詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

2012年03月26日
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カテゴリ: AVEコラボ作品





照れ性な父だった

定年退職をした夜でさえ

  (甲高い声をした女の人)と、(ヤクザ紛いの男の人)が織りなす、

  「喫茶店」・・車輪よ、轢かないでくれ

いつもとかわらず

駅員に定期券を見せ

カードをバスの中で



  ピッチングマシーンを動かす為にはコインを投入しなければならない。

  シューゥ、とのぼって、ビュビュッと球が飛んでくる。

  「君には野球のセンスがある。しかもモチベーションがある。

  必ずコンセントレーションも産まれてくる」

神格化してみせるほどの

肩書きも

  (今度こそ勝ちます、期待に応えます)

  草野球準優勝。メダルを飾る父・・

  集会所掲示板の貼り出し。

  まさかの初戦敗退――

立派な人徳者でもない



父は死んだ

  一球入魂、快打洗心!

  (雪雲)に(曇り雲)

  (雨雲)に(あかね雲)

   そして(くじら雲)に(ソフトクリーム雲)、



一枚の写真が

定期券のなかから出てきた

  ・・・近所の女の子の台詞

  「・・キョンイーントドケーと同じで、

  セイネンのショーニン二人以上が

  ショーメーイ、ナーツインすればOK」

オーケー  何言ってるかわからない早口

オーケー  ロリコンとオバコン

生活に疲れたような

中年女性だった

  禁じられた三角関係 ダダダーン!

    恋人「あのさ、それ違うくない?」

僕はそこに辛辣な

リアリティーを感じて

  ・・・言うてみい、どこらへんが辛辣だ。

  ・・・この口か、この口か。

この女の調査を

興信所に依頼した

  ――はあ、いや、構わないんですよ。仕事ですから。

  ――はあ。

  ――でも、殺人事件の捜査とかしたいなあ、はは、死体なあー。

答えは実に明快なものだった

  ・・病んでいた 興信所の社長さん

職場の友人

それ以上でも

それ以下でもない

  ――お父さん亡くなったんですね、ご愁傷様です。

  ――あ、この度はどうも・・っていけね、口癖になってる。

  ――いちおう、会社規定より少しお安くしときます。

  ――いや、まあ、すみません。

  ――まあ、それでこれが調査報告書で、こちらが今回の料金の内訳です。

  ――あ、割引すごいですね。五万円!

  ――それで、あの、・・人を殺して下さい!

  ――嫌です。

もちろん 曖昧な部分はある

  ・・・病んでいた シャッチョーさん

もしかしたら 肉体関係は

あったかも知れない

  ――にくたいかんけいですか。

  ――ひらがなにすると、やらしいですね。

    ・・・じつは、依頼して以来、一緒にランニングしている。

でもそれを知ることは

つまりその女と会う日だ


偶然の再会

  ・・「多産性のウサギもいるし、一夫多妻制のある国もある」

といっても初対面の僕は

  ・・・「どうしよう」

    ・・・どうしようの国では、どうしようが生まれています。

    カーン、とスパーリングが始まるぜ

    おい!来いよ、――フックフックフック!ふふふ、ははは、

     ・・いたい! いたい! ゴメンナサイ

正直レストランでも

話しかけるのに躊躇った

  ・・・あれ、どこかで見た顔ですね。

  ・・・は?

    ――わざとらしい感じデシタ。

歳月のいたずらによって

えもいわれぬ疲労が籠り

化粧品さえも

  ・・・あの一滴一滴見抜くというドモホルンリンクルの感じ。

  ・・・野暮だぜ、ドモホルンリンクル。

  ・・・あの一滴が、滝の下の岩を侵食する。

生活周囲のものも

その程度のものだろうと思えた

  ・・・ドモホル女!

