の谷村の事を、ぼそぼそと話し始めた。「今辞めれば退職金は3割増し。 中には5割増なんていう会社もあるらしい」「谷村さん、次の仕事は? 未だ下の二人がこれから高校入学」 秀明は熱燗をちびちび飲みながら小皿に残った肉じゃがをたいらげ、隣の春雨サラダをつるつると食べ始めた。「まずいな、これ・・・・・・」(! 久々の会話がこれかよ! )「何か、乾き物ない? 」(乾いているのは私達でしょう! ) 裕子はハッチタイプのキッチンから、夫のぼそぼそを聞きながら水圧を上げた。カウンター越しに、退職金破産やら、希望退職やら、不景気に呑まれそうな夫を見ながら、溜まった食器を洗っていた。 「はい! 乾き物」 裕子は3つ1000円で買ったツマミを、しぶしぶテーブルに出した。「思い切ったな、なんかスカッとしないけれど・・・・・・」「私、思い切ってなんかいない。 確かにスカッ!としてなかったけれど」「谷村のことだ。 あいつの選択は賢明だったのだろう」(何? ああ、私のことじゃないのか) 潔い選択がよかったのか、様子をみることがよかったのか、それは誰にもわからない。ただ、裕子が仕事を離れて、夫まで退職では困ることは確かだ。和光市にマンションを買って間もない。 ローンレンジャーの仲間入りになったわけだ。ただ、そこは裕子の好きな大江戸線光が丘が最寄の駅になる不思議なポイントだった。古き「大江戸」は新しい時代にモダンに響く。変なこだわりと強引さが、たまたま秀明の多忙と重なり、殆ど裕子が進めた新居なのだ。「なあ」「ん? 」「少し元気になったんだ。 身体を動かさないと体力が落ちるぞ」「え? 私? 」「他に誰がいる? 」 仕事をはじめるには少しテンションが低い。 かといってこのまま白い箱の中にいるのはどうにも不健康なのは確かだった。 裕子は、手を止めて急に姿勢を正したかと思うと、早足で玄関に向かった。「あった! 」 バレーシューズを取り出した。 「まずは、ここからだ。 それから仕事を見つけよう! 」 仲間の支えと秀明の久々のヒット、そして時の経過は裕子の心の扉を僅かに開いてくれた。「おーい! 水道、出しっぱなしだぞ! 水! 」 次回 世代 11 ダンスサークル・デヴュー「新入り」 撮影kitakitune05さん
2007/01/17
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耐えがたい状況下にあっても、いつかはそれらを笑い飛ばせる日が来る。そして平凡で温和な日々では見ることのできない景色が、そこにはきっと広がる。時を共有してきた仲間達は、去っても尚、心の引き出しにそっとしまっておくのだ。なぜなら、いつか鏡の中の自分がにこやかに微笑む時、注がれる光のシャワーの中に仲間の笑顔も並ぶからだ。瞬きほどの人生で、出会う縁の妙。 わずか1秒の誤差で出会えぬ縁の悪戯。きっと生まれてくるずっと前、契りの深い人だったのだろう。 何かの形で約束を交わし来世も何処かで姿を替えて会おう! と。 文子から手紙が届いたのは梅雨入り間もない肌寒い朝だった。ガラスを伝わって落ちていく雨の滴は、裕子の涙のように切なく冷たい。モノトーンの空に太陽はない。 詠う光も温もりも与えずに、ただ由々しい傘の下を傍観するばかりだった。 窓ガラスの雨を拭った指で触れた文字、それは僅かに滲んでひろがる。「 前略 裕子さん、その後いかがですか? 通院日が減ったと聞きました。 まずは一安心。 もともと細い上に体調を崩してさらにスリムになってしまったのでしょうか? 私の贅肉を移植してあげたい さて、こちらは灯火が消えたように寂しいオフィース。 裕子さんが有線放送のように途切れる事なく、話したり笑わせたりしてくれていた。 何より月一の会議の時、あなたの存在感を改めて知らされる。 不安要素がうごめく中、パートの募集をかけて、社員に多くの研修をさせて、、そう! いつか裕子さんが漏らしたような動きがある。 報奨金も減った。流石、古株の直感。 私達契約社員は、いつクビをきられるかわからない。裕子さんはきっと良いときに辞めたんだと思う。 ありのまま書くね、裕子さんだから。 