今日も元気で

今日も元気で

2006.11.20
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カテゴリ: ささやかな倖せ






   ぴんぽ~ん。



   ドアを開けると、お歳の頃は70代。
   神官の服装をした御方が姿勢正しく立っておられた。


      「 まぁ、もぉ、1年経ったんですね!!
        お元気でいらっしゃいましたか 」


   思わず言の葉が勝手にこぼれ出してくる。


木々



   この地に転居して初めての晩秋に、
   チャイムが鳴って玄関を開けた時に、神官さんが立ってらしたのには驚いた。


   木枯らしがびゅーびゅー吹き荒れる日で、

   背筋がぴんと伸びられて、こちらまで衿を正すような心地がした。

   出雲からお越しで、毎年、お札を配って歩いている、と言う。

   広島時代はマンションだったからか、こうした出逢いはなかった。
   初めての経験である。


       かつて日本史を学んだものとして。
       日本史の教諭になろうと、少しでも考えたものとして。

       出雲の國。 出雲大社にはまた格別な想いがある。
       大学時代、松江に住む叔母宅を宿に、3日通った。


   一瞬迷ったが、その御方の佇まい、物腰に御札をいただくことにした。


   御札をいただき、お金をお渡しすると、


   辞されるとき、「 どうぞ、来年も皆さま、お倖せに 」とおっしゃられ、
   思わず、涙がこぼれた自分に驚いた。


   3月。 私の誕生日に同居の形で転居し、8月末に新居が完成して入居。

   新居が完成して、義父母の家を出ることができて嬉しかったのはその夜だけ。
   翌日から、ちっとも「別居」になってないことに気付く。



   異邦人を観る、地域の方々の監視のような視線に疲れ果て。
   毎晩、広島恋しさに声を出さずに泣いている上の少年にこころ痛め。

   毎日毎日。 農村での暮らしに、私は疲れ果てていた。


      義父母に良かれ、という一念で転居して来たが、
      私はちっとも倖せぢゃない。
      上の少年もちっとも倖せぢゃない。
      また来年も、これまでと同じ日々が続く。

      もぉ、イヤだ。 私は ここ から逃れたい!!!



  「 どうぞ お倖せに 」 とおっしゃられた途端に涙を滴らせた私に、

    神官さんは、
       「 おゃ、神さまが泣いていらっしゃるのですね 」
    なんとも言えないお顔でにっこりされ、
       「 どうぞどうぞ、お倖せに 」
    もう一度、そうおっしゃって、ぴしっと美しい一礼をされ踵を返された。



    その毅然とした佇まいに、暫し自分も玄関へ立ち尽くし、
    神官さんの背中が見えなくなるまで、見つめてしまっていた。

     「 倖せ 」 という言の葉があることを、
     私は、転居以来、忘れていた。

     私は、ずっとずっと辛くて、不幸で、悲しかった。

     でもそれは、どうしてなのか。
     このまま、死ぬまで、私はそう思いながら生きていくのか。

     目が醒めた瞬間だったように思う。




    以来、この神官さんがお越しになる度、
    また、1年経った、もぉ1年経った、と思わせていただいている。


    一昨年、領収を書こうとされたときに、
    神官さんのボールペンが、折れてしまった。

    「 あ! 」 とふたりで声を上げ、
    私は玄関前に常備しているボールペンをお渡しし、

    「 どうぞそのまま、お持ち下さい。
      こういうときのために何本も用意しているのです 」 と差し上げた。

    「 本当によろしいのですか? 」

    と、恐縮され、何度も御礼をおっしゃられ、
    最後に、いつもの、
    「 どうぞ、お倖せに 」とおっしゃって辞されたのだったが。


    昨年。
    いつものように御札をいただき、神官さんが領収を書かれたとき。


    「 奥さま。 覚えていらっしゃいますか。
      昨年、お心遣いをいただき、大変に助かりました。
      帰って報告致しまして、皆で慶ばせていただきました。

      今年は、ペンの御礼に、お神酒をお持ち致しました。
      どうぞご笑納下さい 」


    驚いた。
    1年前のことである。
    それが有難い御神酒となって戻って来た。

      『出雲大社御神酒』と筆で書かれた白い箱。

    畏れ多くて、そのままずっと飾っている。

    お正月に、義父の忌明けも兼ね、このお神酒をいただこうかな。。。。。





    近所に大きな由緒ある(らしい)神社が在るが、
    そのていたらくは、 何度も記した通り

    この地の私にとっては、この神官さんに玄関先でほんの数分お逢いするのが、
    こころのお宮参り、のような気がしている。



       相変わらず、美しい佇まいの神官さんだが、やはりお歳を召された気がする。
       あの薄物のご衣裳でも、平気なお顔をしていらっしゃるのは、
       日頃のご鍛錬の賜物なのだろうか。

         「 また来年もお目に掛かります。 どうぞお倖せに 」

       そうおっしゃられたとき、つい、

         「 はぃ、お待ちしております。 どうぞお元気で 」 と言ってしまった。

       深く頭を下げられたが、ちらりと笑みが見えたような気がした。



       どうぞどうぞ、お元気で。 


ペン晴





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Last updated  2006.11.20 10:19:09
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りうりう* @ Re:(*≧m≦*)ププッ(04/01) おじゃりんさん  > ワタシ 自分の…
りうりう* @ 「 お年頃 」 お互いに > パクチのねぃさん  >…
りうりう* @ 「 つまり現在既に 」 やっぱり そなのかな^o^;?? > やじ…
りうりう* @ Re:熟慮に熟慮を重ねた末(05/07) あそびすとさん  > なんてことを言…
あそびすと @ 熟慮に熟慮を重ねた末 なんてことを言っていると、どちらにも進…
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パクチーナ @ Re:その ココロ は。(04/01) ムフフ・・・こういうお話大好き^m^ そし…
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