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ワインの神
「歴史上最高のソムリエでございます! 拍手でおむかえください!」
パーティーの司会者に紹介されると、拍手の中、腰の曲がった老人が杖をつきながらゆっくりと歩み出た。
「彼は、若い時より数々の名ワイナリーの指導を行なってまいりました!」
顔は皺だらけだが眼光は鋭い老人は用意された椅子に腰をおろす。
「彼のワイン批評がそのワインの市場価格を決定し、ワイン界にもっとも大きな影響を与える人物と言われてきました!」
その横ではナプキンに包まれ銘柄を分からなくしたボトルから、大振りのワイングラスに熟成した風合いの赤ワインが注がれる。
「彼は、まさに、ワインの神!」
グラスが老人に渡される。
司会者が説明する。
「さて、こちらのワインの産地、銘柄、年号は一切知らされておりません!」
老人がグラスをかたむけて細い眼で凝視する。
司会者がまくしたてる。
「さあ、今年で90歳をむかえるワインの神! しかし、その視力はまったく衰えておりません!」
老人がグラスの口に鼻をあてがう。
「その黄金の鼻はまったくおとろえておりません!」
老人がワインをゆっくりと口に含む。
「そして、いまだもって、その神の舌はまったく衰えておりません!」
老人は一口飲み込み、余韻を確認すると、数回うなづいた。
司会者が駆け寄る。
「さあ、ワインの銘柄は何でしょうか!」
そして、マイクを向けると、老人はゆっくりと答えた。
「わすれた」
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