昨年の会議の席で、裕子さんが『現場の声を聞いてほしい! 』って言った。 私達は、話すほどに熱を帯びる裕子さんに一心に耳を傾けた。 利益追求と顧客主義と、まああの時は突破口を開いた裕子さんの後、溜まっていたものを皆が吐き出した形になった。『私達って使い捨てですか!? 』 鮮やかだった。 凄いミサイルを飛ばした事に、心でしか頷けなかった私達。 情けない・・・・・・今も俯いて会議は一方的。『 管理職の意識革命、中間管理職の理解 』 裕子さんが熱弁していた事、見果ての夢。 最近ね、みんな動き出した。 切られる前に辞めようって。 衰えることのない好奇心と、何でも吸収してみようというバイタリティー。売上げや業績に躍起になるわけでなく、ひとりを大事にするからリピーターも多かった。 そんな裕子さんから学ぶものがあった。 男子トイレに間違えて入ったり、色のないコーヒーを入れてきたり、マニュアル車からオートマチックに変えた後の車のデコボコには驚かされたけれど。 楽しい人だ裕子さん。 なんだか話しているように書いてしまったけれど、このまま封筒にいれてしまう。身体を休めて、再び仕事に復帰される日を! そして、活躍の場が違っても心は繋がっているから。 文子 」 いつのまにかダイニングの椅子に腰掛けていた裕子は、雨の音を聞いた。手紙を胸に抱きしめた。 新芽は空を目指して真っ直ぐ伸びるはずだった。ところがその後、裕子は極度の不眠に襲われ、待っていたのは昼夜逆転の日々だった。蔦が曲がりくねって、冷たい外壁を這っていく。 雨にうたれながら、多くの細胞の悲鳴を聞きながら、闇にへばりついて離れない。 かつて死産に繋がった仕事から、妻の裕子が去ったことで一度は表情を明るくした秀明も、さすがに顔を歪ませていた。 ベランダの観葉植物がしな垂れていた。 撮影 yuu yuuさん
2007/01/16
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「風雅」にかかわる納期までの段取りをすすめる。 そこに、自分でせっせと掘った慣れの落とし穴があった。 繰り返される作業に手抜きや余分が加わる時、賢明から容赦なく追放される。 生地見本依頼書 備考欄: 小林様、今年もよろしくお願いいたします。 毎回ですみませんが、お客様に再確認していただく為、 上記の生地サンプルを直送でお願いします。 納品日が近く、先方の上川様は少々神経質な方とお聞きしております。 お忙しい中、お手数おかけしますが至急でお願いします。 ところが裕子がメーカーに送った依頼書は、この数日後、こともあろうに生地見本と一緒に上川の手元に届いてしまった。 備考欄の一言が積み重ねた努力という建築を破壊した。長い信頼関係で繋がっていたメーカーの担当者が不在の為、至急の文字に気を効かせた別の社員が、ご丁寧に生地見本に依頼書を入れて送ったのだ。 仕事は打ち切られた。「風雅」のクレームは、たちまち課内から社内へひろまった。「インテリア課の信頼をなくした」「最近、各営業所からの仕事が減った」 当然のことながら、覚悟していた針の上で一月を過ごした。それから間もなく、まるで冷めたインスタントラーメンを口に運ぶような何とも複雑な空騒ぎの送別会。 それを最後に裕子は仕事から去った。 十二年という年月があっけなく幕を閉じた。 引き際から体調も崩れていった。季節の変わり目と言い聞かせながら、残務に悔いなく明け暮れる日々の中、二つの神経はバランスを崩した。 自律神経を司る「活動」「休養」が乱れ、軽率の落とし穴に同行した。けれどもそれらの症状は以前まったく無かったわけではない。 傲慢のコートと肩書きの帽子を脱ぎきれない顧客。 接客業は互いに相手を選べない。 子どもが親を選べぬように。 必要以上の緊張と不安に遭遇した時、信号は黄色から赤に点滅する。聴く側に判りにくい業界用語で実態を不透明にする、まるで一部の政治家がするような事を仕事で真似て、外から追放された者もいた。 やはり去って行った彼女の信号は赤だった。 それでも多くの躍動の源泉は、共に撰んだあの灯りの下で、あの家具に寄り添って、あるいは疲労を脱いだリビングで、閉めたカーテンのひろがりを見て一瞬でも温もりを感じ疲れが癒され、時に明日の充電のコンセントになるならば・・・・きっとそれらだった。 裕子の信号が壊れた。 歪みは熱も持たずに、身体のあちこちにフルコースでやってきた。ただこの出来事が、あの若者達との出会いに繋がることを、裕子は未だ知らない。 撮影kitakitune05さん