この女が父親の

ネクタイをつけたりする場面が

どうしても僕には

信じ難かった

  ――でも一番、信じ難かったのは、

  じつは、自分が、彼女の子供であるということ・・

ただソファーに寝転がって

新聞を読んでいた父

足の爪を切り

TVのリモコンをいじり

牛乳を飲んでいた

在りし日の父の姿が

  ――彼女、つまりお前の母親は、

  受刑者だった。子供が生まれた・・

  愛情はなかったと思うよ、当時も今も、

  ただ、お前の父親を愛していた・・・

僕にある余計なお世話を

また真相追及の姿勢を

根刮ぎ奪ったのだろうか

  ――あの、どうしてランニングしながら言うんですか。

  ――人生はこうやって走りながら説明するのに似ている。

  ――俺の秘密を暴くなよ、馬鹿社長。

  ――なんだと馬鹿野郎、おまえなんか会社辞めて俺のところに就職しちまえ。

しかしその女は

僕の顔を知っていた

会釈をしたかも知れないが

すぐに眼を伏せた

  (愛情はなかった)が聞いて呆れる・・

  とんだミステエクもあったもので、

  俺の母親が、子供を引き取るのを条件に、

  結婚したなんて知りたくもなかった。

じつに明瞭だった

しかし僕にできることは一つ

父の死を告げるだけ

  ・・・お母さん、ほんとうのお母さん、

  いまさらありえないけど、

  ぼくを両腕に抱いた時、どんな感じだったんですか?


それから半年くらい経ってから

うちに手紙がやってきた

切手はされておらず

住所も書かれていなかった

  ・・・あれから俺の母親だと思っていた彼女が、

  父親と同じ会社で働いていたこと、

  父親にいれあげていたことなどを知った。

  父親が、母親の形見の日記を隠していて、

  それを読んで全部発覚した。

    ――啓介さん、あなたが、彼女のこと、

    いまでも好きなのを知っています。

    でも子供ひとりとあなたで、これから、

    何十年も生きていくつもりですか?

しかしその名前には

聞き覚えがあった

  ・・・オヤジのやつ、くらっときたんだろうな、

  なにせ、実の母親は父親殺しの女で、十年は出てこられない。

  子供にとって何が大切なのかを思ったのかも知れない。

  いろいろあるよなあ、それで結婚、俺が育てられ、

  こうして生きてる。いじめられた記憶も何もない。

  本当にオヤジが好きだったんだな、母さん。・・

あの女だと気付いた時は

もう封をあけていた

そこには松葉杖を突く音が

きこえるほど

秋の色でみちていた

  ねえ母さん、母さんは俺から名前を呼ばれて嬉しかった?

  ・・・子供ができにくい身体で、

  実際そのとおり、俺しか子供がいなかった、あなただけど、

  いま、胸を揺さぶられるほど問いたいのは、

  母さん、あなたは本当に幸せでしたか?

手紙の内容は

じつに陳腐なものだった

それがあの父親と

ついぞ被さることはなかった

  ――人生って皮肉だよなあ、死んだら色々知っちまう。

  ――葬式の作法も、知っちまう。

  ――で、どうだ、おい、会社辞めて俺ん所で働くか?

  ――なんだか、親父が死んで以来、・・

  ――なんだよ、まだ、俺に調査依頼か?

  ――人の秘密を暴くのがこんなに楽しいなんて知らなかった!

    ・・・嘘です、母さん、

    もっと、親孝行してやればよかった。

押さえきれぬほどの怒りが

湧き上がることさえ

僕にはなかった

毎日 ウォーキングに出掛け

俳句を詠んで

自信の作をメールで

送信してきた

堂々巡りのように父が

浮かんでは消えた

  二度と会えないように遠くの町へ行きます、

  と、彼女の手紙にはあった。

  たぶん、それが人生のシナリオなのだろう。

見定めがたい真実に

たった一つの結論をくだした

浮気はなかった

  ・・・汚して飲めない水で、さらに水浸しにして、

  人生に溺れそうになるほどの海になったら、

  今度は自分の手であなたを捜してみたい。

    ――その時は、もう死んでいるかも知れないけど、

    やっぱり浮気はしてなかったん、

    ただプラトニックだった、それだけだと思う。

そしてこれ以上知ることは

もう二度とない

  ムッシュウ どうしてあなたは海ばかり眺めているのですか?

  ・・・興信所へと出掛ける前に どうしても

  フランスへと行きたくなって、たぶん、両親が、

  結婚記念日に出掛けたレストランのせいで、

  あるいは実の母親と会った場所も、そこだったせいで、

  なんだか、もやもやして、こんな所に来てる。

  それで、通りすがりのジェントルメンにこんなことを聞かれる。

    ・・・誰にだって気障な台詞がある、

    彼は少し、遠くから自分の顔を見た。

    はなれてゆく、彼が、僕の海の一部になる日も来る。

      ―――「涙が少し足りないんです。」









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最終更新日  2015年08月04日 12時18分49秒 コメントを書く


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