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な、何故?8話は、ひとつだったはずなのに、いつの間にか3つに分けなければならない事態に…み、短かったはずなのに…だって、本当は6.7.8話が一話だった、と言う無謀な考えも本来なら予定だったんですよ?長くなりすぎですよ…汪燕の性格、歪ませすぎたから……?紅の雪も当初の予定よりも、かなり長くなってるし……困ったなぁ、もう少しで本編、バトンタッチされるのに……まあ、愚痴はここまでにして、と更新、遅くなりましてすみません予想以上に難産してしまってああ、頭の中で考えるだけで文章になってくれたらなぁ…どんなにいいだろう…なんて、逃避したりしていて…気持ちを切り替えてこれから頑張ります……頑張りたいですのんびりと、待っていてくだされば幸いです
2006年03月29日
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興味深さが未だにつきない狼暉から視線を逸らし、少し斜めに上げれば、胡家の屋敷が視界を満たす。 もう一人ここには、気に入いっている人物がいるはずだ。そう思うと、口の端が吊り上がるのを感じた。まだまだあどけなさが残る顔が脳裏に蘇る。 強く握れば、砕けて壊れてしまいそうなあの子供の何処を気に入りだしたのかいつだったか、はっきりしたことは覚えていなかった。 確か数奇な運命、と言う荒波に放り出された一艘の小さな小舟がどうして沈まなかったのか、それが興味の対象となったのが始まりだった気がした。 小さく未熟な身体に幾多もの傷を刻まれた持つ子供は、ある特定の人物達に対し、強烈な庇護欲をかき立てる存在だった。傷だらけでも立ち上がり、歩み続け倒れない、輝きを纏った、そう、汪燕の好む人が集まっていた。眩すぎる輝きの下に数多の傷を隠し持っている彼らは、痛みを共感してか-それだけでは決してないのだろうが-汪燕から見てみれば大切に大切にされていた。眩すぎる輝きの発生地の中心となっている、それだけしかはじめは認識しておらず、気付けば認めていた、だった気もする。 きっかけは何だったか、とあやふやな記憶を辿る。汪燕の余計なことまで抜群な記憶力がここまであやふやなのは、過程を余り気にとめない人柄と、そんなことを覚えているよりは、武器となる情報や弱みを覚えている方が楽しいといった思考の持ち主だからであった。 過程などより汪燕にとっては、あの子供が予想以上な強さを秘めた意外性のある人間であり、予想外の、しかも面白いことばかり引き起こしてくれ、尚かつ自身の好みに当てはまると言う素晴らしく、そして色々と期待さえできる人間だと言うことが重要なのだ。「おい………」 地を這うような低い声に汪燕は思考を中断すると、声の主に視線だけで何だ、と返答をする。突入するぞ、と言われ軽く頷き、心なしか足早に進む狼暉の横を位置取りながらも、ふと疑問が脳裏に過ぎる。「お前は、何に対し、そんなに怒り、慌てているんだ?」「何だ、いきなり?」「人情に厚い狼暉隊長は、一体何に対し、そんなに心を乱しているのかと思ってな……虐げられた胡家の人々への同情か、莫迦の狼藉への怒りか、それとも」 まるで歌うかのように楽しげに、だが部下には聞こえないように配慮され音量が落とされた流暢な響きに、狼暉は眉を跳ね上げる。「それとも…“月のない夜”を壊されそうなことへの焦りか?」 試すように、だがどこか独白のようにさえも聞こえる汪燕の声に、狼暉は呆れたように鼻で笑った。「そんなの決まっているだろうが」「ほう?」「胡家の人々への謝罪の気持ちも、莫迦への怒りも確かにある……だが、比べようがないだろうが。最後の理由に決まっている」 一切の迷いも、淀みもない澄み切った声に、汪燕はいつもの偽りの笑みに少しの本当を滲ませた。 ああ、だから狼暉は面白いんだ。「戯けたことを行っている暇があれば、急ぐぞ」 心底、変な質問だと言わんばかりな態度だった狼暉はさらに歩調を早めた。汪燕も歩幅を広げた。 何と言っても、これからが面白いことになる。一幕すらも見逃すつもりは汪燕には毛頭ないのだから。
2006年03月29日