2007/01/15
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インテリアコーディネーター。 現場関係者の中ではもう一つの呼び名がある。「インテリアコーディねーちゃん」・・・・・・カタカナに騙されてはいけないということか。きっと聞こえほど派手ではない。 むしろ地味な部類に入る仕事であることを象徴している呼び名だ。 少なくとも裕子が知るところのそれは、ゴム長靴を履き、ヘルメットをかぶり、引渡し前の現場へ出向き図面やスケールを片手に、配線、窓寸法、必要事項の確認をする。 それらに些細な妥協や怠りがあれば、後で倍になって自分に降りかかってくる。 笑顔と緊張の連続作業に加えて、接客前の現場確認をするコーディネーターは、現場監督や工事者とは云わば同士だ。少なくとも、裕子はそう思って十数年仕事を続けてきた。 仕事を生きがいにしてきた裕子にとって、そのアクシデントは心の沈没であり、小さな悲鳴は、夫秀明の背中にぶつかり直ぐにヤマビコとなって帰ってきた。賃金を抑え、収益確保を図ろうとする企業のシナリオの真っ只中、リストラの文字に敏感にならざるを得ない秀明。 もともと賛成ではなかった妻の仕事上のトラブル。 多くを語らなくなった付かず離れずの夫婦は、引き立てのエスプレッソの香りにぐったりと寄りかかる。 「いざなぎ景気」が、ささやかな「癒しブーム」をもたらしたのかもしれない。インテリアも「和」に注目を集めはじめた。 移行というより、生まれ故郷に落ち着いたのかもしれないが、カントリー、アジアンを経て、和に流れる店舗や展示場も増えていた。 新宿にあるインテリア小物店「風雅」は、年齢層を選ばず出入りの多い店だった。オーナーの上川明と年明けに打ち合わせを済ませた裕子は、春向けの店内ディスプレー変更に伴うチェックを済ませた。 小物達を生かすメインのテーブルクロス、窓辺に寄せられるカーテン。 さりげなく「和」を生かす大きな役割は、生地選び。メーカーショールームへ何度か足を運び、カタログでは不明快なサンプルを再確認。エンボス加工(凹凸)が施された淡色の生地、脇役は主役を引き立てなければならない。裕子は久々の店舗の衣替えに幾分緊張しながら、オフィスに戻る。デスクでいつもの作業にかかる。 上川に確認済みのサンプルの品番を念入りにチェック。発注依頼書をデスクの真ん中に置く。 フェイマス F- 207 色番(LB) 納期 2月5日 生地見本は納期が近いため、いつものように直送にて上川様までお願いします。 備考欄・・・・・・ そしてそれはいつも通りの段取りの途中で起きた。ブラインドの羽の隙間から僅かに入り込む陽射しが、何かを見透かしたように透明に光った。 撮影kitakitune05さん
2007/01/13
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チーフの話しに頷きながら、視界に入る彼等のニヤニヤが気になる。「バックヤード」 そのポジションだけは頭に入れた。 仕事はやっていくうちに五感と体で覚えるしかない。 街路樹を出て、包む前のオムライスのような月を見た。「ああ、やっぱり何か食べて帰ろうか」 裕子は、開けっぴろげな竜也の一言を思い出しながら、駅へ向かった。向かっていたのは、駅と反対方向だということに気づいたのは、しばらくしてからだった。信号がある交差点が減り、光る看板を縦に並べたビルが減り、住宅街が見えてきた。「えっ!・・・・・・」 何事もなかったかのように、ユーターンしてまた街路樹の前を素早く通り過ぎた。彼が言ったように、自分は限りなくオバサンなのだ。 加えて、オバサンに拍車をかけた出来事もあった。 