成定 竜一~高速バス新時代~
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再び高速ツアーバスの事故が発生した。事故そのものに加え、国による一連の「緊急対策」に関して違反があったという事実にショックと失望を禁じ得ない。特に、交替運転者の配置基準(実車距離400km、乗務時間10時間など)は緊急対策の一つの要である。規制というのはそう簡単に策定できるものではない(誰かが簡単に規制を作るような国家なら、それは怖い話だ)。私自身も本緊急対策の策定に関わったが、あらゆる関係者は言葉を慎重に選び神経をすり減らす思いで調整しこの基準を作ったはずだ。国は文書を出すだけでなく運輸局単位で説明会を開催し(該当事業者を所管する関東運輸局の説明会では私自身も壇上で説明の一部を担当したが、かなり大勢が参加していた)、高速ツアーバス連絡協議会でも国から担当者を招くなど説明会を二度開催したのだが。なんとも無念である。報道では、当事者が「乗務時間」という用語を誤解していたと言う。たしかに、「実車距離」「乗務時間」という指標は本対策で生まれた新しい指標である。だがあらためて国の資料を確認すると、わざわざ「※」印をつけ両指標の定義を明記してある。それさえ見落とす企画実施会社や運行会社であれば、申し訳ないが乗合事業者やその受託者になることは困難だろう。書面上は許可取得できても日々の運用で苦労する。自ら苦しい思いをしたり周囲の足を引っ張ったりしないよう、慎重かつ速やかに自らの将来を選択していただきたい。私個人は、前にも書いたが、現在では高速ツアーバス業界のために自主対策を策定したり、国の対策策定に協力したりする役割には、本来はない。ただ、過去の経緯や周りの顔ぶれを考えると、ここは私が引き受けるべきだろうと判断し手を挙げた。もちろん、多くはないものの協議会から報酬をいただいているし、その役割を通して生まれた多くの関係者との信頼関係は今後にプラスだと思うから、その役割自体に文句は言わない。しかし、この状況でなお決められたことが守れない人たちのために働いているというのなら、悲しい。それでも、高速ツアーバス各社が「新高速乗合バス」に移行合流することは、彼らにとって、また「既存組」高速乗合バス各社にとっても意義あることだと考えている。必ず実現するためにも、今後、冷徹に物事を進める必要がある点をあらためて覚悟した次第である。さて、まったく話は変わるが、一般財団法人運輸政策研究機構の研究誌『運輸政策研究』最新号に、山本雄吾・名城大学教授、森田優己・桜花学園大学教授、そして大分交通の蛯谷憲治課長(←あれ、課長になったの? 昇進おめでとうございます)による論文『バス事業規制区分のあり方-英国の規制区分を踏まえて-』が掲載されている。さっそく蛯谷さんから抜き刷りを送っていただいた。彼は、地元の乗合バス事業者の第一線で仕事をしながら、自ら大分大学の大学院に通いバスの規制のあり方について研究している(そのような勉強熱心なバス屋は他にいないのではないか)。『バスラマ』の和田編集長にご紹介いただいて以来、九州に出張するたびに無理くり大分泊を作って飲みに行く関係が続いている(もっとも九州の場合、そういう相手が多すぎて出張の行程づくりに困るのだが)。タイトルにもある通り、英国の規制区分を、現地に足を運び英国運輸省等でヒアリングした結果が本論文だ。我が国では「乗合」「貸切」に規制が分かれるが、現地では「域内バス(平場の乗合)」と「それ以外(高速、貸切)」という分類だそうだ。域内バスについては公共の関与が非常に強く、一方でそれ以外に関してはほぼ完全な自由競争とのことである。またバスターミナルの入線権が競争を阻害する要因とならないよう、高速バス分野では、既存・私有地のバスターミナルにも、新規参入事業者の受入が義務付けられているとのことだ。この辺りは、本論文の発表を待たずして簡単なレポートの段階で国交省の目に触れており、「バス事業のあり方検討会」最終報告書にも、実は反映されている。もっとも、英国の事例を学ぶこと自体が研究の目的ではない。「1.本研究の背景と目的」から引用すると、まず、我が国のバス事業において、<都市間バス(長距離バス、高速バス)と域内バスが同一の規制制度下に置かれていることに起因する矛盾>が問題を生んでいるとする。また、<道路運送法が制定された昭和20年代にあっては、乗合バスは(中略)一定の収益を見込める営利事業であった>が、昭和40年代以降、自家用車の普及や過疎化の進展から、<域内バスは純粋な営利事業とは言い難くなっている>。一方、<昭和60年頃より、高速道路整備の進展や、国鉄改革に伴う鉄道保護政策の見直しを背景とした規制緩和により、乗合バスは地域交通の範囲を超えて都市間長距離輸送に進出した>。<市場も目的も異なる都市間バスと域内バスでは、規制・補助政策が異なって然るべき>という観点から研究を重ねた結果得られた、<域内バスについては最低限のサービス維持ならびに利便性改善のための公的な関与(調整)と支援(補助)を制度化>し、<一方、都市間バスについては、いっそうの規制緩和による競争促進を図るべき>という結論は全くもって同感である。既存事業者の社員という立場では書きづらかった結論ではとも心配するが、本当に公共交通と既存の乗合事業者の将来を思えばこの結論になるはずだ。有意義な研究に心から賛辞を贈るものである(というか、早く九州出張に行きたくなった)。それにしても、本論文に示された英国の高速バスの姿、すなわち、「バス停の既得権なし」「路線の新設改廃や時刻、運賃等について届出等の必要なし」「傭車は自由」といった制度は、本質的には我が国の高速ツアーバスそのもの。理念としての、高速ツアーバスという事業モデル自体は、突飛なものではないのだ。しかし実態は冒頭に書いた通り。一体どこで道を逸れてしまったのかと堂々巡りを重ねては、そんな自分に気づいて溜息を繰り返す。本音を言えば、「既存組」高速乗合バス各社の新制度対応のお手伝いをやるために今の会社を作ったのであり、ようやく動き始めたその仕事に専念したいのだが……「二足のわらじ」と溜息はもうしばらく続きそうだ。
2012.08.05
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