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現時点では解決されない疑問に汪燕が内心首を捻っている最中、血生臭い幻惑から目が覚めた部下達に、狼暉は迅速かつ的確に指示を続ける。「部隊編成はできたな?」「はっ、命じられたように医療の心得のある者をまんべんなく配置しております」「よし、人命救助を第一にしろ。救える者は、必ず救え。破落戸どもなんぞの相手は後でも充分できる。優先順位を間違えぬよう、しっかりと言い聞かせろ」 部下達はやりきれなさを使命感に昇華できたのか、呆然としていた先ほどとは見違えるほど、羅家の兵士として相応しい行動だった。 だが、汪燕はそんな姿を見て、少し顎を掴み、狼暉に命じられ今にも駆け出す部隊長達を呼び寄せた。疑問符を顔に浮かべているのも気にせず、端的に汪燕は静かに命じた。「破落戸どもを発見しても、痛めつけようが、苦しませようが好きなようにしていい。だが、決して殺すな」 疑問符が一気に消え、その下の表情に何とも言えない色が滲んだ。それは不可解な命令への憤怒ではなく、義憤から生まれた汪燕に対しての抗議したい、と言う気持ちだった。不可解な命を何故出すのかが分からなく、反発したい心と上司へ忠義心が交互に浮かんでは消えていた。 狼暉は理由を言わずとも理解したようで、助けを求めるように仰ぎ見ていた部下達に首肯することで汪燕の意見に賛同の意を伝える。 迅速な事態収拾の為には、正確な事実を知ることが不可避だ。そしてその知り得た事実に穴があってはならない。その為にも、当事者達の言葉はかなりの情報源となるのだ。 そして何より、破落戸どもは絶好の取引の餌になる。 憎むべき敵を引き渡すのと、引き渡さないのでは大きな違いとなる。憎しみの矛先は当然そちらに向くので交渉を進めやすくなり、丸め込みやすくもなる。あなた達の憎い者達は全て倒した、もう安全だ、では、生存者はいません、ではすまされない。 が、表立っての理由であった。 胡主がそんなことで丸め込まれる御仁ではないことは、汪燕はよく知っている。破落戸どもの使い道は他にもあるのだ。 今にも反論を騒ぎ立てそうな部下達に、汪燕は説明するのが時間の無駄だろうに、と思うので一瞬で片を付けることに決めた。「殺すなど、そんな楽、許さん」 酷薄な微笑を付属させた、冷めたいが裏に一抹の愉快さを滲ませた声は、雨の滴の冷たさよりも鋭く部下達に突き刺さり、凍り付かせた。 少しは鑑賞しがいのある愉快な表情ではあるが、物足りない。先ほどの狼暉の顔と比べたら幾分劣るな、と奇妙な悦楽に、瞳の奥底に楽しげな光を一瞬だけ汪燕は灯した。 次期羅主が胡家に向かったと言う情報を得たときの狼暉の表情は、それはそれは見物だった。 くすんだ黒い髪から流れ伝う雨に眉を寄せていた表情とはかけ離れた、無防備なところをざっくりと傷つけられた顔は鑑賞に値するものだったが、特に目を引いたのは瞳だった。近くで見れば鳶色に見える瞳の奥には、純粋な怒りだけではなく、苛立ちや憤りで濁らせていた。複雑な感情が浮き沈みし、複雑な模様を醸し出す瞳は、それはもう、美しかった。もうすぐ三十路になると言うのにまだどこか若々しく、汪燕にはとうてい及ばないが比較的整った顔から、いつもは有り余っている余裕がなくなり、その空いた隙間に次期羅主への嫌悪感が支配していた。 滅多に見ることができない表情に、充実感と満足感をはっきりと感じたのだった。あの表情は思い出すだけでも、しばらく悦楽に浸れるほどだ。 ふと、狼暉が断言して憚らない自身の『歪み』具合を再認識し、口元が上がる。薄暗い夜空の下、自嘲にも見えないことはなかったが、光の下できちんとみれば皮肉な笑みだと聡い者は気付くようなものだった。 人間は、いくらでも己を偽ることが可能な生き物だ。それは高度な知能が可能にするのだ、と何処かの名ばかりは高名な学者が言っているようだが、汪燕にしてみれば人間が無意識に見下している動物より臆病な生き物にすぎないのではないか、と思う。 だからか、汪燕は信じられない。他人の表情や言葉や態度がそのまま本心であるなどとは。塗り固められた虚像にしか感じられない。 特に笑顔などと言った喜の感情は負の感情より偽り易く、仮面にしか見えない。汪燕自身も、よく笑うことがある。だが心から楽しくて笑ったことなど両手で足りるだろう。