あの荒んた時期がいっそう疲れたオバサンをつくったのだ。裕子はぶつぶつ呟きながら、やっと見つけたフャミリ―レストランのドアを開けた。「いらっしゃいませー! お一人様ですか? おタバコお吸いになりますか? 」 お決まりの言葉に「はい、はい」と言いながら、案内より早く席に向かう。「オムライス」「はい、かしこまりました」 性格は運命なり・・・・・・文豪の言葉だったか、誰かが感嘆詞を付けて教えてくれたのかは思い出せないけれど、裕子を形成するパーツの中のいくつかが、裕子を落とし穴に閉じ込めたのだ。 深い落とし穴から顔だけ出して、叫んだかもしれない。 足元に溜まった悪玉のパーツ。 思い込み、軽率、まんねりがその代表と言えよう。厄介な思い込みと軽率。 世間を巻き込んで醜い言い訳をさせてもらえば、結構ある。たとえば、オレ俺詐欺だってそうだ。 人の弱みに付け込み、期間限定で相手をあおり、焦らせる罠。「疑うことに慣れていない」。 もうひとつの落とし穴。 メディア、報道、噂のミサイルも、時に真実を衝き抜け突っ走る。保険等の契約、読む気を無くす白蟻のような文字。 読んだつもり、つもり違いは勘違い。一文一句読み飛ばさず、印を押すものだろうけれど、さあ、いざという時どうだろう?「え? そうでしたっけ。 聞いていなかった・・・・・・」では済まされない。きっと、大きい文字より、小さい文字にこそ大事なことが書いてあるのかもしれない。 裕子は顎を、組んだ両手にのせながら、充実という膨らんだ泡が突然弾けたあの時の事を思い出していた。
2007/01/11
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年明けの一月十日、夕方寒風の中を駅に向かう。車ならきっと、二十分ほどで着くのだろうと思いながら、コートの襟を左手で握りしめて若者がしゃがみ込むコンビニの前を通り過ぎる。やがて信号の手前に「街路樹」の看板が見えた。 街灯に照らされた洋館風の建物は、温かみのある雰囲気を醸し出していて、やみの夜にふうっと浮いているように見えた。 店内に入ると、配置された重厚感のある家具、剥き出しの黒い梁、ステンドグラスの小窓、レトロな照明器具、それらが寛ぎの空間をつくっていた。さらに格子の衝立で仕切られたあたりは、「導線にも気を配っているなあ」と頷く。迅速に店内のポイントを見渡した裕子は、決別したはずの仕事に未練がある事を知る。認めまいと、慌てて心の引き出しを閉めようとしたが、防虫剤や乾燥剤が邪魔をする。 そして呟く。「この情感豊なインテリア、一言でイメージするなら鹿鳴館」 さらにときめく。「ああ、ステキ・・・・・・ここで働けるんだ! 」 そう思うと、銀座のネオンとは違った街並みに肩を落とした事など、どうでもよくなり、面接が通った「ラッキー」に久々に笑みがこぼれる。 仕事の説明を受ける為にやってきた「街路樹」。更衣室で与えられた制服に着替え、他の四人の高校生と「どーも」と挨拶を交わした後、チーフの西田の指示に従って厨房へ向かった。西田は少し大きな顔に特徴のある、たぶん流行りの眼鏡をかけていた。とりあえず裕子が「ん? 」と思う服や小物、装いは「流行り」と言うことで片付ける事にしている。 厨房では二人の男の子が、裕子達と同じ白いコックコートを着て立っていた。ただ、サロン(前掛け)の位置が腰の下。 「俺は先輩だよ」という生意気なポーズ。キャップも斜めかぶり。 彼等は興味の眼差しで、新米の列を待ち構えていた。裕子は一番うしろにいた。 前の四人は、同年の先輩に幾分緊張している様子だった。カウンターと配膳台の間を通り、やっと最後の裕子が中に入った。「なーんだ、オバサンじゃん! 」 中の一人が言った。 「オバサン? 」 裕子は振り向いた。 歩いてきた導線はいたって単純「オバサン? 」反射的にオバサンを探す。 誰もいない。 そう、自分しか・・・・・・ 前もって新メンバーには、女性が一人いると聞いていた彼。 大きな期待ハズレをくらった瞬間、本来のみこむ言葉をありのまま吐いた。 それは厨房の高い天井にこだました。空間は微妙にずれた。 揺らぎは世代の差の中で、戸惑いながら何故か微笑む。「この子の顔は忘れない・・・・・・オバサンをなめるなよ! 」 これが、大沢竜也との出会いとなった。
2007/01/10
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「あれ? 何をしていたんだっけ? 」 最近はこうだ。 何をしようと思ったんだっけ? より始末が悪い。残りのハーブティーを一気に飲んだ。 そして雄二の手紙を仕舞った箱を、クローゼットの上の棚に戻した。 的を目指す・・・・・・目的。 こうしてクローゼットの整理整頓が忘れさられた。 携帯電話の着信音が鳴った。裕子はこの物体を「くちばし」と呼ぶ。ここにも、研究、技術、生産の恩恵が存在する。 例えば電車を降りると、多くのくちばしが一斉に耳に向かう。 そうして口から七センチ程はなれた、相手のくちばしと繋がる。あるいは、手の中のくちばしは、遅くても数十秒で目的の扉をノックする。 「受信中」 くちばしを開いた。「チワーッス! 今度のバンドの曲♪、ポルノにすっから。 ヨロシク! 」 新機種に変えたばかりに、彼等彼女等におもちゃにされて、できあがった着信音。それでもこの頃、ワンタッチでくちばしが開くことを知ったから、耳も脳も胸の表面もイライラしないで済む。(ポルノって何? オバサンにはわからない。 グラフィティー? ん? ポルノ雑誌?)「返信」「こんばんは。 ちゃんと挨拶できないの? また、うざい!とか言うんでしょ? ポルノ? なんの事かわからないんだけど。 楽譜じゃないよね? 」「受信」「マジ?! それってヤバくない? 足腰より、頭、大丈夫? ドラムって太鼓じゃないしー」(失礼な! ) 少し穴の空いたスリッパの先に、思わず力が入り、裕子はバランスを崩した。そうして、くちばしをもったまま前につんのめった。採用年齢の上限を誤魔化した後ろめたさと引きかえに、つつましやかな時給に涙を飲んだ週4日のパート先。 レストラン「街路樹」 大沢竜也は、そこで働くアルバイトの学生だった。・・・・・・・・・・・・・・香乙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 世代、毎日のアップには訳がある。 けれど、穏でいってるから大丈夫。仕事もはじまってない。 頭が回転する時はあまりないから、今はチャンス。 昨夜、時々写真をお借りしているしっぽ2さんのページへ行った。そして、1月8日の日記「追憶」の文字から辿って、以前訪問させてもらった方の息子さんの文章に出会った。 そこには、日頃私が息子に言っていた、あの言葉があった。 「あのね、もし、お母さんに何かあったら・・・・ほら事故とか突然の病とかで意識がなくかるとかあり得るでしょ? 年齢だけじゃないよ、ほら、○さんも、○さんも私より若かったでしょ! だからね・・ 何かあったら、ここの仲間が心配するから、その時はあなたが伝えるんだよ。 いい?母は・・・・ました・・ってね」 たぶん私より若いその方。 突然逝ってしまった。 前日まで日記を書いていらした。息子さんは、会ったこともない仲間に「母がお世話になりました」と感謝の言葉を綴っていた。しっぽ2さんは「出会いも突然・・・別れも突然おとずれる・・・」 と。 ブログを続ける・・・・そういうこともひっくるめて、しみじみ考えさせられた。「ご冥福をお祈り致します」 撮影 SOUさん
2007/01/09
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多くを語らなかった後輩の雄二。 そんな彼の手紙は凄く自然で、まるで七色の海を真ん中に置いて、向かい合って話しているようだ。 普通と言えば普通。 普通の基準が今ひとつだけれど、普通のわりに突然「留学」と言って陸を蹴って、飛び立ってしまった。 ロストゼネレーション、バブル崩壊時期に少年時代を過ごした世代だ。 前向きな青年、平凡と普通の中にこそ潜んでいる日本の宝。 主婦を長い間続けていると、知らない間に守りの体制になっていく。新しいものへのアクセスに、少々臆病になる。 体裁や人並みという言葉で、先細りのなりがちになる。 