頻繁に浮かべるのは、場に合わせた笑顔、拒絶の笑顔、部下など下の者を安堵させるために楽しくもないのに無理矢理浮かべた笑顔だった。 だが、唯一信じられる表情があった。負の感情の極致である絶望に直面した悲壮な顔や呆然とした顔などだ。 心底傷つけられたり、恐怖を味わうと人間は偽る余裕がなくなる。仮面をつけ忘れ、素の表情となる。その瞬間は、汪燕にとって素直に他人の感情を信じられ、表情に魅せられる。まるであの歪んだ表情が心の純粋な一欠片のように錯覚しそうになるほどだ。 魅せられる内に『美しい』と思うようになった自分は、どこかおかしいのかもしれない。 だが、魅せられるのも、美しいと思うのも、偽られていない心に触れられたと思う、と言う感情が大前提にあるようで、どうやらどんな人間でも良いわけではないようだ。懐に入れてもいい、と思える人間にのみ歪んだ顔が見たい、と思うのはそうとう質が悪いのだろう。 優秀で有能な部下達の先ほどの顔は、気が向き、時間があれば見てもいいかな、と思う。以前金品を奪い取ろうとした野盗などは、最悪だ。あの醜悪さは二度と見たいとも思わない。性別が女であり、顔も整い見れる相手ならまだ考慮の余地は多少あった。だが、似たり寄ったりの下品な顔の男で、少々『苛めた』だけで情けなく泣き懇願する姿は気色の悪い顔以上にひどく癇に障ったので、忘れたくても未だに覚えていた。 汪燕は、自身が軽く『苛めた』つもりでも相手により深く致命傷を与えていることは自覚していた。そしてそれぐらいで傷つく者達を軟弱、と思い、切り捨てきた。大抵そう感じる輩は汪燕が相手を試した時に、一番虫唾が走る方法で反論してくる連中であった。 相手を試すのは、簡単だった。相手の弱く脆いところを狙いを集中し、そこに反論のしようがない証拠や言葉を投げかけてやればよい。目を逸らしていた、もしくは気付いていなかった部分を無理矢理明るみに引っ張りだし、突きつける。そうすれば、その後の反応さえ観察すれば大抵その人間の真価を見極められた。 己の言葉で意思と考えを表せ、逃げず、目を逸らさず、きちんと汪燕と向き合える者が最低限の合格の判定を押せる者なのだが、滅多にいない。砂粒の中から砂金を探すほうが、まだ楽だ。金山や宝山などではない鉱山で一人で岩を砕き、その中から希少で素晴らしい輝きを持った宝石の原石を見つけるよりは、ずっとましではないか。 ため息を吐きたくなるほどの手間と苦労だけならば、汪燕は自身の楽しみと、発掘した時の喜びのために決して時間をおしまずにした。だが、それは過程の途中で余計な価値すらない異物が見つからない、と言う前提がついた。価値すらない、見出せない異物は、醜悪で、見るに耐えないばかりか余計な囀りにより汪燕に頭痛や吐き気を催した。 泣きわめくだけならば、良い。視界にも聴覚にも存在を入れなければ良いからだ。逆上するのもしかりだ。あしらうことなど呼吸をするより楽にできる。だが己の言葉ではない言葉で、薄っぺらい正論などで汪燕を非難するのは頂けなかった。私は間違っていない、こんなことをする貴方が間違っている、と頭ごなしに否定し、哀れみ、見下す輩が必ずいた。己の絶対的な正しさを過信、いや盲信しているのか好き勝手に耳障りなことを、こちらの意見など一切聞かず糾弾し続けるのだ。そこに諭し、導いてやろう、と言う気持ちが見え隠れすれば嫌悪感で思考が埋め尽くされる。諭すことが、悪いのではない。だが、諭すと言うよりも己の正しさを自慢したいのでは、としか思えないそれは、偽善者と言うよりも、『正しい位置にいる自分』に自己陶酔している阿呆だ。理不尽な言葉でもただ怒り狂っている輩の方が何倍も可愛げのあると言うものだ。 怒ったり、泣いたり、理不尽に傷つけた汪燕を侮蔑、非難されることは、汪燕自身承知していた。傷つけられ、壊れそうな自身を守ろうとすることを-それぐらいで壊れるのかという呆れや嘲りなどはあるが-否定はしない。我慢もできる。だが、そこに純粋な怒りや悲しみ以外の、例えば汪燕への哀れみや苛められた『可哀想な自分』への哀れみなどが混じるとどうしても我慢できないのは、あまりに理不尽すぎるだろうか。「しかし、まぁ……当たりがでる確立がもっと高ければ苛立ちがあれほど募らないのだろうがな」 思い返してみれば、一体己が求めている存在と言うのはどれほど稀有なのだろう、と汪燕は思う。