裕子はそれを好まない。 今、時代と共にそういう思考の流れはある。 裕子が生まれるずっとずっと前、平均出産数五人、平均寿命四十九~五十歳だった頃、家事にかける時間は十時間以上。 子育て終了、一息つく間もなく死を迎える時代もあった。子供を生んで育てる為に生まれたような・・・・・・ああ、たぶんこの時代に生まれた女性は天から「抜擢」された方だ! きっとそうだ。 高度経済成長期、電気製品普及等で女性のライフスタイルが転期を迎え、家事労働急減。平均出産数二人。 女性平均寿命七十五歳位。 子供の手が離れて三十五年が残される時代に。 そして今、伸びたのは、裕子のジャージズボンのゴムだけじゃない。平均寿命も十年延びた。レトルト、冷凍食品のお陰で、男女平等のお陰で、フルタイムで働けない不況のお陰で、主婦に与えられた第二次ステージの時間も・・・・・・ 「さあ、どうぞご自由に使って下さい! 死ぬまで生きられます、存分に! 」 健康でありさえすれば。 政治がよどんでなければ。 格差社会が加速しなければ。そして今、増えるのは皮下脂肪ばかりではない。医療、介護、年金の自己負担。 離婚、高齢者、ニート、いじめ、虐待、自殺、アレルギー、ストレス。減ったのは年収と社会保障。 追加して品格、威厳、誇り、対話、けじめ、ナチュラルキラー細胞。 うろたえたって、今日も地球は回っている。たこ焼き器の中で「ホット! ホット! 」と言いながら、コロコロと回っている。 撮影しっぽ2さん
2007/01/08
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あたりまえだけれど、窓の外は暗い・・・・・・夜だから。でも、世の中はもっと暗い。 少し色褪せたカーテンを閉め、だるい足腰を右手の甲で叩く。気合いを入れなければ! 明日の為に・・・・・・(週3日~4日、1日5時間程度働ける方。 経験者優遇。 年齢40歳位まで)「ガクン! 」明海にもらったハーブティーをめがけて、一階のキッチンまで、「よーい、ドン!」まるで、待機せざるをえなかった就職氷河期の若者のようだ。 氷は何時になったら、溶けるのやら。 クローゼットの整理の途中、見つけてしまったピンクの箱。ちょっとのつもりが、いつもこう。 だから開けっ放しのクローゼットに、半分腰を入れ曲げた膝だけ、ひょこんと出して密やかに読む。 ハーブティーをすすりながら。 「その日、イギリスに来て、最初の市内ツアー授業で、俺はロンドンに行くのを楽しみにしていたんだ。 あの手紙を読むまでは・・・・・・ 裕子さん、もうわかるよね? 終わったんだ、俺たち。 遠距離、いや!側にいても駄目なものは駄目だったのだろうな。 終わるってそういうことだ。 ロンドン行きの電車の中で、もう一度彼女からの手紙を読み返した。 周りの友達や先生に気付かれぬように。 やはり夢でなく現実なんだ!と思ったら、涙が止まらなくなった。 ただこの日、日本でも報じられたと思うけれど、イギリスでは、ダイアナ妃が亡くなったことで多くの人が泣いていたんだ。 俺の涙のもうひとつの訳は、悟られなかった。だけど、この失恋はダイアナ妃の死と重なったことで、俺の記憶に強烈に残っていくんだろうな。 本当に状況は容赦なく変わる。 人の心もね。 裕子さんはどう? 風の頼りに会社を辞めたって聞いたけれど。ああ、返事はいいよ。 裕子さんは仕事、家事、あげくに俺の知るところの同年(といっても母親や叔母くらいだけれど)の女性の中でも、多忙を好む人だから。 前にも書いたと思うけど、夜8時を過ぎても太陽が明るく街を照らすんだ。そうかと思えば、午後3時頃、夜が降ってくるし。 地球は不思議だな。 追伸: 俺、たぶん立ち直るから・・・・・・いつか裕子さん、言ってたよね。 あれは 美紀ちゃんの時だっけ? 「涙は心に染み入り、男を少しだけデカクし、女を凄く強くする」って。 ちょっと勝手な定義じゃない? 俺も少しはデカイ男になって帰るよ。 雄二 」 撮影yuu yuuさん・・・・・・・・・・・・かおと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 外は強風! こんな日は中途半端で困る。洗濯物もお布団も、掃除も換気も・・・逆効果。こたつにへばり付くのは、もう鯔になるばかり、ムーミンなら可愛いけれど、鯔・・トド。火曜日から「普通」が戻ってくる。 私の普通は昨年から変わった。 タバコをやめた。 コーヒーが飲めるようになった。 パソコンと向き合うようになった。手抜き主婦になった。 これでもオトナシイ暮らし振りになった。ああ、チーズケーキが食べたい! できたら抹茶ケーキも。 さっき横目で見て、堪えて買わずにきたアレが食べたい
2007/01/07
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雨上がり、大きな雲の切れ間から地上に届く、太陽の直射光。木漏れ日とは違う、壮大な幸せのスッポットライト。天使の梯子。 それは、平等にして遥かなる未来への希望の階段。 世代も国もえらばず、移りゆく地上のスピードも、停滞も、あなたはじっと見ている。存在を露にしながら、雲に隠れながら、時に姿をくらませながら・・・・・・ たったひとつ、それは太陽。 無言、それは太陽。手を差し伸べて、宇宙のリズムに大自然を育みそうして儚い私までも、そこに巻き込んでくれる。一番高いところにいながら、あなたは触れ合いの中に、美しい花の香りの中に、時折訪れて、虚無や沈黙に微笑みかける。 撮影kitakitune05さん
2007/01/06
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もう少し、まだもうちょっと・・・・そうしたら運転開始。 徐行しながら 私の場合、走りはじめたら終点まで行かないと(いちおう物語、『小説』とは言わないでおく)だから、まだ心の準備がいる。 途中休憩しながら、穏やかに・・・。 昨年から、一歩成長できる文が書けるよう、自分も心地よく、読んで下さる方も疲れず、続きを読みたくなる~!ような、読後にひとつ「残る」ようなものを書いていきたい。 東京で修学旅行並のお皿やコップ、お布団、洗濯物、と格闘しながら、長女の使命を果してきた。そんな中で、ほっと・・・ページを開く束の間のひととき。感動の作品群。読書~ 北方謙三 「彼女の時」 藤堂志津子 「空からの手紙」 そうして昨夜再び、半身浴しながら見入ってのぼせた「雨の化石」 山田詠美 一部~「彼女がぼくに向かい合う時は、いつも、とまどいを肩のあたりに漂わせている。・・・・・時には少女のように笑ったり、なだめるように言葉をかけたり、ぼくが夢中になり過ぎないようにさとしたり、なのに、ぼくがあいそをつかさないように心配をする。 彼女は、とても、ずるくて、そして、それを・・・・・見透かされてしまう程悪気がない。」 なんて綺麗な文章! Pureなの~ 映画~ 太陽のうた (なんで最近ヒットするドラマや小説は、ラスト子供や若者が死ぬの~?) ピンクパーサー 最新版 (おなかを抱えて涙を拭いて大笑い) 手作り~ 今こそしなくなったけれど、去年まではこんなものをせっせと・・・・・・友達やご近所にあげちゃって、たくさーんあったのが今はこれだけ。作る過程が楽しい。 で、ハマッテ、疲れて、飽きて、次は何をしよっかなーって具合。 さてと、ストレッチでもして くびれを復活させるかな~ マジ ヤバイ!
2007/01/04
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今年もよろしく お願いいたしますm(--)m 今年の目標(硬いから・・意識したいこと)を漢字一文字で。 「穏」 ちなみに昨年は「健」だったんですが、健やかは穏やかって感じた私の場合、これにしました。 今年も、日本のどこかに行きたい。 未だ行ったことがない地に、足と眼と心を踏み入れたい。 そうして、昨年同様、生まれ故郷信州へもぜひ! 年とともに 恋しくなる。 10歳までしかいなかった土地なのに夢にでるのは?
2007/01/02
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