数多の貴族を、人を魅了してきた宝石などより、比べものにならない輝きをもつ、貴重すぎる人ひとは、いくら汪燕が心の奥底の弱いところを傷つけられようと、揺さぶろうとも、その輝きは翳ることを知らない。むしろそれすらも輝く為の、より強くなる為への糧となってしまう。「多少苛めたぐらいでは、壊れたりしない強さを秘めている人間だからこそ、惹かれるのかもしれないが…」 ふと視線を動かせば、氷の彫像と化した部下を溶かし、現実に立ち返らせた狼暉が、細かく道筋などを指示している姿が見えた。 明るく闊達とした、剛胆な頼りがいのある兄貴肌である狼暉のことを、あちらがどう思おうと汪燕は気に入っていた。数少ない、稀有な輝きを放つ人種だと思っている。 目を背け、忘れてしまいたいであろう過去を武器に突っついてみれば、あっさりと「そうだ」と揺るぎない口調で認め、「最低だろう」と汪燕にすら感情の読めなかった表情で呟き、「だが、これでも使い道はあるのでな、こんな男でもな」と妙ににこやかに言うなと思った瞬間、「だからな、ばらそうとしてみろ?俺は一向に構わないが、それで迷惑のかかる人が……こんな男でも必要としている人がいるのでな。どんな手段を使ってでもその前にお前を潰してやる」と刀を突きつけ脅して来たことは、汪燕にとって衝撃で、とても愉快であったのを今でもはっきりと覚えている。 狼暉に裏表があるのか、と一時期疑ったが、そうではなかった。ただ何よりも大切なものを心にすでに定め、優先順位があまりにもはっきりとしているだけだった。あまりにはっきりしていて清々しくさえ汪燕には思えた。
2006年03月29日
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鈍色の空から絶え間なく降り注ぐ雨が髪に纏い付くのが不快で、汪燕は頭を振った。 それでも顎を伝い外套や服を擦り抜け、素肌を滑る雨粒の感触に眉を顰めたまま、ちらりと横を見ると、言葉を無くし呆然と佇む狼暉が視界の端を掠めた。 剛胆な男の思考と言葉を一瞬ならずと奪ったのは、目の前の惨劇の跡であった。 門は強引にこじ開けられたと訴えるかのように曲がり、倒れた門衛の下から溢れ零れ出す血が水たまりに混じり流れ、血の川を作っている。門衛を助けようとしている女中達は冷静さを欠いており、半狂乱に揺り動かしている姿は痛々しいが、救助にはなっておらず、むしろその怪我を悪化させているようにしか見えない。 捻れこじ開けられた門に縁取られた胡家の家督の住む家の敷地内では、豪奢ではないが細工の美しい扉は半壊し、手塩を込められていたであろう木々や花は暴風のせいだけでは決してない傷を負っている。所々の硝子は割れ、玄関の扉の先に見える繊細な刺繍が施された絨毯の上には不似合いな泥の足跡が不揃いに落ちておりり、泥からしみ出る水分が絨毯を醜く汚していた。 鈍色の雨が、他の全ての音を消し、強制的に静寂をもたらしている。 以前、何度か見たことがある美しい光景は、無惨に、そして悲惨に切り裂かれていた。 さすがの汪燕も目を瞠ったが、狼暉の様に次期羅主の胡家に対する仕打ちの酷さからではなく、予想以上すぎる暴走の結果に軽く驚いたからだったが。「…………おい、これは……」 微かに震える狼暉の声は、怯えでも悲しみでも寒さからでもなく、対極にある怒りや憤りを秘めていた。濃い鳶色の瞳を覆っていた濁りが消え、澄んだ色の奥には苛烈な意思が揺らめいている。 咄嗟に気持ちを切り替え、現実を見据える態度を好評しつつも、必死に狼暉が押さえている怒りと憤りの堰を切ったらどうなるだろう、と思い、その想像は思わず汪燕の口元を綻ばす。 狼暉は汪燕に問いかけているのではなく、気持ちを鎮静化させるために声をだしたにすぎなかった。 だが少々愉快な気持ちなので、汪燕は極端な解を親切にも与えてやった。「莫迦に刃物、の結果だ」「有り難くない、正確な状況説明だっ」 やりきれないように言い捨てると、馬の手綱を絞り嘶かせることにより部下の注目を集め、素早く狼暉は命を下した。「俺と汪燕は、直接胡主に話をつけてくる。一部の者達は俺達と来い。それ以外はこの混乱を制圧しろ、いいな!胡家に関連する人々の救助及び保護を最優先しろっ!」 常から張りのある声が、怒りに縁取りにより浮き彫りになり、鋭く異常な静寂を打ち払った。 未だ呆然としていた部下達も、はっとその声に活を入れられ、抜けていた肩の力を戻し、型にきっちりはまったかのような完璧な敬礼をした。 部下達は、弱くもなければ、臆病でもない。次期羅主の護衛のように、武よりも知を重んじるのではなく、兵[つわもの]としての強さを求められているのだ。兵と成れぬ者は一人としていない。 それでも、この光景は衝撃が強かったようだ。 汪燕は、なんとなくは部下の落ち込みの理由を推察できたが、完全にはできなかった。「死体もそう大した量ではなかったし、家などいくら壊れようと修復はいくらでもできるだろうに。もっと残酷な光景など、いくらでもあるし、見てきたこともあろうに」 後にそう言うと、狼暉は思い出すことさえ嫌そうな顔をしつつも、言ったのだった。「そうだな。戦場では、もっと惨く、残忍な光景などいくらでもある。人を殺し合うことが、戦だ。血で血を洗う光景に慣れているさ。そんなことで精神に異常をきたしたならば、己が死ぬ。慣れるしかない」 狼暉にしては冷静と言うよりも冷たい口調だが、それはかなり内心押さえ込んでいたようだ。次の瞬間には、一気に加熱された声が汪燕の耳を焼くように飛び込んできた。「だがな!あそこは戦場ではない。胡家の人間が微笑みながら、笑いながら、時には怒り、泣きながら、そんな日常を織りなしていた場所なんだっ!無惨な光景からは想像しにくいほどの、普遍的な日常と、ありきたりな幸せが確かに存在していたんだ!!」 だから、胸の奥底の弱いところを斬りつけられたかのように、痛むのだと狼暉は叩きつけるような口調で続ける。「主の為、その理想と主張、目的の為に俺達は闘う。けれでも、たったそれだけで闘うことは、戦い続けることは無理だ。主に命を捧げるほどに心酔していなければな………根底を見つめれば、本当は、主の語るその理想の先にある、自身の大切な者達が送れるであろう幸せな日々の為だ。大切な誰かの為だからこそ、戦の連戦に心が挫けず、俯かず、血生臭い空気の中でも呼吸ができる」 一般論で正論なのだろうが、全ての者に当てはまるとは限らないものだな、と皮肉気に思う。 人殺しを遊びと思う者もいれば、弱者を踏みにじることに悦楽を見いだす者もいる。血に美しさを見出し心を奪われた者、戦争と言う異常な周囲に弱い心が飲まれ何も感じなくなった者、相手の命を奪うことに何の良心の呵責もない者など、当てはまらない者達を嫌というほど知っている。「そんな些細な幸せな日々を守るために戦っているのに、それを踏みにじられる光景は、動揺したとしても仕方ないだろう。しかも己が主の息子が引き起こしたんだ、尚更だ」 戦場のような異常な環境のの中ではなく、蠢きながら徐々に支配下を広げていく戦渦の渦の中でもない。当たり前の様にあるはずの、ささやかな平和だった。胡家には、豪奢に煌びやかに彩られ、その実裏では汚水の如く濁り腐った貴族社会特有の場所とは縁遠い清らかさがあった。その清らかさは、慎ましい平和を享受する数多くいる平民に通じるものがある。 汪燕は記憶を辿り、そう言えば過去に一度部下達と共に、羅主の命で胡家に立ち寄ったことがあったな、と思い、その豪奢ではないが質素でもなく、穏やかな胡家の在りように部下達の好評を得ていたことを思い出した。 部下達の動揺の原因は、胡家に自身の大切な者の幸せを重ね合わせたにすぎない、と言うことか。 納得できた、と汪燕の疑問は晴れ晴れとしたが、もし狼暉が汪燕の声になっていない言葉を聞いていたら違うっ、と盛大に反論しただろう。「違う、何かが絶対違う!何故、そうなるんだ?!」 と。----------------------------------------------------------------中途半端ですが、今回はここまでです続きは後日上げます………しっかし、話が延びていく予定ではあと数話で終わるはずなのにもう一回計算しなおすと、数話で終わらない可能性が非常に高い計算ミスのレベルじゃなくなっている書くのは、楽しいのだが………困ったなぁ
2006年03月12日
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